(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第42話

デビモンの腕が突然大輔の体から生えてきたかと思うと、鈍色の光沢を放つ真っ赤な爪が深く深く大輔の首に食い込んだ。突然の奇襲にぎりぎりと首を閉め挙げられた大輔は、呼吸することも叫ぶこともままならないまま、持ち上げられていく。大輔はここでようやく悟る。

 

このデビモンというデジモンは、本気で大輔たちを抹殺しに来ているのだと、殺しに来ているのだと、初めて現れた敵なのだと、倒さなくてはいけない存在であり、説得や解放といった手段は通用しないのだという無情な現実を知る。じたばたと暴れる大輔が、エクスブイモンの体から離れて中に浮いていく。

 

 

大輔っ!と叫んだエクスブイモンは、大輔をはなせええ!と叫んで異空間に沈ませている右手目がけてエックスレイザーを発射する。

 

しかし、そこにデビモンの姿はない。どこだと懸命に捜すエクスブイモンの目前で、デビモンが大輔の首を締めながら、高笑いをしているのが目に入った。てっめえ、となっちゃんを騙していたのはこいつなのだと気づいて睨みつける大輔に、一瞬だけ浮かんだ恐怖と絶望を笑う。

 

 

「冥土の土産にいいことを教えてやろう、愚か者よ。そんなデジモンなどこの世界には存在していない」

 

「なっ!まっさか、おま、天使のデジモンをっ」

 

「いないといっているだろう!」

 

「うわああああっ!」

 

 

大輔!とエクスブイモンは叫ぶが、大輔を人質にとっている以上、盾にされかねない位置にいるパートナーを巻き込んでまで、必殺技も得意技も打つことは出来ない。もしその爪が大輔の喉元を掻き切ったら一瞬で小さな命は終わってしまう。

 

天使のデジモンという言葉に過剰反応するデビモンは、違和感に満ちている。まさか、そんな、うそだろ、と脳裏をよぎっていたものの、今まで幾度も却下してきた事実が信ぴょう性を帯びてきて、大輔は否定して欲しくて、違うと言って欲しくて言葉を紡ぐ。

 

大輔たちに絶望を与えるのならば、天使のデジモンはすでにデビモンによって抹殺されており、なっちゃんに語ったことはすべて虚構だと言えばいいのだ。

 

 

そしたら大輔はもちろんエクスブイモンも、デビモンをイイデジモンであると感謝しながら死んでいったなっちゃんが、完璧に利用され、死んでしまったのだというあまりにも残酷な事実を目の当たりにして、確実に絶望することになる。

 

なのに、初めからそんなやつはいないのだということを事実のように振りかざすのだ。このデビモンというデジモンは。みしみし、と声帯がやられていくのを感じながら、激しく咳き込んだ大輔は、それでも屈せずに叫んだ。

 

 

「まさか、お前、が、天使の、デジ、モン、だったって、いうのかよ!」

 

 

嘘だと言ってくれ、と祈りにも似た叫びだった。おかしいとは思っていたのだ。この世界から遣わされた天使のデジモンしか、なっちゃんの世界のことは知らないし、なっちゃんの世界を自由に出はいりできない。

 

なっちゃんは自分の理想を拒絶し続けてきた他者という存在を極端に恐れるようになっており、それは猜疑心と疑心暗鬼に満ちている。もし自由にデジモン達が入るように出来ていたら、他者恐怖症でありながら寂しがり屋の彼女は、きっとデジモン達を傷つける。

 

だからこそデジタルワールドから切り離した箱庭、揺りかごの中で緩やかな更生をする日々を送っていたのだから、意味がなくなってしまう。天使のデジモンを抹殺したという言葉が聞けないことは、ますます大輔とエクスブイモンを動揺させた。大輔の言葉を聞いたデビモンは、興奮した様子でその血走った目で大輔を見下した。

 

 

「我が魂を求める者よ。今目覚めの時は来た。汝にわが翼の祝福を」

 

 

紡がれるのはかつて司っていたエリアにおいて捧げられた聖句である。大きな2枚の翼をもち、月の魔力によって炎を操ることができた下級天使の姿がデビモンの脳裏によぎり、憤怒で大輔を締め付ける腕の力が増加する。大輔の悲鳴が上がった。

 

 

「汝を守護する天使なり。我が務めを果たすべくここに覚醒せり」

 

 

堕天使は語らない。惨たらしく殺された天使の残骸データによって誕生したという事実など禁忌でしかない。

 

 

「我知るは天の理。神の導きに従いて我が魂をささげん」

 

 

目の前の子どもとデジモンに現実を突き付けるだけでいいのだ。

 

 

「汝の使命、我が務めのままに参る」

 

 

本来天敵ともいうべき聖なる言葉を躊躇なくいえるのは、かつて聖なるものとして生きたDNAがゲノムとして残っているからだ。デジモンは進化と退化を繰り返して生命は循環し、新たなる命は更なる力を手にして誕生する。

 

刻み込まれた経験値はすべてデジコアに記録されている。たとえ対極の存在に進化したとしても、生命の歴史はたしかにデビモンの中に存在するのだ。そう、たとえば、記憶の継承という形で。

 

 

「やはり貴様らには死んでもらおう。この世界に、忌わしき屈辱の歴史を知る者などあってはならないのだ!私はデビモン!いずれデジタルワールドの頂点に君臨する者として、光に屈し、自由を知らぬ愚か者だった事実など、今の私には必要無いのだ!」

 

 

デビモンの衝撃的な発言は、ますますエクスブイモンに攻撃を躊躇させることになる。かつて、なっちゃんの為に揺りかごを用意して、共に更生の道を援助すると約束した天使と、この目の前にいるなっちゃんを死に追いやるキッカケを与えた堕天使が同一のデジモンであるなど、誰が信じられるだろう。

 

もちろん、大輔やエクスブイモンの反応を見ての計画犯であるデビモンは、見せつけるように大輔の声を枯らす。デビモンがかつて下級レベルの天使であったこと、自ら望んでダークサイドに落ち、デビモンとして誕生したという事実は、デビモンにとって誰にも知られることは許されない。絶対に。

 

こんなことを知っている存在の抹消は、かつての同族であったエンジェモンに進化する可能性を秘めているパタモンよりも、遙かに優先度を超えてしまう。

 

 

なぜなら闇と光は背反し、悪と善は背反するが、実は境界が限りなく曖昧だとこの子供は気づいてしまったのだから。デジモンはネットやパソコンに存在するデータをもとに実体化した存在である以上、人間が育んできた思想や宗教概念も色濃く反映されている。

 

悪と善は常に表裏一体だった。人間が想像した存在を反映しているのだから、どこまでも人間臭いのは当たり前である。神が存在しているのに悪がなくならない理由付けのために生まれたのが、堕天使でありアクマであり魔王である。

 

かつて神に並ぶ存在だった天使が、簒奪を試みて世界で最初の地獄の住人になったのが悪の根元である。数が多くなりすぎたという理由だけで、天使は簡単に堕天するし、悪魔は簡単に天使となる。もともと他の思想や信仰を排除して自分たちの考えを反映させる人間の歴史の中で、排除されたのが悪魔になり、取り込まれたものは天使になった。それが実体化して生きているのがデジタルワールドなのである。

 

 

デビモンにとって、自分は悪であり闇である。背反する立場だった過去など絶対に知られてはならない。かつて規律と調停を重んじる厳格な戒律の中で最下層として存在していたこと。完全なる善の存在を盲目的に信じて服従していたこと。

 

他する思想や存在を一切認めずに相手の存在を完全抹消させることに対して、何の疑問も持たずに生きていたこと。無知で無学で愚か者で、何よりも自由という存在が存在しなかったことを思い出させる屈辱的な過去である。レオモンやオーガモンに任せておけるわけが無いのである。何としてもこの子供とデジモンだけは抹殺しなければならない。

 

 

たとえこの世界を征服することが失敗したとしても、デビモンはきっと大輔たちを本気で殺しに来るだろう。呼吸困難になり始めた大輔は、次第に意識が朦朧としてきたのか、クラクラとしている。悲痛なエクスブイモンの叫びが聞こえる。デビモンが確信に満ちた笑みを浮かべたとき、それは起こった。

 

 

「ゴッドタイフーンッ!!」

 

 

突如発生した竜巻が、デビモンだけでなく大輔もろとも巻き込まん勢いで迫ってくるではないか。避けるために大輔を放り出したデビモン。その隙を見計らってエクスブイモンがあわてて大輔を抱き抱える。

 

助けるためとはいえ、いくらなんでも大輔が怪我をするかもしれない攻撃を平気でしてくる存在がいるなんて信じたくはなかった。しかし、エクスブイモンは、どこかで予兆を感じ取っていたので、振り返って、やっぱり、と思ってしまう。

 

 

「なあなあ、大輔、オレ、パタモンは本当は進化したいと思うんだ。だって、パートナーを守りたいって思う気持ちは、パートナーデジモンはみんな同じはずなんだよ。でもタケルはなんでか知らないけど、パタモンに進化してほしくないみたいだ。それってとってもおかしいことになるよ」

 

「なんでだよ?パタモンはタケルが言うんならいいんだっていってたじゃねーか」

 

「それがよくないんだよ。だって、オレ進化してみて、なっちゃんみてて分かったんだ。進化って、きっと想いが産むんだよ。心から思った願いから生まれるんだよ。大輔はオレに進化して欲しいって思ってくれたから、デジヴァイスでオレと大輔の想いが伝わって、進化できたんだ。パタモンは進化したがってる。ずっと守られるってつらいんだよ?パタモンにとっては、パタモンがいなくてもヤマトや太一やみんながタケルのことを守ってくれる、今度はオレが進化できるようになったから、大輔が守ってくれるようになっちゃった。パタモンは優しいから、タケルにずっと言わないで我慢してるからあれだけど、オレ達にとって、大好きなパートナーから頼りにされないって、すっごく辛いんだよ、大輔。オレ、すっごく辛かったんだ。大輔は全部一人で決めちゃって一人で進んで一人でなんでも出来ちゃうから、オレいらないんじゃないかって、すっごく悩んだんだもの。大輔はパートナーデジモンとしてオレを大好きだって言ってくれたから、もうオレは迷わないでいられるけど、それまでは嫉妬しちゃったり、大輔が他の人と仲良くなるのを邪魔したり、結構いろいろしてたんだよ、オレ。でもパタモンは、なんにも言わないで、なんにもしないで、なんにもできないで、ただじーっとタケルと一緒にいるんだ。それって、とっても残酷なことだよ」

 

「なあ、もしパタモンの気持ちが爆発しちゃって、進化したらどうなるんだ?」

 

「さあ?でも、とっても怖いことになるのは間違いないと思うんだ、オレ。だって、なっちゃんみて分かっただろ?大輔。デジモンって本当は一人で生きていくのが当たり前なんだよ。家族なんていないし、姉弟なんていないし、ピョコモンみたいにみんなで生きていくデジモンもいるけど、普通は同族で生きて行くのが当たり前なんだ。オレだってこんなことがなかったら、きっとパタモンたちと会うことなんて絶対になかったと思う。でも人間は違うでしょ?家族がいて、友達がいて、知り合いがいて、沢山の関係をもって生きていくんでしょ?大輔とパートナーになった時点で、きっとオレは普通のブイモンとは違ってると思うんだ。本能で生きてるブイモンとオレはきっと進化のあり方も違ってるんだよ。もし、オレがデジヴァイスを通して、大輔と想いを通じ合わせて進化できなかったら。普通のブイモンみたいに進化することと同じだと思うんだ。それって、きっと本能でいきるエクスブイモンと同じだよ。大輔、怖くない?進化したら、オレがなんにもしゃべってくれなくなったら、エクスブイモンになったオレを怖がらないでいてくれる?」

 

「あー………そっか。そーだよな」

 

「だろ?エアロブイドラモンになったオレが怖くなかったのも、オレがしゃべったからだよね?パタモンが何に進化するかなんて、進化してみないと分かんないけどさ、タケルもパタモンも傷つくよ。きっと、その進化の先にいるのは、パタモンじゃない、全然違うデジモンだと思う。いこう、大輔。このままじゃ、きっと、大変なことになる」

 

「おう、わかった。急ごうぜ。あー、でもなんて切り出すんだよ、ブイモン。タケルのやつ、いろいろ大変だったから多分パタモンに戦ってほしくないんだろうし、パタモンは今のまんまでいいっていってる状態なんだろ?どうすんだよ」

 

「あーそっか。どうしよう?」

 

「オレに聞かれてもわかんねえよ」

 

 

そこにいたのは、パタモン時代に蓄積された負の感情を、完全な善の存在であるがゆえに認めることが出来ずに、自らが信仰する正義の為に、いかなる手段を使ってもデビモンという悪の存在を完膚なきまでに叩きのめすために生まれた天使がいた。

 

自分の存在理由と背反する感情を抱く矛先であるエクスブイモンと大輔にも、刃を向けようとする、現実世界の下級天使の本質を投影した、エンジェモンがそこにいたのである。

 

 

「堕ちたものだな、我が同胞ピッドモンよ。せめて私の手であの世への手向けにしてやろう」

 

 

輝く6枚の翼と純白の衣を身につけた下級レベルの天使型デジモンは冷酷に宣言した。完全な善の存在で、幸福をもたらすといわれている光の象徴は月明かりに照らされて輝いている。

 

悪に対してとても厳しく、相手が完全にデリートされるまで黄金に輝く拳を繰り出し、決して攻撃を止めようとしない性質をもつ彼の攻撃対象はデビモンだけではなく漆黒の龍にも向けられた。それは本能だ。

 

すべてのデジタルモンスターはあるソフトに感染したコンピュータウィルスが先祖であるといわれている。そのうち、ネットワークを通じて世界中に広がったウィルスに目を付けたハッカーが、より強固なシステムを破壊できるように人工知能を埋め込んだのがウィルス種の原型といわれている。

 

コンピュータのデータを破壊して、そのデータを捕食することで生命を維持するように造られた存在は、やがてその生命維持の性質のみをオミットし、コンピュータにハッキングを仕掛けるウィルス種として定着した。対抗する形で生まれたのが、対ハッキング用ワクチンを投与されたウィルスであり、ワクチン種の原型なのだ。

 

ウィルスによってデータが破壊されるのを防ぐために造られたワクチン種は、本能的にウィルス種を攻撃して消滅させる性質を持っている。にもかかわらずこの世界がウィルス種とワクチン種の共存を可能としているのは、その本能を抑え込んでくれる理性というものを現代種のデジモン達が手に入れたからだ。

 

しかし、進化の際に光に飲まれてしまったパタモンの意識がエンジェモンにあるのかどうかは、エクスブイモンには分からなかった。

 

 

 

 

Digimon Discovery

 

ピッドモン

 

成熟期

 

天使型デジモン

 

ワクチン種

 

エンジェモンと同様の聖なる力を持つ天使型デジモン。エンジェモンと対になるように赤い布を携えている。大きな2枚の翼を持っていて、右手には先が月の形をした“ホーリーロッド”を持っている。炎の力を操る。

 

必殺技はファイアーフェザー:燃え上がる羽を流星のように降り注がせる技。得意技はアポロトルネード:炎の竜巻を発生させる技。ピッドスピード:“ホーリーロッド”にエネルギーを溜め、もの凄いスピードで攻撃する技。メガヒール:聖なる力で体力をかなり回復させる技。

 

デビモンはかつてエンジェモンと同族の天使だったとされており、ダークサイドに堕ちた姿であるといわれている。また、成熟期の天使型デジモンが死亡した場合、50パーセントの確率でデビモンに進化することが確認されている。ら、

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