(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第44話

バードラモンから下ろされたブイモンと大輔が、レオモンの手によって慎重に草むらに寝かされる。心配そうに見下ろしているみんなの眼差しに、その傍らでぐったりとして気を失っている一人と一匹の様子を確認していたレオモン。命に別状はないから心配しなくていいと、安心していいとはっきりと告げ、大きく頷いたので、一同はほっと胸をなでおろした。

 

大輔は首筋にデビモンに首を締められたときに出来た大きな手の後が痣となって残っており、必死に抵抗したのだろう両手は打撲後やアザが小さくはあるが点在している。レオモンの見た限りでは、その目を背けたくなるような痣を見たときは、器官が物理的に傷つき、下手をすれば後遺症になるのではと心配したが。

 

 

幸いにもそうではないらしい。執念とも感じられるほど克明に残っている手形は、確かに大輔の意識を朦朧とさせるほど、声帯を攻撃したはずだが、大輔は首を締められたという精神的なショックにより、気を失っているらしい。呼吸困難になったわけではないらしかった。

 

選ばれし子供であるがゆえのデジタルワールドの加護なのか、現実世界の人間のためデジタルワールドではちょっと違うのか。デジタルワールドでデータ化している影響で自己修復関連の能力が異常になっているのか。さすがにそれは誰にも分からない。

 

他の子供達もこの世界になれてきたからでは説明がつかない、肉体的、精神的な能力の向上を自覚することは多々あったが、今回はそれを改めて感じさせる。それでも、大輔が無事であったという事実を前にしては、いかなる議論も不要になる。

 

 

ブイモンもボロボロではあるものの、レオモンすら驚愕させる生命力の強さから、きっと数日もしないうちに元気に回復できるだろうとのこと。他のデジモン達と比べると進化の回数がまだ2回であり、パワーアップしていく速度が劣っていた。もしブイモンがアグモン位の進化回数を経験していたならば、その日のうちに回復できるレベルに到達していたらしい。

 

げに恐ろしいほどの進化の生み出す神秘のパワーである。なんで進化することでどんどん強くなっていくのか分からないが、それでブイモンが元気になるのならそれでいい。デビモンに敗北を喫して撃墜されたパタモンは意識もはっきりしており、光に飲まれてからの記憶はぼんやりとしているものの、エンジェモンの時の記憶はほとんど感覚的に覚えていた。

 

ぼろぼろの身でありながらタケルにだっこされつつ、その報を聞いて涙した。自分のしでかしたことの大きさにすっかり恐怖を抱き、オレンジの耳で体を覆い縮こまって小さく泣いているパートナーの声を聞きながら、しっかりとその体を抱きしめているタケルは、もとのパタモンに戻ってくれたことだけが唯一の幸いだとばかりに頬ずりする。

 

 

すっかり意気消沈してずーんと暗い雰囲気を纏っているちっぽけな存在に、何にも言わないで、ヤマトは優しく頭を撫でた。

 

タケル達の間に一体何が起こったのか、子供たちもデジモン達もその場にいなかったため、全く状況を把握できないものの、タケルやパタモンの様子、大輔達の様子を見ればなんとなく想像はつく。みんな優しいから何も言わない。励ましと柔らかな言葉が降り注ぐ。その優しげな雰囲気が余計タケルとパタモンの心を絞めつけた。ただ心が痛い。

 

なんでこんないい子達が、一番小さなこの子たちが、こんな目に合わなくてはいけないのかと理不尽すぎる現実に、みんなの心に去来するものは様々だ。レオモンが大輔とブイモンを運んでいこうとすると、みんなを押しのけて一直線に駆けてきたのは太一だった。

 

オレがする、と真剣なまなざしに宿る太一の気持ちを見出したレオモンは、大輔をお願いしたので、太一は大輔をしっかりとおんぶして運ぶことになる。小学5年生の太一がおんぶできるほどちっぽけな存在であるということを、太一はその重さを持って改めて自覚する。1日ぶりに再会した後輩は、ぼろぼろである。太一は己にいらだちを隠せずにはいられない。舌打ちしたいのをこらえて前に進んだ。

 

 

なにがなんにも心配いらないだよ、なにが守ってやるから心配するなだよ、なにが頼ってもらわないとこっちの立場がないだろだよ!大輔はちゃんと俺を頼ってきてくれたじゃねーか、なんで俺はあん時ちゃんと聞いてあげられなかったんだよ!

 

ヤマト達からこの漂流生活の中で何度も、他の子供達やデジモン達に対する配慮や気遣いが足りないことに苦言を呈されてきたが、どこか心のなかで大丈夫だと楽観視していた自分がいることに腹がたって仕方ない。太一も太一なりに大輔に対してちょっとだけ素を見せるほどの距離の縮み方を感じていたから、なおさらのこと。

 

 

もう過ぎてしまったことを後悔してもなんにも変わらないことは分かりきっているが、だからといって責めないわけにはいかないのだ。それが一番楽であり、それが一番仲間たちに対してぶつけそうになる感情を押さえ込める方法だから、みんな沈黙している。

 

きっとみんな心のいらだちをぶつける対象を必死に探して、模索して、悩んでいるのである。みんな二律背反に葛藤している。レオモンは思う。この子達は想像以上に強い子供たちだと、選ばれし子供たちである以上に強い何かを秘めていると感じるのだった。

 

 

「………あ、れ?たい、ち、さん?」

 

 

すぐ後ろから聞こえてきた懺悔の対象に、大きく目を開いた太一は目頭が熱くなるのを感じながら、ぎゅっと目をとじて歯を食いしばる。よかった、という想いが心を満たしていく。太一の肩が震えているので、大輔は困惑した。目が覚めたら尊敬する先輩におんぶされているのである。体の節々が痛いし、腕に目をやればずっとたくさんのアザやケガがあってぞっとする。

 

喉にこもっている熱が夢ではないのだと自覚させる。デビモンからの首絞めから記憶が抜け落ちている大輔は、さっぱり状況が飲み込めない。

 

 

ぱちぱち目を瞬かせ、辺りを見渡すと、みんないる。太一の横にレオモンがいることにぎょっとするが、大丈夫か、と声をかけてくる優しい笑顔を見ると、どうやらデジモン達が言っていた、正義の味方レオモンに戻っているらしかった。こくこく頷く大輔は、太一が沈黙を守っていることが分からなくて首をかしげた。

 

なんだか恥ずかしくなって降りようとするのだが、太一はずり落ちそうになった大輔を再び背負いこみ、全然下ろしてくれない。え、なんだこれ、新しいバツゲーム?と見当違いにも程がある発想に赤面して俯いたまま、大輔はただそっと太一の肩に手をおいた。今までぐったりとしていた手が動いているのである。最悪の事態すら脳裏をよぎっていた太一は、もう鼻声であるが、大輔に声をかけた。

 

 

「オレのこと一番に頼ってくれてありがとうな、大輔。なのに、一番大事なときに側にいてやれなくてごめんな、大輔。おかえり」

 

「はい」

 

「ばーか、ここはただいまだろ」

 

「はい、ただいま、太一さん」

 

 

おう、と頷いた太一はやっぱり泣いているようだ。なんでだろう、とさっきから疑問符がたくさん浮かんでは消えている。タケルかパタモンになっちゃんの話を聞いたんだろうか、と大輔は思うが、首が痛くてあまり頭を動かせないため、太一の背中だけが広がる。

 

ただ久しぶりに感じた人の暖かさにふれて、ずっと恋しかったことを思い出した大輔は、思い切って太一に体を預けることにしたのだった。大所帯で帰ってきた大輔達をみて仰天したものの、レオモンがいるということでなにやらただならぬ事情を感じたらしいエレキモンは、突然の訪問と数日の滞在をお願いしてきたレオモンに、大歓迎だと招き入れてくれた

 

 

「さー、大輔、風呂いくぞ」

 

 

エレキモンの家は小さなバスタブとシャワーしかないのだが、太一はそう言うやいなや、えええ、と驚いている大輔の気持ちは置き去りにして、無理やり一緒に風呂行きになってしまう。

 

なぜだか鏡の前に座る太一のせいで、ちゃんと体が洗えない。どいてくださいと言ったのだが、やってやるよ、と言われてしまい、さすがに大輔はフリーズした。お兄ちゃんであって欲しいと思ってはいるが、断じてこういう意味ではない。

 

まるで赤ちゃんでも扱うかのごとく世話を焼かれてはたまらない、と大輔は散々悲鳴を上げて逃げまわるのだが、逃げ切れるわけもない。風呂場から悲鳴が聞こえて、空たちはもっと隠すにも慎重になれないのかと呆れた。ブイモンは?と先程から姿が見えない相棒を心配して質問した大輔は、ケガを治療することが先だと空たちに言いくるめられた。

 

 

自分のことより相棒のことを心配するなんて!とみんなからすれば呆れ半分大輔らしいと苦笑い半分の生暖かい眼差しが向けられる。もっと自分のことを大切にするように、と忠告された大輔なのだが。本人は一体自分に何が起こったのか、さっぱり飲み込めていない。本当にみんながここまで甲斐甲斐しく扱ってくれる理由がわからなくて、しどろもどろになっていた。

 

大輔に対して世話をやくことが今できることなのだ、と圧倒されるほどの意気込みを感じた大輔は、二の句が紡げないまま頷いた。ソファの上に座った大輔の所に、エレキモンから借りた救急箱をもって、空がやってくる。はい、と差し出されたのはタオルで巻かれた氷のたくさんはいった袋だった。言われるがまま喉元に当てた大輔は、じんわりと伝わってくる冷たさに心地の良さと痛みの鈍化を感じる。

 

ああ、そう言えば首を締められたんだっけ、とデビモンに対してなっちゃんのことを問いただすことに懸命だったため、自分の体のことなど全然眼中に入っていなかった大輔は、いまさらのように思い出す。どこか記憶はおぼろげだ。

 

痣は体が内出血したことにより、紫だったり黒だったりいろんな跡が浮かび上がってくる立派なケガだ。痣を消すだけなら、目立たなくなる薬を使ったり、化粧でごまかしたりしてしまえばいいが、医者に見せることが出来ない以上、真っ先にすべきなのは冷やすことである。

 

 

女の子であるため、サッカーで出来た痣などに何かと敏感だった空は、まさかこんなところで役に立つとは思わない。しばらくして腕もきちんと治療が施されているのをぼんやりと眺めていた大輔は、虚脱感に襲われていた。それはそうである。

 

本人は意識していないけれども、首を締められるなんて体験など普通に生活していれば絶対にありえないことである。いくら本人が大丈夫だ、大したことはないと思っていても、小学校2年生でしかない大輔の深層意識が、その見えない暴力の影に怯えて、すっかりトラウマを植えつけているのは仕方のないことだった。

 

ぼーっとしていた大輔は、空に呼びかけられて目を覚ます。炎症に効く軟膏を塗りたいから首を上げて、と言われた大輔は頷いた。天井を見上げた大輔は、ちりちりとする痛みを堪えながら、じっとしている。短く爪を切られた空の手が大輔の前に伸びてくる。

 

 

そのとき、反射的に大輔は後退した。びくりと体が揺れる。体が硬直する。緊張感に苛まれた大輔は、冷や汗が浮かんだ。

 

あれ?なんだこれ、おかしいな、と思ったときには遅かった。もしかして、と顔をこわばらせた空は、大丈夫?と手を引っ込めて問いかける。は、はい、と頷いたものの、体が思ったように動かない。空から軟膏剤を渡された大輔は、鏡を渡されて、自分で塗りなさいと言われた。

 

鏡を覗き込んだ大輔は、初めて自分の首に残された痣に驚いて硬直する。それでも空の手が伸びてきたときの恐怖はすっと消えていき、さっきまであった違和感はあっという間になくなってしまう。何事もなかったかのように大輔は軟膏剤を塗り、渡された包帯を首に回し、目立つとかっこ悪いからかしてあげると言われたバンダナを首にまいた。

 

空は傍らで見守っていた上級生組と視線を交わして、心配そうに大輔を見る。うまいことちょうちょ結びが出来ずに悪戦苦闘する大輔は、気づかない。ようやく完成した不恰好なそれは、ちゃんと大輔の痣を隠してくれた。

 

 

「バンダナじゃなくって、オレのヘアバンドかしてやろーか?大輔」

 

「なにいってるのよ、太一。あなたの汗臭いヘアバンドなんてしたら、治るものも治らないでしょ」

 

「どー言う意味だよ、空!」

 

 

大輔を心配させないように、ゴーグルをはずして青いヘアバンドを差し出そうとした太一の軽口に、空は呆れたように笑った。つられて笑った大輔に、太一がにいっと笑ってのぞき込んでくる。なんすか?と首をかしげた大輔の手を掴んで、太一が立ち上がる。

 

 

「さー、寝ようぜ」

 

「え゛」

 

「なにぼーっとしてんだよ、一緒に寝てほしいって言ったの大輔だろ?」

 

「そ、そりゃそーっすけど、でも、あれはもう終わったっつーか、なっちゃんだから大丈夫っつーか、もうい」

 

「聞こえねえなあ、先輩のいうことは聞くもんだろ、大輔」

 

「えええええっ?!ちょっとま、待ってくださいよ、太一さん!エレキモンの家、寝室以外はソファしかナイっすよ!」

 

「それがどうした?一緒に寝ればいいだろ?首が痛いだろうから、だっこかなー」

 

「だ、抱っこおっ?!そんな俺もう8歳っすよ、赤ちゃんじゃないんすから、んな大げさな!つーかんなことしたら、またブイモンが拗ねちまって面倒なことになるんでやめてください!」

 

 

誰か助けて!と必死で周りを見るのだが、みんな微笑ましげに大輔と太一を見ているだけで、誰ひとりとして助けてくれない。ウザイくらいにかまい倒してくる太一から逃れるべく腕を振りほどこうとしたが、小学校5年生と2年生では力の差は歴然だ。

 

ぎゃーっと騒ぎ喚く大声にみんな釣られて笑う。もみくちゃにされているうちに、いつの間にか太一にホールドされていることに気づくが、いつの間にかあの時感じた違和感はずっと軽減されていた。もちろんなくなったわけではないため、青くなった大輔は吐き気に襲われてトイレに駆け込むハメになってしまい、太一は大いに空に叱られる。

 

大輔の精神に刻み込まれたトラウマが、太一達による楽しさによって少しずつ少しずつほぐれていく。この調子ならば、痣が無くなっているころには、大輔の深層意識は大幅に改善されていることだろう。

 

「そーいや、タケルとパタモンはどこっすか?」

 

 

見当たらない友人たちに、意識を失っている間の出来事を全く知らない大輔は、首を傾げる。

 

 

「タケル達ならヤマトと一緒に寝てるよ。ブイモンももう寝てんだ、起こしてやんな」

 

 

ぐりぐりと頭をなでられながら時計を見れば、確かにもう深夜を回っている。そっか、なら仕方ねーよな、と太一の言葉を素直に信じた大輔は、とりあえず太一と一緒に寝るという由々しき事態を打開するべく、全力で抵抗することにしたのだった。

 

そして、水がほしいんだけどコップはどこだ?と寝室から出てきたヤマトに気づかないまま、逃げまわることになる。

 

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