(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第138話

行楽シーズンの話題を特集したVTRについて、にこやかにコメントしていた女性アナウンサーの表情が一変する。真面目な表情で背筋をただした彼女は、横から差し出された原稿を読み始めた。 

 

この後予定されていた筈のドラマ再放送の予定を急遽変更する、と宣言した彼女は、まっすぐに太一たちに向かって、緊急特別番組を放送すると口にして、彼らを驚かせた。

 

すぐ後ろではあわただしく報道部のオフィスが裏付けに奔走しているのか、スタッフがざわめいているのが伺える。ばたばたばたと走っていく男性の姿も見えた。コメンテーターの男性やニュース解説を請け負っている有名人の芸能人もどこか表情がぎこちない。

 

臨時ニュースが入りました、と彼女が原稿を読み上げる。想定していない原稿の差し込みのためか、幾度か同じ文言を緊張した面持ちで繰り返す。

 

 

「臨時ニュースです。本日正午すぎ、東京都港区お台場の臨海公園広場周辺にて携帯電話が通じない、TVやラジオに受信障害が起きるなどの現象が相次ぎ、原因不明の電波障害が発生するという事件が起きました。

 

現在、臨海公園周辺では電波障害は収まっており、一時的なものであると考えられていますが、4年前に発生し、今なお犯人が捕まっておらず未解決なままの光が丘テロ事件の前夜と状況が酷似しており。

 

警察は周辺の警備体制をひき、交通規制を行うことを発表しました。同一犯の犯行と見て犯人の足取りを追っています」

 

 

光が丘テロ事件についての解説を求められたニュース解説者の男性は、本来なら番組側が作成したフリップ片手に説明するべき詳細について、なるべく分かりやすく言葉をかみ砕く。

 

彼が口にしたのは、「違法電波テロ」という言葉である。よくわからないものの、テロ、という言葉のイメージから太一は顔をしかめた。

 

 

「こえー。もしかしてみんなが騒いでたのって、これのせいだったのか?」

 

「僕たちのせいじゃなかったんだ」

 

 

太一は思わず食い入るようにしてテレビにかじりつくのだ。ついさっきまで太一たちがいた場所だ。どうして?と首を傾げる光に、コロモンはこの世界に来るまでの経緯を簡単に説明する。

 

なるほど、ニアミスか、それなら太一とコロモンが吃驚するのも無理はない、と光は思うが、

コロモンが電子機器に近付くたびに、表示がどこかおかしくなったり、変な音がしたりするのに気づいて、思わず光はお兄ちゃん、と太一を呼んだ。

 

そしてコロモンを連れて、テレビのすぐそばまでやって来た光は、テレビがいきなり変な斜め線が入り始め、ざーざーという砂嵐と共にアナウンサーの声が雑音になり、あっという間にテレビが壊れてしまったと錯覚するほどの変貌を目の当たりにすることになる。

 

びっくりしてコロモンと一緒にキッチンまで避難した光は、何事もなかったかのように動いているテレビを見た。光の腕の中で太一と同じようにあんぐりと口を開け、ひきつった顔をしているコロモンは、だらだらだらと冷房が効いているにも関わらず、滝のような汗を出している。 

 

太一の視線がコロモンにむく。コロモンも太一をみる。光が見たのは、顔面蒼白の太一である。

 

 

「ど、どどどどうしよう、太一!て、テレビに映ってるの僕たちが来た場所だよね!?」

 

「しょ、正午すぎって俺たちがデジタルワールドから帰ってきた時間じゃねーかっ!丸い時計で見たもん、間違いねーよ、え、え、嘘だろ、俺たち捕まっちまうのか!?」

 

「え?これ、お兄ちゃんたちのせいなの?」

 

「ち、ちげーよ、俺たち何にもしてねえよ!気づいたら臨海公園のど真ん中に立ってたんだ!」

 

「僕たちなにもしてないよ!」

 

 

必死で弁解する太一たちを横目に、違法電波の危険性は誇張気味に報道されている。電波はみんなのものです、という言葉から始まったニュース解説によると、情報社会を迎えた現代社会においては、電波を用いて行われる電気通信では無くてはならないものである。

 

電波は家庭の中、日常生活の中で多く飛び交っているものであり、緊急や公共で使用している警察、消防、救急無線や、鉄道無線などがある。

 

それらが一時的にでも使用不能となれば、公共の電波が妨害されてしまい、事件や事故などのときの対処に遅れてしまい、大惨事になることだってありえる。

 

その最悪とも言うべき事例として真っ先に上げられるのが、光が丘テロ事件なのだという。

 

そのため、日本では電波法という法律の中で電波の使用は厳しく規制され、用途別に厳重に管理、監督されていたのだが、この事件の後、電波障害を発生しうるものを所持しているだけで、さらなる厳罰が課せられるようになった。

 

無線を使った放送をする場所を作る場合、免許や登録が必要である。その免許や登録にも、法令上の技術基準に合っているか、周波数の割当てが可能か、開設の基準に合致するか、という厳しい審査を通って認可を受けないといけない。

 

免許は持っていても、出力の幅を大きくしたり、周波数で電波の発射することは禁止されている。それを無免許で行うと、1年以下の懲役または100万円以下の罰金、禁止行為をしていると5年以下の懲役または250万円以下の罰金である。

 

光が丘テロ事件はこの不法電波行為を行う人間が関わっていると言われている。

 

なぜかというと、これらの不法電波を飛ばすための基地局は、通信距離を向上させるため、大出力の送信機用増幅器を設けて運送用車両に搭載されることが多く、道路沿線での電波障害や免許を受けている正規の無線局に妨害を与えるため大きな社会問題ともなっている。

 

光が丘テロ事件の際に発生した警察無線・消防無線の妨害電波の発生、それに伴う様々な二次災害は、日本最大規模の違法電波障害が端を発したと調査結果が出ているのだ、と彼は言葉を繋いだ。

 

 

ここで4年前に起こった違法電波テロから発生した光が丘テロ事件についての解説が始まる。

まずは場所の確認。どこから引っ張り出してきたのか練馬区の地図を拡大して表示した映像が映る。

 

解説者の男性は練馬区の北部に位置する新興住宅地を指差し、映像はそちらにながれていく。

多くの団地が立ち並び、中心地には光が丘駅やショッピングセンターがあるのが確認できる。

ひときわ目を引くのは団地内にある多くの公園だろう、とはアナウンサーの声である。

 

光が丘公園は光が丘駅の北側に存在し、図書館、体育館、テニスコート、野球場など人々の憩いとなっているとのこと。そして、光が丘公園内にある体育館が地図の映像の中央に拡大でうつされる。

 

ニュース解説者の男性は1994年、平成6年に完成したこの体育館で、当時建設1年目だったこの体育館が多くの避難住民たちの生活を支えた場所だったのだと説明する。

 

4年前の1995年、3月上旬、夕方のとあるマンション周辺に端を発した電波障害は、時間を追うに連れて規模が拡大していき、最大で練馬区全体にまでおよんだという。拡散されたともいえる。電波をかく乱した装置を乗せた自動車が、そのマンションを起点に一斉に区内を走り出したのだろうと思われたが、一切その車を発見できなかったというオカルトチックな都市伝説がある事件である。

 

やがて電波障害によって外部との連絡が一切絶たれてしまった光が丘団地において、大規模な爆発と火災が発生、マンション周辺を中心にテロ事件が発生したというあらましだ。

 

 

テレビには当時24時間延々と流され続けていた光が丘の集合団地周辺が映し出される。太一たちの目に飛び込んできたのは、まるで紛争中の危険地帯、もしくは世紀末の光景である。ぼろぼろに崩れてしまった瓦礫の中に、集合団地らしき光景が辛うじて見える。

 

まるで巨大な腕でへし折られたかのように、凄まじい衝撃でぐんにゃりと曲げられた歩道橋が印象的だ。下敷きになった車がたくさんある。幸い深夜だったこともあり、下敷きになった者はいなかったらしい。 

 

しかし、集合団地のためひしめき合っているマンションや住宅地には、あちこち火災が発生しているらしく、黒煙がもうもうと立ち込めていた。まさしく地獄絵図である。

 

避難する人、救助活動をする人、報道陣、人が入り乱れてパニック状態になっているのがよく分かる。1995年は衝撃的な事件、事故、出来事が数多く起こった年ではあるものの、光ヶ丘テロ事件はその中でも指折り数えるほどの衝撃を与えたことでも有名であると解説者は語る。

 

世界で一番安全であるという神話が崩壊した年にトドメをさしたと言っても過言はなく、日本の首都東京ど真ん中で真夜中に起きたテロ事件は、大々的に行われたにも関わらず犯人グループの声明文はなし、犯行方法はおろか、犯人グループの意図も目的も不明、という異様で不気味な様相を呈しているせいで、ことさらオカルトチックな面が強調されているのも事実だった。 

 

事故などありえないのだとコメンテーター役の芸能人が補足する。アナウンサーも解説者もそれだけは意見が一致しているようで頷いている。映像に映し出されている大きな穴の開いた建物がいくつもある。

 

それを指差しながらの彼曰く、大型砲弾を一点から乱射したかのような一定の軌道上に炎上した巨大な鉄の塊が打ち出されており、その鉄の塊はこの地球上では存在しえない金属だったとか、物質だったとか、いろいろ噂は立っている。

 

警察は証拠物件について4年たった今でも一切詳細を明らかにしていないため、報道機関では鉄の塊という形容しかすることができないようだった。

 

 

他にも巨大な鳥の羽のようなものまで残されており、これが一体何に使われたのか、謎が謎を呼ぶ出来事であるのは間違いないようだった。

ブラウン管の向こう側で交わされる会話に、太一はさっぱりついていけないのだ。

 

1995年春といえば太一はもう小学校1年生の時である。物心はついている。忘れもしない。大好きな御爺ちゃんに進学祝いにゴーグルを貰った年ではないか、アナウンサーの口走る日付は間違いなくトレードマークのゴーグルはつけていた時期だ。

 

この年に起こった他の大事件や出来事についても触れられる話題を耳にするとぼんやりとではあるのだが、ああ、聞いたことあるなあ、とか、知ってるぞこれ、というデジャヴを記憶の彼方から仄かに感じることができるのだが、光ヶ丘テロ事件という出来事についてはさっぱり思い出すことができないのである。

 

ニュースでやっている外国の出来事のような感覚に陥りかけてしまうものの、太一とコロモンがこの世界にやって来た瞬間に起こったという電波障害と関係があると言われてしまうと、どうしても気になって気になって仕方ない。そわそわしているのはコロモンも同じだ。

 

どういうわけかデジタルモンスターは電波を発しているらしく、あまり近づきすぎるとまたテレビが壊れてしまう。仕方ないので光の膝の上で必死に映像を見ているコロモンである。

 

テレビでは情報を少しでも集めようとして躍起になったのか、本来別の案件について都内住民への街頭インタビューをするはずだった女性アナウンサーが中継が繋がった状態で主婦の女性に話を聞いている。

 

 

お台場と赤坂から交通の便が非常にいいうえ、団地の中心に駅とショッピングセンターがある現地は人通りが多い。練馬区は今年の夏の最高気温を更新する猛暑日のようで、インタビューをするアナウンサーも受けている主婦も暑そうである。

 

その主婦はどうやら光が丘テロ事件が起きてから入居者が離れ、一度取り壊されてしまったマンション跡地に作られた別の不動産屋が管理するマンションの住人だったらしく、再び犯人が来るのではないかと心配していた。

 

さすがに現場となったであろうマンション周辺を許可なく映すのははばかられるのか、マンションだらけで特定できないエリアを選んでカメラは回り続けている。やはり東京の新興住宅街と言うこともあって、復興の速度も速かったのだろう。

 

4年もたっているためか、先ほどの映像にもあった瓦礫の街の面影はどこにも無かった。ぽたり、と温かな滴が零れ落ちてきて、びっくりしたコロモンがどんぐりまなこを光に向ける。ひかり?と声を掛けるコロモンをぎゅうと抱きしめた光は、そのままソファに沈み込んでふるふると首を振った。

 

えぐえぐ泣き始めた光は、パジャマでぬぐってもぬぐっても止まらない目じりの熱さになおさら気持ちを急きたてられてぐしゃぐしゃになっていく。

 

 

「違うの」

 

 

辛うじて人の言葉になったのは、この3文字だけだった。今にも消えてしまいそうなほどに儚い音がする。今にも泣きそうな嗚咽が聞こえてくる。反射的に立ち上がった太一は後ろを振り返った。

 

大丈夫か、光って優しいお兄ちゃんの声がして、光は何も言わないまま太一の広げられた手の中にすっぽりと納まった。よしよしって背中を撫でられてほっとしたのか、光は太一に寄りかかる。

 

コロモンは光と太一を二人にした方がいい気がして光の腕から出ようとするのだが、光の腕の力が強くなり、にがすまいとしっかり抱きしめられてしまったコロモンは動けないままされるがままになっている。

 

 

「光?」

 

「……違うの」

 

「え?」

 

「お兄ちゃん、覚えてない?私たちね、あのおうちに住んでたんだよ」

 

 

テレビは光が丘テロ事件の悲惨さを強調すべく被害に遭ったマンションが撮影されている。すっと指差す先には、ヘリから撮影されているマンションの一角に、子供部屋と思しき部屋の窓が大きく穴が開いており、蹴破られた形跡が残されている場所がある。

 

ガラスが散乱し、ベランダの花壇は何者かに踏みつけられて鉢植えがいくつもバラバラに壊れ、見るも無残な形で花々が花弁を散らしていた。ぼろぼろになった二段ベッドと思しき木片も散乱している。

 

 

「え?ほんとか?光が丘に……俺たち、住んでたっけ?うーん、一回引っ越したのは覚えてんだけどなあ」

 

「ほんとに、なんにも、思い出せないの?お兄ちゃん」

 

「うーん、だめだ、全然覚えてねえや」

 

 

みるからに落胆している光に申し訳なく思うのだが、太一の記憶の中には一切感慨深いものは浮かんでこないのが現状だった。

 

ありがと、お兄ちゃん、とようやく落ち着いたらしく光がそばを離れていくのを感じたので、太一はそっと頭をなでると傍から離れた。そして光はコロモンを抱っこしたままソファに座る。太一もすぐ隣でテレビを見ることにした。

 

 

「あの家が俺んちってマジかよ」

 

「みんなのおうち、壊れちゃったの」

 

「ほんとにボロボロだな、窓んとこ穴開いてるじゃん」

 

「あれ、コロモンがね、ぴょーんって、飛んだの」

 

「え?」

 

「私、頭の上に乗せたままで、 降りられなくなって、コロモンがね、コロモンがおっきな恐竜さんになって、おっきな鳥さんとケンカしたからなの」

 

「………なあ、光。まさかとは思うけど、コロモンと逢ったことがあるっていうのは、もしかして、テレビでやってる、光が丘テロ事件のことなのか?」

 

「うん」

 

「ほんと、なのか?」

 

「うん。これくらいの卵がねお父さんのパソコンの中から出てきたの。これくらいの真っ黒な子が生まれてきて、しばらくしたら、コロモンが生まれてきたの。  

 

今度はオレンジ色の恐竜さんになっちゃって、すっごく大きな大きな恐竜さんになっちゃって、緑色の鳥さんと大喧嘩したの、お兄ちゃん。

 

コロモン、あの橋の下になっちゃって、もうだめって思った時に、お兄ちゃんがね、私の笛で、こうやって、ぴーって鳴らしたんだよ。そしたらね、コロモン、おっきなおっきな火を出してね、緑色の鳥さんと一緒に消えちゃったんだ」

 

「アグモンに、いや、グレイモンにまで進化したのか!?デジヴァイスもなしで!?一体何なんだよ、そのコロモン」

 

「あぐもん?ぐれいもん?」

 

「あー、その、コロモンがおっきくなったオレンジ色の恐竜がアグモンっていうんだ。そんで、その次に大きい強そうな茶色い兜かぶってるオレンジ色の恐竜がグレイモンっていうんだ。な?コロモン」

 

「うん。僕たちが大きくなると名前が変わるんだよ、光」

 

「そうなんだ」

 

「ってことは、その緑色した鳥のデジモンとグレイモンが戦ったのか?こんな街のど真ん中で?よくばれなかったな、おい」

 

「みんな、見てたよ」

 

「え?まじで?」

 

「うん。近所に住んでたお友達とか、お家の人達、みんな見てたの。みんな、コロモンとおっきな鳥さんがケンカしてるの見てたはずなのに。でも、みんな覚えてないって。知らないって。みんな忘れちゃったんだって」

 

「……なあ光。もしかして、お前、その、ずっと覚えてたのか?」

 

 

こくりと頷く光は何も言わないままコロモンに抱きついている。

 

 

「みんな、みんな、忘れちゃったの。お兄ちゃんだけじゃなくて、なんにも覚えてない人がいっぱいいたから、お父さんとお母さん、私たちのこと心配して、今のお家に引っ越してきたんだよ、お兄ちゃん。お父さんもお母さんも怖いことがあったんだねってなんにも言わないでいてくれるの」

 

「……そっか、そうなんだ。ごめんな光。ひとりぼっちでそんなことずっと抱え込ませて」

 

「ううん、いいの。でも、お兄ちゃんにお話しできて、ちょっとだけ、ほっとしちゃった」

 

 

儚げに笑う光の頭をぽんぽんとなでながら、太一は消失した記憶を補うべく、ニュースキャスターの報道を食い入るように見ているのだった。

 

 

「太一」

 

「なんだ?」

 

「僕、この世界にいちゃいけないのかなあ?」

 

「そ、そんなこというなよ!俺たちいつも一緒にいたじゃないか!」

 

 

ぽつりと寂しげにつぶやかれた言葉に太一は一瞬言葉に詰まる。デジタルモンスターという生命体はこの世界では正真正銘本物の怪物である、という事実を改めて認識させられる映像が延々と流れ続けている。

 

今まで意識することがなかったどうしようもない隔たりをコロモンはありありと感じているのだろう。そんなコロモンがどこかに行ってしまうとでも本能的に察知したのだろうか、目の前からサヨナラも言わずに消えてしまったトモダチの再現をされてはたまらない、とばかりに光のコロモンをだっこする力が強くなる。

 

 

「そんなこと言わないで」

 

「……光」

 

「もうやだよ。なんにも言わないでどこかにいっちゃやだよ、コロモン。トモダチだって言ったのに、サヨナラも、また逢おうねって約束もしないで、目の前で消えちゃやだぁ……」

 

「光……」

 

「ごめん、ごめんね、光。でも、僕……」

 

 

コロモンの言葉を遮るようにテレビ中継がにわかに騒がしくなる。計画的に配置された街路に高層マンションがひしめく独特の景色を疾走する報道陣。カメラ機材が飛び跳ねるたびに激しい手ぶれで映像が乱れるが、それ以上に斜め線

の亀裂、雑音、耳障りな砂嵐が邪魔をする。

 

光が丘2丁目の団地にさしかかったカメラは、とうとう本格的に映像の乱れが直視できないレベルにまで達する。興奮した様子でアナウンサーが臨海公園で発生した電波障害との類似性を叫んでいる。

 

パラパラ漫画のように流れていく映像はコマドリのようにゆっくりとすすみ、風景が変化する。駐車場第二ゲート、自転車置き場の柵、練馬光が丘病院前の交差点、駅から光が丘公園へまっすぐ延びるプロムナードのふたご橋、プロムナードタウンを駅の方に歩いていって、プロムナードに戻る途中に自販機が見えた。

 

やがてカメラは光が丘病院前交差点から北東へすぐのところにある歩道橋を渡り、ショッピングセンターにまでやってくる。ファミレス、パーキングメーター、陸橋・月見大橋」から下へ下りる階段を降りたアナウンサーたちは、大通りのど真ん中からマンションが見渡せる場所に出た。 

 

一瞬だけ、砂嵐のブラウン管に光が丘集合団地を見渡せる大通りが映し出される。

 

 

「みなさん、あの信号機をご覧ください!大変です!先程からランダムに灯りが切り替わりら交通は完全に麻痺しています!それに、光が丘病院の電光掲示板が完全に機能を停止、先程から意味不明な言語が羅列されていて、全く読むことができません!

 

先程入った情報に寄りますと、光が丘病院内では電子機器の一部が故障、業務に支障を来しているため、緊急電源に切り替え、なんとか対応しているとの事です。強い電磁波が発生している模様です。ペースメーカーをお持ちの方は光が丘から避難してください!」

 

「××さん、これは光が丘で起こったテロ事件との関連性はあるのでしょうか?」

 

「まだ分かりません。しかし、あの夜に起こっていた出来事とあまりにも状況が酷似しています。これは緊急事態ですね、みなさんは外を出歩かず、政府からの発表があるまでは屋内にて待機してください」

 

「ここで政府からの緊急記者会見が行われる模様です。現場の、××さん!」

 

 

光が丘集合団地の異様な光景を映し出していた白黒の映像が切り替わる。ほんの一瞬、太一とコロモン、そして光は、上空に巨大なタマゴが産み落とされるのを見た。

 

 

「なんだあれ!?」

 

 

政府による緊急記者会見に切り替わってしまう。くそって舌打ちをした太一はチャンネルを切り替えて光が丘を写している番組を探すが、

すべてのチャンネルは総理大臣の記者会見に一極集中し見ることが出来ない。

 

 

「タマゴ、タマゴだよ、太一!あれ、ものすごくおっきいデジタマだ!」

 

「ええええっ!?嘘だろ、デジタマってこれくらいのおおきさじゃねーか!」

 

「でもさっき映ってた掲示板の文字、デジ文字だったよ!なんて描いてあるのかわからなかったけど!」

 

「ってことは古代デジ文字かよっ!?あんなおっきなデジタマから何が生まれるって言うんだ!?大変だ、あんなおっきなデジタマからデジモンが生まれて大暴れでもしたら大変なことになる!いくぞ、コロモン!」

 

「うん!」

 

「待って!私も、私もいくっ!」

 

「ば、ばか、何言ってんだ!光は留守番してろよ!」

 

「やだーっ、私もいくの!つれてって!一人にしないで!コロモンもお兄ちゃんも私の知らないところにいっちゃやだーっ!!」

 

 

しっかりとコロモンを抱きしめて離そうとしない光に、身動きが取れないコロモンは、すっかり困り果てて太一を見上げた。

 

 

「太一、早くしないとデジモン生まれちゃうよ!」

 

「………っ。あーもー、くそ、分かったよ!でも絶対に無理はすんなよ、光!これはおってけ!光、お前風邪ひいてるんだからな、絶対にわすれんなよ!」

 

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