(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第127話

「シャドーウィングっ!!」

 

 

ブリキモン、そしてエンジェモンが肉眼で捉えることが出来たのは、かろうじて巨大な鳥の影だけである。

はじめは、空高く舞い上がった巨大な火の鳥が分身を放ったのか、と錯覚しそうになったほどだ。

 

それは残像にすぎなかった。まるで夕焼けのようなの赤が強烈なまでに脳裏に焼きつくころには、タケルたちに放たれた一撃必殺のトゥインクルビームの束は、その強烈な真空刃によってずたずたに引き裂かれ、メカノリモン達をも粉砕してしまったのである。

 

赤とオレンジを基調とした羽飾りや装飾品は、ネイティブ・アメリカンをイメージしているように見えるが、インド神話の神鳥ガルダのように神々しい、わしの鳥人デジモンは一気に上空から畳み掛ける。

 

 

「ファイアハリケーンっ!!」

 

 

巨大な炎の竜巻がメカノリモン達に襲い掛かった。強奪の一途をたどっていた完全体のメカノリモン達めがけて放たれた巨大な炎の渦に飲み込まれた彼らは、その圧倒的な空気の流れに巻き込まれて磔にされてしまう。

 

そして、そこに、再び風と大地の守護者と呼ばれるゆえんともいうべき、超高速の真空の牙が襲い掛かったのである。どおおおん、という爆発の音が響き渡った。

 

 

「させるかああああ!」

 

 

タンクドラモンの咆哮が響き渡る。背中に搭載されている砲台が牙をむく。遥か上空を滑空する守護神目掛けて、核弾頭が向けられた。

 

 

「ストライバーキャノン!!」

 

 

そうはさせないよ、と両手に浮遊する球体を携えたワイズモンが現れた。

 

 

「悪いがね、勝手にこのエリアを放射能に汚染された灰の荒野にされては困るんだ。30キロ圏内に渡って焦土と化する君には、時空の彼方に消えてもらおうか」

 

「なにっ!?」

 

「このエリアを破壊し、住人たちを誘拐、拉致した挙げ句、あのような所業を行ったんだ。覚悟はできているんだろうね。次元の狭間で永遠にさまようがいい。エターナル・ニルヴァーナ!!」

 

 

ワイズモンが手にしている結晶体が手元を離れ、浮遊したかと思うと、

突如、タンクドラモンのいる空間ごと切り離し始めたのである。凄まじい風が吹きすさぶ。

 

時空石と呼ばれている結晶体の中にタンクドラモンのデータが強制的に分解され、吸収されて行くではないか。帽子が飛ばされないように必死でエンジェモンにしがみついていたタケルは、ぎゃああああ、と耳をつんざくような悲鳴を聞いた。

 

ようやく静まりかえった遊園地エリアにて、タケルが見たのは時空石がゆっくりとワイズモンの元に帰還する様子だけだった。

 

 

「すまない、倒すことができなくて。今の私たちではこれが限界だ。

やつは背中に核弾頭を搭載していると分かってね、なんとしてでも隔離するしか無かったんだ。タケル、カプリモン、大丈夫かい?」

 

「みんな、けがはない?」

 

 

あわてて駆け寄ったエンジェモンとブリキモンに、恐怖からようやく解放されたタケルたちは、そのまま腕の中に飛び込んで、泣き崩れたのである。無事でよかった、と心底安心した様子でエンジェモンは優しくタケルの頭を撫でる。

 

そこにお母さんやお父さん、そしてヤマトを重ね見て、連想してしまったタケルは、もう涙が止まらない。怖かった。怖かった。ものすごく怖かった。死ぬかと思うと怖くてたまらなかった。

 

ぎゅう、と縫い目すらない綺麗な衣装をしっかりとつかんで離そうとしない。懸命にカプリモン達を守ろうと必死だったタケルは、緊張の糸が切れてしまったようである。

 

よしよし、と大好きなお兄ちゃんの代わりによく頑張ったねとやさしく包容する天使は、ゆっくりと上空を旋回する救世主を見上げて、ワイズモンがつぶやく言葉を逃さなかった。

 

 

「………ガルダモンだ」

 

「ガルダモン?」

 

 

聞いたこともないデジモンの名前を聞いたエンジェモンは顔を上げた。

 

 

「私たちもミュージアムにある展示品でしか見たことなかったんだ。古代デジタルワールド期にいたって言われてる大地と風の守護者デジモンだよ」

 

「古代デジタルワールド期?」

 

「ああ。昔、フォルダ大陸で一大勢力を築き上げたって言われてるデジモン達の時代だよ」

 

 

エンジェモンは大きな穴が開いたミュージアムを見上げた。

 

 

「まだこの世界が平和だったころに、守護デジモンや有志のデジモンたちによってデジモンワールドの歴史と知識を集めたのが「デジモンミュージアム」なんだ。

 

中に保管されてる展示品は、歴史的な価値があるものばかりなんだ。ジュレイモン様が管理してくれてたんだけど、不在の間は私が預かっている。

 

「フィルム」はCGムービー、「記憶の欠片」はデジモンワールドの歴史、「データパック」「写真」といったデータは、レリーフとして保存されてるんだけど、どうやらメカノリモンたちが持ち出そうとしたのは、その一部だったようだね」

 

「あとでみせてもらえるかい?」

 

「ああ、そうだね。メカノリモンたちが奪い取ろうとしたと言うことは、何らかの価値があるに違いない」

 

「まあ、その前に、おもちゃの街を後片付けしなくちゃいけないね」

 

 

はーい、というお行儀がいい幼年期、成長期のデジモン達の声が響いたのである。

 

そして、盗まれかけた大きな大きな壁画とレリーフの山を慎重におろした緋色の鳥人が、夕焼けに照らされながらゆっくりと飛来した。肩に乗っていたパートナーをゆっくりと肩からおろす。

 

古代のデジモン達から、大地と風の神様と慕われた古代鳥人型デジモンが、間に合ってよかったと勇ましい姿でエンジェモンに微笑みかけた。

それは湖面に太陽の光と青空をすがすがしく反射する細長いテンプ湖と、それを取り囲み光合成によって新鮮な酸素を供給するパノラマを優雅に泳ぐ鳥たちの長にふさわしい姿だった。

 

大空を自在に舞うことのできる翼と、巨大な鉤爪を持つ鳥人型デジモンは、正義と秩序を重んじ、自然を愛する大地と風の守護神でもある。

鳥型デジモンの中でも知性と戦闘能力の高い、選ばれしデジモンのみ進化すると言われ崇拝されてきた。

 

デジタルワールドの秩序が乱れると、どこからともなく現れ、乱れの根源を正し平穏に導くと考えられている。また、同じ志を持つ勇者レオモンとは無二の親友でもあるとされ、おそらくは古代デジタルワールド期に活躍した今のレオモンの先祖に当たるデジモンと盟友だったのだろう。

 

ゆるやかな進化の光に包まれたガルダモンは、ピョコモンに退化してしまった。へたり込んでしまった南国植物の幼年期を抱えあげた空は、タケル君、と名前を呼ぶ。エンジェモンの腕の中から顔を上げ、タケル君、と呼んでくれた数週間ぶりの仲間との再会に一気に笑顔がはじける。

 

たたたっと駆け寄ったタケルに、空はにっこりと笑った。

 

 

「空さんっ!ピョコモン!」

 

「お迎えに来るのが遅れてごめんね、タケル君。ヤマト君とガルルモンはお迎えに行ってくれるって言ったんだけどね、私とピョコモンで来た方が早いって思って。ごめんね、でも、本当に無事でよかったわ」

 

「僕、ずっと待ってたんだよ。お兄ちゃんが必ず帰ってくるからって、

みんなと一緒に帰ってくるって約束したから、待ってたんだよ。お兄ちゃんとガブモン、大丈夫だよね?ケガとか、してないよね?」

 

「ええ、大丈夫よ。ずっとヤマト君はタケル君たちのことをいつだって一番に考えてるわ。よく今まで頑張ったわね、タケル君。えらいわ。エンジェモンもお疲れ様」

 

 

えへへ、とタケルは照れ笑いを浮かべた。

 

 

「みんな元気よ」

 

「みんな?」

 

「ええ、みんな。なんとか、みんな今日やっと集まることが出来たの。

ベジーモンっていうデジモンがやってるレストランで、みんな待ってるわ。

 

光子郎君たちはピラミッド迷宮で、太一たちが帰ってきしだい、私たちはタケル君とみんなで合流してから、ジュレイモンって言うデジモンを捜す予定なの。大丈夫、ほんと、一時はどうなるかと思ったけど、みんな無事よ」

 

「え?太一さんたちどこにいったかわかったの!?」

 

「ええ。ホメオスタシスっていう、ピッコロモンやゲンナイさんの上司にあたる人がね、教えてくれたのよ」

 

「そっか、みんな、無事なんだ。お兄ちゃんも、ガブモンも元気なんだ。よかったーっ!」

 

 

ね、エンジェモン!天真爛漫な笑みを浮かべるパートナーデジモンに、優しく天使は頷いた。

 

 

「ねえ、エンジェモン」

 

「なんだい?タケル」

 

「メカノリモンに乗ってたデジモンって、だれなの?」

 

「……本当に聞きたいんだね?」

 

「うん」

 

 

エンジェモンは、ワイズモンたちが意見を仰いでいるのを見て、静かに口を開いた。

 

 

「多分、メカノリモンによって黒い霧の向こう側に連れて行かれたデジモン達なんだ。デジコアすらオーバーヒートして破壊の限りを尽くすのか、それとも命令厳守をプログラムされているんだと思う。死人に口なしとはいうけれど、これではデジタマに転生すらできない」

 

「………そんな、うそでしょ?酷いよ。あんまりだよ。それじゃあ、ずっと、昔に死んじゃったチビモンの……」

 

「そう。同じだ。あのメカノリモン達は、きっと暗黒の力の犠牲者だ。

私達が早く何とかしなければ、彼らはどんどん増えていくに違いない。

頑張ろう、タケル、空、ピョコモン」

 

「ほんとうに、そうなの?もともと誰も載ってないってことはないの?」

 

 

信じられない、と言いたげな空にエンジェモンは首をふる。

 

 

「あの黒い残骸はデジコアの成れの果てだよ」

 

「デジコアって、あの、みんなのあの、デジコアっ!?」

 

 

うなづくエンジェモンに、タケルはすがるようなまなざしを向けた。

 

 

「どうして分かるの?エンジェモン。そんな、デジコアなんて、うそでしょ、ねえ」

 

「……わかるよ」

 

「どうして?」

 

「同じだから」

 

「おな、じ?」

 

「デビモンを倒した時に見たんだ。ヘブンズナックルを命と引き換えに繰り出したその先で、私はね、タケル。あの真っ黒に粉砕されたデジコアを見た。ウィルス種はもともとデジコアが黒いけれど、暗黒の力に浸食されたデジコアは、その球体の中にうごめいている何かがあったよ。

あっという間だった。内側から食い破ってきたそれが、欠片も残さないまま、食い尽くして跡形も残らず消えてしまったよ」

 

「え?うそ、じゃあ、え?デビモンは……」

 

「今まで黙っていてごめん、タケル。あのデビモンはもう二度とデジタルワールドには転生できない。ダークエリアにすらいない。きっと、暗黒の力の生贄になってしまったんだ」

 

「そんな」

 

「タケル、よく覚えておいてほしい。暗黒の力はきっと私達が考えている以上に途方もないものなんだ。

闇と光すら超越する何かなんだ。タケル、涙を流すことは弱いことじゃない。

 

誰かのために流してあげられる涙は、きっと強さになる。その中でもタケルを見失わなければきっと大丈夫。君はいつだって輝ける。だから、がんばろう」

 

「うん」

 

 

頷いたタケルを空がそっとなでる。空さん?と顔を上げるタケルに、空はにっこりと笑った。

 

 

「バードラモンがガルダモンに進化できたのは、きっと、タケル君のお陰ね」

 

 

ありがとう、と言われたタケルは、え?と首をかしげるのだ。空の手の中には、鮮やかなクリアレッドに洋装を一転させたデジヴァイスがしっかりとおさめられている。

 

明日になったら、ナビの役割を終えたこのクリアパープルのデジヴァイスの持ち主たちと合流しなければならない。

 

 

「あの時、私とバードラモンは、タケル君たちを探して空から様子を見ていたの。そしたら、とんでもない大きな音がして……ちょうどメカノリモン達が、ミュージアムから現れた時だったわ。

 

タケル君たちの助けを呼ぶ声と、

エンジェモンたちのタケル君たちを助けなきゃいけないっていう大きな声がね、聞こえたの。もう、無我夢中だったわ。

 

助けなきゃ、助けなきゃ、私がタケル君たちを助けなきゃ、って頭がいっぱいになったの」

 

「でも、バードラモンだった私はね、まだそこまで早く飛ぶことが出来ないから、このままじゃ間に合わない。このままじゃ、タケルやカプリモン達が死んじゃう。嫌だって思ったの。そしたら、空の紋章が光ったの」

 

「私も驚いたわ。……私には、あんまりふさわしくないって思ってたから。この紋章、愛情でしょ?優しさとか、愛情とか、持ち主とか、いろいろあるみたいだけど、今の時点では私が持っている、私に最もふさわしい紋章だって言われても、あんまり自信がなかったの。

 

わたしとバードラモンの中にあったのは、タケル君たちを守りたいって言う気持ちだけだったから。でもね、分かったことがひとつだけあるの」

 

「わかったこと?」

 

「ええ。タケル君が空さんって呼んでくれたときに、助けてくれてありがとうって笑ってくれたときに、ああ、よかったなあって思ったの。私にも誰にも言えない悩みとか、振り返ったり、立ち止まったり、したい時もある。

 

 でもね、それはきっと、また歩き出すために必要なことなんだって思ったの。向かい風だって、考え方を変えれば、追い風にもなるんだってわかったから。

 

そのための強さが欲しいって思った時、私もね、ちょっとだけ、頑張ろうって。そう、思えたの。だから、ありがとう。タケル君」

 

 

空は分かったのだ。ほんの少しだけ、分かった気がしたのだ。タケルたちが死んでしまうかもしれない。大けがをしてしまうかもしれない。

その時感じた恐怖は、それはもう底知れないものがあるのだ。

 

目の前にある助けられるかもしれない存在が、圧倒的な第三者によってあっけなく奪われてしまうかもしれない絶望がもたげてきた時、空はその最悪な想像を打ち払うべく、懸命にバードラモンと共に空を駆けた。

 

できることなら、もっともっと早くにあのおもちゃの街に行っていたのなら、助かるはずだったデジモン達もずっとずっと多かったはずだが、

過ぎ去った時間は戻らないし、いくらあれこれ考えても想像の限界である。

 

空とバードラモンたちにできるのは、たった一つ。カプリモンやタケルたちを救うこと、両手を広げて守れるものを懸命に守ることだけである。それはとっても難しいことだし、大変なことであるとはっきりと言える。

 

それでも、やるしかないのだ、と覚悟を決めた少女に、その強さとたくましさを望んだ少女に、紋章は超進化という形で答えたということなのだろう。そう結論付けた空の顔はからりと晴れた青空のように澄んでいる。

 

 

空は思い出したのだ。サッカー部のケガを隠していたことがばれてしまった時、母親は隠し事をしていたことよりも、真っ先に空の身体のことを慮ってくれたのだ。

 

何時だって母親はサッカーでケガをする空に呆れながらも、しっかりと後に残らないように手ほどきをしてくれたし、痣やケガが目立たないような方法を教えてくれた。空だって女の子である。

 

グラウンドを駆け回ることもあれば、女の子同士で買い物に出掛けたり、遊びに行ったりすることもある。はじめはきっと心配してくれたが故の叱責だったのだろう。

 

時期の問題もあるし、すれ違いや勘違い、面と向かって話し合えない状況下が続いていたため、ここまでややこしくなってしまっているのだが、きっときっかけは空のことを心配しての親心。

 

現実世界に帰ったら、ほんの少しだけお母さんと向き合える気がする。そう、空は思ったのだった。

 

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