(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第122話

CHRONDIGIZOIT HYBRID ORGANISM合金

クロンデジゾイト ハイブリッド オーガニズム合金

 

傾いてしまっている看板が気になるのか、ピラミッド迷宮で唯一の飛行要員は、錆びついたチェーンに吊り下げられているだけの看板を立て直した。スクラップ場にある瓦礫だらけの山々の中でも、ひときわ輝く鉄クズの山がある。

 

どっこいせ、と頭の上に乗っけていた入れ物の中にある細かく裁断されたそれを、ガジモンたちは空高く積み上げるのだ。

 

 

「やっと終わりましたなあ、おつかれさん」

 

「まったくだぜ、あーくそ疲れた!」

 

「おい、さっきボキっつったぞ、大丈夫かよ」

 

「大丈夫じゃねえよ。もう体が悲鳴あげてるっての。そろそろ休もうぜ」

 

 

ほいな、とテントモンはゆっくりと鉄板だらけの床に置き去りにされている、カートの上に乗っかるのだ。手すりに乗るのは器用なものである。想いっきり伸びをしながら、ガジモンたちはすっからかんになったカートに乗り込んだ。

 

 

「ほないきまっせ!」

 

「おう、一気に行こうぜ」

 

 

スーパーで買い物にはしゃぐ子供のごとく、カートに乗っかり勢いよくテントモンは近くにあった山を蹴飛ばした。あー、楽ちん楽ちん、とガジモンたちは口笛を飛ばした。

 

 

「ほんとにええんでっか?」

 

「なにがだよ?」

 

「いくら、無期限休止状態だったとはいえ、一応ナノモンはんが御客人から修理を頼まれていたものですやんか。こうもばらばらにして、ええんでっか?」

 

 

テントモンが疑問を挟むのも無理はない。埃をかぶっていた家電やどこからか流れ着いてきた欠損データで出来上がっている、用途不明の機械まで山積みだったエリアは、もう数えるほどのものしか残っていないのだ。

 

ほとんど、もう跡形がないくらいまであらゆる機材を使って解体、裁断され、粉砕され、こまごまとした部品などはもう、ばらばらになってしまっている。分別して鉄くずの山に仕分けして放り込むという作業を延々と繰り返していたのだ。ガジモンたちは肩をすくめたのである。

 

 

「じゃあ、お前止められんのかよ。あの魔改造大好き組を」

 

「…………せやな、ワイらではむりでっせ」

 

「下手に横から口出すととばっちり来るからほっときゃいいんだよ。お前のパートナーだって時々休憩も挟むようになったし、いいじゃねえか。

こうでもしねえと、デジモンアナライザーなんてできねえんだろうさ。

クロンデジゾイトメタルなんてもうほっとんど残ってねえんだから、ひたすらバラシてかき集めるしかねえんだ。これで世界が平和になるんなら、万々歳だろ」

 

 

スクラップ場を隅から隅へと通り過ぎていくカートからは、いろんな金属を見ることが出来る。地下に潜り込んでから1か月近くも生活すれば、もうテントモンでも嫌というほど用語に詳しくなっていた。

 

通称デジゾイトは、デジモンワールドにのみ存在するクロンデジゾイトという、非常に硬い架空金属を組み合わせて作る様々な合金の総称である。クロンデジゾイトは、2種類のレアメタルを組み合わせることで生まれるとされている。

純度の高いものは、硬度に優れるレッドデジゾイト。純度の低いものは、機動性にすぐれる軽いブルーデジゾイト。かつて、それぞれの採掘場が抱える鍛錬工の技術次第で、希少なレアメタルへと加工することが出来ていた。

 

用途によって使い分けられ、それぞれの長所によって価値が決まるため、純度が高いものが優れているとは限らない。製錬技術が未熟なマシーン型デジモンが作成したものと、

熟練のスミスと呼ばれていたらしいデジモンが作成したものでは、完成度も評価も段違いだったようである。

 

現代種のデジモン達は、その高度な技術を現在に伝えるデジタルモンスターがもはやいないため、断絶した世代によって、武器や機械を新たに作成することは不可能である。

 

ましてや平和な時代であった以上、せいぜい観賞用のコンクールやコンテストの流派に分かれた、形式と伝統がある由緒正しい勢力に伝承として、代々家宝として残っているのみである。

 

保持するための保管技術は残っていても、模造品を作ろうとなればどうしても限界がやってくる。現代種のデジモン達は、進化する過程でダウンロードした新しい自分と共に突如発生した武器や装備を非常に大切にする。

 

壊してしまったが最後、それは死に直結しているのだ。だから、純度が高い低いだけでなく、デジゾイドを保有するデジモンの技術が最終的な価値を決めている。だが、このデジゾイトという鉱物は、デジタルモンスターと非常に相性がいいデータプログラムらしい。

 

なんと、この鉱物、デジモンと一体化して、生体金属とすることも出来るので、身を守る手段としては最良のものがあったらしい。

 

もちろんデジゾイトという鉱物自体が希少となってしまった今のデジモンワールドでは、ことさら価値が上がっていて、生半可なデジモンでは入手することすら不可能らしい。

 

だから、ゴールドデジゾイド、オブジタンデジゾイド、と言われるデジモンと一体化することで硬度が最高になる種類のもの、イグドラシルから直接データを受け取ったことで全く異なる性質を受けたブラックデジゾイド。

 

ロイヤルナイツが所有する装備などは、ほとんどがデジモンと一体化することでできる特別性のものばかりだそうである。鉱物を加工して製錬するよりも、鉱物を取り込んでより希少価値の高いレアメタルにすることが出来るデジモンがいる。

 

ならば、そのデジモンを捕獲して兵器として使用する方がはるかに合理的である。なかなかえげつない歴史が紡がれている預言の書が正しければ、この世界に現存しているそれらの鉱物や武器たちは全て、名前も知らないデジタルモンスターのデータが刻まれているということだ。

 

暗黒の力に対抗するために、ナノモンと必死で新しいデジヴァイスを作っている光子郎のところへ、テントモンは急ぐことにしたのである。

 

 

「光子郎はん、どうでっか」

 

 

ぷしゅー、という音をたてて開かれた研究室の先では、ぱっと顔を輝かせている光子郎がいた。傍らに常備してある冷蔵庫の中には、今日沸かしたお茶が入ったペットボトルが入っている。もう3つほど空っぽになっているらしかった。

 

 

「テントモン、お帰り!見てよ、やっとできたんだ!」

 

 

飲みかけのペットボトルを置いた光子郎はにっこりと笑う。ようやく出来上がった新しいアイテム。光子郎のパソコンのミニマム版ともいうべき、デジモンアナライザーを光子郎は掲げている。

 

そして、パイナップルマークの黄色いノート型パソコンには、ようやく組み終わったデジヴァイスにダウンロードするプログラムアプリが表示されている。おー、とテントモンは一気にテンションが上がって、飛んでいった。

 

 

「やりましたなあ、光子郎はん!」

 

「これでもまだまだ試作品の段階なんだ。ロイヤルナイツに加盟したパートナーを持ってる平行世界の太一さんが持ってたらしいデジヴァイスは、今の僕たちじゃ再現不可能なんだよ。残念だけど、これが僕たちの限界だよ」

 

「【今の段階では】だ。勝手に限界を決めるな」

 

「あ、ごめんなさい。そうですね、僕たちはまだまだこれから頑張らなくちゃいけないんだ」

 

 

ほら、と手渡されたのは、光子郎とナノモンが試作品として作った、始まりの神様のデジヴァイスである。

デジタル時計であるデジヴァイスとは形状がずいぶんと異なるものである。

 

腕時計と形容したほうがいいのかもしれないが、ホログラムでしか残されていないデジヴァイス01は、遥か昔に、フォルダ大陸というはるか東方のエリアを冒険した平行世界の八神太一のために用意されたものである。

 

全てを模倣することなど限りなく不可能に近いのだ。どのみち劣化品であることには変わりない。しかし、これに搭載されている機能をダウンロードすることができれば、心強いことに変わりはないのだ。

 

 

「デジヴァイスのように、個人にあわせたものはさすがに出来そうもない。せいぜい、デジヴァイスの機能の強化あたりが限界だ。過信は禁物だぞ」

 

「デジモンアナライザーはどうするんでっか?」

 

「ホメオスタシスがデータを公開してくれたんだおかげで、文章化したデータと画像なら保存できる小さなパソコンが出来たよ。無線ラン機能があれば、更新できるようになったかな。ただ、あくまでも僕のパソコンから新しい機能は、ダウンロードしなくちゃいけないのが難点かな」

 

 

贅沢言ってられないんだけどさ、と光子郎は二つ折りの小さな辞書のようなものを傍らに置いた。はあ、と光子郎はため息である。せめてもう少し新しい電子機器がこの世界に流れ込んで来ればよかったのだ。

 

しかし、現実はフロッピーやCD、レコーダー、カセットテープ、それらを使用するために必要な機械たち。

光子郎だって技術の時間の教科書でしか写真で見たことしかないような、白黒写真時代の機械たちが埋まっていたのだ。

 

世代を2つほどずれている懐かしの機械ばかりである。この地下迷宮で生活し始めてから、シャワールームの横は、二層の洗濯機な時点でお察しくださいというものである。

 

むしろ、光子郎があれがあれば、これがあれば、とつぶやくたびに、現実世界にある科学の進歩に大いに好奇心をくすぐられたナノモンからの、問答のような会話が繰り返されるので、或る意味これでも自重したほうである。

 

 

「これを10個、あのコピーすることが出来る機械にかければ完成です」

 

「本当に、何が幸いするか分からんな」

 

「でも、こんなことが出来るのも、ナノモンが味方だからこそですよ」

 

「そうでっせ。エテモンはんをみんなで待つんでっしゃろ?それまで、ワイらは諦めたらあかんのや」

 

「よっしゃ、このデジモンアナライザーをあのコピー機にかけりゃいいんだな」

 

「あ、ちょ、扱いには注意してくださいよ!」

 

 

横からかっさらっていったガジモンをあわてて光子郎が追いかける。

 

 

「慎重に扱え。プラグボムの餌食になりたいのか?」

 

「ごめんなさい」

 

 

なんでか知らないけれども、謝りたくなってしまったテントモンである。ガジモンたちが逃げ出すようにお茶の準備をしてくると逃げてしまったのを見届けて苦笑い。

 

小さなデジモンアナライザーと新しいデジヴァイスを慎重に抱えて歩き出す。ほいな、と台に乗せたのを確認して、光子郎はレバーを押したのである。

 

 

「デジモンアナライザーっていわゆるデジモン図鑑っていうやつでっか?」

 

「うーん、デジモンアナライザーはあくまでも今まで出会ったデジモンたちのデータを自動的に記録していくデジヴァイスの機能を応用して、データを共有化しているにすぎないんだ。

このデジモンアナライザー自体も個人個人が記録してるデジヴァイスのデータを自動的に一つに集約することでなんとか体裁を成してる状態だからね。

 

かつてデータバンクをやってたナノモンがいなかったら、とてもではないけど、ここまでの基礎データは用意出来なかったはずだもの。

今まで一度も出会ったことのないデジモンについて検索しても無理だし、図鑑と言うのは違うなあ。どっちかというと現在進行形で制作中、みたいな感じかな」

 

「はあ、そうなんでっか」

 

「でもさ、平行世界の太一さんの持ってた、デジヴァイス01は、この腕時計の中にデジヴァイスの機能とアナライザーの機能、まるごと入ってるんだよ。いずれは新しいデジヴァイスの中にデジモンアナライザーを入れたいね」

 

 

新しいアイテムが出来上がっていく。よし、これで終わり、と光子郎とテントモンは最終チェックしてもらうべく、ナノモンのところに持っていった。しばらくして太鼓判をもらった光子郎はほっと息を吐いたのである。

 

 

「やっと終わった。後は太一さんたちが帰ってくるのを待つだけだね」

 

「光子郎はん、あんまり飲みすぎると体に悪いでっせ」

 

「え?でも、水分補給は大事だよ?」

 

 

足元に転がっているペットボトルのごみ箱を覗き込んで、乾いた笑しか出てこないテントモンである。

 

 

「………ちょっと、トイレ行ってくるよ」

 

 

ほら、いわんこっちゃない、という相方の視線にはあえて気づかないふりをして、将来有望な技術者は扉の向こうに消えていった。そして、帰ってきた彼を待っていたのは、使い方を教えろとせがむガジモンたちである。

 

 

「なあ、光子郎。デジモンアナライザーってどうやって使うんだ?」

 

「こうやってですね、デジモンがいる所に向かって向けるんです。すると、こうやってデータが表示されます。さすがに読み上げソフトは内臓できなかったので、これが限界ですね」

 

「そっか。でも、これでいきなり敵が来てもある程度予想できるってことだな!」

 

「はい」

 

「なあ、それって離れててもできるのか?」

 

「はい。データさえ認識できれば表示されますよ。やってみますか?」

 

「はーい、はーい!じゃあオレがやるぜ!」

 

 

ぴぴ、という短い音がして、赤い点滅が表示された後、データが表示された。我先にとのぞき込んできたガジモンたちは、おー、と声を上げる。

 

 

 

DIGIMON DISCOVERY

 

ガジモン

 

レベル:成長期

 

種族:ほ乳類型

 

属性:ウイルス種

 

鋭くて大きな爪を生やしている哺乳類型デジモン。哺乳類型では珍しく2足歩行をするタイプで、恐らく前足を腕のように使用するうちに前足の爪が進化し、2足歩行をするようになったのだろう。

 

小型のデジモンではあるが非常に気性が荒く、決して人間にはなつこうとしない。前足の爪は攻撃する際にも非常に有利だが、以外にも穴掘りに向いており、いつも落とし穴を掘っては、他のデジモンが穴に落ちるのを楽しんでいる

 

イジワルな性格。必殺技はガス状の毒息を吐き出す『パラライズブレス』得意技は落とし穴である。

 

 

「こいつなかなかのイケメンだな」

 

「つーか落とし穴作るのが趣味ってことまでばれてんのかよ」

 

「あー、そういやエテモン様に無謀にも挑もうとしたのが始まりだったよな」

 

「そうだなー」

 

 

カメラ目線で真っ赤な眼孔を光らせ、虎視眈々と獲物を狙うようにポージングしている画像をみて、しみじみとつぶやくガジモンを見て、思わず光子郎は口元がゆるんでしまう。

 

いえない、いえない、絶対言えない。脳裏を過ぎったのが招き猫なんて言える訳がなかった。

 

 

「おい、光子郎」

 

「なんですか?ナノモン」

 

「お前のパソコンにメールが届いているぞ」

 

「えっ!?あ、ホントだ!」

 

「一体何者なのだ。私の管轄するピラミッド迷宮のサーバに直接アクセスするとは……」

 

「えっとアドレス名はファイル島、ファクトリアルタウン、まさか!」

 

「えらい懐かしい名前を聞きましたなあ、もしかして」

 

「はい!アンドロモンからです!ファイル島だとファクトリアルタウンしか、連絡を取る手段が無いみたいで苦労したみたいです。なんでもゲンナイさんからの要請でここまでアクセスしてくれたそうです!

 

なるほど、これを登録しておけば連絡が取れるってことかな?ちょっと読んでみますね。えーっと」

 

 

いざ読もうとした光子郎の声を遮るように、慌てた様子で出来上がったばかりのデジモンアナライザーを抱えてガジモンが走ってくる。

 

まさか壊したんじゃ無いだろうなと冷ややかな眼差しを向けるナノモンに、違いますってば!と必死で頸がもげる寸前まで首を振ったガジモンが、これこれこれみてくれ、とテントモン、そして光子郎のところに向かって突き付けてきた。

 

 

「監視カメラで通り過ぎてるデジモンたちを表示出来るかどうか試してたら、映ったんだ!」

 

「敵か!?敵なのかっ?いきなりピラミッド迷宮内の隠し通路から現れやがって、こっちに物凄いスピードで向かってやがるんだ!」

 

「でも一体しかいねえぞ、こいつ」

 

「落ち着いてください、ガジモンたち。大丈夫、彼は僕らの味方です」

 

「え?」

 

「そうなのか?」

 

「はい。かつては黒い歯車にやられて僕とミミさんたちは襲われたことがありますが、ファイル島からサーバ大陸に行くまでのイカダを作る手伝いをしてくれました。

 

レオモンと旧知の仲だそうですから、安心してください。彼は僕らを迎えに来てくれたみたいです」

 

 

紹介しますね、と光子郎の視線が自動ドアに向かう。

 

 

「お久しぶりです、ケンタルモン」

 

「やあ、久しぶりだね、光子郎、そしてテントモン。元気そうで何よりだ」

 

「まさかあんさんがゲンナイさんのところに案内してくれはるとは思いませんでしたわ。あみだ森とダイノ古代境を守っている守護デジモンなだけあるんやな」

 

「まあ、かつてははじまりの町で医者をしていたこともあるんだ。その縁でもあるんだよ」

 

「……やはり、自律型エージェントの生き残りは重傷のようだな。ホログラムの次はわざわざファイル島からよびよせた代理の者をよこすとは」

 

「ああ、そうなんだ。彼の背中に埋め込まれてしまった混沌の結晶は、

内部からどんどん浸食していく闇の球体だ。

 

老人化し、代謝を押さえることで何とか正気を保っている状態でもある。でも、時は一刻を争うんだ。だから、これから選ばれし子供たちには、直接ゲンナイ様のところに来て欲しいんだ」

 

「なるほど、分かりました」

 

「でも、わてら、太一はんたちを待ってるんでっせ。大丈夫なんでっか?」

 

「大丈夫、心配いらないよ。ゲンナイ様のいる場所は、結界を張っている亜空にあるんだ。ピッコロモンも側についている。

 

ピッコロモンのあのエリアと同じようなところと考えてくれたらいいよ。こちらからアクセスすれば、こんな風にしてどこからでも迎え入れることができるんだ」

 

「ピッコロモンもいるんですか!?分かりました、みんなに電話してみます!」

 

 

よかったな、とナノモンが笑いかけてくる。はい、と頷いた光子郎の横で、お別れか、寂しくなるじゃねえか、とガジモン達は、別れを惜しむようにテントモンと雑談し始めた。

 

まさか大輔の方から襲撃されたとパニック状態で電話されるとは思わなかったものの、こうして光子郎たちもゲンナイの隠れ家へと足を踏み入れたのである。

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