300年もの眠りから覚めたトノサマゲコモンの大広間にある真正面には、でんと構えた大きな大きなカエルがいる。
ゲコモンとオタマモンから座布団をもらい、正座しているのはいいのだが、だんだんしびれてきた大輔は足を崩していいかどうか、涙目で空に聞いてみるのだが、ダメよまじめに聞かなきゃって言われてしまう。
うわーん。そしたら、いきなり頭の上にいた水色が消えた。あれ?と思ったら、ぷるぷるしている大輔の足の上に、面白がって乗りやがったのである。空も調子に乗ってぴりぴりする足の裏をつつくもんだから、うぎゃあああってなっていた。
くすぐるとか鬼ですかアンタ。悶絶する大輔はその場に崩れ落ちた。隣では、好奇心旺盛なピヨモンから、ねえねえ、つっついていい?つっついていい?ちょっとだけ、ちょっとだけだから!ていじめられているタネモンがいる。
いやあああ、ミミ、たすけてえってパートナーに縋り付く幼年期がいる。真っ赤なボクサーみたいなサボテンという微妙な姿から、リリモンという桃色の妖精に進化したことですっかりご機嫌なミミは、むしろふにふにして遊んでいた。
裏切り者おおおって二つの声がこだました。
選ばれし子供たちは3人いるが、大輔のチコモンはおそらくずっとチコモンだし、タネモンもおそらくずっとタネモンだ。つまり、この2人を守れるのは空とピヨモンである。唯一の成長期でなおかつ進化できる。
不慣れなお母さんとお姉さんをしなくてもよくなったという解放感から、空はずーっとはっちゃけているし、ピヨモンも好奇心旺盛なので便乗する。生き生きしているのはいいのだが、そのあおりを食うのはいつだって大輔である。
ちょっかい出してはご満悦の空である。うっぷん晴らしは加速する。やめてくださいよって怒るのだが、空はごめんねーって言いながら全然反省していない。こっちの方がいつもの空さんだからいいけど、なんかなあと大輔はため息である。
だからって、なんでオレばっかり、ちょっかいかけられて、いたずらされて、いじくられるんだろう、と首をかしげて疑問符が飛んでいく。微妙に天然入っているからだと思うよ。
きゃいきゃい騒いでいる子供達をほほえましげに眺めていたトノサマゲコモンは、そろそろ本題に入るがいいか、と釘をさす。はーい、とみんな大人しくなった。
「よう我を300年もの眠りから解放してくれた。感謝するぞ、選ばれし子供たちよ。我はトノサマゲコモン。かつてはファイル島で沼地エリアを統括していた守護デジモンが一角よ。
預言の書通りとはいえども、あまりにも変わり果てたこの沼地エリアの今の姿には我も驚きが隠せぬわ。はるか昔、このエリアはトノサマゲコモンの城を中心として、沼地エリアが広がっておってな。
もともとサーバ大陸は砂漠地帯が大半を占めておるが、オアシスや湿地帯といった水源に恵まれたエリアは、繁華街であふれていたものよ。
かつては迷いの森と呼ばれている霧深き森の入り口ともなっていたというに。今となっては、砂漠化の進行は目と鼻の先とは・・・・・。雨が降っておらぬ証拠だ。このままではワシの様な両生類型のデジモンたちは住むところがなくなってしまうのう。
暗黒の力は300年も前から用意周到にデジタルワールドの侵攻を狙っていたようだ。我を暗黒の眠りにつかせ、我がウイルス種であることを利用し、選ばれし子供たちに必要なき戦闘を強いるとは。おのれ」
苛立たしそうにトノサマゲコモンは言うのである。
「森って、バクモンが代わりに守ってたあの森かしら?大輔君」
「あー、そういえば代わりにやってるって言ってましたね」
「でも、霧なんて出てたかしら?」
「いえ、なんにも」
「ミミちゃん、ミミちゃんはゲコモンたちに助けられるとき、霧が出てる森なんて通った?」
「え?ううん、通ってません。普通の森だったもの。ね、タネモン」
「ええ」
「……なに?バクモンじゃと?確かにあのエリアはもともとナイトメアソルジャーズに属する者たちが多く住んでおるが・・・・。霧が出ていないだと?デジタルワールドの危機だというにか?ジュレイモンめ、何をしておるのだ。あのエリアを防衛するのはあのデジモンの役目だというに」
「ジュレイモン?」
「ああ、わしの長きにわたる知り合いの様なものよ。あの者も元はファイル島で迷いの森を統括していた守護デジモンの一角でな。そうか……。しかし、困ったことになったのう。
大輔が言うには選ばれし子供たちはこれから現実世界にて防衛線をしなければならんというに、お前たちの世界では3日の出来事でも、こちらでは優に4320日に及ぶ不在ということになる。
何か対策を講じねば、ただでさえ四聖獣様たちのお力でもぎりぎりの情勢だというに、一気に暗黒の力によって世界が最悪の方向へ再編成されかねんぞ。
森がここまで枯れ、砂漠化が進んでいるにも関わらず何も行動を起こさんとはいったい何をしておるのだ、老いぼれめ」
「そのジュレイモンというデジモンは、何か大切なことをしってるの?」
「ああ。ファイル島ができた頃から生きている生きた化石のようなデジモンなのだ。かつては長老として慕われておったものよ。おそらくは先代の選ばれし子供たちのことも知っておろうな。
選ばれし子どもたちがくる前から、生きておる数少ないデジモンじゃから。つまり、かつてどのような情勢でもって暗黒の力が攻めてきたのか、知っている数少ない生き証人というわけじゃ。
あやつがいないとどのような対策を講じればいいのかわからん。選ばれし子供達よ、力を貸してほしいのだ」
首を傾げた空がつぶやく。
「どうすればいいの?」
「ジュレイモンを探してほしいのだ」
「どんなデジモンなんだよ」
「ジュレイモンは世界の大概のことは知っていて、“樹海の主”と呼ばれている、植物型の完全体デジモンじゃ。文字通り、大樹のような姿をしておる。
かつてははじまりの街に辿り着くにはジュレイモンが守護する霧の森を抜けねば入ることができんかったもんじゃ。やつは幻覚を伴う霧に長けておる。
やつがおらねば、サーバ大陸は迷いの霧を失い、暗黒の蹂躙を受け、
なすすべなく壊滅状態となる。そうなれば、暗黒の世界では、死んだデジモンが復活する場所が喪失。
現実世界同様、暗黒の蹂躙により寿命作る前に死亡したデジモンは無条件に復活できなくなる。輪廻が喪失する。ダークエリアに送られし者は、暗黒に魅入られし者のみよ。
純朴なるデジモン達は問答無用で消滅の憂き目となる。最悪、暗黒勢力の糧となってしまうかもしれんのう。サーバ大陸を砂漠に変え、何を目論んでおるのかわからぬ。
本来ならば、ミスティツリーズ内の霧を晴らして、はじまりの街への道を開くなら任せろというとぼけた心優しい好々爺よ。だが、話を聞く限り、行方不明なのだろう?何かあったとしか思えないのだ。
サーバ大陸を砂漠に変え、ネイチャースピリッツの力を喪失し、このサーバ大陸の守護者を徹底的に暗黒に引きずり込んでは蹂躙し、一体何の目的なのかわからぬ。頼まれてはくれんかのう」
空たちは顔を見合わせたが、4000日以上もこの世界が無防備なまま敵の奇襲を受けるかもしれない、という
恐ろしい可能性を訴えられては先を急ぐからというわけにもいかないだろう。
大輔から、ホメオスタシスの話、なっちゃんの話、そしてトノサマゲコモンの話を電話で聞いた光子郎は、
そのままピラミッド迷宮には帰らずに、ヤマトを探したほうがいいと返した。
おそらくテレビ電話だったら、目がきらめいてるであろう光子郎である。ホメオスタシスのデジヴァイスのデータを公開したという話にものすごい勢いで食いついてきた。
テンションがものすごい。新デジヴァイスの制作という言葉を聞くや否や、明らかに意欲とやる気が顕著に変わった光子郎である。水を得た魚である。ナノモンになんか叫んでいる。
ナノモンもなんか預言の書がどうたらこうたら、専門用語が大わらわで大輔は途中から理解するのをあきらめた。可愛そうなのは、これからこき使われるだろうガジモンたちと。
ほっとかれっぱなしではないけども、逆に専門知識を嬉しそうに話しまくられ、いや、あの、わてに言われてもわからんがな、って別の意味で置いてきぼり食らっているテントモンである。
テントモンは空を飛べる。きっと機材収集の奴隷となるだろう。ご愁傷様である。そして、なんだかものすごくハイテンションな様子でド派手な音がして、テントモンの光子郎はああああんんっていう大声が響き渡って切れてしまった。
なんぞ。
何はともあれ、なんでもないです、なんでもないです、って機械的に返す光子郎に何も言えず、大輔はそのまま光子郎のデジヴァイスを持っている空、タネモン抱っこしたミミと共に、ナビゲーションする電話抱えてチコモンと共に、バードラモンに乗って空を飛んだ。
どこにいるのかわからない樹海の主探しが追加されてしまった。