(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第64話

非常に残念ながらタケルとトコモンが食べたご馳走は、全部デビモンが用意した幻でした、入ったのは空気だけです、という悲しき落ちがあるのだが、知っているのは太一だけである。でも太一もアグモンもみんな知ってるだろ、屋敷幻だったし、と勝手に判断しているせいで、幸せな勘違いは太一とアグモン以外はみんな持っていた。

 

 

つまり、タケルとトコモンは実は大輔達よりも酷い1日を過ごしている。丸一日、エレキモンの夕食以外食べていないのだ。ご馳走を食べた、という勘違いが勝手に味まで捏造するのだ、恐ろしきはデジタルワールドである。恨めしげに見つめる大輔に、地雷を踏んだブイモンは必死に謝る。食い物の恨みは後からやってくる。

 

くすくすとタケルとトコモンは笑った。ここで大輔を怒らせてしまうと、ただでさえ貴重品のチョコレートの入手経路が断絶してしまう恐れがある。ブイモンはぞっとした。

 

アグモンは太一にいっぱいご飯を食わされたせいで体重が重くなり、戦闘にまで響くという情けない結果を招いていたが、おそらくこの小さな大食漢には無縁の話である。おかげで食糧分配のときには大輔が絶対に取りに来るよう言われているのである。

 

 

四足歩行で物を持つ機能が発達していないトコモンは、タケルの頭にへばりついて、ご飯を分けてもらうのを待っているという、卵からかえったばかりのひな状態だ。全く運動していない。幼年期だから戦闘にもでれない。ちょっとぽっちゃりしているのは気のせいか。

 

進化して丸々と太ったらパタモンのとき、ますます飛べなくなるんじゃないか、という心配は、今のところ誰もしていない。だってご飯を食べること自体が結構なサバイバルである。食べる時には食べとけ、食いだめ上等はみんな一緒だ。漂流生活では間違いなくみんな体重が減っている。

 

 

ドアを開けた光子郎とヤマトが目を輝かせて、食堂の奥に入ってしまった。大輔達も追いかけてみると、待っていたのは所狭しと並べられたテーブルに、清潔そうなテーブルクロスが掛けられ、見渡す限りのバイキング形式の料理である。

 

一番手前には大きな皿とはし、スプーン、フォーク、全部ある。ヌメモンが使えるんだろうかなんて疑問符、あっというまにぶっ飛んでしまう。おいしそうなにおいとゆげである。わーっ!!と二人は声を合わせて、歓声を上げた。ごくりと唾を呑みこんだ。

 

 

「なーなー、大輔、食べようよ!」

 

 

真っ先に飛び出そうとしたブイモンを制止するのはヤマトである。

 

 

「待て待て、みんな来るまでまたないとダメだろ」

 

 

思いっきり料理に視線が釘付けである。視線がどれを一番最初にとろうかと狙いを定める捕食者の目になっている時点で説得力は果てしなく皆無である。えー、とごねたのはブイモンだけではなく、大輔もタケルもトコモンもである。なんで?目の前においしそうな料理があるのに。恨めしげな視線に気押されながら、何とかメンツを保とうとする。

 

 

「そうですよね、皆さんおなか減ってるのは一緒ですし、僕達だけはちょっとまずいですよね」

 

「ああ」

 

 

自分に言い聞かせるように光子郎は暗示をかけている。ヤマトが返事したのに気付いていない。そんな殺生な、と落胆するテントモンに、待ってるの、ヤマト?と本人が必死に押し殺している本音を代弁するガブモンが追い打ちをかける。

 

 

でもでも、勝手に食べるのは、と理屈付けで我慢しようとする光子郎に、がらがらがら、という音が邪魔をする。みれば、大きな皿を運ぶヌメモン達が、次々と新しい料理を運びこんでいるのが見えた。これで少なくてもここにあるものが食べられてしまったことで、迷惑、という選択肢は消えてしまう。

 

だって何で食べないんだお前ら、とでも言いたげに不思議そうな視線が横を通り過ぎて行って、出ていったのだ。マズイのか?とちょっと怒ったようにリアクションをとるヌメモンがいて、そういう訳じゃない、と説明したら、不満そうな顔をして出ていった。ちょっと睨まれた。理不尽である。こっちだって今すぐ食べたいのに!

 

 

「太一さんとアグモンはともかく、空さん達が来るのは待ちましょうよ」

 

「ああ、太一とアグモンはともかく、みんな腹減ってるだろうし、知らせに行った方がいいかもな」

 

 

思いっきり太一とアグモンを除外しているヤマトと光子郎の目は据わっている。テントモンもガブモンも頷きはすれども、可哀想だとは誰も言わない。げに恐ろしきは食い物の恨みである。太一とアグモンは可哀想だし、気を使わなきゃいけないし、と腫れもの扱いと気遣いのすれすれを頑張っている二人でも、それとこれとは話が別のようだ。

 

むしろスカルグレイモンの件以来、太一にみんな声をかけるようになっているのだ。おかげで太一もアグモンも本調子に戻りつつあるのだが、比例してみんなが間違いなく容赦なくなっている。結構言うことは言うようになったので、別の種類のダメージを被ることになっている。

 

いいことだがご愁傷様だ。もっともな二人の言い分は理解できるが納得できない最年少組は猛抗議する。手をつかむ。そして上目づかいは標準装備。

 

 

「ねーねー、お兄ちゃん、光子郎さん、ちょっとくらいいいでしょ!」

 

「そうっすよ、二人とも!呼んでくるなら行って来て下さいよ、オレ達まで待ってる理由無いじゃないっすか!」

 

 

ねえってば、とちっちゃい子供理論で言えば大正解な眼差しが突き刺さる。うぐ、と否定することが出来ず、ヤマトと光子郎はどうしたものかと顔を見合わせた。これでいいのかよ?と大輔はタケルを見る。うんうん、大丈夫、その調子!とタケルはアイコンタクトで頷いた。

 

 

甘え方なら間違いなくタケルの方が大輔にとっては先生である。小学校2年生二人組は、メンバーの中では一番小さいから、という理由で何かとみんなが優遇しようとして、拒否されてきた経緯がある。

 

みんなに褒められたいから我慢していた大輔も、みんなに迷惑をかけたくないからと我慢していたタケルも、もうすっかりその扱いを許容することが出来ているせいで、破壊力は抜群である。

 

可愛い我がままである。それをここぞというタイミングで扱うのは明らかに全然可愛くないのだが、無邪気なまなざしは、おにいちゃんでありたいヤマトと、せんぱいとしてしたわれたい光子郎の急所に入る。ストライクである。

 

 

でもでもでも!全然可愛くないぞ、こいつら、むしろなんかバカにされてる気がする、なんかむかつく!と二人の心は一つになる。操縦されるのは気に食わない。扱いがうまくなっているちびっこに負けてたまるか。もうここまで来ると意地である。

 

だめ、となんで、と押し問答全開である。傍から見れば、果てしなくどうでもいい意地の張り合いを展開し始めたパートナー達に、何やってんだろこいつら、と要領のいいパートナーデジモン達は皿を配って、それぞれ勝手にもう食べ始めている。

 

 

大好きなパートナーは、どこまでも、寝ること、食べること、遊ぶことと同じくらい大好きなのだ、優先順位は言わずもがな、2大欲求には耐えられない。人間ってよくわかんないね、とデジモン達は首をかしげた。もしゃもしゃもしゃ、と飲み食いしている音はすぐに腹ペコのパートナーに気付かれる。あーっと声を上げた子供達は、何勝手に食べてるんだよ!とそれぞれのパートナーデジモンの所に向かって怒る。

 

 

でも、大好きなパートナーのために、好きなもの、美味しいモノ、食べたいって言ってたやつを別の皿に取り分けていた彼らから、はいこれ、と無垢な眼差しと共に鼻先に突きつけられたら、ハムスターみたいに頬を膨らませて、これおいしいよ、とお勧めを各自提示されたら、もう、ごくりと唾を呑みこんで、大人しくフォークなりはハシなり手に取るしかない。ありがとう。

 

 

「ヤ、ヤマトさん、せっかくのご馳走が冷めてしまっては、作ってくれたデジモン達に悪いですよね!」

 

「そ、そうだよな、せっかく招待してくれたコカトリモンに失礼だよな!」

 

 

何にも悪くないんだ、これは仕方のないことなんだ、と必死で自分に言い訳しながら、苦笑い。理性はとっくに振り切れた。二人の言葉にぱっと眼を輝かせた大輔とタケルは、いっただきまーす、と手を合わせる。先輩の、お兄ちゃんの、威光は失墜していないことを慎重に確認してから、光子郎とヤマトは小さく合掌した。

 

こうして結局誰も食堂の場所を知らせもしないで、腹の空腹を満たすのに精いっぱいになってしまう。みんなのことなんて忘却のかなた。いつもパンと果物とお菓子である。肉とか魚とか貴重なたんぱく質や手の込んだ料理、しかも出来立てなんて何日振りか分からない。始めっから耐えられるわけがなかったのだった。

 

 

 

 

 

ハンバーグを食べようと突き刺したフォークを口に運んだら、歯がかみ合ってしまう。あれ?と突然消えてしまったハンバーグに驚いたら、横からぱくっと食べてしまった不届き者がいた。

 

 

「あーっ、オレのハンバーグ食うなよ、ブイモン!」

 

「だって大輔の食べてる奴の方がおいしそうなんだもん!」

 

「さっきと言ってること一緒じゃねーか!だから1個上げたのに、何でまた食っちまうんだよ!いっぱいあるじゃねーか!」

 

「仕方ないだろー、大輔おいしそうに食べるのが悪いんだよ!」

 

「えー、なんだよそれー。じゃあオレのとお前の変えっこしよーぜ」

 

「えええええっ、ダメダメダメ、ここにあるのは全部オレのーっ!とっちゃだめーっ!」

 

「どんだけわがままなんだよ、おい!」

 

 

はあ、とうなだれた大輔は、そんなに言うなら仕方ないな、とブイモンに皿をあげる。溜息をついて立ち上がる。あ、と声をあげたブイモンは、慌てて服の裾を引っ張って引き止める。大輔どこ行くの?と聞かれた大輔は、じとめだ。

 

 

「それお前にあげるから、オレも新しいの取ってくるんだよ」

 

「じゃあオレ行く!」

 

「はああっ?!何言ってんだよ、ブイモンが頂戴頂戴うるさいからあげるんだろー、お前まで来たら意味無いし、バイキングって食べられないのに残したらダメなんだぞ」

 

「え?そうなの?」

 

「そうだよ」

 

 

うーん、と考えるそぶりをしたブイモンは、ちょっと待ってて、という。はー、と溜息をついた大輔に、騒がしいトモダチを見ていたタケルはトコモンと一緒に笑っていたのを見て、肩をすくめた。

 

 

「よーし、いこー、大輔!」

 

「おう、って早っ!?」

 

 

もうすっからかんの皿が積まれている。普通、一緒に食べたいから我慢するんじゃないのか。大輔はブイモンの食欲を甘く見過ぎていた。これで2回目のテーブル行きは確定である。どうしよう、と大輔は冷や汗である。この前現実世界に来れたら、何でも好きなもの食べさせてやるって勢いで言っちゃった大輔は、財布とお小遣いが盛大な死亡フラグを立てていることにようやく気付くことになる。

 

 

この調子じゃ本宮家の冷蔵庫や戸棚は大変なことになる。どうしよう。その時の約束は、やがて3年の時を超えて大輔を盛大に困らせ、当時の自分を思いっきり殴りたいほどの後悔をすることになるのだが、まだ小学校2年生の大輔は知る由も無いのだった。

 

 

「オレ、チョコ食べたいチョコチョコチョコー!」

 

「オレまだご飯途中だから、取ってこいよ」

 

「えー、どれがおいしいか、どんな味がするかオレ知らないもん、大輔ついてきてよ」

 

「だ・か・ら、まだオレご飯食べてないって言ってるだろ、なんでデザート選ばなきゃいけないんだよー。オレご飯の代わりに甘いもの食べられるほど、好きじゃねーんだよ」

 

 

どっちかっていうと、タケルとトコモンが食べているポテトチップスとか、ジャンクフードの方が好きな大輔である。いつもいつもブイモンに付き合っているせいで、耐性はできてきたが胸やけに怯えている大輔である。結局根負けして一緒に並ぶことになる。

 

 

 

 

 

ごちそーさま、と言って、食器やらを全部所定の位置に戻した。ようやく他の子供たちのことを思い出したみんなは、顔を見合わせて、あ、と声をあげた。時計を見れば、もう30分以上過ぎている。

 

まずい、まず過ぎる、太一とアグモンはともかく、みんな腹ペコだろう。特にデジモン達は腹ペコだと進化すること自体難しくなってしまう、大変である。ヤマトと光子郎は、大輔とタケルに待っているよう伝えると、食堂を出ていった。タケルと大輔に、みんなから怒られるのは見られたくないらしい。

 

間違いなく怒られる、言いわけどうしよう、という冷や汗交じりの会話は幸い最年少組には伝わらなかったようだ。みんなまだかなー、と大人しく、言われたとおりに待っている大輔達は、ゆっくりと会話しながら待っていた。

 

 

 

1時間経過。

 

 

 

2時間経過。

 

 

 

流石に遅すぎないか?と心配になってくる大輔に、タケルも頷く。どうしたんだろう、何かあったのかな?顔を見合わせるパートナーに引っ張られる形で、ブイモンもトコモンも、そう言えばそうだ、と気付いて立ち上がる。そしたら、聞こえたどーんという騒音と、船全体を大揺れにする謎の振動。わあっとひっくり返った大輔は、盛大に頭を打ち付けた。たんこぶに涙が出そうになるけれどもがまんして、大丈夫?の言葉に、心配すんな、と笑って返す。

 

 

そしたら聞こえてきたのだ、ヤマトと光子郎の声が。外から。思わず食堂から出ようとした二人が見たのは、コカトリモンだった。コカトリモンの目からなんか変なビームが出て、ヤマト達をかばおうとしたガブモンとテントモンを石に変えてしまったのである。一瞬の出来事だった。

 

いくらなんでも早すぎる。地面をけるコカトリモンの脚力はとんでもなく早かった。大輔とブイモンは進化しようとしたのだが、コカトリモンがその間にタケル達に襲いかかったらヤバいことになる。だって、光子郎とヤマトはパートナーを進化させる前に、パートナーを石に変えられてしまったのだ。

 

驚いて声を上げようとした二人に気付いた光子郎が、しーって指を当てて、早く逃げろって、隠れろってジェスチャーしてくる。ヤマトも食堂に大輔達がいることを知っているから、時間稼ぎに逃げ回っている。どたどたどた、と近づいてくるヌメモン達。

 

 

あんなにたくさんの奴に襲われたら、いくらエクスブイモンでもやばい。ここは室内である。せめて外に出ないと。慌てて大輔とタケル達は、窓から逃げることにしたが、背が足りなくて、とどかない。どうしよう、と途方に暮れたら、ブイモンが出てきた。

 

 

「オレが持ち上げてあげるから、みんな早く!」

 

 

力持ちのブイモンなら出来るだろう。うん、と頷いて、タケルとトコモンを先に行かせて、大輔も何とか窓から逃げる。通路には誰もいない、急がなきゃ。そしたら、近づいてきたヌメモン達。大輔はサッシにつかまったまま、ブイモンに手を伸ばす。ブイモンも手を伸ばしたのだが、手が止まった。

 

 

「何やってんだよ、早く来いってば」

 

「後から行くから、早く行って!オレまで引き上げてたら時間ないよ!」

 

「何言ってんだよ、トコモン進化出来ねえんぞ、お前いないとヤバいって!」

 

「いーから早く!」

 

 

しるか、と大輔はブイモンの腕をつかんで引き上げようとする。はやくはやく大輔君!と後ろでタケルが急かしている、わかってるよ!でもブイモンは大輔の腕を払った。とうとう見つかってしまう!

 

コカトリモンがやってくる!ブイモンはごめんと口走るや否や、思いっきり壁にブイモンヘッドをかます。ぐらぐらと揺れて、たまらず大輔は押し出されてしまった。ブイモン!と慌てて上ろうとした大輔が見たのは、石になってしまったブイモンである。

 

 

大輔は頭が真っ白になった。オレに何かあったら、守ってくれる?と言われた言葉が蘇る。言えなかったけど、言えなかったけど、もし何かあったら守ろうって思ったのに!あの時のは嘘だって言おうと思ってたのに出来なかった!どうしよう、どうしよう、ブイモンが!

 

完璧に硬直している大輔の異変に気付いたタケルは、慌てて大輔に呼びかける。全然返答がない。手をつかんで、えーいっとのぞき込んだら、ブイモンが石になっているのが見えた。そしてヌメモンに運ばれていく。コカトリモン達が食堂から逃げたタケル達を探してどっか行っちゃった。大変だ!

 

 

「大輔君、大輔君ってば」

 

 

身体を揺すっても返事が無い。反応も無い。ブイモン、ブイモンッと慌てて戻ろうとする大輔の大声を、しーっていって、慌てて引き止めた。

 

 

「なにすんだよ!」

 

「早く逃げよう、大輔君、僕達まで石になっちゃうよ」

 

「でもブイモンがっ!」

 

「ブイモンが逃がしてくれたんでしょ、今僕達が捕まったら、みんなに知らせられないよ」

 

「でもっ……でもっ……!」

 

 

どうしたんだろう、大輔君。いつもの大輔君だったら、そのまま突っ走ったら危ないってことちゃんと言ったらすぐにわかってくれるのに。かっとなっている、周りが見えなくなってしまう、のはすぐに収まって、あっけらかんってするのが大輔君なのに。明らかに狼狽しきっている大輔は、タケルが知っている大輔ではない。トコモンも心配になって、どうしたの?と聞いた。

 

 

「オレ、ブイモンに言われたんだよ。ブイモンになんかあったら、守ってくれるかって。でも、でも、オレっ……答えられなかったんだよ、多分って言っちゃったんだよ、あいつ、すっげー悲しそうな顔してたのに!どうしよう、どうしよう、オレ、ブイモンに何も出来なかった、嫌われたらどうしようっ!」

 

 

ブイモンがその発言をしたのは、大輔が周りの空気に呑まれて、悲鳴を上げる自分の心をないがしろにして、みんなを守るために戦おうとしたのを止めるためにした、いわば楔だった。大輔の無意識はそれに気付いて、思わず足が止まったのだ。

 

無理しなくてもいい、とわかってくれる存在があると理解した大輔の身体は、自然とブイモンの言葉に耳を傾けていた。ブイモンは大輔が大輔を見失っていた時に、半ば脅すような形になってしまったが、我に返すつもりで言っただけであって、他意は無い。大輔が自分のいい所を悪いところだって思いこんで、大嫌いになっている所が悲しかっただけだ。

 

もちろん大輔もブイモンが大輔のことを嫌いになるなんてありえないって知っている。

 

 

でも、ちゃんと答えられなかったこと、そしてブイモンに唐突に質問をぶつけられた理由がさっぱりな大輔には、あまりにも強烈なインパクトを持っていたのである。そして短絡的な思考しかできない幼い心は早急に結論を付けてしまう。

 

ブイモンが「そのまんまの大輔でいいんだ」といくら言っても、大輔はなかなか自分のいい所に気付いてくれない。すべては訳のわからないものが原因である。だから、ブイモンの発言と発言の間がうまくつながらなくて、意味不明だったのだ。そしてこの狼狽ぶりである。

 

 

「大輔君!」

 

 

タケルに耳元で怒鳴られた大輔ははっとする。

 

 

「しっかりしてよ、大輔君がそんなんじゃ僕だってどうしていいのかわかんないよ。よくわかんないけど、ブイモンは僕達のこと助けようとしてくれたんだよ、僕達逃げなくっちゃいけないんだよ、捕まっちゃったらブイモンのしたこと、無駄になっちゃうよ!」

 

 

守られる立場の先輩は、どこまでも度胸が据わっていた。

 

 

「今は逃げなくっちゃだめだよ、大輔君!僕達、捕まっちゃったら何にも出来ないんだから!」

 

「でも、でもっ……」

 

「落ち着いてよ、大輔君。忘れちゃったの?逃げるが勝ちって言ったのは大輔君じゃないか!」

 

 

おもちゃの街にいくもんざえもんを追いかける、追いかけないでもめた時、そう言ったのはほかならぬ大輔なのである。ヌメモンから襲われたらどうするかって言った時だ。大輔君ってすごいんだなあって思ったからタケルは覚えている。

 

てっきりそういう意味だと受け取っていたタケルは、大輔がどうしてずーっとぐずぐずしているのか分からない。全然大輔らしくない。なんかへんだ。ちなみに口走った本人は、なんにも考えずにタケルを説得するために並びたてただけだ。オレそんなこと言ったっけ、と心の中で呟いてみた大輔は、大人しくなる。

 

ちょっとだけ落ち着いたのだ、と勘違いしたタケルは、いつもの大輔になってくれたとほっとする。微妙にずれているが、まあ、落ち着くところには落ち着いたので良しとしよう。

 

 

「わりい、タケル、トコモン。そーだよな、オレ達ががんばらねーと、ダメだよな」

 

「よかったー、またかっとなっちゃったんだね、大輔君。任せてよ、また僕が止めてあげるから」

 

「……お、おう?よろしくな」

 

 

かっとなった訳ではなく、らしくなく弱気になってしまっただけなのだが、まあいっか。

 

 

「僕も頑張るよ!」

 

 

唯一のデジモンになってしまったトコモンがタケルの頭の上で力強くうなづく。タケルと大輔は顔を見合せて笑った。どうしたのー?と不思議そうにトコモンはいう。トコモンは本当にちっさいデジモンなのである。タケルや大輔が抱っこできるくらい。

 

こんなちっちゃなやつが頑張るんだ、オレが頑張らなくてどうすんだ、と大輔はまだぐるぐるしている心をなだめすかして、本調子を取り戻すべく、前を向く。悩みとかそういうのはあとでいいや、その時になったら考えればいい。ブイモンに後で聞いてみなきゃ、姉ちゃんに聞くって決めたんだから、逃げてちゃ意味がない。

 

慎重に通路を左右確認して、誰もいないことを確認した大輔とタケルは、

エントランスホールに向けて、走り出したのだった。

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