(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第34話

「明日、もし雪が止んだらさ、ここを出ようぜブイモン」

 

「ずっとここにいても、太一達が来てくれるとは限らないもんな」

 

「それに、ここがみんなで泊まろうとしたトコなのかとか、確かめなくっちゃいけないだろ」

 

「もし、オレの知らないところだったらどうしよう?オレ、この島のこと全部知ってるわけじゃないんだ」

 

「そんときはそん時だろ?せっかくここがあるんだし、食べ物を探しに行くだけでもいいと思うぜ。お菓子だけじゃ、腹一杯になんないもんなあ、腹減った」

 

「あー、ごめん、大輔。オレとなっちゃんがほとんど食べちゃった……」

 

「いーんだよ。そのかわり、明日はいっぱいがんばれよ」

 

「うん、オレ頑張るから期待しててよ、大輔。そーだ、ねえ、なっちゃんはどうするの?」

 

「え?なっちゃん?そりゃ、待っててもらわないと危ないだろ、女の子だし」

 

「うん、オレもそう思う。でもなっちゃん大輔にべったりだし、納得するかなあ?」

 

「大丈夫だって、なっちゃんも分かってくれるだろ」

 

 

どこまで説明しようかな、と大輔とブイモンは相談する。もし、果物がたくさんなっている場所とか、食べ物が見つけられたら、呼んでくればいい。もし、ここがどんな場所なのかがわかって、これからどうするのかが決まったら、なっちゃんに説明すればいい。

 

ずっとここにいることを強いられていたとはいえど、まるで我が家のように慣れ親しんだ屋敷との別れだ、なんにも決まっていないのにいうのは不安をあおるだけのような気がする。

 

 

なっちゃんは寂しがりで何にも知らない女の子だ。一緒に外を探検しに行くのは楽しいかも知れないが、外では凶暴なデジモンがいるかも知れないという危険性が残っているのだ。パートナーデジモンがいない女の子にもし何かあったら大輔はどうしていいのかわからなくなってしまう。

 

だってここは病院じゃない。ちょっとしたケガだったら救急箱でなんとかなるが、大怪我したらもうそこに待っているのは言わなくてもわかる。そこでふと、丈が言っていた、みんなを守らなくっちゃいけない責任、という言葉を思い出した大輔は、難しいなあと思った。

 

 

ただはっきりしているのは、大輔もブイモンも、その時が来たらなっちゃんを一緒に連れていくということだけである。最終的にそれだけはなっちゃんに言っておこうという結論に達した大輔達は、何時まで経っても現れないドアの向こうを眺め見る。変だな、と思う。

 

すぐに来るから待っててくれと言って飛び出していった後ろ姿が脳裏をよぎる。大輔とブイモンは顔を見合わせた。だんだん心配になってくる。時計を見ればいくらなんでも遅すぎる。ここはどんなにゆっくり来ても、30分もかからない場所なのに。だんだん心配になってきた大輔は、なっちゃんを見てくると言って立ち上がり、オレも行くよ、大輔、とブイモンが続いた。

 

 

がちゃり、とドアノブを回して外に出れば、ベランダのように吹き抜けから螺旋階段と談話室、エントランスが見渡せる通路に出る。大輔はそこに見慣れないものが落ちていることに気づいて、なんだこれと拾い上げた。真っ白なうさぎが刺繍されたクッションである。

 

しかし、そのクッションを見た大輔は戦慄した。可愛らしいうさぎの首のところから、思いっきり何かで貫いたような跡が残っているのだ。ふわふわとクッションから綿毛がこぼれ落ちていき、通路に広がっていく。

 

まるで突き刺したものを思いっきりぶん回したように、ズタズタに引き裂かれたクッションから、うさぎの洋服についていたボタンが落ちた。硬直する大輔を不思議に思ったブイモンは大輔の横から顔を上げて、同じく硬直した。見るも無残な光景である。

 

 

大輔とブイモンの脳裏に、夕方頃に外で見かけた大きなデジモンの残した爪痕がよぎる。うさぎの枕がないと眠れないと出かけていった女の子のことを大輔とブイモンは知っている。

 

 

「なっちゃん!」

 

 

思わずクッションを放り投げて、螺旋階段から上の方に叫んだ大輔は、クッションから出てきた綿毛が飛んでいくのを見た。綿毛がフワフワと上から下に落ちていく。あれ?なんでこの綿毛、こんなに光ってるんだ?デジャビュが込み上げてくる。すっかり忘却の彼方にあった夢の続きが、今まさに屋敷全体を覆い尽くしていることに気がついた大輔は、嫌な予感がした。

 

 

違う、これは綿毛じゃない。とっさにつかんだ大輔の手の中に、夢のなかよりも、もっともっと原型をとどめている、硬くて、白くて、プラスチックのような四角いものが生まれた。

 

その破片は、どこかで見たことがあるような形状をしていた。どこだっけ?あれ?うーん、と考え込んでみるが、思い出せない。

 

 

「どうしたんだよ、大輔」

 

「これ、夢で見た」

 

「え?」

 

「夢で見たのと一緒なんだ!いっぱいの光がたくさん!」

 

「それほんと?」

 

「間違いない!俺がなっちゃんの声を聞いたとき見た光だ!なっちゃんが危ない!デジモンが来ちゃったのか?!行くぞ、ブイモン!」

 

「うん!急ごう、大輔!なっちゃんを守れるのはオレ達しかいないよ!」

 

「わかってる!」

 

 

いざ行こうとしたときに、うわあああ!という声が聞こえた。

 

 

「ブイモン、どうした?!って、あれ?」

 

 

いつもの定位置にいるはずの視点に、額に黄色のV字がトレードマークの青いドラゴンの子供が見つからない。ブイモン?!と慌てて叫んだ大輔があたりをきょろきょろ見渡してみると、くいくいとジーパンを引っ張ってくる手がある。

 

だいしゅけえ、と懐かしい声がして、まさかと思って足元をみた大輔の目の前に、何が起こったのか全然わからず、すっかり涙目のチビモンがそこにいた。

 

 

「お前、何でこんな時にもとに戻っちゃってんだよ!」

 

「わかんないよーっ!たっくさんあるヒカリにさわっちゃったら、なんか、もとに戻っちゃったんだ!」

 

「えええっ?!早く進化しろよ!」

 

「できないんだよーっ!さっきから頑張って進化しようとしてるのに、なんか、ヒカリにぶつかっちゃうと力が抜けちゃうんだ」

 

「これのせいで?」

 

 

信じられない、と大輔はチビモンを抱き上げて、手の中の発光する謎の物質を見せた。大輔が触ってもなんとも無いことに驚きつつ、それを覗き込んだチビモンは、あーっと叫んだ。

 

 

「そうそれ!なんか、それにぶつかると、なんか体からひゅーんってなんかが抜けてく感じがするんだ。えっと、これ、なんていったっけ、その、データチップだよ!」

 

「データチップ?」

 

「うん。オレたちデジモンにとって、とっても大事なものなんだ。オレがチビモンだってこととか、だいしゅけと出会ったこととか、全部全部記憶してくれてる大事なもの。これを無くしちゃったら、大変なことになるんだよ」

 

 

どうやったらデータチップができるのか、よく知らないけど、デジモンならみんな知ってるよ、とチビモンはいう。

 

 

「大変なことって?」

 

「わかんない」

 

「どうすんだよ、なっちゃんが危ないかも知れないのに!」

 

 

だっこしながらずっと走るには、まだまだ大輔の体は小さすぎた。

 

 

「オレも急ぐから、早く行って大輔!なっちゃんを連れて、逃げるんだ!」

 

「わかった!早くコイよ、チビモン!」

 

「うん!」

 

 

大輔は持ち得る全速力でなっちゃんがいるであろう、3階のなっちゃんの部屋へと一直線に向かった。螺旋階段の向こうに何度もなっちゃんの名前を呼ぶが、あの女の子の声が聞こえない。姿も見えない。

 

無我夢中で走っていた大輔は、すっかりチビモンとどんどん距離が離れてしまう。早く行ってあげて、という相棒の後押しを受けて、大輔は一気に階段を駆け上がり、ばたばたばた、となっちゃんの部屋へと駆け抜けた。そしてノックもせずに、ばん、と乱暴にドアを突き破るように開けた。

 

 

「なっちゃん!」

 

「だいすけ?」

 

 

そこには驚いた様子で立っているなっちゃんの姿があった。なにやらあわてて後ろを向いたなっちゃんは、ごしごしと目をこする仕草をして、何度か頭をふる。その声は少しだけ鼻声になっているが、大輔は最悪の想像がどんどん膨らんでいたせいで、早とちりの勘違いだったと気づいてそれにすっかり安心しきってしまい、気づかない。

 

どうしたの?とただ突然の訪問にきょとんとしているなっちゃんがそこにいるだけだ。女の子が大好きなものをたくさん詰め込んだ宝箱みたいな部屋があって、真ん中に彼女はたっている。

 

 

はー、と大きく息を漏らした大輔は、よかったー、と一気に脱力してその場に座り込んだ。だいすけ?と不思議そうな顔をしてなっちゃんが近づいてくる。大輔は、はあはあと息を荒げながら、言葉を紡いだ。酸素を求める体が悲鳴を上げて、なかなかうまく話をさせてくれない。

 

 

「なっちゃんが、遅い、から、心配に、なったんだよ」

 

「わたしが?しんぱい?………よくわかんないけど、しんぱい、してくれたの?」

 

「なっちゃんが、いってた、うさぎの、まくら、が、ぼろぼろに、なってたから、デジ、モンに、おそわれたのかと、思ったら、居ても、立っても、いられなくなって」

 

「………そっか、ありがとう。だいすけは、やっぱり、やさしいのね」

 

 

げほげほと咳き込み始めた大輔に、なっちゃんは眩しそうな眼差しをむけた。女の子に優しいなんて言われたことがない大輔は、思わず赤面してしまい、顔を上げることができないためなっちゃんの表情は伺えない。

 

しばらくして、大輔はようやくまともな会話ができるまでに回復する。すぐにチビモンが来るだろうから、ここで待っていたほうがすれ違いにならずにすむだろう。

 

 

「ねえ、だいすけ」

 

「なに?なっちゃん」

 

「パートナーって、どんなかんじ?」

 

 

なっちゃんはどこか寂しそうな顔をしている。その顔を見るのは、もう何度目になるだろう。パートナー?もしかして、パートナーデジモンであるブイモンのことを言っているのだろうか?そこまで考えてから、ようやく大輔はなっちゃんが言いたいことが予想することが出来た。

 

なっちゃんは、大輔のように、パートナーデジモンであるブイモンがいない。大輔以外にも太一達がいることを話した時も、なっちゃんはパートナーデジモンがいるのだと話したときには寂しそうな顔をした。気がついたときには、自分のことも、なんにも覚えていなかったなっちゃんの側には、一緒に寄り添ってくれるデジモンがいなかった。

 

 

もしかしたら、はぐれたのかもしれないから、一緒にさがそうと大輔は提案したことを覚えている。ブイモンと一緒にいる大輔の言葉だから、なんだか余計に寂しくさせてしまったのか、ううん違うのと否定されたが、きっとなっちゃんも寂しいはずだ。

 

大輔にとって、ブイモンはどれだけこの漂流生活の中で心の支えになってきたか、もう数えきれないくらいたくさん感謝している。もちろん喧嘩したり、怒ったり、泣いたり、笑ったり毎日忙しいけれども、一緒にいることがとっても楽しくて、うっかり忘れてしまうけれども。

 

ここをでて一緒に行くことが決まったら、なっちゃんのパートナーデジモンも探さなくちゃいけないなと考えていたところだった。大輔は、んー、と頭をかいてから、恥ずかしそうに笑った。

 

 

「なんつーのかな、ずっと一緒にいる、友だちみたいな、家族みたいな、相棒みたいな、言い表せないくらい大切な奴、かな。運命共同体なんだ」

 

「うんめい、きょうどうたい」

 

「うん、大丈夫。なっちゃんにも見つかるって。ブイモンみたいな奴がさ。きっとどっかでなっちゃんのこと探してるよ。

だからさ、ここから出て、一緒に探しに行こう、なっちゃん。すぐに行けるわけじゃないけど、絶対会えるって。心配すんなよ」

 

 

な?と笑った大輔に、なっちゃんはしばしの沈黙の後、小さく首を振った。それは欲しかった言葉を得られなかった子どもが起こす癇癪にも似ていた。

 

 

「いらない」

 

「え?」

 

「パートナーデジモンなんて、いらない」

 

「なっちゃん?」

 

「どうして?」

 

「え?」

 

「どうして、わたしじゃだめなの?」

 

「え、なにが?」

 

「だいすけは、わたしのこえをきいてきてくれたんでしょう?だから、あなただとおもったのに。どうしてわたしじゃだめなの?どうしてぶいもんなの?わたしなら、わたしなら………もっともっと、だいすけのこと、だいすきなのに。だれにもまけないのに」

 

 

だんだんなっちゃんは崩れ落ちていく。大輔は近寄ろうとしたが、こないでえ、と言われるやいなや、謎の力に吹っ飛ばされる。

 

 

「どうして、なでなでしてくれないの?だっこしてくれないの?わたしだけにわらってくれないの?だいすけだとおもったのに。わたしにほほえみかけてくれたひと。もどってきてくれたとおもったのに。ぼんやりとしかおぼえてないけど、きっとわたしがだいすきだったひと。わたしをだいすきだったひと。

ねえ、どうして?」

 

 

なっちゃんは崩れ落ちた。ぼろぼろと涙を流しながら、両手で顔を覆っていく。

 

 

「ひとりにしないで。おいてかないで。まってるのに。ずっとまってるのに。どうしてあいにきてくれないの?どうしてどこにもいないの?もうつかれたの。もうあるけないの。もうさがしにいけないの。もういや。もういや。なんでわたしだけひとりぼっちなの?わたしはただあいたいだけなのに!またわたしだけ、ひとりぼっちなの?またわたしだけひとりぼっちで、ずっとまってて、ひとりぼっちでしんじゃうの?いや、もういや」

 

 

大輔はなっちゃんの体から、無数の光が爆発したようにあふれるのを見た。

 

 

「なっちゃん!」

 

 

必死で名前を読んだ大輔だったが、もうなっちゃんには届かない。

 

 

「もう、いやあああああああああ!」

 

 

なっちゃんの悲痛な叫び声が洋館中に響き渡ったとき、なっちゃんの体からあふれた光がなっちゃんを包みこんだ。眩しくて正面を見てられない大輔だったが、なっちゃん、と何度も名前を呼んだ。突風が吹き荒れ、ドアから弾き出された大輔は、手すりに激しく体を打ち付けた。

 

うっすらと開けたまぶたの向こう側には、なっちゃんのシルエットを突き破るようにして現れたのは、禍々しいオーラをまとう巨大なデジモンだった。そして、光が屋敷全体に広がった。5本の大きな爪を持った何かが、なっちゃんだった何かが、激情を込めた雄叫びを上げていた。

 

 

「なっちゃ、うわあああっ」

 

 

もう大輔のことを認識することすらできなくなってしまったのか、そのデジモンは大輔に刃を向けた。豪快に振り下ろされた腕から繰り出された豪腕から放たれたのは、5つのかまいたち。禍々しい光を帯びながら飛んできたそれが、大輔がなんとか立ち上がろうとして支えにしていた手すりごと崩壊させる。

 

轟音が響く。なすすべなく大輔の小さな体は投げ出され、3階の吹き抜けから落下する。螺旋階段を必死で登っていたチビモンは、大輔の叫び声とともに、どんどん落ちていく大輔を目撃して、悲鳴を上げた。だいしゅけええ!と身を乗り出して、助けようとするが、小さな体では手すりの間をくぐれず、大輔がすり抜けていく。

 

 

大輔が死んじゃう!という恐怖がチビモンにこみ上げた。やだ、やだよう、オレが大輔を守るって決めたのに、それで褒めてもらうんだって決めたのに、だいしゅけが死んじゃうなんてやだああ!

 

 

「だいしゅけええええ!」

 

 

チビモンの心の叫びが木霊したとき、大輔の首もとに掛けられていたデジヴァイスがきらめいた。そして、溢れ出した光が、屋敷全体に満ちていたデータチップの雪を吹き飛ばし、チビモンに届く。虹色の光が、爆発した。

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