(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第191話

タケルたちの帰還に歓喜している暇はなかった。

 

スパイラルマウンテンはすべて倒壊し、ダークマスターズはできうる限りダークエリアに送ることができた。選ばれし子供たちの目の前に姿を表したのは、古代デジタルワールド期に形成されたセントラルマウンテンそのものだった。

 

それはまさしく暗黒、漆黒の闇というに相応しいエネルギーだった。暗黒で鋭いなにかがそこにある。稲光がぴりぴり裂ける。

 

その山は巨大な力で内側からずたずたに引き裂かれ、ほとんどが瓦礫になってなお飲み込まれていく。一度形成された山は瞬時に壊滅した。

 

その衝撃はすさまじく、はじまりの街の家屋や森林の破壊に留まらず、衝撃により地表ごと大きくえぐられ、直径ほぼ一kmにも及ぶクレーターが形成された。さらにはマグニチュードの揺れが伝わり、十五秒後には爆風が吹き抜け、山の広範囲が甚大な被害に見舞われた。

 

それは、戦争で大空襲を受けたあとの町そのものだった。

 

デジヴァイスの結界がなければ、それだけで街は壊滅したに違いない。選ばれし子供たちは戦慄した。それだけ転生システムに対する憎悪があるのだと見せつけられたような気さえした。

 

暗黒の力のデジモンの形すらなさなくなった攻撃は更に激しさを増していた。雷鳴の中、雨も降り始めていた。雨は怒りに狂ったみたいに横殴りに大輔達を叩き続けている。空気はべっとりとして、世界が暗い終末に向けてひたひたと近づいているような気配が感じられた。ノアの洪水が起こったときも、あるいはこういう感じだったのかもしれない。

 

離れたところにいたはずなのに、閃光を見て数秒後に、爆音がきこえた。目の前の木々がさらさらと葉を震わせた。すべすべに磨きをかけてある御影石の墓は、閃光に当たった面だけざらざらに焼け爛れ、光の当たらなかった方は元のまま滑らかになっている。

 

雨のように火が尾を曳(ひ)いて降りそそぐ。暗黒の力が執拗にはじまりの街に襲いかかり、デジヴァイスの結界にはばまれては、八つ当たりのようにあたりのエリアを破壊する。その繰り返しだった。

 

「光よ───────」

 

オファニモンの掲げた手に光が収束していく。足元には魔方陣。1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、回転しながら展開していく聖なる魔方陣。この世の終末のような凄まじい美しさを滲ませた空の色が広がる中、鮮やかなひかりが5つ柱となって大地と天空を貫いた。

 

「暗黒の力に食われし魂を、思念を、返してもらうぞ!」

 

セラフィモンの力が天まで届き、世界の四方を守護する四聖獣たちの加護が力をさらに引き上げていく。聖なる裁きが魔を滅する。その標的はもちろん暗黒の力、そのものである。

 

暗黒から闇が乖離し、光に正常化して、さらに引き剥がされていく。それは暗黒の逆鱗に触れたらしい。

 

大輔たちは地震計の針みたいに上下に揺れた。足もとに置いてある瓦礫が不吉な音を立て始めた。まるで頭蓋骨の中で脳味噌が飛び散っているような音だ。それは大輔達が揺れているのではなく、世界が揺れているのだと気づくのはすぐだった。

 

セントラルマウンテンに絡みついていたとぐろを巻く龍にも似た雷鳴の化身が一瞬にして掻き消えてしまった。眩い閃光を弾きかえす闇に食われてしまったのだ。かわったのだ。すべてがひとつに収束していく。セントラルマウンテンはまた瓦解し、細かな粒子が気体となり、不定のなにかになろうとしてなりきれず、よくわからないなにかにに変化していく。そして大輔たち目掛けて一直線に濁流が降りそそいだ。

 

世界が真っ白に塗りつぶされた。

 

あたりはまるで宇宙のように広い広い空間だった。遠くでは星々がきらめくのに、あたりは銀河系も何もない。ただ浮遊しているわけではなく、しっかりと足がついているのは平面の空間が存在しているからだろう。視認できないが謎のパネルが設置されているような感覚である。こつこつと冷たい音がする。音がする時点で宇宙ではない。息ができる時点で宇宙ではきっと無い。

 

大輔たちは油断することなくぐるりとあたりを見渡した。張り詰めた緊張感の中、突然の閃光と轟音がとどろく。反射的に大輔たちは目をかばった。強烈なまぶた裏の残像が消え去る頃、ようやく視界が回復した大輔たちがみたのは、視界を覆い尽くす巨大な闇をひきつれた暗黒の本体、黙示録から先代の子供たちにアポカリモンとなずけられたデジモンの皮をかぶったなにか、だった。

 

大輔たちは凄まじい違和感に身体を震わせた。目の前の闇は声こそ人間だがその口調には別人のような威厳とカリスマ性を感じる。まるで人間の口を借りて別人がしゃべっているようだったのだ。

 

そして、その声に応えるかのように、この場には全く場違いな音が聞こえ始めた。澄んでいるが、どこか神経をかきむしられるような単調な音。それは、フルートの音に聞こえた。それに呼応して星が今まで鳴き喚いている。嫌だ。聞きたくない。あの音は人間が聞いていい音ではない。

 

デジヴァイスの結界はいままで遮断してくれていたはずだったのだが、貫通してきた。それだけ暗黒の力は強大だった。

 

大輔たちはずっと耳を塞いだかったが、たとえ耳を削ぎ落としたところで音はずっと聞こえ続けるだろう。そもそもあれは音ではない。人間の感覚では捉えられない何かが、音として聞こえているにすぎない。頭の中でなっているのだ。それが肥大化するにつれて、完全なる闇が近づいてくる。

 

星明りや月の明かりすら入らない暗闇だ。そもそもここは幻覚なのか。大輔たちたちが蹲っている場所は本当にデジタルワールドなのか。そんな大輔たちの不安を嘲笑うようにフルートのような音は続いた。

 

闇をパートナーデジモンたちが屠っていくものの、数が多すぎてアポカリモンに近づけない。こうしている間にもアポカリモンが唱える呪文の声が大きく、高くなっている。その声は、狂喜しているように感じられた。そして次の瞬間、空間におぞましい瘴気が入ってきて、一箇所に集合し始めた。全くの闇の中だったが、大輔たちは確かにそれを感じた。

 

そして瘴気が集まっていった場所には、完全な暗闇のはずのこの場所よりもさらに黒い影が表れ、その中に三つの赤い光が出現した。それは、目のように見えた。

 

「クククク……ハハハハハ」

 

幾重にも折り重なった声が聞こえてくる。

 

「私が、僕が、俺が、我が、醜いと思うか?」

 

一人称すら安定しないのは、無数のデジモンたちの想いを取り込んで肥大化してきた証だろう。

 

「……そうだろう。お前たちはそう思うだろう」

 

そこにあるのは、ただただ、純粋な悲観だった。

 

「所詮、我々は進化の過程でその行く手を阻まれた者……」

 

純粋な羨望だった。

 

「なぜ我らが滅ぼされなければならない…」

 

純粋な憤怒だった。

 

「…生きて友情を味わいたかった」

 

純粋な妬みだった。

 

そのすべては、やがて途方もない負のエネルギーとして、ひとつの感情に支配されていく。

 

「我々にだって涙もあれば、感情もあるのに……なんの権利があって、我々の命はこの世界から葬りさられていかねばならない!!」

 

「生きたかった!生き残って、この躯を世界のために役立てたかったのだ…!」

 

「我々は、この世界にとって必要がないと言うのか!?無意味だというのか!!」

 

「……我々を拒絶した貴様らを我々は赦しはしない。デジタルワールドは我々が支配する。我々の居場所を確立するのだ…邪魔する者にはすべて消えてもらう。ククハハハハハハ…光あるところに呪いあれ!!」

 

それは生者に向けて放たれた亡者の呪詛、そのものだった。

 

正十二面体の上方の一面に人間のような上半身を乗せ、残りの各面に小さな五角錐台を載せ、それぞれにDNAのような二重螺旋状の触手を付加させた形状をしている。

 

タケルたちは、ナノモンを拉致した正体不明の図形なのだと気づくのだ。あれが、あれこそが、アポカリモンを構成する端末だったのである。

 

アポカリモンはいう。自分は進化の過程で消えていったデジモンの無念の思いの集合体だと。自分達が為せなかった事を、生きて行う全てのデジモンや子供達を羨み妬み憎んでいると。よってデジモンであるのかさえもわからないと。存在するだけでデジタルワールドや現実世界を歪ませ、ダークマスターズもこの歪みによって強い闇の力を得て居ただけに過ぎないのだと。

 

「この世界は一度我々を拒絶したのだ。恨みや悲しみの固まりとコミュニケーションとること自体無謀だ。消し去ってやるのが我々のためなのかもしれないという傲慢でもって......!!既に絶滅したもの達の逆恨みの塊だの、恨み言しか言えないなら死人らしく黙ってろだの、その屈辱を我々は忘れない。ゆえに許さない。貴様らからすれば進化の過程で犠牲が出るのは仕方がないと片付けるのは簡単だ。ならば、我々の行き場を無くした想いはどうなる。犠牲になった者達はそれで納得できるわけがない。納得できないからこそお前達と戦って世界を手に入れるのだ!!」

 

それは、理屈ではなかった。

 

 

 

 

 

 

その叫びを聞いて、選ばれし子供たちは、すぐにその違和感に気づくことができた。

 

アポカリモンの主張は、明らかに矛盾していた。絶滅した種に対する集団意識が沈殿したものとアポカリモンは主張しているが、そのアポカリモンが支配するデジタルワールドとは、つまりデジモンの形態変化が起こらない、絶対的に安定した世界だ。それは、彼らが体験した絶滅と言う悲劇が起こらない、天国のような場所だ。

 

そのデジタルワールドでは当然、現存種も同時に存在する事になる。それは「居場所の確立」にとどまり、「我々が支配」というレベルにまではとても達しない。彼らは光の当たる範囲を影の域にまで拡大し、その状態で固定化しようと考えただけで、世界を闇の支配下に置くまでには至っていない。

 

 

戦い敗れたデジモンの無念とその個体に行き着くまでの過程=種族という「くくり」の共有意識に記憶される膨大な進化の系譜からできているのは間違いない。その個体の想念は種と切り離して考えられない。人間には人間の肉体の持つ諸機能を通してでしか世界を認識できないし、もしも肉体が変われば、いや感覚が一つでも変われば世界の捉え方も変わる。この辺りは肉体的な個人差はもちろん生活経験により形成される主観や更にその時その時の精神状態による差異も大きく、一人一人の認識している世界は同一の個人においてもその時々で違うものであると言える。

 

 

デジモンの場合、進化する毎に肉体が一新される。種の肉体的機能に基く基本的な気質や種の共有意識などがあり、それに個体としての記憶に基く行動主体が引き継がれているような状態が個体の性格である。よって個体レベルの怨念には知能等の関係で自覚していないであろうにしても、最低あるデジモンであるという情報は付随する。その個体に関する情報がどの程度残るかは記憶その他の影響もある。

 

アポカリモンはそうした怨念の集合体だ。その自意識は、さまざまな個体の意思が死んだ≒殺されたという共通の思いを共有する形で一つの人格として安定している。

 

アポカリモンは自分の記憶と自意識から個体数が減少してゆく種としての運命をも、見出す。そしてそれらの種もまた「死んだ≒殺された」と認識してしまう。個としては再生するものの特定の種が滅んでしまっては、その意思は決して再生しない。この世界に居場所はない。

 

個としてだけでなく種としてまで二重に否定されてしまったアポカリモンは、こうして世界に否定された被害者であるという主張と絶滅種の世界を勝ち取るという大義名分とを振りかざしている。

 

 

自分たちの居場所を確保するという目的の為はじまりの街を破壊するという手段をとるアポカリモン。「邪魔するものには全て消えてもらう」といったアポカリモン。新しく生まれるものがいなくなれば、絶滅するものもいなくなる。自分たちを押しのけた、自分たちが生きるのを邪魔したものは全て消す。

 

「光あるところに呪いあれ!」と叫んだ『彼』が支配する世界とは、全ての命が滅んだ世界。

全て絶滅すれば、『彼』の中で一つに、等しくなる。

 

つまり、光の当たる範囲にまで影の域を拡大し、その状態で固定化しようとしている。この死は平等を拡大解釈した状態の固定化は永続はしない。アポカリモンは自分の中に生前の自分を殺した加害者をも内包していて、その矛盾と怨念の矛先を向けるべき相手にやがて気付いた。

 

それは自分達を生んだ世界そのもの。

 

そもそも別々に生まれて来なければ、被害者と加害者、選ばれるものと選ばれないものに分かれることもなかった。生があるから死があるなら、そもそも生まれなければ良かった。彼我があること、相対的であること自体が間違いだ。

相対的な世界に在りながら絶対的存在になった相対的認識に基く怨念は、最終的に世界と自分を相対的関係に捉え、それすらも否定しようとしている。

 

本来人格をもたないアポカリモンは、自身の行動原理に即した人格として死んだ、否定されたデジモン達の怨念を集め、子供たちと現存種、そしてデジタルワールドを否定しているのだ。

 

ゆえに、アポカリモンが......いや、媒介にしている進化を否定する概念は、世界をリセットして世界を新生しようとしているのだ。

 

『非進化』が支配する世界を作るための道具に過ぎないと気づかないままで。

 

起こったことを起きなかったことにしようとするある種究極の後ろ向き思考であり、過去ばかり向いているものですからまったく未来がない。そもそも被害者であり加害者でもあるのだから結局一人相撲と非常に悪質だ。絶対に至る相対=彼我の超越を我の消滅をもって行えばよいがそれが出来ないから怨念として残っている。故に選ぶのは終焉にほかならなかった。

 

ただ、そこまでいくと、もはや受け入れてもらいたい、という根源の願いは埋め尽くされてやしないか。自分が支配する世界すら自分の悲願を叶えられないからすべてをなかったことにするというのは、死によりもたらされた悲劇を自ら招いていると言わざるをえないのではないか。

 

だから。

 

選ばれし子供たちは、パートナーたちは、自分の歩んできた道のりのなかで学んできたことを、自分の言葉で伝えるのだ。

 

それはきみたちだけの想いだ、誰のものでもないはず。きみたちは、それでいいのか。利用されるだけ利用されて、デジタルワールドもろとも吹き飛んで、二度目の死を迎えることは本意なのか。忘れ去られるという死をきみたちは望んでいるのか。僕たちのたたかいをみてきたんじゃないのか。

 

選ばれし子供たちに残酷すぎる事実を突きつけられたアポカリモンは、いや、アポカリモンであろうとした彼らは、その矛盾が自分の封印をとき、誘導してきた者の仕業だと気づいてしまう。このままでは自分もろとも死ぬしかないのだと気づいてしまう。やがて、彼らは、発狂した。

 

自分の観念と、それを成し遂げるためにしてきたことがまるで食いちがっているような不安に、呻吟し、発狂した。世界が一瞬にして地獄の業火に包まれて燃え上るのを眼前に見るような心地がして、自分の不安と恐怖。、狂った独占欲が破裂するのを選ばれし子供たちは見ていることしかできなかった。

 

人によっては合わせ鏡のようにただひたすら展開するこの記憶の力に 翻弄 されて発狂するような局面なんだろう。

 

なんとかしてあげたいと、手を差し伸べようとした、その時だ。アポカリモンは内側から裂けた。内側から黒い何かが吹き出してきた。それこそが、アポカリモンを構成している怨念の集合体を媒介に利用していた進化を否定する「概念」そのものだった。

 

滅び去ったデジモンの無念(滅びたデジモンははじまりの街で別種として再生しているが無念そのものは残る)を餌に実体化し自らの望む「全てが停滞した世界」へとデジタルワールドを書き換えようと目論む「悪」といって差し支えのない存在であり、一人称も途中から「私」と単一に変化していく。アポカリモンが塗りつぶされていく。その不条理を見せつけられた。

 

最期の敵はいう。かつてデジタルワールドにあった「進化をしないという概念」が、自身によってデジタルワールドを染める為に、「進化の途中で消えて行った種の無念」や死んだデジモンのデータを力として利用する為に吸収することで誕生した存在、それこそがアポカリモンであると。

 

ただ、選ばれし子供たちが力を合わせてその構成データを還元しつづけたことで、対話するだけで自我が崩壊してしまうほど虚弱な存在と成り果てていると愚弄した。

 

つまり、アポカリモンさえも、死んでいったデジモン達の持っていた無念や言葉を利用して、ただ自身の野望のために世界を塗り変えようとする、どうしようもない存在なのだと宣言したのだ。

 

「一から知性あるいは英知が生まれ、魂が生まれた。世界、個別、物理的世界が生まれた。魂は不死であり肉体とともに滅びるものでは無い」

 

謎の声は高笑いしたあと、尊大な態度で話し始めた。

 

「われわれが生きているこの世界は悪の宇宙、あるいは狂った世界であると知っているか?原初の世界には真の至高神が創造した善の宇宙があった。原初の世界は、至高神の創造した充溢の世界である。しかし至高神の神性のひとつである知恵は、その持てる力を発揮しようとして狂った神を作った」

 

怒りに震える子供たちに、敵は言う。

 

「神は自らの出自を忘却しており、自らのほかに神はないという認識を有している。この神の作り出した世界こそが、我々の生きているこの世界である。物質世界の生の悲惨さは、この宇宙が悪の宇宙であるが故だ。現象的に率直に、真摯に、迷妄や希望的観測を排して世界を眺めるとき、この宇宙はまさに善の宇宙ではなく悪の宇宙に他ならない。ならば我々は偽の世界から真の世界に帰らねばならない。物質を捨て、精神世界に帰らねばならない。その使命があったはずだ。貴様らは忘れているのだ」

 

なにひとつ理解できない、なにか、がそこにいた。

 

「使命を忘れた低俗世界に身を落とした分身などこれ以上の物質世界の精神世界への侵食を止めなければならない。物質世界にいる者達は低俗故に精神世界の高みにまで到達してはならない。偽物の神の世界で一生を過ごすべきだ」

 

呻くように叫ぶ。まるで呪詛のようだ。

 

「だというのにおこがましくも人間の進化は物質世界において頂点となり中間世界においてさらなる進化をはじめた。もはや止めることは誰にもできない。ならば邪魔だてする必要はない。救済しなければならない。そこまでの高みにまで行こうとする人間こそ精神世界の高みにまでひきあげなくてはならない。ゆえに人間は肉体を捨てなければならない」

 

訳の分からないことを言われて、パートナーデジモンたちはもう闘うしかないのだと悟るのだ。

 

「人間は、一見、荒唐無稽とも云える創造神話などを認識して受け入れ、宇宙と人間の運命についての神話的構造を自覚するにいたっている。狂った神の世界において奇跡というにほかならない。それは精神世界における光を宿しているからだ。この者達はまさにその光を具現化するに至っている」

 

発狂したようにアポカリモンを塗りつぶしてしまった概念は叫ぶのだ。それは狂気じみた歓喜にもみえた。

 

「認識を越えた、知り難い榮光の至高神が真実の神であり、また、この至高神の宰領する永遠の圏域こそが、自己の魂の本来的故郷である、と云う真実を認識することは救済に値する。人間の救済は、その存在の含む精神によって可能となる。永遠世界を本来的故郷としているが故、人間の光は、最初から救済されているのだ。魂は滅び、消滅することはない。個人の本質によってのみ救済される。救済において回復するのは光であり、そして人に資格がある場合、その魂は永遠世界への帰還がある。ゆえに肉体は救済の有無に関係せず、地上に滅びる定めにある」

 

亀裂の向こう側にいる概念は、概念じゃなくて神様、もともと完全な存在だったらしい。そもそも世界は神様のいる世界、精神世界、中間世界、物質世界にいくにつれて外側になる。

 

ある日、罪を犯した神様は神様の世界から中間世界に落下した。そのときバラバラになり、一部は物理世界にまで落下して、惨めな存在となった。同時に、中間世界に、その分身が存在することとなった。

 

分身たちが今世界を超えて精神的つながりを経てひとつに返り、本質を取り戻そうとしている。なんと喜ばしいことか。

 

だがバラバラになった時に中間世界におちた神様の一部は自分の立場がわかっていたが、物理世界におちた一部は忘れてしまった。自分だけが神様だと信じ込んでいる。そして今の物質世界、つまり現実世界を作り出してしまった。

 

人間の持つ魂は神様の一部なのに、狂った神のせいで肉体という牢獄に閉じ込められてしまった。それが人間であり、中間世界にいる欠片がパートナーデジモンだというのだ。

 

そこで無知のまま肉体と共に滅びるか、魂の導きにより知識を得て、永遠の光の世界へと救済されて行くかが決められる。救済とは肉体と魂が完全に切り離される時、神様の世界に魂が帰ることをさす。それ以外の魂は物質世界に残されそこで滅び消えるしかない。

 

「狂った神の世界から救済に値する進化を成し遂げた人類がなぜ我を否定する?誉ではないか。だというのにことごとく拒絶する。結晶化も貴様らが暗黒の力と呼ぶものも、肉体から解放するための最適解だというのに邪魔だてをする。やはり貴様らは死ぬべきだ」

 

ここでようやく選ばれし子供たちは気づくのだ。進化を否定する概念とは、デジモンではなく人間の進化を否定する人智をこえたおぞましいなにかなのだと。負けたら最後、デジタルワールドも現実世界も、おわりなのだと。

 

最後の戦いの火蓋はきって落とされたのだった。

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