(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第176話

太一たちはデジタルゲートに突入した。

 

「な、なにこれ......」

 

「こんなにたくさん......」

 

太一たちを待ち受けていたのは、ゲートポイントに均等な間隔をおいて、ならんでいるたくさんの子供たちの姿だった。ぶかぶかの服を着ていたり、大きすぎるカバンをもっていたり、色々と不自然なところがある。なによりも太一たちを戦慄させたのは、みんな、目に光がないことだ。完全に心が折れて、正気が失せている。ただ直立不動で立っている。ただただ不気味だった。

 

「ま、まさか、ここにいるのみんな、誘拐された人達なの?!」

 

「お、大人は!?大人はどこいったんだよ!!」

 

叫ぶ太一の後ろから笑い声がした。

 

「ここをどこだと思ってるんだい?」

 

それは幼い少年の声だった。もし大輔とパイルドラモンがここにいたのなら、メタルファントモンの向こう側にいた謎の声だと気づいたにちがいない。

 

「ここは、この病院はすでに僕の結界の中にあるのさ。僕の領土でもある。ここでは大人は存在することすら許されない。それでも来るつもりなら、キョウにおいてはキョウに従え、だよ」

 

キラキラと輝く粒子があたりに四散した。メタルグレイモンたちが退化して、幼年期になってしまった。太一たちはあわてて空から落ちてきたパートナーをキャッチする。

 

「まさかこれは、タケルがいってたティンカーモンたちか!?やっぱり仕掛けてきたな!」

 

無数のナイフが乱舞する。

 

「現実世界とデジタルワールドが漸くつながろうとしてるんだ、邪魔しないでくれないかな、選ばれし子供たち。僕らはあの子たちに会いたいだけなんだよ」

 

「あの子たちってまさか、前の子供たちのことか?ピーターモン、お前は知らないかもしれないけど、」

 

「知ってるよ」

 

ピーターモンは悲しげに目を伏せた。

 

「墓参りをすることすら許されないのか?僕らは?」

 

「───────それは、」

 

「どうして人間には寿命があるんだろう。どうして人間は生まれ変わらないんだろう。僕らはいつもおいていかれてばかりだ」

 

「......」

 

「だから、思ったんだよ、僕は。デジタルワールドと現実世界をつなげてしまえば、きみたちが不死の存在になれば、もう二度と悲しい思いをしなくてすむんじゃないかと。だから。現実世界には結晶化してもらうよ。全てのものが結晶化すれば、きみたちは死ななくなる。ずっと生きていける。そうすればもう怖いことなんて、なにもない」

 

「勝手に決めるなよ!なんでそうなるんだ!」

 

太一たちは悟るのだ。ピーターモンとティンカーモンは暗黒の力の影響を受けて、認知が歪んでしまっているのだと。

 

「ヴァンデモンがやばいのがわからないのかよ、2人とも!!おまえら、おかしくなってるんだよ!!」

 

「このままじゃ間に合わなくなるわ、あなたたちも、ヴァンデモンも!お願い、話を聞いて!!」

 

「なんで......なんでこんなことになっちゃうの?みんな、デジタルワールドのこと、ちゃんと考えてたはずなのに......守りたかっただけのはずなのに、どうして......?」

 

「邪魔しないでくださいまし。あなたたちになにがわかるの。なにも知らないくせに」

 

「結局、僕らのことを理解してくれるのは、ヴァンデモンさまだけなんだ」

 

「そうですわ。あなたたちが邪魔をするというのなら、容赦しません」

 

 

 

 

 

 

 

太一たちを見送り、不安そうに空を見上げていた光は、いきなり衝撃波が襲ってきて体を縮こませた。

 

「大丈夫か、きみ」

 

「怪我はない?」

 

「あ、は、はい、大丈夫、です」

 

シンからデジモンについて話を聞いていた一乗寺兄弟から聞かれて、うんうんうなずいた。

 

ディノビーモンは活路を開いたが、太一たちには同行せず、バケモンたちの軍団から一乗寺たちを守るためにずっと近くで戦ってくれている。

 

また、どおん、となにかが揺れる衝撃が光たちを襲う。それはどうやら病院からだった。ヴァンデモンと話をしにいくんだといっていたテイルモンが不安でたまらない光は、デジヴァイスを祈るような気持ちで握りしめていた。

 

ガラスが真横から弾き飛ばされ、なにかが吹き飛んできた。ぼろぼろになったテイルモンだった。光はあわてて駆け出す。

 

無数のコウモリが追撃してくる。ディノビーモンも飛んだが間に合わない。それを全て薙ぎ払ったのは、ヴァンデモンとの話し合いに邪魔が入らないよう手配してくれていたミスティモンだった。

 

ミスティモンはテイルモンを抱えて、光のところにやってきた。

 

「テイルモンをお願いします」

 

「う、うん!」

 

光のデジヴァイスの結界の中にテイルモンがおさまったのを確認して、ミスティモンはバケモンたちの襲撃からシンたちを守るべく空を飛んだ。

 

「テイルモン、テイルモン、大丈夫!?」

 

デジヴァイスの光がテイルモンをつつみこむ。目に見えている範囲ではあるが、傷が消えた。光はほっとする。テイルモンはうめきながらも意識はあるようでうっすらと目を開けた。

 

「ひかり......」

 

「なにがあったの、テイルモン。ヴァンデモンとおはなししたんじゃなかったの?」

 

「ヴァンデモンさまは......」

 

テイルモンは空を見上げた。

 

「孤独だったんだ」

 

「こどく」

 

「もっと話を聞くべきだったんだ」

 

「どういうこと?」

 

「ヴァンデモンさまは、いま、とても絶望している。それは心に闇を持つということだ。それは暗黒の力の影響をよりうけてしまう。わたしが話したことで、揺らいだものがあったらしい」

 

「じゃあ!」

 

「希望をあたえるなといわれた」

 

「え?」

 

「思い出させるなと、ヴァンデモンさまがヴァンデモンさまではない声で、そういったんだ」

 

「それって」

 

「わたしたちではもうだめだ、光。ヴァンデモンさまにわたしたちの声はもう届かない。どうか、力を貸してくれ」

 

「テイルモン......」

 

轟音がした。病院の壁が吹き飛び、鉄筋もろとも小さな粒子となって結晶化しながらこちらに降り注いでくる。驚いた光がテイルモンをだっこしたまま空を見上げた。

 

「あれは......」

 

「なんだ、あれ......!?」

 

「ヴァンデモンがなにかに取り憑かれてるんだ!」

 

病院から這い出てきたのは、ヴァンデモンではなかった。画面の内側から肥大する脈動する心臓に蝕まれたヴァンデモンのような、なにか、だった。ヴァンデモンの体を食い破りながら噴出した粘着質の物体がどんどん肥大化していく。ヴァンデモンの肉体が取り込まれていく。あまりの気持ち悪さに光たちは顔を引き攣らせた。

 

ヴァンデモンの体の外側だけを残して、袋だけにして、その中に暗黒の力がぱんぱんに膨らんでいくような錯覚すら覚えてしまう。体のあちこちから溢れ出る黒い塊は歪な手となり、四方から伸び始める。どうみても、その手が本体のようだ。

 

ヴァンデモンの目にはすでに光はない。テイルモンにより正気に返ることを警戒したのか、いよいよ自我が塗りつぶされてしまったようだ。

そこにあるのは、ふたたび暗黒の力に染め上げられた意思しか存在しないだろう。その意思とはもちろん、世界を進化しない概念という暗黒で侵食させるための意思である。

 

強大な力で無理矢理新たな力を開拓しようとしているためか、あちこちに生じる歪みで、身体のパワーバランスが取れず、不安定な挙動をしている。

 

また、デジコアを身体の中に収めることができないのか、どんどんひび割れていくデジコアが剥き出しの状態で歪んだ光をたたえていた。抑えこむことの出来ない力は全身から漏れるように流れ出ている。

 

「シンさんのいうことが本当なら、ヴァンデモンもただではすまないんじゃないか?」

 

「このまま、なにかに進化しちゃうってこと?」

 

「たぶん、な」

 

一乗寺兄弟の言葉を聞いて、よくわからないながらも、テイルモンが助けたいはずのヴァンデモンがあまりにも絶望的な状況に陥っていることだけは理解した光は、なにもできないまま空を見上げた。もどかしくて、もどかしくて、たまらなかった。

 

「はじめに、蝙蝠の群れが空をおおった。続いて、人々がアンデッドデジモンの王の名を唱えた。そして時が獣の数字を刻んだ時、アンデッドデジモンの王は獣の正体をあらわした。天使達がその守るべき人のもっとも愛する人へ光と希望の矢を放ったとき、奇跡はおきた、か。......予言は、あたってしまった」

 

テイルモンの言葉に視線が集中する。

 

「テイルモン?」

 

「わたしはな、光。ヴァンデモンさまに拾われたとき、選ばれし子供のパートナーだと教えてもらったときに、いわれたんだ。わたしはいつか、ヴァンデモンさまを殺すんだと」

 

「え?」

 

「嘘だと思った。予言なんて所詮予言だ、そう思っていたはずなのに、気づいたらこうだ。もうひとりはどういうわけか、ここにはいないけれど......嘘だと思いたかったけれど......このままだとヴァンデモンさまは暗黒の力の糧になってしまう。食い尽くされてしまう。ジョグレスしてデジコアがひとつにされたら終わりだ、ほんとうに終わりなんだ。もうこれしか方法がないというのなら、わたしは、私はっ......!!」

 

光はテイルモンの手を握りしめた。

 

「ひかり......」

 

「テイルモンのいうことがほんとなら、このままだと、ヴァンデモンは、誰にもごめんなさいができないまま、死んじゃうってことだよね?」

 

「......ああ」

 

「それはきっと、しぬよりつらいことだよ、テイルモン」

 

「......ひかり......」

 

「私もね、ずっとつらかったの。光が丘のこと、ずっと私のせいだと思ってたから。私の力のせいだって思ってたから。でも、テイルモンにあえたし、みんなにあえたし、友達もたくさんできたからね、ちょっとだけ、好きになり始めてるの。ヴァンデモンがどれだけつらいのかはわからないけど、あのまましんじゃったら、かわいそうだと思う。テイルモンがなんとかできる方法を知ってるなら、やってみよう。ね?わたしも、手伝うから。だって私は、テイルモンのパートナーなんだから」

 

「..................ありがとう、光」

 

「うん」

 

光はうなずいた。

 

そして、思った。生まれて初めて思った。

 

デジモンを進化させることができる力があって、それが光がもっている力なのだとしたら、ヴァンデモンを止めるために進化したいと心の底から願っているパートナーの願いをどうか叶えてあげたいと思った。

 

光が生まれて初めて、自分がもつ不思議な力を誰かのために使いたいと願った瞬間だった。

 

その気持ちが届いたとき、光の紋章が光を放つ。それは生まれて初めて、自分の力と向き合っていこうと決めた女の子の決意に答える形で結実する。

 

テイルモンは光につつまれる。そして、光の目の前で空高く舞い上がる。光の渦をまきこみながら肥大化していったそれは、やがて一体の天女、いや天使を産み落として消えていった。

 

そこにいたのは、完全体の天使だった。

 

エンジェウーモンはその左腕を真っ直ぐに伸ばし、右手には矢を射るように構えた。すると左腕を肘まで覆っている真っ白な手袋から出ている羽飾りが長く伸びて弓の形となり、眩い光で出来た鉉と矢が出現した。エンジェウーモンは弓を引き絞る。

 

「───────......」

 

その時呟かれた言葉は誰も聞くことができないほど小さなものだったが、頭から目まで覆う兜からきらめくものが流れる。

 

そしてひくのだ。その矢は翼のような軽やかさで、意識をかすめて飛び去って行く。放たれた矢は今まさに産み落とされようとしている災禍を貫いた。

 

無数のコウモリがあたりに散っていった。ヴァンデモンを構成しているデータが自ら崩壊していく。暗黒の塊をも巻き込んで消滅していくのがみえた。ゆっくりとヴァンデモンの巨体が倒れていく。すでにそのデータは0と1に四散し、崩壊を起こし始めている。

 

そのデータが上空のデジタルゲートに吸い上げられていくのをミスティモンは見逃さなかった。

 

「ウィッチェルニーから追放された私を助けてくれた礼すらしていない恩人の転生する機会すら剥奪するのは傲慢が過ぎます。あなたがテイルモンを匿ってくれなかったなら、わたしの生はきっと無意味だったのだから」

 

放った一撃がデジタルゲートの前に炎の壁を構築していく。行き場を失ったデータの残滓は、本来転送されるべきデジタルゲートに吸い込まれていく。

 

「ありがとう、ミスティモン」

 

「礼を言うのははやいですよ、エンジェウーモン」

 

「そうね」

 

エンジェウーモンは崩壊が中途半端な形で止まっているヴァンデモンだったものをみた。不気味な静けさがそこにはあった。ジョグレスに必要なデータが欠損してしまい、一時的に止まっている状態だ。

 

エンジェウーモンは第二撃を打とうとした。

 

「自らの欲望のために数多のデジモンたちを洗脳し、現実世界に侵攻させ、幾多の命を奪ってきた。その罪を思い知るがいい、暗黒の力よ!」

 

その矢はたしかに心臓のように脈動する暗黒の力を捉えた。ヴァンデモンを構成するデータはいよいよ粒子となってきえていく。

 

「やった、のか?」

 

「すごいね、兄さん。あれだけ強そうだったヴァンデモンが倒されちゃったよ」

 

「......エンジェウーモン......」

 

エンジェウーモンが浮かない様子で唇を結んでいることに気づいた光は、まだなにも終わっていないのだと知ることになる。

 

霧の結界は晴れる気配はない。デジタルワールドの蜃気楼も消える気配はない。それどころか濃霧は濃くなり、いよいよ逆さまのデジタルワールドは手が届かんばかりに近づいてきているのがわかる。

 

上空のデジタルゲートに向かった太一たちの気配はない。ピーターモンたちの布陣も、なにも変わらない。それはなにかあることの証明でしかなかった。

 

エンジェウーモンがヴァンデモンがいたところに残された赤い仮面を発見して、それに手を伸ばした。

 

その時だ。

 

上空のデジタルゲートから真っ赤な稲妻が走った。それはエンジェウーモンからヴァンデモンの仮面に伸ばした手を遮るように直撃する。無常にも炎上し始めた仮面はあとかたもなく消えてしまう。残されたデータは0と1に溶け、たくさんの毒々しい色をしたコウモリとなり、上空のデジタルゲートに消えてしまう。

 

エンジェウーモンは空を睨みつけた。

 

「エンジェウーモン、急ぎましょう。このままではヴァンデモンさまが転生するのに必要なデジタマに転写するだけのデータを確保できません」

 

「誘われてるわね」

 

「だが行かないという選択肢はありませんよ、太一たちが心配だ」

 

ミスティモンの呼びかけにエンジェウーモンはうなずいた。そして振り返るのだ。

 

「もうすぐ予言の時間」

 

「さっきいってた、悪魔の時間......6時か」

 

治は結晶世界と化している病院の時計をみた。エンジェウーモンはうなずく。

 

「ねえ、光。ここからが正念場なのだけれど、あなたは太一の勇気にあなたの力を託す覚悟はあるかしら」

 

さしだされた手に、光はその意味を理解して、大きくうなずいたのだった。

 

「僕もいくよ」

 

「賢?本気なのか?」

 

「うん、いきなりのことでなにもわからないけど、このまま待ってるだけはいやなんだ。兄さんいってたよね、このままだと小説みたいに全てが結晶になっちゃうって。それを見ていることしかできないなんて、嫌なんだ」

 

「賢......」

 

「それに、遼さんが心配だよ、兄さん」

 

「なら、僕も」

 

「兄さんはここにいて」

 

「賢」

 

「よくわからないけど、敵は僕らが兄弟なことが嫌で殺そうとしてるよね。僕はディノビーモンがいるけど兄さんはシンさんと一緒にいないと危ないよ」

 

「......それは」

 

「八神さん、大事なお仕事があるみたいだし、ディノビーモンがいないと両手が塞がったらエンジェウーモンがさっきみたいに攻撃できないよ」

 

治はだいぶ迷っていたようだが、シンにも諭されたことでしぶしぶうなずいたのだった。

 

「絶対帰ってこいよ、賢。みんな一緒に。いいな」

 

「うん、ありがとう兄さん。いってきます」

 

「光ちゃんも気をつけて」

 

「はい」

 

2人はパートナーデジモンと共にはるか上空のデジタルゲート目掛けて飛びたったのだった。

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