(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第133話

ぎいい、と年季の入った扉を開いたタケルたちを待っていたのは、真っ赤な絨毯、頭上にきらめいているのはウエディングケーキのような大きさのシャンデリア、そして両脇を固めているのは正真正銘本物の石像だった。 

 

この螺旋屋敷まで続く宝石の回廊に並べられている生きたデジモン達の水晶体ではない。おどろおどろしい石像は、ぎろりと重厚な造りをしている眼光を侵入者に向けた。ちょっと距離を取りたくなってしまうほどの完成度の高さだ。

 

ボロボロに傷ついた漆黒の翼を折りたたみ、身を守るようにしてうずくまっている。何よりも人目を引くのは、腕を振り下ろせば最後、タケルのような小さな子供など、一瞬で八つ裂きにしてしまいそうなほどどす赤い蹄だろう。

 

前足と思しき所だけマニキュアのように真っ赤に染まっているが、獲物を捕獲したせいで染まってしまったところを表現しているのかもしれない、と思わずタケルは想像してしまいそうになり、首を振る。後ろ足は真っ黒なのだ。

 

手足が異常に発達しており、長く伸びた両腕で磔にされたら、その鉤爪状の尻尾でなすすべなく八つ裂きにされそうである。真っ赤な蹄と同じように紅に染まっている瞳が4つであると気付いてしまったタケルは、思わず目を背けてしまった。

 

タケルやトコモン達が見上げるほど大きなデジタルモンスターの銅像は、左右対称に鎮座しており、この屋敷の守りを任された番犬のようにも見える。一歩でも動けば襲い掛かってきそうである。ドキドキしながらタケルはトコモンに訊いた。

 

 

トコモンは首を振る。デジモンのにおいはしないとパートナーデジモンは教えてくれた。ほっと胸を撫で下ろすタケルである。さすがにみるからに邪龍のような姿をしたデジタルモンスターである。

 

聖なる力の象徴であるエンジェモンにとっては圧倒的有利を誇っているだろうが、に、し、ろく、と数えるだけでもあっという間に両手がふさがってしまうような数、いくらなんでも相手にすることは無理だろう。ましてや今はタケルしかいないのだ。

 

どう?と調子を聞いてみるタケルだったが、あの妖精型のデジタルモンスターから受けた強制退化という強力な効力を発揮する鱗粉は、すべて払ってしまったにもかかわらず、未だに効果が持続しているらしい。

 

せめてパタモンの姿にさえ戻ることができたなら、この屋敷の構造について上空偵察をすることができるというのにそれはかなわない。力が入らないよ、と今にも泣きそうな顔をしているトコモンである。

 

どうやらエテモンのラヴセレナーデが成長期まで退化させてしまうものだとするならば、あの鱗粉は幼年期にまで退化させる上に、デジモンの力そのものまで減退させるというとんでもない効果を持っているらしかった。

 

仕方ないよね、とタケルはトコモンを乗せてあたりを調べことにしたのだった。

 

 

いくつか重厚な造りの扉があったのだが、すべて内側からカギがかかっているらしくタケルたちは入ることができなかった。もしかしてここの住人達はあの泥棒のように扉を潜り抜けることができるのだろうか。

 

もしそうだったらタケルたちはどの部屋に隠れることもできないと言うことだ。微かな望みを託して、落胆するタケルたちが自然と向かう先は、中央の螺旋階段である。

 

螺旋階段の壁に鎮座している燭台の上には真っ赤な蝋燭がこうこうと揺らめいていて、溶けたロウがまるで血だまりのように、ぼとぼとと燭台から溢れて陽炎に滴り落ちている。

 

その陽炎の炎が造る自分の長い長い影がはかなげに壁に揺らめいている。タケルとトコモンがどこか安心しているのは、バーガモンの家や老婆の家のように、この螺旋屋敷の内部は水晶による結晶化の浸食を受けていないからだろう。

 

万が一ここが戦闘の場所になったとしても、エンジェモンが飛行能力を奪われるのと、屋敷という屋内であるが故の行動制限の不便さを比べるなら後者の方が圧倒的にましだ。それに加えて、タケルもエンジェモンも石化する恐怖に苛まれる必要はない。

 

 

とりあえずタケルの頭の中にあったのは、トコモンがエンジェモンに進化できるまで、この屋敷のどこかで隠れてやり過ごし、進化することができたら、ツノモン達を捜して、紋章を取り返すという過程が思い描かれていた。  

 

いつまでも長居することは出来ないと分かっているのだが、幼年期の姿であるトコモンを守ることができるのはタケルだけであり、先を急いてしまえば間違いなく先ほどの妖精型デジモンの槍の餌食になってしまう。

 

それだけは避けなければならなかった。  

 

紋章やパートナーデジモンを奪われてしまった子供は、選ばれし子どもとはいえども、ただの非力な弱者であり、そこにいるのは英雄ではなく、世界を救うことなんてできない。

 

誰も欠けてはいけないのだ。そしてこの絶望的な状況を奪還できる状況に一番近いのは、まぎれもないタケルとトコモンであると一番彼らが分かっていた。

 

 

そして最後までタケルたちは気づかなかったのである。ダークエリアから生まれた邪悪な龍を模した石像は、目の分だけが異様にかがやいており、その先に監視カメラがついていたことには。

 

 

 

一段、一段、足音を忍ばせて慎重に慎重に昇っていくタケルたちを静寂が包み込む。シャンデリアのあたりはどうやらステンドガラスが取り囲んでいるようで、色とりどりのガラスで構成された宗教的な意味が込められた壁画が並べられている。 

 

もしこのエリアに太陽があったならば、この家の屋敷の住人は、おだやかな陽だまりによって生まれる美しい輝きを目にすることができただろうに、今タケルたちが見ることができるのは外の結晶化されていく世界が放つプリズムによってぼんやりとしか映らないすりガラスのようなモザイクの壁画だけである。

 

物音に耳を傾けるべく、息をひそめて二階に上がっていったタケルたちを待っていたのはいくつかの扉だった。頼むからどれか一つでも開いてくれ。お願いだから。祈るような気持ちを抱きつつ、ドアノブをひねってみるが、がっちゃん、がっちゃん、という引っ掛かりを覚える特有の音と共に閉ざされる冷たい扉。

 

はあ、と何度目になるかわからないため息を溢しながら、タケルはどんどん奥の方に進む。ここもだめ、ここもだめ、やっぱりここもだ、どうしよう、と焦りが生まれるが、いくら頑張ってもドアノブは侵入者を通してはくれないようだった。

 

とうとう最後の扉の前に来てしまった。ほとんど諦めの境地に差し掛かりかけているが、しきりに後ろを警戒してくれているトコモンの手前、弱音を吐くことはできそうもない。目を閉じて、タケルは冷たいきんいろのドアノブを回した。

 

 

 

一瞬の空白。聞き慣れた拒絶を示すロックの音が聞こえない。やった!と舞い上がりかけたタケルとトコモンだったが、今度彼らの前に立塞がったのは、がっちゃん、という毎度おなじみのドアロックの音とわずかな部屋の隙間に伸びる鎖。

 

マンション暮らしの団地の子供たちには毎度おなじみのチェーンロックである。どうやらタケルが住んでいる高級住宅地のセキュリティがしっかりした自宅のような、オートロック式のマンションではないらしい。

 

どこにも指紋認証とか警備のおじさんの詰所、監視カメラらしき機械も見かけなかったし、

案外この屋敷のセキュリティは古風なのかもしれない。でもチェーンロックならこっちのものだ。一人と一匹はにっこりと笑みを浮かべた。

タケルはトコモンを抱き上げて鎖のところにまで連れていく。

 

発生する有害物質を吸い込まないように息を止めたのを確認して、愛らしい幼年期のトコモンはぐあーっと体の半分くらいまで裂けている大きな口を開け、豪快に必殺技をお見舞いしたのである。立ち上るのは鼻をつんざく刺激臭。

 

そして見るからに目を刺激しそうな煙である。反射的に下がった彼らは、煙がゆっくりと奥の部屋に入っていくのを見た。

 

 

後から聞こえるのは、だらりと垂れさがった鎖が扉に当たって立てる金具の音と、ぎいいいい、と開いていく重厚でシックな扉である。中は真っ暗でよく見えないが、隠れることができるならどこでもいい。

 

妖精型のデジモンはきっとタケルたちのことを血眼になって探しているはずだ。もしかしたらこの屋敷の主にまでその話は行っているのかもしれない。少しでもいいから時間稼ぎをしなくては、と扉を開けて中に入ったタケルは、一番近くにあった燭台を手に取ると、中に一歩足を踏み入れた。

 

トコモンは安心した様子で、誰もいないよ、と笑った。さあここからは。廊下からこぼれる光を頼りに、辺りにおいてある大きなテーブルや椅子、骨董品をならべ、ぱたん、と閉めた扉の向こう側に山積みにして、即席のバリケードを作り上げていく。

 

できた、と自画自賛にも似た言葉を溢したタケルは、先に奥に進んで辺りを調べていたトコモンに呼ばれてそちらに向かっていく。ゆらゆらとオレンジ色に照らされた世界がタケルとトコモンに、この部屋が所蔵庫であることを教えてくれた。

 

 

「ねえ、タケル。ここってさ」

 

「うん、おっきな図書館みたいだね。ワイズモンの研究所くらいあるかも」

 

「けほけほ。でも、だあれも使ってないみたいだね。埃がいっぱいで煙たいよ」

 

 

確かにそうだ、とタケルは思った。近くにあった辞典位ありそうな重厚な革張りの本を並べている木製の本棚は、本ばかり並べられている空間特有の威圧感と独特の香りが調和して、まるで異空間のようになっている。タケルやトコモンが歩くたびに埃が舞い上がり、タケルの燭台に照らされてまるでダイヤモンドダストのように輝いている。

 

誰かが入った形跡は見受けられない。題名はもちろんデジ文字表記。タケルが解読できそうな本は一冊たりとも所蔵されていないのは目に見えている。ぼたり、ぼたり、とロウがとろけ落ちるたびに、床に足跡のように落ちていく。

 

タケルはそのたびに火傷しないように飛びのかなければならないのだが、トコモンはうっすらと舞い上がっていく白い煙ですっかり涙目になっている。クシャミで火を消さないように別の方向を向かなければならず、四苦八苦している。

 

うーん、どこか隠れられそうなところないかなあ、本棚の上なら椅子がいるなあ、といろいろ頭を巡らせながら本棚の奥へ奥へと進んでいったタケルは、とうとう一番隅っこと思しき区画に辿り着いたらしく、誰かの書斎を発見した。

 

大分時間が経過しているようで、埃が詰まっているものの、いくつかの本やペンを発見した。

 

 

なにこれ?とフロッピーを手にしたタケルをしり目に、やっとこさ一息つける場所を見つけたトコモンは、タケルの頭からテーブルに飛び移る。

 

そして、ねえ、これみて、と声を上げた。トコモンが咥えてきたのは、ワイズモンがレプリカである、と教えてくれたデータと非常によく似た一冊の書物だった。表記はデジ文字だがトコモンは題名さえは読めない。

 

もしかして何か関係があるモノでもあるのだろうか、と好奇心を押さえることができず、タケルはそっと本を開いてみた。相当古く劣化している書物は茶色く変色していて、何を記しているのか分からないほどにまで染みが黒くなってしまっている場所、何枚か破れ落ちている場所もあって、ますます混迷を極めた。

 

ぱらぱらぱら、とめくってみた。何章かに分かれていることは分かったのだが、肝心の内容が分からなければどうしようもない。ああ、ここにワイズモン、もしくはブイモン、光子郎さんたちがいたら!と頭を抱えるタケルとトコモンは、ぴぴぴぴぴ、と身に着けているデジヴァイスが今まで聞いたことがないような電子音を響かせながら、真っ赤なレーザーを放つのを見た。

 

呆然としているタケルとトコモンを尻目に、デジヴァイスはワイズモンよりダウンロードされていたデジモン黙示録の復元データをダウンロードし、データ修復のプロセスに入る。

 

そして古代デジ文字でしか表記されていなかった文章をTAMAGOTTI文明到来後の現在使用されているデジ文字に自動的に翻訳し、データを更新、記録、保存していく。

 

タケルたちがみたのは何が何だか分からないうちに、真っ赤なレーザーがプリントアウトされている書類みたいに、真っ赤な線がなぞられていくうちにデジヴァイスにどんどんデータが記録されていく光景だけである。ぽかんとしている間にタケルとパタモンのデジヴァイスは光放つことをやめた。

 

おそるおそる覗き込んでみるタケルが見たのは、NOW DOWNLOADING。お母さんが新しいパソコンのソフトを入れるときによく見かける英語の文字である。読むことは出来ないが大体意味は理解できる。えーっとただ今準備中。

 

しばらくお待ちくださいって感じだっけ。こういう時になるといつもお母さんはコーヒーブレイクとしゃれ込んでタケルに構ってくれるので、わりかし好きな言葉なのだが、お母さんはおんぼろパソコンもそろそろ寿命かしらね重いわとぼやいている。

 

もちろん読むことができないトコモンはデジヴァイスが壊れてしまったのではないかとおろおろしているが、大丈夫だよ、と抱き上げたタケルは笑った。そして言うのだ。しばらくお待ちくださいだってさ。

 

 

 

 

 

もちろん、そこに記されていたことは、笑いごとではなかったのだけれども。なにせここはデジモン黙示録第十五章の第五節、もっとも重要な予言部分である。世界の崩壊を先代の選ばれし子供が記述した個所だったのだから。

 

 

 

『大地は裂ける。海は割れる。空に全てが呑み込まれていく。街も森も海も闇にかくされ、それはやがてとても大きくて高い螺旋の山を空に築いた。世界の変革は始まったのである。』

 

 

『はじまりの島はこの世界のすべての基盤となるデータによって構築されている。山も、丘も、森も、川も、海も、建物も、すべてが大切なデータなのだ。守れ。はじまりの島は最後の砦。世代を否定するイデアは現代種を全否定する。ここが陥落したが最後、二度とこの世界は再構成できなくなる。彼方の空に吸い上げられた物質は、螺旋を巻き、規則性にのっとってら4つの世界に分断され、蛇のように絡み合って円錐形の世界となる。大厄災の始まりだ。すべてのデータは逆さま世界の中に再構築されていく。逃れる方法はただ一つ、虚空に身を投げること』

 

 

 

「……ねえ、トコモン。ここ、見て。その大厄災っていうやつのところ。いろいろ書いてあるけどさ、ここってもしかして」

 

 

タケルが指差した先を見たタケルは身の毛のよだつような記述に身を縮こまらせた。

 

 

『日中は奇怪な形になった鳥デジモンが石化した森の中を飛び交い、宝石をちりばめたようなわに型デジモンが紋章のようにきらめいた。夜になると光り輝く人型デジモンが木々の間を走り回り、その腕は金色の車のよう。頭は妖怪めいた冠だった。

 

今の時点でこの世界の少なくても三分の一は水晶化し、やがて世界はプリズムの層に覆われて石化する、とエニアックは試算する。

 

伽藍の尖塔を持った幻の都市を中心に、変幻の森は広がっていく。毎晩、割れた円盤のような彗星が頭の上を通り過ぎ、銀色のシャンデリアがかがやく。間違いない。この世界で太陽の役目を果たしているデータが風解し始めている。

 

日没時に太陽が紅の埃でその円形を染める時、尖塔は格子のように光を遮り、途方もなく巨大な鉄格子門が現れた。その向こう側に広がっているのは、デジモン達が各自の肉体的および時間的な同一性や素性を手放し、その直接的な結果によって不死性を手に入れた者達が住む世界である。

 

不死という魅惑の世界に魅入られたものは、プリズムに蝕まれた石像の住人となる』

 

 

タケルとパタモンの脳裏にこの螺旋屋敷に辿り着く前に遭遇してきたすべての光景が走馬灯のように駆け巡っていく。顔面蒼白である。

 

ここにきてようやくタケルとパタモンはロゼモンがこの世界を浸食する結晶世界の秘密を尋ねた時に、空を指差したのか分かったのである。

 

あの流れ星は、この世界にわずかに残されていたこのエリアにあるはずの太陽のデータの残骸だったのだ。インセキっていうのは宇宙に漂っている他の星の欠片が地球にやって来た時にいうのだ。

 

まさしく流れ星である。この記述ではまだエリアに太陽はあったらしい。ここはそれ以上に結晶化の浸食が進んでいる。まずい、まずい、まずい!!ここから早く出なくっちゃ!

 

ワイズモンが言っていることが正しいのなら、

このエリアは間違いなく『これから死んでいく世界の記憶の欠片』のような場所であり、もしかしたら『デジタルワールドが意図的に隔離した世界』のような場所かもしれない。

 

『デジタルワールドにとっての未来の光景』なのかもしれないのである。そんな持ち主たちの焦燥を尻目に、デジヴァイスは機械的に作業終了の合図となる電子音を響かせたのち、ワイズモンがダウンロードしてくれたデータファイルの中に新たなデジモン黙示録の一節を付け加えてくれた。

 

デジヴァイスはデータを保存する。これでわざわざこんな重そうな本を運ばなくても光子郎たちと合流した後に、あのノート型パソコンにタケルのデジヴァイスを接続してもらって、みんなで見ることができるだろう。

 

 

「あ、もうすぐ火が消えちゃう。ここにある奴使わせてもらおうよ」

 

「そうだね。誰も使ってないみたいだし」

 

 

蝋燭は残りごくわずかである。ゆらゆらと煙が立ち上っていくのが分かるほどだ。蝋燭を傍らに置いたタケルは、テーブルの上に置いてあった使い古しの燭台を手に取ると、火を映して、今まで灯していた明かりを吹き消した。極端に短くなった蝋燭が役目を終えて真っ白な尾をひく。

 

まっすぐに伸びていた煙だったが、タケルがテーブルの上に戻そうとした時、ゆらりゆらりと突然煙が不自然に揺らめいた。あれ?元の位置に戻すと煙はまっすぐに虚空に溶けていく。

 

再び持ち上げてみると、大きくゆがんだ煙が流されていくではないか。反射的にあたりに手をかざしてみたがわからない。どうしたの?と首をかしげるトコモンにタケルは口元に手を当てて沈黙を促した。

 

 

「隠し部屋があるのかもしれないよ、トコモン。ここから、風が来てるもん」

 

 

え、ほんと?と聞いてくるトコモンに、ほら、とタケルは一番煙が流れていく本棚を見つけて笑って見せた。おおお!目を輝かせるトコモンに、どんなもんだい、とタケルは胸を張った。

今までドアは全て内側からカギがかけられていた。外側からは開けられないのだ。

 

ここだけチェーンロックで、外側から開けられる鍵穴があったことを考えれば、おのずと答えは出てくるというものだ。タケルは恐る恐る煙が一番流れていく個所に並べられている本を見てみる。

 

隠しパスワードか、隠し通路につながる仕掛けか、とりあえずよーく見てみれば分るだろう。

タケルは、本の題名をパタモンに聞いてみた。

「オズの魔法使い」「幸せの青い鳥」「不思議の国のアリス」「ヘンゼルとグレーテル」「シンデレラ」「赤ずきんちゃん」

 

いずれも幼児向けの絵本ばかりである。

 

なんだこれ、と思いつつタケルは、ふと一冊の分厚いプラスチックの箱を見つけた。「ウルトラマンダイナ」ちょっと待て。なんで絶賛放送中の平成ウルトラマンが普通においてあるんだよ。

 

これだけ本じゃなくてビデオだし。いずれも埃がかかっている。うーん、どれだろう。さらに右へ右へと進んでいくと、タケルが聞いたこともない本の名前があった。手に取って確かめてみると、どうやら言語系の辞書のようである。

 

トコモンに冒頭を説明してもらったのだが、この世界にある食べ物の正式名称をろくに知らないタケルは、当然のことながら理解することができなかった。

 

日本語が読めるから日本語の辞書は機能するのだ。日本語の単語が分からないと言っていちいち辞書で調べてみても、その辞書に使われている説明文が理解できなければ意味がない。

 

それはデジ文字でも同じである。しかし、どうやらこの辞書、デジ文字の辞典ではないらしい。TAMAGOTTI文明のような異文化の辞典のようで、当然のことながらトコモンも文字が読めるだけで内容はさっぱり理解できないらしく疑問符がたくさん飛んでいる。

 

なんてよむの?と聞いたタケルに、トコモンは自信なさげにつぶやいた。

 

 

「ト、トレーン、ウク、ウクバ、ウクバール?オ、ルビ、ス・トル、じゃなかった、テ、テルティウス!」

 

 

なにそれー、とへたっぴな早口言葉を披露したトコモンを笑おうとしたタケルは、がこん、という大きな音を聞いたのである。ビックリして振り返れば、そこに広がっていたのは隠し部屋ならぬ隠し通路。ずっと下まで隠し階段が暗闇と共にタケルたちの前に現れた。

 

 

「トコモン、すごーい」

 

「え、あ、あはははっ!ね!凄いでしょ、僕!」

 

「うん!すごい、すごいよ、トコモン。ねえ、もう一回言ってみて?」

 

「え゛」

 

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