ミミの後を追いかけて廊下を走り抜ける丈とゴマモンを待っていたのは、きゃあああああ、というミミの悲鳴だった。ミミ君!ミミ!と急いでドアを蹴破った先には、バドモンをしっかりと抱きしめ、突然現れた襲撃者たちから少しでも距離を取ろうと、慌てて丈たちのところに駆け寄ってきたミミの姿があった。
丈の後ろに隠れてしまったミミの尋常じゃない怯え方に、どうした、しっかりしろよ、とゴマモンが声をかける。だって、だって、だってえ、とすっかり涙目になっているミミの指差す方向には。
おびただしい数の毒蜘蛛のような姿をした幼年期くらいのデジモンたちが、天井から床からテーブル、棚、イス、と所狭しとばかりにひしめき合っていたのである。わさわさわさ、と足の踏み場もないくらいの大量発生である。
ミミたちの響き渡った悲鳴にぴたりと動きを止めた小さな蜘蛛たちは、
一斉にドアのすぐ前で茫然と立ちつくしている丈たちに目を向けたのだ。一極集中する視線。ぞわぞわぞわと背中を悪寒が走り抜け、反射的に一歩下がった丈たちは、ぼとりぼとりと天井をはいつくばっていた名称不明のコグモたちが、下に下に落っこちてくるのを見た。
身なりは小さいとはいえども、明らかに猛毒を仕込んでいると思われる毒々しい色をした牙が丈たちに襲いかかったのである。
「丈、ミミ、危ない!後ろに下がんなよ!」
「え?うわあっ」
「もーいやあっ!」
「バブルバリア!」
時空の裂け目から召喚されたゴマモンの子分たちが、一斉になだれ込む。そして、色とりどりの魚たちの口からはき出されたシャボン玉たちは、ふわふわふわ、と風に流されてレストランの入り口へと流れていく。
それを見届けていたヤマトたちは、ぱちん、とシャボン玉が弾けるのを見た。ぱちん、ぱちん、ぱちん、と特定の場所に到達すると、すべての泡が弾けて消えてしまった。なんだなんだ、と目を丸くする丈は、シャボン玉の一つがぺたり、と何もない空間で止まるのを見た。
すると、シャボン玉は空中に一気に吊り上げられたのである。そして彼らは、光の加減で確認することが出来なかったトラップをようやく認知するのだ。そこにあったのは糸だった。それはそれは、とても大きなクモの巣だった。レストランの入り口をすべて覆い尽くしてしまうほどの規模である。
中央から放射状に引かれた糸に、同心円状に細かく糸が張られた構造が形作られている。中心から放射状に張られた糸を縦糸、縦糸に対して直角に、同心円状に張られた糸を横糸として、螺旋状に張られている。網の中心付近には横糸がなく、縦糸の交わるところには縦横に糸のからんだ部分がある。
見るからに網の中で粘り気があるのは横糸だけのようで、横糸をよく見ると、数珠のように粘球が並んでいるのがわかる。砂埃と共に紛れ込んでくる小さな昆虫が引っかかり、糸でぐるぐる巻きにされているのがわかった。
横糸は螺旋状に張られているが、普通網の下側の方が数が多いようである。全体にはっきりしないカゴのように、粗く糸を張り合わせたような形の網である。カゴ状の網の一部にシートを持つものもある。
糸を縦横に重ねた薄い膜状の網と、それを支える上下に張られた糸からなっていて、膜状部が皿を伏せたような伏せ皿型のもの、下向きにくぼんだ受け皿型のもの、ほぼ水平に広がるシート状のものなどたくさん展示品のように並んでいた。
そして、丈たちが一番唖然とせざるを得ないのは、まるで溶解液のごとく、その謎のクモの巣に触れてしまったシャボン玉は、しゅうううう、と煙を上げて溶けてしまったことだ。
「一体なんなんだい、これは!外に出られないじゃないか!」
思わぬところで立ち往生である。このままずっと立ち往生していては、獲物を狙ってうごめいているおびただしい数のコドクグモンたちが襲いかかってくるのも時間の問題だった。だからといって、このまま直進したらこの正体不明の蜘蛛の巣に直撃してしまう。
そうだ、鉄の棒かなにかで蜘蛛の巣を壊してしまおう!と手ごろなものを拾い上げた。丈先輩、何とかしてくださいって背後に迫るおびただしい数の爬虫類に今にも死にそうな悲鳴を上げながら、ミミが必死で丈にしがみついた。
よーしっ、いくぞっとばかりにクモの巣に鉄の棒を突撃させた丈たちは、とんでもないものを見ることになる。目蓋の裏に残像。しゅうううううううう、と辺りに飛び散ったのは火の粉である。そして、目の毒とも言うべき強烈な異臭と共に、鉄の棒があっという間に溶けてしまう。
反射的に目をつむった丈たちが見たのは、哀れにも無惨な形でひしゃげてしまった鉄の棒。まるで溶鉱炉にでも突っ込んだかのごとく、でろでろに溶けてしまったではないか。そして、クモの巣とおぼしき粘着質の螺旋模様は、今か今かと丈たちを待っている。
なんだよ、これ!どうしたらいいんだ!?後ろをふり返れば、コドクグモンたちがわらわらわらと迫ってきていた。いやあああ、とミミの悲鳴が上がる。
「丈、あれ見ろよ!アイツが親玉らしいぜ!」
ゴマモンの声に弾かれるように顔を上げた丈とミミの前に現れたのは、
コドクグモンたちよりも遥かに大きい図体をしたデジタルモンスターだった。
背中には巨大なドクロのマークが刻まれた真っ黒で丸い図体を背負い、そこからは、恐らく毒が含まれているのであろう真っ赤な2本のヒズメが目に痛い8つの大きな毛だらけの足が動いている。
4つに割れた口の中には、上と下、そして左右に渡ってびっしりと引きちぎられてしまいそうな鋭利な牙が覗いている。黄色と黒の危険色で覆い尽くされた鋼鉄のカブトのせいで表情をうかがい知ることは出来ない。
そのカブトの真正面に付けられた3つずつの六つの対となる丸い点が全て目であると分かった時、ミミはあまりの気持ち悪さに鳥肌が立ってしまったらしく悲鳴すら上げずに顔面蒼白のまま、立ちつくしている。
ミミ君、ミミ君、しっかり、と丈の声に我に返ったミミだったものの、
コドクグモンよりも遥かに大きい蜘蛛の姿に絹を裂くような悲鳴を上げた。
このままじゃ挟み撃ちにされてしまう。せめて窓から逃げようときびすを返した丈たちだったが、そいつはひゅるひゅるひゅる、と何でも腐食させてしまう糸を出し、それを風に乗せて飛ばし、丈たちの進行方向である大きな窓の向こう側に引っ掛かると、その糸の上を往復して糸を強化することで枠を作りはじめたのである。
次に、枠の内側に縦糸を張る。縦糸を張り終えると、中心から外側に向けて、螺旋状に粗く糸を張る。横糸を張る時の足場を確保したそいつは、器用に昇り始めたのである。足場糸が引き終わると、今度は外側から内側へと横糸を引き始めた。
横糸を張る時、クモは縦糸に出糸突起をつけて糸をくっつけると、中心に向かって進み、足場糸にさわると外側へ針路を変更し、次の縦糸に糸をくっつけるという動作を繰り返している。これで逃げ場は完全に無くなってしまった。
あああアチシたちのレストランがああ!とバドモンの悲鳴があがる。みしみしとしなるガラス窓の淵は、ドンドン有害な煙と共に覆い隠されてしまう。どうやら何でも溶かしてしまうらしいクモの糸は、瞬く間にきれいな縁取りだったガラス窓を突き破り、でろでろに溶かしてしまったようだった。
ぱあん、となにかが破裂するような音がしたかと思うと、激しいひび割れが窓中に走り、はじけ飛ぶようにしてガラスが木っ端微塵に粉砕されてしまったではないか。まるでボールでもぶつけてしまったかのようなひび割れが次第に細かくなっていく。
すっかり開いてしまった穴の向こう側には、毒々しい危険色の図体が覗いた。
「ドクグモンだ」
ゴマモンは苦虫を潰したような顔をする。ファイル島で過ごした幼年期時代、嫌という程ちょっかいをかけてきた成熟期らしい。
その度に追い払ってくれたレオモン曰く、もともとは大人しいデジモンであったが、コンピューターウイルスの渦に巻き込まれて感染してしまい、それ以来ふれたものを腐食させる能力がついてしまった呪われたデジモンらしい。
八本の足は伊達ではなく、どこまでも獲物を追い詰めて疲れさせる。
「丈、こうなったら正面突破するしかないよ!」
「分かった!でもヘタに近付いたらあぶないから、気を付けるんだよ!」
「わかってらい!」
デジヴァイスが進化の光を解き放つ。色鮮やかな閃光の向こう側のシルエットが成長期と成熟期で重なった時、厚い毛皮と追尾機能の付いたロケットの一角をもつ海獣デジモンが現れた。
そして、1キロ範囲に轟くずしんとした咆哮が四面にびっちりと立ちふさがるコドクグモンたちを威嚇する。
うおおおお、と豪快な雄叫びを上げたイッカクモンの得意技が炸裂した。
「ノーザンライツっ!!」
無色透明で六方晶系の結晶が勢いよく吹き荒れる。落下した氷をまとった冷気は、暖気層を通過する際に溶けて雨となり、その雨が下の冷気層を通過する際に過冷却の状態となる。
過冷却の風は、着氷性の雨が地上に勢いよく叩きつけられ、落下した衝撃で雨滴は凍結し氷晶となる。 着氷性の雨は凍結した氷晶の上にさらに付着して凍結していき、硬く透明な氷の層を形成した。
一度も凍結しないまま降り物体に当たって初めて凍結する息吹が、ドクグモン目掛けて炸裂する。半透明・不透明の氷がドクグモンのクモの巣を瞬く間に凍らせいき、その向こう側にいる親玉目掛けて襲いかかったのである。
そして、白色半透明・透明で硬い氷の層・結晶に覆われてしまったクモの巣は、水から氷へと変化を遂げたことで表面積が膨張し、重さに耐えきれなくなった腐食の糸は、浮遊できないほど大きく発達した氷によって、ずたずたになっていく。
基盤が脆くなったクモの巣目掛けて、イッカクモンはミスリル製のツノを振り上げた。
「ハープーンバルカン!」
発射された一角がすぐに装填されて、何発も何発も打ち込まれていく。ばりん、という音を突き破り、見事突破することが出来た蜘蛛の巣の向こう側には、8本のうち前足の2本と髭を持っている手の役割を果たしているであろう2本の手が凍り付き、身動きがとれないドクグモンがいる。
「いっっけえええ!」
ライオンのような咆哮が遥か向こう側のテンプ湖にまで轟かんばかりに響き渡った。見事追尾機能付きの鋭利な角が命中し、鼓膜が破れそうなほど大きな悲鳴が上がる。思わず耳をふさいでしまった丈たちを守るべく、イッカクモンは一歩も退くことなく敵目掛けて追撃を重ねた。
「よっしゃー、これで外に逃げられるよ!オイラがこいつらを引きつけてるうちに、早く丈たちはその窓から逃げるんだ!」
「多分外にはヤマトたちも逃げてる筈だ!急ごう、ミミ君!」
「はい!」
凄まじい冷気をまとった息吹がレストラン中に吹き荒れる。瞬く間に凍り付いていく世界で、ミミたちは近くに倒れていたイスを窓ガラスにひっつけると、丈が先に飛び越える。
そして、長いスカートをめくり、あまり活発な運動をする事ができないミミは、手を伸ばされた丈にだっこされる形で、慎重に窓の格子を飛び越えて、ようやく外に出ることが出来たのだった。
ほっと一息ついた丈たちは、恐らく別の出口から外に逃げ出したであろうヤマトたちを探すべく、必死で辺りを探し回る。おーい、と仲間たちの名前を呼んだ丈たちの声を聞きつけて、裏路地から姿を現したヤマトと大輔たちは、血相変えて叫んだのである。
「耳をふさぐんだ、丈、ミミちゃん!」
「危ないっすよ、はやく!」
え?と返事をする暇もなかった。きいいいん、という耳鳴りにも似た衝撃が彼らに襲いかかったのである。
ぶーん、という不愉快な羽音がレストランの上から聞こえてきたかと思うと、巨大な影がいくつも姿を現した。
まがまがしい紫色の4枚羽根を激しく動かして滑空する、巨大な黄色と黒のしましまをまとった巨大なハチが一気に下降してきたのである。大きなかぎ針状の手を振り上げて、丈とミミを捕まえ、尻尾にある猛毒の針を突き刺そうと襲いかかってきたではないか。
慌ててヤマトたちの方に逃げ始めた丈たち目掛けて、執拗に巨大なハチの集団が襲いかかってくる。うわあああ、と一目散に逃げまどう子供たちは、凄まじい雷鳴を聞いた。
「お前らの相手はオレだっ!早くみんなどこかに隠れてっ!」
先程から必死に蒼い雷を叩き込みながら、焦げ臭い匂いと共に落下していく襲撃者たちを相手しているエクスブイモンの声が響き渡る。ようやくヤマトと大輔と合流することが出来た丈。
幼年期とはいえ数にものを言わせるコドクグモンたちの波をようやく突破することが出来たイッカクモンが、参戦するのを見た。しかし、いくら何でも数が多すぎる。
次から次に姿を現してくる巨大な昆虫型デジモンから逃げるべく、
丈たちは必死で滑空の制限となるであろう森にひとまず身を隠すことにした。そして、大輔はヤマトに言われて突然の襲撃者についての情報を少しでも得ようと、デジモンアナライザー機能のパソコンを持っている光子郎に電話をかける。
要領を得ない大輔に変わってPHSをひったくるように受け取ったヤマトが、並々ならぬ緊迫した状況を感じ取って、特徴や大きさについて訊いてくる光子郎に説明する。受話器の向こう側で解析するキーボードの音が忙しなく響く。
「エクスブイモンに伝えてください!やつの名前はフライモンです!
毒針や毒の霧を喰らってしまうと全身麻痺した挙げ句、紫に変色して死んでしまうらしいですよ!」
光子郎の解説が続く。フライモンは昆虫型の成熟期デジモン。ウイルス種で、凶々しい巨大な羽を持つ昆虫型デジモンだ。その巨大な羽で超高速で飛び回ることができ、飛行中にブーンという巨大なハウリングノイズを発生させ、聞くものの聴覚をマヒさせてしまう。
体は硬い外殻に守られており、大きな鉤爪で敵を挟み込み尻尾の超強力な毒針で死に至らしめる。昆虫型デジモンの進化過程は未だ不明だが、顔の形から推測するとクネモン種から進化したと考えられる。
必殺技は尻尾の毒針を飛ばす『デッドリースティング』で、この毒針を刺されたデジモンは全身がマヒし、体が紫色に変色していき絶命するという。
ちなみに、この毒針は何度でも生え変わるという厄介なもの。そして得意技はそのツバサから猛毒の鱗粉の雲を広げて相手を攻撃するポイズンパウダーだ。
PHS越しに伝えられる集団の正体に、エクスレイザーや蒼雷を打ち込んでいたエクスブイモンはわかった、と肯き、イッカクモンもハープーンバルカン等で必死に撃墜させていくのだが、大空を滑空するハチの集団は減っていくどころか、どんどんその数を増やしていく。
きりがない襲撃者たちの攻撃に、少しずつ疲れが見え始めた彼らである。せめて今ここにタネモンやツノモンがいたなら、とヤマトとミミは歯がゆい気持ちで空を見上げ、大輔や丈と共に必死で彼らを応援していた。
しかし、事態はドンドン悪化の一途をたどっていく。茂みに隠れながら彼らの戦闘を祈るような気持ちで見守っていたミミは、がさがさがさという先程嫌と言うほど聞いた足音を訊いた気がして凍り付く。
え、うそ、そんな、と心の中で阿鼻叫喚の絶叫を上げながら勘弁してとばかりに冷や汗をぬぐいながら、ぎぎぎぎぎ、と機械のように固まってしまった顔だけその音の方に向けてみる。そして、ちょいちょい、服の裾を引っ張って、丈先輩、あれ、と震える指先で指差した。
そこにいたのは、恐らく別個体であろうドクグモンの群れがひしめき合っていたのである。絶叫を上げるミミと丈に釣られる形でふり返ったヤマトと大輔も、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ始める。
あわただしい足音と悲鳴がPHS越しに届き、どうしたんですか!?と慌てた様子で訊いてくる光子郎に、どうもこうもないっすよーっと半泣きで大輔が叫んだ。
「どうしましょう、光子郎先輩!イッカクモンもエクスブイモンもここまで来れるほど余裕がないっす!なんか数が多すぎるんですよ!なんかどんどん増えててっ!それに、アイツが出す糸とか針、何でも溶かしちゃうらしくて危なくて近づけないっすよーっ!!」
『落ち着いてください、大輔君!』
きゃあああああ、という悲鳴が響き渡り、振りかえった大輔が見たのは、石に躓いて転倒してしまったミミの姿である。ミミさん!と声を上げた大輔は、すっかり腰が抜けて立つことが出来ない少女の姿を見た。
あぶない!と咄嗟にかばう形で丈がミミを抱えて横に飛び退き、かろうじて腐食の糸の餌食になる最悪の事態は回避出来たものの、体勢を立て直すまでの時間がかかってしまう。
あわてて引き返そうとする大輔をヤマトが咄嗟につかんで、おちつけ!と静止する。
その時、PHSの向こう側で光子郎の声が響き渡った。
『皆さん!デジヴァイスを掲げてください!』
「え?」
「光子郎、アイツらはレオモンたちの時と違って、操られてる訳じゃないんだぞ?自分たちの意志でオレたちに襲いかかってきてるんだデジヴァイスの光じゃ何にもできないぞ!」
「目くらましっすか?」
『いや、違うんですっ!今ちょうどゲンナイさんからメールが届いたんですよっ!本当ならいろいろと改良しなきゃいけないんですけど、時間がありません!
いいからデジヴァイスを掲げてください!そして息を潜めて何も言わないでじっとしてください!デジヴァイスが4つあるのなら、姿を消すことが出来る結界を張ることが出来るはずです!」
いいから早く!と怒鳴りつけるような光子郎の声に促されるまま、デジヴァイスを掲げた大輔である。ヤマトは必死で丈とミミにデジヴァイスを掲げるように叫んだ。
訳が分からないままデジヴァイスをフライモンとドクグモンたち目掛けて高々と掲げた彼らは、デジヴァイスがピコピコピコピコと音を放ちながら光の柱を放つのを見た。デジヴァイスにアップリンク、ダウンロード完了、と言う見たこともない英語が表示される。
あまりにも眩しい光に目がくらんでしまいそうなほどの閃光が走る。
熱くて持っていられない。しばらくの静寂。襲撃者たちの猛攻が目前に迫りながら、いつまで経っても何も来ない違和感。
おそるおそるミミと丈が顔を上げると、突然の光に目がくらんでしまったのか硬直していたフライモンとドクグモンたちが目と鼻の先にいるではないか。思わず絶叫しそうになったミミの口を丈が塞いで、し、と口元に人差し指を当てる。
こくこく、とうなづいた丈たちは、なぜかすぐ側にいるにもかかわらず彼らを見つけられずに動き回っているフライモンたちを見た。ちら、とヤマトと大輔に目配せした丈は、しばらくじっとしていようとアイコンタクトしてくるヤマトに頷いた。
よくよく目を凝らしてみると、デジヴァイスから放たれた4つの光は、
まるで四方形のような透明なバリアを張っていることが分かる。しばらくして、フライモンたちを片付け終わったのか、エクスブイモンとイッカクモンたちがやってくる。
進化の光を解いたゴマモンとブイモンたちはきょろきょろと辺りを見渡した。ほっと胸をなで下ろした丈たちは、デジヴァイスが収束していくのを見た。結界が解かれ、突然現れた丈たちに吃驚仰天しながらも、無事でよかったとブイモンたちは笑った。
『みなさん、大丈夫ですか?』
「ああ、ありがとう、光子郎君。どうなるかと思ったよ」
「ありがと、光子郎君。でもどうしてそんな大事なこと今まで黙ってたのよー」
『ぼ、僕に言われても困りますよ!ゲンナイさんからメールがあったのついさっきなんですから!
なんでも今までダイノ古代境にいて、守護デジモンのケンタルモンと共に、デジヴァイスの機能について、先代の選ばれし子供たちが、どのようにして使っていたのか文献を発見して解析していたそうなんです。
なんでも四聖獣たちが東西南北を司っているように、暗黒の力を封印した時、デジヴァイスの力によって結界を作り上げたそうなんですよ。
さすがに先代の子供たちと同じ機能を付随するにはちょっと改良しなきゃいけないみたいですが、隠すだけの機能なら何とか出来たみたいですね、よかったです』
「ってことは、このデジヴァイスって一つだけでも結界を作ることが出来るってことかい?」
『はい、そのためのダウンロードデータをデジモンアナライザーに追加してもらいました。これから合流しましょう』
「え?でも光子郎先輩、太一先輩たちを待つって言ってたんじゃ……」
『それがですね、太一さんたちと合流する場所、ゲンナイさんが用意してくれるそうなんですよ。なんでもピッコロモンが用意していたあの特殊エリアのようなところだそうです。
どのみち今のままじゃ、ウイルス種のデジモンしか入ることが出来ないヴァンデモンの城に入ることは出来ません。ゲンナイさんの隠れ家だそうなんですけど、そこで会いましょう』
「どうやってその隠れ家ってやつに行けばいいんだい?」
『それはゲンナイさんに訊いてください。そちらにゲートを開いてくれるそうなので』
そういわれても、と丈たちは困惑しきりである。
「まあまあ、安心しなさい。わしが直々に案内してやろう。さあ、入ってきなさい。ようこそ、ゲンナイの隠れ家へ」
そう言うや否や、突然何もなかった空間がグニャリと歪む。反射的に後ろに下がった彼らの前に、丸いゲートが開かれる。その亜空間の向こう側には、まるで日本庭園のような穏やかな木漏れ日がざわめいていた。