(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第136話

「どうしたの?」

 

「た、大変だよ、タケル。このワープ装置、パスワードによって行くことができるエリアが違うみたいなんだ。もし間違えたパスワードを入れちゃうと、デジタルワールドでもこの世界みたいに隔離されてるエリアでもない、全然別の世界に飛ばされちゃうんだって!場所によってはワープゾーンをくぐる時点で僕達が壊れちゃうかもしれないんだって!」

 

 

パスワードを知っていさえすれば、どこにでもいくことができる理想的な装置であるが、パスワードを知らないタケルたちにとっては一か八かの爆弾を抱えた装置に他ならない。

 

でも、そもそもどんな文字がパスワードとして設定されているのか、タケルはおろか、この場にいる誰もさっぱり分からないのである。

 

どんどん翻訳されていく文章には、通じているエリアの名前が記されている。どうやらエリアも指定しなければいけないらしい。もしかしたら昔このエリアはセキュリティシステムがデジタルワールドを管理するときに使っていた基地局なのかもしれないがあくまでも憶測に過ぎない。

 

しかし、今までゲンナイからの情報を頼りに通り抜けてきたワープゾーンのような一方通行の装置ではなくて、明らかに複数の場所を選択でき、しかも相互の通路が確立されているとなればここに出入りすることができる者たちは指折り数えるほどしかいないはずである。

 

網羅されているのははるか昔に使われていた名称である。もちろんのことながらタケルが知らない名称も数多く、どこか似ている面影が名称に色濃かったとしても、もしかしたら今は全然違う場所になっているのかもしれない。

 

注意しなければいけない。せめて場所だけでも入力しなければ、と躍起になるタケルたちを見かねて、ツノモン達もデジヴァイスを見せてくれるタケルと共に液晶画面を前ににらめっこしている。

 

せいぜい200年程度の知識しかない彼らである。うーん、とタケルは必死でエリアの名前を食い入るようにして眺めた。

 

 

「あ、見てよ、トコモン!ここ、ここに【はじまりの島】って書いてある!」

 

 

思わず指を指したタケルに、ほんとだ!と帽子上のパートナーが嬉しそうに叫んだ。【はじまりの島】ってなに?とあたりまえだが聞いたこともない単語に疑問符が飛んでいる仲間達にむかって、タケルは説明してあげるのである。

 

ワイズモンというサーバ大陸の遊園地エリアにあるデジモンミュージアムを管理しているオーナーが所蔵している【デジモン黙示録のレプリカ】によれば、かつて【ファイル島】は現在に至るまでのデジタルワールドの基礎となるすべてのデータを集約して誕生した、一番最初の島だから【はじまりの島】と呼称されていたということ。

 

そして少なくても先代の選ばれし子供たちは、ファイル島がまだはじまりの島と呼ばれていた、はるか昔のデジタルワールドを救ったのだということを。つまりここから下に並べられている単語名は全て当時のファイル島におけるエリアと言うことになる。

 

 

「もしかして、次は【フォルダ大陸】かなあ?」

 

「きっとそうだよ。ブリキモン、言ってたもんね!【ファイル島】と【フォルダ大陸】しかなかった時代があったって!」

 

 

選ばれし子供ではないけれども、デジモン達が知性を喪失して野生化し、デジモン文明自体が崩壊していくという謎の超常現象が発生し、それを食い止めてくれた育成の天才である子供がいたという話を補足することも忘れない。

 

英雄の旅路は確実に伝説となり、現在に至るまで脈々と受け継がれているのだ。ということは、フォルダ大陸という古代デジタルワールド期に権勢を誇った古代種の楽園はこの項目らへんで間違いないらしい。

 

ブイモンの故郷であるフォルダ大陸はファイル島よりもはるかに大きいらしく、スクロールしていく速度が加速する。もしタケルが小学校4年生以上だったなら、ファイル、フォルダ、サーバと続いていく名称がパソコンに関係ある名前であり、ファイルはフォルダの中にあって、という法則性を見つけることができただろうが、

さすがに小学校2年生の男の子にはまだ早かった。

 

ディレクトリ大陸とか言う地帯もあるそうなのだが、まだまだこの世界にはタケルたちがいったこともない世界が広がっているのだ。

 

なにせデジタルワールドの規模は地球と同じなのだから。その古代名となればなおさら、そこからサーバ大陸を特定することは非常に困難なように思われた。

 

どうしよう?どうしよう?どうしよう!?狼狽するタケルに、ピョコモンが言った。

 

 

「一か八かにかけるよりは、ある程度分かってるところに行った方がよくないかしら?」

 

「そうだよ、タケル。ファイル島がはじまりの島って言ってたのは間違いないんだろ?だったら、はじまりの島の項目のところにもどってくれよ。俺たちがしってるところがあるかもしれない」

 

「ほんと?」

 

 

すがるような眼差しを向けるタケルに、パートナーデジモン達は頷いた。

 

 

「俺達はね、タケル。君たちに会うために生まれてきたんだ。200年もの間、ずっとずっと待ってたんだ。ファイル島のことなら分かるよ、まかせて」

 

「今は違うかもしれないけど、ファイル島のどこかに出るのは間違いないと思うわ。そしたら、レオモン達に会って、事情を説明したら、きっと力になってくれるんじゃないかしら」

 

 

わかった、とタケルは頷いて、デジモン達の知識を総動員しての名前当てゲームを見守ることにした。いろんな名前があがっては、載っている、載っていない、と確認が行われたが、イマイチ合致するような場所は見受けられない。

 

自信ありげだったデジモン達の表情がだんだん陰りを見せ始める。その名前さっき出たよ、という指摘も目立ち始め、言葉少なになっていく。不安になってきたタケルは、ワイズモンたちが教えてくれたことを思い出すことにしたのだ。

 

ファイル島のデータをもとにして、この世界に存在するすべてのエリアは形作られている。だからどこかデジャヴを感じるのも、きっとファイル島のデータの名残がそのエリアに残っているからだ。

 

遊園地エリアだってもとはといえばファイル島のおもちゃの街が大きく発展したようなエリアだったわけだから、ここに並べられているデジタルワールドのエリアは絶対にファイル島と似通ったエリアが存在している。

 

ここは間違いない、と確信できるエリアを必死でタケルは思い起こす。ワイズモンが言っていたはずだ。思い出せ。ファイル島だけにしかない場所があると聞いて驚いたはずだ。デジタルワールドのどこを探しても見つからない、世界でたった一つの大切な場所。

 

ファイル島のかつての名前であるはじまりの島の名残は、今なおその代名詞ともいえるエリアによって残されているのではなかったか。ばっと顔を上げたタケルは、みんなに向かって言葉を荒げる。

 

 

「はじまりの街!ううん、はじまりの村とか、はじまりの場所、とか、そういう名前かもしれないけど、はじまりって名前がついてる場所、どこかにないっ!?

 

ワイズモンが言ってたんだ。ファイル島にあるはじまりの街はファイル島にだけあって、デジタルワールドのどこを探しても他には存在しないんだって!それは今も昔も変わらないんだって!

 

デジモン達がデジタマから生まれてくる場所、デジタルワールドのみんなの心のふるさと、始まりの街はきっとどこかにあると思うんだ!始まりって一番最初にしか使えないから、きっとあると思う!」

 

 

タケルの言葉に急かされる形で目を皿にして項目をスクロールしていくデジモン達。しばらくして、あった!とタネモンが双葉を揺らす。ここね!とピョコモンが歓喜を上げ、すごい!とツノモンが笑った。やったね、タケル!と満面の笑みを浮かべるトコモンに、うん、とタケルは頷いた。

 

さっそくそのエリアに該当する場所を探し出し、そっと手を当てたタケルは、データが起動する音が全体に響き渡るのを感じる。デジヴァイスによる翻訳作業が完了し、再びデータが表示される。ここからいよいよパスワードの入力が開始される。正念場である。ごくりと息を飲み、トコモンが読み上げる。

 

 

「はじまりのまち、エリアパスワードは……世界で一番初めに発見されたデジタルモンスター……?」

 

「発見された?一番最初に生まれた、じゃなくて?」

 

「誰が見つけたんだ?」

 

「さあ?」

 

「でも、こんな凄い機械が使えるのって、やっぱりゲンナイさんたちじゃないかな?」

 

「じゃあセキュリティシステムってこと?デジタルワールドを守るために、この世界が生まれたころからあったんじゃないの?エニアックって名前だったって書いてなかったっけ?」

 

「じゃあ、そのエニアックって名前だったころに見つけたデジモンってこと!?」

 

「そうよね、どこにでもいける装置なんてふつうできないわ。ここに書かれてる文字とか、希望の紋章があったあの遺跡とよく似てるし」

 

「……で、ゲンナイさんたちに一番最初に見つかったデジモンってなんだろう?」

 

 

沈黙が落ちる。みんな顔を見合わせてみるが、さっぱり分からないのは同じようだ。

 

 

「えっと、えっと、ブイモンたちがいっぱいいたころには、もうグレイモンとかガルルモンは居たんだよね?」

 

「鋼の帝国が古代種を滅ぼしたのはその後だから、マシーン型のデジモン達じゃないよな」

 

「ブイモンしかしらない古代種だったらどうするのよ、どうしようもないじゃない」

 

「でもさ、名前が変わってても、ティラノモンみたいにダイノ古代境って感じでエリアの名前に名残が残ってる奴もいるよ」

 

「昔の名前と今の名前が違うデジモンもいるってこと?」

 

 

しーん、と沈黙してしまう。うーん、どうしよう?みんなよく考えてみるのだ。この世界が生まれたばかりの頃である。一番最初に生まれてきたデジモンである。やっぱりデジタマから生まれてきたのだろうか。

 

にわとりと卵だったならどちらが先に生まれたのか、というささやかな論争となる所だが、自然発生的に生まれてくるデジタルモンスターは原則的にデジタマから生まれてくるのは間違いなさそうである。デジタマはデジタルモンスターには換算しない。ということは。

 

 

「幼年期1のデジモンってことにならない?」

 

 

誰ともなくつぶやいた言葉に、みんな頷いた。

幼年期1のデジタルモンスターは、デジタマから生まれてきたばかりの形態を指し、通常は時間経過によって幼年期2の姿に移行していくため、きわめて短時間しか存在しない世代である。

 

デジモン達は多種多様だが、デジモンの進化ツリーを下っていけばいずれかの幼年期1の姿に集約されていくことは、デジモン達自身が知っていることである。幼年期1と2が分裂しない種族のデジモン達もいるのだが、普通に考えればまだ枝分かれする種族が誕生していない、比較的新しい種族のデジモンであると言うことができそうだ。

 

あの螺旋屋敷で誕生したような複数のデジモン達のデータを合成し、誕生するのはあの妖精型デジモンが言っていたような生まれた時から成長期、成熟期、完全体であるのかもしれないが、それこそ人工の産物だ。

 

この世界が自然発生的に生まれた以上人為的なデジモン達は後から生まれたと考える方が自然だろう。これならある程度絞られてきたかもしれない。さいわいここにはたくさんの幼年期のデジモン達がいるのである。

 

前の世代の名前は本能が覚えているだろう。ここは片っ端からパスワードを記入するしかないようだ。さいわい制約は特にないらしい。タケルからおりたトコモンは、とりあえずポヨモン、と入力してみた。

 

どうやら違うようである。がっくり、と肩を落としたトコモンを抱き上げ、タケルはみんなに入力してくれるよう頼んでみることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟の入り口にある芝生の結晶の茂みから発せられた銃声が周囲にこだました。寒々とした空気の中に銃声が響く。がしゃあああん、と洞窟の上部にあった巨大な鉄格子のような結晶体の一部が落下し、山のような平たい針が積み重なる。 

 

縮こまったタケルたちは、あわてて大理石の部屋にあるモノ陰に隠れる。石化した木々の周りで銃声がこだまし、木々の鮮やかな色が揺り動かしているのが見える。どうやら追手がこの場所を見つけてしまったらしかった。

 

 

「みんな!腰を低くして!」

 

 

凛とする声が響く。誰、とタケルが声を掛ける暇もないうちの一声の忠告だった。銃声がすぐ頭上をつんざいた。タケル達は部屋の階段の上にしゃがみ込んで、密封されているはめ込み式のガラス越しに様子を伺う。誰もいない。姿が見えない。

 

でも、銃器を手にしてこちらにまで走り寄ってくる奇襲は、途中で立ち止まると見張りをしていたバーガモン目掛けて発砲したのである。銃声を食らった獣のような声がして、外を伺うと敵襲を知らせようとしたバーガモンが床に倒れ、苦しそうにかかとを蹴り上げている。

 

その後ろの壁に銃弾が当たり、格子状の結晶がずり落ちて、岩石の上で砕け散った。発射の轟音が周囲に反響していく。

 

 

つららのようにぶら下がっていた水晶化した苔の格子がまるで鏡のごとく衝撃で木端微塵に砕け散る。バーガモンが懸命に立ち上がり、タケル達のいる場所に逃げ込むと、二発目がすぐに後を追いかけてくる。こわばった動きで柱にもたれ掛かると、そのままずるずるとバーガモンはうずくまってしまった。

 

どうやら足をかばっているらしい。苦悶の表情が浮かんでいる。ダイスキなバーガモンがけがをしたという事実に幼年期のデジモン達は訳が分からなくなってパニック状態になる。

 

わーわーきゃーきゃーと悲鳴を上げてバーガモンの周りに駆け寄る子供たちを前に、タケルはあわててリュックからタオルを引っ張り出すとその傷口に当ててみるが、どんどんタオルは血に染まっていく。どうしよう、どうしよう、タケルは振り返ると、懸命にパスワードを片っ端から入力しているトコモン達にまだっ!?といらだったような声を上げるしかなかった。

 

まだらしい。何十というデジモン達の名前はことごとくエラーの言葉にはねかえされている。

 

 

大丈夫?と心配そうに覗き込んでくるタケルに、バーガモンはこくりと小さく頷いた。散弾銃のような破裂音が響き渡った。あいつ等だ、と反射的にタケルとトコモンは迷彩装置を皮膚に宿しているサイボーグ型デジモン達を思い出す。

 

悲鳴を上げるデジモン達に気付いたのか銃声がどんどん近づいてくる。せめて時間稼ぎをしなくては、とタケルたちはあわててバリケードを作っていたドラム缶の山に向かって衝撃を与える。

 

ツノモン達の必殺技がさく裂し、がらがらがらという轟音を立ててドラム缶の山が大理石の部屋を封鎖してしまった。発砲の衝撃で、光が雨のように降り注ぐ。ぐったりとしているバーガモンを介抱するタケルだったが、エプロンがどんどん血で滲んでいく。

 

それでもぎゅうぎゅうとタケルはタオルを押し当てるしかない。近くの岩石ががはじけるような音がして、姿の見えない襲撃者は近づいてくる。注意深く窓を覗き込むと、二つの巨石にはさまれるようにして自生している

 

白い結晶体が巨大な王冠のように肥大している

のがわかる。そのガラスが宝石のようにちらついていて、その奥に何かが動いているのが見えた。足音はどんどんこちらへ飛び越えてくる。少し遅れて複数の足音がする。

 

怯えている幼年期のデジモン達を懸命にタケルはなだめるしかない。まだなの、ねえ!と懇願するような叫びに、デジモン達は最後の一手とばかりにデジタルモンスターの名前を入力した。

 

始まりの神様のパートナーデジモンであり、同姓同名のこの世界の選ばれし子供のパートナーデジモンでもある幼年期の名称を打ち込んだ。

一抹の希望を胸にキーを叩いた彼らは、待望のワープゾーンが発動する瞬間を目の当たりにすることになる。

 

 

「やった!みんな、こっちだよ!早く来るんだ!ここから逃げるよっ!!」

 

 

トコモンの声に一目散に幼年期のデジモン達が走り抜けていく。タケルはバーガモンに手を貸しながら、血ですっかり汚れてしまった手でしっかりとバーガモンの手を握り締めた。一緒にこの世界から脱出するって約束したのだ。

 

絶対に離すもんか、と力強く先導してくれるタケルにバーガモンは荒い息を溢しながら、よたよたと歩いていく。

 

彼らが集った時。間髪で透明武装をしていた部隊が強制突入を敢行した時には既に遅く、ワープゾーンはその扉を固く閉じてしまったのだった。

 

追っ手は後に続こうと周知のパスワードを入力するがエラーの言葉が電光掲示板に表示され、

拒絶のサイレン音が辺りに響き渡った。何者かによって書き換えられてしまったプログラムを解析することができる者たちはその場にいない。

 

間一髪でタケルたちは謎の武装組織が占拠している結晶世界から脱出することができたのだった。やがて、タケル達はそのプログラムハッキングの主犯の隠れ家であるのどかな田園風景が広がる古民家に足を踏み入れることになる。

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