(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第65話

どきどきどき、と心臓の音がとってもうるさい。タケルとトコモンと大輔は、鉢合わせしたヌメモン達から逃れるために、たまたま目についたアンティークのテーブルの下に隠れていた。

 

テーブルクロスの下から、ヌメモン達のはいつくばる音が近づいてきて、何やらヌメモン同士でしか分からないリアクションの応酬、そして大輔達が見当たらないことを不思議に思っているようで、首をかしげているのが見えた。この時ばかりは小さくて良かったと言わざるを得ない。

 

静かにしろよって自分の心臓に怒鳴りたくなるけど、そしたら心肺停止である、死んじゃう。それに見つかる。ばっくんばっくんと緊張感で脈打つ心臓。見つかりませんようにと心の底から願っているみんなの願いが通じたのか、コカトリモンの声がした。

 

 

「紋章を持っとる選ばれし子供達がいたがやーっ!そいつらを先に捕まえるから、お前らが追いかけとった奴らは、ほっときゃー!」

 

 

名古屋弁全開のコカトリモンの号令で、ヌメモン達はあっという間にいなくなってしまった。ほっと一息ついて、テーブルクロスをめくり上げ、テーブルの下からはい出してきた大輔達だったが、コカトリモン達の会話を聞いてしまった。

 

なので、顔を見合わせて、あわわわわ、となる。どうしよう!先手を打たれてしまった!紋章を持っている選ばれし子供達とは、きっと太一と丈のことである。プールにいっているはずだ。ゴマモンはともかく、コロモンは大丈夫だろうか。

 

 

大輔もタケルも、コカトリモンの脚力が尋常ではないことも知っているし、進化する前にパートナーデジモンを石化させるという策略も見ている。選ばれし子供達とはいえども、別に大輔達が特殊な力を持っているわけではない。パートナーデジモンがいなければ、そこら辺にいるただの子供にすぎないのである。もう逃げるしかない。

 

光子郎とヤマトが見つからないのだ。きっと大輔達をかばって、そのまま捕まってしまい、ヌメモンに運ばれてしまったのだろう。

 

だから、真っ先に大輔達は紋章を持っている太一達の所に行こうとしたのに、助けを求めようとしたのに、コカトリモンが行ってしまった。これはもう、自分達が行っても、邪魔にしかならない。

 

むしろかばおうとしてヤマトと光子郎達の二の舞になってしまう。ということは、と大輔とタケルとトコモンは、消去法していく。太一、丈、ヤマト、光子郎、男の子組は全滅である。ということは。もうほとんど即決である。大輔は迷うことなく、タケルとトコモンに言った。

 

 

「ミミさんと空さんトコにいこう!」

 

「えええっ!?」

 

「どうしたんだよ?」

 

「だ、だって空さんとミミさん、お風呂入ってくるって言ってたよう」

 

 

突然あわて始めたタケルに、きょとーんとしているのは大輔とトコモンである。だからなに?それがなにか?問題でもあるの?ほ、ホントに行くのーっ!?とさっきまでの気概はどこへやら、わたわたと一人あわてはじめたタケルである。僕行きたくないよ、行きたくないよう、とどんどん顔を赤らめてしまい、しりすぼみになっていく。

 

何で大輔君もトコモンもへっちゃらなのさあ!とは、タケルの談である。もちろん大輔もトコモンもはああ?という反応しか返さない。さっぱり理由が分からなくて、大輔はトコモンに聞いてみるが、さあ?と返されてしまう。肩をすくめた大輔は、不審げにタケルを見た。

 

 

「はあ?なんでだよ、いそがねーとみんな捕まっちまうだろ!何言ってんだよ!」

 

 

僕恥ずかしいよ、とタケルは顔を真っ赤にして、もごもごとしてうつむいてしまう。いくら緊急事態だからって、女の子がお風呂に入っている所に突入するとか、いいのだろうか、それってダメなんじゃないの?

 

小学校2年生の健全な男の子は、年齢的にいえば銭湯にお母さんと一緒に女湯にいっても許されるお年頃であり、大輔のように女の子から女性になり始めのお姉ちゃんがいなければ、そんなこと意識もしない。

 

べつに普通は意識なんてしないだろう。タケルもそうである。いや、ほんのちょっと前まではそうだった。ヤマトお兄ちゃんは男の子だし、お母さんとお風呂に入っているから、今まで意識したことなんてなかったが、ちょっとタケルは勉強した。

 

女の子のお風呂を見るのが恥ずかしいこと、してはいけないこと、怒られること、という感覚自体は、コロモンの村での太一や光子郎に制裁を加えたミミや、説教をかました空を見て、初めていけないことなんだ、と知った。そしてお兄ちゃんであるヤマト達が顔を赤くして、いたたまれなそうに気まずそうにそんな彼らから目をそむけていたのである。

 

ごめんなさい、と悪くないのになんでか謝っていて、それを見た空とミミは、にっこり笑って乙女のお風呂は不可侵である、と宣言し、野郎どもは揃って深々とうなずいていたのである。そういうものなんだ、とタケルは知った訳だ。影響は顕著に思いっきり現われていた。まあ要するに、恥ずかしさとか照れとかそういうものを初めてタケルは知ったばかりであり、過剰反応しているわけである。

 

 

 

 

 

彼らの行動をずーっとみていた大輔からすれば、何を今さら恥ずかしがってんだ、この人たち、という感覚である。とっくの昔に通り過ぎていった感覚である。当たり前のことを今知ったみたいな反応は、大輔には良く分からなかった。

 

空は大輔とジュンの関係自体は知らないが、サッカー部の先輩後輩の関係、家族同士のお付き合いの中で、大輔にお姉ちゃんがいることは知っているから、大輔の反応は全然不思議じゃなかった。

 

大輔君の方が大人じゃない、と追い打ちをかけ、上級生組の野郎どもをへこませたのは、いい意匠返しである。そういうわけで、もごもごし始めたタケルに、はあ?と大輔が呆れかえるのも無理はなかった。何言ってんだ、こいつ。

 

 

「別に入らなくてもいいだろ、入口から呼べばいいんだよ。何言ってんだよ、お前」

 

「え、あ、そ、そっか、そうだよね、あはははは」

 

「うわー、お前なに想像してんだよ」

 

「ち、ちがうよ!僕何にも考えてないもん!気のせいだよ!」

 

 

じゃあなんでそこまで顔が赤いのか、びっくりするほど挙動不審なのか、と指摘すれば、すっかりのぼせてしまう。わあん、とタケルはもう泣きだしそうである。可哀想に、母親のしつけ方針と今まで生きてきた環境が思いっきり裏目に出ていた。大丈夫?とトコモンはいうが、返事できるほどの気力は無い。

 

そんなタケルの様子を見るにあたって、ふーん、とどこまでも大輔は冷静である。なんだよ、そんなことでぱにくってんのかよ、バカじゃね?さすがに脱衣所にまで突撃するような暴挙にはでない。ジュンお姉ちゃん相手じゃあるまいし。大輔だってそれくらい恥ずかしいことくらい分かっている。じゃなかったら、なっちゃん相手に一緒にお風呂入るのを拒否する訳がない。

 

 

空もミミも家族ではない、普通の女の子なのである、混同するほど馬鹿じゃないし、それくらいの分別付いている。過剰反応するほうがおかしいって知っている。こいつどこまで子供なんだよ、と大輔は思ったのである。同じ小学校2年生の大輔が言うには、あまりにも説得力がありすぎた。

 

タケルがへこんだのは言うまでも無かったりする。元気出してよ、とトコモンが懸命に励ますおかげで、何とかタケルは立ち直った。ちなみに、3年後のタケルがみんなに笑顔を振りまく、いわゆるイケメンの人気者となっているにもかかわらず、大輔が嫉妬しないのはここから始まる。

 

女の子からタケルくーん、ときゃーきゃー言われるようなご身分に成長しているにも関わらず、本人がいっつもおんなじような笑顔でニコニコし、クールだわ、とか言われているのに、もてるのに、本人に全然意識がなく、

恋愛ごとに全く興味を示さない原因とかそういうのも、全部分かってしまうことになるなんて、まだ大輔は知らない。

 

本命だれだよ、そう言うの良くないぞ、と大輔に指摘され、え、そうなの!?とショックを受けるタケルがへこむのもまた、未来の話である。

 

 

 

 

 

そして、彼らはお風呂場を探すために、エントランスホールに向かうことになる。ヌメモン達はすっからかんである。カウンターに置かれていたパンフレットを発見して、みんなでのぞいてみたが、大輔とタケルは顔を見合わせた。なんだこれ。

 

まるでミミズがのたうちまわったような意味不明な塊が沢山並んでいるのだ。部屋ごとに矢印があって、カッコ書きの中に含まれているから、多分なんかの文字なのだろうが、全然読めない。なんかの暗号だろうか、と大輔達は疑問符を浮かべた。困った、これではどこがどうなっているのか、全然分からない。

 

 

「これデジモン文字っていうんだよ。僕たちの世界の言葉だよ」

 

 

トコモンがいうので、へえ、と二人は感心した。

 

 

「じゃあ何て書いてあるか、分かる?トコモン」

 

「うん、わかるよー」

 

「じゃあ、空さん達どこにいんのか、わかるか?」

 

「うん」

 

 

みんなしゃがんで作戦会議である。えーっと、とタケルから降りたトコモンが、広げられた地図の前に座り込み、じーっと案内図を見る。ちっちゃい前足で、こーいって、こーいって、こう、とさされるのを、近くに置いてあったボールペンでなぞっていく。

 

即席案内図の出来上がりである。役に立てた、と得意げなトコモンにありがとう、ともみくちゃにしつつ、タケルは頭に乗っける。地図を見ながら、大輔達はヌメモン達と会わないように細心の注意を払いながら、どんどん先に進んでいく。

 

 

右に曲がって、左に曲がって、階段降りて、上って。まだいくの?ねえまだーっとスポーツ未経験者のタケルがねをあげ始める。しっかりしろよー、と大輔はあきれ顔である。トコモン持って、と言われるが、トコモンからすれば、つんつん頭の大輔はあんまり乗り心地が良くなさそうなので、断固拒否の方針を貫いている。

 

おもいよ!と実はずーっと我慢していた本音をぶつけ、がーんとなったトコモンが泣く泣く大輔のリュックに仕舞われるというハプニングもあったものの、何とか同じフロアまでたどり着いた。流石は豪華客船、無駄に広すぎる。おかげでとんだ大冒険である。

 

思いっきりタケルが足を引っ張っているのは突っ込んじゃいけない。とりあえず、このデジタルワールドの冒険で何度か痛感する体力の無さが、タケルにスポーツの道を目指させたのは確実であろう。

 

 

少なくても、大輔みたいに体力があったら、この漂流生活に置いて、ついて行くのに精いっぱいで、みんなとおしゃべりがあんまり出来ない、なんてちょっとさみしい現実を味わわずに済んだ訳だから。しかもタケルひとりなら、僕、まだ小さいから、と比較対象がいないことで自覚することなんてなかったし、自覚する必要もない。

 

だって、この漂流生活で冒険するよりも前よりも、確実に過酷な毎日はタケルを強くしている。本人、自覚できないのでへこんでいるが。そして、それがいずれ仲間に加わる女の子を引っ張っていく原動力になっていく訳だから、この時初めて強くなってたんだ、と自覚するから、その時までのお楽しみである。

 

そうでもなければ、なんでバスケットボールなんて始めたのか説明できない。でもこの世界は大輔がいる。タケルが意識する対象は、きっとおんなじ小学校2年生の大輔になる。そのちょっとした違いだけである。

 

 

結構遠いなあ、と思い始めたころ、大輔達の前にヌメモン達が現われたので、あわてて物陰に隠れる。クッキング帽子をかぶった、ついさっきまで大輔達に料理を運んでくれていたヌメモン達が、新しい料理が出来たのか、がらがらがら、と大きな大きなカートに乗せられたいっぱいのお皿を運んでいく途中である。

 

ご飯は食べ終わっているけど、やっぱりおいしそうである。右から左へ流れていくそれをみとどけて、はっとなったちびっこたちは、大脱線していた思考回路を元に戻す。そして、つかれ始めている友達の手を引いてあげながら、大輔は厨房らしい所を横切った。

 

 

思わず足が止まる。どうしたの?と顔をあげたタケルに、しーって人差し指を出した大輔は、ちょいちょい、とこっち来いって指示して、覗き込んでいる。疑問符を浮かべながら、トコモンをリュックから出してあげて、一緒にみた。

 

 

「……みんなああ」

 

 

トコモンが涙目になる。あんまりだ、酷過ぎる、なんだこれ。忙しなくヌメモン達が料理している厨房の隅っこの方に、たくさんの樽が並んでいる。なんだあれ、と首をかしげる大輔に、島根におばあちゃんが住んでいるタケルはすぐにピンときた。

 

 

「あれ、お漬物作ってる樽だよ」

 

「まじで?」

 

「うん。上からずーっと重い物載せて、固めるんだよ」

 

「みんな、つけものいしになっちゃったー」

 

 

言わないでよ、我慢してたのに。大輔とタケルは思った。うわーん、とトコモンが泣きだす。よしよしなだめながら、タケルは顔をひきつらせた。そして必死で口元に手を当てて、目をそらす。大輔もちょっと間抜けすぎる光景にこみあげてくるものがあるが、笑っちゃいけない、笑っちゃいけない、と懸命に我慢する。何この拷問。みんなを助けなきゃいけない状況なのに、漬物石って、漬物石って!よりによって漬物石って!

 

 

ガブモン、テントモン、ブイモン、ゴマモン、アグモン、みんな石になって有効活用されていた。別の意味でひどい。コロモンから進化できたんだ、とどうでもいいことを考えつつ、ここに彼らがいるということは太一達は捕まったということだ。ダメだこれ。早く何とかしなきゃ、と笑いを押し殺しながら、みんな先を急いだ。

 

 

 

畜生、コカトリモンの奴ぜってー許さねえ、と大輔は闘志に燃える。ブイモンをあんな目に合わせるなんて酷過ぎる。大輔とタケルとトコモンを逃がすために、身を呈して守ってくれたブイモン達を、あんな目に合わせるなんて!漬物石にするなん……脳裏をよぎる間抜けすぎる絵面に、大輔は沸き上がる衝動に襲われてしまう。

 

格好つかねーじゃねーか、ちっくしょー!すっかり涙目である。

 

もちろんそういう問題ではないし、大ピンチなのは変わらないのだが、なんかなんか釈然としない。まあ、そのまま粉砕でもされている所を目撃してしまったら、それこそ本当に大輔もタケルもトコモンも、一生癒えることのないトラウマを抱える上に、大輔はきっと助けられなかった、約束が守れなかった、

 

ブイモンの言葉の真意を知ることが出来ないまま絶望してしまう。ヘタしたら紋章自体消滅してしまいかねない。コカトリモンが料理をすることと、食べることが大好きだったということを幸運にしておくとしよう。

 

 

 

 

 

さて、問題である。ようやく空とミミがいるであろうシャワールームに辿り着いた大輔とタケルとトコモンである。でも、最初っから脱衣所に行くはずのドアが全開で、空とミミのものと思われる服とかが全部脱ぎっぱなしで放置されている。それなのに、タオルだけが不自然に根こそぎ無くなっていて、まるで誰かが入ってきたかのような惨状がひろがっている。

 

しかも、その先にあるバスルームまで無遠慮にも全開になっていて、流れているシャワーがそのまま放置である。そして不自然なまでに窓が全開で、空もミミもパルモンもピヨモンも誰もいない。しかもなんかがはいつくばったような跡があって、あちこちに不自然な石が張り付いている。

一体何があったのだろうか。

 

 

「大輔君、お兄ちゃん達、探そうよう」

 

 

もうほとんど答えは出たも同然なのだが、口に出しそうになったトコモンを、勘弁してくれ、とタケルが押しつぶす。力はもう尋常じゃないくらいである。もう恥ずかしくて今にも死にそうなタケルには、流石に大輔も同情した。

 

流石の大輔も、おう、と小さくつぶやいた。大賛成である。もう耳まで赤い。これは幾らなんでも刺激が強すぎた。デジヴァイス見つからないし、大丈夫だろう、多分。ミミさん達、なんだかんだいって、俺達より一番強いし。いろんな意味で。

 

とりあえず、せっかくここまで来た大輔達だったが、直ちに方向転換する。そして走り出す。もうここにいるのだけでも嫌だった。だから来たくなかったんだよう、とタケルはすっかり涙目である。仕方ねえだろ、俺達悪くねえよ、不可侵領域突破したコカトリモンの非常識さが悪いんだ、大輔は断言する。ごもっともである。

 

リュックに揺られながら、トコモンはずーっと疑問符である。わかんなくていい。一生わかんなくてもいい。だから頼むからだまってて。口をふさがれたトコモンは大人しく揺られることになる。そして、逃げ出すようにそこから出ていった彼らは、選ばれし子供たちの救出を最優先することにしたのだった。

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