(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第52話

太一と空、ヤマト、そして丈の話し合いはいつにもまして紛糾していた。サーバ大陸に行くか、行かないか。たったひとつの議論であるにもかかわらず、今後の方針としてはどでかすぎるのだ、無理もなかった。

 

結果だけ見るならば、行くのは太一のみ、行かないは空、ヤマト、丈で、3対1と圧倒的に太一が不利である。それぞれが明確なメリットデメリットを抱えている。ムゲンマウンテンの時のように、妥協案である和解案や折衷案を提示することは事実上不可能である。それだけは明白だったので、みんな真剣だった。どちらが間違っている正しいと言えない状況である、なかなか決着がつかない。

 

 

 

行かないという選択肢を選んだ場合、デビモンという暗黒の力を打ち破ったことでこのファイル島は平和になっていることが最大のメリットだった。衣食住は確実に保障されているし、もう敵が現れないことは、ゲンナイという老人が逆説的に教えてくれている。今まで黒い歯車から解放してきたデジモン達がいるのだ、お願いすれば何処だって子供たちやパートナーデジモン達を受け入れてくれるだろう。

 

もう戦わなくてもいいという最大級の安心材料は、よかった。漂流生活の中で仲間達の安全など様々な課題を抱えながら、時には励まし、時には和ませ、常に気を使ってきた上級生からすれば。

 

精神をすり減らしながら頑張り続けてきた上級生組にとっても。デジモン達と一緒に頑張り続けてきた仲間達にとっても。魅力的であることはいうまでもない。建て前ではみんなのことを守るため、と慎重論を振りかざしながら。もうここまで来ると個人的な意見や私情が思いっきり入り込んでくる。疲れが見え始めていた。

 

 

もう戦いたくない。つかれた。もう休ませて。一人になりたい。もう嫌。すぐそばで守るべき子供達がいる手前、言えない言葉はオブラートに包まれ、反対意見に変わる。ファイル島からサーバ大陸までの移動手段。ゲンナイという老人に対する判断。

 

衣食住の保障、安全性の不確定さ、もたらされた情報の不明瞭さ。様々な形を変えて、自分で自分の言いわけを作り上げ、ほら、やっぱり無理だよ、という言いわけを紡ぎだしていく。勢いがあるのは当然である。本音に一番近いから。

 

 

 

 

行くという選択肢を選んだ場合、現状打破という一点がすべてである。ゲンナイという爺さんは信用できない。たしかにファイル島を離れてサーバ大陸にいくなんて、無謀極まりないし、何もわからないし、罠かもしれない。

 

わざわざ目の前にある幸せの楽園から、未知の世界に飛び出すなんて、ばかばかしいにもほどがあるだろう。しかし、現実問題として、ファイル島には元の世界に帰る手段がすでに無いことは、みんなわかっている。もう手段も手掛かりも無いのだ。

 

 

それは、この島全て回ったことで、地図が完成してしまったという達成感と共にもたらされた、残念すぎる事実だった。あきらかに何かを隠しているゲンナイという老人は、サーバ大陸にいるという。そして会いに来いと言ったのだ。

 

これは子供達に残された唯一の手掛かりなのである。ゲンナイという老人は、確実に何かを知っていて、隠していて、それでいて子供たちとデジモン達の力を必要としている。太一は空達の慎重論の真意を同じくらいわかっているから、発破をかける。

 

 

今ここで諦めてしまったら最後、ずっと死ぬまでここに生き続けるも同じだ。歩みを止めてしまったら、一度でも座り込んでしまったら、もうみんな立てないだろう。また旅をしようという意欲はきっと無くなってしまう。守る立場に置かれてしまったとはいえども、所詮上級生組だって、まだ12歳前後のちっぽけな子供なのだ。何度も立ち上がれるほど強くない。

 

 

 

今までずっと孤独だった彼らでは、もうまともな話し合いなど望むべくもない。それに無意識のうちに気付いている太一は、誰も賛成してくれない現状にいらついて、らちが明かない、ということで、今まで完全なる蚊帳の外だった、守られる側だった子供達を呼んだのである。

 

屁理屈にもほどがあるが、引っ張り込む気だった。これからのことは、今までと違って最大の転換期になるから、こいつらにも権利があるだろとかなんとか、思いついた言葉を適当に並べまくれば、太一の取った思わぬ行動に唖然としていた空達は、一理あるその意見が新鮮に見えてしまい、それもそうだと頷いてしまう。

 

 

彼らは気付いていない。その時点で太一が取った行動の術中にはまったも同然だった。みんな忘れていた。どうして、上級生組が代表として話し合いをして、方針の決定権を握ってきたのか。それはひとえに上級生のプライドと責任である。

 

そんな彼らの前に、ずっと守るために頑張ってきた立場の子供達とパートナーデジモン達が、話し合いに参加するということで、ちょっとだけ緊張しながら、ドキドキしながらやってきたのである。反対派はこの時点で、後ろ向きな発想である自分に後ろめたさを感じてしまう。

 

 

もうこの時すでに、緩やかに方針は決定し、この瞬間から

太一はリーダーとしてこのメンバーの中で頭一つ抜けることを、丈とヤマトは自覚せざるを得なくなる。残念ながら、太一本人は、なんでか賛成してくれないみんなにいらついて、単純にみんなの意見を聞きたかっただけであるという天然さだ。

 

この瞬間から、丈とヤマト、そして太一の中で、熾烈なリーダーというポジションの争いが幕を開けることになる。

 

 

上級生組はリーダーの必要性を痛感している部分では一致しているのに、ヤマトや丈がその責任の大きさと重大性を認識しながら目指す。一方で、俺が俺がと言っている太一が、いまいちその重要性を理解しておらず、単に目立ちたいから。頼りにされたいからという何処までも自分本位の理由から離脱しきれないギャップを抱え始めるのもこのころからだ。

 

もともと一致団結とは程遠い集団である。ますます無意識のうちに増えていく対立の火種が、着々と芽生え始めていた。そして同時に、元からサポート役に徹している空の心労が、ますます増大するのもこのころからである。

 

 

 

 

 

そんな上級生組には上級生組なりの苦悩があることなんて、何にも知らないそのほか子供たちぐみは、太一達から問われた質問に、うーん、と頭を悩ませることになる。

 

 

「なあ、お前らはこれからどうしたい?サーバ大陸にいくか、いかないか」

 

 

シンプルイズベスト。あくまでも建て前は、そのほかの子供達の意見を聞くということであり、そこに上級生組の意見や誘導があってはいけないから、とお互いがお互いに目を光らせ、余計なことを言わないかどうか監視している。

 

 

「うーん、サーバ大陸かあ」

 

 

今まで完全に蚊帳の外だった大輔が、上級生組の事情なんて知っているわけがなかった。大輔は嬉しくて嬉しくてたまらない。よっしゃー、とガッツポーズしたくなる。テンションが上がって、にこにこしてしまいそうになるのを必死でこらえて、考えるだって初めてではないか!太一達上級生組が、自分達に意見を求めるなんて!確認とか、質問ではなく、大輔の意見を聞いてくれるなんて!

 

事情はよくわからないし、意図や背景なんて、全然わからない大輔は、ただその一点に注目して純粋に喜んでいた。認めてくれたも同然ではないか。意見を反映してくれるかどうかはさておいて、仲間の一員として認めてくれたも同じではないか。

 

 

この漂流生活において、一度たりとも明確な役目を自覚させてくれるようなことを、上級生組が認めてくれなかったことを思えば、それは大輔にとってあまりにも大きな大きな変化である。だからこそ、自分の意見と聞かれた大輔は、なんの迷いも無く答えることが出来た。

 

 

「オレは、行きたいっす、サーバー大陸」

 

 

それはゲンナイという老人と遭遇した時からすでに大輔の中では、とっくの昔に確定事項となっていることであった。大輔はゲンナイと名乗った老人が現れた時、それはもう驚いたのである。思わず立ち上がって前に駆けだしてしまいそうになるくらい仰天したのだ。

 

みんな突然現れたホログラムに気を取られていて、大輔の態度に気付いているのは、大輔から話を全部きいて、秘密を共有しているブイモンだけである。

 

 

大輔の中では、どんなにゲンナイが不審者の塊であり、挙動不審の極致にいる正体不明の老人であったとしても、もう絶対に揺るがない。味方であるという認識は揺るぐことはないのだ。

 

だって、ゲンナイさんという老人は、パートナーであるブモンから進化したエアロブイドラモンと大輔の中ではすっかり正義のヒーロー的なあこがれの存在にまで昇格してしまっている秋山遼という少年が、さんづけで呼ぶような人なのだ。

 

未来の大輔達を助けるために頑張っている秋山遼をサポートしているらしい人なのである。いわば命の恩人が敬意を示している老人なのだ。もう問答無用で味方認定である。ゲンナイを疑うということは、秋山遼を疑うことになり、ひいては未来のブイモンというパートナーデジモンを疑うことになってしまう。そんなこと大輔が出来るわけがなかった。

 

 

だから大輔はびっくりするほど即答で、明確に答えを提示して見せ、曖昧に言葉を濁して、うーんと悩んでいる子供達を驚かせた。大輔の回答が巡り巡って自分のことを信じてくれているからこその解答なのだと知っているブイモンは、大満足で笑っている。そんなこと知らない上級生組は、なんでだと聞いてみる。

 

そりゃそうである。デビモンに一番怖い目にあわされたのは大輔なのだ。ちょっとくらい戸惑ったり、困惑したり、迷ったりするのがふつうであると思っていたので、大輔らしいとは思いながらも、ちょっと結論を出すのが速すぎやしないかと心配になってしまう。

 

考えるのが苦手とはいえ、ちょっとは考えてほしかった。孤立無援の中で、そんな言葉をぽんと投げかけられた太一が、上機嫌になるのも無理はなかった。

 

 

「だよな!」

 

 

太一から言われた大輔は、はい?と間抜けな回答をした。いまいち太一がどうしてそこまで大喜びしているのかわからない。ぐりぐりと大輔の頭をなでながら、太一は屈託ない笑顔を向けて笑う。

 

 

「やっぱそーだよな、大輔!元の世界に帰るには、それしかねーもんな!」

 

「え?そーなんすか?」

 

 

大輔は驚いてしまう。サーバ大陸に行くしか元の世界に帰る手段が無いのなら、わざわざそんなこと聞かなくても答えは出ているではないか。なんでいちいち呼びよせてまで聞いたのだろう、と疑問符が浮かぶ。

 

上級生組しか知らなかった事実が大輔にだけ漏れてしまったと悟った空が、こら、太一!と咎めるような視線を送る。しまった、と慌てた様子で我に返った太一は、なんてな、と笑う。

 

 

「だったらいーなって、あはは。大輔、なんでサーバ大陸に行きたいと思うんだ?」

 

 

太一はすっかり自分と同じ意見であると信じて疑わない。なんだかんだいってやっぱり可愛い後輩である。太一はサーバ大陸と新たな力の象徴であるタグ、紋章というキーワード、そして選ばれし子供という英雄みたいな肩書を聞いて、すっかり有頂天になっている。

 

ゲームや漫画が大好きなお年頃である。RPGの主人公に自己投影して遊んでいる小学校5年生である。とつぜん放り込まれた異世界で、とつぜん自分たちにしかできないといわれ、世界を救ってくれと言われたのだ。一度はふざけるな、とか思ったけれども、新しい冒険の舞台と意味深な言葉を残して去ってしまったゲンナイという爺さんである。わくわくしない方がおかしい。それが元の世界に直結しているなら一石二鳥ではないか。

 

 

世界を救った英雄が元の世界に帰るときに、今まで旅を共にしてきた仲間と感動の別れと永遠の友情を誓うんなんて、よくある王道的ストーリーである。そういった大雑把で楽観的なところが太一のいいところでもあるのだが、ちょっとだけ大輔のことを勘違いしている。大輔は大輔であって、太一ではない。

 

あくまでも太一が構い過ぎているサッカー部の後輩である。それに太一お兄ちゃんのことが大好きで、なんでも太一のことを正しいと無条件で肯定してくれる従順すぎる妹であるヒカリでもない。それをはき違えている太一は、大輔がせっかく自分の意見を言ったのに、太一の意見と一緒だとひとまとめにしてしまうことに、ちょっと怒っていることに気付けなかった。

 

 

「大輔君、太一から言われたからって、そのまま飲まれちゃダメだよ?君の意見が聞きたいんだ」

 

 

サッカー部の先輩後輩関係なしだよ、と丈に指摘された大輔は訳が分からなくて混乱する。なんで大輔は大輔の意見をちゃんと言ったのに、太一から誘導された意見を言っているように思われているのかわからない。

 

なんにも考えないで太一の意見に賛成しているように思われているのかわからない。気に食わない。心外である。なんにも考えないで意見を言わないような奴と一緒にしてほしくなんかない、と大輔はちょっと声を荒げた。

 

 

「そんなことないっすよ!ちゃんとオレ考えましたってば!オレはサーバ大陸に行った方がいいって思ったからいったんすよ!そりゃ、太一さんとおんなじだったのは嬉しいけど、たまたまですってば!」

 

「おいおい、そこまでむきになんなくてもいいだろ?」

 

 

ちょっと拍子抜けして傷ついた太一は情けない声を出す。大輔と太一の様子に、そうかい?と一応納得してくれたらしい丈は、理由を聞いてきた。

 

 

「ゲンナイさんが言ってたんで」

 

 

その言葉には流石に子供達は凍り付いた。は?とみんな一様に大輔を見る。さすがにそれなら太一が言ってたから、の方が百倍説得力がある。なにをいってるんだ、この子!

 

本気で大輔のことが心配になってしまった丈は、何処までも持ち前の常識でもって、考え直すよう言ってみる。世界中の怪しいっていう意味の言葉をかき集めて、押し固めて、濃縮したようなあの爺さんが言ってたからサーバ大陸に行くって言い放ったのだ、大輔は。

 

 

もともと突拍子が無いところはあるものの、どこまでも大人びている所がある大輔にしては、あまりにも斜め上すぎる。太一も太一でショックである。意見の理由が自分じゃなくて、あんな怪しすぎる爺さんが言ってたから、だなんて!俺より爺さんの方が信頼できるってことかよ、おい!

 

と思わず大輔に詰め寄るが、大輔はそんなつもりはないというだけで、爺さんのことを信頼しているのはありありと見て取れる。ホログラムを大輔も一緒に見てたはずだ。どこをどう見れば信用に値する人間に見れるんだろう?と不思議で仕方無い。

 

 

太一だってゲンナイという爺さんのことなんか、現時点では微塵も信じていないのだ。ただその情報しか判断材料に使える資料が無いから、仕方なく使っているだけにすぎない。それなのに大輔はあっさりと信じている。将来がとっても心配になる太一である。丈の懸命の説得にも関わらず、あっけらかんとした様子で大輔は言うだけだ。

 

 

「んー、なんていうか、勘?えへへ、オレの勘、外れたことないんすよ」

 

 

よくわからない自信でもって、得意げに言いきった大輔である。勘、という言葉を聞いた太一はほっとした。なんだ、勘か、シックスセンスか、なんとなくか、よかった。本当に良かった。もしかして、なんかあったんじゃないかと余計な勘ぐりをしてしまった。

 

楽観主義の塊は、日常的に自分の勘を頼りにして、何かといろんなことを決めているいい加減さをサッカー部連中は知っている。それを説明した太一に、丈をはじめみんな肩を降ろした。小学校2年生である。

 

 

今の状況をまずよくわかっていないはずである。みんなと同じくらいしっかりとした意見を求めること自体が無理難題過ぎたのだと、ようやくここまで来て思い当ったらしかった。大輔も大輔で深くまで突っ込まれたら、どうしよう、マジでどうしよう、と遼との約束を守るのに必死で、焦りまくっていたのでほっとした。

 

 

ただ。ちょいちょい、と引かれた腕を振り返ると、あれあれ大輔、と教えてくれる相方の姿がある。言われるがままそっちを見れば、大輔の不自然さを感じとったらしいタケルから、また隠し事が増えていると咎めの視線とかちあった。げ、とつぶやいた大輔は、両手を合わせてごめんのポーズを持って頭を下げる。またあ?と眉を寄せるタケルだったが、大輔に振られた話題が今度はタケルに飛んで来て、それどころではなくなってしまったようだった。

 

 

 

 

 

ちなみにそれ以外組は真っ二つに意見が割れた。生まれてくるデジタマのために少しでも勉強したいから頑張るんだと、大輔とは比べ物にならないくらいしっかりとした意見を述べたタケルである。

 

タケルを見習え、と耳打ちされた大輔は、反論できない事情を抱えてしまっている自分を恨んだ。なんだか勝ち誇ったような顔をしているタケルがむかつく。そして執拗に言及される隠しごとについて、なんとか逃げ切ることに成功する。そして小学校2年生組と違って、現実をずっと知っている光子郎とミミは当然のことながら反対派。

 

 

しかし、タケルが賛成に回ったことで、ネガティブな思考を勘ぐられたくないヤマトがまずは陥落する。これで4対4。小学校2年生組が賛成側に回るとは思っていなかったみんなは、こんなちっちゃな子たちが言ってるのに、これでいいのかな、と思い始めてしまい、最終的にみんな納得した形で、サーバ大陸に行くことが決定したのだった。自分の意見でみんなを賛成に導けなかった不満は残るものの、太一は嬉しそうに、入口の方で待機してくれていたレオモンに、事の次第を説明した。

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、ファイル島中から集まったデジモン達の協力で、大きな大きなイカダを作ることになる。助けてくれたお礼だとたくさんの食料や生活必需品を分けてもらった子供達は、ありがとうと笑顔になる。みんながいってらっしゃいと海岸越しに手を振る中、行ってきます、と意気揚々と帆を張るイカダに乗って、子供達は旅立った。そして、そのまま道中でホエーモンに食べられてしまうことになる。

 

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