(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第45話

喉が乾いたというパタモンの要望に答えて、ドアの向こうに消えていったヤマトを見届けたタケル達。ドアの向こう側で大輔の元気な声が聞こえてくる幸福を噛み締めながら、顔を見合わせて安堵の溜息をつく。

 

パタモンはデビモンの一撃を食らっただけであり、ヤマトにケガの処置をしてもらえば、もうご飯を食べてオフロに入って寝れば元気になる。とレオモンから直々に言われているため、パタモンはずっと元気だ。でもパタモンが傷つけてしまったブイモンが担ぎ込まれた部屋は閉ざされている。パタモンはうつむいて、しゅんと耳の羽で顔を隠して泣いてしまう。

 

 

立ち入り禁止の理由がたとえ、ブイモンが大輔と顔を合わせたら絶対にケガのことなんか忘れてはしゃぎまくるからであり。久々にみんなと会えたことを喜んで、大騒ぎで遊びまくり。寝ていれば元気になるのになおさら症状を悪化させかねないというレオモンの的確な判断であってもだ。

 

現在ブイモンは、大怪我をしているのに大輔たちのところに行きたがるのを呆れるレオモン。寝る場所を奪われた腹いせから、いらないところまで包帯でぐるぐる巻きにして遊んでいるエキモン。主にエレキモンにより、むりやりベッドに拘束されている。

 

膝の上で頭をなでられながら、パタモンはずっとタケルに話した。どうしてエンジェモンに進化したときにああいった事態になってしまったのか、パタモンなりに考えた理由を必死で紡いでいた。

 

 

タケルのパートナーデジモンなのに、タケルが頼ってくれない寂しさと、よわっちいから仕方ないんだという諦め。その癖に一丁前に嫉妬や妬み、いらだちを抱えて、ずーっと我慢していたことを告白する。太一やヤマト達に対する負の感情ももちろんパタモンの中にはあったし、タケルに対しても確実に存在していた。

 

しかし、大輔とブイモンは、タケルが言うにはパタモンと同じ「友達」という括りの中にいる同じ立場なのだ。それなのに、タケルは、同じ「友達」であるにもかかわらず、相談するときには必ずパタモンではなく大輔を選ぶ。会話をするときには基本的にパートナーデジモンのことはそっちのけだし、喧嘩したり仲直りしたり、パタモンとタケルは出来ていないことを全部全部大輔はやってしまうのだ。

 

取られた、という意識が芽生えていく。選ばれし子供の中でパタモンにとってタケルの次に一番近い存在なのは、ヤマトと大輔、そしてパートナーデジモンたち。だかヤマトはタケルのお兄さんであり、デジモン達にとっての一番はパートナーだと分かっているから、まだガマンできる。

 

でも大輔はパタモンと同じく、タケルとこのデジタルワールドで初めてであった友達という関係性という意味で、比較対象と成り得る。比べっこしたときに、やっぱりパタモンと大輔はいろいろと差があると感じてしまうのである。仲がいいからこそ、近い立場だからこそ、なおさら感情をぶつけやすくなっているのだ。

 

大輔とタケルの喧嘩を観てきたパタモンは、大輔が小学校2年生にもかかわらず、時折誰にも負けないくらい大人びている時がある。たとえ対立したとしても、喧嘩したとしても、一度仲良くなった相手のことは絶対に嫌いにならないという心がとっても広くて寛大であるという点を知ってきた。

 

たとえ戦うことになったとしても、最後まであきらめないで受け入れようとするということをなっちゃんの話から知った。パタモンはとてもではないが真似できない、羨ましく思う性質である。嫉妬ばかりしているのに仲良くしてくれる大輔を見ていると自分が嫌になる。

 

きっと大輔ならどんなことをしても許してくれるだろうことを分かっていながら。それを理由にパタモンは自らが抱える負の感情を主に向ける代表を、大輔とそのパートナーであるブイモンにしたのである。どうしようもない甘えである。

 

 

結局のところ、パタモンは誰にも嫌われたくないのだ。どこまでも自分勝手で生意気な考え方である。こんなことバレてしまったら、きっとタケルは愛想を付かせて離れてしまうだろう。

 

ただでさえパタモンは一緒にいることしかタケルの役に立てないというコンプレックスを抱えていた。それが尚更進化への固執につながる。強い自分になりたい。よわっちいパタモンである自分は大っきらいだけど、進化できたら何かが変わる気がする。

 

自分ではなんにもしないくせに、考えばかりが肥大していき。行動できないことの言い訳も全部大輔たちのせいにして。都合の悪い部分は全部全部見ないふりをしていたのである。なんでブイモンも対象にしたのかといえば。

 

かつてはブイモンもパタモンと同じく嫉妬する仲間同士だったのだ。なのにブイモンは大輔との関係構築に成功したのか、大輔にべったりで付き合いが悪くなってしまい、吐き出し口が無くなってしまったのも原因の一つ。構ってくれなくなったからだ。

 

タケル達が会話に夢中に成っている間、パタモンとブイモンはずーっとパートナーが気づいてくれるのをまっている。お互いに不満とか愚痴とか、わりといろいろな話を交わしていたことを初めてタケルは知る。

 

 

意外とかわいい顔をして、預かり知らぬところでは結構毒舌なパタモンの一面にびっくり仰天するタケルである。だいたい、最初の漂流生活の時の食料集めの時に、喧嘩は友達の証だという話を大輔とタケルはしている。なのにオレと大輔は駄目なんだって、というブイモンからの不満や愚痴を聞いていたパタモンだ。

 

エレキモンとの喧嘩をしたときにどうしてタケルがやめさせたのか分からない。やっぱり特別扱いや贔屓だと不満が募っていく。そして、頼りにされていない、ということを節々に感じるタケルの態度は、ますますパタモンを孤独にさせていく。

 

パタモンはたしかによわっちいと自分のことを認めているが、それを悔しいともどかしいと歯がゆく思っている点で、タケルとは大きく認識の違いがあったというわけだ。

 

 

タケルは今までおんなじ立場だと思い込んで、なんにも話をしていなかった自分たちの関係性が、いかにすれ違いの上で成り立っていたかをようやく知る。タケルもパタモンも相手の求めていることだけは過敏なまでに感じ取ることが可能だった。

 

それがお互いの思いに気づくのを遅らせた。だから、進化のときに、わけわかんなくなっちゃったんだろう、とパタモンは思う。初めての進化で、心の中で何度も繰り返してきたことを、実際に大輔やブイモンに対して行なってしまったという事実は、パタモンに進化に対する躊躇を生む。怖い。また誰かを傷つけてしまったら、と思うと怖くなる。そう言って泣いているパタモンをタケルは抱っこした。

 

 

「ごめんね、パタモン。僕、ずっと君のこと、僕と一緒でなんにも出来ない子だって安心してた。仲間だと思ってたんだ」

 

「うん、知ってるよ、知ってたよタケル。タケルがパタモンの僕しか必要としてないの、分かってたよ」

 

「ホントにごめんね、パタモンは僕のパートナーデジモンなんだもんね、つらかったでしょ?」

 

「うん。すっごくやだったよ、タケル。それで諦めて、我慢しちゃう僕がもっと嫌だった。だからね、進化したかったんだ。進化さえ出来れば、全部全部解決するって思ってた。でも、そうじゃなかった。僕、怖いよ、タケル。エンジェモンだった時のこと覚えてるけど、僕の中に僕じゃない僕がいるんだ。僕がいるのに、全然違う僕がタケルと話してて、大輔たちを傷つけて、デビモンと戦うんだ。進化しても僕なのに、僕、あの時の僕がいってたことがわかんないんだよ。全然分かんないんだよ、怖いよ、タケル。僕、もう進化したくないよ、進化しなくっちゃいけないのはわかってるけど、もうやだよ」

 

 

タケルにしがみつくパタモンは、すっかり進化に恐怖心をいだいているようだった。自分が自分ではなくなってしまうのだ、そりゃ怖いに決まっている。本来ならば理性が抑制してくれているはずのデジタルモンスターとしての本能を暴走させたあげく、仲間も敵も見境なく歯牙に掛けようとしたのは間違えようのない事実なのだ。

 

しかも黒い歯車に操られているように、外部からの干渉による精神操作ではなく、エンジェモンは自らの意志で淡々とそれらの行動を実行に移したのだから責任は間違いなくパタモン自身にあるのだ。一度すべてを光に塗りつぶされてしまった恐怖は想像を絶する。

 

 

「僕もね、エンジェモンのいってることが全然わかんなかったよ、パタモン」

 

「うん」

 

「でもね、僕がもっと辛かったのは、エンジェモンが僕に何をして欲しいかって言われたときに、何を望むんだいって聞かれたときにね、なんにも答えられなかったのが、すっごく、すっごく、ショックだったんだ。僕、もう、何がいいことなのかとか、わるいことなのかとか、全然分かんなくなっちゃった。難しいね、パタモン。僕、エンジェモンを見たとき、綺麗だって思ったんだ。かっこいいって思ったんだ。何にも出来ない僕を導いてくれるんだっておもったんだ。でも、エンジェモンが僕に教えてくれなくって、僕に教えてくれって言われちゃったんだ。きっと僕がからっぽだから、エンジェモンもそうなっちゃったんだと思ったら、悲しくなっちゃったよ」

 

「タケル……」

 

ぱたん、とドアがあいて、振り返ったタケルのところに、ヤマトがやってくる。たっぷり注がれた水を渡された一人と一匹は、流した涙の補給をしながら、隣に座ってくれたヤマトを見る。ドアのほうをしきりに気にしているヤマトが不思議で、お兄ちゃん?と首をかしげたタケルと、見上げてくるパタモンに、少し言いよどんだあとで、ヤマトは罰が悪そうにつぶやいた。

 

 

「ごめんな、さっきの話、聞こえてた」

 

 

そのあとに不自然な空白。ヤマトがいない隙を見計らっての会話である、入るタイミングを見計らっているうちに、引込みが付かなくなって強引と分かっていながら入ってきたのだろうと判断したタケル達は、うーうん、大丈夫と笑った。ヤマトが一人と一匹をなでる。

 

 

「からっぽなんかじゃないぞ、タケルもパタモンも。一生懸命悩んでるだろ、考えてるだろ、考えるから生きてるんだって昔の人が言うくらいだ、そんなこというな」

 

「考えるから、生きてる?」

 

「お兄ちゃん、難しいこと知ってるんだね。すごいや」

 

「ま、まあな」

 

 

褒められることに慣れていない、照れ屋なところはやはりガブモンに似ている。そう言えばガブモンはどこにいったんだろう。

 

 

「タケル、パタモン、ちょっといいこと教えてやるよ」

 

「いいこと?」

 

「なに?お兄ちゃん」

 

「さっき、タケルはエンジェモンに教えてくれって言われてショックを受けたみたいだけどな、天使だって、天使の仕事を始めたばかりの頃は、俺達みたいにいろんなコトを勉強するんだ」

 

「え、そうなの?」

 

「ああ。だれだって初めてのことを、誰からの説明も助けも受けずに、成功させることなんて出来ないだろ?天使だって失敗したり、悪いことをして謝ったりしながら、未熟だったけど一人前に成長するんだ。どこで勉強すると思う?」

 

「どこなの?」

 

「俺達の世界だよ」

 

「え?どうして?天使って天国にいるのに、僕達の世界で勉強するの?」

 

「なんでだと思う?」

 

「うーん、わかんないや」

 

「それはな、オレ達のほうが天使よりも勉強するのが上手だからなんだ。それに、オレ達も家じゃなくて学校って言う離れたところで勉強するだろ?天使だって天国は家みたいなもんだ、オレ達の世界が学校なんだよ。オレ達の世界で勉強して、テストを受けて、成長して一人前の天使となって天国に帰って行くんだよ。タケルもパタモンもエンジェモンに教えてやればいいんじゃないか?オレ達の世界に勉強しに来てるんだから、ゆっくりでもいい、エンジェモンが理解できるまで教えてやればいいんじゃないか?何をするのが正しいのか、間違ってるのか。タケルやパタモンが、先生になってやればいいんだよ」

 

「僕たちが」

 

「先生?」

 

「ああ」

 

「でも、先生ってことは、僕達がいろんなこと知ってなくっちゃ、分かってなくちゃだめだよ?お兄ちゃん。僕達に出来るかな?僕まだ小学校2年生なのに」

 

「できるさ。タケルはオレの弟で、パタモンはそのパートナーデジモンなんだから。それが分かってるんなら、これからいろんなコトを勉強していけばいいってことも分かるだろ?」

 

「うん、わかるよ。先生って、いっぱい勉強して、本読んで、いろんなコトをやって、それで僕達に教えてくれるもんね」

 

「そうなの?タケル。先生ってすごいね」

 

「うん。友達を傷つけちゃだめだとか、喧嘩したら謝るとか、教えてくれたの幼稚園の先生だったもん。すごいんだよ」

 

「そうなんだ。そっか、うん、ありがとうヤマト、僕ちょっと元気でてきたよ」

 

「ありがと、お兄ちゃん。僕、ちょっとだけ、頑張ってみる」

 

「ああ、その調子でがんばれよ」

 

 

うん、と頷いたタケルとパタモンが微笑む。安心した様子で笑ったヤマトは空っぽになったコップを抱えて、ヤマトが再びドアの向こうに消えて行く。やっぱりお兄ちゃんはすごいなあ、いろんなことを知ってるんだなあ、と改めて大好きなお兄ちゃんに尊敬の念を込めるタケル。

 

パタモンも、ちょっとだけ元気が出たのか、キラキラとした目で先生という存在に想いを馳せた。ばたん、と扉が閉まり、はあ、と大役をこなしたヤマトはようやく重荷が降りたのか溜め息をついた。隣を見れば、ずーっと聞き耳を立てていたらしく壁に張り付いていたミミと光子郎と丈が、あはは、と笑っていた。

 

お前ら、と思わず声を荒らげそうになるが、タケルくんたちに聞こえちゃいますよ!と光子郎に言われて、うぐ、となる。

 

 

「どうでした?」

 

「ああ、ちょっと元気が出たみたいだ」

 

「ふふー、でしょ?ヤマトさん。やっぱり天使様の絵本はいいお話だもん。タケルくんにはちょうどいいと思ってたんです。やっぱり男の子ってこういうとき、だめだめなんだから。頼りにならないんだから」

 

「そんなこと無いだろ、人は考える葦であるって言葉を教えた僕にも感謝してもらわないとね」

 

「いえ、お二人の言葉をヤマトさんでも伝えられるように、言葉を優しくした僕が一番頑張りましたよね」

 

「………なあ、怒っていいか?」

 

「なんて声をかけていいのかわからないっていってたのはヤマトの方だろう?ここは素直にありがとうって言うべきだと僕は思うね」

 

「あたしも」

 

「僕もそう思います」

 

「…………ありがとう」

 

 

聞こえていたの言葉に続くのは、外の博識三人組である。誠意が足りない、と日ごろ6年生であるにもかかわらず、5年生のヤマトに呼び捨てにされている恨みからか、眼鏡を光らせながら丈が畳みかけ。いつもはクールな癖に弟のために頼れるお兄ちゃんであるためには、ちょっとだけ意地を張るヤマトが面白くて4年生コンビは調子に乗る。ヤマト、頑張れ、と巻き込まれたくないガブモンは、ちゃっかりデジモン達とともに傍観を決め込んでいた。

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