つながっている頭胸部と腹部から伸びる長い長い尾部の影が蠢いている。尾部は節ごとに分かれ、古代遺跡の天井ギリギリまでの高さに弧を描いていた。最後の節は大きく膨らみ、猛毒を仕込んでいるぎざぎざの形状となっている。
その先には、鈍色に光る鋭利な刃物のような形に進化したモリが突き出していた。確実に獲物の呼吸器官に突き刺さるように、小さな鉤がいくつもついている。4対の歩脚がせわしなく選ばれし子供達を執拗なまでに追跡していた。
尾部を曲げて、体の上の前方に伸ばしている独特のシルエットから逃れるべく、必至で太一たちはひたすら前に続くデジ文字のレリーフが発光する先を急ぐのだ。巨大な鋏が2つ振りかざされたら最後、頭と胴体がお別れしなければならないのは明白である。
きっと、獲物を確保するために振り下ろされた鋏は、彼らを土壁に磔にするだろう。そして、鋏でしっかりと固定された挙句、尾部の針を勢いよく突き刺され、猛毒を注入されたら最後、その巨大な鋏で細切れにされて巨大なデジモンの餌食になるのは目に見えている。
滅多に現れない獲物が迷い込んできたのである。砂漠地帯で生き抜くデジタルモンスターは、絶食に耐えるものが多いだろうが、一度狙いを定められたら最後、追いかけてくるのは誰もが分かっていた。
古代遺跡に迷い込む前で幸いである。岩の下や土の中、なにかの隙間に入ってじっと太一たちが来るのを待ち受けられていたら、さすがになすすべがなかっただろう。
太一たちは必死で逃げるのである。追跡者を確認する暇などない。少しでも距離を稼ぐために歩道橋を駆け上がった太一達が見たのは、迫りくる黒い霧状の物体である。そこだけがもやがかっていて、姿を確認することが出来ない。真っ暗になっている。そして、どんどん暗闇が迫りくる。
まるで浸食されているように、薄暗い空間がどんどん近づいてくるのである。もういても経ってもいられるわけもなく、生命の危機を知らせるのは生存本能に任せて、太一たちは全速力で突っ走っていた。
ごろごろ転がっているレリーフの成れの果てを踏みつけないように飛び越えながら、太一は必死で光の手を引っ張るのである。光もつまづきそうになりながら、こけそうになりながら、必死で大好きなお兄ちゃんの背中を追いかける。
頭の中はもう真っ白で何も考えられない。黒々とした靄のようなものがどんどん近づいてくる。
「コロモン、何やってんだよ、こんな時にっ!!」
パートナーデジモンがいないことでただのデジタル時計と成り下がってしまっているデジヴァイスと紋章を握り締め、必死で太一はコロモンを呼んだ。助けてくれ、と街中に響き渡る太一の叫びがこだまする。
そしてとうとうデジタルワールドとおぼしき異空間から、サソリのようなデジタルモンスターが現実世界に姿を現してしまった。ぐんにゃりとした歪みが現実世界にはき出される。そのゆがみはやがてデジタルモンスターの姿となり、地上に降り立った。
そして、黒い霧に覆われてしまったデジタルモンスターの一撃がはるか太一達の頭上を通り過ぎ、向かいの建物を突き抜けた。凄まじい轟音と共にふって来るであろう瓦礫の雨から逃れるべく歩道橋を駆け下りた太一達は、一向に降りてこない瓦礫に思わず空を見上げてみる。
「え?あ、あれ?なんですり抜けてんだ?」
サソリのようなデジタルモンスターは凄まじい勢いで光が丘団地を蹂躙しているのだが、まるで実体がない透明な靄に包まれているためか、すべての攻撃はすり抜けている。光が丘テロ事件のような光景を想像していた太一と光は、ちょっとだけ安心して力が抜けてしまった。
「違う、違うよ、お兄ちゃん!あれ見て!凍ってる!」
光が指差す先には、デジモンが接触していく場所が全てプリズムのように輝く結晶が形成されていく奇妙な光景だった。太一と光のことは眼中にないのか、縦横無尽に駆けめぐっていくデジタルモンスターにより結晶地帯は拡大していく。
ぱらぱらぱらとビルに形成された結晶体が歩道に降り注いでくる。あわてて安全地帯に逃げ込んだ光と太一は、おそるおそる粉砕された結晶を拾い上げてみた。
「氷じゃねえぞ、光。これ、なんだろ、プラスチック?」
「キラキラしてるね、綺麗」
「それにしても、なんであいつ透明なんだろう」
「さわっちゃだめ」
「え?」
「それは水晶だよ。さわると結晶になっちゃうの。みて、あのビル。どんどん結晶が大きくなってるでしょう?その結晶は生きてるから、どんどん大きくなっちゃう」
あわてて太一と光は結晶を払った。たしかにビルからクリスタルの塊が生えている。
「まだあなたたちの世界とデジタルワールドの境界が曖昧だから、これだけで済んでるのね」
ぽつりとつぶやいた太一の言葉をすくいあげるのは、女の子の声だった。
「だから、あの子たちはまだ蜃気楼でしかない。こっちの世界に干渉できるほど、実体化できないの。デジモンのことをしってるあなたたちだから、あの子たちが見えるだけ」
突然聞こえてきた声に驚いた太一と光は辺りを見渡してみる。
「こっち。こっちだよ、私はここにいるの」
太一!とコロモンが空から落ちてくる。なんとかナイスキャッチすることが出来た太一は、なんで勝手に行っちまうんだよ!と怒鳴りつけ、
ごめんなさい、とコロモンをしょんぼりさせた。
コロモン曰わく、生まれ故郷であるデジタルワールドに帰れるかもしれない、と思ったら
頭が真っ白になってしまったとのことである。とんだお騒がせだ。
コロモンが落ちてきた上には電光掲示板があって、そこには太一くらいの女の子が座っていた。古代デジ文字がアトランダムに流れていく掲示板から、こんにちはって女の子が笑う。
「コロモンのこと、助けてくれたの?」
光の問いかけに、こくりと頷いた女の子は電光掲示板に触れた。デジ文字で表示されていたデータが日本語に変換される。
スコピオモン
世代:完全体
種族:昆虫型
データ種
「砂漠の暗殺者」と呼ばれる、昆虫型デジモン。気配を感じさせず背後から近づき、尻尾の先の猛毒針で相手を突き刺す。スコピオモンの持つ毒は、神経データの伝達スピードより速く、刺されたことにさえ気づかれず絶命してしまう。そのため、相手にその存在すら知られることが無いのが、暗殺者と呼ばれる所以である。得意技の『ブラックアウト』は軽度の毒霧を散布しで相手の視力を奪う。これにより相手に姿を見られることは絶対に無い。必殺技は、尻尾の先にある猛毒針『ポイズンピアス』。
「誰かが無理矢理、ここにあるデジタルゲートをこじ開けようとしてるの。だから、こっちの世界とデジタルワールドの境界が曖昧になって、あの子たちは迷い込んでしまったのね。
完全体だから電波障害がとっても大きくなってしまう。わたしは、あの子たちをお迎えに来たの。まさかここまで歪みの規模が大きくなるとは思わなかったから、動けるのがわたししかいないから。
デジタルワールドが逆さまにみえるのも、デジタルゲートにアクセス権がないわたしがここにいられるのも、こうやって繋がりかけてるから」
「なあ、誰なんだよ、お前。なんでそんなこと知ってるんだ?」
光をかばうように太一が前に立ちふさがる。
いつかみた光景を懐かしそうに目を細めた女の子である。
「わたしはあのこたちのお迎えなの。このあたりのことを一番知ってるのは、わたしだから。
心配しないで。わたしは守護デジモンだから」
こんにちは、と穏やかに笑ったのは、女の子である。音もなく電脳掲示板から降りてきた女の子は、音もなく着地する。そしてゆっくりと歩みを進めた。
「はじめまして。ううん、おひさしぶり、です」
おひさしぶり、の意味が分からなくて、太一たちは顔を見合わせる。もちろん外国人のような外見をもち、流ちょうな日本語を話す女の子なんて彼らはしらない。太一より少し年下で、光よりも年上な女の子なんて知らない彼らは混乱する。優しい目をしている女の子は、嬉しそうに目を細めている。
「あの、どこかであったこと、ある?」
こくり、と女の子はうなづいた。
「光、知ってるのか?」
「ううん、わかんない。でもなんだかとっても懐かしい気がするの。お兄ちゃんは?」
太一は首を振った。光は懐かしい気持ちになるものの、いつか思い出せないので首をかしげるのだ。鈴を転がすように笑う女の子がいる。透き通るような蒼い目をしたお人形さんみたいな風貌の女の子は、マネキンと見間違えるほどほっそりとしたゆびで口元を抑えて微笑んでいる。
紫がかった栗色にも似たあずき色の髪の毛をした女の子は、天然パーマが入っているのかふわふわのウエーブがかかっている。光よりも年上の女の子だ。でも太一よりは年下だろう。たぶん、小学校3年生か4年生くらいの女の子である。
まっすぐに警戒している成長期のデジモンと新たなる選ばれし子供を瞳に映して、にこりと笑ったのだ。もしほほえみだったなら、マネキンのごとくぞっとする美しさと神秘性を同居させていただろうが、てくてくてく、と気にしないでどんどん近づいてくるのだ。飛び切りの笑顔がそこにあるのだ。
光は恐怖こそ抱かなかったが、積極性にあふれる性質ではないので反射的に戸惑いと困惑、微妙な羞恥に駆られてまごまごしてしまう。
「まってたの」
「え?」
彼女の眼差しは光、太一、アグモンの順番で向けられる。
「ずっと、ずっと、まってたの。あなたを。あなたたちを。あなたたちに逢えることを、わたしはずっと待っていたの」
光は、少女がとうとうあと一歩で重なってしまうんじゃないかってくらいまで近づいてきたので、ちかい、ちかい、ちかいよう、とドキドキしながら赤面した。よろしくね、と差し出された手に、おずおずと握手を交わす。外国の女の子は積極的なんだなあと見当はずれなことを考えていた。
「この姿であなたに会うのははじめてだけれど、あなたはわたしのことを知ってると思うの。わたしはずっと、そのことについて、謝りたくて、このときが来るのを待っていたの。
ごめんなさいしたくて、ずっと、待ってたの。この世界にきたのは、あの子たちのお迎えのお仕事だから、まさかこんなところで逢えるとは思わなかったけど、とってもうれしい」
「あの、お名前は?」
「わたし?わたしは、なっちゃんて呼んで?」
「な、っちゃん?」
「うん」
なっちゃんと名乗った少女に、大輔の話を思い出した太一とコロモンは、弾かれたように声を上げた。
「なっちゃん!?なっちゃんってあの、大輔が言ってた、あのなっちゃんなのか!?」
大輔、という言葉を聞いたなっちゃんは花咲くように微笑んで、こくりと頷いた。
「そっかー、デジタマになっちゃったって大輔から聞いてたけど、復活出来たんだ?よかったな。大輔に会えたら、言っとくよ。きっと喜ぶだろうしさ」
「うん、だいすけによろしくね」
「そっか、だからぼくたちとおなじにおいがするんだね」
「うん」
さっぱり話に着いていけない光は助けを求めるようになっちゃんに視線を向ける。こくり、と頷いたなっちゃんは、改めて太一たちの前に進み出ると、小さくお辞儀をして自己紹介を始めた。
「わたしはね、アグモンと同じデジタルモンスターという生命体なの。人間ではないの」
え、と光は思わず固まってしまった。つま先のてっぺんから頭までどこからどう見ても女の子にしか見えないなっちゃんは、コロモンと同じデジタルモンスターという生き物なのだというのである。吃驚するなと言う方が無理だろう。目をぱちぱちとさせている光は、アグモンを見た。
「ねえ、コロモ」
「光、今の僕はアグモンだよ」
「あ、ご、ごめんね、アグモン。アグモンもなっちゃんみたいになれるの?」
ぶんぶんとアグモンは首を振った。くすくすとなっちゃんは笑う。なっちゃん曰わく、ニンゲンの姿になれるデジモンもいるけれど、アグモンはできないらしい。
「わたし、ずっと【ごめんなさい】がいいたくてまっていたの。」
「・・・・・・・え?」
光は瞬きした。ごめんなさい、という一言で脳裏をよぎるのは。フラッシュバックするのは。
え、うそ、え、でも、と混乱している光に苦笑いを浮かべたなっちゃんは、すっと人差し指をかざした。
すると、さきほどスコピオモンのデータを表示していた電光掲示板が反応する。なっちゃんが何かを入力するとまるでテレビのように映像を流し始めた。そこにいたのは大きな大きなオウムだった。あ、と声を上げたのは誰だっただろうか。
実際にこうして正体を現されると、人間ではないデジタルモンスターであるという異質性が改めて浮き彫りとなる形だ。二本の真っ赤な触角にも似た羽が垂れ下がり、兜のように額の部分だけ高質化し、機械でも壊せない強度を誇る防衛具。
外側からは小金井色にも似た非常にはっきりとした金色に限りなく近い色合いの翼を持ち、内側は新緑を閉じ込めたような翼が目立つ。光が4年間悪夢のように覚えてきた光が丘テロ事件の様子である。
「みどりいろの、おっきな、とり、さん」
「光が丘テロ事件でグレイモンと戦ったって言うデジモンなのか!?光!」
「うん。私、覚えてる。おっきなとりさん。ごめんなさいのとりさん。 このとりさんだよ、おにいちゃん!」
光は覚えている。光が丘テロ事件でごめんなさいと口にした正体不明の怪物だ。コロモンという名前のメタルグレイモンは、パロットモンの左の翼を引きちぎって、飛行能力を奪い取った。
いくらデータを修復しようとも、メタルエンパイアの置き土産で武装しているメタルグレイモンの攻撃は一撃必殺にも似ているのだ。ホーリーリングを2つ持つなっちゃんですら、未だにデータの修復が追いつかず、ここまで進化することはかなわない。
「パロットモン。パロットモンっていうの。それがあなたたちの世界にきたときのわたし」
そういって、なっちゃんは全盛期だった頃の己のデータを太一たちに見せる。
「あなたたちの町をめちゃめちゃにした、わたし」
「ほんとなの?」
「うそだろ……なんでなっちゃんが俺たちの世界で街を壊したりなんか……」
「ねえ、太一。なっちゃん、完全体だったのに、どうしてグレイモンに負けちゃったの?」
「え?あ、ホントだ。オレ達の知ってるグレイモンよりずっとずっと大きいな、あのグレイモン」
「ごめんなさい」
パロットモンは、光たちの前で首を垂れるのだ。少女は語る。あの日、パロットモンは、あのパソコンの先にある球体の世界から、ゲートをくぐって書斎からコロモンをお迎えに行って、そのまま選ばれし子供達を選定したら、すぐに帰る予定だった。
しかし、八神家のパソコンに通じている四角い画面が、突然消えてしまった。閉じられてしまった。パロットモンはセキュリティに属しているとはいえども、ロゼモンやワイズモンのようにゲートを自在に開けられる能力がない。
デジタマは時間経過によって孵化し、成長期までなら自動的に進化してしまう。時間との戦いである。セキュリティに連絡を取り、指示を仰ごうとした彼女の前に現れたのは、一つのゲートだった。
すぐにゲートを開くという連絡を受けてから、あまりにもタイミングが良すぎたのである。
てっきり復旧作業が終わったのだろう、と勘違いした彼女はそのゲートをくぐり抜けてしまったのである。
その先は本宮家のパソコンだった。そして、彼女はあわててコロモンを回収しようと外に出てしまう。現実世界において、デジタルモンスターが及ぼす影響の甚大さなどの知識が一切無いまま、彼女はコロモンの回収というその時彼女が取るべき最善の手段を講じようとした。
成熟期にまで進化してしまったグレイモンを回収するために完全体の姿を選択した。しかし、光の進化を促す不思議な力によって進化してしまっていたグレイモンの力は、ホーリーリングを二つも保持している彼女と拮抗するまでになってしまっていた。
その結果が光が丘テロ事件である。思わぬ形で大輔の名前を聞いた光は青天の霹靂である。そして、光はなっちゃんから大輔のおうちをぶっ壊したのはアグモンではなく、なっちゃんであることを知る。
そして、なっちゃんと大輔の和解までの過程を聞いた光は、安心した様子でうなづいたのである。よかった、と零れ落ちた言葉は滲んでいた。しかし、同時にその涙はやがてゆっくりと光の心に影を落とし始めていく。
「でも、やっぱり、わた、の、せいなんだね」
「え?」
「だ、だって、だってぇ……わたしのせいだもん」
「なんで光のせいになるんだよ」
「わたしのせいなんだもん。コロモンがアグモンになっちゃったのも、アグモンがグレイモンになっちゃったのも、グレイモンがなっちゃんと戦ったのも、わたしが…」
光は、ぎゅっと強く両手を握り締めた。
「わたしが、しん、か、させちゃ…からっ」
あわてて駆け寄った太一とアグモンが見たのは、生まれて初めて光が大泣きする光景だった。優しく背中をさすってやるが、光は堰を切ったように崩れ落ちてしまい、わんわん泣いている。そっと寄り添ったなっちゃんは、小さく首を振った。
「そんなこと、いわないで」
「って、だって、わた、しっ……!みんなのまちを、なっちゃんと、ころもんに、させちゃ、だれにも、いえな、こわくて、きらわれたくなくて、やだ、やだっ、でも、わたし」
「あなたのせいではないの。だから、一人で抱え込まないで」
「どういうことなんだよ、なっちゃん」
「実は、わたしたちがあなたたちを選ばれし子供として選んだのは、光が丘テロ事件がきっかけなの。あなたの妹、八神光がデジモンを進化させる不思議な力を持っていたから。すべてのはじまりはあの日。
デジヴァイスでコロモンが進化できるのは、光のもっている力を参考にしたプログラムが入っているからなの。いつかわたしたちの世界を救ってくれる日がくるまで、みんなの記憶を封印させてもらったはずだったんだけどごめんなさい。あなたが覚えているとは、思わなかったの」
「そんな、まさか、じゃあ光はずっとずっとひとりぼっちで、あんな光景を覚えてたって言うのかよ」
「ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい。今までこんな辛い思いをさせて、ほんとうに、ごめんなさい」
「こわかったの、わたし、だれも、しら、から、わたしが、なんで、わたし、こんな、へんなっ!いならいのにぃ、わたし、なんで、なんにもしてないのに、こんな、ちか、いらないのにっ」
「そんなこと、言わないで。光、あなたはとっても素敵な力をわたしたちに見せてくれたの。
進化の光は命の源。わたしたち、デジモンにとって、あなたが見せてくれたその力は、本当に美しい光だった。
人間とデジモンが出会うことで、新しい可能性が生まれるんだって事をあなたは見せてくれたの。あんなことになってしまったけれど、わたしはあなたとあえて本当によかった。そう思うの。恐れないで。怖がらないで。それだけがわたしのねがいだから」
生まれてはじめて、自分の持っている力を肯定してくれた存在が、他ならぬパロットモンだったこと。太一とコロモンが何も言わないけれど、見守ってくれること。拒絶しないで、背中をさすってくれること。
光はわき上がってくる感情の名前を知らないまま、なきじゃくる。そしてこくこくとうなずいた。太一とコロモンは沈黙する。脳裏を過ぎる長い旅路。戦いの毎日。そして世界を救うことを決めたこと。
そのきっかけが最愛の妹がもっている力。そして光が丘テロ事件。もういちど太一は電光掲示板を見る。ぼんやりとかすみがかっていた記憶が蘇るのを感じた。そしてようやく、光がホイッスルを肌身離さずもつ理由を知る。
でも顔を見合わせる表情はどこか複雑だ。光がえらばれし子供だとなっちゃんは告げていたのだから。