(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第177話

なっちゃんと及川さんにあとのことは任せて、パートナーデジモンの回復を待って、すぐにヤマトたちは上空のデジタルゲートに突入した。そこでは、すでに太一たちが敵と交戦状態だったのだが、パートナーが幼年期に退化しており、防戦一方だと気づくのだ。

 

敵の正体に真っ先に気づいたのは、タケルだった。

 

「どうして?どうしてティンカーモンがここにいるの?ヴァンデモンの手下なら、なんでロゼモンが生きてること教えてあげなかったの!?なんでここにいるんだよ、きみのせいでロゼモンは、ロゼモンはあっ!!」

 

タケルの叫びに、ティンカーモンの口元がいびつなまでに歪む。ぎりぎりまで引き上げられた笑みには、明らかにイタズラがバレて悪びれもせずにニヤニヤする性悪な性質が浮かんでいた。

 

「僕、てっきり暗黒の手下になったと思ってたのに!」

 

タケルの言葉に、太一たちはようやくその歪さに気づくのだ。紋章を盗み、デジモンたちを人工的に進化させたり、動力源にしたりする犯人がティンカーモンとピーターモンだったのは判明しているのだが、この段階ではみんなヴァンデモンの手下だからだと思っていた。

 

ただ、今まで集まってきた情報を整理してみるとおかしな点があるのだ。

 

ヴァンデモンが現実世界にいくことを決意させた直接のきっかけがロゼモンの失踪、ゲンナイさんがかくれがから出てこれない、挙句の果てに守護デジモンの中に暗黒勢力の内通者がいるという確かな情報しかなく、無謀とはわかっていても先代の子供たちを探しに行こうとしたのならば。

 

ロゼモンが裏次元に発生した結晶化現象をそのエリアごと封鎖して見張りとなることでこれ以上広がらないようにしていることにティンカーモンたちは気づいていたはずなのだ。

 

ヴァンデモンとロゼモンの関係を知っているはずの彼らは、ただちにヴァンデモンにロゼモンの事情を報告できたはずなのだ。そうすれば、ヴァンデモンももう少し切羽詰まった状況ながらも選択肢が広がったはずなのである。

 

それをティンカーモンたちはよしとしなかった。会える方法を知りながら情報を握りつぶした。ロゼモンにもヴァンデモンにもなにも伝えようとはしなかった。その結果、どうなったのか。

 

そこまで気づいてしまった選ばれし子供たちは気づいてしまう。

 

ティンカーモンたちがタケルの怒りを聞いても、興味なさげに平然としているということに。

 

「内通者はきみたちなの?」

 

ティンカーモンたちに怒りをぶつけながら、その結論に自分で気づいてしまったタケルは、思わず冷静になってしまった。

 

「まえの子供たちにあえなかったことが、そんなにつらかったの?だから?」

 

悲鳴にも似た叫びを何度となく聞いてきた子供たちは、ようやく気づくのだ。ティンカーモンとピーターモンは暗黒の力によって洗脳されたわけではない。かつて戦った宿敵の危険性など嫌というほど2人は知っているはずなのだ、なにせ2人は人工デジモン、進化も退化もしない、極めて特殊な個体なのである。だからこそ、抗えなかったのかもしれない。古代デジタルワールド期に結晶化現象によって世界を進化しない概念で染め上げようとした暗黒の力の強烈な誘惑に。

 

いつかはバレてしまうと思っていたようで、ピーターモンもティンカーモンも弁解すらしなかった。

 

こうしているあいだにも、刻一刻と世界は結晶化の時間が迫り来る。時間を稼ぐつもりなのだと気づくのだ。

 

交渉の余地など初めからなかった。戦うしか道は残されてなどいなかったのである。

 

「......ふざけるな」

 

太一たちは振り返った。

 

「ふざけるな!!ティンカーモン、ピーターモン、お前たちはなにをしたのかわかっているのか!!」

 

放たれた閃光の雨がティンカーモンたちに降り注ぐ。しかし、ヴァンデモンを屠ったはずのそれは2人に届く前にあっけなくかき消されてしまう。2人の周りは濃霧がより濃くなっている。暗黒の力がより強くなっているようだ。怒りに任せた単調な攻撃では届かないのだろう。

 

「なにを怒っているんだい、エンジェウーモン。正気か、正気じゃなかったか。きみたちと僕らの違いはそれしかないよ。僕らがしでかしてきたことは等価なはずだ」

 

「たくさんのデジモンを勧誘して、実験室送りにして、配下にするために処刑して、たくさんお手伝いしましたわよね。忘れたとは言わせませんわよ」

 

「少しばかり記憶を弄らせてはもらったけど、最終的にやったのはきみたちも同じじゃないか。止められなかったから、殺したんだろう、エンジェウーモン。ねえ?」

 

たたみかける2人にエンジェウーモンは悔しそうな顔をしながらもいいかえすことができない。

 

「そうだ、最終的にヴァンデモンさまを討ったのは私だ」

 

「でも!それだけじゃないよ!!ね、エンジェウーモン!あのままじゃ、暗黒の力に食べられちゃうところだったから!そうだよね、エンジェウーモン!」

 

「ひかり......」

 

「僕もみたよ。ヴァンデモンの中身はもう暗黒の力でいっぱいで、今にも破裂しそうなくらい大きくなってたんだ。あのままじゃ、だめだってことくらい、なにもしらない僕でもわかる

よ!エンジェウーモンは間違ってない!!」

 

「けん......」

 

「それより返してよ、ヴァンデモンの大事なデータ!!もっていっちゃったの、あなたたちでしょ!!」

 

「このままだと生き返れないって聞いたよ、僕。それがどれだけひどいことかくらい、わかるよ。みてたから!」

 

光と賢の言葉を聞いて、太一たちはヴァンデモンの最期についてようやく知ることになる。その残骸すら、目の前の2人が利用しようとしていることも。

 

ピーターモンは肩を竦めた。そして、ティンカーモンと笑った。

 

「結局あなたたちも、前の子たちと全く同じことをいうのね」

 

「心底がっかりさせられるよ、人間には。1946年から53年もたってるのに、ほんとうになにも変わらないんだね」

 

そして、語られるのは、自分勝手にもほどがある言い分である。

 

ピーターモンたちは、端的に言うと、人間を不老不死にしたいという。

 

その手段として選んだのが結晶化現象とよばれるものだ。デジモンが現実世界にとっての異物であるために発生する歪みであり、触れたものを水晶で覆い尽くしてしまうと言う謎の現象。しかもその水晶は成長し続け、ほうっておいたら一帯が結晶で覆われてしまう。しかもそれは物質、生物、すべてを対象とする。

 

デジタルワールドが好意的でなければ、間違いなく戦争が起きるレベルの現象だ。現在進行形で、世界中で今まさに結晶化現象により壊滅するという被害が発生し、その原因となったデジモンをホメオスタシスが帰還させるという事件が続発している。

 

「これは進化だよ。僕は人類をさらなる高みに連れて行きたいんだ」

 

「そうすれば二度と悲しい思いをせずにすみますもの。どうしてわかってくださらないの?」

 

2人は前の冒険で理解したらしい。

 

デジタルモンスターは転生する生命体だ。転生できるだけのデータを転写できずに消滅するという事態にでもならない限り、死というものは次の生の前段階でしかない。パートナーと呼ばれるデジモンは自我を保ったまま転生する、そのテイマーにとってただ一人のデジタルモンスターだ。

 

そして死に別れたとしてもそのパートナーは必ずこう言うのだ。ちょっとのお別れだと。もういっちゃうのかと。人類も転生という特定の宗教で語られる程度の死生観について言及するのだ。特殊な生命体から自分たちもそうだとまるで当然のように語られれば、もしかしたら、と思う人間は多い。まして、たったひとりのもうひとりの自分からそう言われるのだ。

 

なら、どうして人間は死ぬんだろう。デジモンは自我を持って生まれ変わるのに。その問いにたいして、人類は欠陥品だから、という結論に達したのがピーターモンとティンカーモンであり、あらゆる手段を持ってデジタルモンスターのような完全な生命体にしてあげようという過激な思想になっていた。

 

 

現実世界とデジタルワールドの歪みから発生する結晶化という異常現象、そしてこれから発症する病をきっと人類は克服できない。克服する必要など無い。これが人間のあるべき姿なのだから。そんな極端な思考回路の元、意図的に結晶世界を発生させようとしている。

 

澄み渡る音がただただ恐ろしかった。

 

そこにあるのはもはや自分でもどうする事もできない強い感情。心を本能的に煽ぎ立てる悪意。この奇怪な二つの矛盾がピーターモンとティンカーモンの心の中で平気で両立している。

 

眼前の境界でその二つの矛盾を割合に困難もなく使い分けるゆがみ切った性根を持っていた。極端に涙もろく、極端に残虐。まるでふたりの人が一つの肉体に宿っているかのような歪さだったが、正気のまま行われているのだ。誇らしげですらある。

 

ティンカーモンの鱗粉がデジモンたちを襲う。なんと、ほかの助太刀に来たデジモンたちまで退化してしまったではないか。どうやら本来同じ成長期にしか通用しないはずの攻撃は、暗黒の力による強化をうけて、完全体まで通用する必殺技にまで昇格していた。通用しなかったのは、メタルガルルモンだけである。

 

「きみたちも仲間にいれてあげるよ。だから、幼子にしてあげる。その方が結晶化するのも早いからね。手伝ってくれるよね、ロゼモン」

 

ピーターモンが指を鳴らす。上空の濃霧が晴れていく。つられて見上げた太一たちは凍りついた。

 

 

 

ゲートポイントの上空が薔薇以外の植物を探すのが困難なほど、いっさいが逆さまの薔薇で埋め尽くされている。「カクテル」「パレード」「マリア・カラス」など品種は様々。鉢植えのものもあれば花壇に茂るもの、壁や支柱に絡みながら伸びるものなど、形もいろいろだ。いままさに咲き誇らんとする色とりどりの薔薇がそこら中に溢れて、あたりは濃厚な香りと色彩に満たされている。それは息苦しささえ感じるほどの光景がある。

 

あまりにも異様な光景だからか、腐乱死体に吹き出た発疹のように、増え続ける癌細胞の血漿のように、薔薇が咲いているようにみえる。白い布のように触れる壁を背景に、地面に散ったり急に風で舞い上がったりしている。

 

芝生の花壇で尾籠びろうなほど生なまの色の赤い花、黄の花、紺の花、赭の花が花弁を犬の口のように開いて、戯ざれ、噛かみ合っている。

 

そのデジモンは薔薇の花壇の中を旋回すると一輪の花のように輪を造った。

 

十八世紀の貴婦人の概念が薔薇色のサングラスをかけて今に蘇ったと言いたいほど優雅で上品な夫人がそこにいた。太一たちは野薔薇のばらの中へ、顔でもつっこんだような、強い香に襲われてむせ返る。

 

真っ赤な薔薇の花弁が何枚も何枚も落ちてくる。

 

誰もが魅入られる美しい容姿でありながら、とてつもない異臭を放つ究極体のデジモンがそこにいた。まわりには闇が鱗粉のように舞っている。

 

断じて、ロゼモンではなかった。そこに正気の光はなかった。ただ、笑っている。くるくる回っている。そのたびに花弁が散り、その花弁が降り注ぐたびに、薄ぼんやりとした闇は、次第に濃度を増し、体を構成していく。直立不動だった子供たちが倒れていく。そのころにはその体の闇の凝集は目に見えるほどになっていた。

 

その体が閃光を放った。肉体として完全に実体化した。巨大な蝙蝠のような翼を広げる。ゲートポイントはいよいよ封鎖され、あたりは真っ暗になった。

 

一歩踏み出した。それだけで球体のはずのゲートポイントは明らかに楕円形に沈み込み、地震が起きたように揺れた。

 

子供にされてしまった人々はそれでも微動だにせず、ただ虚空をみつめて、ヴァンデモンの残滓を吸収し、再降臨を画策する敵の名を賛美する。

 

深淵にも似た暗闇の中で、動くことが出来たのは、メタルガルルモンだけだった。

 

「お兄ちゃん!」

 

光は選ばれし子供たちの唯一の光源であるデジヴァイスを頼りに太一のもとに一目散に向かうのだ。エンジェウーモンもまたかけつける。どうしたんだと目を丸くする太一に、光はテイルモンから聞いたヴァンデモンたちをなんとかする方法、予言の書に記されたやり方を説明するのだ。

 

「わかった、やれるな、光」

 

「うん!」

 

形容し難い色彩の光が放たれる。それはデジヴァイスの光だった。その光は太一の体を貫通し、新たな進化経路を開拓する起爆剤となる。コロモンに新たなるデジゲノムがダウンロードされ、一気に進化段階に入った。あまりの眩しさにティンカーモンたちはなにもできないまま目を覆っていることしかできない。

 

そして、八神兄妹のデジヴァイスの光に呼応する形で2人以外のデジヴァイスが輝きだし、やがて八角垂の結界が展開されていく。それはたしかにラフレシモンを捕らえた。

 

そして、身動きを完全に封じられたラフレシモンを討つべく、2体目の究極体が選ばれし子供たちの前に現れた。

 

「コロモンじゃ、ない」

 

「コロモンじゃないよ、太一。ウォーグレイモンだ」

 

「ウォーグレイモン」

 

赤い瞳が優しげに笑った。

 

それはワクチン種、竜人型の究極体のデジモンだった。

 

超金属「クロンデジゾイド」の鎧を身にまとった最強の竜戦士であり、グレイモン系デジモンの究極形態である。

 

グレイモン系デジモンの究極体である竜人型デジモン。グレイモン系デジモンとしては珍しく小さな人型の体躯しか持たないが、凝縮されたパワーと下記の通りクロンデジゾイド製の鎧、両腕に装着されたドラモンキラーにより攻防両面で高い性能を獲得している。

 

背中に装備している翼のようなブレイブシールドは、取り外して合体させると盾としても使用できる。

 

スピード、パワーとも飛躍的に向上しており、完全体デジモンの攻撃程度では倒すことは不可能だろう。

 

両腕に装備している「ドラモンキラー」はドラモン系デジモンには絶大な威力を発揮するが、同時に自らを危険にさらしてしまう諸刃の剣でもある。また、背中に装備している外殻を1つに合わせると最強硬度の盾「ブレイブシールド」になる。

 

歴戦の強者の中でも真の勇者が自らの使命に目覚めたときウォーグレイモンに進化すると言われている。必殺技は大気中に存在する、全てのエネルギーを1点に集中させて放つ、超高密度の高熱エネルギー弾『ガイアフォース』。

 

また両腕の「ドラモンキラー」を頭上で合わせ、高速回転しながら突撃し敵を貫通する『ブレイブトルネード』がある。

 

「待たせて悪かった、メタルガルルモン。ここからは僕も手伝う」

 

「助かる、正直もうダメかと思ってたんだ」

 

「おかげで助かった」

 

2体の究極体はラフレシモンと対峙する。今まで新たな世代に進化する度に巨大化していったデジモンが、究極体になったとたんに小型化した。メタルガルルモンは一回り大きな大型犬、メタルグレイモンは数メートルしかない。はたから見たら、あまりにも小さな存在だったが、秘めたる力は間違いなくラフレシモンにとって脅威以外のなにものでもなかった。

 

ここにくるまで、ヴァンデモンの配下をデジタルワールドに返したり、ダークエリアに送ったりして、糧になるはずだったデジモンを減らしてきた効果が明らかにでていた。

 

そして、メタルガルルモンとウォーグレイモンの猛攻が始まった。

 

「ここで終わらせる訳にはいかない!」

 

「私たちの悲願のために!」

 

暗闇の中、やけにティンカーモンたちの声がはっきりと響いて聞こえた。ラフレシモンの高笑いが聞こえてくる。やがてなにかが潰されるような、すり潰されるような、不吉な音がして、やがて2人の声は聞こえなくなっていった。

 

どこまでがピーターモンたちの意思だったのか。ラフレシモンに喰われることまで意思だったのか。もう誰にもわからない。

 

ただ、ラフレシモンはヴァンデモンが蘇生するために支配下においていたバケモンたちを吸収することで回復しようとするが、だんだん回復値が落ちてきた。

 

ヴァンデモンのデジゲノムを中途半端な形でしか回収できなかったために、完全体として進化を遂げることが叶わなかったラフレシモンの力は、その全ての過程において、選ばれし子供たちを甘く見すぎていたツケを払う羽目になる。

 

メタルガルルモンの全身の発射口が開き、数十発のミサイルが一斉に発射された。ひとつひとつがギガデストロイヤーをゆうに超えている破壊力である。すべてに全身が被弾したラフレシモンなたまらず膝をついた。さらにメタルガルルモンは追撃をしかける。頭部とはまたことなる巨大な口が開き、うなりをあげはじめる。それはただちにエネルギーを充填しはじめた。

 

 

ウォーグレイモンは手甲から伸びる長い爪を頭上でひとつにあわせ、竜巻のように回転しながらすさまじい勢いでラフレシモンの胴体に飛び込んだ。体の内側をずたずたに切り裂いていく。狙うはただひとつ、奪われたヴァンデモンとロゼモンのデジゲノムである。そして、ラフレシモンの粘着質な侵食を受けながらも、辛うじてのこっていたデータチップを見つけ出したウォーグレイモンはただちに胴体の反対側から飛び出した。残念ながら、ピーターモンたちのデータチップを見つけることは叶わなかった。

 

「コキュートスブレス!」

 

メタルガルルモンから発射された絶対零度の光線はラフレシモンを凍りつかせていく。

 

「ガイアフォース!」

 

ウォーグレイモンの両手に大気中からかきあつめたエネルギー体が球体となって頭上で輝き始める。それを高々とかかげたウォーグレイモンは、その熱球を叩き込んだ。内部でエネルギーが行き場を失い、大爆発を起こす。

 

氷漬けになったまま結界に閉じ込められていたラフレシモンは粉々に砕け散った。破片は地面に落ちる前に粒子となって消え去り、それはすべて本来転送されるはずの正規のデジタルゲートを通って消えていった。

 

諸悪の根源が絶たれた瞬間、ゲートポイント内の結界が、濃霧が、すべて消えていく。残されたのは元の姿に戻って倒れている人々。そして、気づいたら全部終わっていた、選ばれし子供たちだけである。

 

 

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