(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第22話

なんでお日様が雲の間から顔を出してくれないんだろう、ミミのこと嫌いなのかなあ、とミミは内心ショックを受けていた。

 

一瞬でもいいから、お願いだから、なんとかぽかぽかのお日様のヒカリが浴びたいと心の底からお祈りしてみるが、一切状況に変化はない。ミミ、ミミ、呼んでる、とパートナーデジモンの声が聞こえてきて、一気に現実に戻されてしまう。なーに、パルモン、とミミはいう。ヌメモンが呼んでるわよ、と言われたミミは、大きく首を振ったのだった。ただいま、曇天である。

 

 

「ねえねえ、お姉ちゃん、オレとデートしなあい?」

 

「いーやーよっ!ぜーったい、いやああっ!なんでアンタみたいな汚ったないのとデートしなくっちゃいけないのよーっ!」

 

「きっついこというお姉ちゃんだなあ、いくらオレでも傷つくぜえ」

 

「ホントのこと言ってなにが悪いの?きゃーっ!だから、こっちこないでよおおっ!パルモン助けてええ!」

 

「ミミー、たしかにヌメモンは嫌われ者だけど、さすがに言い過ぎじゃない?って、私を盾にしないでよおおっ!」

 

「アンタも言ってること変わんないぜえ」

 

 

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!全身鳥肌がたってしまい、ミミはしっかり脳裏に焼き付いてしまったヌメモンの姿を全力で頭の中から追い出すべく、ヌメモンからのデートのお誘いを拒絶していた。がっくりと項垂れて下を向かれると、ほんの少しだけ言い過ぎたかなあ、と良心が咎める。

 

でも、そのナメクジみたいな体が視界に入ってしまうだけで、生理的嫌悪感がちっぽけな良心の呵責など踏みつぶしてしまうくらい、圧倒的なまでに押し寄せてきてしまう。目を閉じればなんとかなるかもしれない、と頑張ってみようかと思った。

 

うっかり視線があってしまい、ヌメモンがミミ視点で、ぐふふといやらしい笑みを浮かべてしまうものだから、たまったものではなかった。さっきからやたらとミミをデートに誘ってくるこの不届き者のことだ。目をとじている無防備な美少女を前にして何をしでかすか分からない。

 

 

もし目の前に現れて、その視点があっていない大きな目玉がこっち見てたらどうしよう。そのヘドロの塊みたいな濁った緑色の手が、ミミの大好きなお洋服に触れようとしていたらどうしよう、もしかしたら手を握ろうとするかもしれない。想像するだけで、もう二度とお嫁に行けなくなったらどうしよう、と暴走する思考は止まらない。

 

それともその無駄に真っ白で歯並びのいい大きな口を開けて、真っ赤な舌をだらりと垂らしながら、唾を飛ばすくらいの至近距離で、き、き、キスされてしまうかもしれない!冗談じゃない、こっちは大好きな人にファーストキスはあげるんだと決めているのだ、こんな気持ち悪いヌメモンなんかにあげてたまるもんですか!

 

パニック状態の中でも被害妄想と自信過剰が同居している状態で、ミミの頭の中では満場一致でヌメモンに対する態度を一切変更しないことが即決された。同情の余地はない。

 

たとえ、ヌメモンのおかげで、もんざえモンから逃げられた、という確固とした事実が存在しており、ヌメモンがお礼としてご褒美を要求する権利があるということを、ミミ自身が心の何処かで納得している部分があるとしても、だ。

 

 

「た、助けてくれたのは、ありがとう、ヌメモン」

 

 

すでに泣きそうな声である。泣きそうな顔である。ヌメモンのヌの字も口にしたくはないが、だからといってお礼を口にしないのはダメだ。感謝の気持ちを伝えないのは、女の子にとって一番しちゃいけないことだとママやパパから言われているのだ。

 

別にヌメモンを見直したとか、そういうわけじゃなくて、ただ言わなかったら言わなかったでミミがミミじゃなくなる気がしたから、言っただけだ。ヌメモンからすれば、ツンドラ状態の女の子がデレたようにしか見えない。都合のいい脳内補正である。おおお!と声が上がって、ミミとパルモンはひい、と一歩下がった。

 

 

「じゃ、じゃあオレとでいとしてくれる?」

 

「それとこれとは話が別なのーっ!お願いだから、かんべんしてえっ!」

 

 

なんでこんなことになっちゃったんだろう、とミミは思いっきり口にだしながら、はああ、とその場に項垂れたのだった。

 

ミミは回想する。もとはといえば、大輔たちがタケル達を怒らせて追いかけっこを始めた。そして、何時まで経っても帰って来ないのが始まりだった。そのうち帰ってくるだろう、という暗黙の了解とも言える判断のもと、ずーっとその場で待ち続けることになった子供たち。

 

誰が言い始めたかは知らないが、しりとりをして時間を潰そうと言うことになったのだ。デジモン達も混じって始めたのだが、この世界にあるデジモン達しか知らない場所やアイテムの名前、食べ物の名前を出されては、いちいち本当に存在するかどうかを確認するため、なかなか先に進まない。

 

それはデジモン達からみてもそうだったらしい。解説の応酬が続き、やがてグダグダになってしまった。デジモン達は名称に必ず「モン」がつくというどうでもいい法則性が発見された頃。いたたまれない沈黙があたりを支配し始めたため。

 

太一の提案で、意外とアグモンたちがカラオケに入っているような歌や流行歌を知っていることに気付いたため、仕切りなおしということで歌詞のワンフレーズでしりとりをすることになったのだ。

 

これは意外と続いたのだが、漂流生活2日目を数え始めた中、しかも気を使わなくてはいけない最年少組が不在であるという状況である。ずーっと元の世界の歌を歌っていたせいで、ついつい子供たちは元の世界のことが無性に懐かしくなってしまい、ホームシック状態になってしまった。

 

そして、もし今家に帰れたら、まず最初に何がしたいか、という話題で盛り上がったのだ。何時もならそんなことをみんなで話し合えるような雰囲気にはならなかっただろう。家族や友達に会いたいと思っているのはみんな同じだが、ここには最年少組がいない。

 

揃ってそういうことを一切口にせず、ずーっと頑張っている二人がいない。一番小さい二人が我慢しているような状況で、その手の話題を口にできるわけがない。そういうわけで、無意識のうちに我慢していたこの手の話題は暗い方向にはいかず、和気藹々と進んだ。

 

洗濯、お風呂、学校の宿題、友達へのメール、と来て、ヤマトがサマーキャンプでお昼を食べそこねた上に、こっちの世界に来てからお腹いっぱいご飯を食べられない状況が続いていることを反映してか、焼肉が食べたいと言い始めた。

 

 

そこから食べ物の話題に移行して、ミミも冷たいコーラが飲みたい。赤いパッケージの赤いのじゃなくて、ビンのやつ!と思い浮かべていた頃、この横にいるヌメモンたちに襲われたのだ。

 

大輔達は心配だが、ヌメモンの攻撃を食らってまで待ち続けられるほど、子供たちは我慢強くない。そういうわけで、ヌメモンたちにずーっと追いかけられて、下水道から外に出て、ずーっと走った子供たちとデジモン達は、たくさんの自動販売機があるところに隠れて、なんとか逃げ延びたのである。

 

 

走り続けたらのどが渇くのは当たり前の現象だ。目の前には自動販売機がある。ミミは我慢できなかった。今まで水しか口にすることができなかった上に、ついさっきまでコーラのことを想像していたのも拍車をかけていた。

 

そしたら、その自動販売機の中の人が飛び出してきたのである。それが、この隣にいるヌメモンだった。あってはならない邂逅である。マイ・スイート・ハニーとまで呼ばれてしまった美少女の悲鳴はどこまでも響いた。

 

クラスで1番可愛いと言われるほど容姿に恵まれていて、可愛いをずっと努力し続けているミミが、生まれて初めて可愛いという賛辞と一目惚れしたという告白、そしてデートのお誘いという、元の世界でクラスメートの男の子から言われたら、ちょっとドキドキするような一連のコンボを一切迷うことなく拒絶した記念すべき瞬間であった。

 

 

同時に災難の再来である。その言葉に怒ったヌメモンが号令を掛け、自動販売機からたくさん現れたヌメモン達、しかもさっき逃げ切ったはずのヌメモンたちまで呼び出してしまい、さっきとは比べものにならないヌメモンたちが太一達に襲いかかったのである。

 

太一の提案で3手に別れたはいいものの、逃げるのに必死で一緒に逃げてきたはずの太一とはぐれてしまったミミとパルモンは、もんざえモンというデジモンと出会ったが、目からビームで攻撃された。ようこそ、いらっしゃいました、ゆっくりお楽しみください、と満面の笑みで言われたが、えぐれた地面を前にして、はいそうですか、と言えるわけもない。

 

必死で逃げ回っていたところを、このヌメモンに助けられたというわけだ。

 

 

これからどうしよう、パルモン、とパートナーデジモンに聞きながら、もんざえモンがいないかどうか確認するため、ミミはそっと堀の中から顔を出す。お気に入りのテンガロンハットが長い髪を落とさないように、深く深くかぶったままで。ぐるりとあたりを探してみたが、大きな黄色いぬいぐるみの姿はどこにもなかった。

 

いないわね、と伸縮自在な足でミミよりも高い視界を確保しているパルモンが言うので、一安心、ほっとしつつ頷いた。太一達はヌメモンの大群から逃げ切れただろうか。

 

もんざえモンに襲われていないだろうか。いろいろ不安はよぎるものの、ミミとパルモンは進化することができない組の一人である。完全体相手に成長期のパルモンが太刀打ちできるとは思えないため、初めから助けなければいけないという選択肢自体生まれていない。

 

 

まだこの時ミミは、自分以外の子供たちに起こっていること、もちろん、自分の置かれた状況も何一つ知らないままだった。それに、トロピカルジャングルからギアサバンナを抜けてファクトリアルタウンにいき、地下道を通っておもちゃの街エリア付近という弾丸旅行を敢行したばかりなのだ。疲労はピークに達しつつある。そんなオトメの事情なんて丸無視で、じりじりじりじりとにじり寄ってくるヌメモンがいるのだ。当然ミミは怒った。

 

 

「もう疲れちゃって一歩も歩けないの!お願いだから、少しは休ませてよ」

 

「そんなに大移動するなんて大した根性してるじゃないか、お嬢ちゃん!ますます気にいったよ、デートしようよ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

ますますミミとパルモンは沈黙した。

 

 

「あーもう、のど渇いちゃった。ヌメモンのせいよ」

 

「全然関係ないのにさらっと酷いこといってるよ、この姉ちゃん!でもそこがいいっ!」

 

「もー、やだっていってるじゃない。しつこい男の子は嫌われるのよ」

 

「なあに言ってるんだよ、ミミちゅわん!こんな色男初めてえ!」

 

 

 

確認してしまったミミはおもいっきり引き気味なのだが、全く意に介さない。

 

 

「っていうか、ミミちゃんも隅に置けないぜえ!恥ずかしいからってあんなに否定しなくても。ここまで二人っきりになるためにわざわざ追いかけこしちゃうなんてますます惚れちゃったぜえ!」

 

「なんでそうなるのよーっ!一緒に歩いてるだけでもありえないのに!っていうかデートじゃないわ!あたし、そんなこと言ってないもん!」

 

「またまた照れちゃってー!にひひひひ」

 

「もういや、だれかこの変態何とかして」

 

 

はあ、とため息をついたミミは本当に疲れてしまったようで、そのまま茂みに腰掛ける。

 

 

「そいじゃあ空気を読まずに愛情ちぇーっく!これからオイラがクイズを出すから答えてくれよ!そしたらオイラとミミちゃんの愛情度が分かるんだ!ぜーんぶあててくれたら、なんかいいものあげちゃうぜ!」

 

「いらない」

 

「即答!?まあまあつきあってよー」

 

 

うーん、としばし考えていたミミだったが、体は結構あちこち痛くて悲鳴を上げていて、ヌメモンから逃げるためにここから動けるほどの余裕はなさそうだ。足の皮膚は過度の酷使で極めて薄くなっており、靴擦れ寸前である。仕方ないのでミミはやる気なしの表情のまま、わかったとようやくおれたのだった。

 

 

「じゃーじゃん!オレはなんの属性でしょうかっ!」

 

「ぞくせい……属性ってなに?なんのこと?」

 

「ありゃ?ミミちゃん属性知らない?属性って言うのはじゃんけんの相性の事!ワクチン種とデータ種とウィルス種があってー、ワクチン種はウィルス種に強くて、ウィルス種はデータ種に強くて、データ種はワクチン種に強いんだぜえ。ワクチン種はアグモン、データ種はパルモン、ウィルス種はベタモン。さー、オイラはなんだろな!」

 

「えー、いきなり難しすぎない?」

 

「それくらい乗り越えちゃってくださいなっ!オレへの愛でっ!」

 

「ないわよ、そんなの」

 

「そこは有ってくださいお願いします」

 

 

んー、と考えてみるミミだったが、まず属性というものがイマイチわからない。

 

 

「ねえパルモン、属性ってなに?」

 

「んー、アタシもあんまり意識したこと無かったけど、デジモンにはね3つのタイプがあるのよ。アタシやガブモンはデータだし、あとはみんなワクチンじゃない?ウィルスはアタシたちの仲間にはいないけど、意地悪なやつが多いわね」

 

「ふうん、ヌメモンってなんなの?」

 

「さあ?」

 

 

ウィルスといえば真っ先に思い浮かぶのは病気を運んでくる悪いやつのことである。手洗い、うがいは大切に。ワクチンといえば真っ先に思い浮かぶのは大っ嫌いな注射。病気がお薬に弱いのは当たり前。

 

でもデータってなんだろう?それだけ用語が場違いな気がしてミミは違和感がぬぐえない。まあいいや。アグモンたちとヌメモンが一緒って何か嫌だからワクチンは無し。パルモンとヌメモンが一緒ってのも何かやだからデータはなし。じゃあウィルスかなあ?

 

 

「ウィルス?」

 

「おおおおお、よーくわかったなあ!オレ達ヌメモンは基本的にウィルス種なんだぜえ!で、も、オレはなんとなんとデータ種なのだあっ!すごくない?すごくない?レア中のレアだぜ、突然変異!いやあ進化した時オレも吃驚しちゃってさあ!」

 

「そんなことどうでもいいんだけど、ねえクイズ正解したわ、なんかちょうだい」

 

「ああもう、ひどい!自慢話くらいさせてよ、ミミちゃん!

 まだあるよい!第二問!オレの好きな食べ物は何でしょうか!1.木の葉 2.デジメダカ 3.ウンチ」

 

 

とりあえず、女の子にウンチと言わせようとしている魂胆が見え見えなのが気に入らないので、適当に2番と選択したら、あっていたらしく感涙のむせび泣きが聞こえてきてげんなりである。ウンチは好きだが食べるほど好きではないらしい。

 

かつては住んでいた街をきれいにするために、上司から口にするよう強要されていた時期もあるヌメモンもいたようで、その苦労について切々と今昔物語を始めようとしたので、今度こそミミはどっか行こうかと立ち上がりかけて制止された。あと1問、あと1問だから、と言われてため息一つ。なあに、とミミは先を促した。

 

 

「最後の問題!オレとミミちゃんが出会ったのはどこでしょうか!」

 

「そんなの自動販売機にきまってるじゃない!コーラ飲みたかったのにい」

 

「だいせーかーい!やあっぱりオレとミミちゃんは運命で結ばれてるんだなあ!賞味期限の切れたどろどろコーラが好きなんて、ミミちゃんも通なところあるんだぬ!」

 

「え、なにそれ、どういうこと?」

 

「なにが?」

 

「あの自動販売機に入ってるのって賞味期限切れてるの?」

 

「そうだぜえ、電気が送られてこなくなってから、何百年も経ってるからなあ。いい感じに熟成した発酵感がもうたまんない!」

 

「・・・・・・・・・どのみち飲めなかったんだ」

 

 

数百年も経っている自動販売機なんて、ほんとうにこの世界は何でもアリである。今思えば消費税が導入されてから何年にもなるのに、100円表記の自動販売機なんておかしすぎる。

 

地方に行けば個人経営の店の横なんかにオール100円の自動販売機もあったりするが、あくまでも名前も知らない会社が出してる奴なのが多いのだ。みんなが知ってる飲料メーカーがそんな廉価版を出している訳がなかった。飲まなくてよかった、とミミは思ったものの、がっくりと項垂れた。

 

 

「そんなミミちゃんにオレからこれをプレゼンツ!」

 

「なにこれ、鍵?」

 

「町長が落としていった奴だぜえ。持っていきな」

 

 

そして、なんとなく空を見上げたパルモンとミミは、顔を見合わせたのだった。

 

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