「ムゲンマウンテンくらい高い山が見えると思うけど、その麓のあたりに、昇っていける山道があるんだ。その中腹あたりをよく探してみて。
そこにあるレストランに、デジヴァイスの反応が2つあるんだ、おかしいなあ。たぶん、ヤマトさんとタケル君じゃないかな?丈さん、どうしたんだろう?」
八神太一のサーバ大陸迷子事件のときに、空と大輔、丈とタケルとヤマト、光子郎とミミという別れ方をしたのである。光子郎とミミが真っ先に帰ってきて、待機の光子郎と探しに行くのミミで別れ、大輔と空が帰還、ミミを探しに行って合流。
ジュレイモンを捜さなければいけないから。みんなで合流しろって使いっ走りにされている途中である。光子郎いわく、タケル、ヤマト、丈のグループは一度も帰ってきていないらしい。
何かあったんだろうかって心配になるみんなを乗せて、バードラモンは風を生んだ。サーバ大陸でも、とってもおいしいと評判のレストランだそうである。ベジーモンが運営してて、デジタマモンはオーナーをしているそうだ。
ガルルモンが0:00から6:00まで、6:00から12:00までがティラノモン、12:00から18:00がメラモン、18:00から24:00がユキダルモンが、交代で料理人を担当をしているそうである。
レストラン!?という反応を示した大輔とチコモンに、残念だけど、と光子郎は釘をさす。
「デジタルワールドの通貨はBITっていう特殊な通貨か、デジドル……いや、ドル?アメリカのお金なんだって。食べちゃダメだよ、大輔君、チコモン、お金持ってないんだから」
えーと大輔たちは不満たらたらである。たまには手料理食べたいよう、という大輔とチコモンの言葉には、空たちは大いにうなづいた。漂流生活を始めてから何日たったか、とっくの昔に忘却の彼方である。
果物、魚、ばっかりである。たまには肉が食いたい。というか、パン、ご飯、お母さんの手料理。サマーキャンプのカレー。ぐーとおなかが鳴った。結局、選ばれし子供たちは食料調達はあくまでも現実世界が基準である。
「どんなメニューがあるの?」
興味津々のミミの声に、読み上げられるのは個性派ぞろいである。ガジモンたちは、メラモンの赤熱ラーメンがお勧めだと笑った。
灼熱ラーメン 400デジドル
バーニングカレー 1200デジドル
溶岩風鍋 3500デジドル
暴君竜そば 400デジドル
ザウルスピザ 1000デジドル
ジュラシックバーガー 2500デジドル
骨付きステーキ 1000デジドル
DX骨付きステーキ 2500デジドル
幻の骨付きステーキ 5000デジドル
雪解けシェイク 300デジドル
アイスクリーム 700デジドル
絶対零度かき氷 1600デジドル
非常にレアなのが、ベジーモンとデジタマモンがふるまってくれることがあるそうだ。
ベジーモン限定メニューは以下の通り。
宇宙サラダ 1500デジドル
未確認飛行スープ 4000デジドル
ギャラクシーフルコース 9000デジドル
デジタマモン限定メニューは以下の通り。
謎のゆで卵 1000デジドル
謎の卵焼き 2500デジドル
謎の卵うどん 6000デジドル
「なんでデジタマモンの料理、すっげー簡単なのに、すんげー高いんすか」
「謎だからだよ、たぶん」
「ねえ、光子郎君。サーバ大陸って本当は自然でいっぱいなんでしょう?見渡す限り砂漠だったけど。
ってことは、レストランなのに食材ほとんど手に入らないんじゃない?その交代制のデジモン達、雇えるお金あるのかしら?お客さんこないような知る人ぞ知るって感じのところなのに」
「・・・・・・・・そういえば、UFOでも「商売あがったり」だっていってました。なるほど、サーバ大陸を砂漠にして、みんな困らせて、
何も知らない僕たちが迷惑かけちゃうように、嫌われちゃうように、
誘導してたんですね、暗黒の力。本当なら協力してくれるはずのデジモン達から、僕たちはあやうく嫌われ者になるところでした。危なかったですね」
「大変だわ、大輔君、ミミちゃん、急ぎましょう!きっと何も知らないでレストラン行っちゃってアルバイトしてるんじゃないかしら、みんな。
ベジーモンの誤解も解かなくっちゃ!デジタマモンまでけがさせちゃったら大変だわ!」
一気にバードラモンは跳躍するのだ。
しばらくして。
空たちがたどり着いた時、久しぶりのお客様が人間という無断飲食した不届き者だと知ったベジーモンの態度はかたくなである。そりゃそうだ。
タダでさえ商売あがったりなのに、無断飲食なんて生活かかってるのにふざけたことした人間である。態度は硬くなる。でも、大輔がもっていたPHSが大活躍である。手渡されたPHS越しに、かつてよくお得意さまで来ていた。
エテモン軍団のガジモンたちが「ようひさしぶり」って電話してきたのだ。暗黒の力で暴走行為を止めるために奔走したナノモンのこと、ガジモンたちのこと、エテモンとナノモンを命を懸けてまで助けてくれたPHSの持ち主。
しかもPHSの持ち主と隣でベジーモンと同種族の植物のデジモン連れた女の子が、トノサマゲコモンを起こしてくれたうえ、ベジーモンが散々こき使っていたのは、伝説に語り継がれている選ばれし子供という、まさに救世主だったのである。
なんてこった、商売がうまくいかなくて、明日の生活にも困るあまりに、とんだ悪魔の甘言に載せられてしまった。雨が降らない原因を作っていたのは自分だったのか、とベジーモンはあっという間に態度が軟化した。
丈は大輔たちから、ホメオスタシスのこと、なっちゃんのこと、トノサマゲコモンのことを聞いて、事情を知らなかったとはいえ、とんだ営業妨害をしてごめんなさいと謝ったのである。ミミはタネモンを抱えたまま言うのだ。
「ねえ、どうしてこんなところにお店をつくったの?」
「きれいな湧き水が出るホーリーストーンの泉がなくなっちゃったんざんす。むっかしは大きな大きな繁華街があってねえ、大通りでうちの店、いっちばん大繁盛してたんざんすよ。
もう4体のデジモンを雇わないと回らなくなるくらい。でも今は、あらやだ、この通り人間雇わなきゃいけなくなるくらいの閑古鳥!でも雨は降らなくなるし、ホーリーストーンはなくなっちゃうから泉はかれちゃうし。
だからあっという間に砂漠になっちゃったのよう。ここらへんだっていつまで砂漠になっちゃうかわかんないわあ」
「だいしけ、おれたちといっしょだよう」
「え?」
「はがねのていこくがね、しぜんのちからをぜんぶぜんぶぶっこわして、いろんなものつくって、いろんなでじもんとせんそうしたんだ。だいちも、みずも、そらも、ぜんぶぜんぶまっくろになっちゃうくらい。
さばくがどんどんひろがってくせかいで、おれたちがたすけてえええってさけんだら、そしたら、おめがもんは、あらわれたんだ。おれたちがしようとしてることは、でじたるわーるどをたすけられるんだよ!だいしけ!」
「見かけないデジモンだけど、だれざんす?」
「おれは、ちこもん。だいしけのぱーとなーでじもんだよ。こだいでじたるわーるどきにね、はがねのていこくのせいでしんじゃった、ねいちゃーすぴりっつのひとりだよ。さいごのひとりだよ。ひとりぼっちだよ。
ほかのこだいしゅのみんなはまだねてるだろうし、いまはたぶん、おれが、このせかいで、ゆいいつ、おめがもんをみたでじもんなんだ。あんこくのちからでぶっこわされそうなこのせかいに、へいわをもたらしてくれた。
おめがもんをふっかつさせるために、おれたちはいるんだよ、べじーもん。おれたちは、そのためにいるんだよ。だいしけたちは、そのぎしきをすつためにね、やってきたかみさまなんだよ。えらばれし、こどもっていう」
ベジーモンは、凍りついたのである。あんぐり、口が開きっぱなしで閉じない。ベジーモンは大輔の頭の上に載っているチコモンを捕まえた。証拠はとりあえずPHSの向こう側にいるガジモンとナノモンたちに任せることにした。
ベジーモンたちがPHS越しに会話しているのをしり目に、他の選ばれし子供たちは苦笑いでテーブルの椅子を引いて、作戦会議だ。大輔のリュックにある食べ物をごろごろ並べて作戦会議である。
大輔のPHS越しに光子郎も参加する。その中で、言葉少なに作戦会議に参加していたヤマトが、おもむろに立ち上がる。
「どうしたんだい?ヤマト」
「ちょっと出てくる。タケルたちが心配だ」
「オレも行くよ、ヤマト」
「ああ」
「そ、そうか、ごめんよ、僕のせいで。実はタケル君に待っているよう言って、ヤマトは僕のこと探してくれたんだけど、この通りなんだ」
「じゃあ、私が行くわ、ヤマト君。バードラモンでお迎えに行ってあげた方が早いでしょうし」
「そうか、悪い。ごめんな」
「ううん、私たち、仲間でしょ?」
みんなヤマトが照れ屋だと知っているので、そっぽ向いた彼には何も言わない。くすくす、にやにや、するだけである。ヤマト?って心配そうにガブモンは顔を上げる。
唯一毎晩悪夢にうなされ続けていることに気付いているガブモンは、丈に言おう、言おう、とするたびに、大好きなヤマトに止められてきたので言えないままである。ここに巻き込まれる形でとどまったのだって、デジタマモンにここから出たら丈とゴマモンの命はないぞ。
それでもいいのか?選ばれし子供、ってなかば脅される形で屈してここにいるのだ。そして、守っているはずの丈からいろんな迷惑をかけられては、守るべき存在であるタケルを迎えに行けないまま、2か月近くがたってしまっている。守るべきものから、守るべきものを守れなくされている。
ヤマトにとって、友達とは「守る」ことに通じている。それがすさまじい勢いで揺らいでいる中で、連日連夜の人間不信の悪夢にうなされ続けていたのだ。もう精神的には崩壊寸前である。
ただでさえ、自分は空っぽであると早すぎる自覚をしてしまったヤマトは、迷惑をかけたくないとか、大したことないとか、ひとりぼっちで強がり続けていた、初めて会ったばかりのヤマトのような言動と態度に戻ってしまっているのだ。
本能が危険信号を発している。でも、本人は気付かない。空っぽな少年は、これが、あたりまえ、だと思い込んでいるから。ふつうのあたりまえのこと、だ、と思い込んでいたから。
ヤマト?と怖い顔をしているパートナーにおびえながら、ガブモンがいう。一瞬目のハイライトが消えていた少年は、はってなる。
「なんだ?」
「あ、よかった、もどった」
「え?」
「ヤマト、気付いてないの?」
「なにがだよ?」
「なんか、一瞬、暗黒進化させた太一と大輔みたいになってたよ?」
「・・・・・・・悪い。ありがとな、ガブモン」
「うん」
振り返ったヤマトは、タケルを呼びに行った空がいないテーブルに向き直る。
「みんな、のど乾いてるよな?水、いるか?」
もちろんみんな即決である。みんなの目が輝くのは、カーテンの向こう側にある灼熱地獄の昼下がりを見れば一目瞭然だ。そして、水でもみんなに渡そうとキッチンに向かい、コップをお盆に並べるのだが、たくさんの氷の入っている水がなくなってしまった。
「あ」
「どうしたんだい?ヤマト」
「水がなくなっちまった。なあ、丈、井戸ってどこら辺にあるんだ?
たしか水汲みは丈の仕事だったよな?」
「えっと、この岩道をずっと下っていくと枯れかけの湖があるんだ。その先にたしかあったと思うよ?」
「ちょっと、オレ、水でも汲んでくる。いくぞ、ガブモン」
「うん」
「え?そんな、わざわざ行かなくても・・・・・」
「いや、いいんだ。ついでだよ、ついで。もう働かなくてもよくなったって言っても、晩飯の魚はどのみち誰かがつらなきゃいけないだろ?」
「あー、そりゃそうだ」
釣り、という言葉に反応したのは、チコモンである。魚、魚、さかな、さかな!?ガブモンはどうしたんだよと思わず聞いた。キャンプセットをもっているミミや丈と合流するまで、空とずーっとお菓子や果物を腹八分目以下しか食べられなかったチコモンには、何よりの朗報である。
「ねえねえ、それってさ、いっぱい釣ったらいっぱいたべてもいいの!?」
その言葉に、ああ、とその場にいたすべての選ばれし子供たちは、チコモンの心中を把握したのである。連日の悪夢をちょっと一人で考えたかったヤマトはちょっと嫌そうな顔をするのだが、気付いているのはガブモンだけだ。
「だいしけ!」
ものすごい勢いで食いついてくるチコモンに、こんなじりじり暑い中釣りかよとばかりに、うへえと大輔は顔をゆがませた。でも、一度こうなってしまったらチコモンはずーっと魚魚とうるさくするに決まっている。
現にもうチコモンは苦笑いを浮かべているヤマトたちについていく気満々なようで、早くいこうよと耳元でわーわー騒いでいる。うーむ、と大輔は考える。みんなの話し合いは、きっとここに来るまでに空たちと話し合ったことの繰り返しだろう。
難しいこともいっぱい話し合われてしまうと、きっと置いてきぼりになってしまう。たぶん光子郎たちと話し合ったことをそのまま丈たちに伝えて、これからどうやって太一たちと合流するか考えなければいけない。
結論づけるのはきっと何時間も後になるだろう。それはちょっといくらなんでも暇すぎる。よし、決めた。
「ヤマト先輩」
「・・・・・ん?」
「あれ?どうしたんすか?」
いつものヤマトだったら、この時点で大輔たちの言いたいことくらい把握してそうなものだが、珍しいこともあるものだ。ガブモンはちらちらとヤマトをみて、どうしようかなあ、と悩んでいる。
パートナーデジモンが結論を出す前に、ヤマトは言葉を紡いでしまった。ああ、またおいて行かれちゃった。
「いや、なんでもない。なんだ?」
「オレたちも行っていいっすか?」
ヤマトは肩をすくめた。そして考えるそぶりをしている。別に断るようなことでもないだろうに。へんなの、と思いつつ、チコモンはヤマトとガブモンを見比べる。
丈の荷物の中から折り畳み式の釣竿とバケツを用意し始めている様子は、なんだか落ち着かない様子だ。
「いいぞ。そのかわり、騒ぐなよ」
「はーい!」
「チコモン、お前手も足も無いくせにどうやって釣るんだよ」
「え?あ、あははははは」
苦笑いを浮かべたヤマトは、釣り道具一式を大輔に持たせた。
「オレたちは先に水を井戸で汲んでくる。大輔たちは先に行ってろ。この坂をずっと下った先に湖があるから、そこで先にはじめててくれ」
「はい、わかりました!いこうぜ、チコモン」
「うん!じゃあ、いってきまーす!」
「じゃあ、これからどうしようか話し合いだね」
「決まったら教えてくれ。すぐ戻るから」
一足先に坂の向こうへと消えた大輔たちと少し遅れて、ヤマトとガブモンはベジーモンのレストランの裏手にある小さな畑へと足を延ばした。
川の水を堰き止めて水を溜めるようになった名残があるが、すっかりこの山のか細い上流の水は枯れてしまったらしい。
横切るのは貧相な畑である。そのすぐそばには、山の麓に横穴をあけて作った地下水のため池が見えてくる。これは畑の世話をするためのものであり、飲み水ではない。少し歩いた先に、寝泊まりしていたボロ小屋と一緒にあるのがお目当ての木製の井戸である。
井戸孔内に雨水などが入らないよう作ってある囲いを飛び越え、ヤマトは小さな屋根をくぐった。そして、慣れた様子で飲み水をいれる容器を井戸口におき、手押し式のポンプに手をかけた。
まるでトトロに出てくる井戸である。さすがにヤマトの父方の祖母の家付近はここまで田舎じゃない。せーの、でポンプを上下させれば、次第に水があふれ出す。わあ、つめたい!と容器を抱えていたガブモンがはしゃいだ。
毛皮をかぶっている爬虫類にとってはこの暑さはたまったものではないのである。いつもなら何やってるんだ、と笑いながらハンカチを差し出してくれる優しい笑顔がそこにはない。
ポンプは止まらない。組み上げられた水がじゃぶじゃぶと容器の中でうすをまく。やまと?とガブモンはヤマトを見上げる。なにやらまた考え事をしているようだ。
力任せに組み上げられていく井戸はどんどん水の勢いを増していく。わああああ、とガブモンは大声を上げた。
「ヤマト、ヤマト、ヤマトってば!水、水溢れてるよっ!!」
耳元で怒鳴られたヤマトは、ようやく我に返った。目の前にはなんとか水を止めようと容器をそばにおいてヤマトに引っ付いてきたガブモンがいる。豪快に湧き上がる水ですっかり毛皮がびしょびしょだ。
「あああああっ!!なにやってるざんすかっ!」
追撃のように真後ろから大声をあげられて、ようやくヤマトはあわててポンプをもとの位置に戻した。
「一体全体どうしたんでやんすか?アナタがミスするなんて珍しいでやんす。でも気を付けてほしいでやんすよ。ここの所雨が降らないから、水は貴重なんざんす」
「あ、ご、ごめん、悪いベジーモン!大丈夫か、ガブモン」
「ううう、ヤマト、ひどいよう」
「うわ、ぬれちまったな。えーっと、タオル、タオル。わるい、ガブモン、待っててくれ。すぐとってくるからな」
ばたばたばた、とヤマトがレストランへ走っていく。ぶるぶるぶる、と濡れてしまった毛皮を乾かそうと身震いするガブモンに、ベジーモンが毛皮を脱いだらどうかと提案するが、真っ青な顔で彼は拒否した。
放っておいたらせっかくの地下水がぬるくなってしまうとベジーモンに水を持って行ってくれるよう頼んだガブモンは、しばらくしてタオル片手に返ってきたヤマトを見上げた。
「ヤマト」
「ごめんな、ガブモン」
「ううん、いいよ。それよりさ、さっきからどうしたの?」
「え?なんだ?」
「さっきから、ぼーっとしたりさ、なんかへんだよ?ずっとへんだよ、ヤマト。このレストランに来てから、なんかさ、ヤマト、いらいらしてない?」
「いや、べつに、そんなことは……」
「今は、ここには誰もいないよ、ヤマト。オレだけにさ、こっそり教えてくれよ。オレはヤマトの力になりたいんだ」
「ガブモン……」
もうひとりの自分からの警告である。ガブモンはデジタルワールドにおいて、初めて、漂流生活において初めて、自分の意見をパートナーであるヤマトにぶつけた。無垢な眼差しに射抜かれたヤマトは言葉に詰まる。
「ヤマトがなにを考えてるのかなんて、さっぱりわからないよ、オレ。
でもさ、毎日毎日、ハンモックで毛布にくるまりながら、うなされてるヤマトを見るのはもうやだよ。
こっそり独りぼっちで泣いてるの見てるの、もうやだよ、ヤマト。オレじゃだめなの?オレじゃヤマトの力になってあげられない?」
「……ガブモン、お前」
「オレさ、ヤマトがいつもすっごく頑張ってるの、ずーっと見てきたんだ。ヤマトにしかできないこと、ヤマトはいっぱいしてきたでしょ?
何にもできない、すっからかん、じゃないよ?
ヤマトは「ヤマトお兄ちゃん」を頑張ってきたから、頑張ってこれたんでしょ?スポーツだって、勉強だって、デジタルワールドでタケルたちのこと一番に考えて、行動してきたのヤマトじゃないか。
新しい自分を見つけるのもいいけどさ、今まで頑張ってきたことまでほったらかしにするのも、かわいそうだよ?」
「………ありがとう、ガブモン」
「うん」
「長い、長い、悪夢を見てたんだ。誰にも言えなくて、怖くて、泣いてたんだ。聞いて、くれるか」
「うん」
乱暴に目頭をぬぐって、ヤマトはほんの少しだけ打ち明ける。トラウマとなっている光ヶ丘団地に住んでいたころの小学校1年生だったヤマトの記憶を打ち明けた。ガブモンはなんにも言わないで、ヤマトの手を握った。
そろそろいくか、と鼻声なヤマトにガブモンはとりあえず若干赤くなっているその眼をどうやってごまかすか考えてあげることにした。
そして、大輔たちが待っている湖に向かうために再びレストランに戻った時、何やらにわかに店内が騒がしくなっている。なんだ?と顔を出したヤマトたちを待っていたのは、サイン色紙を突き出すベジーモンの姿があった。
「あああ、これは大変だ!はやくデジタマモンに伝えないと!あああああ、ちょーっと待っててください!さささ、おかけになって!
さあなた達も実はとっくの昔に食べた分は払ってもらってるざんすよ!
あーもーしまった、貴重な食料がぱーざんす!お金があっても食料売ってるとこないのに!お金に目がくらんでしまった、デジタマモンに怒られるざんす!
だからせめて、アチキがクビにならないように協力してくださいざんす!神様が遊びに来てくれたっていう拍がついたら、平和になった後は、うちの店は確実にNO1のお店になれるざんすっ!サインください!サイン!
もちろん、デジモン達も。あ、そーだ、足形つけてくださいな、そっちの方が信憑性増すざんすっ!」
わけのわからないまま、石田ヤマトって油性ペンで書く羽目になったヤマトの横では、ガブモンも疑問符を飛ばしながらがミミズののた打ち回ったようなデジ文字で名前を書いている、そして、デジタマモンをさがしに一目散に飛んで行ったベジーモンである。選ばれし子供たちは苦笑いだ。
そして、ヤマトはようやく丈たちのサイン色紙がレストランに並べられているのを見て、有名な料理屋さんによくある有名人のサイン色紙をベジーモンがねだっていることに気づいたのだった。
選ばれし子供たちってとんだ有名人らしい。じゃあ、大輔たちと釣りをしてくるって、ヤマトは改めてガブモンとともに去っていった。一息ついたお留守番組は空を抜いての作戦会議である。丈とミミ、光子郎、パートナーデジモン達だけだけど。
「ありがとう、みんな。危うくずーっと働かされるところだったよ」
「丈にしてはらしくないミスばっかりだったな!」
「う、うるさいなあ、黙ってろよ、ゴマモン。おかしいんだよ。何にもないところで転んだり、僕の時だけ鍋が落ちてきたり、崩れ落ちそうになるくらい変な積まれ方してたり、味が変わってたり、調味料の位置が反対になってて、間違えて入れちゃったり」
「わあ、大変。そういえば、丈さん。丈さんはどうやってこのレストランにきたの?こんな知る人ぞ知るって感じのお店なのに」
「え?えーっと、そうだなあ。旅人みたいな恰好をしたデジモンが僕たちの前に現れてさ、初めはこっちの方角に子供たちを見たって教えてくれたんだ。
で、湖の近くでヤマトとタケル君と別れて、二手に分かれて探すことにして、そしたらここを見つけたんだ」
「へえ、親切な人もいるもんですね」
「できたらデジドルのことも教えてほしかったんだけどなあ。てっきり円が使えるとばかり思ってたから、無断飲食になっちゃったわけだし」
「しかたないって、丈。オイラ達だってデジドルつかうようなところ、ファイル島には無かったんだから」
ゴマモンは肩をすくめて笑った。
「アタシがファイル島にお店を出してた頃はまだ使われてた覚えがあるざんす。今はそんなところも残ってないザンすか?」
ベジーモンの言葉にみんな振り返るのだ。
「アタシがまだ幼年期だったころ、肉畑を任されてた下積み時代だったざんす。ずいぶんと儲けさせてもらった覚えがあるザンす。まあかれこれ300年くらい前だけどねえ」
意外と長生きしているらしいベジーモンにびっくりする。飛行能力を持たないベジーモンやデジタマモンはどうやってサーバ大陸に渡ったのだろう?
すると、300年くらい前はこの世界はずっとずっと寒くて、海が凍っていたのだとベジーモンは教えてくれた。ファイル島とサーバ大陸はもともとひとつの大陸として氷河を通して陸続きになっているほど、広大な大地を持っていたのだという。
それがはじまりの島と呼ばれていた時代のことだ。はじまりの街を司る守護デジモンがいなくなってから、
一気に繁華街が衰退の一途をたどったという証言は嘘ではないらしいことを再確認した。
やっぱりはじまりの街は大切なエリアなのだ。ジュレイモンを捜すにはどうしたらいいんだろう。空たちの会議に、当時のことを断片ながら覚えているベジーモンが話に加わってくれた。