そして、ピッコロモンの特別カリキュラムいきになった訳だから、大輔にとってはためいきものである。太一は知らないが、太一がヤマトみたいに意識して何かをしようとしていろいろおかしくなったように、大輔も意識してなにかをしようとすると空回りどころか、心的、身体的ダメージまで、返ってきてしまうのだ。
自分らしくない行動はそれだけ紋章の持ち主である選ばれし子供にとっては、危険があるということである。それが大輔と太一は同じながらも正反対な形で明示化されたかたちである。一方はみんなが分かりやすく、一方は当事者だけ。
だから大輔はタケルが無性にうらやましくなって、大喧嘩した訳だから、心はいつだって悲鳴を上げている。
大輔は太一に不安を吐露することにした。もちろん、なっちゃんの声と紋章の声が聞こえた「おかしい」である。
ピッコロモンから光が丘事件については伏せておくようキツクキツク言われたので、約束を守る義理がたい大輔は、ピッコロモンがどういう立場かしっている太一には、あらかじめ「口止めされているので言えません」とくぎを刺した。
これが大きな変化である。ぜーんぶだんまりを決め込んで抱え込んでいた大輔が、ちょっとずつ、表に出す方法を学んできた成果である。ピッコロモンの奴―、と悔しそうに握りこぶしである。上級生組には知らせるけどいいか?と太一にいわれ、はい、と大輔はつぶやいた。
「でもそれって大輔にしかできなかったことだろ?」
「え?そうっすか?」
「そうだよ。大輔だからこそ、出来たことだろ?いちいち探さなくったって、もう出来てるじゃねーか。心配すンナって。そのおかげで大輔はまたなっちゃんに会えたし、元気になったんだから、いーじゃねーか。オレ達が守ってやるからさ、大輔は大輔のできることをじっくり探せばいいんだよ、頑張れ」
「ありがとうございます」
「いいって、気にすんな。そーだ、大輔、その紋章はなんて言ってたんだ?」
大輔は言った。
めをそらしちゃいやだよ、だいすけ。
みみをふさいじゃいやだよ、だいすけ。
きいて、ぼくたちのこえ。さみしいよ。
そしたら、また。ぼくらはきみにあえるんだ。
さがして、ぼくらのこと。また、あいにきて。
ぼくらはいつでもきみのそばにいるんだ。
わすれないでね。まってるから。
もんしょうになってまってるから。
だから、ぼくたちのこと、みつけてね。やくそくだよ。
「なんのことだかさっぱりなんすよ。だってナノモンがみつけてくれたんすよね?紋章の場所。それに、なんか、タグがぴっかぴかに光って、それで見つけられるんすよね?なんでオレだけ「目をそらしたり」「耳をふさいだり」して、あいつらの「声」を聞かないと紋章がみつかんなくなっちやうのか、よくわかんないんすよ」
「大輔そっくりだなー、さっすが、大輔の紋章だ」
「えー、なんすかそれ」
「大輔、お前気付いてないだろうけどさ、お前テンションあがると、やったら大げさな、だー、とか、わー、とか、いう言葉がいっぱい出てくんだよ。おかげでこっちは何しゃべってんだかわかんねえこといっぱいあるんだよ。それに自分の言いたいこと良く分かってねえだろ。まー大輔らしいから治せとは言わねえけど、わけのわからないもんはどっか行っちまったんだろ?ちょっとは落ち着けよな」
って、なんだよ、その顔は。またいじめられるので、あわてて大輔はなんでもないっす!と言って、ご機嫌をとる羽目になる。何度も何度も同じ話を無限ループで聞かされる側としてはお前が言うなである。
主に八神ヒカリに関しては大輔は耳にタコが出来るくらい聞かされている。それはもう詠唱できるくらい。さすがの大輔も、太一の光に対する過保護ぶりはちょっと引いている所があったので、勘弁してくれ、という所はあるのだ。
だって、いくらおねしょをした妹をかばうためとはいえ、女の子の下着を自分が両親に隠れて洗ってあげた挙句、
自分から証拠隠滅を図った挙句、ばれたら両親にオレがやったと自己申告するとか、いくらなんでもやりすぎだろう。
超が付くほどのシスコンである。これではお姫様状態である。そう言えば八神さん昔のタケルに似てるなあと思う大輔である。さすがにそれを知っていると聞いたヒカリは、え、うそ、お兄ちゃんそんなことまで話してるの!?いやああ!わすれてええ!と常識人っぷりを発揮したのでほっとしたのだが、そのエピソードを人に話したということ以外では受け入れている時点であれである。
つくづくジュンお姉ちゃんが超が付くブラコンじゃなくてよかったと思う大輔である。そんなことになったら、悶絶して死んでしまう。後輩からそう思われているなんてしらない太一は、ほかには?と言われたので話すことにした。
「ごめんなさいの紋章だって」
「はあ?なんだそりゃ。光子郎並みにネーミングセンスねーな」
「え?光子郎先輩、ネーミングセンスないんすか?」
「ねーよ、全然」
みーこって名前を飼い猫に付けるまでのまともな名前を付けるというお兄ちゃんとの熾烈な争いを光から聞いている大輔は、うわ―状態である。みけ、とかなら分かるけど、聞いている限りでは酷いありさまだった。ごんぞうってなんぞそれ。
ちなみにコロモンに対する名前もことごとくこの太一少年はネーミングセンスが壊滅的な所を見せている。ヒカリは幼いながらもホイッスルで抗議しているし、コロモンが自分の名前を名乗ったのはその後である。それはともかく、太一先輩から酷評されるってどんだけ酷いんだよ、という突っ込みは、心に仕舞われた。
彼がその神髄を思い知る羽目になるのは、4年後、自ら口にする羽目になるデジデジモンモンである。
「まあ、困ったことあったら、なんでもいえよ?話し合いとかしてても割り込んでこいよ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
満足したのか、早く寝ろよ、と太一は手を振ってアグモンと共に去っていった。どうやら見張り役は太一コンビが最初らしい。
結局最後まで、ピッコロモンの修行はどうだったんですか、という質問が飛んでくる前に全力で逃げ切った太一である。いえない、いえない、いえるわけがない。小学校1年生のくせに生意気にも補助輪なしで泣きべそかいて一人で自転車の練習をして、お父さんやお母さんの手伝いをしてもらって、やっとのことでのれたことを思い出して、自分がどうしてリーダーになりたいのか、思い出しました、なんてバカ正直にいえるような人間ではない。ただでさえ大輔はライバルであるヤマトを尊敬のまなざしで見つめつつある。
憧れが緩やかに太一からヤマトに移行しようとしていることくらい、太一だって分かっているのである。先輩ぶりたいのは仕方ないといえた。ピッコロモンの修行で自分のペースでがんばることを決意した彼である、もう暗黒進化や軽率な行動は減るだろう。何もなければ。
「ピッコロモンが言ってただろ、大輔、デジタルワールドではなんにだって、きっと何か意味があるんだって。
大輔のそれも、きっと何か意味があるから、必要があるから目が覚めたんだよ。違う?」
「そっか、そうだよな。うん、ちょっと元気出てきた、ありがとな」
「うん。大輔、そろそろ寝よう?」
「おう」
すっかり暗くなり始めた星空のもと、一人と一匹は駆け出した。
本宮大輔は何も知らない。デジタルワールドの1日は、現実世界における1分である。デジタルワールドの1440日は、現実世界における1日である。デジタルワールドの525600日は、現実世界における1年である。デジタルワールドの2102400日は、現実世界における4年である。
大輔はエレキモンから聞いたデジタルワールドの4年と現実世界における自分の体感時間である4年は同じだと思っているが、実はこれだけの開きがあるのである。なっちゃんの寿命である4年は現実世界における24時間と少ししかない。
彼が丁度、大好きで大嫌いなジュンお姉ちゃんに「家族として、姉として、自分をどう思っているのか聞こう」という、小学校2年生にしてはあまりにも悲痛な覚悟と決意を固めたころに、なっちゃんははじまりの街に生まれ、彼がデジタルワールドにやってきて、なっちゃんの世界に迷い込んだ頃には彼女は寿命が尽きる寸前だったのである。
それほどまでに彼女の一生は短かったのである。彼がなっちゃんにもたらしたバグが、デジタルワールドにおいて、どれほどまでの大事件だったかなんて、想像すらできないだろう。
彼女は大輔にただ一言「ごめんなさい」という言葉をいうために、かたくななまでに光が丘事件と言うお仕事の記憶を、何がなんでも、絶対に大切な大切な記憶を守り続けるのだと言ってきかない。辛く過酷な日々になるのは明白だった。
ただでさえ、デジタルモンスターにとって、感情の書き換えはオーバーライトという多大なる負担として、寿命を縮める。そのバグを持ったままで、なおかつ、一つの記憶、想いがつまったどでかい容量を食うデータを、しかも感情という、想いという、強烈なオーバーライトを引き起こすものを持ち続けるなんて、それだけでデジコアをどれだけ消費すると思うのだ。
何百回、何千回、転生を繰り返す中で、どこかのだれかさんも少しでも彼女の一生を伸ばすために、あれやこれやと手を打ったのだ。それが記憶の意図的な消去だったり、隠匿だったりするのだが、想いは消えない。想いは残る。想いはいろんなことを起こすのである。いいことも、わるいことも。
そして、それを知らしめた少年は、「ごめんっていったら、おわりだろ」というたった一言の魔法の言葉で、それを病気ではなく癒しに変えてしまったのである。だから奇跡の紋章は、想いの紋章なのである。
それと非常に類似した能力をデジタルワールドは知っていた。だから古代種の中でも一番その形質がでるデジモンを、パートナーデジモンとして選んだのである。古代種のオーバーライトは寿命を縮める代わりに、古代種に対して潜在能力や運動能力の向上など、爆発的な能力を発揮させる。その中でも、喜びや楽しみから発生し、古代種デジモンにとって最も大切なものを思う気持ちから発生するオーバーライトは、強力な回復能力や進化を促す能力を発生させる。
本来、伝説級になるまでの歴戦の勇士に名を連ねるのみが開花することができる。預言の書によれば、その境地に辿り着いたのは、たった1体だけであり、それがロイヤルナイツに名を連ねているアルフォースブイドラモンという古代種にして唯一、究極体になることが出来た伝説上のデジモンである。
そのデジモンにはかけがえのないパートナーがいたらしいが、記述が残っていないため、憶測の域を出ない。古代種のオーバーライトによる寿命の極端な短さを、その特別なオーバーライトによる強力な自己治癒能力で完璧に補い、克服することが出来た唯一のデジモンが、アルフォースブイドラモンなのである。
そのパートナーとデジモンを前にすれば、いかなる敵もかなわなかったといわれている。その特別なオーバーライトの名前はアルフォース。ロイヤルナイツに上りつめたブイモンの進化経路の一つを模している。
もっとも、大輔の持つこの力は、選ばれし子供たちの開祖となった子供とは違い、異能として覚醒できるような代物ではない。なぜなら、本宮大輔は人間である。デジモンではない。だから、大輔本人がこの力を完璧に使いこなすことができたとしても、デジタルモンスターに分け与えなければ真価は発揮されないし、それは心の力をえぐり取って渡すことと同じである。
なぜなら、デジモンはデジタルのモンスターだからアルフォースは寿命をえぐり取って使う能力の穴埋めを、同じアルフォースで埋めることが出来るが、本宮大輔は人間だから、感情によって寿命を縮める力を発動したとしても、感情では寿命を元には戻せない。
デジモンはデータの修復で心臓を復活できるが、人間は人工臓器を使わないと死ぬ。そういうことである。
伝説上のパートナーと違い、大輔は心の形質を最大限に引き出せる紋章を持って、選ばれし子供に選ばれたため、
ブイモンとはもう一つの自分となることで、つよい心の結びつきを得ている。だからオーバーライトをはんぶんこできる。負担できる。
そのかわりに、ブイモンと大輔は対等な関係ではないし、独立した他人同士ではないから、ブイモンがアルフォースに目覚めることは、到底不可能であるため、その極致になるのは不可能なのである。
だから、ブイモンがアルフォースを発揮する時、それは何度も使えるものではない。大輔の負担を減らしてくれる紋章とデジヴァイスがあって、なおかつ心の底から何かを願った時である。それがいつになるのかは、まだ誰にもわからない。
そんな大輔の力から生まれた紋章である奇跡の紋章は、かなりの問題児になってしまった。奇跡と同じである。闇にとても光にとっても、奇跡は等価である。どっちにも起こりえることである。だから奇跡の紋章は、想いに答えてしまう紋章である。持ち主やデジモンの強い願いに反応してしまう紋章である。
だから、もしなっちゃんが心の底から「死にたい」と願ったら、まちがいなく叶えてしまうような極端な紋章なのである。だから大輔は紋章に選ばれたのだ。大輔はいつだって、誰かを守りたい、誰かを救いたい、誰かを助けたい、と思った時に、デジヴァイスの進化の光を放ってきたから、選ばれたのである。諦めない子だから、選ばれたのである。
その果てに、相手が心の底から死を望んだら、叶えてあげてしまうような、優しい優しい男の子だから、選ばれたのである。なんにもしらないブイモンと大輔はかなり薄氷にいる。大輔はこの力に気付きつつあり、怯えていて、なおかつ精神的に見ても不安定である。ブイモンは大輔さえいればいい、という自信過剰に陥っている。
しかも、ブイモンと大輔は選ばれし子供の中でも、もうひとりの自分という形でつながっているため、ブイモンは大輔の影響を受けやすい。大輔はほっといてくれる親友が欲しいと言ったが、違うのである。彼が本当に必要としているのは、止めてくれる親友なのである。瓦解は目前まで迫っていた。