(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第179話

「あれ?」

 

ウォーグレイモンを少しでも助けようと太一はピエモンの動向を逐一観察しては、ウォーグレイモンに伝えている。その傍でピエモンの部下たちとパートナーデジモンたちの激闘を結界の向こう側から眺めながら、光は太一のようになにかできることはないか、ずっと考えていた。そして、なにかエンジェウーモンの力になれそうなことはないかと敵の様子をずっと見ていた。そして、気づいた。すぐに太一の袖を引く。

 

「ん?どうした、光」

 

「ねえ、お兄ちゃん、あのデジモンたちも倒したら、ヴァンデモンみたいにきらきらのヒカリになって、消えていくんだよね?」

 

「え?あー、そうだろ、たぶん。だってみんなずっとそうだったし、まだ転生システムは生きてるってグラップレオモンいってたし」

 

「じゃあ、どうしてあのデジモンたちは、倒してもきらきらのひかりはどこにも行かないんだろう。かわりにどんどん霧が濃くなってるよ」

 

「えっ、まじで!?」

 

「うん、私、ずっとみてたんだけど、下に行こうとしてるのにいけなくて、あたりに浮かんでるみたい」

 

「下......ゲンナイさんが暗黒の力は上の方にいて攻撃してきたっていってたから、ファイル島の始まりの街が下にあるなら、やっぱ下にいくのは間違い無いよな、うん。なんでだろう」

 

「なんでかなあ?」

 

そうしている間にも、霧は濃くなっていく。

 

「......まてよ?」

 

「なにかわかったの、お兄ちゃん?」

 

「いや、さ、そもそもこの霧、現実世界でめっちゃ見たやつだなあって」

 

「現実世界......ヴァンデモン?」

 

「やっぱ、そうだよなあ?」

 

「ヴァンデモンが進化して、ヴェノムヴァンデモンになって、そこからあの時みたいな霧がたくさん出てきたから?」

 

「霧......結界......あ、まさか」

 

太一の頭の中で、かちり、とパズルの最後のピースがハマる音がした。それは今までの冒険の中で得てきた経験、そしてデジタルワールドの住人たちから教えてもらった知識が符合したからこそ、気づけたものだった。

 

「デジモンたちのデータがダークエリアに移動するのを邪魔してるのか、ヴェノムヴァンデモン!?そういや、暗黒の力は死んだデジモンたちの死にたくないって気持ちを食べるっていってたな。それでどんどん強くなるって。そんで、古代デジタルワールドんときも今みたいな感じになって、力が強くなりすぎて、デジタルワールドは転生システムがまだないから受け入れるだけの力がまだなくて、封印するしかなくて......」

 

自分の頭の中を少しでも整理して、頭の中にぼんやりとではあるが浮かんでいる閃きを逃すまいと必死で太一は口に出す。話し続ける。それは光に説明するためでもあり、太一の中である真実に到達するために必要な行程でもあった。

 

「あれ、じゃあ、暗黒の力って、古代デジタルワールドんときに死んだやつらのデータで強くなってるんじゃ?今は転生システムがあるから、俺たちが倒したら、みんな転生できるから......」

 

「よわくなっちゃうってこと?」

 

「俺たち、ナノモンの話を聞いてから、暗黒の力に食われるまえにダークエリアに送るために倒してきたんだ。洗脳されただけのやつはデジタルワールドに返してきた。だから、もしかしたら、暗黒の力は、思ってたより強くなれてないのかも!」

 

「でも、お兄ちゃん、今、この世界になっちゃうときに、たくさんデジモンがしんじゃってるってゲンナイさんが......」

 

「でも、予言の書より7年もはやく俺たちは帰ってこれてるんだぜ、光!つまり、まだ間に合うってことだ!だって、わざわざ結界をはってまでデータがいかないよう邪魔してるんだから、暗黒の力にとってはこのまま戦うのはむしろ不利ってことだよ!!」

 

「じゃあ......」

 

「ああ、結界を先に壊そう!そうすればあいつらに暗黒の力を送ってるやつの力が弱くなるんだから!よく気づいたな、光!よーし!」

 

「うん!」

 

太一はウォーグレイモンにピエモンではなく、先にヴェノムヴァンデモンを倒すよう告げる。いきなりパートナーから言われた言葉が理解できず聞き返すウォーグレイモンに、太一はダークマスターズに対抗できる唯一の方法を説明した。

 

ピエモンが不意に笑い始める。そして、ニタリと笑った。

 

「あなたのパートナーはとても頭がいい子供ですねえ、ウォーグレイモン。吾輩が一番嫌いな人間だ。感謝しなければなりませんねえ。いくら我々でもセキュリティシステムの手助け無くして、今や失われた文明の技術を復興させるのは骨が折れる。ヴァンデモンには最後まで吾輩たちの役にたってもらいましょうか!」

 

ピエモンが高笑いする。次の瞬間、あれだけグラップレオモンとエンジェウーモンを圧倒していたヴェノムヴァンデモンが苦しみ始めたではないか。0と1の因子に分解され、それは次第に瓦解を招く。

 

「なにをしているの!?」

 

「なに考えてるんだ、味方を!?」

 

太一たちの目の前で、ヴェノムヴァンデモンとピエモンの姿が変わっていく。暗黒の力に満ちている怨のデータから生まれ出た深怨なる手が、ピエモンにヴァンデモンを強制吸収させているのだと気づいた太一たちは顔を引き攣らせた。

 

「あれは......」

 

「また......また生まれようとしてる......」

 

「光?見たことあるのか?」

 

「うん......あれ、見たことある......ヴァンデモンが暗黒の力で無理やり進化させられそうになって、色々足りないのか、気持ち悪いなにかになったの」

 

「家でいってた、あれか?」

 

「うん......」

 

それは魔を根源とする最凶最悪のデジモンだった。ピエモンやヴァンデモンの自我はなく、“深怨なる手”に握られた意思で活動する。その意思とは世界を暗黒で侵食させるため、邪魔立てするすべての根絶である。

 

「改めて自己紹介をいたしましょう。吾輩の名はボルトバウタモン。あなたがたは、決して気づいてはいけないことに気づいてしまいました。ですので───────今、ここで、死んでいただきましょうか」

 

ボルトバウタモンと名乗ったデジモンの殺意が膨れ上がる。ようやく闇の軍勢を倒して、ウォーグレイモンのところにかけつけることができたエンジェウーモンとグラップレオモンもまた息つく間もなく戦闘態勢に入ったのだった。

 

ウォーグレイモンがブレイブトルネードで突撃するのと、ボルトバウタモンと名乗ったそのデジモンが剣戟を繰り出すのはほぼ同時だった。だが、押し負けたのはウォーグレイモンだった。吹き飛ばされて勢い余って、戦いの余波で積み重なっていた瓦礫に突っ込んだウォーグレイモンは、残骸をブチまけながらもなんとか追撃をブレイブシールドで防ぎ切る。

 

「はやいっ」

 

太一は冷や汗を浮かべた。ただでさえピエモン相手に防戦一方だったウォーグレイモンがさらなる進化を遂げたボルトバウタモンのスピードに全くついて行けていないのだ。ドラモンキラーはピエモンとヴェノムヴァンデモンのジョグレス体であるあのデジモンには意味を成さない。ワクチン種であり、ウイルスバスターの因子を取り込んで進化した都合上、かすったところからボルトバウタモンの体が欠損しているところから有効打たりえるだろうが、それだけだ。当てなければ意味がない。

 

ウォーグレイモンはボルトバウタモンの能書きに耳を貸す余裕も捨てゼリフをはく余裕もなく、距離をとる。ピエモンのころの自由自在に自動追尾してくる剣は健在であり、増殖する剣の数も大きさも増えているのだ。接近戦を強いられたら後ろから剣の雨が降り注ぐのは目に見えている。逃げるウォーグレイモンに、ボルトバウタモンは剣を振りかざして、追いすがった。  

 

「逃げるばかりでは勝てないですよ?」

 

挑発が飛んでくる。それに応じたのはウォーグレイモンとボルトバウタモンの距離を離す時間を稼ぐために参戦したグラップレオモンだった。エンジェウーモンはウォーグレイモンの回復に向かう。

 

「完全体の分際でよくもまあ、究極体の戦いに参戦しようと思いましたね。身の程を知りなさい」

 

ボルトバウタモンは刀身に息を吹きかけて砂埃の粉塵を払うと、手始めにグラップレオモンに歩み寄った。ボルトバウタモンがグラップレオモンの首筋目掛けて白刃を振り下ろす。ボルトバウタモンの握っている刀が、グラップレオモンの喉笛にピタリと刃を当てて止まった。いや、止められたのだ。

 

「む、やりますね」

 

「旋風タービン蹴り!」

 

グラップレオモン全身を回転させて回し蹴りを放つ。ボルトバウタモンは笑う。衝撃に弾かれて飛ばされた剣。だがボルトバウタモンは無数の剣をすぐに召喚して攻撃してくる。グラップレオモンもまた連撃で応戦する。その衝撃は一撃一撃ごとに重くのしかかり、ボルトバウタモンから笑みが消えた。

 

その衝撃から剣が次々粉砕されては吹き飛ばされてしまい、使い物にならない。数の暴力だけでは押し負けると判断したのか、ボルトバウタモンは剣の乱舞はやめて、長い長い剣を虚空から取り出した。

 

ぶつかり合いが激しさを増す。

 

グラップレオモンの足が地面に食い込み、じりじりと押され始めた。やがて、長刀のきっ先が、グラップレオモンの眼球の前でピタリと止まる。刀を握ったボルトバウタモンの手に力がこもる。刃を突き立てようとするボルトバウタモンのパワーと、抗うグラップレオモンの力のせめぎ合い。だが、徐々に刃の先はグラップレオモンの目玉へと近づいていく。

 

「そうはさせん!」

 

ボルトバウタモンは近づきすぎた。グラップレオモンの必殺技の射程圏内である。長い剣が僅かに掠めたが、かまわずグラップレオモンは超至近距離から一撃を叩きこんだ。ボルトバウタモンの眼窩に深々と拳が突き立てられた。だが、ケロッとした顔でボルトバウタモンは笑っている。顔面を潰されてどうしてそんな平気な態度が取れるのだとグラップレオモンが僅かながら動揺した瞬間に、後ろから凄まじい痛みが迸った。

 

「───────!?」

 

「嫌ですねえ、とっておきはここぞというときに使わなければ。ねえ?」

 

背後を見たグラップレオモンはボルトバウタモンから生えている異形の手が2本、いつのまにか完全なる死角から発砲したことを知る。

 

「ぐあ───────!!」

 

「痛いでしょう?吾輩のアーラディポロで放った弾丸は生きていましてね。デジコア、テクスチャ、デジモンの構成データが大好物なんですよ。敵の体内に巣食い、内部からむしゃぶりついて絶命させることができる。さて、どれくらい持ちますかな?」

 

振り下ろされた長い剣は寸でのところで止められる。ウォーグレイモンが割って入ったのだ。エンジェウーモンが聖なる光でただちにグラップレオモンを巣食う邪悪な弾丸を祓いはじめる。治癒魔法が展開されるがあまりにも致命的なためにエンジェウーモンの回復はかなり時間がかかるようだ。ウォーグレイモンはなんとか時間を稼ごうと啖呵をきった。

 

「よくもグラップレオモンを!!」

 

「あなたが弱いのが悪いのですよ、ウォーグレイモン。あなたが弱いから仲間が死ぬ。吾輩たちの糧になる。悲しいですねえ、仲間が敵に回るのは」

 

ボルトバウタモンは無慈悲な速さで、目にも止まらぬ速度で、矢継ぎ早に剣を繰り出す。切り裂かれた空気が鎌鼬となって、ウォーグレイモンの斬撃を切り刻む。身をかわそうとしてよろけたところに、ボルトバウタモンが召喚を再開した増殖する剣たちがウォーグレイモンに襲いかかる。波状攻撃にたまらずウォーグレイモンはうめいた。

 

ボルトバウタモンは笑う。そこにあるのは殺戮への渇望である。目前で広がるはずの光景を思い、ボルトバウタモンは歓喜に歪んだ。脳天目掛けて振り下ろされる白刃をなんとか払い除けたウォーグレイモンだったが、血が舞った。追撃が飛んでくる。それがウォーグレイモンの胴体を両断する......よりもはやく、ウォーグレイモンは跳んだ。

 

そして斬撃もかまわずボルトバウタモンの胴体につっこむと、とびげりをお見舞いした。ウォーグレイモンとボルトバウタモンの体格差からは考えられない強烈な一撃だった。速度も充分にのったキックは不意打ちだったようで、剣の動きが明らかに鈍った。その隙をウォーグレイモンは逃さなかった。

 

風を切り裂く音をかわし、冷たく研ぎ澄まされた殺気と刃をさけ、脳天をぶん殴る。突如虚空の中から現れた刀剣の雨がウォーグレイモンを襲うが、構わずボルトバウタモン目掛けてウォーグレイモンは蹴りを放った。

 

吹き飛ばされたボルトバウタモンは空中で体制を立て直した。

 

「なかなかやりますねえ。ならば吾輩も誠意をもって本気を出すとしましょうか。まずはクオーツィオーネ、目障りな後衛を全滅させなさい」

 

ウォーグレイモンではなかった。標的は───────グラップレオモンの治療中のエンジェウーモンだった。

 

「エンジェウーモン、あぶない!」

 

血潮があたりに四散した。倒れたのはエンジェウーモンではなくグラップレオモンだった。エンジェウーモンが呆然とした様子ではるか遠方に飛んでいる。グラップレオモンが渾身の力をこめてエンジェウーモンを突き飛ばしたのだ。霧の向こう側でなにかが飛び散る音がした。エンジェウーモンの悲鳴と来るなと叫ぶグラップレオモンの声だけが響いている。

 

「グラップレオモン!くそ、卑怯だぞ!僕と戦え!」

 

「戦っているではありませんか、嫌ですねえ!」

 

ボルトバウタモンが高笑いする。ウォーグレイモンは邪魔されて助けにいけない。結界にいるしかない太一と光はもちろん、なにもすることができない。

 

あたりに立ち込める濃霧が詳細を遮り、えげつない銃声だけが連射されている。この霧さえ、この霧さえなければ目の前の敵は弱体化するというのに。あと少しなのに。その少しが、どうしようもなく遠かった。

 

「どうしてなにもできないの......やっとあえたのに......やっとヴァンデモンたちを、しんじゃったデジモンたちを助ける方法がみつかったのに......!!」

 

光から涙があふれだす。

 

「いや、そんなのいやだよ、グラップレオモン......そんなの、そんなの、いやあああああ!!」

 

その涙が頬を伝いおちる。それはやがて紋章のタグを濡らし、デジヴァイスに光をもたらす。

そのとき、太一は光に声をかけようとして、できなかった。光の胸元にある紋章がすさまじい光を放ち始めたからだ。明らかに進化の兆候とは様子が違った。ぱきり、となにかが破裂する音がした。紋章をみるがひび割れる様子はない。

 

「な、なん......」

 

「え、な、なに!?」

 

光は驚いて固まってしまう。

 

「光、大丈夫か?」

 

「大丈夫、大丈夫だけど、紋章が......え、え!?」

 

「グラップレオモンから離れろ!!」

 

太一たちのやりとりなど知る余裕もないエンジェウーモンの声がした。光は空を見上げる。エンジェウーモンは矢を番えているところだった。

 

エンジェウーモンは光のリングを作り出し、ホーリーアローに付与する。矢の光が強くなった。どうやらブーストをかけたようだ。そして放つ。エンジェウーモンが作り出した光のリングをみた光の脳裏に不意になっちゃんがうかんだ。

 

なっちゃんがいっていたホーリーリングのお守りと光の紋章は同じだといっていなかっただろうか。光の力は本人がコントロールできないほど強すぎるものだから、光の紋章が力を蓄えてくれるのだと。

 

ということは。今、さっきから聞こえているのは、光の紋章が本来持つはずのリミッターが軋んでいる音だった。光がもつ不思議な力が本人の望まぬ形で光が丘テロ事件のようにデジモンを進化させないように制御し、いざというときのためにため込んでいたそれが、光の感情の高ぶりに反応して暴れているのだ。

 

光は紋章を握りしめた。

 

「エンジェウーモン!」

 

「光!?」

 

いきなり叫ぶ光にエンジェウーモンは驚いたように声をあげた。

 

「その矢を霧にうって!下の方にうって!霧の結界に穴を開けて欲しいの!!そしたらボルトバウタモンはきっと弱くなるはずだから!!」

 

よくわからないものの、光が叫ぶから。太一がそれだ!と口走るから。エンジェウーモンは一か八か、その矢を光の言う通り、ボルトバウタモンではなく、濃霧の向こう側にむける。それに気づいたボルトバウタモンはグラップレオモンを放り投げた。力なく転がされたグラップレオモンにウォーグレイモンがかけつける。虫の息だったが、致命傷だけは免れたと知って、ウォーグレイモンは息を吐く。そして友を守るべくボルトバウタモンを睨みつけた。そんなことお構いなしでボルトバウタモンは殺気をエンジェウーモンに向けた。あらゆる武器がエンジェウーモンに向かう。生きている銃がエンジェウーモン目掛けて襲いかかる。

 

「やめなさい、そんなことしちゃいけない!」

 

自ら弱点を露呈するほどの焦りがボルトバウタモンから浮かんだ。

 

「ホーリーアロー!」

 

「やめろおおおおお!!!」

 

放たれた矢が霧を貫いた。なにかが砕け散る音がした。そして、たくさんの光の粒子が勢いよく下に流れていく。ボルトバウタモンは憤怒の形相を浮かべ、仕留め損なったエンジェウーモンを今度こそ亡き者にすべく叫んだ。

 

エンジェウーモンは光のバリアで防ごうとするが弱体化しはじめた体に怒りが迸るボルトバウタモンの報復はすさまじいものがあった。エンジェウーモンの翼が切り裂かれ、弾丸に被弾し、呪詛という呪詛がエンジェウーモンの体内を蝕んでいく。

 

「エンジェウーモン!!」

 

光は叫んだ。なにかが砕け散る音がした。そして、いざというとき、が訪れることになる。爆発的な光があたりを一瞬で埋め尽くした。

 

そこにいたのは、あまりにも美しい天使だった。太一のデジモンアナライザーが更新される。それによれば、このデジモンの名はオファニモン。世代は究極体で、タイプは座天使型。属性はワクチン。

 

三大天使の一柱を担っている、女性の座天使型デジモン。他のデジモンとは隔絶した力を持ち、慈悲と慈愛にして癒し力を司る。 天使族デジモンのヒエラルキーにおいて、上級三隊「父」第三位に属する。 

 

名前の由来は、天使の九階級の上から三番目・座天使(オファニム)及びその統率者オファニエルから。

 

他の大天使と共にデジタルワールドの中心部カーネル(神の領域)を守護する三大天使型デジモンの一柱でもある。 神の側面でもある慈愛と慈悲を伝えるデジタルワールドの聖母的な役割がある。

 

全てがクリスタルのように光り輝いている。

 

オファニモンはそのロッドをかざした。足元に巨大な魔法陣が形成され、聖なる光がウォーグレイモンとグラップレオモンを包み込んだ。エンジェウーモンでは回復に時間があれだけかかっていたというのに、一瞬にして2体の体中のあらゆる怪我が消えていく。どうやら交戦前の状態にまで回復したようだ。

 

そして、オファニモンはそのままロッドをボルトバウタモンに向ける。今度はたくさんの魔法陣がオファニモンの真後ろに形成されていく。もし太一と光がオカルトや占いに詳しかったら、それはセフィロトだとわかったにちがいない。

 

「ケテル(王冠)」、「コクマー(知恵)」、「ビナー(理解)」、「ケセド(慈悲)」、「ゲブラー(峻厳)」、「ティファレト(美)」、「ネツァク(勝利)」、「ホド(栄光)」、「イェソド(基礎)」、「マルクト(王国)」の10のセフィラと22のパスからなる体系図が形成されていく。セフィロトは、この世のありとあらゆる存在・森羅万象をあらわし、この10個のセフィラで分類されぬものは無いといわれている。

 

全てのセフィラとパスが、ピンク色の光に満たされていく。

 

「セフィロートクリスタル」

 

頭の中に荘厳に響き渡る、威厳に満ちた言葉だった。全てのセフィラから一斉に光が発射される。それはボルトバウタモンの身体を貫通し、はるか上空にまで光の柱かと勘違いするほどのエネルギーを発射した。

 

ボルトバウタモンはその光にかき消されてしまう。

 

太一たちもあまりに眩しくて目を開けていられない。

 

気づけば、エンジェウーモンが穴を開けるのがやっとだった霧が晴れている。あたりにはきらめくたくさんの粒子があって、全てが風に流されて下の方に向かって流れていった。

 

「か、勝ったのか?」

 

「どうやらそのようだな、彼女のおかげだ」

 

ウォーグレイモンとグラップレオモンが空を見上げる。光も太一もオファニモンを探したがどこにもいない。その代わりに空から落ちてくるものがある。小さなデジモンだ。光はあわてて走り出す。太一たちも後を追った。なんとか受け止めることができたそれは、小さな小さな幼年期のデジモンだった。

 

「大丈夫?ええと......」

 

「どうしたんだ、ひかり。そんなかおをし............!?」

 

「テイルモン、じゃないよね?今のお名前はなあに?」

 

幼年期にまで退化してしまった本人が一番驚いている。

 

「に、ニャロモンにまでもどってる......!?」

 

「ニャロモンていうのね」

 

「ああ、うん、そうだけど......ええ......?」

 

「それが普通だ、ニャロモン。初めて究極体になると幼年期にまで戻るんだ。僕らを回復させてくれたのはそれを見越してなんだろ?」

 

「だ、だがわたしはきたえ、きたえ......うう......」

 

どうやらニャロモンは、幼年期にまで退化するとは思っていなかったようだ。プライドをかなり傷付けられてしまったようで、かなりショックを受けている。光はニャロモンを抱っこした。ニャロモンはもうどうにでもしてくれという顔をしている。

 

「おそらく、経験値不足を無理やりパートナーの力で補った代償だろう。それでも足りなかったから退化したんだ。なにか、相当無茶をしたんじゃないのか?大丈夫か?」

 

「え、そうなの?大丈夫、ニャロモン?」

 

「なにしようとしたんだ?」

 

「なにって、ひかりたちがいったんじゃないか。たすけてやろうって。わたしたちならできるって。あんこくのちからから、かいほうしてやろうって。だから、わたしは......」

 

ニャロモンは空を見上げた。太一たちもつられて空を見上げる。

 

はるか上空を巣食う暗黒の空から、固くこびり付いていたと思われる真っ黒な空の一部分が剥離する。その向こう側は虚無だ。剥がれ落ちたそれはものすごい重量をもって、落ちていく。それが綻びだった。空が落ちてくる。どんどん黒い空が剥がれて落ちてくる。それは天上から地獄へ投げ落とされた堕天使のようにも思えた。それは次第に形を成し、落下する頃には新たな姿を獲得していく。それは急落してくる悪夢だった。生ける屍が、かつて、あらゆる可能性の芽が摘み取られて、絶望の最中に死んでいったものたちの塊が落ちてきたのだ。

 

東西南北で未だに積み上げられていく致死的な渦巻きの塔からでもそれはよく見えた。避けることのできない接近を続けている。破滅の道をまっしぐらに突っ走る暗黒の塊が道連れにしようと生き残っているデジモンたちを無差別に襲い始めたのだ。

 

「......もしかして、あれ全部そうだとかいう?」

 

「......みんな、ボルトバウタモンみたいに、つよいのかな?」

 

「ひかりが、たいちが、おまえたちがいったんじゃないか!!」

 

ニャロモンの叫びに太一と光は顔を見合わせる。とりあえず、一刻も早く仲間たちと合流しなければならないのは、たしかだった。

 

 

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