じゃらりじゃらりと鎖がしなり、灰色の布きれ越しに捕まれた先端がわずかに揺れている。鈍色に輝く鎖の先にぶら下げられている鋼色の球体が発光して宙に浮かんだ。上部には小さな金細工の装飾が施されており、鎖と球体の付け根の部分をぐるりと等間隔に囲むようにして並んでいるのがわかる。
そしてその球体の中央には金色の輪をさらに大きな楕円形の輪がさらに囲んでいる。まるで人の目玉のようなマークは、プロビデンスの目と呼ばれている特殊な紋章である。アメリカ合衆国の国章の裏面やUSドル紙幣の裏面にも描かれているこの紋章は、もともと古代エジプトの象徴とも言うべき紋章である。
未完成のピラミッド型の建造物の上で、まわりを栄光の光によって囲まれる3角形の3つの目で監視する、という意味がすあり、神の目で人類を監視していることを示していると言われている。
プロビデンスの目は「神が全てを見通す目」とされており、古代エジプトでは、太陽と月は偉大なハヤブサの神の目だと考えられていた。その球体にも月を示す円の中に月の象徴である左目、太陽を示すシンボルの中に太陽の象徴である右目が刻まれていた。
浮遊する球体に影が落ちる。全てを見る目の意を表す「万物照覧の目」をかざしプロビデンスの目の持ち主は、重々しい音を奏でる鎖を持ち上げてにたりと笑う。
そして、このデジタルワールドにおいて一部のデジタルモンスターしか習得しえない高等プログラミング言語を駆使して、その目の秘めた力を発動させるべく、淡々と力を注ぎこむ。
「死の宣告!」
真っ赤なマントの向こう側でギラギラとしている眼差しが、みいつけた、と真っ赤な唇が弧を描く。ぞっとするほど鮮やかな光に包まれたプロビデンスの目は、その先に、裏切り者の様子を映し出すホログラムを浮かび上がらせた。
満足そうに水色の瞳は笑い、頭上の不気味な髑髏の装飾がカタカタカタと音を立てる。本来であるならば「良好な状態であるもの」を意味するウジャトは人身保護の護符とされており、 個人には身体的繁栄を、宇宙には豊かさをもたらす象徴とされているはずのその目は、この目の持ち主の持つ正体不明の力によって死神の目として作用する。
「天空のはるかかなたに存在する者」の目は、裏切り者の所在を告げていた。そして、虚空を漂っている死神は、真夜中だというのにやって来た迷惑極まりない訪問客に辟易している二つの影に振り向いた。
「やあ、起きてたかい?何だよ、この僕が遊びに来てあげたってのに、何が不満なんだい?いひひ。まあ、そんなことどうだっていいんだけどさ、これからちょっと遊んでこないかい?ちょっと面白い相手を見つけたんだ。この子供たち、凄いエネルギー体を持っててさ、
ケンカ売るついでに奪ってきてほしいんだ。ただ、いっつも邪魔なデジモン達がそばにいるんだよ。だから、どうせならついでに潰してきてほしいんだ。それには君たちがいた方が都合がよくてね、この僕がわざわざお願いに来てあげたんだから、
もちろん付き合ってくれるよね?」
じゃらり、と鎖がしなり、問答無用で、びゅん、と空を切った鎌の向こう側は裂傷が走る。大鎖鎌とよばれている柄の部分が2から4メートルもある鎖鎌が踊った。先程までそこにいた影は消えており、その鎖鎌がわずかな重さに反応してずしりと重くなる。
両手で用いるように作られ、鎌の部分も大きく、鎖も長めに出来ている死神の象徴を軽々と片手で担いで見せている自称伝令は、避けないでよ、面白くないなあ、とそれはそれは楽しそうに笑う。
重いよ、どいて、と無邪気な子供のような声色が、なおさら残酷さを煽り立てていた。ならばその絶え間なく続く攻撃を止めろとばかりに警告する相手方の言葉に、耳を貸す様子もなく、頭部・顔面・脛・小手の部分を狙って分銅を打ち付けようと振りかぶった残像は全て空振りに終わった。
少しずつただのちょっかいから本気になり始めたのか、死神は相手のお付であるか弱いデジモンに標的を変えることにしたらしい。敵の武器を鎖で叩き落したり、敵の手首や足に鎖を絡めさせたりする攻防を繰り返しながら、お付のデジモンが動きを封じられてしまい、左手に持った鎌刃で斬りつけ、止めを刺そうと振りかぶる。
さすがに大事な片割れを串刺しにされては困るとばかりに横やりを入れた相手に、死神は、じゃ、あとはよろしくね、と笑った。
言葉少なく揺り起こされた丈とゴマモンが大きな欠伸をしながら伸びをして、毛布を蹴飛ばすころにはすっかり辺りは夜の帳が下りてしまい、真っ暗になっていた。
手探りで大きなふちの眼鏡を探し当て、ぼんやりとした輪郭がちゃんとした色彩を帯びたころ、ようやく目も暗闇に慣れたようで、ぼんやりとではあるのだが、見張り番の交代だとお越しに来てくれたヤマトたちの姿が目に入る。
たっぷりご飯を食べて、たっぷりと眠った夜は、パートナーデジモン達にとっても、子供たちにとってもやはり久々の休憩となったようである。今までバラバラだった仲間たちが少しずつ、少しずつ、そろい始めている。
それだけでそれだけの安心感をもたらすのか、改めて彼らは知った形である。ヤマトの腕の中で半ばうとうとと船をこぎ始めているツノモンと同じように、辛うじて我慢しているものの、何度も乱暴に目をこすっているヤマトがいる。
太一たちがいれば見張り番の回数も減らすことが出来るのだが、現実世界からの帰還待ちの今この場にいない彼を頼りにするわけにもいかない。
次の時間になったら起こしてくれと今にも死にそうな声を出しているヤマトたちに苦笑いしながら、丈はうなづいて毛布にダイブするヤマトと入れ替わる形で、ゴマモンと共にみんなが雑魚寝をしている部屋を後にした。
音をたてないように扉を閉めた先には、カンテラの火がゆらゆらと陽炎を輝かせていた。慣れた様子でカンテラに手をかけた丈は、行くよ、ゴマモン、と声をかける。がってんだい、と調子のいい相棒の声が聞こえて、丈は苦笑いした。
きい、きい、きい、と廊下をカンテラの火を頼りに歩いていく。施錠されているか、怪しい影は無いか、慎重にあたりを見渡しながら、そっと耳を澄ませてみたり、一通りあたりの部屋や階段などを見回ったりしているうちに、ぼんやりとしていた頭もさえてくる。
さあ、いよいよレストランの周りを一通り回ってこなければ、と新たに気合を入れる丈である。きい、と扉を開けたその先は、ひんやりとした空気が飛び込んできて、思わず縮み上がってしまう。
レストランがある場所は山の中腹にあるためになかなかの高度な場所に立地しているため、こういう真夜中を少し過ぎたあたりの時間は一番冷えるのである。さすがに白い息までは出ないものの、思わずカンテラの火で暖を取ろうとしてしまう。
ベジーモンレストランのあるこの場所は、一番冷える時間帯になると決まって霧が発生するのだ。歩みを進めていくうちに、レンズの厚い乱視補正の入った眼鏡に、雨粒に比べて非常に小さい雨粒がたまっていくので、時々立ち止まってぬぐわなくてはいけない。
こういう時コンタクトの方がいいのかなあ、なんて思ったりするのだが、今さらだ。大気中の水分という水分が張り付いている気がしてしまうが、丈と違って雲の中にいるとゴマモンは無邪気にはしゃいでいる。のんきなものである。
まあ、雲と霧の違いなんて、大気中に浮かんでいて、地面に接していないものが雲で、地面に接しているものが霧っていうんだから、あながち間違ってはいないのだ。だから山に雲がかかっているとき、地上にいる人からはそれは雲だが、実際雲がかかっている部分にいる人からは霧なのである。
だから、今の丈とゴマモンは霧であり雲の中にいるというわけだ。
カンテラの炎が乱反射して、霧の中に幾条もの光芒が描かれ、どんどん影が丈とゴマモンをおいこしていく。カンテラの火をかざして、透かして見ることができる薄い霧は、どこまでもどこまでも続いている。
月明かりでも出ていればもう少し落ち着いた感覚であたりを見渡すことが出来るのだが、山のふもとの地面まで達するような霧は、山の中腹や山頂付近全体をも覆い隠しているようだった。
「寒いなあ……」
思い出すのは勉学とスポーツを両立している文武両道の二番目の兄に連れられて、無理やり駆り出されるラジオ体操が休憩代わりの窓の向こう側から見える光景だ。夏休みの宿題と偏差値の高い高校という目標を掲げているが故の、深夜の勉強である。
睡眠時間はきっちり確保しなければいけないのは医者の家系である以上、一夜漬けは言語道断、むしろ早く寝て朝早くに太陽も登らない薄暗いうちからやった方がいいことも知っている。
しかし人にはサイクルと言うやつがあるモノで、学校の補講と塾と自主学習とくれば、どうしても小学校6年生の彼の生活サイクルは夜型になってしまう。
このデジタルワールドと言う世界に巻き込まれてから、もう何日の漂流生活をしているかなんて知りもしないが、この見回りと言うもはや癖となりつつある行動は、今のところそんなに苦ではなかったりする。
問題は冴えきっているが故の、いろいろと余計なことを考えてしまうこの頭である。田舎のおばあちゃんから教えてもらったおまじないをさっきから何十回も唱え続けているのだ。
いーなーくーわーこー、いーなーくーわーこー、いーなーくーわーこー!
お経っぽく唱えたらなんでか知らないけどバケモン達が融合して襲い掛かってきたバケモン様が成仏しちゃったんだ、効果があるのは立証されているんだ間違いない。
あの時は空君の帽子のぽくぽくぽくという音も相乗効果になったのかもしれないけれど、きっとこれはおばあちゃんの教えてくれた退魔の力に違いない。丈の頭の中では、いなくわこがぐるぐると渦巻いている。
「なー、丈」
びくりと反応してしまうのはもはや癖の領域である。きょろきょろとあたりを見渡し、特に異常は見られないことを確認してからほっと胸を撫で下ろす丈に、能天気なパートナーデジモンのひょっこひょっこついてくる独特の足音がついてくる。
「なんだよ、ゴマモン」
「なんかさ、オイラと丈だけでこうやって歩いてるとさ、ファイル島のこと思い出すよね」
「なんでこんなときにそんなこと思い出すんだよ、ゴマモン……。あの時は空君やピヨモンもいたじゃないか」
「だってさ、あの時もこんな感じですっごく霧がこかっただろ。すぐそばで空たちがいるかどうかわかんなくてさ、ある程度進むと丈がこうやってオイラ達の方を振り向くんだ。なんか、懐かしくなっちゃってさ」
「あ、あの時とは違って怖いから空君たちのそばにいることばっかり考えてるわけじゃないよ。こ、こーやって、その、ほら、ゴマモンと迷子にならないかどうか心配だから、その、あれだよ、大人の務めってやつさ!」
「ほんとかよー、足が震えてるよ。素直じゃないなあ、丈は」
「う、うるさいなあ!あの時は深い霧の向こう側から現れたのが、オーバーデール墓地なんていうとんでもないオカルトスポットだったじゃないか!見渡す限りお墓だらけで、しかも廃墟の教会とか何にも感じない方がおかしいんだよ!
あー、今でも思い出すとぞっとするよ。あの時ゴマモン達が来てくれなかったら、今頃僕達生贄に捧げられてダークエリアに言ってたに違いないよね」
「まあね。感謝してよ、オイラ達お腹へってて、看守のご飯取っちゃう作戦考えるの大変だったんだから。
えへへ、でもさ、今思うと丈もちょっと変わったよね。ムッチャクチャだけど、とにかく自分にできることをやるっていうか、そういうの分かって来たんじゃない?」
「うーん、さあ?そうかな?なんかしなくちゃいけないなとは思ってるけど、自分じゃよく分からないよ」
「オイラが言うんだから間違いないよ。げーんき出せって!」
「いてっ!蹄が痛いんだから叩くなよ!」
「なにが蹄だよ、人の手を前足だか後ろ足だかみたいな言い方しちゃってさ、怒るよ?」
きらんと光る鋭利な爪に、丈はわかったよ手ってことにしておくと返したのだった。 よく分からないが握手をしようとしたゴマモンが前足を掲げた時に、そのもこもことしたそれって手だったんだ、と再発見した時の発言をゴマモンは根の持っているらしい。
本来ならば寒冷地帯や水上で生活するデジタルモンスターである。水上移動なら誰よりも負けない自信があるようなのだが、その分陸上移動はどうしても不得手で、いろいろと苦労があるらしい。
ひょっこひょっこと後ろを付いているゴマモンは、ぷんすか怒りながらちょっとだけスピードを速めた。何時の間にか丈を追い抜いて先に歩き始めてしまっている。ちょっと待てよってあわてて追いかける丈の影が、ゴマモンの後を追った。
霧の中で見えないものが見えるような気がしてしまう。それはカンテラの明かりが周囲を照らすことで、闇の中にカンテラを持つ自分自身が、
ぽっかりと浮かんでいるように見えるからなのだろう。
真っ暗な森の中にたたずんでいるレストランは、どこまでも暗い闇の中にある。もう今日は昨日になり、明日は今日になったころだろうか。確認しようと腕を見た丈だったが、あいにく腕時計は枕元の床に置き去りにしてしまったらしく、なにも身に着けていないせいで時間がさっぱりわからない。
しまったなあ、もう少し明るくなったらミミ君や大輔君たちを起こしてもいいだろうけど、まだまだ夜明けは先のようだ。ヤマトたちは多分ぐっすり寝てるだろうし、起こすのもちょっと気が引ける。
朝食にする魚の下ごしらえはまだ準備に取り掛かるのは早すぎるし、水を飲みに来る小鳥がさえずるのもまだまだ先らしいことは、辛うじて確認できた井戸とそばを流れる小川でで確定している。
どうしようかなあ、と丈は頭をかいた。後はベジーモンの肉畑を回ればおしまいだ。何時もならばベジーモンとデジタマモン達が明日の仕込みをするために、誰よりも早く起きてキッチンが騒がしくなるので、こうもレストランが真っ暗なのはなかなかお目に罹れなかったのだ。
結局レストランのオーナーと支配人は帰ってこないまま、一日が過ぎてしまった。ちょっと彼らが心配である。今日にでも帰ってきてくれるといいんだけども。いろいろと思考を巡らせながら歩き続ける丈に、ゴマモンもちょっとだけ機嫌を直したのか、歩くスピードを緩めて丈の隣に並んで、ひょっこひょっこと体を揺らした。
しばらく歩いていくと、キャンデーのようにラッピングされた巨大肉が
ずらりと強靭な骨と共に畑にぶっ刺さっているシュールな光景が現われた。相変わらず何ともいえない形容しがたい光景である。
特に異常はなし、と安心した様子で丈とゴマモンは顔を見合わせて笑った。その時である。ん?と唐突にゴマモンがあらぬ方向をみて、顔を上げた。
きょろきょろと何かを探すようにあたりを見渡しているパートナーデジモンに、嫌な予感しかしない丈は、いなくわこ!とまるで口裂け女に対するポマードのごとく心の中で口走りながら、ちょっと血の気のひいた表情で、どうしたんだい?と聞いてみた。多分顔はこの上なくひきつっている。
「丈、なんか聞こえない?」
「またそうやって脅かそうとする!」
「ちーがうってば、なんか、ほら、あっちらへん!」
「あっちって森じゃないか。野生のデジモンでもいるんじゃないかい?」
「んー、なんか違うんだよ。なんていうか、その、えーっと、声?」
「声?」
「そー、声」
こえ、ねえ、と丈がゴマモンがいう方角に視線を向けた。その時、がさがさがさっと何かが落っこちる音がする。な、なんだ、なんだとずれた眼鏡を直した丈は、あわててポケットに引っ掛けているデジヴァイスを握り締める。
まさか、ヤマトたちを襲ったとか言うギロモンが、僕たちの居場所に気付いて奇襲でもしてきたんだろうか、と最悪な展開が脳裏を過るが、いつまでたってもその怪しい物音の方角からは誰も現れない。
動悸の余り心臓が破裂するかと思った物音が、ぐわんぐわんと耳の中で鳴り響いているが、幸い立ちくらみやめまいを引き起こすほどのものではなく、再び現れた静寂が、返って言い知れぬ緊張感を生み出してしまっている。
丈、と警戒態勢に入っているゴマモンがパートナーに呼びかける。ヤマトたち呼んでくる?いや、ちょっとそこまではまだ分からないぞ。この音ならたぶん、誰も起きないんじゃないか?振り返れば案の定、電気がつく気配もなければ、カーテンが開いて窓があき、丈たちの名前を呼んで、あわてて飛び出してくるであろう仲間たちの姿はない。相変わらず静かなレストランが見える。
ちょっと安心した丈たちは、大きな大きなクレーンが開いているであろうそこに向かってみることにした。
多分、木の上で寝てたどっかのデジモンが、寝相が悪くて落っこちただけだろう。カンテラの明りでも、霧の向こう側には、特に変わった様子は見られなかった。
「恥ずかしくなって隠れちゃったのかな?」
「そりゃそうだよ、こんな夜中に樹から落ちるとか恥ずかしいって」
「そうだといいんだけどなあ」
木々の間と茂みの中巡りながら、とりあえず退路だけは確実に確保しつつ前に進んでいく。しばらくして、カンテラの光でも十分すぎるほど把握することが出来る、場所に出る。
恐らくあの物音の発生源の先をみた丈とゴマモンはこおりついた。
丈、あれ、とゴマモンもその先の言葉が紡げない。丈はカンテラをゴマモンに渡すや否や、一目散にその方向へと走り出したのである。無理もない。
幼年期くらいの植物型デジモンが、その唯一身体から生えているであろう手足がわりと思われる葉っぱが、
見るも無残な形でずたずたに切り裂かれていたのである。それも木から落っこちたくらいでは出来る傷ではない。キャンプ用の器具を詰め込んだリュックを持ち運んでいる丈はすぐに分かった。
いつも使うときには最新の注意を払っているから分かったのである。1人の人間が文明から隔絶された環境に置かれても、それがあるだけで、その生存確率は数倍にも跳ね上がることを丈は身を持って分かっていた。
様々な専用の器具を使用しなくても、目前の問題を解決できる局面はとても多かったから分かったのだ。
武器としても使用でき、危険な凶器と成り得る。まるで生きているかのごとく、幼年期のデジモンに向かって鈍色の光沢を放つのは、襲い掛かる数本のナイフだったのである。
「マーチング・フィッシーズ!!」
ゴマモンの号令と共にあ空間から出現した大量の魚たちが幼年期のデジモンの前に現れる。
「そいつと丈を守るんだ!いっけえ!バブルバリアっ!!」
ゴマモンの子分たちが一斉にシャボンの泡を発生させる。一気に視界不良となった世界で、魚たちが雪崩のように幼年期のデジモンと丈、そしてゴマモンを取り囲み、そして抱えると、一目散に森から出ようと流れていく。
まるで何かに操られているかのように、数本のナイフは追いかけてくるのだが、魚たちの勢いはとどまることを知らず、どんどん勢いを増していく。この調子なら、なんとかレストランに着くころには生きているナイフを振り切ることが出来るだろう。そして、はっと我に返るのだ。
「大丈夫かいっ!?」
ぐったりとしていて微動だにしないデジタルモンスターをあわてて抱えあげた丈は、荒く息をしているものの、なんとかまだ生きている様子にほっと肩を撫で下ろした。小さな鼓動が腕の中で息をしている。すっかりずたずたに裂傷が残る葉っぱが痛々しい。
しっかりしろ、おーいと呼びかけてみるのだが、すっかりおびえきっているらしく、息をするだけでやっとらしい幼年期のデジモンは、小さくこくりとうなづくだけだった。よかった、と安どのため息をつく丈に、ゴマモンもほっとした様子で胸を撫で下ろした。
早くこの小さなデジモンを保護してやらなければいけないと丈とゴマモンは踵を返して走り出す。酷いケガである。しゃべることすらできないなんて何処までひどい目に遭ったんだろう。
恐らく人間であるならば間違いなく死んでいるに違いないが、一命を取り留め、意識があると言うことは相当生命力がある種族のデジモンなのだろう。手当をしてやらなくては、と将来有望な医者の卵は、懸命に走った。
「ひっどいことする奴がいるなあ!丈、そいつはバドモンっていう幼年期のデジモンだよ。オイラ、始まりの街で見たことある。基本的には何にもしない大人しい奴なのに」
「誰がこんな酷いことしたんだろう!信じられないな」
どこか遠くで、口笛が聞こえた。