(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第30話

頂上にようやく到達した大輔達は、大げさなまでに打ちひしがれている丈と、まあきにすんなってなんとかなるさ、と励ましにもならない脳天気な言葉をかけて、尚更丈に追い打ちをかけているゴマモンを見つけた。奥のほうでは望遠鏡を覗いて、なにやら熱心に書いている太一とそれを横目になにしてるんだと覗き込んでいるアグモン。

 

 

みんな、と真っ先に気づいて手を降った空とピヨモンの声に、ようやく気付いたらしいみんなは合流を喜んだ。そして何故丈が絶望を叫んでいるのか、すぐに後からやってきた子供たちは気づくことになる。

 

この島で一番高いムゲンマウンテンから望む風景は、それはもう絶景だった。今まで巡ってきた街や地帯が余すことなく一望できるのである。いつもならすげえとテンションあげていくところだが、さすがに大輔も今自分たちが置かれている事態を把握し、二の句が継げない。

 

 

見渡すかぎり海である。空との地平が曖昧になって弧を描いているので、この世界も丸いのだとどうでもいいことに気づきながら、懸命に探すがないのである。海しかないのである。船も島も何一つない。見渡すかぎり青、青、青の大海原。この島は、無人島なのであることは分かりきっていたが、孤高の離島。離れ小島どころの話ではなく、大海原にぽつんとこの島しかないなんて聞いてない。

 

 

この島の生まれであるデジモン達はこの島のことはとっても詳しいが、いくら聞いてもこの島の外の世界のことはさっぱりだったので。上級生組はうすうす嫌な予感がしていたが、必死で否定し続けていた事実がもう言い逃れできない状況で現れてしまった。

 

タケルがヤマトにくっついて怯えているのを横目に、大輔は大丈夫?と心配そうに見上げてくるブイモンの問いかけに、初めて首を振った。そして友人の兄弟が目に入らないように、だっとかけ出して、すっげー、と大げさなほど大きな声を出して崖の方に向かった。

 

 

あんまり行くと危ないですよ、という光子郎の言葉に、はーい、といつものように返事して、大輔はそのまま立ち尽くした。いろいろ限界である。

 

ずっと心の奥底で我慢していた、母親に会いたい、父親に会いたい、友達に会いたい、サッカー友達に会いたい、クラスメイトに会いたい、このまま死んじゃうなんて嫌だ、ブイモンや太一さん達がいるけれど、日本のどこでもないこの島でどうやって帰れというのだ。無茶ではないか。溢れ出した感情は目頭を熱くする。もしかしたらが止まらない。

 

 

このとき初めて、大輔は姉がここにいないことを心の底から絶望した。みんな自分のことに精一杯で自分のことなんか構ってくれないのだ。こういう時、すがりつける存在がないことの辛さがここまで堪えるとは思わなかった大輔である。口ではいくらでもいえたが、大輔の心は嫌われていたって一方的な片想いだって構わないのだ。心はどこまでも正直に姉を求めていた。

 

いつもはこっそり胸の中に秘めて、いつの間にか使わなくなっていたお姉ちゃんという言葉を何度も何度も半濁する。

 

 

ブイモンは、結局勝てない姉の存在の大きさをひしひしと感じながら、そっと大輔の手を握った。少しだけ安心したのか、大輔はぐしぐしと乱暴に目尻をぬぐって、泣きながら笑った。素直になりかけていたのを最悪のタイミングで潰されてしまっていた大輔は、こっそりと泣くしかできなかったのである。

 

 

「この世界に来なきゃよかったとか言わないでよ、大輔。そんなこと言ったら怒るよ、オレ」

 

 

なんて大輔は絶対にそんな事言うわけがないことを知りながらブイモンはつぶやいていた。

 

 

「ばーか、そんなこといわねえよ」

 

 

と心外だとばかりに大輔が笑いながら訂正してくれる。ほら、もう泣いてたことなんて忘れている。大輔の笑っている顔のほうがすきだから、まだ笑えているなら大輔は大丈夫だと確認しながらブイモンは、うん、ごめん、と返事した。

 

 

「なに書いてるの、太一?」

 

「地図を書いてるんだよ、もしかしたらなにかの役に立つかも知れないだろ?」

 

「なるほど、有効な手かもしれませんね」

 

 

太一達の声が聞こえる。太一はどうやらこの島の全景を書いているようだ。孤島のマッピングは貴重な情報源となるだろう。後ろから聞こえてくるその会話に、思わず振り返った大輔は、えー、と声を上げた。さっきのうるっと来た感傷など吹っ飛んでしまったらしい。

 

 

どしたの、大輔?とあいも変わらず喜怒哀楽の切り替えが激しい相棒に、ほっとした様子でブイモンが問いかけた。子供はひとつの感情の中にずっと埋没していられるほど暇ではないのである。きっとそうしなければ壊れてしまう。まだ大輔は大丈夫らしいことが確認できたことを安心しつつ、見上げてくるブイモンに、大輔はこっそり教えてくれた。

 

サッカー部において、自由研究などの夏休みの宿題は最後の1週間で済ませることが常識である子供たちを見かねてか、後援会の保護者達は容赦なく交流会という名の勉強会、その名を夏休みの宿題を終わらせよう会を敢行して、逃げる子供の首根っこをひっとらえて強制参加させる。

 

 

大輔もその会の犠牲者の一人であり、低学年は親との共同制作が許されているため今年も両親の力を借りる気満々なのだが、夏休みの友から逃げることはできなかった。たまたま太一達と一緒のグループになったときに知ったのである。図画工作の宿題に悪戦苦闘する太一の画用紙には、ネコバスが描かれていたので、悟ったのである。スポーツ万能なキャプテンは、図画工作が致命的なまでに苦手で、センスの欠片もないことを知ったのだ。

 

 

そこにシンパシーを感じたのか、運動はできても勉強はできないを体現したような二人が仲良くなるのは早かった。ちなみに猫っすか?と聞いた大輔に、太一はライオンと言い切った。ついでに万年アヒルだとも聞いた。

 

これで真ん中普通判定なんておかしいとさすがに気付いていた大輔は、未だに小学校高学年は3段階評価ではなく5段階であるとは知らない。大輔と一緒に笑っていたブイモンは、みんなに笑われてやけになった太一が、本人が分かればそれでいいのだと開き直るのを見た。

 

 

広げられていた地図らしきものは、目で確認しながら逐一確認しなかったせいで、輪郭を追いながらにもかかわらず、もはや島の全景とは到底言えないような、ミミズがのたうちまわった地図が出来上がっている。

 

やがてみんなが雑談をこぼすほど回復し始めた頃、そろそろムゲンマウンテンから降りようという事になる。元きた道を帰ることになった。大輔とブイモンは、そろそろ一緒に寝るという提案をしなければならない、まさに公開処刑タイムが迫っていることに気づいて、別の意味ですっかり打ちひしがれていた。

 

 

そのとき、どごおん、という大きな音が聞こえてきたものだから、子供たちとデジモン達は慌てて先に向かった。そこに待っていたのは、山道を切り落としてしまったライオンの獣人だった。

 

 

レオモンどうして、って驚きに満ちたデジモン達の声がする。どうしてだって聞く子供たちに、パートナーたちは口をそろえて言うのである。“百獣の王”や、“気高き勇者”などと呼ばれる獣人型デジモンは、強い意志と正義の心を持ち、いくつもの傷を負うほど多くの凶悪な敵を倒してきた。

 

日々鍛えたたくましい肉体は、どんな攻撃にも耐えることができる。攻撃はすばやく、相手を瞬時に倒す力を持っている。腰には先祖の形見である「獅子王丸」を身に着けているが、基本は拳なのであまり使うことは無い。

 

そのカタナを抜くときは、レオモンが絶対に倒さなければならない強敵が現れたという証である。長きにわたる間幼年期であることを強いられてきたパートナーたちの事実上の庇護者がレオモンだというのである。

 

 

「選ばれし子供たち、殺す」

 

 

そんな事を言われては反対側の道に引き返すしか出来なくなる。選ばれし子供、なんて言葉を聞いた気がするが、間違いなく自分たちを目的に襲いかかってきているのだ。この世界に来てからというもの、テントモンを始めとしたデジモン達の知識は全くアテにならないのだ。

 

それは黒い歯車によるデジモン達の暴走もあれば、意外とうろ覚えな知識がそうさせている。知らなくても生きていけたのだろう。仕方ない。デジモンからみたデジモンと、人間から見たデジモンが同じとは限らないのである。

 

 

そしてテントモンおなじみのデジモン解説講座において、獅子王丸というらしいカタナ=敵判定と知った子供たちはますます焦る。今まさにレオモンがその腰に備え付けられている鞘から刀を抜き、思いっきり襲いかかってきているのだ。

 

なんで敵扱いされているのかわからないし、なんか白目向いてるし、ぼそぼそ小声で喋りながら追いかけてくるのだ。つか選ばれし子供って何。黒い歯車も見つからないから操られているわけではなさそうだし、いくら呼びかけてもまともな返事はない。

 

もう逃げるしかなかった。そして、今まで通ったことがない反対方向に降りるであろう道を真っ直ぐ進んでいた太太一達の前に、まさに挟み撃ちする形でもう一体凶悪なデジモンが姿を表した。

 

 

「やっと追いついたぜ!てめえら皆殺しにしてやるよ!」

 

 

緑色の鬼があらわれた。ごつごつとした大人の何倍もありそうな腕が5倍はありそうな拳を握り締め、巨大な骨を仕立てた棍棒を振り回しながら現れた。なんでこんなところにオーガモンがってデジモン達はもうパニック状態である。鬼人型デジモンであるオーガモンは、頭は良いが気性は荒く、発達した筋肉から繰り出す攻撃は、岩をも砕く破壊力を持つらしい。

 

 

本来ならばレオモンとはそりが合わず、ライバル関係にあるはずで、盗賊のかしらを務めている凶悪なデジモンはめったにこんなところまであらわれない。なのになぜかレオモンとオーガモンはみんな達をはさみうちにする作戦だったらしい。本来ならレオモンがオーガモンから守ってくれる展開の筈なのに、と本気で信じられない様子のデジモン達の目の前で、無情にも2体のデジモンが遅いかかった。

 

 

大輔とタケルはヤマトたちに押し込まれる形で岩壁の方に引っ張られ、上級生組がかばうように空を見上げる。太一は舌打ちした。アグモン達は一度進化をするとエネルギーを激しく消耗してしまうらしく、二度目は不可能なのだ。

 

丈とゴマモンを助けるために一度進化したせいで、アグモン、ピヨモン、ゴマモンはもうできない。ガブモン、パルモン、テントモンの3体だけで子供たちを守りながら、二対同時に相手するのは相当危険である。そうこういってられず、3体のデジモン達が進化して、先に襲いかかってきたオーガモンに迎撃する。

 

 

その隙をついて襲いかかってきたレオモンに、本来進化できなかったはずの3体の体とデジヴァイスが輝いた。2度目の進化をしたグレイモン達は、レオモンを相手に応戦する。いけーっと声を張り上げる太一は、その激闘に水をさす岩雪崩を目撃した。

 

気づけばオーガモンとレオモンはいなかった。ユニモンとの戦いの時にヒビが入っていたのかも知れない、という光子郎の指摘に、浮かべていた疑問を引っ込めた太一は、何故デジモン達が2回も進化できたのかという話題に話をそらすことにした。空はすっかり黄金色である。

 

 

せっかく下級生たちが準備してくれていた洞窟まで辿り着くのは、もうすっかり困難になってしまった。夜になってしまえば方角が分からなくなってしまう。闇雲に歩きまわるのは誰の目から見ても危険だ。

 

もし夜行性のデジモンに襲われでもしたが最後、今度こそ全滅は免れない状況にある。進化したデジモン達はもちろん、とりわけ2回の進化を経験したデジモン達の困憊は顕著だ。もう歩けない、お腹すいた、とかわいそうなくらいぐったりとしているパートナーに頑張れと鼓舞しながら、連れて歩いて行く上級生たち。

 

 

後ろを付いていく大輔は、元気なままのブイモンと顔を見合わせて、改めて進化できないもどかしさをかみしめた。進化できなくてもできることはある、とはいうものの、こうしてみんなの危機が迫ったとき、なによりも無力なのは自分たちであると改めて思い知ったのである。守りたい人たちがいるのに、守れない、むしろ守られている背中を見つめているしかない歯がゆさ。一人と一匹はため息を付いた。

 

 

「なあ大輔、オレやっぱり早く進化したいよ」

 

 

ブイモンはつぶやいた。なんで進化できないんだろう、と自分の青い手を握りしめる。アグモンたちが進化したのは、パートナーを、子供たちを、仲間たちを守りたいという気持ちが鮮明に思い描かれた時である、ということをブイモンも大輔も知っている。だからこそ、一向にデジヴァイスが輝かない、進化できない、という現実は殊の外プレッシャーである。

 

 

「大輔を守れないなんてやだ。絶対ヤダ。オレが大輔を守るんだ」

 

 

パートナーの危機が共通しているとすれば、何故昨日の夜、大輔が連れ去られてしまうという恐怖と怪奇現象を目撃しながら、必死で大輔の名前を読んで引き止めていたときに進化できなかったのか、ブイモンにはわからないのだ。デジヴァイスが輝いたとき、進化できるかも知れないという期待が胸をよぎったのは事実だ。

 

謎の空間が歪んでできたトンネルはその光によって撃退されたため、結果オーライではあるものの、落胆もその分大きかった。夜は目前である。さっきからずっと大輔とブイモンは手をつないでいる。絶対に離れないように手をつないでいる。みんなと一緒に寝ることが決まっても、きっと寄り添って寝ることになるだろう。ぬくもりがより一層強くなる。

 

 

「ばーか、オレとお前は運命共同体だろ?お前ばっか、かっこいいこと言うなよ。オレだって頑張りたいんだ」

 

 

本当は恐いくせに、指先が震えているくせに、大輔はそうやって笑うのだ。森の中に突然現れた洋館に、子供たちとデジモン達の歓声が響いてくる。みんなが入っていくので、大輔たちも慌てて追いかけた。

 

ヨーロッパ建築の煉瓦造りが美しい3階建ての建物が大輔たちの前に現れたのである。窓の様子からして屋根裏部屋まで完備しているらしいその屋敷は、豪華絢爛だった。太一たちが開けた重い扉の向こう側で、シャンデリアが釣り下がっているホールがみえる。

 

恥ずかしがってないで、早く一緒に寝たいと提案しよう。いよいよもってなけなしのプライドを投げ捨てて、公開処刑に臨もうと深呼吸。太一さん、と呼びながら洋館の古びた門をくぐりぬけた大輔と、待ってよ大輔―っと置いて行かれないように慌てて走ったブイモン。

 

 

「なんだよ、大輔」

 

 

振り返った太一がその姿を目撃することはなかった。

 

 

「あれ?大輔とブイモンは?」

 

 

その言葉に、明確な答えを示せるものは、誰ひとりとして存在しなかったのである。

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