(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第51話

ベンパツという奇抜な髪形に、どこまでが頭でどこまでが顔なのか判断に苦しむ顔は、その年齢と共に刻んできた沢山のしわがある。一見寝ているのかと心配してしまいそうな一重まぶたに、限りなく細い目、しかしながら妙に貫禄があるのは、その実態がつかめない正体不明さからか。

 

腰が曲がっているのか中腰に両手を回しているその男は、子供たちを端から端まで眺めて、飄々とした笑顔をたたえて、特徴的な笑いをこぼした。身を包んでいる服装は赤と青の民族衣装のように見えるが、映りが悪い映像のせいでいまいちどういった衣服なのかは判断がつかない。

 

 

デビモンが妨害していた通信が復活したことで、ようやく子供たちとデジモン達の前に現れることが出来た、とあまりにも予定調和のタイミングで、ホログラムから現れた老人は、ゲンナイと名乗った。この正体不明の老人は、子供達からすれば、この世界に来てから初めてであった人間である。

 

 

ということで、質問攻めにしてくる子供達からの信頼を得る気は全くないらしい。打てば響くように返ってくる言葉は、全て要領を得なくてあいまいで、嘘をついているのか本当のこと言っているのか意図が読めない雰囲気をまとっている。

 

何者だと聞けば、この世界が出来てからずっとこの世界に住んでいると発言し、人間であって人間ではないが、デジモンではないとどうともとれる言葉を紡ぐ。

 

 

何故子供達がこの世界に呼ばれたのか、と聞いても、不自然な沈黙の後には知らないとか分からないとか言って煙に巻いてしまう。

 

どうやったらこの世界から元の世界に帰れるのかと聞いても、先ほどよりも長引く沈黙の後に、知らんのう、と笑うのだ。それでいて、じゃあなんで子供たちの前に現れたのだ、と苛立った問いかけには、「選ばれし子供達」に「サーバ大陸」に来てほしいと妙にはっきりと断言する。

 

 

「サーバ大陸」に来て、暗黒の力である敵を倒してくれと、こちら側の利益になることは一切提示しないくせに、一方的に要求を突き付けてくるのである。選ばれし子供達ならできるはずだと、義務と責任を押し付けてくる初対面のこの老人に、子供たちは当然ながら猛反発した。

 

この世界における伝説にしかすぎないはずの英雄譚に無理やりあてはめられた子供達はたまったものではない。確かに結果的にファイル島をデビモンの暗黒の力から救ったのは子供たちとパートナーデジモン達であるが、それはただ元の世界に帰りたい一心だっただけだ。

 

 

余計な期待をさせてしまったことを謝罪するレオモンには、みんな首を振った。レオモンはあくまでも可能性を提示しただけであり。今まで元の世界への手段を掴めなかった子供達はその可能性を極大解釈しただけであり。

 

レオモンにとってはこのファイル島は故郷である。なかば騙すつもりになってしまったとしても、共に戦ってくれた仲間であり、謝ってくれたのだからそれでいい。

 

 

デビモンの言葉がみんなの耳に残っている。エンジェモンがみんなのデジヴァイスの力と自分の命を引き換えにしてようやく打倒したような強敵以上の敵がいると、デビモンは高笑いしながら絶望の宣言をして消えていったのだ。

 

エンジェモンが放った全力の叱咤激励である程度持ちこたえてはいるが、嫌でも弱音を吐いてしまう。このデジタルワールドの住人ゆえか、どこまでも人間の感情や情緒といったものを考慮できるだけの配慮が微塵も感じられない。

 

 

ゲンナイは、そんなことはないと否定する。たった一言でも「よく頑張った」とねぎらいの言葉をかければ、それだけでも純粋な子どもたちの心に響くものがあるのだが、びっくりするほど機械的なゲンナイは、開口一番に「デビモンを倒すとはなかなかやるのう」と妙に上から目線で言葉を吐いた。はっきりいって第一印象は最悪に近い。

 

 

この世界に来てから初めてであった大人であるはずのゲンナイから、そういう態度と言動を持って対応されたのだ、だれも首を縦に振ることはない。子供たちの警戒心とどん底の信頼関係など一切気にする様子も無く、ゲンナイは子供たちに問われた「デビモン以上の強敵への対抗手段が無い」という疑問にのみ答える。

 

パートナーデジモン達はもう一段階、進化することが可能だと提示した。頑固一徹、全然人間らしくないゲンナイの言葉に不信感を抱きつつあった子供たちを引きとめたのは、新しい力の提示だった。

 

 

この漂流生活において、子供たちを支えてきたのはパートナーデジモン達であり、デジヴァイスの力であり、進化である。いわば、仲間である子供たち、パートナーデジモン達以外に、唯一信頼することが出来るものである。

 

しぶしぶ耳を傾けることにした子供達に、ゲンナイは映像を何点か見せた。「タグ」という首から下げるタイプのアクセサリーのようなものと、「紋章」という「タグ」の中に入れる四角く手薄くて小さなチップのようなものだ。この2つをデジヴァイスに使うことで、パートナーデジモン達はもう一段階進化することが出来るという。

 

 

ごくりと唾を飲み込んで、顔を見合わせた子供たち。しかし、肝心の場所について問われたゲンナイは、これまた要領を得ない対応で、子供たちを不安にさせる。「紋章」は「サーバ大陸のあちこちにばらまかれてしまった」という。

 

「タグ」は「デビモンがまとめて何処かに封印してしまった」というのだ。つまり、ゲンナイの要求をまとめると、サーバ大陸にいって、どこにあるのかも分からないタグと紋章を探して、暗黒の力を持つ新たな脅威に立ち向かえというのである。

 

 

しかも、言動と態度から察するに、ゲンナイという老人は子供たちとデジモン達に一切手を貸してくれる気配はない。あまりにも無茶苦茶すぎる要求である。挙句の果てにゲンナイはまた別のデジモンの妨害が入ったから、これ以上の通信はできないと一方的に宣言した。

 

早く大陸に来るよう発破をかけ、待っているという言葉を残して、ぶつりと映像が途切れてしまう。ノイズと共にかき消えた立体映像。子供たちは途方に暮れてしまう。敵とも味方とも分からない傍観者的な第三者の立場の人間が、いかに厄介で嫌で、最悪な奴かということを知ることになってしまうのだった。

 

 

いつまでもムゲンマウンテンの麓で立ち尽くしているわけにもいかず、子供たちはデジモン達と共に、ムゲンマウンテンの湧水が沢山あふれている豊富な水源をたどり、滝が流れている洞窟で夕食をとることにしたのだった。

 

 

「この地図が正しいなら、ファイル島からサーバ大陸はそうとう離れてますね」

 

 

ファイル島からサーバ大陸までの場所がわからない、と

もっともな指摘をした光子郎に、ゲンナイはパソコンにデータをダウンロードさせた。テントモンがカブテリモンに進化した、アンドロモンの工場以来、充電不足で起動することが無かった筈のノートパソコンが、何事も無かったかのごとく普通に動いている。

 

ダウンロードしたデータを展開した光子郎は、最大画面にしたパソコンをみんなに見せた。今までのファイル島の漂流生活において、決定権を担ってきたのは上級生組による多数決と話し合いである。いつものようにパソコンは5,6年生によって占領される。

 

いつものように彼らの決定の行方を見守ることにした大輔は、サーバ大陸かあ、と呟いてるブイモンの横で、退屈そうに座っていた。本当に大陸だね、と溜息しか出てこないらしい丈のボヤきが聞こえたのか、首をかしげている。

 

 

なにか大陸であることが問題なのだろうか。そんな様子を見つけた光子郎は、持ち前の知的好奇心とめったに振るえない誇示心を満たすべく、しめたとばかりに近づいた。一応光子郎にとっても大輔はサッカー部の大切な後輩の一人である。大輔も太一や空がなにかと光子郎を頼りにしているのを見ている筈なのに。なにかと大輔は太一や空に頼ってばかりで、なかなか先輩としての面目を立たせてくれないのだ。

 

4年生と5年生、一歳しか違わないのにである。光子郎自身、太一の押しの強さに負けてサッカー部に入部した経緯があり、この仲間達の中ではいまいち太一以外は信頼しきれていないのは、すっかり棚に上げているようだ。長い漂流生活が少しずつみんなの氷壁をゆるやかにしつつある証拠かもしれないが、まだまだ統一感の無い子供達が、一致団結するのは先がながそうである。

 

確かに光子郎はミミと比べるとずっと身長も低いし、体格も小柄であり、タケルや大輔よりもぎりぎり大きいくらいの差しかないため、頼りないと思われるのは仕方ないかもしれないが、それでちょっとプライドが傷つくので認めたくない光子郎である。これでもサッカー歴は大輔よりも2年は長いのだから。ちなみに光子郎は太一による暴露をヤマトが事前防止したため、大輔の事情を一切知らない。

 

 

大輔からすれば、研究者体質の光子郎は非常に近づきがたい雰囲気を持っている。いつもテントモンと難しい話ばかりしているし、敬語だし。知識や倫理展開においては、恐らく丈と並んで子供たちの中では一番突出した面がある。決定権を持っている上級生組がときどき、大事な話し合いの時に意見を求めているのを見ている。だから同じ4年生のミミよりも上級生組として見ている。

 

でも、光子郎は4年生であり、サッカー部の先輩ではあるが、光子郎の危惧していた通り、どこか頼りなく見えてしまう。全てにおいて中途半端な立ち位置に見えてしまうらしく、悲しいほど接点が見つからない。話すにしても話題が悲しほど見つからないのだ。

 

 

共通項は同じサッカー部であり、大輔も光子郎も方向性は全く違えども信頼している太一である。だが太一が仲介に入らなければ話もなかなかしずらい微妙な関係である。気になることがあるとみんなのことそっちのけでノートパソコンに向き合って石像のように固まってしまう知識欲の塊がなおさら距離感を感じさせる。

 

それに敬語だし。サッカー部の先輩なんだから敬語じゃなくてもいいのになあ、と他人行儀に感じてしまうのも、ちょっとためらわせていた。これは完璧に光子郎の取っていた行動が裏目に出ている。テントモンにだけ砕けた口調をしている光子郎は実のところ、筋金入りの礼儀正しい敬語少年ではなく、年下の後輩にはためぐちを聞くのが普通だ。

 

 

しかし、ならば何故タケルや大輔に対してまで敬語を使っているのかといえば。頼りなく見えてしまう小柄な体質で年上として見られないのは嫌だから。せめて話し言葉くらいでも敬語を使って、大人びたところを見せたい。先輩ぶりたいという非常に男の子らしい考え方がそうさせていた。

 

悲しいかな、全く別の意味で大人として見られてしまっている光子郎が、ようやく見つけたのが自分が豊富に持っている雑学レベルから学術レベルの知識の披露だった。デジヴァイスに関する話をした時、大輔とタケルは初めて光子郎に対して、すごいこのひと!という反応を明確に見せ、思い切り食い付いたのだ。

 

これはいける、と思ったのも無理はなかった。そんなこと知るはずもなく、大輔はなんすか?といつもなら絶対に話しかけてこないであろう先輩に、首をかしげた。

 

 

「どうしたんですか?大輔君」

 

「え?」

 

「なにか、気になることでもありますか?」

 

「あ、えっとっすね、光子郎先輩、大陸だからなんか問題でもあるんすか?」

 

「いい質問ですね、大輔君。そもそも島は、自然にできた陸地があって、海に囲まれていて、高潮っていう一番波が高くなる時でも見えてるのを言うんです。大陸と島って、実は明確な違いはないんですよ。ただ、オーストラリアより大きい陸地を大陸、グリーンランドっていう世界で一番大きな島より小さい陸地を島と呼ぶのが、世界共通の考え方なんです。丈さんが言ったのは、ファイル島と比べて、サーバ大陸がとんでもなく広いので、これから僕達が旅をするとしたらすっごく時間がかかりそうだからです。ゲンナイさんがいうのが本当なら、僕たちは紋章を探さなくてはいけませんからね」

 

「へー、どんくらい広いんすか?」

 

「そうですね、大輔君は伊豆大島に行ったことはありますか?」

 

「え?い、伊豆大島?えーっと、行ったことはないっすけど、東京からずーっといったとこにあるトコっすよね?」

 

「ええ。その伊豆大島がこのファイル島だとしたら、サーバ大陸は地図を見る限りでは、日本の関東と関西を合わせたよりも、もっと広そうです」

 

「えええっ?!」

 

「それに、相当距離が離れてそうなんですよ。地図っていうのは、縮尺といって、何百分の1くらいの大きさで書かれているので、縮尺ががわかればどれくらい離れているのか、計算できるはずなんですが、ちょっとわからないんです。かなり離れているのは事実です。もし行くことになるなら、何日かかるか、それに、どうやっていくのか考えないと」

 

「はえー、すごいっすね、光子郎先輩。あの地図みただけで、そんなにいっぱいわかるんすか」

 

「ええ、3年生4年生になれば大輔君も学校で習いますよ」

 

「うえー、難しそうっすね、オレ勉強嫌いなんすよ。大丈夫かなあ」

 

 

この世界にまできて、勉強の話を聞く羽目になるとは思っていなかったらしい大輔は、本気で将来の勉強について不安をにじませている。間違いなくこの後輩は、都道府県や日本の地理といった一般常識レベルの社会の問題でも苦労する。四苦八苦しながら暗記する羽目になるだろうことは予想できる。

 

とりわけ都道府県は出来て当たり前の常識クイズだ。おそらく毎年恒例の書き取り問題が行われるだろうことは明白。毎年毎年暗記問題や地理系の問題が大っきらいな小学生が絶叫する地獄の季節がやってくる。

 

ああ、そう言えば夏休み明けにやるって担任の先生が言ってたきがする。余計なことまで思い出してしまった光子郎は、あはは、まあ頑張ってください、と誤魔化すように笑った。

 

 

「夏休みの宿題、ちゃんとやりましょうね。そしたら大丈夫ですよ」

 

「嫌なこと思い出させないで下さいよ、先輩!オレ、一個もやって無いんすから!」

 

「去年みたいに宿題提出まで、クラブ立ち入り禁止令がでないように気をつけてくださいね」

 

「ううう」

 

 

がっくりと肩を落とした大輔に、同情の余地はない。4年生の光子郎からすれば、夏休みの自由研究が図画工作でも許される低学年組はうらやましいの何ものでもない。もちろん調べたり、まとめたりすることが大好きな光子郎にとって、その宿題は苦痛でも何でもないのだが、みんなの前で発表するとなれば話は別である。

 

模造紙で張り付けた研究結果をみんなに見てもらうだけでいいではないか。何故わざわざ4年生のクラスの担任は、みんなの自由研究を発表会という形で公開処刑するのかわからない。もともと社交的ではない性質の光子郎は、みんなの前で発表するという目立つ行動を強制されるのは大の苦手である。

 

この漂流生活だって、もはやどうしようもないと諦め、

そして慣れてしまったため苦痛に思うことは大分なくなってきたのだが、初めのころは24時間みんなと一緒という集団行動が嫌で嫌でたまらず、少しでも距離をとるために後ろの方を歩いていたこともある。

 

 

みんなと一緒が嫌だと思う一方で、頭脳明晰な頭はその非現実的な願望が実現不可能であると簡単に叩きだしてしまい、行動をまず抑制してしまう。上級生との馴れ合いをしたくないと予防線として始めた敬語は、年下に対しては先輩ぶりたいという感覚で共に固定化されている。

 

もともと内向的な性質に、さらに拍車をかける事件が光子郎を襲ってから何日たつか分からないが。このどうしようもない漂流生活は、光子郎にとっては素の自分がちょっとずつ曝け出されてきている兆候が見え隠れしている。敬語がすっかりキャラクターとなっていることに気付いてしまった光子郎は。せめて年下である大輔やタケルにだけでも崩したいなあと考え始めている。

 

 

おもちゃの街の一件以来、明らかに同じクラスのミミは、タケルや大輔と共に仲良くなっていて、普通に会話しているのをよく見かけるようになった。やっぱりちょっとさみしいのである。なかなかタイミングが見つからず、結局なにも言いだせないまま終わってしまったけれども。

 

 

「なあ、お前ら、ちょっとこいよ!」

 

 

太一からの声がする。せっかく低学年組との親しくなるとっかかりとして、ヤマトのガードが堅いタケルよりも先に、共通項が多く、比較的話しかけやすかった大輔とようやく話すタイミングが見つかったというのに、またつぶしやがったサッカー部のキャプテンめ。

 

一番信頼しているがゆえに、一番正直な感想をぶつけやすい矛盾をはらんでいる光子郎は、内心いらっとしつつ、立ち上がる。デビモンの一件以来、大輔に対して太一が構い過ぎているとは光子郎も感じていることである。

 

 

事情もわかるが、それにしたってあれはおかしくないか。大輔が嫌がるってそうとうだろう。光子郎と違って人見知りしない社交的な性格の友達も知り合いも多くて、よく遊んでいるのを見かけるアウトドアの典型のはずなのに。

 

太一のことを一番慕っている微笑ましい後輩であると認識している光子郎がだ。そのやりとりに驚いてしまうくらい、第三者から見てもおかしかった。顔を見合わせて首を傾げた大輔と光子郎は、手招きする太一に言われるがまま、話し合いが紛糾しているらしい奥へと向かった。

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