(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第166話

ヤマトへの電話を終えたミミは、明日の自分に全てを丸投げするつもりのようで、すっかりリラックスモードだった。ドライヤーで髪を乾かしながら、念願のご飯にありついているタネモンを見守る。

 

「この料理なんていうの、ミミ?あたし食べたことないわ」

 

「これはね〜、ママお手製のキムチチャーハンの生クリーム添えよ!いちごがポイントなの!」

 

「へえー、ミミのママが作ってくれたのね?ありがとう!これが人間の世界の食べ物なのね!」

 

なにやら盛大に勘違いしているのだが、おそろしいことにその事実をタネモンに教えてあげられるような人は今この場に誰もいないのだった。

 

しばらくして、お皿をキッチンに返しにいってきたミミにタネモンがパパやママはどんな人間なのか興味津々で聞いてきた。大好きな家族を紹介するのためにミミはベッドの上にある写真たてのひとつを手に取った。

 

「紹介するわね、タネモン。あたしのパパとママよ」

 

ミミがさしだした家族写真には、三人家族がうつっていた。

 

「ママはね、太刀川サトエっていうお名前なの。パパはケースケ」

 

「なにをしている人なの?」

 

「んーと、パパはね、ロック系ミュージックのフリーのミキサーをしてるの。今は渋谷のミュージックスタジオで収録してるから、今日は帰れなくなっちゃったみたい。ママはね、すっごく料理が上手なの。あたし、キムチチャーハンの生クリーム苺のせ大好き。ふたりともすっごく仲がいいの。ラブラブなの」

 

「そうなんだー。ご挨拶できないのがすっごく残念だわ」

 

「あたしもー」

 

タネモンを抱っこしたまま、ミミは黄昏の窓にカーテンをしめようと立ち上がった。

 

マンションの各部屋から洩れる光は無限の星々と化して天空に広がるプラネタリウムのようだとタネモンは思った。マンションの全13階分もの廊下に隙間なくついてる黄色の蛍光灯が、まもなく訪れる闇に備えて流れる雲の下で既にこうこうと光っていた。

 

タネモンはミミの部屋を見渡した。ミミ曰くよくある普通のマンションだ。とくに高級というほどではないが、グレードはそこそこ高そうだ。上品なデザインで、外装のタイルにも金がかかっている。玄関も立派で明るい。

 

おもちゃの街にだってこんなに大きな建物はなかった。ファイル島でいうならあの工場くらいだろうか。あのあかりの分だけたくさんのニンゲンが住んでいるのだと聞いたタネモンは、ニンゲンはたくさんいるからこうでもしないと住む場所が確保できないだなんて不便だなあと思ったのだった。

 

「ミミ、なにかしら?」

 

ぴこぴこぴこぴこ、ぴこぴこぴこぴこ、と不意にデジヴァイスが反応しはじめる。ミミはデジヴァイスを覗き込んだ。

 

「えーっと、今この辺にいるのは、丈先輩と私と......あれ?」

 

「デジヴァイスの反応、多いわね、ミミ」

 

「もしかして、ヴァンデモンの手下が近くにきてる!?」

 

ヤマトから聞いたことを思い出したミミはあわてて窓からベランダに飛び出した。眼下に広がる黄昏のお台場。不自然な暗闇がテレコムセンター駅周辺に見えたのだ。ミミはデジモンアナライザーを起動する。

 

「えっ、えっ、なにこれ!?」

 

そこには見たこともないデジモンがうつっていた。

 

「ミミ、急ぎましょう!誰か襲われているかもしれないわ!」

 

「うん、怖いけどいきましょう、タネモン」

 

ミミのデジヴァイスが輝き出す。次の瞬間には超進化したリリモンがミミを抱っこしたままベランダから飛びたったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

賢の兄である一乗寺治は小学生低学年のころから目隠しをして、縄跳びをしながらリフティングするという超絶技を披露できるくらい、これまでも多くのメディアに取り上げられてきた名実ともに天才のサッカー少年である。

 

4歳でサッカーを始め、かつて日本代表も所属した名門のサッカークラブに在籍している。そこはサッカー指導を主な職としている指導者が運営しており、セレクション等を行うチームでもある。プロチームの下部組織でもあり、遠征や練習試合等も多いことから、月々に掛かる費用も少年団や学校のクラブ活動と比較して少し高くなるが、指導者の人数も充実しており日々の活動に対する保護者の負担は少ない。

 

ゆえに父親は大手IT企業の会社員でプログラマーあがりの係長、母親はハンドメイド商品を取り扱う喫茶店にパートタイムで働く専業主婦で、家の中には彼女の手作りのパッチワークが並んでいるような、裕福ではあるが一般家庭である一乗寺家の負担はたしかにあった。だが家計的な無理をしてまで両親は治をクラブチームに通わせていた。

 

住居は田町駅近くにあるタワーマンションのTAMACHI.T.M.マンション303号である。

 

今かよっているクラブチームは治が父親からもらったパソコンで自分で調べ上げ、見学や入団試験にいたるなにからなにまで調べ上げて父親を説得して入ったところだ。

 

治によれば、サッカーはうまい子がいっぱいいて、うまい子とやったらとても楽しい。うまい子とやったらうまくもなれるし。つらいときもあるけど、楽しいから、やりきって、それでサッカーがうまくなっていったり、誰にも負けない気持ちがついていくことに興味があるとのことで、そういう熱意が今に繋がっている。

 

賢が治に憧れて同じクラブチームに入りたいといいだすのはある意味自然な流れだったし、幼いころから兄が集めたサッカーグッズや年上の友人達に囲まれて育った賢は同じクラブチームに入ることができるくらいには才能と努力に恵まれていた。

 

今日はクラブチームの練習が終わり、賢は治と一緒に家に帰るところだった。

 

テレコムセンター駅からゆりかもめに乗って新橋駅に行き、新橋駅から歩いて4分ほど先にある浅草線に乗り換えて三田駅で降りる。あとは自分たちの住んでいる田町駅のあたりまで400メートルほど歩かなくてはならない。これで30分の長い長い帰り道は終わりを迎える、はずだったのだが、どうも今日は昼間からなにかがおかしかった。

 

「まだ来ないね、兄さん」

 

「そうだな」

 

「どう?」

 

「ダメだ、いくら調べても出てこない」

 

「なにかあったのかな?」

 

「さあ......」

 

「お父さんは?」

 

「今夜も帰れないみたいだし、待つしかないな」

 

「そっか......」

 

「仕方ないだろ、今、父さんは悪い奴らと戦ってるんだ」

 

「うん」

 

電波障害の復旧作業に追われている技術者の父は数日家に帰ってこない日が続いていた。車の免許を持たない母に迎えを期待することはできないし、一乗寺兄弟は似たような状況に巻き込まれたチームメイトたちと、未だに復旧の目処がたたないゆりかもめを待つしかない。一応、テレコムセンター駅についてからすぐ母親には電話をかけたのだが、こればかりはどうにもならない。

 

一緒にゆりかもめに乗るつもりだったクラブユースのスタッフが事務所に電話をかけている。

このままゆりかもめの復旧の目処がたたなければ、車を手配してもらってみんな送迎してもらえるらしい。さすがに将来のアスリートたちになにかあったら、預かっている身としてはたまらないのだろう。

 

「せっかく、兄さんのチーム勝ったのにね。お母さんのハンバーグ早く食べたいのになあ」

 

「そうだな」

 

いつもなら帰っている時間だった。手作りのお菓子と紅茶で兄弟の帰りを待っているはずの母親を思うと2人の顔は暗くなった。治はため息をついた。

 

「兄さん」

 

「ん?」

 

「大丈夫だよ、きっとすぐ終わるよ。お父さん頑張ってるんだもの」

 

「......そうだといいんだけどな」

 

励まそうとしてくる弟に兄は苦笑いした。

 

治が焦っているのは、なんとなく賢もわかっていた。

 

文武両道を体現したかのような治は、スポーツも優秀だが学業も非常に優秀であり、進学校への進学を目指している。自分に相応しいクラブチームを自分で見つけ出したときのように、夏休みは合間を見つけてはオープンスクールにいっては自分の進路を見つけようとしていた。このまま電波障害が終わらなかったら、オープンスクールが中止になるかもしれない。クラブチームの交流試合や遠征も中止になるかもしれない。まだ小学5年生ながら小学生以上の思考をしている治には、賢にはわからない不安からくる焦燥感があるようだった。

 

賢はなにもできない自分が嫌だった。

 

「......」

 

「兄さん?」

 

「......いや、なんでもない」

 

電波障害が起こってから、父親は帰ってこれないし、自分たちはこうして帰れないし、母親を心配させてしまうしで、ずっと治は憂鬱そうだった。それだけではない。行く途中でみた巨大な電光掲示板で光が丘あたりやお台場あたりで電波障害があったとニュースをみたときから、ずっと兄の様子が変だったと賢は思い出す。

 

なんだかそわそわしているような気がしてならないのだ。

 

賢がいくら聞いても、なんでもない、と誤魔化されてしまう。賢はもどかしい気持ちをかかえたまま、駅内のアナウンスを聞いていた。

 

 

チームメイトたちが、大人たちが、倒れていく。治は賢の手を引いて駆け出した。

 

「なに!?なにがあったの?」

 

「わからない、でも逃げるぞ!ニュースでみたことある!!」

 

治の頭を掠めたのは、4年前に東京で起きた地下鉄に毒ガスがばら撒かれた史上初にして最悪のテロ事件らしい。なんとなく聞いたことがあった賢は真っ青になって必死で走った。

 

兄弟を襲ってきたのは、毒ガスでもなければ、電波障害を起こすテロ組織の人間でもなかった。暗闇から突如姿を表した巨大な怪物だったのである。

 

駅から飛び出した2人は、駅の中のようにたくさんの人々が倒れているのを目撃する。どうやら魔の手はすでに周囲にまで及んでいるようだった。

 

「わあっ」

 

「賢!」

 

転んでしまった賢に魔の手が迫る。

 

不意に敵の手が止まった。

 

「......なんだ?」

 

よくわからないが助かった。治は賢を助け起こすとそのまま走り出す。賢はじっとこちらを見つめている怪物をみていた。

 

「どうした、賢」

 

「え?あ、ううん、なんでもないよ、兄さん」

 

「足が痛むのか?」

 

「ちょっと擦っただけだよ、大丈夫」

 

「ならいい、走れるか」

 

「うん、大丈夫」

 

ふたりの兄弟は必死で走った。

 

それは、竜と昆虫の合成獣であり、“恐ろしい蜂”の名をもつデジモン。竜型とも昆虫型とも区別しにくい種であるが、昆虫の性質が色濃く出ている。4枚の羽で上空を飛び、頭部の複眼で敵を的確に捉え、確実に敵の息の根を止める。かなり凶暴な性格の持ち主である。

 

先程賢に向かうはずだったが、すんでの所でとめた必殺技は素早い動きで残像を残しながら敵を切り刻む“地獄の舞踏”『ヘルマスカレード』である。

 

「───────パートナーの本能には抗えないか」

 

暗闇が不意に声をかけてきた。

 

「───────戻れ、貴様はまだ我が従者として相応しくないようだ」

 

怪物は暗闇に飲まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

ミミが到着したときには、あれだけうるさかったデジヴァイスの警告音も振動も一瞬にして消えてしまった。デジモンアナライザーから次々とデジモンの反応が消滅していく。気づけば誰もいなかった。

 

ただ、静寂が広がるテレコムセンター駅の周辺には、意識を失ったまま倒れている人がたくさんいることに気づいたミミは真っ青になった。

 

「リリモン、たいへん!!みんな、あのデジモンにやられちゃったの!?」

 

リリモンはあたりを警戒しながら近くにいた人にデジモンの匂いが残っているためにうなずくしかない。

 

「安心して、ミミ。寝ちゃってるだけみたいだわ」

 

「え、あ、そうなの?血が吸われたわけじゃなくて?」

 

「ええ」

 

「よ、よかったあ......。ってそんな場合じゃなかった、電話しなきゃ!えーっとえーっと110だっけ119だっけ、ああもうわかんない!!」

 

ミミは近くにある公衆電話にかけこむ。緊急ボタンを押したら自動的に通じたため、ミミは一生懸命話し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、ここにいる全員が四年前には光が丘に住んでいたのね」

 

空が確認するようにいった。昨日あったことはすでに情報共有済みだ。まだ朝早いですお台場のマンションに隣接した臨海公園内には、ヤマトとタケルを除いた七人の子供たちとそのパートナーデジモンが人目を避けて茂みの中にいた。

 

昨日それぞれがヴァンデモンの手下と交戦し、かなりの被害は出たのだが、さいわい人間もデジモンも死者は0である。今日もまたヴァンデモンの手下をデジタルワールドに送還しながら、10人目の子供たちを探すことになるだろう。

 

「10人目の子供もね」

 

丈がいった。昨日、レインボーブリッジ下の戦いを大学生の兄に見られてしまったという丈は、デジモンのことがバレてしまい、今回の10人目の捜索に兄がレンタカーを借りてくれるという朗報をもたらしたばかりだ。

 

「どうやら大事件だったんだよ。みんな思い出したばっかりだから実感わかないだろうけどさ、こんなのみせられたら、なあ?」

 

太一は及川さんから預かったプラスチックのケースをあけて、みんなに見せるのだ。当時の新聞のスクラップブックや5人いた先代の選ばれし子供たちのうち4人について(最後の1人はどうしても見つからなかったようだ)詳細に書かれた記録、たくさんの資料がそこにはあった。

 

「すごいですね......僕も気になっていたんですが、今日はまだ図書館が開いてないのでネットの新聞社のアーカイブしか調べられませんでした。ここまで調べられる気がしません。貴重な資料ですね」

 

光子郎はニュースを読み上げる。

 

「光が丘で爆弾テロ事件、か」

 

「電波障害......だからニュースでずっとやってるんだね」

 

「アメリカでもあったって書いてあるの?もしかして、アメリカでもあった、とか?」

 

「ありえますね。僕らがあやうく闇貴族の館のゲートから光が丘ではなくアメリカにとばされかけたのは、誰かがアメリカをかつて行き来したことがある証ですから」

 

「誰かって誰だよ、なっちゃんみたいな?」

 

「みて、太一。前の選ばれし子供のひとりがアメリカ人だわ」

 

「え、まじで?」

 

「ネットはもともと戦争のために海外でつくられた技術です。それが普及して僕らが使えるようになりました。それを考えるならデジタルワールドにかつてきた子供たちが日本人ばかりなのはむしろ不自然ですから、僕はそんなに驚きませんね」

 

光子郎の言葉にみんな感心したように思い思いに声を上げた。

 

「及川さん、同僚に光が丘テロ事件のこと忘れてる小学校2年の子供がいるらしくてさ。調べてくれるって」

 

「それは心強いですね」

 

「これ連絡先だって」

 

太一はみんなに名刺を回した。

 

「怖いのは昨日の爆発事故とかブラックスモッグの事故、電波障害、全部光が丘テロ事件の犯人のせいだって思われてることだよなあ......」

 

「あの年は大地震や日本初のテロがあって大騒ぎだったみたいだし、仕方ないのかもしれないわね」

 

「僕らもなにも知らなかったら、勘違いしてたよ、きっと」

 

「でも、俺、しってますよ!デジモンは悪い奴もいいやつもいるってこと!」

 

「わーかってるって、みんなわかってるよ、大輔。だから俺たち、ここにいるんだから」

 

「はい!」

 

選ばれし子供たちは決意を新たにして、太一が出してきた名簿に集まるのだ。それは光が丘テロ事件被害者の会が管理しているなんらかの被害をうけたときに子供たちがカウンセリングや治療をうけたときにつくるリストでもあった。

 

 

それによると光が丘テロ事件において記憶を失った子供たちのうち、小学校2年生の子供はだいぶ絞られるらしい。

 

川田範子(かわた のりこ)

 

吉沢孝(よしざわ たかし)

 

倉田けいこ(くらた けいこ)

 

芝田浩(しばた ひろし)

 

そして、一乗寺賢(いちじょうじけん)

 

「一乗寺?」

 

珍しい苗字だとミミは反応したが、サッカー部員の反応は明らかに違っていた。有名人に対するそれだ。

 

「一乗寺くん?太一、一乗寺くんてまさかあの一乗寺くんなの?」

 

「おれもこの名簿みたとき驚いたよ。あの一乗寺、ジュニアユースの一乗寺がさ、光が丘に住んでたなんてな」

 

「でも一乗寺さんは小5ですよね?」

 

「そうなんだよ」

 

「誰だい?その一乗寺って」

 

「これ読んでくれた方がはやいんだけどさ、サッカーやってるやつで知らないやつはいないと思う」

 

「へえー、そんなに有名人なの?」

 

太一は愛読しているサッカー雑誌を丈たちにみせた。そこにはジュニアユースの試験に見事合格した将来有望の天才少年が海外の選手と交流したイベントのことが書いてあった。そこには一乗寺治という太一と同じ小学5年生の男の子の姿があった。略歴が書いてあるがなるほど天才少年だと持て囃されるだけはある華々しい経歴が書いてある。

 

「光が丘に住んでたことは書いてないね」

 

「そりゃ......さすがに言えないだろ」

 

「だよね」

 

「でもさあ、ここの受信歴みると立ち直るまで結構かかってるみたいなんだよな、一乗寺。そんで、気になることがあって」

 

「気になること?」

 

「ほら、光が丘テロ事件を目撃した子供たちは基本みんな忘れてるわけだろ、みんな?丈のお兄さんだってそうなんだ」

 

「シュウ兄さんは覚えてて、シン兄さんは覚えてないみたいだから、なにか違いがあるのかもしれないね」

 

「でも、お姉ちゃんは覚えてましたよ、太一先輩。まだ小学生だったのに」

 

「そう、そこなんだよ」

 

「え?」

 

「光みたいにデジモンは見えないかわりに、光が丘テロ事件のこと自体覚えてただろ、ジュンさん」

 

「はい」

 

「カウンセリング、受けてるみたいなんだよ、ジュンさん」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「ほら、ここにあるだろ?」

 

「あ、ほんとだ......」

 

つい最近も通院歴があることに気づいた大輔は不安そうな顔をした。

 

「ジュンさんだけじゃない。光が丘テロ事件のことを覚えてる人は何人もカウンセリング受けてる。でも、覚えてるからカウンセリング受けてる子供は、あんまりいないみたいなんだ。その中に一乗寺がいるんだよ。ジュンさんみたいなパターンを考えると、ありえそうな気がするんだよなあ」

 

「しきさ、もしホントだとしたら意外だね。普通、天才サッカー少年の一乗寺治くんの方が選ばれし子供みたいな気がするけど」

 

「まあまだ決まったわけではありませんから。一乗寺くんも含めて5名なら、なんとか手分けして探すことが出来そうですね」

 

「シン兄さんの車にいくとして、あとはどうする?ネットも繋がないとデジタルワールドにデジモンたちを送り返せないし、うーん」

 

「そのことなんですが、ちょっといいですか?」

 

なんだなんだとみんな光子郎のパソコンをみる。

 

「おはよう、選ばれし子供たちよ。昨日は1日お疲れ様じゃったのう。今日がいよいよ正念場じゃ」

 

「あ、ゲンナイさん!」

 

「おはようございます!」

 

「御用ってなあに?」

 

「先程太一から話が出た及川さんからたっての希望でな、なっちゃんのように人間に擬態もできるデジモンを2体提供してもらったから、そちらに派遣しようと思うんじゃ。なにしろヴァンデモンはウイルス種しか見えない結界やワープ装置を駆使しておる。トラップもあるじゃろう。ブイモンだけに負担がかかりすぎるからのう。にもかかわらずウイルス種の守護デジモンはお前さんらの知っての通り、全滅しておる。ゆえにその代わりというわけじゃな」 

 

どうやら新しい助っ人はクルマが運転できるようだ。いきなりの展開に太一たちは顔をみわあせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「これは......」

 

「あの人たちの話を聞いて、俺なりに作ってみたんですよ。あの時はまたパートナーに会いたいと願う恩師を喜ばせたい一心でした。完成を見る前にあの人は亡くなり、やっと完成したその日のうちに、唯一の理解者を俺は失ったわけですが」

 

「そうじゃったか......」

 

及川さんのパソコンに展開されているプログラムは、デジモンとよく似たデザインのキャラクター、そして攻撃などのモーションが搭載されたものだった。AIではなく、あらかじめ想定される質問に対する答えをたくさん学習させてあるだけで、自我があるわけではないという。だがシームレスに応えるあたり、その完成度は計り知れないものがあり、自我が未発達なデジモンだと思えば充分に通用しそうなものだった。

 

新作ゲーム用のキャラクターだと言われれば遊びたいと思うほど完成度が高い。

 

それは、及川さんが先代の子供たちのひとりと恩師と生徒という関係だからこそ、かつての冒険を詳細に聞けた証でもある。

 

「俺はデジモンを作れていたでしょうか」

 

「ここに人工知能があれば、もはやデジモンとなんらかわらん領域じゃのう......」

 

「人工知能か......まだ俺たちはアトムをつくれませんから......」

 

「じゃが、案外お前さんのような人間がデジモンを作ったのかもしれんのう。人工知能がなくともデジモンと呼ばれる者はおるからなあ」

 

「ゲンナイさんもデジモンの定義は知らないのですか」

 

「いかにも。我々もデジモンがどうやって生まれたのか、わからない。わしらセキュリティの末端ゆえにクリアランスで知り得ない情報なのか、そもそもデジタルワールド側が知らないのかはわからん。わかっておるのは、かつてエニアックというコンピュータがお前さんたちの世界に誕生したその日、コンピュータウィルスが入り込んだことだけじゃ。このコンピュータウィルスに初めから人工知能があったのか、あとから獲得したのかはわからんが、ネットワーク上で姿や性質を変え、生き物のように進化したのがデジタルモンスター、デジモンじゃ。お前さんたち人間がいつから心を持つようになったかわからんように、わしらにとってもわからんことはたくさんある。じゃが、長きにわたる歴史の中で、デジモンが人工的にデジモンを作ろうとしたことはあるし、それが起源のデジモンもおる。ゆえに、自我がなくとも、デジタルモンスターであるといえるのう」

 

「そうか......俺はデジモンを作れていたのか......」

 

「尊敬する人を喜ばせたい一心で作り上げたんじゃろう、そのデジモンたちを。ならば、それはデジモンじゃ。して、そんなに大事なデジモンをわしらに託すとは......ほんとうにいいのか?」

 

「あの人がもう一度行きたかった世界が危機に陥っているのなら、こいつらを役立てて欲しいんです。俺もいつかそちらの世界に行きたいので、なくなっては困るんですよ」

 

「そうか......そうか、ありがとう。お前さんの好意に甘えて、セキュリティに属するデジモンの進化ツリーに加えさせてもらう。ゆえに自我はお前さんの想定しているものではないかもしれん。それでもかまわんかのう」

 

「もちろん」

 

「ありがとう、これでなっちゃん以外にようやくそちらの世界を支援できるデジモンが派遣できるわい」

 

及川さんは嬉しそうにうなずいたのだった。

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