(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第109話

「でっけえええ。なんか、だるまさんみたいだなあ」

 

「だるまではありませんげこ。この方がこの城の主であるトノサマゲコモン様ですげこ」

 

 

本来は広大な座敷部屋で、大あぐらをかきながら、この城に住んでいるデジモン達に、いろいろとしてもらいながら、統率者として君臨しているデジモンなのだろう。途方もなくでかいデジモンである。

 

うつぶせで寝ているらしく、豪快ないびきと共に、おなかが上下している。なんかひっつきたい気になるが、やめといた。ゲコモンにすっぱりと言い切られた大輔は、ごめんなさい、と謝った。頭の上のチコモンも一緒になってごめんなさいしている。

 

まあいいですけどねとゲコモンはカラオケセットが飾られているステージに、選ばれし子供達とパートナーデジモン達を案内していた。さすがは毎年恒例のカラオケ大会をしているだけはあって、ステージから、マイクセットから、後ろのなんだかよくわからない機械までいっぱいである。

 

カラオケかあ、とまだ小学校2年生の男の子はお父さんたちに連れてってもらったのは、数えるほどしかないのでいまいちよくわかっていない。へんてこりんな映像がテレビに出て、時々全然あってない映像の下の方に歌詞が流れて行って、それを追いかけるように歌うんだっけ?

 

外で遊んでいるか、ゲームしているか、まだちっちゃくていけないところがいっぱいあるお年頃である小学生の男の子は、カラオケに興味津々である。でも興味はそばにある楽器に移る。あ、ギターだ。ベースだ。

 

背面引きとか訳の分からないものをさせられそうになって逃げ出した大輔に、京のお姉ちゃんはごめんねっていうのだ。うちの兄弟みんな音楽からっきしなんだけど、なんでかお父さんがね、ベースとかギターとか大好きなのって。

子供にも教えたいのに、だーれも興味示さないからって、アタシが叩き込まれたのって。そして、京はへったくそなんだけど、遊び半分でやったら大輔君すっごくすっごく上手なんだもんって。調子に乗ってちょうき、じゃなかった、教えてあげたかっただけなのって。

 

褒められた大輔は、ぎゃーって逃げ出した一人部屋からちょーっとだけ顔を出して、ほんとっすか?と聞いたのだ。上手?上手?オレ、全然音楽わかんないけど上手?褒めてる?褒めてる?それって褒められてるのかしらん?って顔を出す。

 

おびき寄せられた無邪気な男の子は、大輔君ならクラシックの方が似合うかもねーて言いながら、ベースの弾き方教えてもらうというお教室が始まり、まんまと餌付け作戦成功と京のお姉ちゃんは笑ったのだ。

 

その先にはにやにやのジュンお姉ちゃんがいる。無邪気な男の子はジュンお姉ちゃんを見つけて、なんかよく分かんないけどおもしろいねって笑う。そして、だいたい数週間くらいだろうか。

 

京のお姉ちゃんが遊びに来るたびに、ベースをちょっとずつちょっとずつ教えてもらった男の子は、

ようやく一曲をひけるようになった。わーいって喜んで、ばかの一つ覚えみたいにひいた。

 

毎日毎日京の家に遊びに行ってひいた。ほかにも、っていろいろすすめられたんだけど、初めて弾けるようになった曲があるから、なんかすっごくうれしくて何度も何度もひいたのだ。

だから、もう、感覚は覚えている。名前も知らない。歌詞だって知らない。京のお父さんの想いでの曲なんだって言ってた。耳にずーっとこびりついている曲なんだって聞いた。

どこで聞いたのか、どこで引けるようになったのかわからないけど、

すっごくいい曲だって教わった。

 

京のお父さんが初めて好きになった女の人のおうただって。だからなおさら調子に乗ったのだ。だれかの大好きの歌である。喜んでくれるならなおのこと。結局、ゆくゆくはジュンお姉ちゃんの陰謀であると発覚したので、一曲だけしか弾けないけど。

 

かっこいいバンドの男の子にするんだっていう壮大な陰謀を聞いてしまって、があああんってなって、すねて、もう京のお姉ちゃんはジュンお姉ちゃんの味方で、ミーハー仲間なんだって今となっては目の敵である。もう1年以上京の家には行っていないのだ。

 

今でもアイマートに行くたびに、大輔君、あの曲ひいてくれない?ってリクエストされるけど、いやっすよーだってあかんべーしてつかいっぱしりをすませて直行で帰る毎日である。

 

すっごく残念そうな京のお父さんの顔を見るのがつらくて、もう京のおうちには遊びに行けない。ミミはにっこりと笑った。

 

 

「大輔君、歌ってみる?」

 

「え?いいんすか?」

 

「うん」

 

「大輔君って歌うまいの?」

 

「え?さ、さあ?やったことないっす」

 

 

大輔恐る恐るマイクをもらって、歌ってみた。えっと、えっと。テンパりすぎて、とんちんかんな歌詞が紡がれた。即興で替え歌できるのは天才かもしれない。

 

 

ぷっちんプリンを皿に乗せようとしたけど、うまくいかない?大丈夫、

明日は取れるよ。ぷっちん、って。きっとね。のどにうがいをした後で、ご飯を食べる。皿にフライドポテトを乗せて食べようとしたのに、買い物に入れて入れっぱなしの

僕のポケットにはしょうが湯がない。どうしよう、と汗で背筋が凍った。きっとね。

 

 

空は無言で傍らにあった鐘を鳴らした。ベルはいくつかなって大輔はわくわくである。かーん。ベルはもちろん一つである。がっくりとうなだれた大輔である。

おかしいなあ、ベースだったら大丈夫だったのになあ、って。絶対音感とかものすごいものはないけど、なんとなく、でできると思ってたんだけどなあ、って

ちょっと落ち込んでいる。

 

 

「大輔君、一応聞くけど、その歌詞は誰から聞いたのかしら?」

 

「え?太一先輩が歌ってました!なんかのアニメのエンディングだって」

 

「……まさか、歌い方まで真似してる?」

 

「え?ちがうっすよ、オレ、そこまで器用じゃないです」

 

「大輔君、どうしてリズムはあってるのに、ああも綺麗に音外せるの?ある意味才能じゃないかしら?」

 

 

容赦ない空先輩にうわああんとなる大輔である。

 

 

「まあ、太一もへったくそなんだけどねえ。4年生の打ち上げでサッカー部のみんなでカラオケ行った時、あれはひどかったわ。耳が破裂するかと思った」

 

「そうなんすか」

 

「その点、ヤマトくんは上手そうよね、歌」

 

「ハーモニカ吹いてますもんね」

 

「あれ、だれからもらったんすかね?お父さんとか?」

 

 

たしかヤマト先輩のおうちはお父さんと一緒に住んでいるはずだ。さあ?と空は肩をすくめる。そこまで親しい間柄でもなし。家族まで聞くほどじゃない。ただ、みんな思っているのは、初めてヤマトがハーモニカを吹いたあの湖、おもえばどうして野生のデジモンは現れなかったんだろう?

 

みんな湖の戦闘でくったくたで疲れて寝ている間、見張り役のヤマトのハーモニカは響いていたのだ。たき火はしているが、ハーモニカの音である。みんな子守唄みたいに思って全然気にしていなかったけれども、

ガルルモンがやっつけてくれたあのデジモンがまた怒って現れてもおかしくないのにって。不思議だねえってみんな疑問符だ。

 

 

「ミミ様、お歌、お願いいたしますげろ」

 

「お願いしますげろ」

 

「うん」

 

 

ミミは、ほしにねがいを、と口にした。あれ?大輔は待ってくださいいいって思わず止めた。

 

 

「なあに?」

 

「どうしたの?大輔君」

 

「あの、その、それってなんていう曲っすか?」

 

「え?これ?I wish っていうの」

 

「あいうぃっしゅ」

 

「うん。ミミの大好きなお歌なの。おばあちゃんがよくミミに聞かせてくれた曲なの。いい曲なんだよって。心が安らぐのって。だから、私、いつもお歌を歌うときはこの歌なの」

 

「………あの、あいうぃっしゅってどういう意味っすか?」

 

「私はお願いするっていう意味かなあ」

 

「お願い……」

 

 

あの、と大輔はゲコモンを見る。

 

 

「これ、借りてもいいっすか?」

 

「いいゲコ。でもなんでベース?」

 

「大輔君ひけるの?」

 

「一曲だけ、っすけど、えーっとその、友達のお父さんの曲で、大好きの曲なんです。もしかしてって思って」

 

 

大輔は、1年ぶりにひいてみるのだ。名前もわからない、歌詞もわからない、でも大好きな曲。みんなに褒めてもらえてうれしかったから、何十回もひいたきょく。ミミは驚いた顔をした。

 

 

「どうして大輔君が知ってるの?おばあちゃんのお歌。音楽の先生やってたおばあちゃんのお歌」

 

「もしかして、大輔君の友達のお父さん、ミミちゃんのおばあちゃんの生徒だったんじゃないかしら?」

 

「あ、なるほど」

 

「すんごい偶然だね、大輔君」

 

「そうっすね!あいうぃっしゅかあ。えへへ、やっとわかった」

 

「じゃあ、せっかくだから大輔君、ひいてくれる?」

 

「はい」

 

 

 

 

 

そして、ミミの歌声が響いた。

 

 

 

 

 

ミミは顔をあげた。そしてきゃああああって悲鳴を上げたのだ。大輔ははってなって顔を上げる。ベースが止まる。空はピヨモンって呼びかけた。この部屋に来てからずーっと沈黙を守っていたチコモンは、300年の時を超えて目が覚めたこの館の主を見るのだ。

 

そこに立っていたのは、無言のまま立ちあがったトノサマゲコモンの姿である。苦しみ悶えている。ぐあああああああって絶叫したトノサマゲコモンは、自らの身体についているボーカルとトーンでいきなり配下のはずのゲコモン。

 

オタマモン、そして選ばれし子供たちに襲い掛かってきたのである。

トノサマゲコモンはオタマモン、ゲコモンの規則的な進化を遂げた完全体デジモンだ。

 

お殿様のチョンマゲのような触角をもつ両生類型デジモンであり、カラオケの採点システムから生まれた経緯から、肩から伸びた音楽を鳴らし、それに合わせて歌を歌う。

 

低い低音はお殿様を感じさせる。

必殺技は、ボーカルとホーンの超低周波で相手の身体の構成のデータをふるわせて、破壊するコブシトーン。しかし、相手によっては低周波で逆に体調がよくなってしまうこともある。

 

 

 

大輔は、え?え?なんでってなる。

なんでこんなにいい曲なのにトノサマゲコモン苦しんでるんだ?暴走してるんだ?なんで?なんで?なんで?オレの大好きな大好きな曲、ミミさんのおばあちゃんの曲、京のお父さんの初めて好きになったお姉さんの曲なのに!

 

大輔君早く逃げて!っておびえるミミとパルモンをかばうように前に出た空。ピヨモンが進化する刹那、コブシトーンがさく裂の態勢に入った。

 

 

「だいじょうぶ、だよ、だいしけ。おれが、だいしけを、みんなをまもるから。おれをにがしてくれたでじもんが、でじめんたるをまもってたみたいに、まもってくれてるみんなのために、おれが、みんなを、まもるから」

 

「チコモン?」

 

「もうだいじょうぶだよ、だいしけ。おれ、おもいだしたから。かぜのつかいかた。かぜはたたかうためにつかうんじゃないんだ。みんなをまもるためにつかうんだ。だから、いつだってかぜはやさしいんだよ。だいしけみたいに」

 

 

どこか懐かしい匂いがした。どこでだっけ、と首を傾けた大輔は思い出すのである。遼さんだ。古代デジタルワールド期の大輔たちの前の選ばれし子供達だ。

 

遼さんはラスボスであるミレニアモンを救うために、融合という手段でパートナーデジモンにすることで、ミレニアモンという、大輔たちが救わなくてはいけない暗黒の力みたいなやつを、敵から味方に変えてしまうすんごい人だった。大輔は目が覚めるような思いがする。

 

そのために、時間を超えて、世界を超えて、何度も何度もあきらめずにミレニアモンを救おうと頑張り続けてきたから、成し遂げられた。あれがいつの頃なのかはわからないけれども、遼さんは元の世界に帰るって言ってたから、パートナーデジモンのミレニアモンと一緒に帰ってくるのだろう。

 

とっても素敵なことである。相手を殺さないで、救える方法。夢みたいな方法。ナノモンが言うように、暗黒の力に魅入られたものを助けるには、相応の犠牲が必要らしいが、その犠牲に見合った形でみんなを救うことができるのなら、守ることができるのなら。

 

大輔はそっちの方がいいなあ、って思ったのである。太一のように敵を粉砕することで前線に立ち続ける特攻隊長みたいなことをして、大輔はデビモンからトラウマを植え付けられ、デビモンがいいデジモンだってわかっても。

 

その矛盾の呪縛から解放されるには途方もない時間がかかってしまったから、きっと太一の真似をしてちゃダメなのである。でも、何かしたい。守られる立場でいるのはいやだ。だって、俺は。

 

 

「だいじょうぶだよ、だいしけ。おれがいるよ。おれがみんなをまもるよ。わすれたの?かぜはこうげきにつかうんじゃないんだ、まもるのにつかうんだ。いのちよりだいじなものをまもりたいとおもったとき、かぜはふくんだよ」

 

 

そうだ。遼さんたちの世界を見た時、古代デジタルワールドにおいてきぼりにされた、可愛そうなデジモン達がいっぱいいたんだ。鋼の帝国にいろんなものを奪われて、住処を奪われて、逃げるしかなくって、そしてチコモンはエクスブイモンになれたのである。

 

願いはかなうのだ。あきらめなければ。だから、暗黒の力は世界と時間と時代を飛び越えられたんだ、と大輔は悟る。なんだか、オレの奇跡の力みたいだなあって、思ったのである。なっちゃんは言ってた。魔法の言葉。忘れないでねって教えてくれた言葉がある。

 

僕たちは出会うべきではなかったのかもしれない。僕たちは出会ってはならない存在だったのかもしれない。出会うのが早すぎたのかもしれないし、出会うのが遅すぎたのかもしれない。でもだからこそ、僕たちはここにいる。

出会ってしまったものはしょうがないから、これからのことを考えよう。明日のこと。これからのこと。未来のこと。大輔は元気になる。その願いが叶えられないで苦しんでいるデジモン達がいっぱいいっぱい集まったのが暗黒の力なのだ。

 

助けてあげなくっちゃいけない。かわいそうだ。みんなに嫌われたくなくて、牢獄のような人間関係を自らに課し、自壊寸前までもがき続けてきた大輔は、暗黒の力がおれみたいだって思ったのである。

 

いるだけなのに、生きているだけなのに、それはダメだって全否定される。罪だって言われる。害悪だって言われる。もとの場所に帰れっていわれる。追い出される。ぞっとするほどの残酷で辛辣な言葉である。環境である。

 

大輔は涙が止まらなくなっていた。あんまりだ。暗黒の力は、死にたくないって、消えたくないって、あたりまえのふつうのことを思って、奇跡を起こしてやってきたのに、その奇跡の力をもって残酷な目に遭って。

 

ひとりぼっちになって、絶望して、わけわかんなくなって、デジタルワールドをぶっ壊そうとしている。そして、みんなにますます嫌われることをしちゃって、負のスパイラルに陥って、もうどうしようもないところまで来ている。

 

はた、と大輔は気付くのだ。おんなじだ、って。おれとおんなじだって。チコモンをセトモンにしちゃって、チコモンもセトモンになりたいって思っちゃって、俺はみんなみんないらない、みんななんか、いらない、いなくなっちゃえ、どっかいっちゃえ、しんじゃええええ!って、心の中で叫んだのである。

 

奇跡の力は想いの力。だから消えない。だから残る。だからいろんなことを起こすのである。いいことも。わるいことも。風の力はいのちよりだいじなものを守るための力であって、いのちよりだいじなもの以外はどうでもいいからって、みんなのことを考えないで、傷つけるための力ではない。だからセトモンは暴走した。

 

みんなを守れるから。そうか、戦わなくっても、みんなを守れれば、それってみんなを守りたいという大輔の気持ちと矛盾しない。みんなを守るために戦いたいっていう気持ちと矛盾しない。暗黒の力を助けたいっていう気持ちと矛盾しない。

 

なによりも、それを教えてくれたなっちゃんの世界は、いつだって、風が吹いていた。バクモンは言ってた。いいこととわるいことはとっても仲良しさんだから、きってもきりはなせないくらい、すっごく仲良しさんだって。

チコモンと大輔みたいに、ジュンお姉ちゃんと大輔みたいに、お父さんと大輔みたいに、お母さんと大輔みたいに。大輔が太一と同じくらい尊敬している秋山遼という少年みたいに、なりたい。ああ、そっか。この匂いは、遼たちの世界を鏡越しの異空間で見ていた時に感じた匂い

だ、と大輔は気付くのだ。

 

あのときもたしか、風が吹いていた。古代デジタルワールド期、現代のデジタルワールド期でも、何にも変わらない場所で、何にも変わらないで吹いている風である。いつだって、だれかが誰かのことを心の底から守りたいと願った時に、吹いている風である。

 

大輔はようやく、思い出すのだ。まさしく、おれだ。ぼくだ。ぼくがほしいものだ。ぼくが強くなったら、だれもつらい目に遭わないで済む、だれもつらい目に遭わなくって済む、だれも泣かなくってもいい、だれも傷つかない、大切な人を守れるそんな自分になりたい。

 

お姉ちゃんを守るんだと叫んだ懐かしい自分と大輔が出会った時、奇跡は起こったのだ。

 

 

 

コブシトーンがゲコモン達、オタマモン達、そして選ばれし子供達に襲い掛かるその刹那、みんなを守るための力。チコモンが待ち続けていた歌。眠っていた力。古の時を超えて目覚めた力がある。穏やかな風が吹き抜けた。

みんな呆然としている。必殺技が相殺された?いや違う。トノサマゲコモンが吹っ飛ばされたのだ。玉座に縫い付けになっている。

 

 

「そにっくかうんたーっていうんだよ、だいしけ。おれたちかぜのちからとあいしょうがわるくてみんなみんなしんじゃったんだけど、きっと、みんなをまもりたいっていうきもちを、かぜのちからにかえてたんだ。ありがとう、だいしけ。おれに、おんなじちからをくれてありがとう。こんどは、おれが、みんなをまもるばんだっ!」

 

 

研究者やテイマーから珍重がられる一方で、古代種であるがゆえに、

デジモンで初めて竜という種族に分類された史上初のデジモンは声を上げた。花の香りがする。一陣の爽やかな風が吹きぬけた。

 

その瞬間に、ミミの紋章が反応した。デジヴァイスが反応する。パルモンは、ミミ達を守るために躍り出た。そして、寂しがり屋の心優しい女の子の涙でできている純真の紋章は、もうひとりの純真の持ち主との邂逅で、ようやく真の力を発揮する。願いが想いと出会った時、超進化は起こったのである。

 

 

 

和やかな風が空間を満たしていく。

柔らかな緑の息吹がデジヴァイスから純真を貫き、風の守護を受けてサボテンが花開く。真の力を発揮するために、桃色の妖精は降臨した。小さな花から生まれた、妖精型デジモンは、リリモンと名乗った。

 

外見は子供のようだが、強大なパワーを持っている。性格は気まぐれでお転婆で泣き虫だが、同じような性格の子供に心を開くと言われている。リリモンが空を飛ぶと、爽やかな風が吹くといわれている。

 

 

「きれえ」

 

 

ぽつり、とミミがつぶやいた。チコモンが叫んだ

 

 

「リリモン、たすけてあげてええ!

とのさまげこもんは、からおけののどじまんたいかいで、ぶーいんぐうけて、しょっくでねこんだんじゃないよ!たぶん、たぶん、きいちゃったんだよ!

 

えてもんの!らう゛せれなーでっ!あんこくのちからにあやつられちゃった、えてもんにいいっ!きっとおともだちだったんだよ!どっちもうただいすきだから!

 

きっと、きっと、なにかだいじなおしごとあるから、きっと、ねらわれたんだ!もう、おれたちみたいな、こだいしゅみたいな、かなしいめに、いまいきてるでじもんたちがあうのみたくないよおおおおっ!」

 

 

ひとりぼっちの古代種が泣きながら叫んだ。リリモンが亜空間から虹色の花飾りを取り出して、悶絶しているトノサマゲコモンに向かい、その鮮やかな花びらを散らしながら、大きな大きな体に乗っけてあげる。

その瞬間に、何かが爆発を起こした。突風が吹いた。

 

やがて、リリモンは幼年期に戻ってしまった。しばらくして、300年の長き眠りから覚めた、トノサマゲコモンは語る。いい夢だったと。恐ろしいほどにいい夢だったと。おぞましいほどにいい夢だったと。

 

悪いことが何一つない、幸せで、とっても素敵な夢だったと。現実よりもはるかに素敵な夢の世界にいざなわれ、暗黒の力により長き悪夢にうなされ続けていたトノサマゲコモンはようやく長き眠りから覚めたのである。

 

 

「……ねえ、タネモン。どうしてリリモンに進化できたの?」

 

 

ミミはぽつりとつぶやいた。突然の進化だった。なんの兆候もなかった。紋章を持っているという条件は同じでも、ピヨモンやチコモンと比べると、ミミの腕の中にいる幼年期はあきらかに戦闘経験がたりないため、進化条件を満たしていない。

 

それはなんとなく分かっているミミである。おかしいなってそう思ったのだ。このタイミングだと超進化しそうなのは明らかにチコモンだったのだが、チコモンの絶叫に反応して進化したのは、結果的にタネモンだった。

 

紋章と同じ色に染められたデジヴァイスは、迷宮ピラミッドにいる光子郎のデジヴァイスに反応してテンプ湖の方角にむかって点滅を続けている。

 

トノサマゲコモンが犯されている暗黒の力を浄化することができるのは、データを初期化することができるリリモンの力だったのでよかったと言えばよかったのだが、やっぱり腑に落ちないのである。ミミの疑問にタネモンは双葉を揺らしながらいった。

 

 

「私が言うのもなんだけど、なんだかとっても不思議な感じがしたわ、ミミ。チコモンがソニックカウンターを発動したとき、なんだか力が湧いてきたの。チコモンがトノサマゲコモンを助けてあげてって叫んだ時にね、なんか、こう、想いが爆発したのね。突き動かされる気がしたの」

 

「光子郎君の時とは違う感じなのね」

 

「空が言ってたのとは違うわ」

 

「そっか。だからすぐに元に戻っちゃったのね。でも、なんでかなあ」

 

 

不思議そうにタネモンとミミは首をかしげている。そこに声を掛けてきたのは空だった。トノサマゲコモンを見上げておっきいと騒いでいる大輔とチコモンを見つめている。その表情は不安げだった。

 

 

「どうしたんですか、空さん」

 

「ちょっと、心配になったの。突然進化したでしょう?タネモンは大丈夫そうで安心したわ」

 

「わたしは大丈夫よ。幼年期になっちゃったけど、あんまり疲れてないの。なんでかしら。はじめて完全体になったならとっても疲れちゃうと思ってたのに」

 

「今までの進化とちがうの?」

 

「初めて進化するとおなかペコペコになるのよ、ミミ。とっても眠くなるの。ぐったりするの。でも、初めて完全体になったのに、トゲモンに進化するときくらいしか疲れてないわ」

 

「やっぱり普通の超進化とはちがうのね」

 

 

空は小さくため息をついた。

 

 

「わたし、みたの。一瞬だけ大輔君の紋章が水色から金色になったのをね。ミミちゃんの紋章がかがやいたのはその直後だったわ。なにか関係があるんじゃないかと思って」

 

「紋章の色が変わるって、え?」

 

「わたしもびっくりしたけど、間違いないの。見間違いかと思ったけど、ね。ブイモンは大輔君が傍にいなくても、デジヴァイスがなくってもエクスブイモンに進化しちゃったことがあるから、古代種はなにか違うのかと思ってた。

 

でもね、デジメンタルがどうのってチコモンいってたでしょう?進化する力を補ってくれるほど大きなエネルギーの塊だったって。チコモンが大輔君をそういうんだもの。大輔君が傍にいるだけで長生きできるって。

 

大輔君がなんとなく不安がってるアルフォースって力は、もしかしたら私たちが考えている以上に、この世界にとっては大変な力なのかもしれないわ」

 

「空さんは、大輔君がリリモンに進化するのを助けてくれたって思うんですか?」

 

「わたしはね、そう思うの。タネモンは全然疲れてないんでしょう?じゃあ、疲れるほど使っちゃうはずだった力は、かわりになにを使っちゃったんだろうって思うの。

 

タネモンは心の中で気持ちがぱーんって弾けた感じがしたんでしょう?

そういうのって進化するときにとっても大事なきっかけらしいから、その代わりになってくれたチカラはそのきっかけを大きくしてくれたんじゃないかって」

 

「ねえねえ、タネモン。どうだったの?」

 

「うーん、あっというまの出来事だったからよく覚えてないんだけど、

トノサマゲコモンを倒さなきゃって言うより、助けなきゃっていう気持ちがおっきくなった気がするわ。そしたらミミの紋章が光ったの」

 

「やっぱりそうなんだ。ミミちゃん、タネモン、このことは大輔君には内緒にしてね」

 

「え?どうしてよ、空」

 

「どうしてですか?大輔君のお陰ならお礼言わなくっちゃ」

 

 

空は頭を振った。

 

 

「大輔君、気付いてないんだもの。無意識のうちにやっちゃってる。もし言ったら、きっと自分から進んでやろうとするわ。そういう子だから。今回はミミちゃんだったから、進化したのがタネモンで、リリモンだったから、大したことにならなくて済んだの。運がよかったのよ。

 

想いを進化の力に変えちゃう。スカルグレイモンだったらどうするのかしら。進化先の維持に必要なエネルギーの代わりをしちゃったら……大輔君が危ないわ。

 

大輔君がいうには紋章やデジヴァイスが負担を軽減してくれてるみたいだけど、無理強いは出来ないでしょう?あの子は期待されたらどこまでも頑張っちゃうから。

 

だからね、ミミちゃん、タネモン。お願いだから気付かせないであげて」

 

 

なんにもしらない大輔は、トノサマゲコモンから大広間に呼ばれたと空たちを呼んでいる。今いくわって笑いながら空は返す。ミミとタネモンは頷いて、大輔たちを追いかけて駆けだした。

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