(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

180 / 193
第180話

デジタルワールドは球体の世界ゆえに、地球のように7割は海で満たされていたのだが、そのデータすら奪われ、物理的に海も陸地も喪失し、四聖獣たちがいる最深部に通じる聖地を踏み潰すように発生している螺旋の塔に吸い込まれてしまう。天変地異に巻き上げられ、0と1に分解されていく島々、そしてさまざまな地形のデータたち。残されたのは虚空。なにもない。宇宙空間がだんだん世界を食い潰し始め、気づけば世界は空間が歪み始めた。丸いゴムボールを解体してむりやり平面にひろげたような、歪な歪みだった。

 

その歪みはすぐに天変地異の規模を拡大させていった。

 

陸地に生息するデジモンたちは飛行能力を持たない者から取り込まれていき、吸収するスピードから逃げきれないデジモンたちが砕け散り、泳ぐことができたデジモンたちは、海洋性のデジモンたちによって助けられた。

 

球体の世界には本来存在し得ないはずの四方向から迫りくる世界の果てから追い立てられ、自然と彼らはそのほぼ中央に位置するファイル島目指して逃げる。

 

そんな異変を間近で見ていたホエーモンは、危険を承知で、何度も航海にでた。かつてファイル島からサーバ大陸に選ばれし子供たちを送り届けたように、その規格外の大きさを生かして、より多くのデジモンたちを運んだ。

 

妨害は幾度となくあったが、誰もが生き残ることに必死だった。たくさんの命を輸送する責任があるホエーモンはいうまでもない。何度も戦い、あるいは逃げ延びた。気づけば、ファイル島生まれのホエーモンは、フォルダ大陸にいるという完全体ほどの巨体にまで成長していた。見た目に大きな変化はないから進化したのか、それとも巨大化したのかは本人には自覚がないからわからない。ただ、その暴力的なまでに大きい巨体から繰り出される大波は並大抵のデジモンでは太刀打ちできない脅威でもある。

 

今回もまた、大津波が敵の襲撃を全て押し流した。ホエーモンは先を急ぐ。今回で終わりではない。まだ、助けられるデジモンたちはたくさんいるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホエーモンをはるか遠方の深淵から追尾している者がいた。ダークマスターズの一角でもあったそのデジモンは、復活したその日から、先代の選ばれし子供たちに敗北した己を顧みて、更なる強さをもとめ、自ら改造を繰り返して今の姿を獲得すべく暗躍してきた。

 

そして、かつて繁栄を極めたメタルエンパイアの技術を取り込み、メタルシードラモンの開発の成功を教訓に作り上げられたデジモンのデジゲノムを復元し、取り込むことに成功していた。

 

その能力はすさまじく、水中では最速の移動スピード、最強の迎撃能力を発揮している。ダークマスターズの海洋エリアの主として、更に勢力範囲を拡大する為、広大なネットの海をカバーする航続距離を持ち、制海能力を有する超大型デジモンを極秘裏に建造しているところだった。

 

その全長はホエーモンをも上回り、自分の配下たちを内部に搭載が可能で、もはや単体のデジモンとしてではなく、いつ何処のネットの海上に現われ、攻撃を始めるか分からない強襲揚陸艦と化していた。

 

ホエーモンたちがファイル島に到着し、デジモンたちを上陸させるために無防備になるその瞬間のために今はただ追跡を続ける。

 

「───────......」

 

たくさんの泡がたちのぼる。

 

この海もまた、ダークエリアという転生システムを支える0と1のデジゲノムが漂うエリアと繋がっていると彼は理解していた。ゆえに理解してしまうのだ。ダークマスターズの一角が倒されたと。構成データがダークエリアに送られ、海に溶けていったと。それは自分を生み出した存在の弱体化と仲間だった存在がこの世界の生態系の一部に組み込まれ、二度と暗黒の力をもとに復活できなくなることを意味していた。......転生できることを意味していた。

 

抑え切れないほどの強烈な激情が浮かぶ。それが怒りなのか、嫉妬なのか、忘れてしまった記憶を揺さぶるものなのか、デジコア以外の全てを機械化してしまった彼はもはや思い出すことはできない。

 

「───────チカ、ラヲ......モット......チカラヲ、ヨコセ」

 

自らが生み出した世界を再構成する時間稼ぎに邁進する配下のために、暗黒の力は新たな供給をもたらす。暗黒の空からいくつもの剥離した黒いなにかが落ちてくる。それはどんどん沈んでいき、やがて彼のところに落ちてくる。その巨大で締め上げ、食らい、貪り食い始める。食い散らかされたあたりは黒に染まり、やがてその姿は見えなくなってしまう。空から落ちてきたなにかがまた沈み込んできて、いよいよ彼を覆い尽くしてしまった。

 

暗闇と化した海の奥底で、真っ赤な目だけが煌々と光り、先を進みはじめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丈と賢は上空にまでそびえ立つ4つの塔のうち1つの最上部から、すさまじい光源を放つ柱が立ち上るのを確認した。それは空を貫き、はるか上空までとどろき、やがて消えてしまう。

 

なにかが剥がれる音がした。黒い塊が落ちてきた。塔に落ちてきた。渦を巻く螺旋に落ちてきた。海に落ちてきた。そして、その剥がれ落ちた分だけ、丈たちは、闇の裂け目から宇宙が見えた。

 

「いったい上でなにが起こってるんだろうねえ?」

 

「あの光、エンジェウーモンににてる気がします」

 

「ほんとに?なら、なにかあったのかな。無事だといいんだけど。まあ、僕らは人の心配してる場合じゃないんだけどね!」

 

見るからに冷たそうな、濁った海が吠えたけり、白波がズドモンにぶつかっては砕けて、さながら絶望にとざされて『どうしてこんなことになるまで帰ってきてくれなかったんだ、それでもデジタルワールドを救う伝説の選ばれし子供なのか』とでも言いたげな風情だった。

 

デジタルワールドの海は、ファイル島からサーバ大陸に移動するときとはまるで別人のようだった。5年も帰ってこなかった丈たちを責めるように白い牙をむいている。もちろんそれは気のせいだし、ズドモンに言わせれば丈の考えすぎにしかすぎないが、こうも様変わりされると気が急いていけない。

 

波のうねりがズドモンの行手をはばむように、ひときわ激しく盛り上げる。羊水のような海が暗く騒ぐ気配を見せ、いたるところ白い波頭にささくれ立ち、冷えて重々しい金属のような波に揺れ動いていた。

 

無数の棘のような、白い猫がいっぱいかけまわっているみたいに、海一面が白く波立つ。ズドモンに当たって舞い上がった白波を風が散らす。波は濃い灰色に波立つ。

 

重たく垂れこめた暗闇。果てしない怒濤の荒海との見境いもつかない遠い虚空。荒波のうねりが幾十条となくけもののようにおしよせて来ている。

 

あたりには人影もなく、鳥一羽、蝿一匹見当たらない。こんなところで波はいったいだれのために吠えたけっているのか、だれがその声を夜毎にきくのか、波は何を求めているのか、さらにまた、去ったあと、波はだれのために吠えつづけるのか。だから責め立てられているような気分になるんだろうな、と丈は思った。

 

「5年......5年、5年かぁ......長いなあ。ここまで変わっちゃうのか、うーん」

 

「そんなに、違うんですか?」

 

「ああ、うん、そうなんだよ。賢君は初めて見る風景だろうけど、僕もなんだ。ほんとは、なんていうのかな、常夏の島っていうか、ハワイっていうか、沖縄?あんな感じの海なんだよ。そのはずなんだ。ここまで荒れ狂う海じゃなかった」

 

丈がいいたいことはこんな感じだろうか、とヤシの木とかトロピカルな海とか白い砂浜とか色々言葉を投げてみる。そこにたくさんの電話ボックスが並んでいて、海に電信柱が突き刺さってたらかんペキだといわれた。よくわからなくなってしまった。

 

「ええと......きれいな青い海なんですね」

 

「そうそう、漂流しているときは、夏って感じの雲にイライラしたりもしたけどさ......これは、違うと思う。こんな海が普通なんだとは思って欲しくない」

 

「そうだぜ、賢。デジタルワールドはさ、もっと広くて、きれいで、そりゃあぶないこともたくさんあるけど、楽しいところなんだよ」

 

丈とズドモンが力説するものだから、賢はぼんやりとしたイメージしか浮かばないものの、少なくても今目の前に映る世界では断じてないことだけは理解する。

 

なによりも自分と兄を助けてくれたディノビーモンが生まれたこの世界、デジタルワールドがこんな禍々しい闇に覆われた崩壊寸前の世界だとは思いたくないのも大きい。それは間違いない。

 

そんな2人の会話を嘲笑うかのように、広い海の面が旗でもなびくように、うねりが出て来て、そして又それが細かく、せわしなくなった。

 

見る見るうちに見上げるような山になった波が迫り来る。恐ろしく大きな斜面が迫り来る。ズドモンはつんのめったように、ドッ、ドッと、その谷底へ落ちこんでゆく。今にも沈むと錯覚を起こしそうになるが、真横からすぐ別な波が起ち上ってきて、ドシンとズドモンの横腹と体当りをする。さすがにズドモンの背中も揺れるものだから丈も賢もしがみついていることしかできない。

 

海は、よくも来やがった、と待ちかまえていたように見えた。飢えている獅子のように、えどなみかかってきた。ズドモンはものともせずに進んでいく。

 

向こう側はぼんやりとしている。どうやら雨が降っているようだ。しばらく進むとそのあたりを通過する。小寒い雨がまだ止んでいなかった。四囲にもりもりと波がむくれ上ってくると、海に射込む雨足がハッキリ見えた。それは原始林の中に迷いこんで、雨に会うのより、もっと不気味だった。波が歯をムキ出すのが、時々青白く光ってみえた。

 

水平線が見る間に足の下になるかと思うと、二、三分もしないうちに、谷から狭せばめられた空を仰ぐように、下へ引きずりこまれていた。

 

どう吹こうとためらっていたような疾風がやがてしっかり方向を定めると、これまでただあてもなく立ち騒いでいたらしく見える三角波は、だんだんと丘陵のようなうねりに変わって行った。言葉どおりに水平に吹雪く雨の中を、後ろのほうから、見上げるような大きな水の堆積が、想像も及ばない早さでひた押しに押して来る。

 

波の山は、いきなり、獲物に襲いかかる猛獣のように思いきり背延びをした。と思うと、波頭は吹きつける風にそりを打ってどうとくずれこんだ。

 

吹き落ちる気配けはいも見えないあらしは、果てもなく海上を吹きまくる。目に見える限りはただ波頭ばかりだ。

 

波はなお怒る。たてがみを風になびかせて、暴れ馬のように、波頭は波の穂になり、波の穂は飛沫になり、飛沫はしぶきになり、しぶきは霧になり、霧はまたまっ白い波になって、息もつかせずあとからあとからと山すそに襲いかかってくる。

 

煮えくりかえった熱湯をぶちつけたように、湯げのような白沫を五丈も六丈も高く飛ばして、反そりを打ちながら海の中にどっとくずれ込む。

 

ズドモンから振り落とされそうになるたびに、丈は必死でその甲羅にしがみついた。

 

一種のテンポを取って高くなり低くなりする黒い波濤はとうのかなたには、さらに黒ずんだ波の穂が果てしもなく連なっていた。

 

やがて、少しだけ波がマシになった。賢と丈はほっと息を吐く。

 

「デジタルワールドは、まるいんだ。地球といっしょでね、まるいはずなんだよ。これじゃあ、平面だ。端まで流されたら落ちる!」

 

「落ちるんじゃなくて、上に飛ばされると思うよ、丈。海がどんどん削られてるじゃん」

 

「た、たしかに、どれだけ大きい竜巻、いや台風かな?」

 

「ちがう、ちがう、デジタルワールドはぜんぶデータでできてるんだから、あれは海のデータが集められてるんだよ。そんで、あのでっかい塔の材料にされちゃってるんだ」

 

ズドモンの上からでも、地球と同じ世界なんだからありえるはずもない、あるはずのない地平線の果てがよく見えた。

 

あるあたりから海が不自然に途切れているからよくわかるのだ。滝の上の川をカヌーで渡っているときのように、すべて視界から消えている。

 

きっと、あの先は滝になっているのだ。そして、虚空に投げ出されて落ちていくか、ズドモンのいうようにあの竜巻みたいな渦に巻き上げられるかの二択だろう。そうなったら最期だ。どのみち死ぬしかない。

 

「ズドモン、ファイル島はまだかい?」

 

「んー、わかんないな。まだ見えない」

 

いざ、デジタルワールドに、と気炎を吐いて戻ってきたら、世界の崩壊に巻き込まれていきなり分断されてしまった。選ばれし子供たちがいない隙に暗黒の力が世界を崩壊させてデジモンたちを皆殺しにして力を蓄えようとしているからだとゲンナイさんから聞いてはいたが、丈はすっかり出鼻を挫かれてしまった。

 

「ほんとにごめんよ、賢君。まだよくわかってないだろうに、いきなりこんなことになっちゃってさ」

 

丈は自分のせいでもないのに賢に謝った。賢は首を振る。

 

「そんなこと、ないです。丈さんのせいじゃないのはわかります」

 

「いや、まあ、たしかにそうなんだけどねえ」

 

ズドモンの進路を妨害する敵がいないかどうかは、賢のパートナーが羽音を常に羽ばたかせてその音波のはね返り具合から調べてくれている。

 

「助けてくれてありがとうございました。ほんとに死んじゃうかと思った」

 

「ほんとにね!まさか掴んだ木が分解されちゃうなんて思わないじゃないか。ここまで落ちてくることになるとは思わなかったよ。みんな、大丈夫かなあ」

 

丈と賢は空を見上げる。

 

「というか、ここどこなんだろうねえ?ファイル島の近くならいいんだけどなあ」

 

「ファイル島って、行かなきゃいけないところでしたっけ」

 

「うん、そうだね。僕らが最初に行かなきゃいけない場所だ。僕らが最初に落っこちてきた場所でもある。全部のエリアを回ったからね。着いたら案内するよ、任せて」

 

空に投げ出され、海に墜落し、しこたま海水を飲んで喉がヒリヒリするのもかまわず丈はいう。

 

「落ちてくるときに見えたけど、景色がねじれて見えたんだ。やっぱり世界全体がぐちゃぐちゃになってるんだね、急がないと」

 

「任せとけって、そのうちつくよ!」

 

「気をつけるんだ、ズドモン。敵だ」

 

ディノビーモンがいうものだから、丈と賢は思わず前を見た。やっぱり仕掛けてきたか、といいかけた言葉は飲み込まれる。そこにいたのは、ズドモンの何十倍もある巨大な影、みたことのある影だった。

 

「大丈夫、大丈夫、攻撃しなくていいぜ、ディノビーモン。こいつはオイラたちの仲間だ!な、ホエーモン!!」

 

目の前の海流が大きく裂ける。そこには、前よりもさらに大きくなったホエーモンがいた。

 

ホエーモンが口を開ける。ズドモンやディノビーモンが余裕で入れるほどの巨大な空間が広がっていた。

 

「わあー......」

 

賢は目を丸くした。そこには幼年期から完全体までさまざまなデジモンたちがいたのである。みんな、ホエーモンに助けてもらったデジモンたちであり、なぜか体の中に設置されている保健室みたいなところは行列ができている不条理さがあった。

 

「これはすごいね!?ホエーモン、前はあんなのなかったじゃないか」

 

丈の言葉にホエーモンの声がどこからともなく聞こえてくる。鯨のように超音波で会話するため、直接脳内に声が聞こえた。今回が初めてではないからだとホエーモンは教えてくれた。ケンタルモンたちが移動中に治療が間に合わないと困るからと勝手にどんどん物資をおいていった結果、こんなことになったらしい。

 

世界の崩壊前からあちこちから暗黒の力をもったガスが吹き出して騒ぎになり、感染から逃れるために島から脱出するデジモンたちがたくさんいたらしい。その何回目かわからない輸送の途中で天変地異が起きた。たくさんの島が海ごと消滅して、溺れているデジモンたちを助けていたら、これだけたくさん集まった。これからファイル島に送るところだという。

 

「デジタルワールドには病院がないんだっけ......」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「ズドモンが前にあったらいいなあっていってたね、そういえば。よし、のぞいてみようか」

 

「え、いいんですか?」

 

「僕の兄さん......ほら、メガネかけた大学生くらいの男の人いただろ?みんなの様子をみたり、怪我の手当てしてた。あれ、僕の上の兄さんなんだ。医学生でね、医者の卵。シン兄さんがやってるのみたし、手伝ったからね。見よう見まねだけどやってみるよ。手伝ってくれるかな」

 

「あ、は、はい!わかりました!」

 

たくさんの怪我をしたデジモンたちがならんでいる。丈の言葉に賢はうなずいてついて行った。

 

「ちょうどよかった、ホエーモン。オイラたちもファイル島にいくところだったんだよ。案内してくれないか?護衛してやるよ!」

 

巨大な完全体が2体も護衛についてくれると知って、世界の崩壊に怯えているデジモンたちは歓喜した。

 

「ん、どーした、ディノビーモン。賢と親交深めなくていいのかあ?仲良くしたいんだろ?」

 

外でまたデジモンの位置関係を把握するために羽ばたきを開始したディノビーモンにズドモンは声をかけた。

 

「それはいい、いつでもできる。でも、今僕はできることをしたい。賢は丈たちの足手まといになることを怖がってるから」

 

「あー、なるほど。そっかあ、お前いいやつだなあ。手伝うぜ」

 

ズドモンはニヤリと笑った。

 

「賢のおかげで丈もしっかりしなきゃって気合い入ってるしさ。オイラ、これでも感謝してるんだ。丈のやつ、倒れた人を兄ちゃんが介抱してるのみて、なんかずっと考え事してたみたいだからさ。気が紛れたみたいでよかったよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。