(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第190話

「この瞬間を待っていたのだ、ファイル島を占拠すればお前たちは終わりだからな!」

 

ファイル島を占拠すべく最後のダークマスターズが姿を表した。

 

「我が名はイージスドラモン!さあ、いけ!我が精鋭たちよ!」

 

それは、ダークマスターズでありながら、データ種同士の究極体が融合して誕生したワクチン種のデジモンだった。スパイラルマウンテンの形成時にまきこまれて死んだデータ種、ワクチン種のデジモンたちから構成されたデータでできているのは明らかだった。

 

「丈!あれ、マリンキメラモンたちじゃないか!?」

 

「ほんとうだ、まさかあのデジモンが作ったのかい!?」

 

平面の世界となった海において、丈たちを襲ったマリンキメラモンや他のダークマスターズを支配していたデジモンたちの改造する遊泳する基地として潜伏し、その開発で確立した技術で量産体制となることに成功していたらしい。

 

イージスドラモンから合成されたと思われるデジモンたち、あるいは機械型デジモンたちがどんどんでてくる。

 

「なんて大きさだ......」

 

選ばれし子供たちの目の前で、倒したはずのダークマスターズたちがふたたびファイル島への侵攻を開始したのである。

 

「そうはさせるか!」

 

次々とデジモンたちは究極体に進化し、迎撃するが、黄金のクロンデジゾイド合金でできた光り輝く装甲は、全てを防ぎ切ってしまう。

 

敵の情報分析や索敵を担当するらしく、イージスドラモンの代わりに、彼から飛び立つ新手の敵達が次々と空を飛んでいく。どうやらイージスドラモンが分析した情報は展開する敵陣営に素早く送られ、戦況を優位に進めているようだ。

 

「パワーウォーター!」

 

両腕から巨大な水弾を撃ち出され、一個大隊級の殲滅戦を可能とするほどの火力を秘めているらしく、大爆発が起きる。岸辺の地形があっというまに変わってしまった。

 

「シャインブレイカー」

 

天を覆う程の大量のミサイルを一斉射撃し、最大出力でファイル島に突貫してきたではないか。全身の砲から光輝のエネルギー砲撃と灼熱のエネルギー砲撃を目標に向けて一斉集中発射し、全砲撃の集中点で2種類のエネルギーが融合して生じる超破壊的エネルギーの大爆発がおきる。その爆発はきらめく黄金色の閃光を放ち、凄じい威力ながらも神々しささえ感じた。

 

「そうはさせるか!」

 

はるか上空から飛来した光がそのエネルギー砲の前に現れたかと思うと、起動が大きくずれた。ファイル島にある山のひとつにあたり、頂上付近が消しとばされてしまう。

 

「ウォーグレイモン!」

 

灼熱のエネルギー波は、一瞬にして凍りつき、散見していく。

 

「メタルガルルモン!」

 

どうやら間に合ったようで、太一たちを降ろしてからすぐに2体は戦場に戻っていく。太一とヤマトはパートナーの邪魔にならないところで、イージスドラモンが量産するデジモンたちをどうとめたらいいか、迎撃しながら闘いに参戦し始めた。

 

「俺たちを襲ってきたデジモンたちは、みんなこいつが作ったのか......」

 

「どれだけのデジモンたちが犠牲になったんだよ、これ」

 

「許せない!」

 

よかった、と思った子供たちだったのだが、タケルだけはどうしようと困っていた。

 

「どうしたんだよ、タケル。やっとヤマトさんに会えたのに」

 

「大輔くん!」

 

タケルはあわてて大輔のところに向かった。

 

「それがね、大変なんだ。あのスパイラルマウンテンだけ、どうしても壊れないんだ。あそこにはチンロンモンっていうデジモンが封印されてるから、助けてあげなくちゃいけないんだけど、イージスドラモンがせめてきちゃったんだ」

 

「四聖獣が進化を否定する概念の干渉を遮断してくれるかもしれない。イージスドラモンを倒すなら、チンロンモンの封印を解かなければ!」

 

「えーっと、チンロンモンを助けにいけばいいってことだよな?」

 

「うん!でも、僕たち、動力源がどこにあるのかわかんないんだ」

 

「俺知ってる!上じゃなくて、下の方なんだ。すっごい下の方!俺たちのときは、スーツェーモンが穴開けてくれたんだけど」

 

「なるほど。今なら、ほかの四聖獣の力がかりれるんじゃないか、タケル」

 

「ほんとだ!そうだね、光子郎さんとワイズモンのところにいかなくっちゃ!」

 

「そーだな、うん!太一先輩たちがダメなら、俺たちだけでなんとかしなきゃ!」

 

「いこう!」

 

タケルと大輔はスパイラルマウンテンにつづくデジタルゲートを開いてもらうため、光子郎のもとにむかったのだった。

 

 

 

 

ウォーグレイモンとグラップレオモンが動力源を破壊したことで、封印から解放されたバイフーモンから加護を得た。ニャロモンにまで退化を余儀なくされていたパートナーは、そのおかげでエンジェウーモンにまでは進化できるようになった。そのままファイル島に危機が迫っているからはやくいけと激励をうけ、はじまりの街に飛ばされた。

 

光が生まれてはじめて、はじまりの街にきたときには、すでにダークマスターズ最後の一人、イージスドラモンの襲撃ははじまっていた。エンジェウーモンが究極体になれたのは、そもそも経験値を無視して進化できる光の力で無理やり必要な条件を満たしただけにすぎないため、勇気と友情を司るバイフーモンの加護ではエンジェウーモンが限界だった。

 

チンロンモンが封じられているスパイラルマウンテンはまだ存在しており、対応する紋章の持ち主たる光もエンジェウーモンも強化の恩恵は太一とウォーグレイモンより希薄だったのもある。

 

それでも、幼年期として、怯えている子たちに混じって光の腕の中にいるよりはよほどいいとエンジェウーモンは他の仲間の回復や遠距離からの攻撃の支援に徹していた。

 

「わたしも......わたしもなにか、しなくっちゃ......!」

 

ただ見ていることだけはできなかった。光が選ばれし子供だと知っただけで、今までデジタルワールドに足を踏み入れたこともろくにないはずの光をたくさんの幼年期の子供たちがすがってくるのだ。太一はウォーグレイモンと共に最前線で戦っている。なんとかして、この子達を守らなくちゃ、と光は思った。

 

太一とグラップレオモンがデジモンのことをたくさん教えてくれたのだ。幼年期1の彼らはデジモンとして転生するには転写するだけのデータ量が足りず、このままダークマスターズに殺されたらひとたまりもない。さすがの転生システムという救済措置からもこぼれ落ちてしまう。待っているのは、死。そしてその死にたくないという想いは、暗黒の力をさらに強化してしまうに違いないのだ。

 

誰もが怯えていた。

 

「光ちゃん!よかった、ここにいたんだ!」

 

「ミミさん!」

 

「大丈夫だった、光ちゃん?」

 

「空さん......!は、はい、大丈夫、です。でも、この子達が......」

 

空とミミもまた、なにかしなくては、とおもっいたところだったらしい。

 

「デジヴァイスの結界でなんとかはじまりの街だけでも守れないかしら」

 

「結界......あ、そっか、数があればあるほど広く、強くなるんだっけ!」

 

「そっか......それなら、わたしにも!」

 

「善は急げね!」

 

「はい!」

 

「よーし、光子郎くんたち呼んでこよっと!丈先輩はズドモンと海の方で戦ってるし、太一さんたちは、うん、無理っぽいし!」

 

「じゃあ、手分けしてみんなで結界を貼りましょう!」

 

光はうなずいて、さっそくコマンドを入力した。ミミが光子郎のところに向かってからしばらくして、ノートパソコンとデジヴァイス、どちらも起動したようで、一気に広がっていく。光は究極体になるときに邪悪な因子の覚醒を感知して、警戒感から完全体にしか進化できなくなっているディノビーモンの近くにいた賢をみつけて、さっそく結界のことを話した。

 

「ありがとう、八神さん。やってみるよ」

 

「えっとね、コマンドはこうやるんだよ。わかる?」

 

「あ、そっか。間違えちゃいけないよね、見せてもらってもいい?」

 

「うん」

 

光はさっそく賢にやり方を教えてあげた。実はすでに知っているのだが、さすがに声をかけてくれた女の子にそのままいう気はないようで、ありがとう、と賢は笑った。光はホッとしたように笑う。無事に結界は起動した。

 

6人分+ノートパソコン分の結界ともなれば、現実世界で戦ったロゼモンの進化系を足止めした実績のある8人分には及ばないが、強固かつ広大な敷地を守護する結界となる。

 

「燃えてるね」

 

「ほんとだね」

 

「泉さんがスーツェーモンが火の壁のプログラムを入れてくれたっていってたよ。僕のも入れてもらえた。八神さんは?大丈夫?」

 

「わたしも大丈夫、バイフーモンがね、ありがとうってくれたの」

 

「そっか、四聖獣の力だから」

 

「うん、たぶん」

 

2人とも、わからないなりに、今どういう状況なのかはぼんやりとではあるがわかっていた。

 

「大丈夫かな」

 

「大丈夫だよ、きっと」

 

「そうだね。いく?」

 

「そうだね、ディノビーモン、やっつけてくれたし」

 

「うん」

 

光は賢と共にはじまりの街の真ん中にある広場にやってきた。

 

「えっ、それほんとなの、ミミちゃん!?」

 

「そうなの、空さん!どーしよう、全然気づかなかったー!」

 

「なんで2人だけでいっちゃうの!?ああいうところだけ、大輔くんの真似しなくてもいいのに!」

 

「タケルくん、太一さんみたいになりたいっていってたし、それもあるのかも......」

 

「あ......、ひとりだけ、完全体なのホーリーエンジェモン気にしてたわね、そういえば......」

 

なにやらミミと空が騒いでいるので光は声をかけた。

 

「え、大輔くんとタケルくんが!?」

 

「そうなのー!どこにもいないから探してたたら、ワイズモンと光子郎君がしれっとゲートあけちゃったって、もー!!」

 

結界の強固さは安心感にも繋がっているようで、ミミは心配そうにその安全地帯からいってしまった二人がいるであろうスパイラルマウンテンを見上げた。

 

「いっちゃったんだ......」

 

光は唖然としたままスパイラルマウンテンを見上げた。

 

 

 

 

 

それに気づいたのは、ほかの3体の四聖獣たちの力を借りて、動力源がある最深部につながるデジタルゲートに突入したときだった。なんだろう、これ、の声にタケルは反応する。まるで雲の中にでもいるみたいだった。視界は最悪だ。

 

灰色がかった霧、もしくはもや、煙に覆われている世界は、どこまでも広がっている。息苦しさは感じないから有害なものではないと思うが、感覚的に感じるものはなにもないため、自然現象ではなさそうである。

 

どうみても人工的に発生しているものだ。これがウィルス以外は拒む霧や結界かもしれない。現にタケルたちは特に妨害を受ける気配はなかった。びゅうびゅうと強風にあおられながら、タケルは背中にしがみつく。

 

 

すさまじい爆発が起こった。しばらくして砂煙が消えた。そこには何も無かった。いや、暗闇だけがそこにはあった。その向こうからおどろおどろしい声が聞こえてくる。

 

次の瞬間、夜でもないのにあたりが暗くなった。ぎょっとした大輔たちがあたりを見渡す。どうやら突然空間が裂け、暗闇があたりを覆い尽くしたようだ。

 

なんだこれ、と思うより先に、デジヴァイスのシールド越しとはいえ、身の毛もよだつようなおぞましい叫び声が響きわたったのである。音を聞き取ることはできない。意味を理解することはできない。結界が遮断しているからだと理解する。

 

そしてタケルたちは悪夢をみた。後ろに迫り来ていた追手の軍勢が突然苦しみはじめ、どんどん固くなっている。体が硬直する。比喩ではない。物理的にだ。どんどん石のような、水晶のようななにかに変わっていくのが見える。やがて表面はまるで石像のようなものに覆われ、あっという間に飛行能力を持つものは自重に耐えきれず落下し砕け散り、ガラスの割れるような音が響きわたる。

 

水晶の高まりは次々と0と1の光の粒子にまで砕け散り、タケルたちを追い越して、目の前の闇に向かって収縮していく。

 

それはスパイラルマウンテンと一体化しているんじゃないかと錯覚を起こしそうなほど大きななにか、だった。先程の叫びは聞いたデジモンを、理解したデジモンを、即死させて吸収してしまうらしい。

 

「ホーリーエンジェモン!」

 

「ああ、任せてくれ!」

 

ホーリーエンジェモンはエクスキャリバーを構える。光につつまれた大剣は勢いよく振り下ろされた。

 

「───────!?」

 

真っ黒に染め上げられたデータの残滓は、ホーリーエンジェモンの聖なる力をもってしても届かない。途中までは白亜に戻り始めたのに、途中から黒い炎に焼かれてまた染め上げられてしまう。

 

「やめろ!!」

 

インペリアルドラモンが咆哮した。吸収しようとする闇に目掛けてメガデスを放つ。

 

「こいつ!?」

 

スパイラルマウンテンもろとも破壊するはずの威力を誇るはずのメガデスは光や衝撃もろとも闇の向こうに吸収されてしまうではないか。ただ、その爆風にさらされたデータの残滓がチラつく黒い雪はあたりに四散してしまう。もういちど浄化をこころみるがとどかない。ホーリーエンジェモンは舌打ちをした。

 

「またか、また私は届かないのか!力がないばかりに!また救えないのか、こんなこと、もう沢山だというのに!!」

 

仮面の向こう側から、冷たいなにかがこぼれ落ちる。

 

「ホーリーエンジェモン......」

 

タケルはパートナーの叫びに、たまらず紋章を抱きしめていた。

 

不意に、タケルは、ホーリーエンジェモンは、真っ白な世界に包まれる。大輔とインペリアルドラモン、目の前の闇の姿は消えて、目の前は不思議な反響があたりに木霊する不思議な空間にたっていた。まるで頭の中に直接話しかけられているような、錯覚に襲われる。タケルたち以外いないから気のせいだけども。

 

闇の咆哮のせいでデジモンにもデジタルワールドにもなれないデータの粒子が雪のように舞い散る闇は幻想的だが、視界不良である。不自然なまでに薄暗い空間が広がっている。なんの光もない、真っ暗な世界が広がっていた。データの残骸から生まれた霧みたいなものが唯一の光源だが、羽ばたくたびに四散してしまう。

 

ただ羽音だけが反響していた。

 

ホーリーエンジェモンはふたたび聖なる力で浄化をこころみるが、やはり光はまた闇に塗りつぶされてしまう。ホーリーエンジェモンは手を握りしめた。

 

無理やり暗黒によって浸食され、無残な形になっているデータの残骸の粒子がいびつに輝いた。

 

「ホーリーエンジェモン......」

 

タケルは紋章や火の壁のプログラムがダウンロードされているはずのデジヴァイスを通じて進化したはずのホーリーエンジェモンが、目の前の暗黒に染め上げられたデータを浄化できない現実に、ホーリーエンジェモンの不甲斐なさからくる嘆きが手にとるようにわかった。

 

「光とテイルモンを連れてくればよかったのか?浄化できたロゼモンを?なぜ彼らにはできて私にはできないんだ。あのときのように、闇と光の争いとは違う次元の戦いがあるのだと、私は、私たちは、その闘いの果てに終止符をうつためにいるのだと知ったはずなのに、なぜ!!」

 

タケルの呼びかけもホーリーエンジェモンにはとどかない。白いもやが羽音にあおられて、ぐるぐると渦を巻く。真っ白な風を生み落し、彼は跳躍する。響き渡る咆哮がしろいもやで満ちた空間を揺らした。いろんな色が混じった黒が、黒帯びた白になる。やがてそれは周りを細い枝のように走る。光は輝きを増して白く発光をはじめ、次第に帯が太くなっていく。しだいに熱を帯び始めた光が真っ黒な世界に真っ白なひび割れ模様が残像のように残る。まじかで炎が燃えているような錯覚に陥るほど熱い青い色を帯びた白であたりが満たされたとき、それはまるで意志を持ったなにかのように、ホーリーエンジェモンに向かって襲い掛かった。ホーリーエンジェモンはそれを両断した。

 

「古代デジタルワールドにおいても、パタモンは聖なる者に進化したと予言の書にはあった。彼らですら暗黒の力を封じることしかできなかった。私たちをこの世界に呼ぶために、前のパタモンは死んだ。私たちは託されたのだ、全てを。暗黒を進化を否定する概念から解放してやるのが私たちの使命だと、今ならわかるというのに!!」

 

「ホーリーエンジェモン......」

 

「タケルは、みんなは、この世界は、長きにわたる旅路の中で、私にたしかに教えてくれた。これから何をしなくてはならないのか、何をしてはいけないのか。人もデジモンもそうだが、心というものは、たしかに不確かで移ろいやすい、曖昧なものだ。だが、想いは、想いは消えない。想いは動かす。想いはいろんな事を起こす。いいことも、悪いことも。それを私は学んできた。デジタルワールドが選んだ歴史の中でもそれだけは普遍的だった。その想いの起こす悲劇の果てに、暗黒の力があるのなら、それを受け止めてやれるのも私たちにほかならない。そうだろう、タケル」

 

「うん、そうだよ。そうだよ、ホーリーエンジェモン」

 

タケルはうなずいた。そのときだ。

 

タケルたちは一筋の光を見た。反射的にデジヴァイスを起動させる。結界に弾かれて反射した光はその先にあったすべてを飲み込み消滅させてしまった。容赦なくタケルたちを狙って、執拗に光が振り下ろされる。それはまるで魂に飢えている死神のようだった。膨大なエネルギーを放出しながら、どんどん巨大化していく光が襲い掛かってくる。

 

シルエットが、どんどん大きくなっていく。より鋭利に、より禍々しく、膨大なエネルギーを放出する。弓なりに放射しているエネルギー波である。

 

突如、すさまじいエネルギー体が発生する。ホーリーエンジェモンをも容易に飲み込んでしまいそうな球体が降り注いだ。

 

「ホーリーエンジェモン!」

 

凄まじい轟音と衝撃。それに伴って発生した爆風が、すべてを吹き飛ばす。タケルの叫びすらも、きらめきも、白い霧も吹き飛ばしていく。発射された無数のシルエットは、まるで雨が降っているようだった。音速をはるかに超える速度で発射された球体が、ホーリーエンジェモンめがけて降り注いだ。ホーリーエンジェモンはそれをも両断しようと振りかぶった。その時だ。

 

『お前たちは希望を抱くことを思い出させてくれた。感謝する』

 

どこからか、声がする。あたりを見渡したタケルたちは、足元の光が呼応していることに気がつくのだ。

 

『我々は今、胸の底にかすかな期待を抱いているのは事実だ。数多の犠牲を払いながら、我々はここまできた。覆い尽くされているこの暗雲を一気に吹き払ってくれるかも知れない、そう願っている自分がいることに気がついたのだ。どうか、その光を暗黒に見せてやってほしいのだ。我々では成し遂げることができなかったことをどうか、どうか、頼んだぞ』

 

その声はたしかにタケルに、ホーリーエンジェモンに、デジヴァイスを通して、届いた。

 

『進化を否定する概念の干渉が失われた今こそ───────彼らを解放してやってほしい』

 

タケルとホーリーエンジェモンがうなずく。光はやさしく、ふたりを包み込んでいた。

 

そこにいたのは、ある種、光への極地だった。

 

セラフィモン

 

世代 究極体

タイプ 熾天使型

属性 ワクチン

 

白銀に輝く聖なる鎧に身を包み10枚の黄金色の翼を持つ、熾天使型デジモン。天使型デジモンの中ではもっとも位の高い存在で、全ての天使型デジモンを統治している。その素顔や正体は仮面に隠されて垣間見ることはできないが、“神”と呼ばれる「善の存在」に一番近い存在である。セラフィモンは邪悪なる存在との最終決戦に降臨し、全てを浄化すると伝えられている。また、ダークエリアに堕ちて魔王型デジモンになった「デーモン」は、もともとはセラフィモンであったと言われている。必殺技は7つの超熱光球を相手に放つ『セブンヘブンズ』は雷を落として天罰を与える「アセンションハーロー」

 

鎧の腹部には希望の紋章が刻まれ、10枚の金色の翼を持ち、デジモン文字で「すべてはわれとともに」と書かれた褌を装着している。

 

「アセンションハーロー!!」

 

雷が数多のデジモンの魂を生贄に出現していた塔を焼いた。スパイラルマウンテンが大破する。ガルフモンの大破によってはじけ飛ばされた衝撃にまきこまれ、動力源もろとも中核は一気に吹き飛ばされていった。

 

 

 

 

 

イージスドラモンの攻撃はやまない。デジヴァイスの結界による加護があるとはいえ、無尽蔵にイージスドラモンから放たれる必殺技と繰り出される究極体の軍勢の数も勢いも一向に止む気配がないことに、誰もが焦りを感じ始めていた。

 

戦いが始まってから、ずっと続いていた震源地不明の不気味な余震はとうとう本震に姿を変えた。はじまりの街全体が時化にあった漁船の帆柱みたいに揺れる。地震で地面が揺れるので、海上で波にもまれた者のように吐き気をもよおすデジモンもいるようで、あちこちでけが人が出ているらしい。光たちはその手当てに追われた。

 

大地が波のように揺れる。高速道路を歩いているときの大型トラックが通り過ぎるたびの揺れによく似ていた。揺れというよりはうねりに近い。荒波の上に浮かんだ航空母艦の甲板を歩いているようだ。

 

地震のたびに大地はガタガタと揺れて、光達は互いの顔が三つにも四つにもダブって見えた。

 

そのうち、かすかな揺れであっても、じつは大地震が来るまえの予震で、いまこの瞬間にも地響きが聞こえて大揺れが起こり、部屋の隅までふっとばされるんじゃないかと身がまえるようになる。妙な緊張感でもって光達は前に進んだ。

 

そして、イージスドラモンの巨大がこちらからでもわかるくらい近づいたあたりで揺れは最高潮に達した。ドーンと重く大地が鳴り、鳥が姿を見せないままけたたましくさえずった。樹が激しく梢を揺らした。地中から大木が折れるような音がした。大砲のような音が轟きわたる。轟然たる大音響が大地をつんざく。大地が破裂するのではないかと思われるほど激しい音だった。

 

地響きが地の底で大太鼓でも打つ不気味さで、少しずつ少しずつ大きくなり、まっしぐらに接近してくる。

 

そして、光達は東側の方角に光の柱が走ったのを目撃した。巨大な力でずたずたに引き裂かれた瓦礫が大地から大空に巻き上げられていく。渦をまく光がスパイラルマウンテンを突き破り、雷鳴とともにひとつの巨大にもにた光を構築していく。

 

想像を絶する大きさだった。ほかの四聖獣たちのいる方角のように光の柱がたちのぼったのだ。ほかのスパイラルマウンテンの最期のように、塔を中心とした広範囲が瞬時に壊滅した。おそらく破壊に留まらず、衝撃により地表ごと大きくえぐられ、直径ほぼ一kmにも及ぶクレーターが形成された。さらに五km離れた地点でも数秒後にはマグニチュードの揺れが伝わり、十五秒後には爆風が吹き抜け、その余波は時間をおいてこちらまでやってくることになる。

 

「大輔くん、タケルくん、大丈夫かなあ」

 

雷が空から幾重にもおちてくるのがみえた。それが雷ではなく、雷を伴った聖なる光であることに気づけた選ばれし子供は、デジモンはどれくらいいたのだろうか。光はなんとなくタケルのパートナーが思い浮かんだが、安心するには材料がたらなかった。

 

 

 

 

 

巻き込まれるかに思われた大爆発だったが、デジヴァイスの光の壁のプログラムがそれを防ぎ切ってくれた。炎のエフェクトに光の煌めきが追加されていた。明らかになにものかの加護がそこにはあった。

 

恐る恐るタケルと大輔の目の前はなにも残ってはいなかった。ただ、足元から噴きあがってきた鮮やかな光がタケルたちを通り過ぎてはるか上空の虚空を貫いていく。これで四聖獣たちの封印はとかれ、ふたたび暗黒の力の供給は妨害が再開され、これ以上の悪化はなくなる。そのかわり、これ以上の改善を望むにはタケルたちが奮闘するしか道はない。

 

タケルも、大輔も、セラフィモンも、インペリアルドラモンもうなずいた。

 

『行くがいい───────古代デジタルワールド期に我々が戦った、あの地に。セントラルマウンテンにいくために。はじまりの街を護るのだ』

 

タケルたちは光に包まれた。気づいたら、はじまりの街にいたのだった。

 

 

 

 

 

地震が止んだ。ようやくおさまった揺れの感覚はまだ残っている。ほっとした光は、デジヴァイスの画面が点灯していることに気がついた。

 

「あれ?」

 

バイフーモンが加護をさずけてくれた時と同じ英語の文章が表示されていた。周りを見渡してみると、ミミや空、賢も同じようで、デジヴァイスをみて驚いている。やがてそこから白い光が発射され、それぞれのパートナーにとどく。疲弊している者は癒やされ、怪我を負っている者は治癒されていく。

 

「大輔くん、タケルくん、チンロンモンのこと、助けられたのかな?」

 

光の言葉を肯定するように、エンジェウーモンは光につつまれていった。そして、経験値の不足という現実に阻まれていた進化がようやく実現することになる。

 

「オファニモン!」

 

光の歓喜に女神の微笑みで応えたオファニモンは、その聖なる輝きに満ちた武器を携え、イージスドラモンの先鋭たちめがけて無数の光の剣を構築していく。

 

「エデンズジャベリン」

 

放たれた光の剣は次々と敵を屠り、データの残滓は真っ白な粒子となり、はじまりの街に降り注いでいく。

 

「タケルたちが、チンロンモンの封印を解いてくれたようだ。これで四聖獣たちは復活し、進化を否定する概念の力を抑えてくれている。一時的に暗黒の力の供給元が絶たれた。今いる敵が最後だ、これ以上の供給はない。みんな、もう一息だ」

 

オファニモンの言葉に選ばれし子供たちも、パートナーも、はじまりの街を守ろうと奮闘している守護デジモンたちもやる気を取り戻す。士気が上がる。チンロンモンが復活した恩恵は相当のもののようで、進化の光を司るだけあり、オファニモンは退化する気配はない。

 

光はデジヴァイスの結界のエフェクトにまた新たな煌めきが追加されていることに気づいたのだった。

 

 

 

 

 

 

光の頭上を飛んでいったのは、ディノビーモンだった。四聖獣の加護を受けてもなお、暗黒の力が完全に失われたわけではない今、ゲンナイさんが受けていた干渉を思うとうかつに究極体に進化することができないらしい。

 

ただ、ディノビーモンもまた、たしかに加護の恩恵を受けているのはたしかだった。彼の放ったジャミング効果のある怪音波は、イージスドラモンに通ったのである。

 

たしかにイージスドラモンは最新式のイージス戦闘システムを搭載していた。これは総合武器システムであって、単一ネットワークの下ですべての艦艇のミサイル防衛システムを互いに連結し合うことが可能である。そうすることによって、同時に何百基もの敵ミサイルを探索、追尾、破壊することができる。

 

さらには、4基の大型レーダーが装備されており、その能力は何個ものレーダー基地に相当するほどだ。防衛に関しては、同艦はさまざまな種類のミサイルを搭載しており、50基以上ものミサイルを装備している。

 

イージスドラモンに近づくと、ジャミングがイージスドラモンに搭載されているすべてのレーダーや指揮系統、諸々のシステム、情報通信、等を遮断してしまった。防衛システムに連結され、全能の筈のイージス・システムが遮断されてしまったのである。

 

電子システムが複雑になればなる程、電子兵器を使ってそのシステムの機能を無効にすることがより簡単になる。そんな数少ない弱点が露呈した証だった。

 

「さすがは光子郎はんや!」

 

どうやらヘラクルカブテリモンがディノビーモンに頼んだらしい。ここから形勢は逆転した。

 

 

進化を否定する概念の暗黒の力への無尽蔵ともいうべきエネルギー供給が止まった効果は絶大だった。新たな敵を量産することができなくなり、敵の軍勢という数の暴力に阻まれてイージスドラモンに届かなかった攻撃は、敵の数を減らすことで次第に通るようになっていく。

 

もちろん、生半可は力ではイージスドラモンに傷一つつけることは叶わないのだが、四方を敵に囲まれた水上戦闘艦ともいうべきイージスドラモンの天敵は、やはり潜水艦だった。

 

「ダイダルウエーブ!!」

 

イージスドラモンは2次元の海面を作戦海域とするが、潜水艦ほどの性能があるホエーモンは3次元の海中を作戦海域とする。さらに強い外殻を持つホエーモンは、可潜深度が大きければ防御・退避も可能。選ばれし子供たちと交戦中のイージスドラモンはズドモンという脅威は認識していたが、マリンデビモンたちに任せきりにしていたホエーモンは完全に脅威とは認識していなかったのだ。

 

イージスドラモンは深海のホエーモンからみて、丸裸も同然だった。戦う次元が違いすぎたといっていい。

 

完全なる死角から攻撃されたイージスドラモンは重大な損傷を負い、体が大きく傾いた。ゆえに攻撃の軌道もずれてあらぬ方向にとんでいってしまう。その特大の誤射はただでさえ数を減らしていた肉の壁をも破壊してしまう。その隙を選ばれし子供たちは逃さなかった。

 

ウォーグレイモンが、メタルガルルモンが、一気に襲いかかる。海上の敵はすべてズドモンとホエーモンが倒してしまい、そちらからの猛攻も加わる。暗黒の力を補給しようとしてもロゼモンとオファニモンが浄化し、ダークエリアに送ってしまい、エネルギーはみるみるうちに枯渇してしまう。ヘラクルカブテリモンが光子郎の指示に従い、照射誘導器といった大切なパーツを徹底的に破壊していくものだから、これ以上の飽和攻撃には対応できなかった。

爆撃を頭上の飛行から受け、極度の混乱状態に陥ってしまったイージスドラモンはなすすべなく海上に沈んでいったのだった。

 

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