(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第2話

地殻変動により大地が隆起し、谷底を流れる川の浸食によって削り出された地形は、地層の様々な重なりを見せてくれる。V字を為す断崖が連なるこのエリアは、海、浅瀬、砂浜、火山などの地層が連なっており、この世界の歴史を秘めている。いくつもの絶壁がつらなるこのエリアはグレートキャニオンであり、登山者のために設けられた橋をグレ大橋という。

 

 

本来ならば登山者が利用するはずの立派な橋は、いつでも通り過ぎようとするデジモンは皆無だった。なぜならこのあたりは有名な盗賊の出現スポットだからである。たくさんの子分を連れて現れる盗賊のかしらは、成熟期ながら完全体を粉砕した実力者であり、かしらが持っている得物はその完全体の骨でできた棍棒だというのだから、相当の乱暴者だとうかがえる。

 

 

通行料として法外な値段を提示された登山者は、たいていありったけの荷物を横取りされて、命からがら元来た道を逃げ帰っていくのが通例である。だからなおさら登山者は通らない。しかし、盗賊団の出没エリアであるにもかかわらず、堂々と足を踏み入れる者がいるのは確かであり、奇妙な訪問者が向かう道はいつだってグレ大橋を上るのではなく、グレートキャニオンを流れる川の谷底を目指して降りていく。

 

 

目的地は盗賊団のかしらであるデジモンの基地である。本日の訪問者は無礼講よろしくノックもなしでいきなり乱暴にドアを開けて基地に侵入した。

 

 

「邪魔するよ、オーガモン」

 

 

相変わらずきったない部屋だねえと彼女は煙たそうに咳き込んだ。追いはぎよろしく巻き上げたのだろう物資で溢れていて、畳にこたつなど生活感があるが、かしらの性格を表すように部屋全体が非常に散らかっている。ちなみにグレートキャニオンの登山道は途中で行き止まりである。

 

 

上層部に上るにはここのエレベータを使わなければいけないので、どのみちグレートキャニオンへの登山を目的とするならこの砦の主とタメを張るだけの実力者でなければ意味がない。それはともかく、いきなりの訪問者に驚いたのはオーガモンと呼ばれたデジモンである。

 

 

「なんのようだ、クソババア」

 

「だあれがクソババアだい、口の聞き方間違ってんじゃないよ。まったくいつの話だ」

 

 

軽口をたたきながら鬼人型の成熟期は、怒りを原動力とする身でありながら、自分より強い相手にも容赦なく襲い掛かるデジモンハンターの異名はどこへやら、ケンカを吹っ掛ける気はないらしい。

 

どうやら過去に散々酷い目に遭ったことで学習したようだ。何があったかはご察しである。どうしやすか、親分、とぬくぬくこたつに入っている子分に言われたオーガモンは、骨の棍棒を片手に、オレにだけ出撃させる気か手前らと怒気をはらませた。そんなやり取りを横目に、訪問者はつかつかと歩み寄ると、単刀直入に訪問理由を告げた。

 

 

「最近、裏次元は開いたかい?」

 

「あ?んなもん開いてたらこいつ等が大騒ぎするっての。あのガキが元の世界に帰ってからはとんと音沙汰ねえな」

 

「そりゃよかった。というかいつの話をしてんだい」

 

「あ?なんとなくだよ。ぱったり来なくなっちまったなあと思ってな」

 

「寂しいのかい?」

 

「あ?馬鹿にすんな。ジャポニカ復讐帳に名を刻むような骨のある奴がいねえだけだ」

 

 

どうやら骨のある奴がやって来ることはなさそうなので、オーガモンは面白くなさそうに舌打ちした。

 

 

裏次元と通称されているエリアがある。そのエリアは幾度となくこの世界を危機に陥れようとする者が現われるたびに、突如として出現する謎の異空間であり、敵の本拠地ともいえるところだ。どういうわけかそのエリアはファイル島の特定のエリアにアトランダムに出現する。

 

ひとつはウィルス種しか入ることができない闇貴族の館というエリア。

 

ふたつがワクチン種しか入ることができないアイスサンクチュアリ。

 

そして、最後がここ、グレートキャニオンにあるオーガ砦である。

 

訪問者である彼女はデータ種だ。必然的に何か予兆があればすべての種族が裏次元に入ることができるオーガ砦にやって来るしかない。オーガモンにしてみれば世界の危機が訪れるたびに住処が敵の巣窟になって追い出されるわけだからたまったものではない。でも裏次元はまだ出現していない。まだ時期尚早なのだろうか。

 

 

「まあその内フラッと現れるだろうさ。勇者の証は渡したからねえ」

 

「あっちとこっちを行き来できるカードだっけか」

 

「そりゃ前の英雄だ。今回はちっと手が込んでるよ。気が向いたら手伝ってやっておくれ」

 

「やなこった。オレァ、そんなキャラじゃねえんだよ」

 

「そりゃそうだ」

 

 

じゃあなんでここに来たんだとオーガモンが問うた時、彼女は笑った。彼女は占い師のまねごとをするとき、古くから占いの方法として知られた水晶を用いる方法を特に好んで使っている。

 

水晶を見つめながら浮かんできたイメージを連想して幻視する方法と彼女はとりわけ相性がよかったのだ。なにせこの方法は彼女の主観によってどうとでもなってしまう一辺倒のものであり、客観的な検証をすることは事実上不可能だったから。

 

彼女が話すことが本当に彼女が見たヴィジョンなのかは誰にも分からない。水晶体の中に天使が見えようが悪魔が見えようが眺めて楽しむだけが華とは彼女の談である。

 

 

何を言っても信用しない方がいいよ、アタシは嘘つきだからねと彼女は繰り返しうそぶく。みえたものを伝えることにとりわけ彼女は慎重だった。水晶体ごしにみる映像はこの世界の記憶を覗いてしまうことにもつながっていて、彼女の無意識の反映、いわゆる覚醒夢という形で彼女に流れ込んでくる。

 

夢を真に受けてはいけない。見た映像を分析して未来を予測することは容易だが、自分の精神状態も把握しておかないと推測以上のなにかに深入りしてしまうので、彼女はそれを特に恐れていたのである。

 

追い求めることに情熱を燃やしたがために、道を踏み外す可能性があるからだ。だから彼女はいつだって葛藤を抱えていた。罠が仕掛けられていることが明白なのは分かっていて、君子危うきに近寄らずをとることは最善にちがいない。

 

常識に照らしておかしいと思われることを始終見ていた彼女は、いつだって平然と無視し続けていた。初歩的なことが分からないでトラブルに巻き込まれていては、占い師の真似事など出来る訳がなかったからだ。

 

 

「ちょっとやなモンが見えちまってねえ。もしかしたらと思って来てみたんだけど、当てが外れちまったみたいだ。うちのダーリンとワクチン種の守護デジモンにでもいってもらうとするよ」

 

「何が見えたんだ」

 

「アンタに言っても分かんないだろうさ」

 

「け」

 

 

結局彼女はオーガモンに言うことは無かったが、その日彼女が見たのは、灼熱の炎とコロナが吹き上げる世界に一瞬黒い穴が開いて、湧き上がる呻きだった。渦巻く憎悪、嘆き、怨念が濃縮したような不気味でおぞましい嘲笑が彼女の中で木霊する。

 

すぐに炎の世界は黒い穴を塗り潰したが、その一瞬だけでも声の主が穴の向こう側からこちらの世界を認識したこと自体が問題なのである。やっぱりねえ、そんなこったろうと思ったとつぶやいた彼女はため息をついたのだ。ファイル島に匿われている最後の生き残りであるエージェントは、本来この声の主がこの炎の世界からこちら側に来ないように封印、監視するはずのセキュリティ・システムの一端である。

 

そもそもこちらの世界に直接かかわることなどありえないはずなのだ。それが崩された。炎の壁と呼ばれているセキュリティ・システムが非常に不安定になってきている。こうなるとこちらの世界にも暗黒の力の影響はますます色濃くなることは明白だ。

 

彼女は立ち上がる。確かめなければならないことができてしまった。じゃあね、と風のように去ってしまった彼女を見届けて、オーガモンはそろそろ本格的にオーガ砦の引っ越しでも検討しようかと本気で悩み始めたのだった。

 

 

それは数日前に遡る。

 

 

緊急脱出用に用意していたメカノリモンの金属特有の冷たい輝きが、吸い込まれそうな青空を映しながら駆けていく。日の光をまぶしく照り返しながら、棺桶のように狭いコックピットには、最後の希望というべき未来の英雄の卵たちがその時を待っている。後ろを振り返れば、成熟期型の白いメカノリモンをより強化した完全体型のメカノリモン達が、毅然と迫ってきていた。

 

 

編隊を組み、異様に長い腕が手榴弾を次々と投げ込んでくる。追尾機能が無いだけましといえるが、状況は最悪だった。右に、左に、と辛うじてかわしていくものの、圧倒的な敵の軍勢は暴力でしかない。何発かが背中に、何発かが肩に当たり、何発かが心臓部ともいうべき中枢へと抉り込む。

 

エラーを表示する真っ赤な世界が広がり、エネルギーメーターが凄まじい勢いで減少していく。どうやらオイルタンクをやられたらしい。ぴし、ぴし、ぴし、とひび割れが入る。操縦桿を手放すことができない彼は、そこから入り込んでくる凄まじい風に目をつむった。

 

 

なんとかさまざまな柄をしているデジタマが封印されているタグを放すまいと手探りで握り締めるが、その行動によりがくんと高度が落ちていく。反転する世界。直撃する攻撃。あと2つ、と手繰り寄せようとした手は、彼の目前で大きくなっていく破損部分から落下してしまった。あわてて回収しようと軌道を確保し、降下しようとした彼だったが、その隙を執拗なまでに攻撃してくる追手が見逃すはずがない。

 

 

さいわい追っ手のメカノリモン達は彼がこぼしてしまったものの重大性を認識しておらず、うっそうと広がる黒い森に落下していくのをあえて見逃したようだった。回収は不可能である。彼は無念さに打ちひしがれながら、前を見据えた。

 

 

彼の脳裏には、全滅してしまったエージェントと呼ばれる同僚たちの最期の姿が焼きついているのだ。今ここで終わるわけにはいかない。何としてでも、【この子たち】を守らなければ。

 

彼は再び、上昇を開始した。その時見えた空が、彼、ゲンナイという青年が見た最後の世界である。

 

 

 

 

 

彼が再び目を覚ました時、凄まじい激痛が体を襲い、彼は立ち上がることができなかった。ふれた体には包帯が巻かれ、至る所にガーゼが押し当てられており、薬品特有の香りがする。医療施設のベットにいるのだと気付いたゲンナイは、命からがらメカノリモン達の軍勢から逃げ延びたのだと自覚する。

 

だが、どうやって逃げ延びたのか、背中から走るこの激痛は何なのか、思い出せないでいた。どうやら前後の記憶が飛んでいるらしく、さっぱり思い出せないのである。にぶい痛みの先に、真っ黒な世界が広がっていたことは思い出せたものの、ブラックアウトする寸前だったのか、暗闇の攻撃なのか判別できない。

 

安堵のため息をついた彼は、一体のデジモンがこちらを見ていることに気付いて、顔を上げた。ケンタル病院とデジ文字で書かれている看板は、close の面が下げられているのが見えた。

 

 

「大丈夫ですか、ゲンナイ様」

 

「ここは?」

 

「ここは【ファイル島】の【はじまりの街】にある【ケンタル病院】です。ファイル島唯一の医療設備が整っている病院です。私はここの医者であるケンタルモンと申します」

 

「ケンタルモン、か。どうして私の名を?」

 

「それは・・・・・・」

 

 

ケンタルモンの視線がゲンナイの反対側に投げられた。追いかけるようにゲンナイは後ろを向く。鮮烈な赤が脳裏に焼きついた。草花の女王とも称される妖精型デジモンがゆっくりと歩みを進めてくる。永遠の美と強さを約束する宝石ティファレットがあしらわれた宝石が彼女を象徴しているようだった。

 

 

「そりゃアタシがここまで連れてきたからだよ、セキュリティシステムの末端君」

 

「あなたは・・・・・」

 

 

ベットのすぐ横に備え付けられている椅子を引いた彼女は、腰をおろして足を組んだ。ホメオスタシスから聞いてはいたものの、実際に会うのは初めてである。ゲンナイは自然と背筋が伸びる思いがした。妙齢の女性のような眼差しが微笑んだ。はじまりの街に居城を構える彼女は、はじまりの街の守護デジモンにしてファイル島の統治者である。

 

 

「一体何があったか説明してもらおうか。時と場合によっちゃあ、こっちも考えがあるよ。どうしてここに運んでくる手筈になっていたはずのタグと紋章、それにデジタマが2つ足りないんだい?」

 

 

はじまりの街の主に促されるがまま、ゲンナイは、サーバ大陸で起こった惨事について説明を始めた。

 

 

「なるほどねえ。こりゃ一杯喰わされた」

 

 

面白くなさそうに彼女は舌打ちをする。明らかな動揺と焦燥が窺えた。来るのが遅かったね、と彼女は付け加えると、肩をすくめた。

 

 

「奴さんはどうやら用意周到らしいねえ。ダイノ古代境に残してくれていたはずの先代の子供たちが残してくれた闘いの記録を、ひとつ残らず持ち去りやがったよ」

 

 

ゲンナイに迫っていたあまりにも多すぎる追っ手は、どうやら初めからゲンナイを抹殺する気は無かったようだ。上手く泳がされてしまったと自覚したらしいゲンナイは唇をかむ。どうやら別の計画が同時に進行していたらしかった。

 

 

「アンタが気にするこたあないさ。こっちの落ち度でもあるんだ。悪いねえ。でもこれで炎の壁の向こう側からやって来る親玉のヒントが、これで手に入らなくなっちまったよ。どうやって暗黒の軍勢がこの世界を掌握しやがったのか、てんで分からないときた。これじゃあアタシの占いもお手上げだよ」

 

 

はあ、とはじまりの街の主は、ためいきをついた。かつてファイル島が存続の危機に立たされた時、世界を救う子供を召喚した実績がある彼女でも、これからやって来るであろう子供たちをサポートすることができないことはあまりにも歯がゆい。彼らが行くべき道筋を示してやれないのは、灯台もない真っ暗な海に船を出すようなものである。

 

 

「まあそれはおいおい考えるさ。ケンタルモン、ゲンナイの受けた傷の解析は終わったのかい?」

 

「ええ、つい先ほど」

 

「私は、一体?」

 

「どうやら記憶が飛んじまってるらしいね。まあ、無理もないさ。アタシもかつて行動不能になる【呪い】を受けたことがあるからねえ、この姿に復活するまで大分時間がかかっちまったことを覚えてる。端的に言うと、ゲンナイ、アンタははるかにたちの悪い呪いにかかってる」

 

「動くことができないよりもたちが悪いのですか?」

 

「ああ、暗黒の塊を撃ち込まれてるよ。下手に動かない方がいい。精神的に不安定になればなるほど、【呪い】はアンタを蝕んでいくのさ。【呪い】がアンタの記憶を食いつぶして、その空白の中に暗黒の意識を芽生えさせていくんだ。相当ねちっこいことやってるねえ、まったく。ネットワークセキュリティの末端が暗黒の勢力に意識を乗っ取られるなんて勘弁しとくれよ」

 

「不完全な【呪い】であることが不幸中の幸いでしょうか。ゲンナイ様が正常な状態にいち早く戻るには、最適化の手順が必要になりますがどうなさいます?」

 

「しかし、時間が」

 

「ああ、ないねえ。絶望的に足りない」

 

「何かいい方法はありませんか」

 

「なら、アンタ自身の容量を極限まで小さくするってのはどうだい?そんで空いた容量を【呪いの治癒】の【プログラム】に回すのさ。アタシも【呪い】にかかってた時は、婆の姿になってたもんだよ」

 

あっはっは、と快活に笑う彼女に、ゲンナイはちょっとだけひきつった顔をした。

 

「それでも元の姿になるには無茶苦茶時間を食ったからねえ。実際、ファイル島を救ってくれた子供を召喚した時なんか、すべてが終わった後だった。おかげでその子供はアタシの本体が婆だと思ってやがったがね!失礼しちゃうよ。ま、それは置いておくとして、アンタにはまだやってもらわないといけないことがあるんだ。ガキになるのか爺さんになるのかは知らないけど、その前に付き合っておくれよ」

 

「ロゼモン様、これからどちらへ?」

 

「これからゲンナイを案内するのさ。紋章を扱えるのはアンタだけだからねえ。暗黒との戦いはこれからなんだ。用心するに越したことはないだろう?暗黒勢力にデジメンタルまで奪われちゃたまらない。あいつ等には使えないように、きちんと誰のものだか名前を書いておかなくちゃねえ。さ、いくよ。選ばれし子供のパートナーが眠ってるダイノ古代境急域へ」

 

 

 

ロゼモンに案内されてダイノ古代境を訪れたゲンナイは、一歩足を踏み入れた瞬間から現代種の楽園ともいうべきファイル島において、ダイノ古代境は極めて異質な環境だと直感した。

 

 

はじめこそ疑問に感じていたのだが、こうして巡ってみればその理由を理解できた。太陽が昇ってから沈んでいく光景や目的地までの移動時間を換算してみると入り口と時静域と呼ばれている地帯の体感時間は通常の2分の1と感じた。

 

にもかかわらず、古代種の子孫が眠っているという秘境がある時急域は通常の2倍の速さで時間進んでいくのだ。ロゼモン曰く時急域はもともと存在していたエリアであり、そこにいたるまでの時静域は、この世界の時間という概念に直接干渉ができる能力を持ったデジモンが作り出している。おかげでデジモンたちは命を削りながらエリアにはいる必要がなくなるというわけだ。

 

 

なぜファイル島という現代種の楽園において、時急域という恐ろしいエリアがあるのかというと、それはファイル島がデジタルワールドという世界の縮図であり、すべてのエリアはファイル島のデータをもとに作成されていることが起因している。

 

この世界において初めてファイル島が造られた時、すべての時間は時急域の流れだった。それが世界が広がるにつれて時間は次第にゆっくりとなり、現在の流れに至るのだ。だからダイノ古代境はデジタルワールドの時間の縮図ともいえる特別な空間であると言えた。

 

 

「しかし、本当に古代種の子孫をパートナーに選定してもよいのですか?」

 

「ホメオスタシスから何も聞いてないのかい?」

 

「いえ、その子供と古代種が最も適合していることは私も重々承知しているつもりです。他のパートナーと違って古代種の末裔が秘めている資質は選定された現代種と引けを取らないことは事実だと思います。でも、この個体は唯一の生き残りである以上、他のパートナーと違って進化ツリーを操作することができません。進化ツリーを一本化させないということはあまりにもリスクが高いのでは?今までは育成に特化した才能を持つ子たちばかりだったからこそ、すべてのことをゆだねることができていたんだと私は思います。でも、今度来る子供たちはデジモンのことを全く知らない世界の人間です。同列にするには、あまりにも負担がかかりすぎる気がするのですが」

 

 

ふふ、とロゼモンは笑うと目を細めていった。

 

 

「何言ってんだい、それを何とかすんのがアタシらの仕事じゃないのさ。ホメオスタシスが何を考えてんのかは知らないけどねえ、誰もが思いつくようなリスク度外視で選定したんだ。きっと理由があるんだよ」

 

「そうでしょうか」

 

「きっとそうだって。きっと何百年先も見据えてんだろうさ。なんせアタシらはそのために訳も分からないまんまここにいるわけだから。ま、大体想像つくけどねえ。備えあれば憂いなしってこった。デジメンタルに紋章を掘り込んで、紋章が役目を終えた時に、そのエネルギー体がデジメンタルに効果付与するように処理を施すなんて想定される危険とやらを憂いてたらそれこそ頭痛くなるよ。願わくばそんな状況下になって欲しく無い訳だけどねえ」

 

 

さあ、ここが古代種の末裔の眠る秘境のひとつだよ、いこうか、とロゼモンは笑った。ゲンナイとロゼモンの話は尽きることがない。

 

なにせ創世記に滅亡した種族の末裔を復活させるという大事業が控えているのだ。当時と時間の流れも文化レベルも能力の違いも何もかもが未知数なのは事実である。

 

当時使われていたであろう言語と現代では言葉が違うことも想定されるため、現代種のデジモンと慣れるまでパートナー候補をダイノ古代境から出さない方がいいとか、他のパートナー候補と交流を持たせるために、はじまりの街に移住させた方がいいとか、細部にわたって話し合われていた。

 

すべてはまだ見ぬデジタルモンスターのためである。もっともほとんどが長きにわたる眠りから覚めた古代種の末裔の状態を見てから決定されるので、卓上の空論に過ぎないのは仕方ないのだが。洞窟の奥深くをゆっくりと巡っていくうちに、ロゼモンとゲンナイはすこしずつ最深部に近付いていく。

 

 

「どのみち、これは絶対に手放すなというのだけは確定事項だねえ」

 

 

ロゼモンが握っているのは、ゲンナイが危険をなげうってまで守り通したデジヴァイスである。始まりの街でエレキモンに託された英雄の卵はまだ孵る気配がないので、おそらくデジヴァイスを一番最初に手にするのはこの先で眠っている幼年期のデジモンと言うことになりそうだ。

 

 

「ええ、デジメンタルを持たせてやるわけにはいかないので」

 

「封印されたはずのデジメンタルが実在するとバレでもしたら、恐ろしいことになるから仕方ないさね。ホメオスタシスが想定してるその時ってやつが来るまではこっちで保護しとかなきゃいけないってのがつらい所だ」

 

 

彼女たちはこれから彼にとって命と同義なくらい大切なデジメンタルを取り上げる。デジヴァイスというこれから出会うかけがえのないパートナーと出会える証が、古代種の末裔にとっての大切なものになることを願いながら。ロゼモンたちは最深部の扉を開けた。

 

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