大輔はね、逆さまだったの。早く早く生まれてきたいって、お母さんのおなかの中で大暴れするもんだから、お母さんと大輔がつながってるへその緒がね、くるくるーって首に巻きついちゃって、いくら待っても戻らないの。
ほんとうなら、ちゃーんとおっきくなるまでお母さんの中にいなくちゃいけなかったんだけど、ちゃーんとお姉ちゃんの時みたいに頭から、生まれてきますよって準備するまで待ってたかったんだけど、このままじゃ大輔が死んじゃうって思ったから、そんなに早くお母さんや、お父さんや、お姉ちゃんに会いたいんなら、お母さんも頑張らなきゃなっておもったのよ。
ちっちゃかったけど、元気な声あげててね、でも身体が小さいから、おっきくなるまで病院の保育器の中に入れなきゃいけなくって、毎日毎日、哺乳瓶にミルク入れてね、渡すのよ。看護士さんに。信じられないでしょ、お母さんが生んだ子供なのに、お母さんが抱っこしてミルク上げられないの。
看護士さんがあげるの。大輔はお母さんの子供なのにね。それがね3週間よ、3週間。信じられないでしょ。看護士さんがあげるの、ガラス越しにみるだけなの。それが今でもお母さん、悔しくて悔しくてねえ。大輔は私の子供なの!って何度叫びたくなったか分からないわあ。
だからね、大輔。お姉ちゃんと一緒に寝たいのは分かるけど、もーちょっとだけ、もーちょっとだけでいいから、お母さんとお父さんと一緒に寝てくれない?
その日から、本宮家ではみんなで川の字が当たり前になった。大輔はいろんなものが怖くなった。怖くて仕方がなかった。大好きなお母さんのおなかを切って生まれてきたこととか、もう2度と治らないおっきな傷をつけてまで、お母さんから生まれてきたこととか。
もうちょっとで大輔が死んじゃったかも知れないんだってこととか、大輔が考えているよりもずーっとすぐそばで、死んじゃうっていうことがあるんだって知って、それはもう、怖くなった。
夏のある日、市営プールにお姉ちゃんと一緒に出かけて、くたくたになりながら帰る途中のことだ。ミンミンゼミからヒグラシに変わった夕暮れ時、のびる影を追いかけながら、手をつないで帰っていた時の話だ。大輔はしんじゃったセミの亡骸を見つけた。
もう死んじゃったものは、2度と戻らないことを知った。セミさんは、夏が終わると死んじゃう、1週間すぎたら死んじゃうんだってお姉ちゃんから教えてもらって、なんにも知らなかった自分を後悔して、夏が過ぎていく恐怖を感じた。どうにもならない現実である。
大輔が泣いたって太陽は上っていくし、沈んでいくし、夜になって、やがて秋が来る。怖がる大輔のそばに、いつだっていてくれたのはお姉ちゃんだった。お姉ちゃんは教えてくれた。
せみさんは、7年間っていう今の大輔よりもずーっと長い間、真っ暗な土の中でずーっと夏を待っていたんだって。全力で夏を楽しむために、全力で生きるために、一生懸命ずーっと一人ぼっちで待って待って待ち続けていたんだって。
だから1週間しか生きられないんだけど、1週間もお姉ちゃんや大輔よりも一生懸命夏を生きられるんだよって教わった。土に埋めてあげて、手を合わせて、ばいばいするまでは、可哀想だって泣いてあげるのもいいけど、ずーっとそれを泣いてあげるのは違うんだよって怒られた。秋がこなければいいんだって泣いてあげるのは、せみさんに失礼だって言われた。
だってもう、土の中では、またべつのせみさんが次の夏をずーっと待っているのかもしれないから、もし秋が来なかったら、ずーっとそのせみさんは土の中だよって教えてもらったのだ。そういうものなんだって、丸ごと受け入れるのが大事なんだよって教わった。大輔はうなずいた。
世界はいつだって輝いていて、その時の大輔は、今の大輔よりもずっとずっとちっぽけだったけど、きっと誰よりも無敵だった。どうにもならないことだって、いつかは笑い話に変わっちゃうんだから、今は今しかないんだから、目をそらしちゃダメだよって教わった。
想像力豊かで、受感性の高いちいさな男の子は、こうやって、いろんなことをそのまんま見つめて、聞いて、そして一生懸命考えて、そのまんま受け入れることが出来る、とんでもない心の広さを身につけていく。なんとか、じーっと、それがどういうものか、わかろうってがんばろうとする男の子になっていく。それはやがて、本質を見極められるとんでもない強さになっていく。もし僕だったら、オレだったら、どうだろう?っていう世界の中で。
大輔は思ったのである。
わかんないこともたくさんあるけど、聞いてみて、見てみて、考えてみて、今大輔ができることを全部やってから、今立っている場所から手を伸ばして、とどいたものだけ、つかみとれたものだけ、何とか信じてみようって。
今はまだ、それだけでいいんだって。誰が悪い奴で、そいつが本当に悪い奴なのか、ちゃーんと見つけなくっちゃいけないって。出来るのかどうかなんてわからないけど、それがきっと今の大輔にしかできないことだって。
間違ったっていいのだ。まだ大輔は小学校2年生なんだから。あぶなかったら、みんなが守ってくれるんだし、間違ったら、また叱ってくれるんだし、怒ってくれるんだし、きっと止めてくれる手がある。
そしたら、きっと大輔は迷うことなく戦える。ブイモンと一緒に戦える。負けたくないんだって思えるのだ。大輔がデジヴァイスを輝かせられるのは、いつだって誰かを守りたい、助けたいって思ったからで、心の底からそう思った時だけなのである。きっとそれは、憧れの太一先輩とは根本的に違うところなのである。
もしいなかったら、適当につくっちゃえばいいのである。理由をあげるってブイモンが言ってくれたから、きっとまた迷っても、デジヴァイスが輝かなくなったとしても、引っ張ってくれるパートナーデジモンがいるのである。
大丈夫だろう、って思ったのである。だから大輔は何が何でもブイモンを守らなくっちゃいけない。ブイモンに何かあったら、真っ先に飛んで行かなくっちゃいけない。大輔のことを一番理解してくれるのは、きっとブイモンだけだから。それだけは分かったのである。
これだけは、太一先輩も、空さんも、タケルも、だーれも出来ない。ブイモンだけにできること。じゃあ、大輔はなにができるだろう?パートナーデジモンのために、何が出来るだろう?って考えたのである。そう考えた時に、真っ先に思いついたのは、紋章である。
めをそらしちゃいやだよ、だいすけ。
みみをふさいじゃいやだよ、だいすけ。
きいて、ぼくたちのこえ。さみしいよ。
そう言ってくれた紋章なのである。
そしたら、また。ぼくらはきみにあえるんだ。
さがして、ぼくらのこと。また、あいにきて。
ぼくらはいつでもきみのそばにいるんだ。
わすれないでね。まってるから。
もんしょうになってまってるから。
だから、ぼくたちのこと、みつけてね。やくそくだよ。
約束、したから。
「行こうぜ、ブイモン。オレ達の紋章、探さなくっちゃ」
「そうだよな!がんばろう、大輔!」
一体どんな色をした紋章なんだろう、一体どんな形をした紋章なんだろう、オレだけの紋章、オレだけにしかできないことを教えてくれた紋章。絶対探さなくっちゃいけない。また、その声に会うために。
そして、大輔とブイモンは、ありがとうございました!って言って、ピッコロモンとなっちゃんに頭を下げて、修行の間から出ていくのである。あーあ、特別カリキュラムが終わっちゃったから、今度からはみんなと一緒に修行だ。雑巾がけか、座禅か、それとも階段の往復か。
いやだなあ。でもいいや。待ってる分だけ紋章のこと、いろいろ想像して楽しめるし。ブイモンがどんなふうに進化するのか、すっごく楽しみにしてた、あの時みたいに。いまはただ、それだけでいい。はやく、はやくって引っ張ってくれるブイモンを追いかけながら、ちょっとはゆっくりしろよ、こける!と叫んだ大輔は、いつになく輝いていた。
ピッコロモンというデジモンが現われたのは、進化を躊躇する太一とアグモンが、クワガーモンによって殺される寸前である。必殺技のピッドボムによって、放たれたウイルスに浸食されたクワガーモンは、一瞬のうちに爆殺された。ファイル島の個体よりもはるかに大きなクワガーモンを、一瞬のうちに、しかも一撃で粉砕するパワーの持ち主である。
呆然とする子供達、デジモン達の前に現れた小さな妖精は、選ばれし子供達を知っているようだったのだが、太一とアグモンのふがいない有様を目の前にして、大いに憤慨、失望したらしく、選ばれし子供達であるにも関わらず、一体これはどういうことだとばかりに罵声を浴びせかけてきた。
伝説の英雄の選ばれし子供達という扱いには相変わらず不慣れながらも、現われるデジモン達が必ず形容する時にするその言葉は、もうすっかり彼らの中では自分たちのことなんだろう、意味分かんないけど、という形で落ち着いている。
だからみんな落ち込んだ。スカルグレイモンのトラウマがネガティブ思考を加速させているのだ。そんな子供達、デジモン達を見かねたのか、ピッコロモンが言ったのだ。私の家で修業しないかと。太一とアグモンを助けてくれたデジモンである。みんな食いついたのは、言うまでもなかった。
ファイル島の密林地帯を思い出させるジャングルを抜ける。ジメジメとした雰囲気の漂う、お化けのでそうな荒廃した気味の悪い墓地群を進むと、見えてきたのは首が痛くなるほど大きな大きなイワヤマである。
そのてっぺんに、ピッコロモンの家があると聞いた途端、選ばれし子供たちとパートナーデジモン達の修行に対する意欲は大幅に減退した。そして、悟るのである。遠足の時、担任の先生が良く言っていたから、覚えている。玄関を出てからが遠足、バスから降りて家に帰るまでが遠足だって。
案の定、ピッコロモンは言い放つ。もう修行ははじまっていると。そして、夕日が沈む中、選ばれし子供達はくたくたになりながら、何百段もある階段を上りきり、(ちなみに空を飛ぶという楽をしようとした不届き者は、ピッドボムで撃墜された)その日はすっかり疲れてしまいピッコロモンが用意してくれたご飯を食べて、お風呂に入り、そしてみんなで久々にゆっくりと雑魚寝したのである。それが罠だったとしるのは、翌日太陽も登らない早朝のことである。
「おきるっぴいいい!」
大音量のピッコロモンの声と、どっから持ってきたのかドラムが目覚ましだった。ぐわああんと何度も鳴らし、無理やり叩き起こされた選ばれし子供達とデジモン達は、急き立てられるように朝の支度をして、ご飯を食べて、身支度を整えて、ピッコロモンの大きな銅像がどこからでも見えるという自己満足全開の構造をしている、螺旋階段のような構造をした建物の廊下に正座させられたのである。
「これから修行内容を発表するっぴ」
ごくり、とみんな唾を呑む。
「これだっぴ」
愛用の槍を振った途端、時空の狭間から落ちてきたのは、大量の雑巾である。そして、どすん、と落ちてきたのは、なみなみとつがれた水をたたえるバケツが5つ。思わず、ピッコロモンを見た子供達に、ピッコロモンは愛らしいのに、なぜかめらめらと燃えている瞳を向けた。そして彼らは悟るのだ。修行の先生は、どうやらとんでもなく、スパルタであると。
「この建物ぜーんぶの雑巾がけだっぴ!」
えええええ!?という彼らの声が響き渡ったのは、言うまでもない。
「はい、そこのゴーグル二人組とデジモン達!」
「へ?オレ?」
「僕う?」
「………やっぱり、オレっすよね、あはは」
「………大輔、大丈夫か?」
「ん」
「君たちは特別メニューだっぴ!びしばししごいてやるから、覚悟するっぴ!」
大輔達は連れて行かれてしまった。そして、数時間後、紋章の反応を見つけたヤマトと光子郎が、ピッコロモンに申し出たところ、あっさりOKが出て、みんなに内緒で彼らは紋章を探しに出て行ってしまう。パートナーデジモン置いてきぼりである。
どうやら彼ら、コカトリモンの船で、最年少組の猛攻を見捨てたパートナーデジモンを根に持っているらしかった。すれ違いで、大輔とブイモンが復帰した。なんかすっごく元気になっている。
でも、まだまだ廊下の雑巾がけは終わりそうもないので、やんちゃ坊主の助っ人は大歓迎である。何があったか知らないが、お昼御飯までに終わらせないと飯抜きだって言われているので、だーれも気にしていなかった。
じゃぶじゃぶじゃぶって雑巾を濡らして、ぎゅーって絞って、広げて、床を並べて、よーいドン!だーって有り余っている元気を全力で走り抜けるやんちゃ坊主と、そのパートナーデジモンは、ぐにゃぐにゃの軌道を2つに並べて描きながら。
ゴールって決めてたところに、風のように走り抜ける。早く着いたのは、古代種の記憶を思い出したおかげで、今まで無意識と本能でしか使って来れなかった、現代種に比べて潜在能力をこれ以上ないくらい意識的に使えるようになり、なおかつパートナーの1番になれて、精神的に完璧に安定することに成功したブイモンである。
寿命が短いっていう致命的な欠陥は大輔が半分こしてくれてるって無意識のうちに分かっているから、本能的に抑制されていたものを躊躇する必要が無くなったから、もう何にも心配いらない。大輔がいなくなったら、ヤバいことになるって言うだけである。
大輔とずーっと一緒にいたいブイモンには関係ない。むしろ望むところだ。もし別れることになっても、たぶんどこかの誰かさんは、古代種の宿命を分かっているから、きっと何かしてくれるだろうし。どんどん追い抜かれてしまい、大輔がついた時には、もうとっくの昔にゴールして転げまわって笑っているブイモンがいる。
ぜーはー言いながら、つられて大笑いしている大輔は、悪戯っ子の好奇心を刺激されて雑巾を分投げる。べしゃっと直撃した。誰かがこぼした牛乳を拭いた雑巾を罰ゲームと称して、みんなでぎゃーぎゃー言いながら、ボールにして投げっこしていたのを思い出したのである。
もうここから来るのは修行と称していながら、実のところ全く意味がない、単にピッコロモンが太一とアグモンのメンタルケアが終わるまで、選ばれし子供達を引きとめるために用意した雑巾がけなんて、そっちのけ。
大輔はたんに遊びたいから。自分の管轄する領域をついでに掃除してもらおうっていう自分勝手すぎる裏側をしっているブイモンは、もちろんなおのことやる気は皆無だ。もちろんそんなこと知らない彼らの親友とパートナーデジモンは、こらーっと大声をあげた。
「なにやってるんだよう、大輔君、ブイモン!ちゃんとやんなきゃだめだよ!」
えー、と似た者同士は不満タラタラである。
「タケルとトコモンだって、競争してたじゃねーか」
「そ、それはそうだけど、ダメなものはだめだよ!ちゃんとやんなきゃー!」
「そうだよ、大輔、ブイモン。僕たち、しゅぎょーしてるんだよ」
「みんなとピッコロモンに怒られるよ?」
それを言われてはおしまいである。ぎくっとなった大輔とブイモンは顔を見合わせて、キャッチボールするのをやめたのだった。バケツの所まで戻るために雑談をする親友を横目に、タケルはちょっとだけへこんでいた。大輔君はずるいのだ。
よーいどん、までは大輔君と僕は一緒のスタート地点にいたのに、いつだってタケルとトコモンのことなんか見向きもしないでずーっと先に行ってしまうのだ。そして、ある程度突っ走った所まで行って、あって気付いてから、はやくこいよーって待っていてくれるのだ。
これって全然対等でも、平等でもない。あきらかに大輔がタケルを先導してくれている。親友じゃない、お友達である。思えばタケルからしてみれば、大輔という親友は劣等感を山積する塊なのである。大輔君はサッカーをやっているから、タケルよりもずーっと運動神経が良くて、かっけこも早くて、体力も維持力もあって、積極的で、行動的で。
そのおかげでほかのみんなとおしゃべりして、いろんな行動をして、タケルよりもすさまじい早さで、みんなと仲良くなっている。もちろんタケルもはじめの頃よりは、ずーっとみんなと仲良くなっている自信はあるが、大輔という比較対象がいることで冷静に客観視できる観察眼では、明らかに仲の良さレベルが違うと分かってしまって、へこむのだ。タケルはまだ知らないのである。
毎日をサッカーで塗りつぶされている大輔君は、そのせいで、タケルが当たり前だって思っていることが、実はぜーんぜんなんにもできない子だって知らないのである。
お家に帰ってから宿題する、時間割をする、明日の準備をする、テスト前になったらちゃんと勉強机に向かってちゃーんと勉強する、ちゃんとした時間に起きる、朝の支度だって一人で全部する、という呼吸をする位簡単なことを何にも出来ない子だって分からないのだ。
おんなじ学校じゃないから、知らないのだ。タケルは漂流生活をするうえで、共に過ごしてきた大輔君しか知らないから。
だから思うのである。大輔君はずるいって。タケルが唯一大輔君に対して勝っていたところ、優越心を覚えていたところ、僕が勝ってるって感じられて、これがあるから、まだ大輔君と僕は対等で平等な親友なんだって安心できたところは、ヤマトお兄ちゃんと仲がいいっていうこの一点だけなのである。
これだけは大輔がうらやましいって言ったことなのだ。しかもこの一点は、大輔の「甘えればいい」っていうアドバイスを聞いて、なるほどって思って、実行して、やっとのことで、ヤマトお兄ちゃんに対して甘えることが出来たおかげで、今までよりずーっと仲良くなれたということを考えると疑問符が浮かんでしまう。
しかも、唯一にして無二の、ジュンお姉ちゃんがこの漂流生活にいないという強烈なアドバンテージがある限り、解決することは無いって思っていたら、ピッコロモンの特別カリキュラムという秘密の特訓で、なんと大輔君はジュンお姉ちゃんとの仲が良かったころを思い出してしまったのである。
大喜びしているのである。よかったなあって思うし、なんだかんだで、何かあった時に頼れるお姉ちゃんがいないのは可哀想だし、ブイモンと一緒になって泣いてる大輔君を見ているから、ちょっとだけ申し訳なく思うこともあったのだが、これで臆することなくヤマトお兄ちゃんに甘えられるのだが、無くなっちゃったのである。タケルが大輔君という親友と対等でいられる要素が無くなっちゃったのである。
そしてもたげてくるのは、劣等感と敗北意識から来るライバル意識と、とんでもない不安である。本当に僕たち、親友だよね?って心配になるのである。だって大輔君はタケルに対して相談はしてくれるけど、アドバイスは求めてないって、はっきり言ったし、態度にも出ているし、本音なのである。しかもピッコロモンの修行から、明らかに隠し事が増えているとタケルは直感的に感じとっている。
大輔はタケルが嘘や隠し事を見抜くのが得意だって知っているから、どうしても挙動不審になるし、隠し事してごめんねって顔に書いてあるし、でも言えないんだよどうすりゃいいんだよって頭を抱えたくなるような苦悩が見え隠れしている。ぽろってそういうことをこぼしている。
いつか言ってくれるとは思うので、仕方ないなあ、って呆れながらも待つことにはしているのだが、そもそも「隠し事」をタケルに言おうかどうか、という選択肢自体が浮かんでいないこと自体がタケルにとっては肩透かしである。これ以上ないくらい。もしかして僕、大輔君にそんなに信頼されてないのかな、って思ってしまうのだ。何でだろう?タケルはさっぱりわからない。
実はここに、大輔とタケルの「親友」という言葉に対する致命的なまでの認識の落差がある。求めるもの、ベクトル、条件がびっくりするほど食い違っているのだ。学校でのタケルは、いい子のタケル君だから、みんなと仲良しである。喧嘩なんてしないし、悪ふざけなんてしないし、ダメだよっていうし、悪口なんてぜったい言わないし、いっつもにこにこして、嫌なこと一つ言わず、なんだって自分から進んでするから、みんなの人気者である。
みんなから好かれている。そこにいるのは、みんなに人気者のタケルくんであり、タケル自身、友達ってそういうもんだと思っている。対等で、平等で、隠し事なんていわない、絶対に何だって打ち明けられる相談しあえるのが、親友だって思ってる。だってタケルのまわりのお友達は、みんなそうなのだ。
いっつもにこにこして、いやなことは進んでやってくれて、喧嘩になってもすぐに謝ってくれて、仲直りしてくれる。先生のいうこととか、上級生の言うこととか、みんなの中心になるために、進んでいうことを聞いて、やることはちゃんとやる子たち。みんなをまとめようとする子たち。誰にも嫌な顔一つせずに、にこにこしてる子たち。それがタケルの友達だった。
大輔は真逆な子だった。普通にあったらまず友達にはならないタイプの子だ。
そのうえ、タケルは友達と親友がごっちゃごちゃでよく分かっていない。タケルの置かれていた生活環境とかそういうのが原因なのだ。家族とか、兄弟とか、自分のことに一生懸命になりすぎてしまっているせいで、自分の周りのことに集中できなかったせいである。本人は悪くない。でもそのせいで困っていた。
親友って思いたい、初めて自分の家庭事情とか全部知ってくれた友達、大輔君はよく忘れ物をする。宿題だってろくにやってない。だからみんなの前で先生に怒られたり、廊下に立ってろって言われたり、新しい課題を出されたり、校内放送で職員室に名指しで今すぐ来いって公開処刑されるような子である。サッカー部の友達にいろんなものを借りたり、貸したり、仲がいいサッカー部のキャプテンに対する仲介を頼まれて、えーって言いながらもお菓子とかおごるとか交換条件で提示すれば、あっさり仕方ね―なって笑ってやってくれる子である。
その結果とかも顔とか態度とかでばればれなんだけど、彼なりに気遣ってくれるような子である。周りを見てくれる子なのである。宿題とか誰かうつさせてくれーって、たのむからーって泣きついてくるような子である。これ以上ないくらいのムードメーカーである。
人気者にはなれないかもしれないけれど、信頼できる、信用できるっていう面では、たしかだ。だから大輔には人が集まってくる。喜怒哀楽が激しくて、何を考えているのか全身で表現する上に、本人はいまいちそれを良く分かってない。
嘘をつくのだってへたくそだ。だからみんなからかうし、おちょくるし、わざと怒らせる。でも大輔は自分がそう言う奴だってどこか分かっているから、怒りはするけれども、謝ったらすぐに許すし、水に流してしまう。けろっとしている。みんな、本宮大輔という少年がどういう人間なのか、これ以上ないくらい分かりやすくて、いい奴だって分かる。
大輔はタケルの周りにいる友達とはタイプがあまりにも違いすぎた。びっくりするくらいタケルと大輔は正反対である。
大輔は大輔なりにタケルを親友だと思っているが、タケルがもとめるのはなんとなく違った。太一とヤマトみたいになりたいと思っていた。明確なモデルケースがあるから不満だった。タケルは上手く言葉にできなくて困ってしまった。