「ババモンっていうお名前なんだね」
ちびっこたちに呼ばれたことでばれてしまった種族名に、バツ悪そうにおばあちゃんデジモンは笑った。そのまんまだね、なんて暴言をかましてしまったパタモンは、どこからともなく召喚した箒でばしいん、とお尻をぶっ叩かれて、テーブルから吹き飛んだ。白い煙が立ち上る。
だあれがくそばばあだって?と長めの前髪から覗く殺気に、そんなことないよってあわててタケルはぶんぶん首がもげるんじゃないかってくらい否定して見せた。あら、お利口じゃないのさ、賢い子どもは大好きだよってババモンは笑った。
おんなじこと思ってたくせに、裏切り者―って今にも泣きそうなパタモンの恨み節はこの際聞かないふりをする。ババモンは機嫌を直してくれたので、ほっと息を吐いたタケルである。
「幼年期1の子たちが知ってるってことは、はじまりの街を守ってたの?」
「よくしってるじゃないのさ、ご明察だよ。アタシが守護してたのははじまりの街さ。もっとも、今はここがあっちの世界と繋がらないようにするのに手いっぱいで、臨時休業状態だがねえ」
「そっか。だからエレキモンしかいなかったんだ。ワイズモンにね、はじまりの街は大事なところだよって教えてもらったのに、へんだなあって思ったんだよ」
「まあ、時が来たらほかの守護デジモン達が手を回してくれるだろうさ。この仕事はアタシしかできないんでね。ゲートの管理はアタシの管轄なんだよ。
なにがなんでも、結晶世界はここでとどめなきゃいけないんだ。タケル達もみてわかったろ?ここがどんなに危険なところか。
このエリアは時間が死んでるんだ。だからあの子たちは進化しないんだよ」
キッチンルームできゃいきゃいはしゃいでいる子供たちを見つめるババモンの表情は暗い。どうやら甘言に乗せられてこの世界にやってきた無知な子供たちがこれだけいるとは、
ババモンにも想定外だったようである。バーガモンがいただけましといえた。
無理もない。本来つながっているエリアはすべて彼女の監視下にあり、
無理やりゲートを繋げればさすがにホメオスタシスが気付くだろう。だからババモンはタケルたちが現れた時、頭を抱えたのだ。
ネットワークセキュリティの監視体制をかいくぐってまで、空間と空間を繋げることができる者たちなど、
ほんの一握りのデジモンとホメオスタシスの直属の部下たちに限られてくるのだ。
恐れた事態が起きてしまっている。裏切り者がいるのだ。その中に。信じられるものが自分だけという事態が起こりつつある現実に絶望をにじませつつ、さすがにそこまで口にできないババモンは、せめてものヒントがないかとバーガモンに話を聞いた。
「パタモンがいったように、ここはとっても退屈な世界なのさ。思えばアンタたちと会えてよかったかもしれないねえ、ホントに気が狂いそうになるところなんだ、ここは」
ぽつりとこぼした言葉は、めずらしく彼女の本音が入り混じっている。
バーガモンはババモンの言葉に肩を落としながら、ここに連れてこられるまでの経緯を教えてくれた。
かつてはじまりの街で食堂を運営するほど古参のデジタマモンは、幼年期に退化する攻撃を受けても、辛うじて成長期への退化でとどまることができた。むりやりつれさられ、船に乗せられたらしい。
海に向かって開かれた湾に注ぐ川を初めて望んだとき、なによりも川の暗さに背筋を凍らせた。水面が灰色でとろんとしており、岸辺にうっそうとしている樹木の陰鬱な色合いと溶け合っている。
この世界はいつでも空は暗闇に覆われていて、鏡のように水面も真黒である。それと対照的に街を形作っている倉庫や小さな民家、施設の群れが怪しく輝いている。
陽光に照らされることを知らないそれらはすべて、内側の灯かりで明るくなっているのだ。密林の中に取り残された名も無き文明の巨大な墓地群のようにも見える。染み渡ったような明かりがまるで夜明けのように瞬いているものの、世界は永遠にこの時間から取り残されたままである。
川を覆う暗さがもたらす漠然とした不安を感じ始めていたバーガモンは、新しい街の住人を待ちわびている一群の子供たちを発見して、はじめこそ胸の奥底に感じていた予感を気のせいと片づけてしまう。
埠頭やアーケードをくぐりぬけた先に待っていたのは、それほどまでに、結晶によって覆い尽くされた優しげで美しい世界だったものだから。
その美しさに魅入られてしまったバーガモンは、今まで住んでいたエリアに息が苦しくなるような違和感を覚え始め、薄気味悪かったはずの密林の天蓋すら、プリズムを放つ宝石の街を覆い隠す宝箱のように感じるようになってしまう。
それでも、ずっと過ごしていけば、いつしか気付くのだ。変化のない安定した世界は、死にたくなるほど苦痛な世界でもあるということに。
しかし、あの子たちにとってはそうではないのだと、バーガモンは筆談の手を止めた。考えても見てほしい。代わり映えのしないオリーブ色のマントが、延々と内陸の丘にあたるこの町にむかって伸び広がっていたのだ。
ふつうなら森林の上部は太陽の熱で黄緑色に変わっているはずだが、ここでは濃い緑の樹木が巨大な糸のようによどんだ空気の中で突き出ている。そこに幽かなきらめきが生まれ、やがてそのかすかな光は一気に新しい住人達を鮮やかな光彩の世界に迎え入れ、しかも照り映える光景を見せてくれるのである。
好奇心旺盛で純真無垢な幼年期の子供たちは、自分たちの生まれ育ったエリア、そして始まりの街しか知らないい訳だから、そのつたない経験には無い新鮮な世界観に一気に染め上げられてしまう。ここにいればずっとこのままみんなと一緒に暮らせる。
ずっと遊べる。ずっと守ってもらえる。ずっとずっとこのままでいられる。デジモン達なら誰もが一度は夢見る禁断の道を可能にする時点で、楽園のような世界である。
本来なら、デジモン達はひとりで生きていくために旅立たなければいけないのだから。幾筋もの泡が光り輝く糸のように筋を引く水晶の川から下っていく船に再び乗り、この世界に別れを告げるデジモン達はほんの指折りしかいない。
そのデジモン達でさえ舞い戻ってくる者たちがほとんどである。実際のところは一人もいないのが現実だ。
どうしても脳裏を焼きついた理想郷を忘れることができなくて舞い戻ってしまう。
これがこの街の住人の圧倒的多数を幼年期のデジモンたちが占めている理由でもあり、この世界に引き込む誘拐犯が、連れ去るデジモン達を幼年期にしたがる理由でもある。バーガモンがこのエリアにとどまっている理由は、この子たちを放っておけないからである。
本来なら、はじまりの街で彼らは学ぶはずなのだ。ひとりぼっちで生きていくための術を、遊びながら、教えてもらいながら、少しずつ勉強して彼らは大きくなっていく。それなのに、その権利すら奪われてしまったこの子たちの将来は絶望しかない。
いつまでもデジモンは幼年期ではいられない。幼年期の感覚のまま大きくなってしまえば、待っているのは途方もない苦難だけである。デジモンはもともと無条件で守ってもらえる親という存在がいないのが普通なのだ。図体だけ大きくなったひな鳥の行く末などたかが知れている。
もっとも、今となっては身体が次第に結晶化していく原因不明、確立した治療法が発見されていない謎の風土病に罹ってしまい、病気の進行を遅らせるガラス球から煎じられる薬がないといけなくなってしまった。
最終的に彫刻像になってしまうこの病気にかかってしまうのは成長期以上のデジモン達である。この幻想的なほど美しい世界の秘密をタケルたちに話しているバーガモンは、さらにここからの脱出に二の足を踏んでいる理由を教えてくれた。
彼が養っている幼年期のデジモン達は間違いなく「ここから出ない」という「約束」を破った罰として見せしめに殺されることが目に見えているから。バーガモンは必要最低限の言葉を文字にして綴る。
バーガモンは完全体だったにもかかわらず、誘拐犯に勝てなかったのだ。パーフェクト型というすべての攻撃を無効化する種族だというのに、成熟期と成長期という格下の相手に負けてしまった。
ましてや、今は成長期の身である。このエリアでは、進化という変化を求めるには、ただのデジモンであるバーガモンにとっては、あまりにも過酷な環境なのである。デジモンは環境によってデータを取り込んで進化する。戦闘をして経験を積んで転生して強くなる。
しかし、ここは時間が死んでいる結晶世界は変化がない、安定した世界だから環境が死んでいる。死んでしまっても転写したデジタマが誘拐犯に渡ってしまえば、終わりだ。
幼年期のデジモン達は自分を構成しているデータの容量があまりにも少ないために、万が一一度も進化することなく死を迎えてしまった場合、間違いなく彼らはデジタマに孵って別個体として生きていくという自然の法則から外れてしまう。
残酷な現実を不条理極まりない形で見せ付けられた彼らの思念は、残骸データとなってこの世界の主によって回収されてしまう。
犠牲者が増えるたびにこのエリアに飾られている彫刻像のお墓は増えていくし、結晶世界の浸食が居住区にまで侵攻していくのである。これがこの幼年期ばかりのデジモン達のエリアを統括するバックグラウンドなのだ。
日食のような最大限持続しても八分ほどで終わってしまう現象とも、日中でも太陽が昇らない極夜でもない、真夜中の世界はここから見える川にまで垂れこめているのが窓から見える。
外に眺めながら、ゆらゆらと光が揺らめいている世界で、タケルとパタモンはこの光の隠された強烈な輝きを吸い尽くしてしまう悲惨な現状にかける言葉が見つからない。
今にも泣きそうな顔をして、タケルは窓ガラス越しに写っているパートナーデジモンに問いかける。
「ねえ、パタモン。メカノリモンは、デジコアを食べられちゃったデジモン達なんだよね?」
抱っこされる力が強くなる。タケルの怯えを感じながら、パタモンはうなだれた。
「うん。とっても怖いと思う。とっても悲しいと思う。とっても苦しいと思う。もし僕がそんな目にあったら、きっと死にたくないと思ってなんでもしちゃうと思う。
生まれ育った町で一緒に暮らしてきたデジモン達が、平和に暮らしているのを見るともしかしたら嫉妬とか、嫉みとか、憎悪とか、そういう真っ黒な感情に塗り潰されちゃうと思う。
なんで、なんで、なんでってなっちゃうと思うんだ。ブイモンはオーバーライトが激しい種族のデジモンだけど僕達だって体を焦がすような激しい感情に苛まれたら、きっと寿命が縮んじゃうのと引き換えに、凄い力を発揮するんだと思う。
それがきっと、デジコアっていう僕たちの命と引き換えに生まれるおっきなおっきなエネルギーなんだと思うよ」
「じゃあ、メカノリモンも、幼年期の子供たちをこのエリアに集めてるデジモンがやってることも、同じなんだね。みんなの命の代わりに力を集めてるんだね、パタモン。
死にたくないっていうデジモン達の声が残ったデータさえ、全部全部奪っちゃうんだね。 ひどい。ひどいよ、あんまりだよ。どうしてそんなこと……」
「わからない。わからないよ、でも、止めなくちゃ。僕達しかできないことだよ、タケル」
「………ん」
「分からないことだらけだけど、僕たちは進んでいかなくっちゃいけないんだ。立ち止まってる暇なんてないよ、タケル。僕たちの紋章を盗んでいった泥棒は、きっと僕たちの敵なんだ」
「そう、だよね。うん、わかってる。紋章は、僕だけ、僕達だけにしか使えないものだってことは、ナノモン達が言ってたけどあの紋章自体はとってもすごいものなんだ。なにげなく僕たちは使って来たけど、とっても大切なものなんだ」
「そんな紋章を、その泥棒は奪っちゃったんだ。そして、今度は僕らのまで。5つもそんな力を生み出す紋章が取られちゃったんだ。何に使われるか分からないよ」
脳裏をよぎるのは最悪の結末である。背筋をうすら寒いものが通り過ぎていく。なんとか頭の中をぐるぐるとしている陰鬱とした連想を振り払おうと必死のタケルは、小さく息を吐いた。長い間この世界にいてはいけない、というババモンの忠告が蘇る。
せわしなく動いているデジモン達はきっと体を内側から蝕んでいる結晶化の粉末から身を守るために必死なのだ。いつくるかもわからない空たちを待っていては、タケルやパタモンたちだっていつ結晶化を発症するか分からない。
デジモンの病気が人間であるタケルに感染するのかどうかは不明だが、
現実世界にいるならいざ知らず、今のデジタルワールドにいるタケルはゲームの中に入ってしまったように、ひとつのデータとして造られているはずである。デジモンも人間もデータなのだ。
ウイルスに感染するようなものである。ウイルスバスターの機能を果たしてくれるデジヴァイスだって、暗黒の力が作用していない風土病まで適応されるのかどうかは不明瞭だ。
人間の脅威になる病気はいつだって他の生き物から持ち込まれたものである。
デジモンがその一因になったっておかしくはない。さすがにそこまで難しい話は分からないものの、パタモンのあくびにつられてあくびをしたり、一緒に風邪をひいてしまってヤマトに心配されたりしたことを考えれば想像には難くない。
老婆がオークションの景品になるなと軽口を飛ばしたのだから、
きっと当たり前のようにタケルもその危機にさらされることになる。
タケルはいつまでも効力を持つわけではない、と念を押されたガラス球を握り締めた。
この完全に閉鎖されているあ空間から脱出するには、泥棒を何が何でも探し出さなくてはいけない。ババモンが知らない勢力がこのエリアに陣を張っていることは明白だ。素直に協力をお願いしても到底受け入れてもらえるとは思えないのだ。
それでも、情報が皆無なのは。悲しいかな揺るがしようがない事実だった。タケルとパタモンは心を決めたように、真剣なまなざしで頷き合う。そして、振り返ると、バーガモンに尋ねたのである。
このエリアを統括している一番偉い人、本来であるならば守護デジモンに相当するほどの人格者、もしくは能力を持つデジモンであるはずのその人物の下へ。道を教えてくれと頼んだのだった。バーガモンは肩をすくめた。そして頷いたのである。
いくつかの注意すべき点について言及されつつ、途中までの道のりを書き記した地図をもとにタケルたちはバーガモンの住居を後にすることになる。彼には守るべきものがある。
本当ならばいっしょに同行するのが筋なのだろうが、事実上の軟禁状態にあるバーガモンは一緒に住んでいる幼年期のデジモン達が人質同然の状況下にある。申し訳ない、と頭を下げられたが、気にするな、とタケルたちは笑って顔を上げるように言った。
一緒にデジタルワールドに帰ろうね、と約束して、タケルはパタモンと共に立ち上がる。ババモンもタケルのところに向かった。
「アタシも行くから安心しな。これでも腕には覚えがあるからねえ」
「うん、ありがとう、ババモン」
ドアの向こう側から送ってくれたバーガモンに手を振りかえすと、タケル達は濃霧の中へと消えていったのだった。
この世界が薄暗いのは、太陽を奪われた世界であると言うことも一因としてあげられるのだが、主な要因はバリケードの先に見える密林なのだという。
樹木の葉っぱは、地面から目に見えないほど小さな小さな鉱物質を吸い取ってしまい、何もかもが薄暗く見えてしまうのだとバーガモンは教えてくれた。だからねばねばだったのだ。
エンジェモンが空へ舞いあがる際に生み落とした風によって、一気に飛散した結晶の粒子を失った樹木の葉っぱは、どれもこれもねばねばだった。糸を引いていた。
そうやって次第に結晶化した樹木は大きくなって星空さえも浸食していくのである。巨木が小さな街を取り巻いているその様子はまるで、密林の奥底にタケルたちをおしこめてしまうような、押入れの中に閉じ込められてしまうような恐怖にも似ていた。
タケルたちの影は普通の濃さである。密林のまとう雰囲気はタケルの知るいかなる対比も欠いている。月光や星の光にさらされている葉っぱは、森全体と一体になってこの世界から結晶化した物質から放たれる謎の発光以外の光を根こそぎ奪おうとしている。
生気と動きすら吸い上げようとしているのかもしれない。大地を覆う森の黒さ、平らな葉っぱのオリーブ色が陰気な重苦しさを帯びてタケルたちの侵攻を阻んでいるが、タケルたちはプリズムの回廊にちらつくまだらな光が放つ重苦しさを跳ね返すべく懸命に走ったのだった。
バリケードの覆い隠している結晶地帯に次第に近づいているのがわかる。宝石の敷き詰められた道路の向こう側には、森林の層がいくつも空中にそそり立っている。まるで倒れ掛かってこようとしている大きな波浪を潜り抜け、百メートル以上上空から大きな枝が広げられた翼のように傾いでいる。
どんどんまばゆい世界が再びタケルたちを包んでいくのがわかる。凍えてしまわないようにしっかりとガラス球を握りしめながら、パタモンとタケルは一気に開けた風景に目をむくのである。ババモンは舌打ちした。
「なに、これ」
「………っ」
「ずいぶんとまあ、いい趣味してるじゃないのさ」
パタモンは目を伏せた。タケルは思わず立ちすくんでしまう。はるか向こうの回廊に、今まで見たこともないような螺旋状の柱が立っていた。
まるで茨のようにつらら上のトゲが幾重にもわたって生えており、外部からの侵入を拒むように渦巻の層が連なっていた。
込み上げてくるものを必死でぬぐって、一番近くに走っていったタケルとパタモンが見上げた先には、見たこともない姿をした名前も知らない種族のデジモンの肖像が鎮座していた。
プリズムがほとばしる回廊を見守る甲冑鎧の兵士のごとく、左右対称に並べられているのは、間違いなく結晶化していく病に蝕まれ、やがてその時間を永遠に置き去りにしてしまったデジモン達だったのである。
煌々と輝いている炎は煽り煽られて揺らめいている。水晶の巨大なろうそくがデジモン達の間に備え付けられていて、彼らの放つ光と共にオレンジ色で世界を満たしていた。お墓、とバーガモンは称している。
なるほど、下の方に刻まれている墓碑銘を見れば、このデジモンの名前が書いてある。しかし、享年と年月日が書かれていない。どうやらこの姿になってしまったデジモン達は死んでしまったわけではなく、半永久的にこの姿のまま石像のように生き続けなければいけないようである。
人間で言えば植物状態だろうか。
しかし植物状態だって体の老化という自然現象に打ち勝つことは出来ないのだから、結晶化した当時の姿のまま文字通り生きた化石になってしまうことを考えるとはるかにえげつないことがうかがえる。
外国のお墓、と考えればいいのかもしれないが、これではまるで成金趣味を訪問客に見せ付けようと趣向を凝らした骨とう品を買いあさる豪商のように見えてしまう。
これではまるで見世物ではないか。触れようとしたが、こつん、とプラスチック製の大きな半透明のボックスで覆われていることを発見した。
タケルたちはますますいたたまれなくなって、離れてしまった。
まるで宝石などの趣向を凝らしたショーケースを並べているように見える。そのまま野ざらしにしてしまえば、万が一体の一部が破損した場合、物言わぬ生きた化石になってしまった彼らは絶叫を上げることすら許されないまま体を水晶の芝生に横たえるしかない。
だから、それを考えればある程度ましなのかもしれないが、はっきり言って異常としか言いようのない光景である。もう見ていられない、とタケルたちは必死で回廊を駆けあがろうと顔を上げた。
そして、息を飲んだのである。一瞬呼吸の仕方を忘れてしまった。ババモンが箒を召喚する。タケルはデジヴァイスを握り締めた。
タケルたちは見てしまったのだ。ガラスケースごと叩きのめされて通路に倒れている水晶の残骸が見えてしまったのだ。蹴りつけられ、殴られ、腹を裂かれようとしている魚のように身をよじらせて倒れている
名前も知らないデジモンの欠片が横ざまに飛び跳ねる。その水晶像には顔がなかった。
よく見ればそのデジモンは長い裂き傷がある。そんな残骸が回廊にひろがっている。ババモンは全てを悟ったようで、唇をかむと、大きくため息をついたのだった。
そして、その先にいる小さな影に問いかける。
「ずいぶんとまあ、いい趣味してるじゃないのさ、ティンカーモン。先代の子供たちとの冒険の日々は、なんの枷にもなりはしなかったみたいだね?」