(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第130話

タケルは服から露を払い落とし、パタモンは翼につららのようにならぶ水晶の破片を振り払う。そのたびに、ぱりん、と凍りついた水たまりを踏みつけた時と似ている澄んだ音が響いた。

 

小さな街のエリアの空気はひんやりとしていて、一人と二体の息が白く染まる。まるで雪国のようだ。あの水晶化現象が加速する謎の風が通り過ぎていったためか、すべてのものがガラスに覆われた風景が延々と続いていた。

 

唯一動いていたのは、水のながれだけである。水に浚われている石や水草は生き生きとしていた。おばあちゃんデジモンの言うとおり、この世界で唯一緩やかに動いている川の流れに沿って、タケルはパタモンと共に歩いてきた。

 

変わり映えのしない空は時間の感覚を狂わせるが、途方もない時間歩き続けてきた気がする。きっと気のせいだとおもうけれども。

 

さあ、もう一息だ、と遥か遠方にバリケードの壁が見えた時、一人と一匹は安どのため息をついた。彼女に促されて川から離れ、つるつるしている参道を滑りながら進む。足跡がまるで露にすっかり濡れた草の上を歩いたあと、そのまま瞬時に凍り付いてしまったかのように、結晶化が進んでしまうのだ。

 

浅瀬を選んで歩いてきたから、靴はそれほど濡れていないが、水滴が飛び跳ねては軽快な音を立てる。弾けるような凛とした音の正体は、金ぴかにきらめいている小さなビー玉だ。

 

そのうち一つが彼女の足元に転がった。それを拾い上げた彼女はタケル達に問いかける。

 

 

「アンタたちにはここのエリアはどう見えるんだい?参考までに聞かせてくれないかねえ」

 

「きれいだよ。今まで見たことないくらい、とってもきれい。でも、なんか怖いや」

 

「タケルはそうなんだ?ぼくは、あきちゃった。どこまでいっても同じなんだもん」

 

「あっはっは、なるほどねえ。アタシもそうさ、見飽きたよ、こんな世界。今はまだいいさ。アタシもまだまだがんばれる。デジタルワールドとこのエリアのほころびが出始めてるみたいだけど、なんとか持ちこたえて見せるさ。だから、がんばっとくれよ、アンタたち」

 

 

本来通じているはずのエリアをすべて封鎖して、完全に隔離されているという裏次元である。彼女はココにいる理由をはっきりとは教えてくれない。たったひとりであんなところにいたのは、もしかして。なんとなく、タケルは思った。

 

彼女にはすべてお見通しなようで、余計な気遣いは野暮ってもんだと笑うだけ。このデジモンがいてくれてよかった、と心の底から思うしかない。

 

凍り付いたような静けさは、目の届く限り果てしなく続いており、タケルとパタモンは巨大な氷河の洞窟に閉じこめられたような錯覚を起こす。さいわい頭の上で輝いている満天の星空がその想像と現実が違うことを教えてくれた。

 

川に沿って街を目指すといい、という忠告は正解だった。結晶化の進んだ森は際限なく入り組んだ迷宮のようになっており、ピラミッド迷宮よりも遥かに複雑怪奇なのである。

 

ガラスの洞窟となっており、外の世界から完全に密封されていたのだ。

そのせいで、デジヴァイスやライトなど限られた光源が幾重にも反射する世界では、地下の灯りに照らされているような錯覚を覚えてしまいかねない。

 

間違いなく迷子になる。考えるだけでもぞっとする現実だ。

 

 

すごいなあ、とタケルは大切に持っている不思議なガラス玉をみつめる。くるりと反転してゆがんでいる緑の帽子をかぶった男の子がこっちをのぞいていた。タケルとパタモンは一度も結晶化することなく、無事に目的地に到着したのである。

 

もう目と鼻の先にあるバリケードのシャッターをくぐりぬければ、デジモンがいそうな居住区が姿を現した。それでもガラス玉が防ぐことができる結晶化の範囲は限りがあるようだ。

 

離れれば離れるほど効果は薄れてしまうらしく、ちょっとでも気を抜くとすぐにガラスはウロコのように張り付き始めている。だからまだ安心できない。ぱらぱらと払ってしまえば問題はないが、表面積が大きいほど結晶が付着する部分も多くなる。

 

タケルがガラス玉をかざさなければ、そこを基点にドンドン肥大化して重くなってくるのだ。このエリアから無事に出られますようにって願いながら、タケルは水晶をポケットに仕舞い込んだ。

 

 

すっかり宝石と螺旋の装飾に飲まれているボートと船着き場と思われる場所を見つけたので、タケルとパタモンはようやく彼女が川から離れた理由を知るのだ。宝石と結晶の濁流にのまれたのだろう、あまりにも動きがない上流は容赦なく結晶化が進む。

 

その川の彫刻を背に、タケル達は彼女の後を追う。まるで墓場のように点在している白い建物についている何枚かの窓ガラスは、一旦粉砕されたのちに、カーペットの上で再びくっつけられたような形をしていた。

 

月明かりに照らされるまるでカーペットの装飾的な模様が、水晶の表層の底で泳いでいた。誰かいないかと窓から様子を覗いてみると、どの家の家具もてかてかとした光の鎧に覆われ、壁に並んでいるイスの腕木や足、背もたれの部分は水晶の渦巻きのような、螺旋のような装飾に覆われている。

 

螺旋状のテーブルは、象眼細工の長いすであり、この家の住人が一人であることを示している。巻軸装飾の骨董がたくさん並べられているが、伸びすぎた山羊のツノみたいにねじくりまがって、今にもおれそうなくらい不格好になっている。

 

一際目をひくのは、大きなオパール色の宝石がぶら下がっているシャンデリアだ。部屋の中にあるあまたの反射が、カットグラスの枠に入れられた巨大な作品のように輝いている。

 

誰かいませんか、と呼びかけると、奥の方にある扉が開いた。影がゆっくりと近付いてくる。そして、ずっしりとした絹模様のカーテンから、水晶の断片をこすり落としながらも、からからからと明けてくれた。うっすらとしか見えなかったまばゆさが一気に輝きを増す。

 

窓に当たった石化した木々を鮮やかに揺り動かす。白い東屋が巨大な水晶の王冠に変質しているのだ。象眼した宝石のようにちらついている小窓が開いた。

 

 

「ダレ?」

 

「ダレダレ?」

 

「ダーレ?」

 

 

聞き分けられたのは、ここまでである。極めて珍しい来客なのだろう。好奇心をくすぐられた無邪気な声が響き渡る。爛々とした小さな眼差しが、2つ、4つ、8つ、とねずみ算も真っ青な速度で増えていく。

 

わらわらわらわらと膨張するように広がっていく。さすがにタケル達は一歩下がった。なんか怖い。まだ言語能力がないデジモンも混じっているようで、すっかり押しつぶされてしまったこたちが、ぴーぴー泣きわめいていた。

 

ばらばらばらばら、と絨毯に転がされた彼らはめげることなくタケル達の前に大集合する。上から上にとトーテムポールのように積み上がっていくデジモンたち。

 

出てきたのは、いずれも幼年期の小さなデジモンたちだった。あれ?テーブルにイスは一つなのに、なんでこんなにいっぱいのデジモンたちが住んでるの?

 

明らかに数が会わないし、あのイスにこんな小さな身体をしたでじもんたちではとてもではないが届かないだろう。落ち着いて、落ち着いて、と冊子をはじき出されて落っこちそうになるポヨモンを戻してあげたタケルは、とりあえず聞いてみた。

 

さすがにこんな小さな子たちではタケルが捜している泥棒のことを来ても分からないだろう。

 

 

「ぼく、タケル。このこはパタモンだよ。ねえ、この街にはキミたちしかいないの?」

 

「僕みたいに成長期とか、成熟期とかのおっきいデジモンっている?」

 

 

結晶化の進むエリアにほど近いこの街は、大きな大きなバリケードに覆われているのだ。幼年期のデジモンたちではとてもではないが、生活をする事は難しいだろう。

 

ピョコモンたちの村のように幼年期のデジモンだけで生活をするのは不可能だとまでは言わないが、あの村は彼らの生活スタイルに合わせて全てがスモールサイズだった上に、近くには火山のエリアを守っているメラモンという守護デジモンがいて、

辺りの環境を守るために尽力しているからこそピョコモンは安全に暮らせているのだ。

 

この家は明らかに別の世代のデジモンが住んでいて、きっとこの幼年期のデジモンたちはそのデジモンが守っているのだろう、とタケルは考えたのである。きっとはじまりの町のように。

 

どうやらその予想は当たっていたようで、いるよー!とどこかのだれかが声を上げ、口々に色んなデジモンの名前を口にし始めたものだから、何がなんだか分からなくなってしまった。

 

どうやらこのエリアの代表はオモチャの街のように複数のようである。

えーっと、どうしよう、と考えていると、幼年期の一匹がおばあちゃんデジモンに気付いたらしい。

 

きゃっきゃと騒いでいた幼年期の群れがあっという間に彼女の周りを取り囲む。

 

 

「ばばもんさまー!」

 

「ばばもんさま!?」

 

「ほんとだ、ほんとだ、ばばもんさまだー!」

 

「どうしてここにいるのー?」

 

「なんでとつぜんいなくなっちゃったのー?」

 

「さみしかったのに!」

 

「かなしかったのに!」

 

「なんにもいわないでおわかれなんてひどいよ、ばばもんさまー」

 

「わるいねえ、坊やたち。こちとら仕事があるんだよ。しっかし、けったいな姿をしてる奴ばっかりじゃないのさ、アンタたち。アタシの記憶が正しければ、アタシがアンタらと別れたのはかれこれ200年ほど前のはずだけど?

 

なんだってまだ、はじまりの街から出ちゃいけない幼年期のまんまなんだい。ふつうならアタシのことなんざ知らない世代ばっかのはずだけど?」

 

 

ババモンとよばれた彼女の言葉に、タケルはすぐにここにいるデジモン達の異常さに気付くのだ。ここにいるデジモン達は幼年期の前期と後期でいうところの前期に当たる赤ちゃんばかりなのである。

 

幼年期の後半は、サーバ大陸でもファイル島でもエリアごとに生息域があったけれど、幼年期の前半は必ずはじまりの街で、エレキモンを始めとした守護デジモンたちに愛されながら育つのだ。

 

幼年期というものは時間経過と共に過ぎていくため、ポヨモンはトコモンになるのにあまり時間はかからなかった。でも、200年である。いくらなんでもかかりすぎだ。彼女の疑問に、けろっとした顔で彼らはいうのだ。

 

 

「だってこわいんだもの」

 

「おっきくなりたくないんだもん」

 

「みんなとずっとあそんでたいんだ」

 

「みんなといっしょにいたいんだ」

 

「ここにいたら、ずっとこのままでいいっていわれたんだもん。エレキモンたちみたいに、いじわるいわないんだもん。だからここにいるんだよ」

 

 

ねー、と愛らしく相槌をうつ彼らに、ちょっとだけタケルとパタモンは怖いとおもったのだった。

 

 

「まあ200年もあればいろんなデジモンが生まれるからねえ、アタシのしらないやつがいたっておかしかないか。でも、ちょっといただけないねえ」

 

 

彼女は思うところがあるようで、ちょっと渋い顔をする。

 

 

「あ、バーガモン」

 

 

バーガモン?思わずタケルとパタモンは顔を見合わせる。彼女は懐かしい顔を見たとでも言いたげに、口元を釣り上げ弧を描く。なんかおいしそうと言いかけたパタモンをタケルは反射的に黙らせた。

 

言わないで。分かってるから言わないでよ、僕だって我慢してるのに!

でもバーガって、もしかして、もしかしなくても、あのハンバーガーのバーガ?

 

思わず笑みがこぼれてしまう。思いっきりそのまんまなネーミングだ。

その言葉を聞いて真っ先にタケルが思ったのは、ハンバーガーに手と足が映えていて、ハンバーグやキャベツ、トマトが入っている辺りに舌が映えているアリカンチックなモンスターだった。

 

世界で一番売れているギネス記録更新中の某トレーディングカードゲームではない。ちなみに奴は戦士族。

え、どうしよう、と考えた。ちょっと考えた。おいしそうとか言ったらまずいよね、と思ったのは、きっと夜遅くとはいえたくさん動き回って少し小腹がすいたからに違いない。

 

そんなこんな考えている内に、タケルとパタモンの前に現れたのは、タマネギだった。

 

 

「あ、バーガモン、お帰り」

 

 

おかえりー、と一斉にふり返った幼年期のデジモンたちに、こくり、と見るからにタマネギ頭の二頭身なデモンは頷いた。

 

 

 

着ていそうな白衣をずるずると引きずりながら、等身大ほどの巨大なフライ返し片手に現れた彼は、初めて見る窓からの客人に目をぱちくりとさせながら、幼年期のデジモンたちを見た。

 

どうやらこの見るからに青いネクタイがぶかぶかなデジモンがこの家の主のようだ。こんばんは、とタケルたちは挨拶したのだが、こくり、と軽く会釈する程度でバーガモンと呼ばれたとんがり頭は喋らない。

 

うんともすんとも喋らない。吃驚するほど無口である。言語能力がなかったポヨモンだって、あーとか、うーとか言葉にならない音を発声していたというのに、異様なほど物静かな彼は、彼にまとわりついている幼年期のデジモンたちを見た。

 

どうやらずいぶんと慕われているらしく、ただでさえ裾上げしていない服はずるずると成ってしまっている。ちらりとタケル達を見たバーガモンの言いたいことが分かったのか、さっきタケルに落っこちそうなところを助けてもらったポヨモンが

バーガモンの頭にへばりつきながら言った。

 

 

「オレンジ色のデジモンがパタモンで、あの緑のがタケルっていうんだって。この街の成長期以上のデジモンは誰か教えてって言われたんだ」

 

「えっと、その、こんばんは。こんな時間にごめんなさい。えっと、その、僕たち捜し物してて。あの川の向こう側にするんでるおばあさんデジモンから、ここなら見つかるんじゃないかって言われてきたんだ」

 

「ちょっとでいいからお話聞いてくれないかな?」

 

 

きょとりとバーガモンと幼年期のデジモンたちは顔を見合わせた。そして、一匹の幼年期デジモンがタケルに問いかける。

 

 

「こんばんはってなあに?」

 

 

思わぬ質問に面食らったタケルだったが、辺りはすっかり真夜中である。何も変なことではない。でもこの子はまだ小さいから知らないんだろうなと勝手に自己完結してタケルは教えてあげたのだ。

 

 

「こんばんはは夜の挨拶なんだよ。お日様が昇ってきたらお早う、真ん中くらいでこんにちは、お日様が沈んだから、こんばんは、なんだよ」

 

 

え?と不思議そうに幼年期のデジモンたちは首を傾げている。

 

 

「お日様ってなに?」

 

「夜ってなに?」

 

「真っ暗の挨拶がこんばんはなら、この街の挨拶はいつでもどこでもこんばんはだよ?」

 

 

今度はタケルとパタモンが驚く番だった。

 

 

「おはようとこんにちははいらないよ。だってずっとこんばんはだもの」

 

 

ほんとうに?と念のためバーガモンにも聞いてみるのだが、フライ返しに乗っかってぴょんぴょこ飛び跳ねている幼年期デジモンの相手をしながらふり返った彼は、こくりと頷いた。

 

 

「バーガモンはとっても無口なんだよ」

 

「でも料理はとってもおいしいんだよ!」

 

 

どうでもいい情報ありがとう。どうしよう?と途方に暮れるタケルとパタモンを見かねてか、フライ返しを背負った彼は、ちょいちょいと手招きする。入ってもいいだって!とどういう訳か意志疎通が可能らしいポヨモンがタケル達に教えてくれる。

 

あっちー、あっちだよー、裏側の扉が玄関、と口々に幼年期のデジモンたちが教えてくれる。ほっとした様子で肩をすくめたタケルとパタモンである。

 

 

「窓締めて!」

 

「早くはいって!」

 

「お地蔵様になっちゃうよ!」

 

「どこかに売られちゃうよ!」

 

「もってかれちゃうよ!」

 

 

きゃー、と勝手に怖がっている無邪気な不気味さにちょっと背筋を寒くしながら、タケル達はバーガモンたちの家にお邪魔することにしたのだった。

 

 

「………」

 

「どうしたの?タケル。食べないの?おいしいのに」

 

「ううん、食べるよ。食べるけど、その」

 

 

なんとも居心地悪そうにタケルは螺旋装飾の座り心地が悪いイスに座り直した。見渡す限りトトロに出てくるまっくろくろすけのごとく、足元にもテーブルの上にも、近くの家具という家具の上にひしめき合っている幼年期のデジモンたちに見られているのだ。

 

じいいいい、と見られているのだ。中にはよだれを垂らしているいやしんぼうもいたりして、一極集中する視線にタケルはちょっと顔を引きつらせていた。そんなこと気にする気配もなく、パタモンはバーガモンが夜食に出してくれた。

 

ハンバーガーのはいったセットから、大好物のアイスクリームが挟まれたパイを口にしている。あ、ずるいよ、パタモン!と慌てて籠から取り出したタケルは、自分の分まで食べてしまいそうなパートナーデジモンから取り上げる。

 

普通ハンバーガーとかポテトとかを食べてから、最後に食べるんじゃないの?デザートって。そんな言い分など進化と退化を繰り返す地味な負担を長期に渡って強いられているせいで、すっかりエネルギー不足寸前になっていたパタモンは全く聞く耳を持つ訳がないのだった。

 

フライパンなどの後かたづけが済んだのか、すっかりトレードマークとなっているフライ返しを片手にバーガモンがやってくる。

 

おいしい?って幼年期のデジモンたちが聞いてくるので、パタモンと取り合うように口に運んでいたタケルは、喉に詰まりかけたのを慌ててオレンジジュースで流し込むことで回避した後、涙目をぬぐっておいしいよと笑った。

 

バーガモンは相変わらず無表情のままだが、すっかり頭に張り付いて通訳をしているポヨモンは、ピュアバーガーは世界一!と意外と自信家な料理人のプライドを垣間見せてくれた。

 

 

「ピュアバーガーって言うの?」

 

 

こくりとバーガモンは頷く。タケルは食べかけのハンバーガーを見てみる。チーズバーガーじゃないんだ、とつぶやいたタケルに、特別仕様のチーズバーガーだから、ピュアバーガーなんだよ、と意味不明な補足を足元のカプリモンがしてくれた。

 

特別仕様ってなんだよ、特別仕様って。至極真っ当な反応に、胸を張るバーガモンである。いつもはちょうど真ん中あたりで切れ目の入ったバンズに挟まれたごく普通のチーズバーガーらしい。

 

半分あたりに切れ目の入ったバンズ、と聞いてタケルの頭の中に浮かんだのは、同じような姿をしているチーズバーガーである。むしろそっちのチーズバーガーのほうが物凄く見覚えがあるのは気のせいではないだろう。

 

このチーズバーガーセットの入ってる籠とか、パッケージ、明らかに現実世界にある店である。でもピュアバーガーって無かった気がする。気のせいかな、とタケルは思い直した。

 

ちなみに気のせいでは無かったのだとタケルが知るのは、小学校5年生になり、大輔たちと学校帰りによったロッテリアでメニュー表を見るまでお預けだ。翻訳こんにゃくのポヨモンによれば、祝30周年らしい。どこかにお店でももっているんだろうか。

 

たくさんのゴマが乗っているバンズが、ピュアバーガーの特徴のようだ。たしかに普通のチーズバーガーとしては結構おいしい。玉ねぎとピクルスのみじん切りのマリネがかかっていて、食べている間にちょっと味が違うのがあるから、なんか楽しい。

 

ご馳走様でしたって手を合わせたタケル達に、バーガモンは軽く一礼した。

 

 

「30年もお店やってるの?すごいね」

 

 

バーガモンは頷いた。

 

 

「バーガモンはね、最近この街にきたんだよ」

 

「バーガモンのおかげで肉畑のまずいお肉がおいしく食べられるようになったんだよ!」

 

「みんな大助かりなんだよ!」

 

「すごいでしょ!」

 

「ねー!」

 

「肉畑?なにそれ」

 

 

聞き慣れない言葉にタケルは思わず聞き返す。

 

 

「タネモンがやってる畑だよ。これくらいの小さなお肉しかとれないんだ。ほんとは、もっともっとおいしいもの、たくさんあったんだけど、

 

このすぐ近くまで結晶化が進んでるから、食べ物を売ってくれるデジモンが来てくれなくなっちゃった。ハンバーグってすごいね!今まで僕たち、靴の底みたいな固いお肉しか食べられなかったの。

 

干して保存食にするしかなかったの。すごいでしょ!」

 

 

自分のことのように誇らしげに語るデジモンたちに、へえ、とタケルは瞬きをした。そう言えば道端にある冷蔵庫とか倉庫とかにやたら漫画やアニメででてきそうな骨付きのマンモス肉がでてくることが多々あったけど、それはこのデジタルワールドという世界ではどうやら普通に畑から取れる野菜のようなものだったらしい。

 

もしかしてこの世界ではお肉が主食なのかしらん?どうでもいいデジタルワールドの食糧事情を知りつつ、

タケルは最近この街に来たというバーガモンに事情を説明する事にした。

 

筆談なら口が聞けないバーガモンでも可能である。幼年期のデジモンたちはさすがにデジ文字を読むことができる能力を有するものはいないらしく、ここからはパタモンとバーガモンの会話の後に、解説と通訳をパタモンがしてくれることになった。

 

なんだか難しそうな退屈な話という雰囲気を機敏に感じ取ったらしい幼年期のちびっこたちは、作り置きをして置いてくれたらしいバーガモンのおこぼれを頂戴すべく、家の奥にある厨房のほうに引っ込んでしまった。

 

あらかた説明をし終わったタケルに、バーガモンが無言のまま文字を書く。パタモンが目を通した。え?と驚いた様子でパタモンがバーガモンを見上げる。

 

 

「どうしたの?パタモン。なんて書いてあるの?」

 

「タケルって、お兄ちゃんいるのかって聞いてるよ!」

 

「え?お兄ちゃんのこと知ってるの!?」

 

「ヤ、マ、ト?うん、そうだよ!ヤマトはタケルのお兄ちゃんだよ!」

 

「なんでバーガモンがお兄ちゃんのこと知ってるの!?もしかして、お兄ちゃんたちになにかあったの!?」

 

 

がたっと思わず席を立ってしまったタケルがバーガモンに詰め寄る。

こくりと頷いたバーガモンは、走り書きで知らせてくれる。

 

 

「タケルと空だけじゃなくて、ヤマトも大輔も紋章を泥棒に盗まれるの見たんだって!それに、幼年期に成っちゃってたタネモンとツノモン、ピョコモン、ここにいる幼年期のデジモンたちはみんな、ここに連れてこられて閉じこめられてるんだって!バーガモンはもともと、え、うそ、ほんとなの!?」

 

「僕にも教えてよ、パタモン!」

 

「あ、ごめん、えっと、その、もともとバーガモンはデジタマモンって言う完全体で、ベジーモンと一緒にレストランやってて、間違ってヤマトと丈たちを働かせてた事があったみたい。

 

でも誤解が解けて、みんなが合流するの手伝ってたんだけど、それを見てた敵に見つかっちゃってこんな姿になっちゃったんだって!」

 

 

えーっと声を上げたタケルとパタモンの傍らで、沈黙を守っていた彼女は小さくため息をついた。

 

「やっぱりいただけないねえ、そのデジモン。暗黒の力が望んでることじゃないのさ。進化の否定だなんて考えるのは自由だが、なんだって他のヤツラを巻き込むんだか」

 

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