(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第18話

「いないっすよ、クラスメイトの女子はみんなうるせえし」

 

「ふーん、そっか。なんで?」

 

 

なんでか、にこにこしながら突っ込んで聞いてくるミミにいたたまれなさを感じながら、大輔は続けた。学校の掃除の時間ほど、退屈な時間はない。ホコリやゴミをほうきやモップではいて、まとめて、ちりとりでとる役目がある曜日ならば全然いいのだ。

 

ゴミ捨てや黒板や黒板消しをきれいにするうわぶきの役目も楽でいい。雑巾がけが1番、大輔は嫌いだった。なんでわざわざバケツに水を汲んで、雑巾を濡らして、絞って、教室の隅から隅まで雑巾がけをしなくてはいけないのか理解出来ない。

 

 

足でやったって同じである。ずっと同じ体制は疲れるし、早く早くと机を移動させるほうき係に追い立てられるのも嫌だし、少しでも楽しもうと競争すると拭き残しがあるとか言って、女子がわざわざ怒るのだ。自分でやれよと言いたい。掃除なんて少しでも楽しようとするのがあたりまえだと思うのだが、がっちがちに固められた掃除の仕方一つ守らないとぎゃーぎゃーうるさい印象しか大輔にはない。

 

ちょっと友達と野球ごっこしたくらいで、先生や上級生にちくるし、まるで掃除当番の代表とでも言いたげな態度で、お前が悪いのだと誇らしげに笑っているのが気に食わない。

 

 

大輔は知っている。そういう女子に限って、自分のグループの中で、こっちに聞こえているのも気づかないまま、

それはそれは大きな声でこれみよがしにこっちを見ながら笑っているのだ。こそこそ内緒話して、トイレにも一人で行かないで、ぴったりくっついていく。ばっかじゃねーの?一人でもいけないのかよ。

 

そして、ちょっと仲がいい女の子が泣いたり、怒ったりすると、わざわざ集団で男子のところに押しかけ、それって悪いと思うから直せと一方的に喧嘩を撃ってくるのである。こちらにもこちらの言い分があるのに、女の子を泣かせるなんて最低だ、という理不尽な理由で悪者にされてしまうことが多々あった。

 

 

そして、姉のように誰それが好きだとか、誰々と一緒に帰っているのを見た、とか、あることないこと誇張して、勝手に盛り上がって、ぎゃーぎゃー騒いでいるのだ。正直言ってうざいし、めんどくさいし、男子の友達同士でいるほうが楽な大輔は、クラスメイトの女の子で好きな子は?と聞かれて答えられるわけがなかったりする。

 

うっかり標的になると根掘り葉掘り聞かれて、一方的な注目の的になるのも苦手だった。特にサッカー部のキャプテンと仲がいいことを知っている女子から、何度も手紙とか贈り物の仲介を頼まれることも多い大輔は、便利屋扱いするリーダー格の女子グループが嫌いである。押しの強さは押し付けがましさの体現だ。

 

 

たまにそういったグループから離れて、一人だったり、少人数の仲間と話していたりする女子の中には、まだ普通にしゃべれる女の子がいることは大輔も知っているし、まだましだと考えるけれども、いつも本を読んでいたり、女の子同士の話をしているのをみるとやっぱり女の子は分からない存在として写ってしまう。

 

ちょっと成長が早くて、いろいろ知っているからって、自分はなんでも知っているのだという顔をしてあれこれ指図するのは、それはもう最悪だった。女の子の比較対象が2年生しかなかったら、きっと大輔もそのなかでいろいろ考える余地があったかもしれない。

 

 

しかし、大輔はサッカー部の空というずっと大人びていてかっこいい5年生を知っており、不仲とはいえども時折気まぐれで姉として接してくれるジュンという中学生を知っており。

 

サッカー部の部員同士の交流で誰々のおねえちゃん、妹、という幅広い世界を知っているため、ずっとずっと魅力的な女の子を知っている。もちろん興味ないから知っているだけだけども。それと比べるともうどちらに軍配が上がるのかは一目瞭然だった。

 

 

「そっかそっか、なるほどねー。みんな子供っぽく見えちゃうんだ」

 

「男子はガキだって言うくせに、いってることは一緒っすよ。そういう奴に限って、女の子だからってすぐ言い訳するし」

 

 

そっか、そっかあ、とどこか嬉しそうな笑みを浮かべているミミに、大輔は嫌な予感がして身構えた。

 

 

「なんかすっごーく具体的だなあって思ってね。もしかして、そういう女の子が近くにいるの?」

 

「………そういう女の子ばっかりっすよ」

 

 

思い出すだけでも億劫なのか、大輔は無意識のうちにため息交じりである。ジュンお姉ちゃんは間違いなくそう言うタイプの典型であり、お母さんの遺伝はしっかり継いでいる。類は友を呼ぶというべきか、ジュンの親友である女友達も似たような性格の人たちは多いし、大輔にとって一番身近なのは、サマーキャンプで一緒のグループに割り振られていた幼馴染だろうか。

 

お台場小学校で大輔が一番話しやすいタイプも実はそういう女の子だったりする。単になれているだけだけれども。ふふ、とミミは笑った。売り言葉に買い言葉、ケンカにも似た言葉の応酬をかわしながら、会話に興じる女の子と大輔が思い浮かんだのだろうか、ミミは明らかに楽しそうである。

 

 

「じゃあ、そういうタイプじゃない方がいいの?」

 

「いや、あんまオレ興味ないんすけど」

 

 

いい加減話の話題を恋愛話からそらせたいあまり、それとなく話の転換を促してみるが、ミミはどこ吹く風である。

 

 

「じゃあ、じゃあ、気になる女の子は?好きとかそういうのじゃなくてもいいから、なんとなーく気になる女の子っていないの?」

 

 

気になるねえ、と思いながら大輔がなんとなく目を向けたのは、先頭を歩んでいる太一である。空さん?と傍らで歩いている先輩かと聞かれ、大輔はあわててかぶりを振った。

 

好き勝手勘違いされて、流布でもされたら余計な労力を費やしかねない。空はお姉ちゃんでいてほしい人なのである。好きな女の子になってしまったら、大輔の中でいろいろとややこしい事になってしまうので、そこだけはきっちり否定した。

 

 

「太一さん、妹がいるんです。ヒカリって言う子で、オレと同級生で、クラスは一緒になったことないんすけど」

 

「え、そうなの?」

 

「はい。サマーキャンプに来るはずだったけど、風邪を引いてこられなくなったなあって思って」

 

「そっかあ。太一さんって頼りになるなあって思ったけど、妹さんがいるんだ。そりゃ頼れるお兄ちゃんだよね。なんか納得しちゃった」

 

 

で?どういう訳で気になるの?と続けられてしまい、大輔はそれだけっすと先手を打った。えー、とブーイングが飛ぶが、大輔からしたらなんとなく思い出しただけだから仕方ない。そこに他意は無い。あってはいけないんだと大輔は思っている。

 

八神光という女の子は、八神太一という男の子の妹であるというその事実だけが、大輔にとって最重要な情報であり、彼女自身に対してはそういう意識を持ちようがない。大輔にとってはどこまでも光は太一の妹でしかない。絶対的な地位を持っている女の子。

 

そこに向けられる感情は一言では片づけられない物であり、だからこそ真意を悟った太一は、昨日以降一切話題として提供することがなくなったのだ。あんなに大事な妹なのに。

 

 

後ろめたさと罪悪感、後悔、とない交ぜになった感情以上に、正反対の感情が大輔を満たしている。それが怖くてたまらない。気付いてはいけない。すべてが変わってしまう気がした。だから大輔はなんでもないんだと自ら口にすることで、なにかを遠ざけようとしていた。

 

 

「どんな子なの?光ちゃんて。太一さんによく似てる?」

 

「あんま似てないんじゃないっすかね。あんまり喋らないし、大人しいし、引っ込み思案だし。でも、ものすごく元気なところとか、しっかりしてるところとか、トモダチが多いのは似てるかな」

 

「うーん?ちょっと難しいよ、大輔君。よくわかんない」

 

「なんか、その、うーん、よくわかんないなあって感じの女の子なんです。トモダチ多いのに、なんかひとりぼっちみたいに寂しそうにしてることあるし。太一さんがいるときと、いない時ですっごく違う子なんですよね。太一さんがいると、すっごく元気で明るくてしゃべる子なんです。よくサッカーの応援に来てますよ」

 

「そっか。太一さんが大好きな女の子なんだね、光ちゃんて」

 

「はい、それはあってると思います」

 

 

もういいっすか、なんていう空気がにじみ出始めている。大輔である。つまらなさそうにしている大輔の様子に、大好きな恋愛を疎かにされたと思ったミミは、このままではいけない、なんとか大輔君に好きな女の子が出来たときの対処法を教えないと、とやる気に火をつけてしまった。

 

 

このモードになったミミを止めることができるのは、不測の事態だけであると言う事をきのこ採集の時に嫌というほど知っているパルモンは、心のなかであーあ、とつぶやいた。

 

こうなってしまっては、パルモンでも止めることはできない。余計なことをいってこっちに話が飛んでこないように、ちゃっかりだんまりをして、聞き手に回っていたパルモンは、選択肢を盛大に間違え、地雷を踏んだ大輔に合掌した。

 

 

「えー、つまんない。それに、大輔君、だーめそういう顔しちゃ、ダメなんだから。そういうこといってると、好きな女の子が出来たとき困るんだから。いい?大輔君、好きな女の子ができたら、誕生日とかイベントは絶対に逃しちゃだめだよ?プレゼント、ちゃんと考えなきゃ」

 

「えー」

 

「これだから男の子はだめなんだから。お洋服とか、アクセサリーとか、お人形とか、ミミが大好きなものは全部ミミを作ってるものなのよ?お誕生日とか、クリスマスとか、イベントで男の子から貰えるプレゼントは、ミミが新しいミミになれる大切なモノなの。いくら面倒でも、絶対にてを抜いちゃだめなんだから。プレゼントで女の子は男の子に愛されてるってわかるの。だから、気持ちが大切だとか言うけど、カタチにしないとだめなの!」

 

「はあ」

 

「あー、信じてないでしょ。ミミのパパが言ってたことなんだから。パパはね、結婚記念日とクリスマスとママに誕生日には、必ずバラの花束を送ってるんだもん、間違いないって。ずーっと新婚さん気分でラブラブなの。ミミもああいう男の子と付き合いたいなあ。大輔君も、好きな女の子ができたら、絶対、ぜーったいに教えてね!ミミが応援してあげるから!」

 

「・・・・・・・・・・・わ、わかりました、アリガトゴザイマス」

 

 

すっかりミミのペースに持って行かれてしまった大輔は、途中で考えるのを放棄したのか、呆けた顔で頷いた。余程退屈していたのだろう。言いたいことを全部大輔に伝授することが出来たミミは、すっきりとした顔で微笑んだ。鼻歌交じりである。ようやく解放された大輔は、今まで以上に疲れを感じてしまったのか、大きく安堵の溜息をついた。

 

 

ミミのお手伝い終了を知ることになる。お疲れ様、とパルモンにねぎらいの言葉をかけてもらった大輔は、力なく頷いたものの、助けてくれなかった裏切り者にジト目で睨みつける。あからさまに視線を逸らしたパルモンは、休憩まだかしらねー、ミミ、と笑いかけていた。

 

 

「どうしたんだよ、大輔。すっげー疲れた顔してる」

 

 

先頭に戻ってきた大輔の意気消沈ぶりに、心配そうにブイモンが様子を伺ってくる。

 

 

「あー、疲れた。なんで女の子ってあんな話長いかあ………。オレってかっこわりー」

 

 

ぽつぽつとミミとの会話やパルモンのまさかの裏切りをきいたブイモンは、心底自分もいかなくてよかったと思ったのは胸のうちにひめ、お疲れ様でした、と立派な大役をこなした大輔をねぎらうことにしたのだった。しばらくして、大きな木陰を作る樹木を発見した太一が、休憩時間を宣言する。

 

もう歩けない、とその場に座り込んでいたタケルや、あんまり疲れてないけど休みたいというミミの言葉が手伝ってのこともある。不慣れな恋愛話やミミのマシンガントークにすっかり圧倒され、精神的に疲れきってしまった大輔は、ブイモンと共に木陰に休むことになる。

 

 

タケルの隣に座ろうとした大輔に、ひらひら、とミミが手をふっている。あはは、と引きつる笑顔でなけなしの気力で手を振り替えした大輔は、その場に倒れこむようにして、樹の幹をマクラに座り込んだ。あーすずし、と大輔はひんやりとする木陰で一息ついた。

 

ずっとずっと暑い中歩き続けていたため、喉が乾いていたのでブイモンと共に回し飲みした。本来なら、ただの水を飲むよりも、スポーツドリンクみたいに塩などの汗に含まれる成分も補給してやらないといけないのだが、さすがにスポーツドリンクの川など存在しているわけもない。

 

 

水道水を飲んでも、のどの渇きが潤わない理由を知っている大輔は、ペットボトルを空にしようとするブイモンから敢えて取り上げた。先が長いのに全部飲まれてはたまらない。あー、とか細い声をあげながら、ジャンプする気力もないブイモンは大輔の足の上で、ぐったりと這いつくばっていた。

 

大輔も体力の限界が近かったことを思い出した体がようやく悲鳴をあげだしたので、暑いとブイモンをけとばすこともなく、そのまま目をとじてじっとしていた。

 

 

遠くで空たちが今後の方針を話し合っているが、流し聞きする気力もない。ちょっとだけ、太一と光子郎の騒がしい声がしてうっすら目を開けたが、どうやらパソコンを叩いて治すというブラウン管テレビの治療法を太一が実行しようとしたらしい。一緒に笑う気力もなく、休息時間はただ穏やかに過ぎていく。

 

 

「ねーねー、大輔君」

 

「………」

 

「寝てるの?」

 

「………どーしたの、タケル?」

 

「………んおー?どーした、タケル?大輔になんか用かあ?」

 

「おーい、起きてよ、大輔。タケルが呼んでるよー」

 

「あ、ちょっとまってパタモン」

 

「うあー?なんだよ、パタモン、うっせえなあ」

 

「大輔、大輔、タケルがなんか用あるんだって」

 

「あー?なんだよ、タケル」

 

「ううん、なんでもない。ごめん、大輔君」

 

「………んだよ、もー。用もないのに起こすなよお……んじゃおやすみ」

 

 

寝返りを打ってしまった大輔に、いいの?タケルとパタモンが聞く。起こそうか?とブイモンが続くが、タケルは首を振った。あとでいいや、と笑ったタケルはどこか寂しそうである。

 

そう言われてしまっては仕方ないと二匹はそのまま再びまどろみに落ちてしまう。太一が工場があると大きな声で子供たちを呼ぶまで、それは続いたのだった。

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