古代デジタルワールド期の守護の風に包まれた丘で、なっちゃんは待っていた。一面咲き乱れるネリネの花に包まれながら、大輔は立っていた。
頭が軽いと思ったら、チコモンがいない。あれ?あれ?あれ?って周囲を見渡す大輔に、なっちゃんは優しい声で「だいすけ」と呼んだ。
「なに、なっちゃん」と呼ぶと、なっちゃんは笑った。そして、「ごめんなさい、ちこもんはいないの」と手を合わせた。
「だいすけ、きょうは、ちょっとまじめなおはなしなの。わたしじゃなくてね、ほめおすたしすさまが、あなたにあいたいって。だから、わたしが、ほめおすたしすさまのだいこうをするけど、おどろかないでね?」
「ホメオスタシス様?」
「わたしと、ぴっころもんと、げんないさんたちえーじぇんと、しせいじゅう、のうえのひと。ふつうなら、ぜったいに、でてこないひと。
でも、あんこくのちからは、かわいそうなくらい、きょうだいなの。
こだいでじたるわーるどきのでじたるはざーどにひってきするくらい、
ううん、それをうわまわるくらいのきょういがあるの。だから、ほめおすたしすさま、よだんをゆるさないからって。
えらばれしこどもたちのなかで、ゆいいつ、わたしとせっしょくできるあなたに、あいたいって」
「うん、わかった」
「ごめんね。ほんとうなら、しんかのひかりをつかさどるものがするおしごとなんだけど、まだ、きてないみたいだから。でも、じかんがないの。これから、ほめおすたしすさまがいうこと、よくおぼえておいて。みんなにつたえて。おねがいね」
「わかった」
また、あいましょう、ってなっちゃんは目を閉じる。そして目を開いた彼女は、雰囲気が様変わりし、無機質で無感情で機械的な様相を呈するのだ。ごくり、と大輔は唾をのむ。ほめおすたしす、という実態無きデジタルワールドの端末は、語り始めた。
初めてお目にかかりますね、本宮大輔。暗黒の力の侵攻により、なすすべなく蹂躙される我々にこうして接触する機会を与えてくれたこと、感謝いたします。
まさに決死の希望。にも拘わらず、我々は自ら勇気を継ぐ者と誤って選定してしまい、危うく奇跡を宿す者である貴方すら喪失した過酷な旅を選ばれし子供たちに強いてしまうところでした。
暗黒の力による侵攻が王手寸前とは言えども、勇気を継ぐ者としての旅をあなたに強いてしまった。我々としてもあまりにも想定外の事態でした。我々は自ら最後の奇跡を粉砕してしまうところでした。
本来ならば、進化の光を宿す者に代行してもらい、すぐにでも記憶の開放をしたかったのですが、進化の光を宿す者は不在。導き手であるパロットモンは奇跡の暴走下。
本来あなたの記憶を開放すべき守護者まで喪失してしまい、こうしてあなたが真の奇跡の力を宿す者として、覚醒してもらうまで、待たなくてはなりませんでした。申し訳ありません
これからお話しするのは、本来ならばあなた達、初めて選ばれし子供たちがこの世界にやってきたころに、
すぐにでもお話しなければならなかったことです。ここまでよくぞ過酷な旅をよくぞ耐えてくださいましたね。
ようやく、我々は希望を見出すことができます。ですが、事態は予断を許しません。よく聞き、間違いなく、他の選ばれし子供たちに伝えてください。
我々があなた達を召喚したのは、古代デジタルワールド期にデジタルハザードが起こり、世界が暗黒の力に覆われしとき、奇跡を生んだと予言の書に書かれている者を復活させる儀式を、あなた達にしてもらうためです。
その儀式のために必要なものは3つあります。「想い」「願い」「意志」この3つがそろいし時、降臨したとされるデジモンがいるのです。
かつて暗黒の力を浄化し、10体のデジモンと共にデジタルワールドに平和をもたらしたとされるデジモンを降臨させるための儀式です。
我々は300年ほど前から、奇跡を宿す者、進化の光を司る者を探し続けていました。そして、光が丘テロ事件が発生した3月4日、デジタルワールドにして200年ほど前、我々は初めてあなた達と接触したのです。
思えばすべては暗黒の掌の中に過ぎなかったのでしょう。光が丘テロ事件という想定外の事件が発生してしまいました。
「なんで?」
ゲートが閉じられたのです。
「サマーキャンプのあのオーロラみたいなところ?」
ええ。「本来存在しえないはず」のあなたの家のパーソナルコンピュータ、
「なんで閉じたの?」
原因は不明です。ゲートは閉じられました。本来、パロットモン、エージェント、そして我々のみが知りえる最後の切り札であるにもかかわらず、です。
あの日、パロットモンは予言の書通り、世界中に拡散したデジタマを回収する任務に就き、その先で奇跡を宿す者、進化の光を持つ者を解析し、選ばれし子供となる人間を8名選定し、一様に記憶を忘却するはずでした。
デジタルモンスターは異物。あなた達の世界に知られるわけにはいかなかった。しかし、デジタマが進化の光を宿す者のパーソナルコンピュータに行き。
本来ならチッチモンの姿でデジタマを回収し、ベランダから選ばれし子供達を選定し、直ちに帰還するはずだったパロットモンは。あとはあなたがご存じのとおりです。
デジタマがゲート先に消えた刹那、ゲートが閉じてしまったのです。進化の光を宿す者がいるはずのマンションのパソコンが。
「スイッチ消しちゃったとか?」
いえ。あなた達の世界で何をしようとも、こちらから自在に開閉できます。暗黒の力はあまりにも強大すぎて、もはやどこまでこの世界を浸食しているのか判断がつかないのです。
想定外の事態ですが、パロットモンは必死でデジタマを回収しようと躍起になり、あなたの家のパーソナルコンピュータにあった「謎のゲート」を開き、はいったのです。
まだ「奇跡の力が完成していないはず」のあなたの家に。まだ「秘められた力は眠り続けているはず」のあなたの家に。我々は、デジタマを回収し、選ばれし子供たちの選定を終えたら、記憶を消す予定でした。
何もしなくとも、あなた達は1999年の8月1日に、サマーキャンプに集うはずでしたから。
「そっか、よかったあ。なっちゃんもコロモンも悪くないんだ?」
ええ。しかし、不測の事態が発生しました。デジモンにとって、進化を挟んでも統一した自我を持った状態で暴走せずにいられる者はほとんどいません。
感情の書き換えはあまりに彼らにとって負担となる物ですから。本来出会うはずのないあなたのところに現れたパロットモンは、あなたと姉の愛情あふれた環境と自分の置かれている環境の落差を比較できるほど
自我の発達を見せたために。
感情が抑制できなくなり、デジコアが過剰消費され、完全体にまで進化してしまったのです。一方で、進化の光を司る者のゲートから回収できなかったデジタマは、時間経過で孵化しました。
人間とデジモンがコミュニケーションをとることで、デジモン側に自我が芽生えることは先代の子供たちで学んでいた我々も、この事態は想定外でした。
不幸だったのは、進化の光を司ると言うことは、接触し続けるとデジモンを進化させてしまうということ。
コロモンに幼年期限定とはいえ、自我が芽生えたことで、彼女とコロモンの接触は加速し、結果としてコロモンは進化の光を浴び続け、完全体にまで匹敵する強化がなされた成熟期にまで進化してしまいました。
そしてその2体が接触し、あのような惨事となってしまったのです。まだ幼かったあなた達にデジモンと出会わせてしまったことが、そもそもの間違いだったのかもしれませんね。
あなたと彼女から発生した進化の解析によって、統一した自我を持った状態で進化し、通常よりも強化された状態で進化することができるという技術を我々は開発したのです我々は「ワープ進化」と名付けました。いずれ暗黒の力を浄化するキーとなりえます。
よく覚えておいてください。本来、はじまりの神のみが到達したはずのアルフォースとよく似ている。だからあなたのパートナーデジモンは、アルフォースを秘めし、古代種の末裔なのです。
話を戻しましょう。
光が丘テロ事件を一刻も早く収集を付けるために、我々も「ゲートを開こうとした」のですが、なぜか上空より開かれるはずのゲートが開かなかった。
もし、八神太一、彼がホイッスルを吹かなければ、もっと大惨事になっていたでしょう。あの現象によって、我々は成長期になった時点で自我を忘却してしまったはずのグレイモンが、一瞬ではありますが過去を思い出し、自我が覚醒するという現象を見ることができました。
コロモンにとっては、コミュニケーションをとるツールだったはずですから、なんらかのトリガーだったのでしょうね。
残念ながら、その結果としてグレイモンは彼らを守ろうとしてデジコアを消費し、エネルギーを完全体に拮抗できるの特攻を仕掛けることになり、パロットモンと相打ちとなりました。でも、おかげでチッチモンとコロモンを保護できました。
我々はあなたに2重の忘却を掛けねばなりませんでした。ひとつは他の子供たちと同じように光が丘のテロ事件に関することについて。そして、あなたのもっているアルフォースの力について。それによって大きな苦痛を伴わせてしまったことを、心よりお詫びしなければなりませんね。
ほんとうに、ごめんなさい。あなたにはつらい思いをさせました。
「みんなに謝ってもらったからいいよ。オレはもう大丈夫だからさ」
ありがとうございます、本宮大輔。ひとつ、あなたに聞きたいことがあるのです。
「なに?」
進化の光を宿す者は、もともとそういう資質があったように思います。
霊感が強い、未知なるものが見える、そう言った第六感が発達していたように思うので、恐らく生まれながらにあのような力を得ていたと思うのです。
しかしながら、あなたが持っているアルフォースの力は、本来ならばもっとゆっくりと形成されているはずで、あの夜の時点ではパロットモンが影響を受けてしまうほどの成熟はしていないはずでした。
でも、そうではなかった。あなたは覚醒の片りんを見せていました。おそらく、第三の影響があったのだと我々は考えているのです。あなたが5歳の時、姉と同じくらい大好きな人はいませんでしたか?今はいない、だれかの中で。
「今はいない……」
あなたに大切なことを教えてくれた人はいませんでしたか?あなたは覚えているはずですよ?我々はあの夜しか関与していない。あなたに「姉を守りたい」と叫ばせた声は、だれですか?
我々が勇気を継ぐ者と見まごうほどの力をくれた者は、誰ですか?その声は、いつも古代デジタルワールドの守護の風に守られていませんでしたか?風の中であなたの名前を呼んでいませんでしたか。大輔の中で忘却の彼方だった記憶が呼び覚まされる。
「誰に渡すんだよ、大輔」
「おねえちゃん!ぼく、あ、じゃなかった、おれ、これ、おねえちゃんにわたすんだ!」
「おおおっ、いいなあ、それ!ピッカピカの泥団子だぜ、ぜってー喜ぶよ、大輔のおねえちゃん!明日、どうなったか聞かせろよ!約束な!」
「うん!ありがとー、せんせ。ぼく、ぜったいにおしえてあげる!やくそく!」
「そっか。「ぼく」が「おれ」になったのは、せんせ、遼さんがいたからだっ・・・・・・・!」
間違いないのですね?
「うん」
そうですか。よくわかりました。
「え、遼さんとむかし会ってたことが原因なのか?」
いずれあなたたちも知ることになると思いますが、彼は、不可能を可能にすることができる因子の持ち主です。あえていうならば、奇跡の紋章と優しさの紋章、そのふたつを複合したような、この世界にとってはそう言う存在なのです。
あなたが本来よりもはやくアルフォースの片りんを見せていたとしても、なんら不思議ではありませんね。これで、我々のできることはすべて終えました。ようやく謎が解けた。
デジタルワールドの加護がある限り、あなたはきっと大丈夫でしょう。健闘をお祈りしています。できることなら、あと5年、あなた達と会うのが早ければ・・・・・いえ、なんでもありません。我々は出会うべきではなかった我々は出会ってはならない存在だった
「何言ってんだよ。だからこそ、オレたちは、今ここにいるんだ。出会っちまったモンは仕方ないだろ?これからのことを考えようぜ?明日のこと。これからのこと。そっちの方が楽しいじゃんか」
最後に一つだけいいでしょうか。
「なに?」
我々はあなたと全く同じ言葉をいってくれた人間を2人知っています。
「遼さん?」
もちろん。そうです。
「もうひとりは?」
太一、という少年です。
「え?太一先輩?」
いいえ、彼は違う。彼は「パラレルワールドの人間」です。同姓同名、同じ家族構成、同じ人間関係であっても別の人間。ですが、八神太一という名を継ぐものであることは一致しているようですね。
「へええ」
もしかしたら、先代ともなんらかの関係があるのかもしれませんね。我々が造られるはるか昔の出来事なので、関知するところではないのですが。八神という名前は先代の子供たちの文献にも残されていたと聞いています。
「ダイノ古代境から持ち出されたっていうやつ?」
デジモン黙示録という碑文は、古代デジ文字で先代の子供たちがかつての戦いの記録を継承していくために残してくれた数少ない文献の一つでした。我々が誕生するはるか太古の記録です。
だからこそ今でも守護デジモン達によって厳重に守られていたはずでした。ファイル島のはじまりの街を守護していたロゼモンが失踪したのが、すべてのはじまりだったのでしょう。
「えっ、はじまりのまちって守護デジモンいたのかよ」
ええ、彼女は究極体にして占いを通じて未来を予知できる能力を持っていたので、全幅の信頼をおいて守護を任せていたのです。我々が誕生する以前からファイル島を守っていたこともあり、外部から子供を呼び寄せる役割を担っていたと聞いています。
本来ならば、彼女があなたたちを招き入れるべき存在だったのですが、
占いに不吉な兆候があるからとアイスサンクチュアリに赴いて以後、行方不明なのです。それ以後、我々は彼女が……。
ホメオスタシスが憑依しているなっちゃんから初めて瞳に感情が宿る。
言葉が見つからないのか機械的だった言葉遣いが滞りを見せ始め、言葉を選んでいるのか、不自然ながら沈黙が続く。
「どうしたんだよ」
ホメオスタシスは静かに言った。
ロゼモンがかつて世界で一番信頼していたパートナーのデジモンに、代行を求めました。ファイル島に動揺が広がるのは明白だったので、少しでも守護デジモン達に伝わるのを
避けるためとはいえ、我々はそのデジモンに無理強いをさせたのは事実です。
最愛のロゼモンが失踪を遂げたにもかかわらず、それを隠匿するように指示しました。紋章とデジヴァイス、そしてデジタマを預けたのです。それが枷となり、そのデジモンはあなたたちがくる直前まで代行を務めあげてくれました。
彼は、守護デジモンたちと同じように、私たちが生まれるはるか昔から、ウイルス種だけしか入ることができない特殊エリアの統率を我々のさらに上位の存在に一任されていました。
かつてデジタルワールドがファイル島しかなかったころ、選ばれし子供たちではありませんが、ファイル島の消滅の危機に陥ったことがあったそうです。私たちセキュリティシステムとしてのホメオスタシスの人格が生まれるはるか昔なので。
記述に残されていることしか知りえないのですけれど、あなたたちくらいの子どもが、助けてくれたのだそうです。彼はその子供にも力を貸したとか。だからこそ、適役だと思ったのですけども。この予言の書を見ていただけますか?
そういってホメオスタシスは何もない空間からホログラムをうかびあがらせる。古代デジ文字が日本語に変換されて、長い記述の一部分が読めるようになった。
はじめに、蝙蝠の群れが空を覆った。続いて、人々がアンデットデジモンの王の名前を唱えた。そして、時が獣の数字を刻んだ時、アンデットデジモンの王は、獣の正体を現した。
天使たちがその守るべき人の最も愛する人へ光と希望の矢を放った時、奇跡は起きる
この記述が発見されたのは、つい先ほどです。未来は変わり続けている。
「……もしかして、敵になっちゃったってことかよ?」
悲しそうにホメオスタシスはうなづいた。暗黒の力に魅入られてしまったらしいそのデジモンの名前は、ヴァンデモンといいます。かつては闇貴族の館というウイルス種族のみが生息できるエリアを統率している守護デジモンの中でも古参の一角でした。
そして、こともあろうに彼はこの世界とあなたたちの世界の支配を望んでいるのです。勇志となるデジモンたちで勢力を組み、あなたたちの世界へ侵攻をもくろんでいるのです。
彼ならば、知っているはずだと思ったのですが、もはや暗黒の力に魅入られた彼の耳には、届かないのでしょう。
「なにが?」
デジタルワールドという異世界から一歩でも外に出たデジタルモンスターは、現実世界というあなたたちの世界においては、ただのモンスターという生き物にすぎないという事実です。
デジタルワールドとは違い、現実世界で死んだデジモンは輪廻の理から外れるのです。二度と生き返らなくなります。
「え?ちょ、ちょっと待ってくれよ!じゃあ、そのヴァンデモンたちがおれたちの世界に攻めてくるのかよ?デジタマには戻れないかもしれないのに!?」
ホメオスタシスはうなづいた。暗黒の力の復活という悪夢。せっかく先代の選ばれし子供たちが成し遂げてくれた平和を封印の決壊によって崩壊させてしまった今のような同じ道をたどらせるわけにはいきません。
暗黒の力を封印するためには、選ばれし子供たちも、パートナーデジモンたちも誰一人として欠けてはいけないのです。なにがなんでも、ヴァンデモンが所持している紋章は奪還しなければいけません。
そして、探してください。ヴァンデモンが現実世界を侵攻するその前に。やさしさの紋章の持ち主を。我々はあなた達不在の間、全力でデジタルワールドの現状維持と防衛に死力を尽くします。
徹底的にヴァンデモン一派が現実世界侵攻に引き込んだ陣営のデジモン達を、デジタルワールドに、強制送還してください。戦闘は最低限にしなさい。大災害は光が丘テロ事件の連鎖でしかありません。
デジタルモンスターは、あなたたちの世界ではただのモンスターにすぎません。そのために必要なのは、あなた達の側からデジタルワールドのゲートを開けることですね、パロットモンの管轄守護エリア、デジヴァイスの情報を予言の書に更新しました。ひとつだけ、覚えておいてください。
「なに?」
デジタルワールドとあなたたちの世界をつなげることができるのは、とても不安定なゲートを開くことも同じ。タイムリミットがあるのです。
「え、そうなの?」
期限は1999年8月1日から1999年8月3日の12時です。その日がゲートを開くことができるぎりぎりの時間です。目印は月食です。よく覚えておいてくださいね。予断は許しません。
一つでもずれればすべてが終わる。光が丘テロ事件以上の大災害を救世主であるはずのあなた達選ばれし子供たちが現実世界で行ってしまうことは、何としてでも食い止めましょう。注意なさい。
暗黒の力は先代の経験と知識という最高の予言の書を持っているのです。現実世界での戦闘を誘導してくるでしょう。騙されてはいけません。
我々があなた達を呼んだのは、ウイルス種のデジモンを抹殺することでも、現実世界のあなた達の住むお台場を焦土と化すことでも、ありません。未来を担うべき子供たちに、辛辣で苛烈な冒険をさせるために、呼んだわけではないのです。
これで、やっと、我々は暗黒の力と同じ土俵で戦える。だからどうか、10人目と紋章を頼みます。
「え?10人目だけ?2人たりないんだから、2人探したほうがいいんじゃねえの?」
「いえ。これから帰還する八神太一が、連れてきてくれると思います」
「なんでわかるんだよ」
「それは」
「それは?」
「あなたが知ってる女の子が選ばれし子供だからです」
「え?」
光の紋章は、進化の光、デジモンにとって生命ともいうべきデータの集合体、強烈かつ鮮烈な力を象徴しているのです。彼女がいたからこそ、私たちは光が丘テロ事件の影響でばらばらになったあなたたちを見つけ出して、この世界に呼ぶことができたといっても過言ではありません。
か弱き少女でありながら、不安定で強大な力を持ってしまったもう一人の自分、ホーリーリングを備えし者がパートナーの女の子です。
「え、あのすごい力があるっていう?」
ええ。ホーリーリングは強大な力を秘めています。パートナーデジモンの安否が心配です。暗黒の力が放置するわけがありませんが、ウイルス種にとってホーリーリングは大敵な神聖の体現、おそらく利用するとすれば配下となるでしょう。記憶を操作されている可能性があります。
敵として現れるかもしれませんが、辛辣な生活を強いられているかもしれませんが、傷は癒せなくても、心は癒せる。不安定さを残してはいけません。
隙を見せれば暗黒の力に引き込まれかねない、徹底的なメンタルケアと保護、それがパートナーデジモンたちを保護した時に行うべきことです。いいですね。
「そっか、うん、わかった。ところでさ、その9人目っていうのは誰なんだよ」
ホメオスタシスは、真剣なまなざしで大輔を見つめた。そして、告げるのである。大輔でさえ記憶の緩やかな解放がなければ思い出しもしなかった光が丘テロ事件の衝撃的なデジタルモンスターとの出会い。
たった一人ぼっちで光が丘テロ事件について犯人であると思い込み続けている女の子がいるとホメオスタシスは言うのだ。彼女はデジタルワールドの中枢ともいうべきホメオスタシスと同調できるほど、特異な体質をしている。
だから、かえって記憶を喪失することができなかったのだと。本来なら助けを求めたいにもかかわらず。光が丘テロ事件の最前線でしなくてもいい罪の意識にさいなまれ、兄すら記憶を喪失し、家族すらしらず、永遠に凍りついた世界で独りぼっちになっている女の子。
ヒントは太一先輩が絶対につれてかえってくる女の子。
「……もしかして、八神さん?」
ホメオスタシスは、思わずうつむいてしまった大輔を見て、首をかしげた。