(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第154話

シブヤはなんて迷子になる街なんだろう!とはパンプモンとゴツモンの談である。デジモンたちはこちらの世界の言葉なんて理解できないが、建物に地番表示があれば、案外ニュアンスでなんとかなる。文字は読めなくても同じ形をしている看板が建物に張り出してあって、何番地とか数字が割り振ってあれば、わかるようだ。

 

でも、渋谷はほとんどの建物に地番表示がないから、現在地がわからないという。普通なら交番に行って道を尋ねればいいのだが、デジモンは知らないのだ。地元の人間しか分からない名称表記の看板しかないとなると、完全にお手上げである。

 

それに、パンプモンたちにとっては、あまりにもでたらめに道が広がっている。デジタルワールドにある繁華街は広場を中心に放射状に道が張り巡らされていたり、まるで碁盤の目のように整然と並んでいる街並みが普通なのだ。

 

でも、渋谷という街はいろんな場所からいろんな角度で枝分かれした道があり、とても坂道が多いものだから、どっちを向いても似たような道になっている。のどかな田舎の風景が広がっていた時代から、だんだん住宅地が造られていき、都市化していった名残が残っているからなのだが、間違いなく迷子になる街並みだ。

 

坂だらけで無秩序に道が走っている、魔窟のような大都会である。設置された看板通りに進んでも、枝分かれしている入り組みすぎた道の中で、その看板がさしている道がどれなのかわからない。きっと地図をもっていてもたどり着けないだろう。

 

そう思っていたのに、ヤマトたちはちゃんと目的地に辿り着けている。パンプモンとゴツモンは不思議でしょうがないようだ。無邪気な尊敬にタケルは思わず笑ってしまう。たいしたことないよーと笑った。

 

 

「それなら、新宿駅はどうなっちゃうの?あそこはすっごいダンジョンなんだよ?」

 

 

ゲーム大好きな男の子特有の表現に、冒険の匂いを嗅ぎつけた二体は食いついた。西口という名前の北口があったり、出入り口が多いのに似た名前が多過ぎたりするトラップがあること。新宿駅の駅員さんでもどこまでが新宿駅なのかわからなくて、迷子放送がかかってしまうくらいには、巨大迷路であること。

 

東から西に移動するショートカットがなくて、JRを通らないと移動できないこと。遠回りしないで突撃するとデパートから出られなくなること。遠回りに使うJRは管轄通路しか書いてないから、地図がないのとかわらないこと。曲がらないといけなかったり、階段しかなかったりするから、一本道だと思ったら全然違うところに出てしまったことがよくあること。

 

どこにいるのか分からなくなってしまうトラップだらけの不思議なダンジョンである。

 

お母さんとお出かけするときに、何度も恐怖した経験があるからか、ギネスブックに登録されるほど大きな駅であることを強調したからか、

まるで勇者をみるように目を輝かせているパンプモン達は、タケルに拍手を送った。何の話をしてんだよ、と笑ったヤマトがようやくやって来る。おかえりー。

 

広げられたビニル袋には、今にもとけかかりそうなアイスクリームが入っている。ありがとう!と笑ったパンプモン達は、カボチャ味とムラサキいも味に手を伸ばす。タケルとトコモン、ツノモンもお気に入りのアイスを手に取った。

 

すっかり軽くなってしまった財布である。はあ、とヤマトはこっそりため息だ。まあどうにかなるよな、代行バスはまだまだあるみたいだし、とやけになりかけているのはご愛嬌。

 

 

 

出会ってしまったのが運のつきだった。デジタルワールドに送還することで頭がいっぱいだったヤマトたちは、パンプモンたちを無視することができなかったのだ。

 

チョコレートを万引きしたり、地下鉄に飛び乗ろうとしたり、タクシー乗っ取ろうとしたりカップルの邪魔をしたり、マンホールや用水路のふたをひっくり返したり、看板に落書きをしまくったり。渋谷でやりたい放題していた2体を追いかけて、気付けば渋谷区の西南あたりにきてしまっていた。

 

アイスクリーム屋さんで平然と食い逃げをしたパンプモン達が放っておけなくて、買ってやるから待ってろと声を掛けたのが、そもそもの間違いだったことになる。もうここまで来たらとことん追いかけてやる、と意地になっていたこともある。

 

ぜいぜい言いながら声を掛けたヤマトたちに、ようやくパンプモン達は悪戯を辞めた。そこまでいうなら仕方ないなあ、追っかけが出来るなんてオイラ達もやるじゃん、と上から目線の勘違い発言に、殴っていいか?とつぶやいたヤマトは殺気立っていた。

 

まあまあ、とツノモンたちになだめられ、ヤマトは買い出しに出掛けて今に至る。今日の電波障害のせいで、重機が使えないのだろうか、建て替え工事が中断して、無人になっている工事現場にヤマトたちは、こっそりお邪魔している。

 

まわりは防音用に張り巡らされている灰色の壁で覆われていて、工事用の資材が無造作に積んである。ヤマトはそのひとつに腰かけた。最後に残っているカップコーンを手にした。すっかり溶けかかっている。ばりばりばり、と勢いよく食べてしまったパンプモンたちは、ご満悦の表情だ。

 

外套もまばらなくらい道がある。ぽつり、ぽつり、と星が見え始めていた。電波障害の関係で仕事を切り上げたのか、いつもより高層ビルの明かりが少ないので澄み切った夏の夜空がきれいに広がっているのが見える。

 

 

「さあ、話してもらうぞ。どうやってデジタルワールドから来たんだ、お前ら」

 

 

パンプモンとゴツモンは空を見上げた。

 

 

「どうした?」

 

「オイラ達、データ種だからさ、ウィルス種のヴァンデモン様たちにはどうしようもないんだよ。相性の問題ってやつ?」

 

「だからさ、これから話すことがバレたら、きっと殺されると思うんだよ。コウモリがいないか探してんだ」

 

「やっぱヴァンデモンに勧誘されてきたのか」

 

「そうだぜー、オイラ達は楽しけりゃそれでいいからさ、誘いに乗ったのもこっちの世界で遊びたかっただけだし。なー?ゴツモン」

 

「そうそう、オイラ達は戦うつもりなんてないぜ?バトルよりカーニバルだろー!ヴァンデモン様にやれって言われたことはやるけどさ」

 

「オイラ達は楽しいことにいつだって夢中なんだ。おもしろいこと大好きだもん。バトルするよりナンパだろ。カボチャ頭じゃ何着たって変とかいうなよー?ごつい奴は超嫌いとかいうなよー?全然気にしないけどさ。遊びの誘いなら大歓迎だぜ」

 

 

兄ちゃんたちのこと気に入ったし?とは自由奔放なぶっちゃけぶりである。どういう基準でパンプモンとゴツモンがヴァンデモンのお眼鏡にかなったのか、よくわからないとタケルとヤマトは思わず笑ってしまう。あまりにもかけ離れている。

 

実はスカウトするデジモンに、判断基準や勧誘方法が丸投げされているんじゃないかという疑惑が浮上してくるのは別の話だ。

 

 

 

コウモリがいないことが確認できた安心感からか、二体はそれぞれ隠し持っていたアイテムを見せてくれた。ピンク色のカートリッジが入ったタグだった。中央の丸い部分を三日月形のマークが囲っている。外側に行くにつれて、まるで重なる花びらのように三日月の部分は分厚くなり、葉っぱのようなデザインになる。

 

見たことのない紋章だった。選ばれし子供たちが持っている、持つはずだった紋章とはいずれも異なるデザインで、ヤマトたちは目を見張るのだ。さわっていいか?と問いかけるヤマトに、そっちのアイスくれるなら、と言われたヤマトは、躊躇なく一口も食べてないコーンを二体に手渡した。

 

パンプモンから受け取った紋章と友情の紋章のタグを比べてみる。大きさも色も質感もほとんど同じである。これが本物だと言われたら、信じてしまいそうになるレベルのニセモノだった。全く同じものをゴツモンが持ってなければ、信じられなかったに違いない。

 

 

「オイラ達に配られたのはニセモノだよ。本物はヴァンデモン様が持ってるのさ。オイラたち、下っ端だからどこにあるのかは知らないよ」

 

「ヴァンデモン様は魔道の天才なんだ。紋章の複製くらいわけないんだぜ。こいつが反応したら選ばれし子供だってわかるんだ。だから、子供がいる所をずーっと回ってるんだよ、オイラ達。遊園地とかイベントやってるとことかは、オイラ達が混じったってわかんないんだってさ」

 

「まさかこんなに広い街だとは思わなかったけどなあ、まるでジャングルみたいで楽しいところだぜい!」

 

 

にはは、と笑うパンプモンたちの言葉に、なるほど、とヤマトは相槌を打った。オリジナルの紋章には及ばないものの、選ばれし子供に反応する機能だけは複製できているということになる。道理でヴァンデモン達の活動が活発化しているわけだ。

 

ここまで来るときに見かけた電子掲示板のニュースによれば、練馬区に端を発した電波障害は、北は埼玉、南は品川、東は銀座、西は荻窪、吉祥寺まで到達したらしい。お台場にくるのは時間の問題である。なにもわからないまま、事実だけを伝える文字が躍っていた。

 

スペイン坂一帯の停電が復旧したことを知らせる速報が入ったところで、誰も知らないから堂々としていればいいのに、当事者感情でその場にいずらくなったヤマトはここまでまっすぐやって来たわけである。

 

ヴァンデモンたちの部下はどれだけいるんだ、と考えるのも怖くなってきたヤマトは、パンプモンに紋章を返した。名前は?と聞かれても、知らなーいと能天気な返事が聞こえる。アイスを食べるのに夢中になっていたタケルとトコモンは、円錐の紙をくしゃりとまとめて、ビニル袋に放り込んだ。

 

 

「どうやってみんな移動してるの?すっごく早いね。迷子にならないのかな」

 

「そりゃあ、オイラ達みたいなやつらは歩いて探すけどさあ、空を飛べるやつは空を飛んで捜すし、泳げる奴は川とか海から探すし、でっかいやつらは地下道とか下水道通って探すに決まってるだろ?

  

でも、そいつらはみんな、こいつを持ってても確かめに行けないから、だいたいの場所を見つけたら、あとはオイラ達がしらみ潰しに捜すんだ。つっかれるぜー?」

 

「やってられるかーって話だよなあ」

 

 

なるほど、パンプモンとゴツモンの言い分ももっともである。ヴァンデモン勢力にとって、東京都はあまりにも人間が多く、大きいに違いない。ヤマトたちにとっても条件は同じだが、おかげで10人目はまだ見つかっていないことは確かである。

 

 

「そういうことか、だから仲間がいないのにデジヴァイスが反応したんだな。こいつの持ち主である10人目がいると勘違いして、知らせてくれたんだ」

 

「今度からはデジヴァイスが反応したら、ヴァンデモンたちだって思った方がいいね」

 

「そうだな、ツノモン。ああくそ、みんながどこにいるのか分からないのがこんなに不便だとは思わなかった。携帯あったら便利なのにな。

公衆電話でいちいち確認してたらきりないぞ」

 

「トコモンたちが進化しちゃうと電話できなくなっちゃうもんね」

 

「デジタルワールドでは、大輔のPHSと光子郎の携帯電話が普通に使えてたのにな。ああ、そうか、そういうことか。やっぱ魔改造してたんだな、光子郎あたりが」

 

「すごいねー、光子郎さん」

 

「ホントにな」

 

 

現実世界での戦闘はあまりにも不自由が多すぎる。慎重にやらないとなとヤマトは思う。

 

 

「オイラ達ラッキィだよなあ、パンプモン。兄ちゃんたちに会えたしさ。でも他のヤツラって寝る所とか、喰うところとかどうすんだろう?」

 

「さあ?好き勝手やってるんじゃねーかな」

 

 

ヤマトとタケルは沈黙する。デジタルワールドは、自然豊かで食料が豊富にとれる世界だったことを考えると、この世界はあまりにも過酷だ。下手したら空腹状態で野宿をする羽目になるだろう。デジタルモンスターに我慢という文字は存在しない。目前に迫る騒動に巻き込まれるかもしれない他の仲間たちに、大いに同情した。

 

 

「今日一日思いっきり遊んだだろ、そろそろ帰ろうって気にはならないのか?」

 

「えー、やだよ、せっかく来たばっかじゃないか」

 

「それにどうやって帰るんだよ。光ヶ丘ゲートはヴァンデモン様がのっとってるから、やーめたってできないことくらい、オイラ達も知ってるぜ?」

 

「眠そうな顔してるぞ」

 

「眠くなったらミントのガム噛んで我慢するんだよ!」

 

「万引きすんなっていっただろ、やめろ。帰りたいんなら送ってやるよ」

 

「え、ホント?」

 

「まじで?ホントにできるの?選ばれし子供ってすっげー」

 

「お兄ちゃん、インターネットにつながってるパソコンってどこにあるのかな」

 

「………あー、ネットカフェとか?」

 

 

補導されないかどうか、ちょっとだけヤマトは心配になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざしゅ、と大きなカマが振り下ろされる音がした。驚いて顔を上げたのはヤマトたちだけであり、まばらな通行人たちは、突然止まったヤマトたちを迷惑そうに一瞥しながら、足早に去っていく。どうやらヤマトたちにしか聞こえないらしい音が、綺麗な夜空を二分する。

 

空が裂けた。ジッパーを降ろすように、ぱくりと口を開けた先に見えるのは、奇妙な形に捻じ曲がっている光が走る空間である。出来の悪いミラーボールのように、きらきらとした空間が目にまぶしい。真っ白な空間に、たくさん敷き詰められている四角い発光している画面があって、ぱくりと口を開けているところに近付くにつれて、その四角はいびつにゆがんだ。

 

 

「お兄ちゃん、あれ、デジタルゲートじゃない?」

 

 

ヤマトは顔をひきつらせた。道理で見覚えがある場所だ。今日の昼ごろまでヤマトたちはあの場所にいたのである。ヴァンデモン勢力の小細工により、光が丘との二択のはずが実は一本道だったというトラップで、あやうくアメリカにあるサマーメモリーに旧ゲートを通って転送されるところだったのは記憶に新しい。

 

デジタルワールドから現実世界に帰るために通ったデジタルゲートの中継地点、デジタルポイントと呼ばれる場所が逆さまの世界から覗いているではないか。バンプモンたちに言わせればヴァンデモンの居城になっている光が丘ゲートから突如出現したショートカットルートとなれば、もう嫌な予感しかしなかった。

 

何時の間に、としかいえないが、真っ暗闇の今、コウモリの偵察に場所が把握されていた

となれば、こっちが把握する手段はない。コウモリは紋章のコピーを持っていない。お前ら隠れてろ、とヤマトは叫ぶ。死にたくなかったら絶対に離れるなよと続けた。

 

ヴァンデモン様に裏切り者だとばれた、選ばれし子供に情報提供したことがばれたのだ、と

悟ったバンプモン達は震え上がった。助けて兄ちゃんたち、と悲鳴が上がる。ツノモンとトコモンが前に進み出た。任せてよってタケルがデジヴァイスを手にする。

 

真っ暗闇の空から、3本まつ毛に目玉の紋章が黄金色に輝いた。ツノモンとトコモンが進化する。ヴァンデモンとの死闘は休憩をはさんだおかげで回復ずみだ。まさか連戦になるとは思わなかったが、どうこう言ってる場合ではない。

誰もいない工事現場の閑散とした空間に、大きな動物の雄たけびが響き渡った。

 

 

 

どしいん、と砂埃が舞う。衝撃波が荒れ狂い、視界が一気に悪くなる。ごお、とホーリーロッドによって生み出された風がそれらを薙ぎ払う。今にも消えそうにちかちかとしていた電灯は、一気に出現したエンジェモンたちの影響を受けて、いよいよ真っ暗になってしまった。

 

月明かりに照らされて現れた死角は、3つに割れた大きな耳と長く垂れ下がった鼻、大きく裂けた口の隅から生えている、真っ白で大きく曲芸する牙をもつ、まるでゾウのようなデジモンだった。

 

みしり、と地面に食い込む蹄が、ざりざりとやわらかい大地を抉る。仮面の額には、黄金色の紋章が刻まれている。耳をつんざく轟音が響く。工事現場を覆っている防音用の壁がぐわんぐわんと揺れた。

 

ゾウのようなデジモンが雄たけびを上げる。生み落された風がヤマトたちに襲い掛かった。四方に吹き荒れる暴風は、一気に気温が下がり冷気を帯びたかと思うと、空気中の水分を凍らせて鋭利な刃物を作り出し、無尽蔵に襲い掛かる。先陣をきったのは、ダウンロードする情報量が少ない成熟期にいち早く進化したエンジェモンだった。

 

長い金髪がゆれる。十字架が取り付けられた金属の仮面が空を踊る。真っ白な白い羽をはばたかせ、タケル達の前に現れた天使は、ホーローロッドで黄金色の防壁を作り上げる。渦巻く黄金色の風に巻き取られた冷気は、つららを一気に破壊されてしまった。

 

鋭気を帯びた暴風によって吹き飛ばされてきた機材をすべて弾き飛ばし、エンジェモンはホーリーロッドを相手に向ける。輝きを帯びた天使の一撃がまっすぐ叩きつけられるが、一瞬ひるんだだけで、全身を覆う防具に聖なる法具は阻まれてしまった。エンジェモンの口元がゆがむ。

 

どうやら完全体のようである。成熟期であるエンジェモンの攻撃は、相手の種族に補正がかからなければ通らないことが多くなってきた。格下だと直感した闇の刺客は、すさまじい咆哮をあげながら、一直線にヤマトたちに向かって襲い掛かってくる。

 

黄金色の風が牽制するが、突進してくる巨体のスピードを落とすことしかできない。地面に叩き落される氷柱。ガラスの割れるような音が響き渡った。堕天前の同志だったら燃え盛る火炎で一気に薙ぎ払えただろうに。そんなことが脳裏をかすめた。その直後、青い光を突き破って現れた狼の咆哮が響き渡った。

 

 

「待たせたな、エンジェモン。あとはオレに任せろ」

 

「ああ、頼んだ。私は彼らを守ろう」

 

 

陣形が変化する。ワーガルルモンは一気に跳躍した。パートナーの攻防を見守りながら、デジモンアナライザーを起動していたタケルたちは、ようやく表示された検索結果を覗き込む。少しでも手助けがしたかったのだ。このデジモンは、古代獣型のマンモンであることが判明する。

 

おそらく構成するデータの大本は太古の昔に絶滅したマンモスである。数々の形跡から、はるか昔に存在していたことが明らかになった古代デジモン。デジタルワールドの温暖化によって、超圧縮されていたデータが解凍され、氷に閉ざされていたエリアから姿を現した。

 

全身を濃い体毛に覆われ、太古の強大なパワーを持つデジモン。顔面を覆う仮面に刻まれた紋章は、超古代の英知の結晶であり、遥か彼方まで見通すことができる千里眼の力を持ち、大きな耳は、遠く離れた場所の音を聞き分けることができる。 

 

必殺技は長く伸びた2本の牙で相手を突き刺すタスクストライクス。長い鼻から一気に冷たい冷気を吐き出して、相手を一瞬で凍らせるツンドラブレス。

 

 

 

月光に照らされた狼男の強烈な一撃が叩き込まれる。マンモンは衝撃を耐え切れずバランスを崩した。援護するように閃光が走り、大地にひれ伏したマンモンは、自分の体重に押しつぶされて激痛に悲鳴を上げる。4つ足歩行の重装備である。体勢を立て直すには時間がかかりそうだ。

 

ヤマトはデジヴァイスをかざした。ワーガルルモンがデータをダウンロードするため、再び光に包まれる。紋章の力がログアウトし、デジヴァイスの光が現れた。

 

 

「えええっ、なんで退化しちゃうんだよ、兄ちゃんたち!」

 

「ガルルモンは成熟期だろっ!?何考えてんだよー!」

 

 

大丈夫だよ、とタケルは笑う。でも、と渋谷系コンビは心配そうに見つめていた。寒冷地体を好む狼の姿をした獣型デジモンは、もちまえの知能と俊敏さ、そして正確さを持って、超高温の炎を叩きつけた。ヤマトは笑う。みろよ、とデジモンアナライザーを差し出されたパンプモンたちは声をあげた。

 

本来のマンモンは、顔面を覆う仮面だけでなく、胴体全体を重装備が覆い尽くしている。

しかし、目の前にいるマンモンは仮面だけだ。

古代に絶滅した古代デジモンが温暖化に伴い氷雪エリアから復活したさい、超圧縮データから解凍する過程は、ずいぶんとおなざりだったようである。

 

古代種のチコモンが復活するときのようにセキュリティ側の丁寧な支援がなかったマンモンは、数十パーセント、もしくはそれ以上のデータが破損し、失われているのがわかる。古代に生息していた全盛期のときを完全に復元しているわけではないのだ。

 

つまり、大きく弱体化していることになる。現代種としてのマンモンは、おそらく古代種としてのマンモンよりもはるかに劣る。弱点を守ってくれるはずの装備が失われた無防備なマンモンに、相性最悪な高温の炎が襲い掛かった。

 

鼓膜が破れてしまいそうなほど、大きな咆哮があたりにひびきわたる。自らの体重に押しつぶされたため、骨折した足を引きずりながら、マンモンが不恰好に立ち上がって後退した。

 

ガルルモン達が追撃する。マンモンは戦意喪失したのか、燃え盛るからだをかき消すために、

砂埃に体を覆った。燃えやすい体が鎮火する。まずい、ここから逃げられると面倒なことになる。ヤマトはすっげえ!と前に乗り出していたパンプモンたちを呼んだ。

 

 

「このままだと逃げちまう!入り口をふさいでくれ!」

 

「おっしゃあ、がってんでい。それくらいならお安い御用さ!」

 

 

見上げるほど大きなカボチャと岩石が召喚される。うおりゃあっと投げつけられたそれによって、がっしゃあん、と防音壁がゆがんでしまったのはご愛嬌。とりあえず、マンモンの行く手を先回りして塞ぐことに成功したヤマトたちは、なんとかここから逃げ出そうともがくマンモンの跡を追った。

 

ツンドラブレスで凍りついた防音壁に、凄まじい勢いで突進するマンモンがいる。べしゃりとはり倒された防音壁を足蹴に、マンモンがその先にあるコンクリートの壁を打ち破ろうと走り抜ける。

 

まずい、まずい、あっちにはまだ家の明かりがついている。住宅地が広がっていたはずだ。

息を切らせながらヤマトたちは走った。すると、突然目の前からマンモンの姿が消える。忽然と姿を消した巨体にヤマトたちは思わず止まってしまった。

 

 

「どこ行ったんだ、マンモンのやつ」

 

「もしかして、ここに来たみたいに消えちゃったのかな?」

 

「いや、違うぞ、タケル。あれは別のデジモンに送り込まれてきたんだ。マンモンに瞬間移動の力はないはずだ」

 

「えーっと」

 

 

地面が揺れた。凄まじい轟音と砂埃がヤマトたちを襲う。突然の地震である。あまりの衝撃に地面にしゃがんでいるしかなかったヤマトたちだったが、すぐに収まった揺れに目を開けてみる。そこには大きな穴が開いていた。ヤマトたちは顔を見合わせる。そして思い出すのだ。

ああ、そういえばここって工事現場だったっけ。なんの工事現場なんだっけ。

 

ツンドラブレスで弾き飛ばされ、エンジェモンによって地面にたたきつけられ、すっかりひしゃげてしまった看板を見る。ぼこぼこの看板には、複合施設建設と書かれている。どうやら地盤整備のために大々的な採掘がおこなわれ、たくさんの鉄板が並んでいた大穴をマンモンは見事に踏み抜いたらしい。

 

どうする?とヤマトたちは顔を見あわせた。遠くから真っ赤なライトが光るのがみえる。ふぁん、ふぁん、ふぁん、と真っ赤なライトが近付いてくる。工事現場は凄まじい戦闘の跡が広がっている。ヤマトたちはさっと青ざめた。逃げるぞというかすれ声に、みんな頷いたのは言うまでもない。

 

そして、なんとか逃げ出したヤマトたちは、ネットカフェからパンプモンたちを帰還させ、ゲンナイさんにマンモンの回収を頼んだのだった。

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