「湖が見えてきたら、大きな岩山が見えると思うからまっすぐに進んで。その頂上に立派な城郭があるんだけど、そこにはオタマモンとかゲコモンっていう、オタマジャクシとカエルのデジモンがいるらしいんだ。
300年ほど前から、毎年恒例のカラオケ大会をやっているんだけど、
なんでも城の御殿様がカラオケ大会でブーイング受けてショックで寝込んでから目覚めてないそうだよ。
綺麗な歌声を聞かせたら起きるんじゃないかってやってるみたいなんだ。たぶんミミさんはそこにいるんだと思うよ」
だそうっすよ、と大輔は空につないだ。ありがと、大輔君、と空は笑う。ぴこぴこぴこぴこ、ぴこぴこぴこぴこ、という耳に残る電子音が空の左手でなり続けている。
オタマモンは、両生類型の成長期デジモンである。水の中で生活できるように進化したデジモンだ。大きな尻尾で「ネットの海」上流の沼や川を泳ぎまわる、オタマジャクシである。
未発達の後肢は方向を変える舵の役割を果たしている。また前肢で岩によじ登って、発声練習を始める姿がよく見られる。
成長期デジモンの中でも進化の仕方が特殊で突然変異の可能性もあると考えられている。 必殺技は、口から、相手を永遠の眠りに誘うアワを吐くララバイバブル。
そして、ゲコモンはオタマモンが規則的な進化を遂げた両生類型の成熟期のデジモンだ。みた目には想像も出来ないほど、心地よい鳴き声を奏でるデジモンであり。歌声の秘密は、舌の3つの穴から発する和音と、首に巻かれたホーンで、ハーモニー作曲ソフトで名曲ができたときに誕生するといわれている。
ゲコモンが音楽関係者のステータスシンボルとなっている。 必殺技は超高周波振動という、目に見えない音波で敵を内部から破壊するクラッシュシンフォニー
「もし、オタマモンとゲコモンが敵だったら危ないから気を付けて。ララバイバブルで眠らされたら終わりだよ。クラシックシンフォニーで内側から、爆発するかもしれないから」
「爆発ううう!?怖いこといわないでくださいよぉっ!」
「ってナノモンが」
「ナノモンんんっ!」
「最善を尽くすには最悪を想定するのが一番なのは当然のことだろう、何を言っておるのだ。そもそも、今は暗黒の決選に向けた緊迫した状況下なのだぞ、少しは自覚を持たんか。貴様は今まで薄氷の中を突破してきたにすぎんのだぞ。
貴様は、選ばれし子供の中でもネットワークセキュリティと直接連絡を取ることができる最後の要なのだぞ。貴様が崩れたらすべてが終わる。それなのに貴様は警戒心が皆無なのだ。私のような者がいた方が締りが出るというモノだ」
「うあー、ごめんなさい」
大輔はがっくりとへこむのである。
ちこもんはだいしけだいしけ元気づけるために呼びかける。ん、ありがとな、とへらりと笑った大輔は抱えたままの右腕を強く回した。ぎゅうううっとされてチコモンは幸せそう
である。
目を閉じてすり寄って大好きなパートナーの暖かさに包まれている。デジメンタルでもあり、古代種の生き残りがダイノ古代境に眠っていることを知らないチコモンは、ますます大輔にべったりである。
大輔がちょっとでも離れようとすると、だいしけえええって泣き始めてしまう。どこおどこおひとりにしないでええって泣き始めてしまうのだ。もう24時間片時も離れようとしない。
ずーっと一緒だ。ほほえましいくらいに。チコモンに引きずられるような形で、目をそらしたらすぐに寝てしまうチコモンに付き合ううちに大輔もチコモンを抱っこしたまま眠ってしまったり、無邪気に平和なサーバ大陸のちょっと素敵な風景を見つけたら使い捨てカメラでぱしゃりと空に取ってもらうのだ。
もし何にも映ってなかったらどうしよう、と大輔は心配したのだが、使い捨てカメラという未知なる産物を見たナノモンに取り上げられてしまい、いろいろと解析された結果。
デジタルワールド内では使い捨てカメラであろうがデジカメであろうがデータは残るし、ちゃんと写真は現像するらしい。現実世界に行ったデジモンは使い捨てカメラとかデジカメには映るのかしらん、と大輔はちょっと思ってみたりした。
残念だ、ファイル島取りたかったのに。特になっちゃんの花畑エリア。夢の中だから写真にとれない。思考回路はどこまでも無邪気である。限りなく自然体な本宮大輔に近づきつつある。精神的に完全に安心している証拠である。空はほっとしながら大輔にいうのだ。
「大丈夫よ、大輔君、ゲコモンは成熟期みたいだし、バードラモンがやっつけてくれるわ」
「まかせて」
バードラモンはいつだって強気である。守るべき者が常にそばにいるから。
「おれもだいしけのことまもるんだ!だいじょうぶ、だいじょうぶっ!」
「えー」
「どったの?だいしけ」
「なあ、チコモン、いつ進化するんだよ?」
「うえ?」
「いっつまでたってもチコモンのまんまじゃねえか。大丈夫なのかよ?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶっ!」
「………まさかとは思うけど、もう進化できるくせにチコモンのまんまの方がかまってくれるから、わざと進化しないとか言わねえよな?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶっ!もうちょっとだけええ!」
「おいいいいっ!」
わかんないよう、しんかいつできるかなんてえ!しっらなあい!とチコモンは素知らぬ顔である。油断も隙もないやつである。空とバードラモンという守ってくれる存在があるや否や、だいしけだいしけってべたーって守られるべき立場を堪能することを選んでやがった。
あんだよー、ってむくれる大輔に、いーだ!とチコモンはまねっこをしてむくれるのだ。どこまでももう一人の自分である。無邪気なほほえましい喧嘩はどこまでも周りの人間を和ませる。チコモンは幼年期1のデジモンである。本来ならば時間経過でさっさとチビモンになっているような状態だ。
まさかとは思うが何か待っているのだろうか、本能が。
「だって、だいしけ、ちっさいから、おれがぶいもんになったらつぶれちゃうじゃんか」
「うっるせええ!つーかブイモンになってもおんぶとか抱っことかできるかよっ!」
「だいしけがもっともっとおっきかったらいいのにい。そしたらちびもんでもいいのに」
「オレだって早く大きくなりてえよっ!つーかぜってえでっかくなってやるんだ!ブイモンを肩車できるくらい!」
「ほんとか、だいしけ!」
「が、がんばる!牛乳とか一杯飲んでおっきくなる!」
「がんばれ、だいしけ!」
「おう!」
チコモンはそれはもうキラキラした目ですんごく楽しみにしてるから
はやくおっきくなってね!って応援してはしゃぎまくっている。大輔にしてもらいたいことはたくさんあるのだ。
いつだってそばに誰かいて、一人ぼっちなんて絶対にありえないようなデジモンだった。いっぱいいたチビモン達と順番に並びながら、じゃれついていたのだ。それはもう朝から晩までずーっとみんなでべったりだった。
戦いの戦火の中にあったとしても同種の仲間たちはかっこいいピッカピカのみんなのヒーローだったのだ。
大輔が一番尊敬していて信頼している八神太一と秋山遼という少年を見る眼差しをチコモンは大輔に向ける。
チコモンからすれば、チコモンやってくれて、デジメンタルやってくれて、運命共同体で、パートナーやってくれてる大輔である。チコモンをまるごと受け入れてくれた子である。
もうべったべたに甘えたってかまわない唯一にして無二の存在なのだ。最強の相棒の降臨である。大輔のお父さん像と全く一緒だ。
キャッチボールとかサッカーとか、めったに帰ってこないお父さんの上からだいぶして、今日は日曜日なんだからゆっくり休ませてくれって嘆くお寝坊さんをたたき起こしては、
はやくはやくとせっつくのがこの大輔という少年である。
ちなみにヤマトが野球部に入った理由も似たようなもんである。やっぱりどっか大輔とヤマト、似てるのかもしれない。それにしても、大丈夫かよ、現実世界に帰ったら明確な財布の死亡フラグが待っているというのに。
無邪気なサッカー部の後輩とパートナーデジモンを見るにつけて、空は思うのである。なっちゃんがもう一人のジュンお姉ちゃんと分かってからの大輔の変貌ぶりは劇的である。
どんどん年齢相応のどっか抜けてるおっちょこちょいな大輔君を自然とできている。
意識してやっているから歪なのだ。
なんにもかんがえないで、頭の中すっからかんにしているから、この子は直感的に行動できる子なのだ。もともと無意識のうちに全部やっちゃってる子だから、意識し始めるとそれはもう10キロの荷物を20キロにして坂道昇るのと一緒だ。
頑張りすぎてがんじがらめになって牢獄の中に閉じ込められて自壊寸前まで追い詰められてしまう。ということは。
ジュンお姉さんという人は、本来ならばこういう大輔君が世界で一番甘えられる人ということになる。空はこっそり思うのだ。もしジュンさんが選ばれし子供だったらいいのになって。私、リーダーなんてしなくってよくなるんじゃないかしら?って。
たしかジュンさんは中学校2年生、みんな小学生な選ばれし子供達からすれば、確実に丈より大人である。
誰よりも甘えんぼさんなのに誰よりもお母さんだからみんなに愛される空なんだけども、甘えんぼさんだから甘えられる人が欲しいのに、このメンバーの中には空以上に年上な女の子はいない。
だからお姉さんだけでもきついのにお母さんまでみんなから押し付けられて重責務で潰れちゃいそうなところに、大輔君という甘えてくれるかまってくれる上にひとりぼっちを共有してくれるおそろいの弟分の男の子がいて。
ピコデビモンからよりによって空のいいところを象徴する紋章が「愛情」なんて言われた。一番空が欲しいのに誰もくれないところが一番いいところだって突き付けられるもんだから潰れちゃいかけたのである。
でも、それをいうなら丈先輩だって三男坊だって言ってた気がするし、なかなかうまくいくもんじゃないだろう。なにはともあれ、無理にジュンお姉さんの真似をする必要もなかったかしらって今となっては思っていたりする。
「大輔君、ジュンさんと仲直りできたらいいわね」
「そうっすね!そしたら、オレ、ジュンお姉ちゃんを守れる!いまよりずーっと頑張れるッすよ!」
「仲直りできたら紹介してね」
「はいっ!」
ぴこぴこぴこ、ぴこぴこぴこぴこ、と耳に残る電子音が響いていた。バードラモンは飛翔する。大きな大きな湖が現われた。スワンボートがちょこんとある。通り過ぎていく。
やがて見上げるような大岩が現われた。階段がある。もしバードラモンがいなかったら、スワンボートで横断して、何百段上がるかわからない階段上がってミミに会いに行く羽目になる。
大輔はぞっとするのだ。たぶん、くったくたに疲れて、ひっどいこと言っちゃいそうだ。ミミは大輔や空たち、いつまでも帰ってこない選ばれし子供たちが心配になってパルモンと一緒に光子郎と喧嘩してまでピラミッド迷宮飛び出して、乾燥地帯という過酷な環境下にたった一人と一匹で飛び出してくれたのである。
パルモンは植物デジモンだ。サーバ大陸に来て一番つらそうだったのは、ゴマモンとパルモンである。砂漠地帯は過酷極まりないだろうに。本来ならばみんなを和ませるためにほわんとしてる人なのに。そして、たぶん、倒れちゃったパルモンがお水っていうから、必死でおんぶしてここに辿り着いたのだろう。
そしてあれ?って思うのだ。ねえねえって空先輩の袖を引く。
「空さん、光子郎先輩、オタマモンって湖にいっぱいいるって言ってませんでしたけ?」
「いないねえ」
「ほんとだわ。誰もいないわね。何かあったのかしら?」
「ミミ達が心配だわ、空、大輔、しっかり捕まって」
空たちが頷くとバードラモンは、風を生み落して、一気に上空に駆け上がったのである。オタマモンとゲコモンが連携して攻撃してきたらなすすべがない。なるべく慎重に慎重にこっそり隠れてミミ達を探さないといけない。もしかしたら、どっかに閉じ込められてるかもしれない。
空たちは、ここに到達するまでの間、ずーっとナノモンと光子郎のバックアップを受けながらミミ達を探していたのである。いつまでたってもデジヴァイスの場所が動かないってことはいくらなんでも変である。
ピラミッド迷宮から飛び出してまでみんなのことを探してくれたはずのミミとパルモンが、そのことをすっかり忘れてまでずーっといるなんておかしい。
なにかあったんだ、と空たちは心配になったのである。
そして、空たちはゲコモン達のお城に辿り着くと、慎重にぐるっとまわりを旋回して入れそうなところを探していた。あった、と見つけた先は、真っ白なベランダがあった。どうやら後ろっかわはヨーロッパに出てきそうなお城のようである。
まるでお姫様が住んでいるようなお城のような場所である。囚われの御姫様だったら大変だ、と空たちはそこから降りた。空が最初に降りて、大輔君って手を広げられて、大輔は硬直する。
いいっすよおおってなっさけない声あげて嫌がる大輔にわざと全力で嫌がらせをしながら、ほらって手を差し伸べる空である。もーっ空さあん!てむくれる大輔を笑い飛ばしながら、空は大輔をエスコートした。
オレ女の子じゃないっすよ、と嫌がらせの意図を把握した大輔が涙目で見上げてくるのだ。面白すぎるだろう、これだから後輩いじめはやめられないのだ。きゃいきゃい妹と弟みたいな大輔と空に、チコモンとバードラモンから退化したのに褒めてもらえなくてほったらかしのピヨモンは目を合わせて、うなずくと、同時に褒めて褒めてかまって構ってさみしいさみしいと大合唱である。
隠密行動もくそもない。そしたら、きいいって扉が開いた。そこにいたのは、お姫様だった。よかった、ミミさんもパルモンも無事だった。その安堵感から大輔は笑ったのだ。
「すっげえ!ミミさん、パルモン、お姫様みたいっすね!」
直球でいった褒め言葉。無意識のうちに日々わけのわからん乙女心に振り回されている大輔は、女の子を不快にさせないすべが身についている。だって間違えたら問答無用で拳骨飛んでくるんだもん、全世界の乙女に謝れっていう意味不明な問答と共に。
目を白黒させる大輔にいつだってジュンお姉ちゃんは厳しかった。そして、ごめんなさいしたらぎゅーって抱っこしてくれるのだ。ほっといたらわがまま放題で手のかかるやんちゃ坊主である。鉄拳制裁が一番手っ取り早いのだ。
だって口で言っても分かってくれないから、あめと鞭戦法である。おかげで耐性ができたらケロッとしているせいで、大輔とジュンの喧嘩はどんどん苛烈さを増していったわけだけども、原点なんてそんなもんである。
ピンク色の綺麗なドレスに身を包んで、傍らにはふわふわの綿毛をつけた扇。まさしくお姫様である。クラスで一番の美少女らしいミミである。ただでさえモデルばりの体格と魅力的な容貌というありえない組み合わせの美少女なのだ。
着飾ったら着飾るだけ輝く宝石の原石である。しかもミミは綺麗を頑張る子である。人一倍みんなに愛される方法を知っていて、頑張れる子である。大輔と一緒で実は弱点がない、初めから完成された完璧少女である。
選ばれし子供の中では実は一番最強だ。よっぽどのことがない限り、ミミさんなら仕方ないの魔法の言葉で終わってしまう。もしミミがいなかったら、ぎすぎすする選ばれし子供たちのムードメーカーは大輔ひとりに負担がかかり、それこそ大輔は過労死で死んでしまう。
そもそもミミがいたら、シリアスが成立しない。天真爛漫な空気に無理やりみんなを引きずり込んで、ほわんとした気持ちにさせてしまう女の子である。唯一の欠点は空と共にぺったんこなことなのだが、まあ、それは仕方ない。
まだミミさんも空さんも女の子であって、女性じゃないし、とこっそり大輔はしっつれいなことを考えているのである。でも、囚われのお姫様が欲しい言葉がそれじゃないのはそれじゃないのは空が一番分かっているので、ぶんぶん、首を振って、あわてて窓を開けようとしているミミを見て、空は手を広げたのだ。
「迎えに来るのが遅れてごめんね、ミミちゃん。さみしかったでしょう?」
首がもげるくらい頷きながら、窓から飛び出してきたお姫様が空にダイブする。そしてミミはわんわん泣き出したのだった。もともとミミは空に甘えたかったのだが、空がみんなのお母さんをやっているし、みんなのリーダーをやっているせいで、なかなか甘えられなかったのである。
いっつも上級生組は話し合いをしている。みんながいた時には全然さみしくなかったから、ちょっと女の子のお話したいなあって思いはしたけれども、それだけである。もともとお父さんからもお母さんからもお友達からもみんなから愛されているミミちゃんである。
待ってろって言われて素直に待っていたのに、だれも帰ってこない。いきなりみんないなくなっちゃって、そばにいるのはナノモンとずーっとどっぷりで、全然面白くないお話の世界にいる光子郎だけである。テントモンすらほっときっぱなしの女の子が全然分かっていない野郎と数週間共に生活できただけでも十分頑張った方である。
ずーっと一人ぼっちでみんなを探し続けて、死にそうなところに、歌声がきれいな女の子を探しているんだけど、君ですかって声をかけられて、衣食住を保証してくれた。みんないなくなっちゃったと心細かった彼女にはどんなにうれしかったことか、というわけだ。
でも、お殿様を起こしてくれって頼まれた。歌を歌ったら帰ってもいいよって言われた。やだ、帰りたくない、一人になりたくない!もういや!だからミミはわがままなお姫様をやるしかないのだ。用がなくなったら捨てられちゃうから。いつまでもいつまでも歌を歌うのを先延ばしにして、お殿様を起こさないことで、みんなに囲まれようとした。
わがまま放題でみんなに嫌われるお姫様をやりながら、逃げられない囚われのお姫様である。かわいそうに。それを説明した空に、しょぼーんとなる大輔である。チコモンもマネしてしょぼーんしている。意味全然分かってないくせに。
「ミミさん、ごめんなさい」
「ううん、いいの、来てくれてありがと、大輔君」
「はい!」
さーどーぞーってミミお姫様に招かれた空たちである。本当に宝箱をひっくり返したような女の子の部屋である。あわわわわ、とどぎまぎした大輔は、窓で硬直して動けない。どうしたの?って首をこてんと傾けるミミに、空はくすくす笑った。そしていじめるのだ。
大輔が女の子の部屋は不可侵領域で、許可なく入るのはご法度、ノックしないのは失礼で、たとえ恋愛関係であろうとも、節度は守らない奴は死ねばいいよ、男の子は入っちゃいけないんだと教え込まれていると知っていながら。
「どうしたの?大輔君、入ったら?」
「空さあああん!」
「なあに?」
「空さんのいじわるううううう!」
うわああん、と恥ずかしいを知っている男の子はいつまでもベランダにいるわけにはいかないんだけど、その先は女の子の部屋という究極の二択を突きつけられてひとり大パニックで自滅する。
ぎゃああああってなっている。突然わけのわからない行動をし始めた大輔にビックリ仰天したチコモンは泣き出してしまう。なんでお前が泣くんだよ、オレ」の方が泣きそうだわ!と大輔は叫ぶ。え?とチコモンはけろっとしている。
ダメだこいつ。いらってきた大輔は、なんでも真似っこする自分を鏡写しだと気づいていながら、同族嫌悪でむかってくる。むにいいいって太一がやっていたように頭から降ろして、チコモンを引き延ばす大輔である。
「いひゃいいいいいっ!」
お?これはいい。むにむにだし、よくのびるし、おもしろいし、やっとチコモンを怒る手段が見つかったぞって大輔は調子に乗って伸ばす。
「だいしけやめてえええ!のびるううう!」
「え?のびんのかよ」
「わかんないけど、なんかのびるううう!」
「おーし、どこまでのびるか試そうぜ」
「ひゃうっ!?にゃああああああ!」
なんなのこのいきものおもしろすぎる、とジュンが大輔にやっていた行為まんまである。ちっちゃい子供のほっぺたはむにむにだ。ついでにいうとくすぐり攻撃にも極端に弱いので、すぐに首元をくすぐられて首をすくめる。
次は枠の下、腹、横腹っていじめられて、涙目になって、ぎゃああああ!ってなるのが大輔である。笑い死にしかけて悶絶している間に、大輔が見ていたテレビ番組を横取りして、どけって足蹴にして、アイドルのコンサート見るのである。今は足蹴だけになってるけど。
お姉ちゃんのばかああって言ったら、ごめん、ごめんって謝ってくれる。今は何にも言わずに自分の部屋に直行だけど。ちょっとずつではあるが、仲が良かったころを自然にできている大輔である。きっと大丈夫だろう。何があっても。大輔とチコモンは人の心を読む天才である。
空たちはすっかり、とんちんかんなコンビに引きずられて大爆笑である。突然の大笑いに驚いたゲコモン達がやってくる。ミミはごめんなさいしていうのだ。
「私、歌うわ。今まで、みんなの嫌がることやってごめんなさい。私、帰らなくっちゃ」