(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第68話

「ホントに、これ、修行?」

 

「そうだっぴ」

 

「大輔、苦しんでるじゃないかあっ!今すぐオレもいれてよっ!」

 

「必要なことだっぴ。あいっかわらず、自信過剰だっぴねえ、ブイモンは。パートナーの選ばれし子供とブイモンさえいればいいって思ってるっぴ。チコモンの時となーんにも変わってないっぴね。自分を信じる気持ちが有り余ってるのはいいけど、自信がありすぎるのは、他の選ばれ子供達やデジモンを不快にさせるし、パートナーの他の選ばれし子供たちやデジモンとの交流も、成長も阻害させちゃうっぴよ。ちっとはパートナーのことを信じることも覚えるっぴ。まわりのことが見えないせいで、受け入れられないっていう悪いとこ、ちょーっとしか治って無いっぴ。けっこー不注意で失敗するのも、パートナー危険にさらしてるのも、ブイモンにも原因があるっぴよ」

 

「……むあーっ、分かってるよ!でもピッコロモンの嘘つき!オレ信じてたのに!あのデジメンタル、オレと大輔のっていってたくせに、太一の紋章だったじゃないかあっ!」

 

「選ばれし子供たちの世界じゃあるまいし、デジタルワールドにおいて、物事に意味がないものなんて何一つないっぴよ。必ず意味があるんだっぴ。ここはそういう世界だっぴ。自分だけの都合で、視野で、考えられるほどこの世界は単純じゃないっぴよ」

 

 

まあ、その時が来るのをのんびり待つのも大事ってことである。我慢を覚えなさい、とピッコロモンと呼ばれた小さな妖精は、専用の槍を食い下がるブイモンの鼻先に突きつけて黙らせた。正論の嵐にはブイモンも引き下がるしかない。思いっきり睨まれているが。今に始まったことではないが、ブイモンを叩き起こした、

 

どこかの誰かさんのお役所仕事の苦情を受ける羽目になっている、管轄外の対応のめんどくささに溜息一つ、末端仕事の辛さである。言っておくが、この思考回路の時点で、十分こいつもお役所仕事である。

 

高等プログラム言語を操ることで、魔法と呼ばれる力を自由に操る妖精型デジモンは、一見すると成長期と間違えてしまうほど体は小さいが、特殊な能力で敵の力を封じてしま力を持っている屈指の実力者だ。

 

イタズラが大好きで、自慢の槍「フェアリーテイル」でコンピューターを暴走させて楽しんでいるそのデジモンの名前は、ピッコロモンといった。ピンク色の毛玉に天使のような白い羽を持つ愛らしい姿とは裏腹に、ずいぶんと達観した物言いをするこのデジモンの正体は、アンドロモンやエテモンと同じ完全体。

 

そして、ファイル島でエリアを守っていた守護デジモンたちと同じセキュリティシステムに名前を連ねるデジモンでもある。なぜブイモンがピッコロモンと会話をしているのかといえば、答えは簡単。

 

スカルグレイモンの件ですっかり自信喪失してしまった彼らを見かねた、自称通りがかりのお人よしが、選ばれし子供たちだと知るや否や、このままでは英雄としての活躍が期待できないという一方的な好意により、ただ今現在進行形で選ばれし子供たちは、ピッコロモンに修行をしてもらっているところなのである。

 

 

「自意識過剰になっちゃってるこの選ばれし子供とブイモンが半分こすれば、ちょうどいいとはいえ、これはなんでも重症だっぴ。お姉ちゃんにどう思われているのか、必要以上に注意を払って、がんじがらめになっちゃってるっぴねえ。これじゃあ、いつになっても紋章を見つけられないっぴよ」

 

 

修行という名の名目で、自らが管轄する結界の張り巡らされた異空間に、選ばれし子供達とデジモン達を問答無用で招き入れたピッコロモンは出現の意図を一切明かさないままこっそり考える。もともと派遣されてきた理由は、ゲンナイから任されたからなのだ。

 

本来の目的は選ばれし子供たちのメンタルケアであるピッコロモンの目からすれば、重症者は3人だ。暗黒進化を仕出かしたトラウマで、デジヴァイスによる成長期から成熟期に進化させることさえ躊躇し、臆病になり、頭が真っ白になったせいで、ファイル島よりも遥かに強い固体であるサーバ大陸のクワガーモン相手に、逃げることもできないまま、呆然と立ち尽くしていた太一。

 

なんだかんだで、無意識のうちに刷り込まれている幼年期の恐怖の記憶であるスカルグレイモンに、ほかならぬ自分が進化してしまったというトラウマを抱え、目の前で太一が危機であるにも関わらず進化出来なかったアグモン。彼らをカウンセリングするために、特別カリキュラムと称した魔法の海に放り込んだピッコロモンは、どうしようかと思案する。

 

ネガティブ思考に陥っている選ばれし子供達とデジモン達のメンタル面を判定するために。わざわざ、選ばれし子供たちの持っているタグと紋章は持ち腐れであるとか。根性が足りないとか。たるんでいるとか、努力が足りないとか。

 

彼らからすれば無茶苦茶な暴言を吐いて反応を見たわけだが、彼らの反応を見る限り、その中でも顕著だったのが太一と大輔だったわけである。他の選ばれし子供達には、何百段もの階段を上らせたり、螺旋階段みたいな広大な建物の雑巾がけをさせたりと、修行というイメージに合った

それっぽいことをさせてはいるが、実はピッコロモンからすればどうでもよかったりする。

 

重要なのはメンタルケアなのだから。太一とアグモンはまあいいとして、はあ、とピッコロモンは溜息である。ネガティブ思考の選ばれし子供達の気持ちに発破をかけるため、鼓舞するために並びたてた言葉達は、ものの見事に大輔を傷付けた。

 

スカルグレイモン相手にみんなと一緒に戦うことが出来なかったという、太一とは別のベクトルのトラウマが大輔には根付いているのだ。

 

特別カリキュラムだと名指しされた時に、ああ、やっぱりオレ、間違ってるんだ、怒られるんだ、って悲壮な顔をした大輔の表情は、流石のピッコロモンもかわいそう過ぎて見てられなかったのである。なにせ大輔のトラウマは相当根深いものである。

 

全ての根本的な原因である、訳のわからないもの、は光が丘テロ事件がかかわっているのである。しかし、それを今この段階で大輔に対して封じている記憶を明らかにするということは、正直言って想定外にもほどがある。

 

それでも、このトラウマを少しでも軽減しなければ確実にこの少年は壊れてしまう。ピッコロモンでさえ、大輔がここまで重症だとは思わなかったのだ。間違いなく、この少年に課せられた役目を果たしてもらうまえに、紋章すら見つけることが出来ないまま、この少年の世界は崩落してしまう。

 

さすがに選ばれし子供達の旅路を陰ながら支援しているどこかのだれかさんは、デジタルワールドの危機を救う彼らを使い捨てにするほど非道ではない。

 

デジタルの世界にだって良心くらいあるのだ。知能を持った世界なんだから。それに困る。確実に困る。わざわざその時を待たずして、古代種を復活させて、選ばれし子供に選んだのだ。この選ばれし子供は、その時にちゃんとまた選ばれてもらわないと困るのだ。

 

そっちの方がこの子を必要とするときなんだから。ええい、仕方ない、とピッコロモンは覚悟を決めた。始末書?おしかり?お咎め?知るか、そんなもの。お役所仕事に振り回される末端の不始末なんて、誰かがきっととってくれるだろう。

 

それにこの子はとっても口が堅いのだ。約束を守る子だ。その時まで内緒にしてくれって言えば、きっと頷いてくれるだろう。隠し事が増えたって言って、パートナーデジモンと一緒に雑巾がけ競争をしているこの子の親友は怒るだろうが、まあ、それもまたよし。

 

なんせ、古代種の記憶まで戻ってしまったこのブイモンと、それにひっぱりまわされるだろうこの子供のことを考えると、その時が来た時、確実に抑止力になってもらわなくては困るのだ。だいすけ、だいすけ、だいすけ、と懸命に夢の中で戦っているパートナーを見ているブイモンは、悲しいほどにひたむきだった。ピッコロモンはブイモンに声をかける。そして、大輔に向かって魔法の呪文を唱えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんにもない真っ白な世界である。ぽつん、と一人で立っていた大輔は、ぼーっとしていたのだが、はっとする。この世界に放り込んだピッコロモンごと魔法の扉が消失しているという、とんでもないことに気がついて途方に暮れる。どうしよう、と思っていたら、なんか聞こえた。

 

いろんな声が聞こえてきて、大輔はきょとんとして、あたりを見渡すがなんにもみえない。ただ無邪気な笑い声が聞こえてくるのである。なんか、すっごく、楽しそうな、嬉しそうな、声がいっぱい。

 

 

ざわめきはどんどん大きくなっていって、なんだか世界はどんどん輝きを増していくのに、大輔はぜんぜん見えないのである。それに気付いたのか、あれ?と疑問符が飛んでいく。

 

ひそひそ、と声は相談を始めた。

 

大輔はただぼーっとしているしかない。

 

やあ、だいすけ。きみはもうわすれてしまったかもしれないけど、ぼくはいつでもあるんだよ。きみがうえをみあげてくれれば、きっといつでもあるんだよ。

 

 

青空が広がった。

 

 

ひさしぶりだね、だいすけ。きみはもうきにもとめてくれなくなっちゃっただろうけど、きみにつまれちゃったタンポポさ。ふんづけられたはらっぱさ。ともだちとくっつけあった、ひっつきむしさ。

 

 

原っぱが広がった。

 

 

こんにちは、だいすけ。ぼくらはきみとおともだちにちょっかいかけられて、しんじゃったありんこさ。みずとか、すなとか、ひどいことしたよね。

 

 

ちょうちょが飛んでいく。

 

 

やあ、だいすけ。こんにちは。きみはもうわすれてしまっただろうけど、ぼくはゆきだるまさ。おとうさんと、おねえちゃんと、いっしょにつくってくれたよね。ぼくはもうとけてしまったけど、こうしてきみのこころのどっかにのこっているんだよ。

 

 

大きな大きな雪だるまが現れた。

 

 

もう、なんでわすれちゃうのさあ。ひどいなあ。ぼくたちのこうしん、わすれちゃったの?きらきらしたのに、わすれちゃったの?

 

 

春の穏やかな気配が一面に花開く。緑が生い茂る森が現れた。みんみんみん、とセミが聞こえる。いっぱいの落ち葉が落ちていく。そして秋の気配が広がった。

 

 

「あ」

 

 

おもいだしてくれた?だいすけ。だーれもきづいてくれないけれど、きみはいつだってきづいてくれたよね。すっごくうれしかったんだよ、ぼくたち。なのにわすれちゃうなんてひどいなあ。ぼくたちはいつだってだいすけのとなりにいるのにさ。

 

 

大輔は思い出す。真っ白な思いと、ざわめきを。そんな時、いつだって隣にいてくれたのは、誰だった?

 

 

「ひひひひははははははははっ!」

 

 

びくっとした大輔は思わず逃げようとした。

 

 

どうしてにげるの?だいすけこのデジモンは、きみにあいにきたんだよ?ブギーモンは、きみにあいにきたんだよにげちゃやだよ、だいすけ。こわいことはこわいことだって、そのままわかってくれるのだいすけだけなんだよ。だいすけしかいないから、このデジモンはきみにあいにきたんだよ。

 

 

おそるおそる見上げた大輔の目の前で、ブギーモンが進化する。ぶぎーもん、という言葉が絵本のような世界に解けていく。大輔の恐怖を反映して、進化する。

 

 

そこにいたのは、フェレスモンという堕天使型の完全体デジモンだ。魂と引き換えに願い事を叶えてくれるといわれる堕天使型デジモンは、闇軍勢の異端児で、「ブギーモン」が出世して進化するといわれている。

 

闇軍勢でありながら、光の軍勢による救済を求めている矛盾は、モチーフのメフィストフェレスを色濃く反映しているデジモンだ。かつて大輔に死の恐怖を与えたデビモンよりもさらに上位の存在を感じた大輔は、思わず体がすくんでしまう。

 

しかし、この世界に響く無邪気な声曰くフェレスモンというデジモンは、一言も言葉を発しないどころか、大輔が怖がっていると知るとどことなく寂しそうな顔をした。手がのばされる。距離を取ってしまう大輔に、戸惑いがちに止まる手のひら。

 

 

めをそらしちゃいやだよ、だいすけ。

みみをふさいじゃいやだよ、だいすけ。

きいて、ぼくたちのこえ。さみしいよ。

 

 

もしかして、この声の主がフェレスモンなのかと錯覚してしまった大輔は、動きを止めた。異形の手が小学校2年生の男の子の頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。ふっと微かに微笑んだフェレスモンが再び光に包まれた時、じーっとみていた大輔の目の前で、フェレスモンが変化した。

 

そこにいたのは一転して天使のような姿をしたデジモンである。ガーゴモンっていうんだよ、と幼い声が教えてくれた。フェレスモンは闇の勢力だけど、光の勢力にあこがれていて、念願かなって光の勢力の陣営に入ることができた姿なんだよってその声は言うのだ。2枚の白い羽を持っているそのデジモンは全身が真っ白であり、耳の部分も天使の羽のような形をしている。

 

しかし、フェレスモンの時のような優しい眼差しはうかがうことができなかった。なにせ、目のあたりを潰すようにクロスされた鋼色の拘束具が顔を走り、首元で固定されている。それだけではない。両手、両足、胴体に至るまで鋼色の拘束具は張り巡らされていて、闇の力を完全に封じ込めていることがうかがえる。

 

天使型デジモンの使いをしているかつての完全体は、大輔にはとっても苦しそうに見えた。大輔は不思議でたまらない。どうして大輔の目の前で、ブギーモンがフェレスモンに進化して、フェレスモンがガーゴモンになれたのか分からないのだ。

 

大輔は何もしてない。ブギーモンがあの時大輔に襲い掛かったブギーモンならば、大輔を追いかけまわしたり、ガジモンを追撃したり、アグモンやコロモンを追い詰めたから、それによって経験値がたまってフェレスモンに進化したと考えるなら何ら不思議ではない。

 

でも、フェレスモンがガーゴモンに進化したとき、大輔は何もしてない。あえていうなら、フェレスモンが大輔に触れただけだ。大輔はフェレスモンの境遇を聞いて、天使が悪魔になるように、悪魔が天使になりたいこともあるんだなあ、と知って、願いが叶ったらいいなってちょっと思っただけである。

 

 

それがだいすけのちからだよ

 

 

大輔の疑問に正体不明の声は教えてくれた。

 

 

「オレの力?」

 

 

ううん、ちがうよ。ほんとなら、こどもたちならだれもがもってるちから。ちっちゃいこならだれでももってるちから。なりたいものになれるちから。ゆめみるちから。おもいのちから。きもちのちから。ねがいをかなえるちから。でも、だいすけはほんのちょっとだけじゅかんせいがつよくて、やさしいこで、とってもとってもいいこだったから、みんなよりすこしだけつよいちから。あのこみたいに、あのこだけしかもってないちからじゃないよ。みんながわすれちゃったちからを、だいすけはいまでもおぼえてるからつかえるちから。

 

 

わすれないでね、と声は言う。

 

 

そしたら、また。ぼくらはきみにあえるんだ。

さがして、ぼくらのこと。また、あいにきて。

ぼくらはいつでもきみのそばにいるんだ。

わすれないでね。まってるから。

もんしょうになってまってるから。

だから、ぼくたちのこと、みつけてね。やくそくだよ。

 

 

「ごめんなさいの紋章、みつけてね」

 

 

声は聞こえなくなってしまった。目の前には、ひよこがいた。

 

「ごめんなさい」

 

おんなのこのこえがする。大輔は思わず顔を上げた。大輔はこの女の子の声を知っている。

 

「だいすけ」

 

ごめんなさい

 

「だいすけがだいすきなおなまえ、わたしがもらえなかったおなまえ、なんだっけ?」

 

ごめんなさい

 

「おしえて」

 

ごめんなさい

 

「じゅん?」

 

ごめんなさい

 

「そっか、だからだめだったのね?」

 

ごめんなさい

 

「ありがとう、だいすけ。また、あえてうれしかった。きえちゃうまえに、またあえて、ほんとにうれしかった。おもいださせてくれてありがとう、だいすけ。たいせつなきおく、うまれかわってもわすれたくないきおくをおしえてくれて。できれば、じゅんとあいたかったけど、もうだめみたい」

 

ごめんなさい

 

「ごめんね、だいすけ」

 

ごめんなさい

 

「ほんとうにごめんね、だいすけ。わたしのなまえはまだおしえちゃだめみたいなの」

 

ごめんなさい

 

「なっちゃん」

 

「ごめんなさい、だいすけ。たいせつなもの、だれよりもたいせつなもの、こわしちゃって、ごめんなさい」

 

 

そして蘇る記憶。大輔は、あはは、と笑った。

 

 

「いいって。ごめんっていったら、終わりだろ?」

 

 

なっちゃんはぱっとわらった。光が丘事件の時、大切なモノを全部全部ぶっこわされた大輔は、被害者である。そして加害者の謝罪の声を聞いた。大輔は、たしかになっちゃんの声を聞いたのである。

 

でも忘れてしまったせいで、ゆくえ不明になってしまった「ごめんなさい」は。迷子になった「ごめんなさい」は。やがて大輔の中で、相手のことを自分のように考えられる優しい少年の中で。受感性と想像力が人一倍あった普通の男の子の中で。やがて自分の感情じゃないのに、混同し、同一視し。

 

それは違うと本能が叫ぶから、大輔のせいなんかじゃない、と叫ぶから、やがてそれは訳の分からないものになってしまった。ようやく大輔は4年間の長い長い罪悪感から。そして、大輔は、目が覚めた。傍らには、にこにこと笑っている黄色くて、真ん丸としていて、オレンジ色の鶏冠がある小さな幼年期のデジモンがいた。

 

 

「大輔、大丈夫?」

 

「ひさしぶり、ぶいもん」

 

「げ、その声は!」

 

「久しぶりだっぴねえ、チッチモン。やっと仕事に復帰できるっぴね、こっちはおかげで大変だったっぴよ」

 

「ごめんなさい、ピッコロモン。すぐにはできないけど、おしごと、がんばるから。がんばって、ぱろっともんにもどるから、まっててね」

 

「だからいったんだっぴ。デジタルワールドにおいて、物事に意味がないものなんて何一つないっぴよ。必ず意味があるんだっぴ。ここはそういう世界だっぴ」

 

 

もしかして、どこかの誰かさんには全部全部お見通しだったのかしらん、とピッコロモンはこっそり思う。デジタルワールドにおいて、物事に意味がないものなんて、何一つ無い。必ず意味がある。ここはそういう世界である。人はそれを予定調和という。

 

では、そんな世界で生きるデジモンが、感情というものを知ったとしたら、どこかのだれかさんが説明・証明できない現象がバグとして起こったとしたら。それは驚きをもたらした。それはきっと、常識で考えては起こりえない、不思議な出来事・現象として見えるに違いない。キリスト教など、宗教で、神の超自然的な働きによって起こる不思議な現象として見えるに違いない。

 

その「巡りあわせ」に感動したい時に、デジタルワールドはそれを表現する言葉を持ち得ていない。結局のところその多くがただの思い込みだとしても、人にはそれを表現する言葉があることを、デジタルワールドは知るそして、その紋章に名前を付けたのである。統計学的に極めて低い確率でしか起こらないことが実現したので、名付けたのである。「奇跡」と名付けたのである。それは、本宮大輔が持つことになる紋章である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ブイモンがいっぱいいた時って、どんなデジモンがいたんだよ?」

 

「えーっとねえ、グレイモンとガルルモンはもういたよ」

 

「へえ、そうなのかあ」

 

「あー、そうそう、ハツカネズミモンっていう変な奴らがいてさ、オレ達よくからかって遊んでたよ」

 

「ハツカネズミモン?ネズミなのか?」

 

「ネズミっていうのが何かは知らないけど、ハツカネズミモンっていうと、顔真っ赤にして怒るんだよ。白い奴と黒い奴がいてさ、黒いのはブラックハツカネズミモンっていうんだ。ぜーんぜん、似てないくせにトブキャットモンの真似してるんだ」

 

 

ブイモンから語られる外見を聞いた大輔は、ものの見事にそのまんまド直球、空を飛ぶネコを想像した。キャットがネコっていうことくらい、大輔だって知っている。ハツカネズミがどんな動物かまでは知らないけど、多分ネズミなんだろう。

 

ネズミがネコの真似をするってブイモンは言いたいわけである。ちょっと想像すると笑ってしまう。確か教育放送に出てくる青いネズミは、確かネコがネズミの気持ちを知りたくてコスプレしているはずだから、丁度ま逆な訳だ。おもしれえなあ、と大輔はブイモンにつられて笑った。古代種はまんま直球のデジモンが多いらしい。

 

 

「そん中でもホーリーリングっていう、ほら、パロットモンだった時のなっちゃんが付けてたやつあるだろ?」

 

「あーうん」

 

「白いハツカネズミモンの中でも、それ持ってる奴がめっちゃくちゃ強くてさ、グレイモンぶん回すくらい強いんだ。そいつ怒らせたら、もー大変だから、デジメンタルで慌てて進化してみんなで喧嘩してたよ」

 

「グレイモンぶん回すってどんだけ強いんだよ」

 

「すっげー強いよ。多分、オレもエクスブイモンになっても勝てるかどうかは自信ないなあ。でもさ、ホーリーリングとっちゃえば、オレ達くらいの弱さになっちゃうから、みーんなでよくいたずらしたよ」

 

「へー」

 

「今のデジタルワールドにも、たまーに、オレの知ってるデジモンもいるんだけど、結構みんな名前変わっててさ、最初は大変だったよ、覚えるの。どっかにハツカネズミモンもいるかもね。なあ、大輔、ネコってどんなの?」

 

 

ブイモンに聞かれるがまま説明すると、ブイモンは突然笑い始めた。

 

 

「じゃあ、ハツカネズミモンはやっぱりネコになりたいんだよ。だって、必殺技ネコパンチだし、他にもネコキックとか、キャッツアイとか、キャットテイルとか、ネコ騙しとか、キャットレーザーとか、ワンツーネコパンチ→ネコラッシュ→ネコフィニッシュとかいう技まで使ってくるんだよ」

 

「どんだけネコになりたいんだよ、ゴリ押しじゃねーか」

 

「しかも、そいつら、デジメンタルで進化したら、よくネフェルティモンっていう奴になりたがるんだけどさ、それもすっげーネコなんだよ」

 

「面白すぎるだろ、ハツカネズミモン。どんなデジモンだよ」

 

「大輔に合わせてあげたいよ、すっげー面白い奴だからさ!」

 

「あ、でも、あんまり怒らせるとペガスモンと一緒になって一網打尽にされちゃうから気を付けないとダメなんだ」

 

「へー」

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