(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第164話

大輔はデジヴァイスを死神に突き付けた。デジヴァイスの光が機械化された死神に向かって発射される。まっすぐに放たれた真っ白な四角い光は、無理やり機械によって浸食され無残な形になっているデジコアを歪に輝かせた。

 

デジヴァイスの光が暗黒によって浸食されているであろうデジコアを浄化し、構成しているデータを初期状態に戻すためのウィルスバスターとなる。

 

ウィルス種ならば、祖先であるコンピュータウィルスの性質を一番受け継いでいる都合上、デジヴァイスの浄化の光自体が致命的な弱点となりえるのだ。

 

多少のダメージを期待した大輔だったが、目の前をちらつくまばゆい光に苛立った様子で、サイボーグの死神は後退するだけだ。

 

 

「えーっ!?まじかよ、うそだろっ。見た目が思いっきりウィルス種のくせに全然効いてない!」

 

 

納得いかないと睨みつけるそのさきには、巨大な漆黒の杖を携えている死神は平然と浮遊している。これでこのデジモンは暗黒の浸食を受けて、洗脳状態となっているわけではないことが証明されてしまった。

 

ウィルス種ではないにも関わらず、明確な殺意をもって大輔たちの前に立ちふさがっていることになる。エクスブイモンに言わせれば、後天的に機械化されたゴースト型デジモンだったなにかだから、改造される前はウィルス種だったのかもしれない。

 

エクスブイモンはにやりと笑う。さっきまで周囲に充満していた、いやな雰囲気が払しょくされたのだ。あちこちにアトランダムで出現しては消える、神出鬼没の不気味な敵の気配が消えたのだ。

 

存在するのは目の前の死神の強烈な存在感だけである。どうやら化けの皮をはがされた死神は、陰湿な嫌がらせをする手段を失ったようだ。これならいける。エクスブイモンの瞳に闘志が宿った。死神が鎌を振り上げる。一気に駆けあがってきた。

 

 

「大輔、しっかり捕まっててくれ。さあ、行くぞ!」

 

 

相棒の返事も聞かないまま、白いもやが真っ白な翼にあおられて、ぐるぐると渦を巻く。真っ白な風を生み落し、エクスブイモンは跳躍する。響き渡る咆哮がしろいもやで満ちた空間を揺らした。

 

いろんな色が混じった赤が、赤を帯びた白になる。エクスブイモンの周りを細い枝のように走る。光は輝きを増して白く発光をはじめ、次第に帯が太くなっていく。

 

しだいに熱を帯び始めた光に、大輔は思わず目を瞑った。真っ黒な世界に真っ白なひび割れ模様が残像のように残る。まじかで炎が燃えているような錯覚に陥るほど熱い青い色を帯びた白であたりが満たされたとき、それはまるで意志を持った怪物のように死神に向かって襲い掛かった。

 

電位差が発生した空間に発生した光と音、そして温度を伴う大規模な放電が直撃した瞬間である。頬を掠める冷たい風がさっきまであった高熱を拭い去ってしまう。

 

耳元でささやく風の声を聴いて、おそるおそる目を開けた大輔が見たのは、体を覆い隠す機械が異常をきたし、不快な電子音を立てて不自然にぐらついている死神だった。

 

ばちばちばち、と体中から静電気の淡い光が伸びている。胴体と義手を繋ぐ電気の帯が不規則になってきている。どうやら効いているようである。瞬きした大輔は、まだまだしばしばしている目をこすりながら、よっしゃ、と笑った。

 

 

「機械だから電気に弱いんだ!」

 

「それもあるけど、オレの攻撃が通ったってことは、もうすり抜ける身体じゃないってことだ」

 

 

これなら、もしかしたら。拳を握りしめたエクスブイモンの目の前で、異様な電子音が辺りに響き渡る。ぎょっとした大輔たちの目の前で、死神はがくがくがくと体を震わせ始めた。 

 

機能不全に陥りかけていた死神だったが、自己修復機能が正常に作動したようで、再び稼働を開始する。白骨化した胴体の下の方に埋め込まれている真っ赤な魔石が煌々ときらめいた。

 

内側に雷を内包している真っ赤な光が死神を満たす。不気味なオーラに包まれた死神の光すら失われた頭蓋骨の先にも真っ赤な光が宿った。はたからみていると不気味な挙動で立ち上がった死神は、音もなく浮遊する。

 

ばち、ばち、と体から火花を散らしながら、だらりと垂れさがっていた杖を持つ手がしっかりと握られた。舌打ちをしたエクスブイモンは飛行を開始した。

 

 

ぶおん、ぶおん、ぶおん、と無機質な電子音が響き渡る。大きな軌道を描いて弧を描いた光は、まぶたの裏に残像がちらつくほど強烈なエネルギーを放っている。

 

それは機械化された鎌だった。全身機械化された死神の持つ黒い杖の先には禍々しい怪物の彫刻が施され、真っ赤な魔石が埋め込まれている。

 

そして、ばちばちばち、と白い発光を繰り返しながら、両端からは膨大なエネルギー体を放出している。巨大な鎌の形をした、白いエネルギー体。

 

容赦なくエクスブイモンと大輔を狙って、執拗に振り下ろされた。それはまるで魂に飢えている死神のようだった。

 

膨大なエネルギーを放出しながら、どんどん巨大化していく鎌を持って襲い掛かってくるサイボーグ型デジモンである。

 

ひたすら獲物に定めた大輔たちを追って、背後から迫りくる。言葉ひとつ発さない、不気味なほど寡黙な死神は、白骨化した頭蓋骨を持っていて、その先には潜んでいる怪しい光すら失われている。

 

バケモンですら白い布の顔に当たる部分にあるくりぬかれた2つの目玉の先には、真っ赤に光る発光体があったことを思えば、このデジモンに自我があるとは到底思えない。

 

巨大な鎌を振りかざすたびに、白骨化した胴体と機械化された両腕の義手を繋いでいる電気の帯が歪に曲がみ、ぎいぎいと軋みを上げて不自然に揺れた。

 

骨格が完全に折れてしまっている動きをしているのに、一切言葉を発する気配もなく、淡々と大輔たちを追い続けている。

 

追跡者は疲れる素振りすら見せないまま、何度目になるか分からない閃光をエクスブイモンに向かってさく裂させた。

 

 

ひびが入っている黒真珠から、キラキラとした破片がぼろぼろと崩れ落ちていく。キラキラとした光沢が、白いもやの向こうにとけていく。デジコアを構成しているデータがゆっくりと消滅しつつあることを示していた。

 

ぶおん、と白いもやを切り裂く大きな鎌は、発光するエネルギー体でできていて、その動きのたびに電子的な音を立てる。機械化されている死神から繰り出される大きな鎌の猛攻の跡には、風前の灯であるひび割れたデジコアの破片が散らばった。

 

どうやら死神は悲鳴を上げているデジコアを感知する本能すら遮断されているらしい。悲痛な面持ちで何度目になるか分からない青い稲妻を叩き込んだエクスブイモンは、猛攻を緩めることなく追撃を重ねる。

 

輪唱するように雷鳴が辺りにとどろき始める。中途半端な一撃では自己修復してしまう機械型の死神である。修復すら及ばないほどのダメージを与え続けるしか方法がないのだ。

 

次第にエクスブイモンの叩き込む雷撃の色が青色を帯びた白い光から真っ白な光に代わり、赤色を帯びたものに変わっていく。大輔が目を開けていられないほどの熱さがなくなってくる。

 

じりじりと死神が稼働を停止する時間が短くなり、エクスブイモンとの距離が近くなってきた。雷撃を打ち込むために時間を溜めていては死神に距離をつめられてしまう。

 

凄まじいエネルギーを発生させている鎌の射程範囲に入ったら終わりだ。本能的にそれを悟っているエクスブイモンは、移動時間と攻撃の割合が逆転をし始める。

 

精度が落ち、威力がどんどん落ち始める。大輔は心配そうにエクスブイモンの体をなぜた。疲労を隠せなくなってきた赤い瞳が細められる。

 

 

「大丈夫だよ、大輔。まだいける」

 

 

ごうごうとうるさい風の中で、飛翔する速度が遅くなっていることは嫌でも分かる。大輔はデジヴァイスを握り締めた。

 

 

「でも、おまえっ!」

 

 

言いかけた言葉は、今まで聞いたことのない異様な音によってかき消されてしまう。びくっと肩をゆらしたエクスブイモンは、ぎょっとした顔で前を見る。さあっと血の気が引いた。聞いちゃだめだ、大輔!耳を塞いで!という絶叫が響き渡った。

 

訳が分からないまま耳を塞いだ大輔の目の前で、あたりに響き渡る形容しがたい不気味なノイズにさらされたエクスブイモンが声にならない悲鳴をあげる。大丈夫かって声をかける余裕すらない。

 

耳を塞いでいる大輔ですら、わずかに聞こえてくる怪奇音が、がんがんと頭の中で直接響き渡り始めたからだ。まるでボールが頭の中で暴れ回っているような錯覚にとらわれるほどの頭痛に襲われる。めまいがした。

 

吐き気が込み上げてくる。でも手をどけたら最後だとわかる。大輔ですらこの状態なのだ。エクスブイモンの喰らうダメージは凄まじいものがあるだろう。頭の中に響き渡るノイズ。

 

エクスブイモンは懸命にこらえながら、ほどんど気力で飛行を続けた。

 

 

『そろそろ、終わりにしようよ』

 

 

直接脳内に響き渡る、声。誰だよ、とかすれ声でつぶやいた大輔に、エクスブイモンは目を見張る。どうやらエクスブイモンには聞こえていないようだ。

 

 

『鬼ごっこでもしない?』

 

 

おにごっこ?あまりにも場違いなつぶやきにエクスブイモンはぎょっとする。ばっと顔を上げた大輔の先には、白いもやに浮かぶ真っ赤な目が二つ、並んでいた。

 

それが後方から追いかけてきたはずのシルエットだと気付いたエクスブイモンは軌道を変える。このままでは大輔が標的になってしまう。それに使える攻撃手段が少なすぎる。

 

目を逸らしたら襲ってくることは分かっている。だから視線を固定したまま、エクスブイモンは翼を広げた。ぎょろぎょろとした真っ赤な目玉がふたつ、飛び出しているようにみえる。丸い輪郭が2つ並んでみえた。

 

 

「大輔?なんだよ、鬼ごっこって」

 

『どうしたんだよ?へんな顔しちゃってさ。ボクももう飽きちゃったんだよねえ、だからさ、早く始めちゃおうよ。あーもーいいや、始めちゃおう。じゃあ、ボクが鬼だね』

 

 

真っ赤な目玉を持った黒い物体が、にょろりと首を伸ばし始める。その先には真っ赤な光がある。そこからたくさんの黒い何かが噴き出しているのが見えた。

 

あまりにも異様なシルエットに、エクスブイモンは悟るのだ。この機械型デジモンに埋め込まれている真っ赤な魔石こそが本体であり、ゴースト型デジモンはただの寄生先にしか過ぎないということに。大輔がつぶやく。

 

逃げろってつぶやく。え?とエクスブイモンは聞きかえす。鬼ごっこするって言ってるんだよおって大輔は叫んだ。

 

 

「え、え、まさかあのデジモンが?!」

 

『10秒数えるよ。わかってるよね?わかってないの?鬼ごっこのルール、わかってるよね?ちゃんとやらないと怒るよ?怒っちゃうからね?』

 

 

すぐ真後ろから聞こえてくる声にあわてて振り返った大輔だったが、そこには誰もいない。

 

 

「は、はやいっ!?さっきまでと違う!?」

 

『だめじゃないかぁ、ちゃんと周りを見てなくちゃ。ちゃんと逃げないと鬼ごっこにならないでしょー』

 

 

今度は真正面から聞こえてくる。今度こそ真っ赤な目がこちらをのぞいていた。完全体のデジモンのイメージからあまりにもかけ離れた、下手したら大輔よりずっとずっと年下に聞こえてくる子供の声に大輔は顔をひきつらせる。

 

ぞくぞくと悪寒が背中を走る。冷や汗が噴き出す。みるからに怯えはじめた大輔に、エクスブイモンは一気に降下しはじめた。

 

大輔、大輔って呼びかけているが、大輔の視線はどんどん遠ざかっていく真っ赤な瞳しか見えていないようだ。エクスブイモンにしがみつく両手の力が強くなる。

 

 

「逃げてくれ、エクスブイモンっ!」

 

 

はやく、もっとはやくっ!!血相変えて叫ぶ大輔には、あのデジモンの声が聞こえているようだ。あのデジモンの中から喋りかけてくるものの声が聞こえているようだ。いつの間にか頭をつんざくノイズは止んでいる。

 

置き忘れた機動性を取り戻したエクスブイモンは、大輔の必死の叫びを背に受けながら加速していった。ひゅおおおおお、という異様な音が響き渡る。どんどん近づいてくるそれにエクスブイモンは戦慄するのだ。

 

音すら置き去りにして降下するエクスブイモンのあとを、それすら凌駕するスピードで何かが迫りくる。後ろを確認している余裕はなかった。最初に絡め取られたのは足だった。おぞましい何かがエクスブイモンの強靭な足にからみつくように押し当てられる。

 

真っ白な光がエクスブイモンの脚を貫通していた。大輔が見たのは、ここまで伸びている鎌の矛先がエクスブイモンのところまで到達している、異様な光景である。あまりにも大きなエネルギーを発光している鎌に、とうとう追いつかれてしまったのだ。

 

すさまじい力で引き留められたエクスブイモンが悲鳴を上げる。まるで完全に同化してしまったようだった。鎌が振り上げられるとエクスブイモンの体がまるでぬいぐるみのように反転する。

 

貫通していた光から解放されたエクスブイモンは、放り出されてしまった大輔を庇ってしっかりと抱きしめる。どおおおん、という轟音と衝撃が辺りを覆った。かはっとエクスブイモンの口から血が舞った。

 

円形にゆがんでいる壁に叩きつけられたエクスブイモンは、大輔だけは離すまいと抱きしめたまま、ずるずる、と滑り台のようになっている壁を伝って床に落ちる。瓦礫と埃でぐちゃぐちゃになった空間に叩きつけられてしまった。はっと目が覚めたのは大輔が先だった。

 

ぐったりとしているエクスブイモンの腕の中で、あわてて相棒の名前を呼ぶ。何度も何度も必死ですがりつく大輔に気付いたエクスブイモンが、辛うじて目を開けた。

 

ほっとした大輔だったが、大輔が少しでも動くと苦悶の表情を浮かべるエクスブイモンに、うかつに動けなくなってしまう。そんな標的を逃すわけもなく、巨大な鎌を振り上げた機械音の主は大輔たちの目の前に現れた。

 

もう限界だった。逃げようにも背後は壁。満身創痍に疲労困憊が重なったエクスブイモンは、ほとんど動けない状態なのである。

 

ざっくり、と鎌がすぐ目の前に押し当てられたにも関わらず、睨みつけることしかできないのは、その証明でもあった。大輔はエクスブイモンの腕の中で、必死にポケットの中を探る。

 

 

『鬼ごっこ、もうやめちゃうのかい?つまんないなあ』

 

 

白骨化した頭蓋骨には煌々と赤い光が宿っている。

 

 

『もういいや。どうせボクと遊ぶ気なんて、最初っからなかったんだろ?もういいや。エクスブイモンだっけえ?おまえ、いらないや。ボクが連れて来いって言われてるのはそこの子供だけだしねえ』

 

「お、オレなんか連れてきてどうする気だよ」

 

『そんなの決まってるだろ、めんどくさいこというなよなあ。紋章を奪ったお前たちのせいで機械を動かす動力源が枯渇してんだよ。ヴァンデモン様がお怒りなんだ。ボクだって死にたくないからさあ、こうやって仕事してるんじゃないか』

 

「なんだよ、それ。紋章を奪ったのはお前らだろ!?」

 

「大輔をどうする気だ」

 

 

エクスブイモンが唸る。絶対に渡さないぞ、オレの世界でたった一人のパートナーなんだから、と低く唸るエクスブイモンに、あっはっは、と甲高い声が大輔の頭の中で反響した。

 

よく言うぜ、よわっちいくせに!と真っ赤な目玉がぎょろりと輪を描いた。ひゅおっと鎌が床に叩きつけられる。かあん、と金属がぶつかる音がした。火花がちる。

 

床が削れたのか、小さな粉が舞った。すんでのところで回避したエクスブイモンに、不満そうに死神は再び鎌を振りかざす。ようやくみつけたデジバイスを握り締めた大輔は、手探りでボタンを確認する。

 

 

『避けちゃダメじゃないかあ』

 

 

ひゅおん、と空を切る音がする。

 

 

『大人しく、壊れちゃえ!』

 

 

かあん、と眼と鼻の先で鎌が止る。

 

 

『へーえ、これが結界?おもしろいもんもってるじゃん。やっぱそう来なくっちゃ』

 

 

甲高い子供の声が笑っている。デジヴァイスから展開された結界がエクスブイモン達を覆い隠してくれたのだ。

 

しかし、死神は面白いおもちゃを見つけたと喜んでいるだけで、状況が好転したとは言えなかった。

 

本来なら外敵から姿を消したように見せてくれるステルス機能が、まるで機能していないのだ。大輔たちの驚いた顔まで見えているようで、凝視した骸骨がかたかたかたと音を立てて笑った。

 

死神は言う。みえてるわけじゃない。透明人間になっていることはかわらない。すごいよね、わかんないよ、ぜんぜん、と死神は言う。でも、10人目の子供、9人目の子供が持つはずだったデジヴァイスはヴァンデモンが持っている。

 

だからそっちの手の内は分かり切っているんだよ、と面白おかしく語って見せた。もっとも、その情報が開示されているのは幹部クラスのデジモンだけで、下っ端のデジモン達は知りもしない。

 

当たり前だ。裏切りの可能性をいつでもはらんでいる者に情報を提示するほど敬愛するアンデットの王はバカじゃない。つまり死神相手にデジヴァイスは正常に機能しているが、まるで意味をなしていないのだ。

 

 

『あははっ!壊れないで遊んでくれるやつなんて、久しぶりだよ!めずらしく、楽しい夜になりそうだ!どれくらい持つかなあ?ちょっとは持ってくれよなあ!』

 

 

かあん、と鎌の音が響き渡る。かあん、かあん、とひとまわり大きくなった金属の音が辺りに響き渡る。かあん、かあん、かあん、と振り下ろされるたびに大きさも衝撃もけた違いに巨大化していく機械仕掛けの鎌。

 

ぴしり、と結界に亀裂が入る。存在の隠匿に特化している結界自体に強度はあまりないようだ。空間にひびが入ったことに死神は口笛を吹いている。

 

叩きつけられる恐怖にさらされながら、エクスブイモンは懸命に立ち上がろうと体をよじる。ぐう、と声にならない悲鳴を上げる相棒に、大輔はたまらずしがみついた。

 

くしゃり、とエクスブイモンが大輔のあたまをなぜる。死神の声が大輔だけにしか聞こえない以上、エクスブイモンはただただ怯えている大輔を抱きしめることしかできない。

 

涙目になっている大輔をなだめながら、死神を睨みつける。大輔がぽつりぽつりと紡ぐあまりにも自分勝手で理不尽すぎる死神の戯言に、エクスブイモンは憤怒の表情を色濃くしていく。

 

 

許せない。エクスブイモンの蹄が大地を殴り付けた。許せるわけがないだろう。大輔を世界征服のために使う恐ろしい機械を起動させるエネルギータンクとしてしか見ていない、価値を見い出していない暴言を吐き続けているのだ。

 

大輔が理解していることを知っていながら、囁き続けているのだ。屈辱だった。これ以上なく、侮辱だった。エクスブイモンが最も敵視している勢力の復活に協力するという暴挙を働いているだけでも許せないというのに。

 

古代種の生き残りであるエクスブイモンの目の前で、誰よりも大切な同族たちを殲滅に追いやった勢力とおなじことをしでかそうとしているのだ。エクスブイモンの目の前で、大切なものを奪い取ろうをしているのだ。

 

 

しかし、いまもまた、こうしてエクスブイモンは何もできないまま、大輔に護られている現実がある。デジヴァイスの結界がとかれたら、間違いなくエクスブイモンは殺される。そしたら、大輔は攫われるだろう。

 

ヴァンデモンのところに拉致されるだろう。この死神曰く、エネルギータンクとして利用するつもりのようだ。エクスブイモンの脳裏に、トラウマともいうべき映像が過る。

 

たくさんの機械が並べられている地下施設。檻に閉じ込められている仲間たち。緑色に発光している液体が満たされたカプセル。その中には・・・・。

 

エクスブイモンは頭を振った。あの時のオレとは違うんだ。守られるだけで、逃げるだけで精いっぱいだったオレとは違うんだ。逃げるために進化を選んだオレとは違うんだ。

 

もう2度と失わないと誓ったんだ。大切なものはオレが守る。そのためにオレは、オレは、オレはっ!

 

 

ばきりと音を立てた結界に、とうとう機械仕掛けの鎌が貫通する。

 

 

『なあんだ、この程度なの?つまんないや。さっさと終わらせたら、他のやつらのところにいこうっと。あいつら完全体みたいだし、もうちょっとは楽しめそうだよね。そうは思わない?本宮』

 

「呼ぶな」

 

『なんだよー、かっこつけちゃって。お前はこいつの目の前で壊れちゃえばいいんだよ。それがお仕事だろ、しっかりしろよなあ。ボクの用があるのは、本宮大輔君だけだし?』

 

「ふざけるな、大輔はエネルギータンクなんかじゃない!オレの、オレの、世界で一番大切な、守りたいものの名前をよぶんじゃないっ!大輔はおれのパートナーだ。大輔を泣かせたお前を、オレは絶対に許さない!オレは、お前を倒すんだッ!!」

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