なあなあ、大輔、と袖を引いてきたブイモンに振り返った大輔が、どーした?と振り返った。腕の中にたくさん集められた石ころは、入り口まで運ばれてぽいっと捨てられている。
4人がかりで目についている石ころやゴミを片っ端から集めては一箇所に集め続けていたおかげか、8人と8体が横になる分は確保できているようだ。ミミは砂埃がある地べたに寝て野宿することに難色を示し、せめて温かい温泉地帯で寝たいと主張しているが、雪がふるかもしれないこの気候を考えると、雨風もろくに防げない野ざらし紀行で寝るのはあまりにも危険だという光子郎の指摘に撃沈している。
デジモン達が襲いかかってくることを考えると、隠れる場所がないのはあまりにも危険であり、温泉地帯は細い道しか無いため逃げる時に不向きであるという光子郎の指摘に挙げられた理由を聞いて始めて、なるほど、と大輔もブイモンも思った。どうやら上級生たちは自分達が考えているよりもずっとずっといろんなコトを知っているらしい。
理解する事ができる知識と思考回路を持っている光子郎に比べて、なんで自分は何にも知らないんだろう、と改めて大輔は思ったりした。やっぱり小学校における1年の差はずっとずっと大きいらしい。
本来ならそんなこと考える必要もないことなのに、考えるハメになるのは難儀なことである。タケルとパタモンはミミたちと一緒に、少しでも寝転がることになる地面を綺麗にしようと、いろいろ悪戦苦闘して砂埃と戦っている。大輔達はまだまだたくさんある石を運ぶ仕事が残っているため往復を繰り返していた。
「なあ、大輔。今日の夜ってみんなで寝ることになるんだよな?じゃあ、大丈夫かなあ?」
ぱんぱん、と手袋を払っていた大輔は、ブイモンの言葉に困ったような顔をした。今朝のコトを思い出すと、はああ、という溜め息しか出てこない。怪奇現象について誰も信じてくれないということは、誰も助けてくれないということだ。
自分の身は自分で守らなければいけないということになる。ブイモンと大輔が知っていることといえば、大輔がこの世界にきてから必ず夜になると同じ夢をみることと、その夢は続いていること、その夢を観ている間、実は大輔は誰かに攫われそうになっており、大輔自身はその夢から目覚めることができないということだ。
はっきりいって、今から太陽が沈んで夜になると思うと心配で不安で怖くてたまらない。ずっと起きていようと思っていたのに、いつの間にか寝てしまったときに起こった怪奇現象である。ずっと起きているという選択肢は潰れてしまっている。どうしようか、全然対策が思いつかないのだ。
「わかんねえよー、どうしよう、ブイモンずっと起きててくれよ」
「うーん、でもオレ、ずっと起きてるの無理だよ大輔。あの時はたまたま起きてたから大輔のこと助けられたけど、ずーっと起きてたら倒れちゃうよ」
「そうだよなあ。………って、あああ!そういえば寝なかったら死んじゃうんだってテレビで見た!寝ないとおっきくなれないんだって。ずーっと起きてるようなことしてたら、オレ、身長止まっちゃうかもしれないじゃねーか。ゼッテーやだ!」
ただでさえクラスの中では小柄な部類に入る大輔は、身長が低いことを理由に何かと女子に見下されている現状がある。いつか大きくなって見返してやるんだと毎日牛乳が苦手な友達からもらったパック牛乳は頑張って飲んでいるし、家でも柑橘類と一緒に取るようにしている。
大豆とかお豆腐とか肉とか体が大きくなるためには大切だと言われているものも好き嫌いを我慢して頑張って食べている途中なのである。こんなことで地道な努力を無駄に支度はない大輔は割と必死だった。
「うーん………なるべくみんなの近くで寝る?大輔」
「そうだよなあ、何かあったときに、おっきな声出したらみんな気づいてくれるよな。それしかないよなあ」
ホントはやだなー、とこぼした大輔にブイモンは同情した。大輔は怖がりでトイレにも一人でいけないのだというレッテルが不本意ながら貼られているのである。悪夢を現実と混同するほどの怖がりであり、ブイモンと手をつないで寝ているのだと思われているのである。こっちはいつ怪奇現象に襲われたとしても、引き離されることがないように、という精一杯考えた末でのせめてもの抵抗と対策なのにだ。
そんな大輔がみんなの近くで寝たがったとしたら、みんなにどう思われるかなんていくらでも想像できた。散々笑われたのだ。絶対に馬鹿にされるに決まっている。しょうがないなあ、なんていういたたまれない空気の中で、甘えさせてもらうのだ。想像するだけでそれはとんでもなく大輔にとって屈辱である。耐え難いものである。
タケルのように守られる立場として甘えられるのは大輔の望むところではない。みんなに対等に認めてもらってこそ、思いっきり甘えられるのだという目標を捨てたわけではないのだ。だって、甘えたいという意識と認めてもらいたいという意識を両立させる他の方法である、
素直に全部話してあいてに受け入れてもらうという方法を発見したのに、みんなに信じてもらえなかったのだから。どうせよというのだ。正直大輔は泣きそうだった。八方塞がりにもほどがあるではないか。相談しろといった太一には笑われるし、対等だと言ってくれた友達のタケルは信じてくれないし、誰も大輔とブイモンの言う事を悪夢以外で受け入れてくれないのだ。
大輔とブイモンが取れる選択肢は殆ど無い。我慢してみんなと一緒に寝ることを選ぶか。いっそのこと怪奇現象に身を投じて行方不明にでもなれば、みんな大輔達の言っていたことが嘘じゃないと気づいてくれるんじゃないか、ととんでもないところにまで思考が飛躍するが、さすがにそれは無理だと大輔は速攻で却下した。
訳のわからない物に襲われているから怖いのだ。なんで自分からそっちに近づくのか分からない。本末転倒にもほどがある。もしもの事があったらと思うと、一瞬でも馬鹿な事を考えた自分が笑えてくる。大輔の右手をブイモンが握った。
「寝るときずーっと手握ってような、大輔」
「おう、ホント頼りにしてるぜ、相棒」
「うん、オレ頑張る」
一人と一匹は顔を見合わせて笑った。それにしても、何時まで経っても上級生組がやってこないことが、いい加減気になって仕方ない大輔たちである。ムゲンマウンテンを登るにしろ、雪原を突っ切るにしろ、早く決めないと日がくれてしまう気がするのになにやってんだろう。
昼ごはんを食べてからずいぶんと時間が経った気がするが、空をみあげてみても、大きな森に覆われているせいで太陽の位置がわからない。太陽の位置がわかったところで時間の変化など分かりっこないのだが、丈や空がよく空をみあげているのを見ている大輔達は、見よう見まねでやっていた。
洞窟の方を見ると、パタモンのエアショットで最後の大掃除が終わったようで、3人と3匹は疲れたのが雑談を始めていた。
大輔はブイモンとしゃべっていたせいで、まだ石の山を運ぶ仕事がまだ残っている。それに気付いた大輔達は、慌てて最後の岩の山をたくさん抱えて、入口の方まで運んでいったのだった。おっわりー、とたくさん積み上がった石の山に最後の山を放り投げた大輔とブイモンは、思いっきり伸びをした。服の汚れなど頓着しないで運んでいたせいで、すっかり上着は汚れってしまっているが、そんなこと気にしないで適当に払うだけ。
体の節々が痛い気がするのは、欲張って一度にたくさん運んだからだろう。ブイモンが力持ちであるためか、なにかとそれに付き合う大輔も結構肉体労働をしていることが多いのだ。もう慣れっこだが、いい加減どこかで洗濯したいものである。遊園地に洗濯機なんてあるわけもなかった。
「ホントおっせーよな、なにやってんだろう、空さん達」
「さーあ?なあなあ大輔、もしかしてまだ決まんないのかなあ?」
「マジかよ、空さんと、ヤマトさんと、丈さんと、太一さんがいんのに?4人もいんのに?」
指折り数えて、まさかあ、そんなわけねーって、と笑った大輔の言葉に思わぬ返答が帰ってきた。
「そのまさかだよ」
驚いて振り返った大輔達の前には、丈が立っていた。丈さん、と声を上げた大輔に、丈はやれやれと首を振って苦笑いした。
「みんな呑気すぎるよ。もっと深刻に考えたほうがいいと思うんだけどね、僕は」
「なんかあったんですか?」
「うん、まあね。考えたら分かるけど、これ以上気温が下がれば野宿は難しくなるし、寒いところだと食べ物もなかなか手に入らないんだ。僕はさっさとここから抜けだしたほうがいいと思うんだけど、みんなそこんとこ、よく考えてないんだよねえ」
「あー……ごめんなさい?」
「え?あ、いやいや、大輔君のせいじゃないよ。雪合戦に参加してこれからのこと後回しにしてた太一達が悪いんだ。僕たちは、いや、僕はみんなを守らなくちゃいけないんだからね。ボクが1番年上なんだから。それなのにゴマモンまで僕のこと、どうでもいいことで悩むし、融通が聞かないっていうんだ、ヒドイ話さ」
「ゆううず?」
「あー、なんかあったときに、ルールの通りにしか動けないってことだよ。言われたことしかできないってことさ」
「えー、なんで?丈は大輔助けてくれただろ?言われたことじゃないじゃん」
「だよなあ、丈さん頼りになるのにゴマモン酷いよな。少なくとも太一さんよりはずっと……」
「はは、ありがとう。大輔君、早く太一と仲直りしたほうがいいよ。なんか太一、焦ってるみたいだから」
「へ?」
「太一はムゲンマウンテンに登れば全体が見渡せるから、みんなで登ろうっていうんだ。ヤマトは、危ないからそんなこと出来ないっていうんだ。あの山は強いデジモンがたくさんいるらしいしね。何時までも逃げ腰じゃどうしようもないとか、太一の強引さにみんなを巻き込むなとか、大喧嘩さ。みんな疲れてるとは思うけど、太一もヤマトも意地はっちゃってるみたいで、なかなかお互いに話しあおうとしてくれないんだよ。太一は多分、焦ってるんだ。なんか頑張りすぎてまわりが見えてないね」
「………なんで焦ってるんすかね、太一さん」
「うーん、僕もよく分からないなあ。僕、2人兄さんがいてね、1番下なんだ。だから兄さんたちとよく似てるから気付いただけで、それだけだよ。あれはたぶん、お兄さんを頑張りすぎてるんじゃないかな」
お兄さんを頑張りすぎている、という言葉を聞いた大輔は、お兄ちゃんやお姉ちゃんはお前が考えているよりもずっと大変なんだ、とヒントを教えてくれたヤマトの言葉を思い出した。それが何故太一が意地を張ってまで自分の意志を押し通そうとしている、焦っている、という事態に繋がっているのかさっぱり検討がつかないが、キッカケが大輔との喧嘩であることはなんとなく理解する。
「いっておいでよ、大輔君、ブイモン。君達はもっと話し合ったほうがいい」
「うーん………丈さんがいうなら、ちょっと行ってくるか?ブイモン」
「うん、それがいいよ大輔。いこう」
「ありがとうございます、丈さん」
「いいよいいよ、いってらっしゃい」
かけ出した二人は、結局突然現れた丈の真意に微塵も気づくことができないまま、去ってしまった。それとなく話題を逸らした丈はため息を付いた。年長者としてひとりですべてを背負い込んでいた丈である。
実際には生真面目で慎重すぎる性格が災いして、なかなかみんなの為に具体的な行動に出られないでいる。そのため、必然的に太一やヤマトにみんなのリーダーとしての立場を奪われる事態となっていることを、こんな年下の少年に悟られるわけにはいかなかった。
その太一とヤマトのケンカを止められなかったことで、リーダーとしての自信をすっかり失っているのである島全体を見渡すためにムゲンマウンテンに登ることを主張する太一と、みんなの安全を考えて太一に反対するヤマト。
どちらか一方を強要されて二人に意見を求められても、結局どちらにも一理あることが分かっていて、なおかつ二人を同時に納得させる折衷案をすぐに提示することが出来なかったのである。それが丈にはショックだった。自分ならできると思っていたのだ。
太一が目指すリーダーと丈が目指すリーダーは違っている。こういった意見の対立でグループが行き詰ってしまったときに、みんなの意見をまとめて話しあって、グループ全体の統率力を促すのがリーダーの役目だと丈は思っている。
こんな一致団結とは程遠いメンバーばかりを抱えたら尚更。もっとでーんと構えて、精神的な意味での支えとしてみんなの力になりたいと考えている丈は、どうしても慎重に考えすぎてしまう。優柔不断になってしまう。そのため、女性らしい気配りにより他のメンバーの小さなことに気が付きやすい空に、すっかりお株を奪われている形となっているのが悲しいところだ。
今の丈は、年長者としての責任を必要以上に強くプレッシャーとして感じているせいで、成果を急いでいる。目指すリーダーの理想と現実のギャップに焦るあまり、精神的な意味でのリーダーは信頼されなければならないという前提がある。なんとかみんなに丈の存在を知らしめようとしているのだがうまくいっていなかった。
無理をして太一のように行動で示すリーダーと履き違えて行動しようとしていた。そこで決意してこっそり此処に来たのだ。何もできなかった悔しさや優柔不断な自分自身へのいらだち、を抱えたまま、思いつめた表情で丈はこっそりと入り口にガリガリと石で何かかき残す。
そこには、夕方までには帰るから、ここで待っているようにというメッセージが刻まれた。太一やヤマトたちから信頼を得るためには自分が行動しなければならない、なら自分だけでムゲンマウンテンに登って、この島全体を見わたすことが出来ればいいのだ。
それが思い余って丈が出した結論である。これは一人でなければならないことだった。だから大輔たちがここにいては困るのだ。去ってしまった少年とデジモンにゴメンねと一言こぼし、丈はそのままこっそりとムゲンマウンテン目指して去ってしまったのだった。