(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第142話

まるでくすだまの中に閉じ込められてしまったみたいだ、と太一は思った。なっちゃんが言うには、本来なら、ここにあるデジタルゲートは光が丘テロ事件以降封鎖されている。

 

しかし、デジタルワールドと現実世界の境界線が曖昧になっているため、錠の開いた扉と化していた。だから、セキュリティシステムのすべてを結集して作られたデジヴァイスをかざせば、ただでさえ脆弱になっているプログラムは誤認する。誤作動を起こす。そしてこうも簡単に開いてしまう。

 

いつもならこうはいかない。セキュリティシステムが持ち主とデジヴァイスを照合して、はじめて、0と1の情報体に変換してもらえる。基本的に世界が来訪者を必要としないとゲートは開かない。デジヴァイスはデジタルワールドを自由に出入りするための許可証のようなものだから、特例中の特例なのだとなっちゃんはいう。

 

こんなゲートさえ使わないといけないほど、デジタルワールドの状況が逼迫している証だと。

 

 

八神兄妹は今、まさに自らの意志でデジタルワールドという異世界に足を踏み入れようとしている。サマーキャンプ場の時のように、オーロラから直接デジタルワールドに直通で行けると思っていた太一は、え、あ、あれ?と今まで見たこともない世界を前にして呆然と立ち尽くしていた。

 

明らかに動揺と困惑の余り直立不動で硬直しているお兄ちゃんを見て、光もなんとなくではあるが自分の置かれている状況を把握する。どうやらお兄ちゃんの知っているコロモンたちの世界ではないらしい。じゃあここは一体どこなんだろう?

 

 

きょろきょろと太一と同じくして不安そうにあたりを見渡しているのは、アグモンだ。本人曰わく、今までの進化と同様、紋章を介する超進化も経験を積み重ねたことで退化する世代が成長期になったらしい。

 

5歳の光を頭の上に乗っけたまま、高層マンションの最上階から飛び降りるほどの脚力を見せたあのアグモンと比べても、ずいぶんと小さくて、華奢で、光が4年のうちに大きくなったことを考えても明らかにコンパクトサイズになっている。

 

たしかあのアグモンは2段ベットを突き破ってしまうくらいのビッグサイズだったはずだから、やっぱりあの時のコロモンとこのコロモンは別の子なんだなって改めて感じながら光は辺りを見渡した。

 

 

白、白、白、白、見渡す限り漂白剤を使ったかのような真っ白な世界が広がっている。辛うじて角度によってアクリルのようにきらめく白い筋があるおかげで、光たちは自分たちが立体の世界に立っているのだという確信を得ることができている。

 

恐ろしく変わり映えのしない真っ白な世界は、たくさんの長方形が無数に幾重にも折り重なって、球体のような空間として広がっている。

 

その四角と四角の間には小さなコードが張り巡らされていて、電気が通っているのか物凄い早いスピードで光の粒子が走り抜けては消えていく。じいっと見つめていると目がちかちかしてきそうになって、光はその流れを追いかけるのをあきらめた。

 

違和感と圧迫感がある。息が詰まりそうになる。不安になって後ろを振り返る八神兄妹は、そのいくつもある四角い平面のうち、いくつかが発光しているのに気が付いた。よく目を凝らしてみれば、突き出した形できりとられた四角い世界がべったりと張り付けられている。

 

その向こう側には子供部屋がある。他にも会社のオフィスだったり、学校のパソコン室だったり、いろんな部屋が窺える。いずれの四角形にも人間がいる。まるで監視されているような気持ち悪さを覚えてしまうが、太一たちを覗き込むようにして写っている人間は、さっきから表情一つ変えずにひたすらキーボードをたたいている。

 

 

「なあ、なっちゃん、ここってデジタルワールドじゃないのかよ。どこなんだ、ここ」

 

「ここはね、デジタルワールドとあなたたちの世界を繋ぐゲートポイントなの」

 

「ゲートポイント?」

 

「うん、ゲートポイント。デジタルワールドに繋がる道のうちのひとつ。

 あなたたちの世界からパソコンを通じてネットの世界に飛び込んだようなもの。

 えっと、あの四角い世界はインターネットに繋いでるお家や会社の風景がみえているの。

 光が丘でわたしはここからあなたたちのお家のパソコンにはいったのよ」

 

「へー、そうなんだ」

 

「どうしていっぱい四角い画面があるの?」

 

「それはね、光、同じ回線を使ってたり、プロバイダが同じだったりするとこうやって表示されるの。

 

あなたたちにとっては、たった1460日でも、わたし達にとっては2102400日もの間、使われていない。

     

 

あのときはあなた達のお家のパソコンからISDNをくぐってここに来れば、あとは直通で帰れたんだけど、今はこんな感じになってるのね。ネットの環境が整備されるにつれて、クモの巣みたいになっちゃった。迷路みたいに複雑ね」

 

「へー、そうなんだ。なあなあ、なっちゃん、あの画面はなんで砂時計がでてんだろう?」

 

 

ちょっと困ったようになっちゃんは笑う。

 

 

「あのお家のパソコンの機種にもよるんだけど、きっと回線がとんでもなく重くなってると思うの。スコピオモンたちはギガバイトに変換するととんでもないことになっちゃうから。デジモンたちは容量が大きいの。成長期でさえ、5ギガバイトもかかっちゃう」

 

「ご、5ギガバイトって結構でかいんだな。あれ?そういえば、スコピオモンは?」

 

「ふふ、大丈夫、スコピオモンはここにいるよ。このままだとネット回線が大混乱になっちゃうから、容量をちっちゃくさせてもらったけどね」

 

 

なっちゃんの指差す先には、かつてなっちゃんも運ばれたのだろう鳥かごのようなケースがある。転送用のシステムが起動したらしく、なっちゃんはそのなかにスコピオモンを放り込んだらしい。白黒のドットで構成されたサソリが右に左に動いているのが見えた。

 

テトリスとかゲームウォッチとか、そういう懐かしの16ドットの絵になってしまっている。

ぺらぺらの平面図というあわれな姿になってしまっているスコピオモンに太一達は絶句した。

どうやらなっちゃんが放ったあの技は、デジモンのデータを改ざんして根本的に書き換えてしまう状態異常を引き起こすとんでもない技だったようである。

 

 

 

「ちょっとの間だけ、大人しくなってもらわないと困るでしょう?今回は太一とアグモンがいてくれたからよかったんだけどね、私はまだ、完全体になれるほど体力が回復していないから。大丈夫、デジタルワールドに戻る頃には元に戻ってるわ」

 

 

ばいばいってなっちゃんは手を振る。転送装置が起動して、0と1に改ざんされたデータは光になった。

 

 

「どこにいっちゃったの?」

 

「えっとね、病院みたいなところ?あなたたちの世界にいくということは、とっても大変なことだから。データがどこか壊れちゃったり、変なことになっちゃったりしてないか、調べてもらうところに行ったの」

 

「僕は大丈夫なのかなあ?」

 

「アグモンは大丈夫」

 

「どうして?」

 

「だって、あなたは特別だもの。えらばれし子供のパートナーだから、大丈夫。わたしは特別じゃないから、この仕事が終わったらそこに行かなくっちゃいけないの」

 

 

そっかあ、とアグモンはほっとする。よかったなって太一は笑う。病院に行かなくてもいいなんていいなあって、風邪ひきさんは羨ましそうにアグモンを見た。

 

えらばれし子供のデジモンは現実世界に行くことが予め想定されていることなんて知らないまま、みんななっちゃんに連れられてデジタルワールドを目指すことにしたのである。

 

 

「へー。サマーキャンプで飛ばされた時には、気付いたらファイル島にいたけどさ、こんなメンドクサイ方法使わないとデジタルワールドにいけないんだ?」

 

「デジタルワールドとあなたたちの世界は、あくまでも異世界だもの。ホメオスタシス様やゲンナイ様、セキュリティシステムの守護デジモン様たちじゃないと、デジタルワールドとあなたたちの世界を繋ぐゲートは作れないわ。

 

最近だと直通で特定のエリアに移動できるみたいなんだけど、昔はこうやって移動したわ。ここは200年以上使われてない旧式のデジタルゲートだから、とっても不便だけど仕方ないの。

 

今回は私がいるけど、気を付けてね?ここは現実世界とISDNでつながってるからね、出入り口を間違えたら、海を越えた別の場所に行っちゃう可能性があるよ」

 

「外国にいっちゃうの?」

 

「うん。だから気をつけてね。全然知らないところのパソコンから出てきたら、大騒ぎになっちゃうでしょう?」

 

「うわー、そりゃ大変だなあ。よーし、分かった。みんなに言っとくよ」

 

 

太一は真剣なまなざしでうなづいたのである。

 

 

「うん、お願いね」

 

「あ、でもここから結構歩くんだろ?覚えられっかなあ」

 

「それなら大丈夫。デジヴァイスを貸してくれる?」

 

「え?ああ、いいけど?」

 

 

なっちゃんにオレンジ色のデジヴァイスが渡される。デジヴァイスを受け取ったなっちゃんは、今まで一度も押したことがないボタンを押して画面を表示させると、空中にホログラムの画面を表示させる。四角で区切られた緑色の画面には、たくさんのタグが流れていく。

 

凄まじい勢いで流れていったデータがコピー機に似た印刷の光を放ってスライドする。やがて太一のデジヴァイスが電子音と発光を始めたかと思うと、あっという間にデータの海は流されていった。

 

 

「これで大丈夫。デジヴァイスにデータを保存できたわ。パソコンに詳しい子に頼んで、太一のデジヴァイスをそのこのパソコンに繋いであげて?そしたら地図ができるから」

 

「すっげー、そんなこともできるんだ、デジヴァイスって」

 

 

なっちゃんは感心しきりの太一にデジヴァイスを返した。簡素な地図が画面に表示されている。きっと光子郎のパソコンにかかれば、3Dのダンジョンマップが出現するにちがいない。

その地図を頼りに、太一達は電子の道を歩き始めたのだった。

 

 

「いいなあ、お兄ちゃん。ねえ、なっちゃん。わたしのデジヴァイスってどこかにいっちゃったんだよね?」

 

 

いくつもの中継地点をくぐり抜けた先で、ぽつりと光が言ったので、なっちゃんは申し訳なさそうに頷いた。

 

 

「ごめんなさい、光。あなたのために用意したデジヴァイスも、紋章も、デジモンも今必死で探しているの。きっとみつかるはずだから、もう少しだけ待って?プロトタイプのデジヴァイスならゲンナイ様が用意してくれているはずだから」

 

「ぷろとたいぷ?」

 

「初期化されてるデジヴァイスなの。あなただけのデジヴァイスにカスタマイズするためのデータは、ナノモンたちがサルベージしているところだから、なんとか間に合うように頑張ってるの。研究所は暗黒の勢力に破壊されてしまって、データの残骸しか残っていないものだから、予想以上に作業が難航しているみたい。ごめんなさい」

 

「ううん、いいよ。そのナノモンっていうデジモンたちががんばってくれてるんだよね?

 なら、いいの。わたしもがんばって探してみる」

 

「そういってくれるとうれしいわ。ありがとう。パートナーのデジモンはえらばれし子供を捜し求めるものだから、きっとあなたの前に現れる時がきっとくるわ。そのときは、その手を取ってあげてね」

 

「うん」

 

 

こくりとうなずいた光に、なっちゃんは満足そうに笑った。そして、ずっと先導していた歩みがようやく止まった。

 

 

「ついたわ。ここが目的地。ゲンナイさまの隠れ家。お疲れさま、みんな。暗黒の塊を背中に受けたゲンナイ様は、精神的に不安定になると暗黒の誘導を受けやすくなってしまう呪いにかかってしまったの。だから静かな場所で瞑想することで、なんとか精神の安定化を図っていたの。

 

ケンタルモンたちのおかげで、なんとかみんなと会えるだけの回復が見込めたから、やっと対面できるのね。いってらっしゃい。私はここでお別れね。迷いこんじゃったデジモンがいないか、また捜しにいかなきゃいけないから」

 

「そっか、がんばれよ、なっちゃん」

 

「ここまで送ってくれてありがとう」

 

「大輔とブイモンによろしく伝えてね」

 

「うん、いいよー」

 

 

うれしそうになっちゃんは笑った。ようやく現れた扉のドアノブに手をかけた太一たちに手を振る。ばいばいって手を振った光がアグモンと一緒にくぐり抜けようとした時、はっとなったなっちゃんはあって声を上げたかと思うとあわてて光のところに駆け寄った。真っ白なワンピースのポケットからとってもきれいな彫刻が施されている金色の腕輪を差し出した。

 

 

「え?あ、なあに?なっちゃん」

 

「これ、あなたにあげる。紋章とあなたのパートナーが見つかりますようにって、お願いしたの。お守りの代わりに持っていって?」

 

「え、えええっ!?そんな、こんな、きれいだけどもらえないよ!」

 

「ううん、いいの。これは、今、あなたがもってた方がいいの、きっと。そんな気がするから」

 

「で、でも・・・・・・」

 

「大丈夫、2つあるから」

 

 

金色に輝く腕輪である。とっても高そうである。もらえないよおって光はどぎまぎしっぱなしだ。

 

 

「あのね、光。これはあなたの力そのものの象徴なの」

 

「え?」

 

「この世界にはね、いのち、うつくしさ、かがやきっていういろんな名前で呼ばれてきた力があるの。その力をひとつにまとめて作ったのがこの腕輪だって言われているわ。

 

きっとあなたが持つはずだった「光」の紋章も、きっと同じくらい輝いているはずなの。あなたにとっては、今はまだ、ここまでの意味は見いだせないかもしれない。

でも、これはあなたが持つべきものと同じ力が秘められてるわ。いつか、あなたの力と向き合える日がくるまでは、お守りの代わりにこれを持っていて?きっとあなたの代わりにこれがあなたを守ってくれる筈だから」

 

「・・・・・・・・でも」

 

「うーん・・・・・・・じゃあ、えーっと、その、そうだわ、また逢えたら返してくれる?」

 

「・・・・・・うん、わかった。貸してもらえるなら、そっちの方が私は好きだよ」

 

「そう、よかった。じゃあ、約束ね」

 

「うん」

 

 

わたしだと思って、大事にしてねって笑いながら、なっちゃんは金色のリングを光に渡した。

無くさないように早速つけちゃいましょう?って持ち主に言われてしまえば、持ちっぱなしというわけにもいかず、光はおそるおそる金色の腕輪を利き手に通してみた。

 

ちょっと重くてぶかぶかだったのに、どういう訳か手首を通した瞬間に、サイズが縮んでぴったりはまってしまった。吃驚して光はなっちゃんを見る。

 

 

「便利でしょう?そのリングはデータだから、身に付けてる人にあうようになってるの。外したいと思ったらちょっとずらそうとすれば、サイズが大きくなるから安心してね」

 

 

言われた通りにしてみると、からん、と音を立ててリングが白い空間に落ちた。

 

 

「ありがと、なっちゃん」

 

「ううん、いいの。あなたたちの世界に行ったらきっと見えなくなっちゃうわ。でも、たしかにそこにはあるはずだからね、安心してね、光」

 

「うん、わかった」

 

 

こくりとうなずいた光に、よかったなって笑いながら太一がぽんと肩を叩く。

 

 

「けどホントによかったのかよ。なっちゃん。

これってホーリーリングってやつなんだろ?なっちゃん進化できなくなるんじゃないのか?」

 

「大丈夫、もうひとつあるもの。成熟期くらいならこれで十分だから。わたしのお仕事は完全体だとできないもの」

 

「そっか、ならいいけどさ。もしなにかあったら、オレ達に連絡してくれよ?もしなっちゃんに何かあったら、大輔の奴、絶対に悲しむからさ」

 

「うん、わかってる。ありがとう、太一」

   

「ほんとうに大丈夫なの?なっちゃん」

 

「ええ、心配しないで、光。わたしはあの時のわたしではないもの。大輔がつけてくれた名前がある限り、わたしは大丈夫だから」

 

 

ふうん、と太一はなっちゃんを見て、にやにや笑った。

 

 

「そっかそっか、大輔のやつ、スミにおけねえなあ!なっちゃんって大輔のことそんなに好きなんだ?」

 

 

きょとんとしたなっちゃんだったが、すぐに花のほころんだ笑顔を浮かべた。

 

 

「うん、大好きよ」

 

「あははははっ、そっか!」

 

「うん、大輔もブイモンも大好き。でも、ブイモンはわたしが大輔に大好きっていうと怒るの。ブイモンは大輔にいってもいいのに、わたしはダメって言うの。意地悪でしょう?」

 

「・・・・・あー、そっちの大好きか」

 

「え?」

 

「なんでもないよ。そっか、そーだよな、なっちゃんってデジモンだもんな、忘れてた」

 

 

勝手に自己完結している太一に、おいてきぼりのみんなである。まあいっかって光はなっちゃんに目を向けた。

 

 

「わたしの力って、デジモンたちにずっと触らなかったら大丈夫なんだよね?」

 

「ええ。えらばれし子供たちのパートナーは特別だから、ずっと触っても大丈夫よ。でも、普通のデジモンたちは注意してね、光。ちょっとだけだったら大丈夫だけど」

 

「ちょっとってどれくらい?なでなでくらい?」

 

「なでなでは大丈夫よ」

 

「手を繋ぐのは?」

 

「握手は大丈夫だけど、ずーっとは難しいかも」

 

「だっこは?」

 

「だっこも大丈夫だけど、ぎゅーっとしたらちょっと危ないかも」

 

「そっかあ、ありがと。気をつけるね」

 

「うん。そのリングをつけてる方の手だったら、リングが力を溜めてくれるから、そのちょっとが少しだけ延びると思うわ。リングがきらきらし始めたら気をつけてね」

 

「ほんと?すごーい、そんな力があるんだ」

 

「そのリングとあなたの力は同質だもの。きっと力になってくれると思うわ。あなたの紋章が見つかったら、それも肌身離さず持っていて?

あなたの力をセーブしてくれると思うから。いざという時にね」

 

「へー、やっぱ大輔のときと一緒なんだ?」

 

「うーん、大輔の力は大輔に負担がかかりすぎてしまうのを、肩代わりしてるって感じなの。もともとはデジメンタルがあれば事足りるのを、無理矢理引きはがしてる状態なせいで、ブイモンのオーバーライトを大輔が負担して、それを紋章とデジヴァイスが軽減してるだけだから。

 

でも光の場合は、自分でも怖くなっちゃうくらい持ってる力が私たちにとって大きすぎるの。

だから、紋章やそのリングがあれば、ある程度適正化できるって感じかな。きっと光がもっと大きくなったら、リングも紋章も要らなくなると思うの。自分でコントロールできるから。

 

でも大輔の場合は、デジメンタルがないとどうにもならないわ」

 

「へえ、やっぱ似てるようで違うんだなあ」

 

「いずれにしても、あなたの力も大輔の力も、強さを求めるためなら手段を選ばないような

デジモンたちからしたら、喉から手が出るほど欲しいのは間違いないと思うの。だから、しっかり守ってあげてね、太一」

 

「おう、まかしとけ」

 

「光もね」

 

「え?わたしも?」

 

「みんな、あなたのことを守ってくれる。新しい仲間として迎えてくれるわ。心配しないでね。でも、24時間ずーっとあなたのことを守れるのは、あなただけでしょう?太一だっておトイレまでは一緒にきてくれないでしょう?」

 

「おいおい、何言ってんだよ、なっちゃん!あたりまえだろ!」

 

「あははっ、うん、そうだよね、うん、わかった。ありがと、なっちゃん」

 

「太一、光、そろそろ行こうよ!」

 

 

痺れをきらして入り口の前で叫んだアグモンに急かされる形で、ようやく八神兄妹はデジタルゲートをくぐり抜けることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音が遠くなる。感覚が遠くなる。ちょっとした浮遊感。あわあわしながら太一にしがみついた光を待っていたのは、のどかな田園風景広がる農村だ。かやぶき屋根の家が何軒もあり、密集している地帯には、どうやら商店が並んでいるようである。

 

その大通りの先には大きな階段があって、立派な日本建築のお屋敷がそびえているのが分かった。荘園と見まごう日本庭園が望める。

 

あまりにも想像と違う空間にぽかんとしているのは太一も光も同じだったが、さきに我に返ったアグモンが、みんなの匂いがするよと先を急かすものだから、二人は先を急いだ。

 

某映画に出てきそうな昔の日本の風景を歩いていくと、村の住人たちが物珍しそうに太一達を見上げる。そこにいるのは、幼年期のデジモン達ばかりである。もしかして、はじまりの街と繋がってるのかなあと思いつつ、太一はデジタケを並べている真っ赤な幼年期に聞いた。

 

 

「なあ、ゲンナイさんってどこにいるか、知らないか?」

 

「ゲンナイ爺のこと?ゲンナイ爺のお屋敷ならあそこだよ」

 

「ありがとな」

 

「どーいたしまして!」

 

 

ぷにぷにしてそう、さわりたいなあって目をキラキラさせてる光をしっかりと捕まえて、太一はずるずると先を進む。後でいいだろ、店を見て回るのは!大体オレ達お金持ってないだろ、光!

 

太一の言葉にはあいって残念そうにつぶやいた光は、名残惜しそうに幼年期の可愛いデジモン達を前から後ろに眺めながら、小さくため息をついてどんどん大きくなってくるお屋敷を見上げたのだった。

 

太一がいう仲間たちとの対面が迫っている。太一のサッカー部の知り合いはともかく、知らない人もいるだろう。どうしようかなあ、って光は思う。これから、きっと。光が丘テロ事件のことについても、触れることになるだろう。

 

光はきつく目を閉じた。あれだけ泣いたのに、まだ目頭が熱くなってくる。きっと太一経由の知り合いである空さんや光子郎さんだけだったなら、まだダメージは少なかったに違いない。

でも、あの階段の先にはいるのである。小学校の同級生であり、光の男友達でもある、本宮大輔君が。

 

うまく笑えるだろうか。それだけが今の光の頭の中をしめていた。

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