(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第155話

八月の東京は、日が暮れようとするころになってもまだ暑い。じっとりとしめった空気が全身にまとわりつく。だが、丈はそんなこと一向に気にならなかった。目の前にある見上げるようなマンション群は、間違いなく自分たちの家だ。帰ってきたんだ、と丈は思う。

 

キャンプ場に戻ったばかりのころは実感がわかなかったけれど、ようやく実感できる。丈の中の時間は半年以上がたっていて、受験はおろかお台場小学校の卒業すら絶望的な未来しか見えていなかった。一人だけ6年生だったし、私立の中学校への進学を考えているのは自分だけだったから、なおのこと誰にも言えなかった悩みである。

 

だから、デジタルワールドの一日が現実世界の一分であると知った時、一番うれしかったのは他ならぬ丈である。目が覚めた時、まわりは雪景色だった。デジタルワールドと現実世界が繋がる前に振った豪雪と陸続きになっていたせいで、本当に現実世界に帰還できたと気付くのはずいぶん後のことだったように思う。

 

デジタルワールドの冒険は夢ではないし、今もこうして続いていることはリュックの中にいるプカモンが教えてくれる。山の上の祠がある高台から降りて、たった3時間しか経っていなかった衝撃といったら!ここが僕の家があるマンションだ、と指差した声が半泣きなのはご愛嬌。

マンションに近付くにつれて、踏み出す足が少しずつ速くなっていく。

 

 

「丈さん、また明日ですね」

 

「ああ、そうだね」

 

「とりあえず、僕はゲンナイさんとコンタクトを取って見ます。デジヴァイスのアプリはまだまだアップデートしないといけないので」

 

「なにか分かったら教えてくれるかい」

 

「はい、もちろん」

 

 

横断歩道の信号が赤色が点滅し始める。光子郎のマンションはここから左におれて、渡った先にあるのだ。また、明日!と馳せる気持ちを抑えきれないのか、光子郎は信号機が青に変わると急いで駆け出していった。

 

丈は、みんなが自分たちのマンションに向かって歩き出したのを確認して、自分も止めていた歩みを再開させた。集合は明日の朝7時だ。

 

 

 

 

玄関を開けると、リビングからお母さんのこえが聞こえてきた。

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい、今日は大変だったわね。子供会から連絡があったのよ?豪雪の中、遭難しかけたそうじゃないの。あなたが頑張ってくれたから、誰もケガをしてなかったそうじゃない。さすがは6年生ね」

 

「え?あ、いやあ、あはは。僕は当然のことをしただけだよ、なんたって6年生だからね」

 

「そうねえ、行く前はあんまり乗気じゃなさそうだったから、心配してたのよ?まあ、これでピリピリしてた分、気分転換になってよかったじゃない」

 

 

リビングから出てきたお母さんは、もちろんなんにも知らないので、ニコニコしている。城戸家はお医者さんだ。お母さんも医師免許を持っている、看護師経験もある女性である。今日、家にいるのは非常に珍しいと言えた。

 

恐らく今日は夜勤がはいっているか、シフトの関係で休みなのだろう、しょっちゅう家を空ける両親の日程まではさすがに丈も分からない。

 

学校の夏期講習と予備校、塾、図書館と往復するだけの夏休みだったせいで、なんだか久しぶりな気がしてしまうのだ。これでも一応、家族がそろったら一緒に食卓を囲むくらいには仲がいいつもりである。

 

生活サイクルがかみ合わないだけなのだ。それでも、丈からすれば半年ぶりの家族との再会である。うるうる来てしまうのも無理は無かった。メガネをはずしてごしごしやっても、涙があふれて止まらない。

 

あらあら、とお母さんは珍しい末っ子の泣き顔を見て笑うのである。戸惑ったりしないのはさすが医学の道を志しただけはあるきものすわった女性である。だてに3人の男の子を育て上げたわけではないのだ。

 

さすがにすがりついて泣き始めるまではいかないものの、うつむいたまま動かなくなってしまった末っ子の肩を叩いたお母さんは、何も言わないで笑っていた。

 

 

「ケガはだいじょうぶなの?」

 

「うん、大丈夫だよ。ケガも何もしてないから」

 

 

お母さんは安心したけれど、何か違和感を覚えるらしく、次の言葉が不自然に間が出来た。

なんとなく自分が知っている丈ではない気がしたのだ。

 

さすがに豪雪の山の中で3時間も遭難すれば、

いつもと違うのは無理もないと考え直して、リビングから出てくる。

 

 

「それならいいの、よかったわ。どうする?なにか、冷たいものでも飲む?」

 

「うん、そうするよ。あ、でもリュックを片づけてくるよ」

 

「そうねえ、結構大きな荷物だし、おわったらいらっしゃい」

 

「わかった」

 

 

丈は背負っているリュックを持って、自分の部屋に入っていった。鍵を閉める音がする。お母さんは氷入りのグラスを用意し始めた。丈の家はマンションの最上階にあり、ここから綺麗なライトに照らされた観覧車が一望できる。

 

カーテンをあけると、朝から続く電波障害のためか万が一に備えて遊園地は営業を自粛しており、真っ暗な世界が海の向こうに広がっている。珍しい光景だった。丈はリュックをあけた。

 

 

「でてきていいよ、プカモン」

 

 

リュックから顔を出したプカモンは、勢いよく窮屈な空間から飛び出した。

 

 

「もぉー、あっついなあ!ほんとに人間って我慢強いよね、信じらんないよ、蒸し焼きになるかと思ったぜ、丈」

 

「大げさだなあ、プカモンは」

 

 

エアコンをいれた丈は、ぺしゃんこにつぶれてしまった荷物をひっくり返して、洗濯物に直行するものと、収納するものにしわけを始めた。几帳面なのである。あー、すずしい、とエアコンの真下でべたっているプカモンはベットの上でごろ寝している。

丈は苦笑いを浮かべた。

 

 

「そーいえばさあ、じゅけんってやつは大丈夫なのかー?」

 

「大丈夫さ、まだ間に合うよ」

 

「そりゃよかったね」

 

「まあね」

 

「あきらめたままでもよかった気がするけどなあ、そんなに大事なことなのかあ?」

 

「そんなことないよ、重大なことなんだ。うちはお父さんが開業医をやっているし、2人の兄さんたちもお医者さんになるために頑張ってるんだから。僕だけそんな簡単にあきらめるわけにはいかないよ」

 

「ふうん」

 

「兄さんたちはすごいんだ。シュウ兄さんは陸上の全国大会に出場するレベルだし、今日も合宿に出掛けてていない。今日帰ってくるのはシン兄さんだ。成績がイイだけじゃないし、生徒会長とかやってるよ。

 

僕は運動は苦手だし、目立つのは苦手だから、せめて勉強だけでも頑張らないと。お父さんが期待してくれてるんだ、一生懸命勉強しないとダメだろ?」

 

「オイラにいわれてもよくわかんないよ。丈がなりたいお医者さんってやつが、とってもすごいんだなってことは、デジモン達を手当てしてるの見てたらわかるけどさ。おいらたちの世界にもお医者さんがいてくれたらいいのに」

 

「そうだねえ」

 

 

ふあーあ、とプカモンが大きく欠伸をした。

 

 

「眠いのかい?」

 

「いや、ちょっとね。それよりのど渇いた―」

 

「あー、そういえばどうしようかな」

 

「なにが?」

 

「お母さんに君のことを話すわけにはいかないじゃないか」

 

「あー、そっか。なんでもいいじゃん、オイラのぶんもよろしくー」

 

「はいはい、わかったよ」

 

 

ぎゅうぎゅうのリュックに押し込められていたプカモンである。2時間近くかかった長旅からようやく解放されたので、ふかふかのベットの上でのんびりできるのはこの上ない安心感に包まれるのだ。

 

うとうとし始めたまぶたは重そうだ。こうなったら夏休みの宿題だけでもやると適当にでっち上げてしまう方がいいかもしれない。今日はもちろん、3日間ほどは全く勉強する時間なんてないのだが。部屋に片づけ終わった丈は、リュックの中にある衣類をそのまま担いで部屋を後にした。

 

まだ一番上のお兄ちゃんは帰っていないようである。京都の大学から東京まではずいぶんと距離があるから無理もない。電波障害の関係でダイヤの乱れが凄いことになってるらしいから、

ずいぶんと帰る時間が遅くなっているようだった。鍵をあけて、ドアを閉める。

 

丈はリビングに向かった。お母さんがだれかと電話しているようだ。丈がきたことに気付いたお母さんが、受話器に手を当てて、そこにあるから飲んでちょうだい、と麦茶の注がれたガラスを指差した。

 

うなずいた丈は、お言葉に甘えていつも定位置の椅子に腰掛けて、一気に飲み干した。今のうちにプカモンに持って行ってやろうかな。そう思ってこっそり麦茶を注いでいると、お母さんが声を掛けてきたものだからぎょっとしてしまう。

 

 

「なんだい?お母さん」

 

「シンから電話なのよ。それがねえ、やっとお台場行の路線に乗れたんですって。これからゆりかもめに乗って帰ろうと思ったら、ゆりかもめが運航中止してるせいで、乗れないんですって。電波障害が大きくて、電子機器がほとんど止まっちゃうらしいのよ。タクシーで帰るって言ってたわ」

 

「へー、そうなんだ」

 

「天気予報では雨が降るなんて言ってないのに、夕方からずいぶんと天気がわるくなってきたでしょう?もしかしたら一雨来るかもしれないのよ。傘でも持って行ってあげようかと思うんだけど、ちょっと留守番お願いできるかしら」

 

「それなら僕がいこうか?」

 

「さっき帰ってきたばかりじゃないの、疲れてるんじゃない?」

 

「タクシー乗り場までだったらすぐそこじゃないか。大丈夫だよ、それくらいなら」

 

「そお?ならお願いしようかしら。晩御飯は任せてちょうだい、貴方達の好きなものうんと作ってあげるわ」

 

「楽しみにしてるよ」

 

「ええ、じゃあよろしくね」

 

「うん、わかった」

 

丈は足早にリビングを後にした。ヴァンデモンの脅威が迫っている中、お母さんを一人で外出させるわけにはいかない。通り魔に致死傷すれすれの量を吸血されるなんていう猟奇的事件が起こっていることは、一度停止したバス停の休憩時間に巨大モニタのニュースで確認ずみだ。

 

それに、プカモンを連れて外に出られるなら、自動販売機で飲み物もかえるし、近くのコンビニで食料を調達できるはずだ。台場までタクシーでシン兄さんは帰るという。ゆりかもめが使えないなら、みんな考えることは同じだから、きっと渋滞に巻き込まれるに違いない。

 

電波障害が起こっているというのは少々気になる情報だ。ヴァンデモン達に選ばれし子供たちの居場所がばれてしまったのだろうか、それだけでも確認しないと安心して眠れないではないか。アグレッシブな心配性に進化した丈は、うつらうつらしていたプカモンをたたき起こして、リュックの中に誘導する。

 

えー、と非難ごうごうなパートナーには、3日分の食料調達をちらつかせれば、うぐぐとなるのはお約束。しぶしぶリュックに隠れたプカモンは、ぬるまゆのお風呂に入りたかったのに、とぼやいた。残念、城戸家は熱いお風呂が主流である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとございましたー」

 

 

コンビニの店員の愛想笑いをBGMに、店内を後にした丈は、買い食いなんていつぶりだろう!とビニル袋を下げて考える。適当に100円均一コーナーから買いあさったお菓子や飲み物をぶらさげて、一番近くの公園にやってきた丈は、薄暗い街灯下のベンチにこしかけた。

 

うっかりプカモンの入ったリュックをレジ近くに置いてしまったせいで、精算する機械が突然

誤作動を起こすとは思わなかった丈である。幼年期のデジモンですら電磁波を発しているらしい。デジモン達がこっちの世界で暮らしていくには、日常生活に支障をきたしかねないレベルである。

 

さいわい、ちょっと距離を置くことでバーコードを読みとる機械は直ってくれた。何度やっても意味不明な文字、丈からすればデジ文字で表示された商品名に首を傾げ、商品棚を整理していた店長を呼んでくれたアルバイトの人には悪いことをしてしまった。

 

ほっとした様子で突然直った精算機に、コンビニの人達は電波障害がお台場まできているのか、と迷惑そうに談笑しているのが聞こえてしまい、肩身が狭くなったのでさっさと出てきたのだ。居心地悪そうな顔をして、プカモンが出てくる。渡されたペットボトルは蓋が開いている。一気に半分くらい飲み干したプカモンはむくれた。

 

 

 

「なんだい、なんだい、オイラたちだって好きで迷惑かけてるわけじゃないっての!大体、ちょっと近付いたくらいでおかしくなるとか、こっちの世界の機械はもろすぎるんだ。すげー発展してるのにさ、へんなとこで遅れてるよな!」

 

「そりゃあ、ネットワークにある世界とおんなじ基準ってのはまだまだ難しいと思うよ、さすがに。プカモンでさえ、5ギガバイトもあるんだろ?僕の家のパソコンに入られたら、一気に回線が重くなるね」

 

 

めんどくさいなあ、とプカモンはごちた。新鮮な魚貝が恋しいと贅沢をいうので、イカが使われた季節外れのお総菜を突き付けながら、無茶言うなよと丈は肩をすくめた。丈達が自分の家のパソコンを通じて、近道するという選択肢が採れなかったのは、ギガバイトで換算するとデジモン達と人間のデータが重すぎて、転送できないこともある。

 

ネットワークが一気に重くなってしまえば、間違いなくヴァンデモン達に現在地を察知されて、一気にねらい打ちされてしまうのは目に見えている。現実世界との兼ね合いもある。デジタルワールドと現実世界が気軽に繋がるには、もう少し現実世界のネット環境が整うまでまつ必要があるとはゲンナイの談である。  

 

それまではホメオスタシスなどのネットワークセキュリティの援護がなければ、とてもではないが、気軽に出入りする事なんてかないそうにない。

 

そのころには、もう少し気軽にデジモン達が迷惑をかけないで遊びに来れる世界になっているだろうか。もちろん、丈にはわからない。もっぱら楽観的観測である。期待ともいう。

 

 

お母さんは雨が降るかもしれない、と勘違いしていたものの、丈達の上には星空が広がっている。明るすぎる東京のアカリに阻まれて、掠れている星がある。晴れているのだ、お台場の空は。なんだってお母さんが今にも雨が降りそうだ、と勘違いしたのかと言えば、不自然に広がる暗闇が海の向こうからやってくるのが原因だ、と丈達にはわかった。 

 

東京は眠らない街である。夜になっても華やかな摩天楼は消えない。あまりにも眩しいアカリのせいで、夜空はいつだってぼんやりとしかみえないが、新宿方面からは、まるで塗りつぶされたように黒が広がっていれば、違和感しか感じない。

 

その面積はどんどん広がっているように思う。その真下の灯りが霞がかっていくとなれば、

雨のカーテンがその灯りを阻んでいるのだろう、と勘違いするのも無理はない。

 

誰もいない公園の柵の向こうは、海だ。ゆりかもめで繋がっている埋め立ての土地、周囲は海である。丈の体をつたって、肩まで登っていたプカモンは、目を細めてうなずいた。

 

 

「デジモンが出してるやつだよ、あれ。霧なのか、靄なのか、雨でも降らしてるのかは知らないけどさ。自分たちが住みやすい環境に変えちゃうような能力をもってるやつなら、一杯いるからね」

 

 

「太一達大丈夫かな」

 

 

「少なくてもオイラ達よりは大丈夫だと思うよ。超進化できるからね、あいつら」

 

 

「ほっといてくれよ」

 

 

「しーんぱいすんなって、オイラたちはオイラたちなりのタイミングで進化すりゃいーんだから」

 

 

「プカモンはいい加減すぎるんだよ、全く。どんどんこっちに近付いてるじゃないか。

これじゃあ心配でねれないよ」

 

 

「これからぶっ通しで走り回らなきゃなんないのに?ほんと物好きだよねえ、丈ってさ」

 

 

「ほっといてくれよ、もう。僕は君ほど神経図太くないんだよ」

 

 

ふふん、とプカモンは笑っている。なんだよ、とメガネをかけ直しながら、丈は眉を寄せた。

ごちそーさまでした、とプカモンは鼻先にゴミを突き付ける。ビニル袋に押し込んだゴミを公園にある編み目の丸いゴミ箱に入れ、丈はゆっくり立ち上がる。公園に設置されている丸い時計台は、まだシン兄さんがやってくるまで余裕があることを示していた。

 

よし、とリュックの中からデジモンアナライザーを取りだした丈は、デジヴァイスと紋章を忍ばせているポケットを確認した上で、起動させることにした。

 

 

「それじゃ、腹ごしらえも済んだことだし、いっちょやりますか」

 

 

「待った、待った。まだデータの照会が終わってないよ。ゆりかもめの路線で電磁波が発生してるって事は、路線の上か下の海しかないんだから」

 

 

「まだー?」

 

 

「まだだってば」

 

 

「ダウンロード遅くない?」

 

 

「仕方ないだろ、きっと光子郎君がデータベースを弄くってるんだろうさ。無理矢理アクセスしてる状態だからね、少しぐらい我慢してくれよ」

 

 

「はいはい、わかったよう」

 

 

ようやくデータベースがヒットする。丈とプカモンは顔を見合わせて、頷いた。万が一完全体のデジモンがヒットしたら、公衆電話から手当たり次第に応援を呼ぶつもりだったけど、さいわいデジモンアナライザーが探知できた反応は、成熟期レベルのデジモンである。

 

まだ完全体に進化することができないプカモンでも、なんとか対処ができそうだ。紋章とデジヴァイスがある以上、丈達にとって足りないのは戦闘経験だと考えているらしい。少しでもみんなの足手まといから脱却したいという気持ちに代わりはないのだ。

 

気づけば丈以外のデジモンで進化していないのは、みんな小学校2年生の子供たちばかりである。もちろん、パルモンの場合は空に言わせれば大輔の力を使って、と言う反則だったが、一度でも完全体になる経験を積んだパルモンが、自力でリリモンに進化するハードルは、きっとゴマモンがまだ見ぬ進化先を進化ツリーから開拓するより遥かに低いはずである。

 

進化ツリーさえデジヴァイスが記録してしまえば、データをダウンロードするだけになる。きっかけがいつになるのかなんて、やってみなければ分からないのはかわらない。今のところ、海上を移動できるのはプカモンの進化系列だけなのだ。それなら、ふさわしい舞台で思いっきり戦うのがいいだろう。

 

 

ゆりかもめは選ばれし子供達が10人目の子供と光ちゃんの紋章とパートナー捜しに東京に繰り出すには絶対に無くてはならない交通手段なのである。タクシーなんて高すぎて小学生では払えない。車なんてもちろん運転できないし、

デジモンのことも説明できないのに、両親に車を出してなんて言える訳がないからだ。

 

なんだってお台場と東京を繋ぐ橋にデジモンが居着いているのかは知らないが、そのせいでお台場から出られなくなってしまうことだけは、避けなければならないのである。よしいこう、と丈は言った。これくらい僕たちで対処できないとこれからが心配になる。

 

 

 

丈は久しぶりにデジヴァイスを手にした。プカモンが丈の肩から飛び降りて、公園の柵に飛び移る。半日ぶりの海にテンションが上がるのか、やっほい、と上機嫌にプカモンは海に飛び込んでいく。真面目にやってくれよ、頼むから、と頭を抱えつつ、丈はデジヴァイスをプカモンにかざした。

 

まばゆい光が公園全体を照らす。目がくらんでしまい、眩しそうに目を細めた丈は、一番見慣れているゴマモンに進化が完了したことを、ざばんと波しぶきをあげて喜ぶ声から確認する。

デジヴァイスの振動は止まらない。熱を帯びる機械から放たれた閃光が再びゴマモンを包み込んだ。

 

みるみるうちに大きくなっていく光の影。見上げるほどの巨体が現れる。ライオンに似た咆哮は、さすがに目立ちすぎると察したのか控えめだ。デジモンアナライザーによると、イッカクモンは北極探査基地のコンピュータで発見された海獣デジモンである。

 

分厚い毛皮と頑丈な体は、極寒の地でも耐えられるような構造をしている。真夏の大都会ど真ん中だ、ちゃんとした戦闘ができるか心配はあったものの、水温が低い海水がイッカクモンの体調をある程度調整してくれているらしい。

 

心配いらない、とイッカクモンはうなずいた。それならよかった。丈は胸をなで下ろす。最悪、自分で自分を冷却しながら戦う羽目になったら二重苦である。一見すると柔らかそうな羽毛だが、鋭い角はレアメタルの一つ「ミスリル」でできており、毛皮の下の体皮も同等の硬度を持っている。

 

ガッチリと足場を確保できるが、あまり素早く動くことはできないイッカクモンには、よりふさわしい舞台がお台場の海という訳である。これから駆け抜ける3日を占う意味でも、気が抜けない。陸上での戦闘ができるとはいえ、もともと動きが鈍いイッカクモンは、ようやく得意とする海上に出られたことにご満悦のようで、やる気に満ちた表情をしている。 

 

ふかふかの毛皮に飛び乗った丈をのせて、イッカクモンはデジモンアナライザーが関知した場所へ、まっすぐに進撃を開始した。

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