(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第82話

武之内空はひとりっこである。父親は京都の大学で民俗学を研究している教授をしているため、セカンドハウスである大学近くのマンションから、空と母親が住んでいるお台場のマンションまで帰ってくることはめったにない。

 

大学は8月から10月にかけて長期休みに入るが、教授や准教授に名を連ねている人たちは、自分の所属するグループの研究会、勉強会、学説などの研究に没頭できる希少な時間のため、ゼミや担当する講義がない長期休みはむしろ忙しくなるのである。

 

だから、お盆やお彼岸といった時期しか父親は空と会えない。だから必然的に空は母親と一緒にいる時間が多い環境で、幼いころから育ってきた一人娘である。空の母親は多趣味な人である。

 

父親の収入で生活することができる専業主婦であるため、その時間を家事や子育てに充てていたのだが。空が小学校に入り、育児にひと段落ついたことで、これからを考え始めた母親。

 

もともと社交性があり、実家が著名な華道の家元であったために習得していた講師の資格やその過程で培ってきた着物の着付けや礼儀作法の徹底した教育を生かして。

 

それらの活動を趣味の範囲ではあるものの、本格的に再開することにしたのである。実家の華道の家元のもとに通い、師匠のもとで技術を修練させ、勉強し、毎日毎日きちんと勉強を重ねながら、それらを生かすために。

 

近くに借りた大きな市民会館のような一室を借りた。週に1、2度数十人の生徒を抱える講師として多忙な二束草鞋の生活を始めることになる。

 

 

 

評判になればなるほど、母親と講師の二束草鞋は忙しくなっていき、今まで空だけのお母さんだったはずの彼女は、どんどん空だけのお母さんが講師としてのお母さんに浸食されていく。

 

もともと家に帰ったらいつも「おかえりなさい」とお迎えに来てくれていたお母さんがいなくなる。ドアを開けても電気すらついていない空っぽの部屋であることが多くなり、一人ぼっちで家を空けることが多くなる。

 

そのとばっちりを受ける形で、一人ぼっちであることが多くなってきた空は、当然のことながらそんな母親に反発するようになる。もともと優しいお母さん、思いっきり甘えさせてくれていた空のお母さんがどっかいってしまった。

 

しつけや礼儀作法に厳しい、なにかと口うるさい、空の知らないお母さんになっていくのだ。多忙を極めるがあまりにわがままにしか取れない駄々っ子を言っては、一人娘が自分の生活スタイルを認めてくれないことは母親としてもきついだろう。

 

やめてくれ、と空はいうのだ。

 

 

 

でも母親からすれば、空が生まれたからお休みしていただけで、ずっと再開はいつですか、門下生や生徒、華道の家元から期待と切望を兼ねた手紙や話を受けていた母親からすれば。

 

待ってくれている人がいるというのは楽しみでもあり、早く早くと気が急いていた部分はあるのだ。だから、母親は自分がやっていた世界に理解をしてもらうために、跡を継がせるまでは重圧をかける気はないけれども。

 

こういう世界もあるのだとこの世界で私は必要とされている人間でもあるのだとわかってもらうために、空に生け花や着物の着付けなどを手ほどきすることになる。教室にもつれていく。講師の一人娘である。

 

当然注目の的にもなるし、かわいがってもらえるし、お母さんの知らないところをたくさん見せてもらえた空は、とりあえず母親のすることに一定の理解を示すようになる。お母さんはこういうお母さんでもあるんだって知って。

 

 

 

でも、空はひとりっこである。

 

 

 

だから、もともとあまえんぼさんなのである。お母さんからほめてもらいたいから、生け花や着物の着付けなどもがんばるけど、空は空を見てほしい、かまってほしい、こっちを見てほしい、と思うから、一見すると矛盾する行動をとることが多くなる。

 

男の子のような恰好をして、男の子のような態度をとって、男の子のような生活を送って、男の子とばっかり遊ぶようになる。すると空にお母さんはいうのだ。「おんなのこなんだから、そういうことはやめなさい」って。

 

叱ってくれるし、かまってくれるし、少なくてもその間は空だけのお母さんになってくれる。だから、どんどん空の行動はエスカレートしていく。家に帰ればちゃんと華道の家元であるお母さんの厳しい指導もがんばっていくという二面性ある生活をしていくようになる。

 

母親も彼女の行動には自分がかまってやれないから仕方ないな、とあきらめて、理解をしめして、応援してくれるようになる。こうして、武之内空という女の子は、サッカー部のツートップをつとめるほどのボーイッシュな女の子。

 

みんなのお姉さんである(これもまたみんなの注目を浴びたい、かまってもらいたいという思いの裏返しである)一方で、華道の家元である母親から指導を受ける礼儀作法によって清楚な日本女性になるための教育を受ける女の子に二分されていく。

 

でも、ねっこのぶぶんは何にも変わっていない。あまえんぼさんである。どちらの空もあまえんぼさんという根っこから枝分かれした木が生えている。その根っこの部分が大きくえぐられる大事件が起きたのは、空がみんなのために頑張りすぎるというお母さん気質が引き起こした事件である。

 

空がサッカー部の大会で捻挫したにもかかわらず、だれにもいわないまま、出場したことで、無念の敗退を喫したという事件である。

 

 

 

これで、一度空は、どちらの居場所もいっぺんに失いかけるという、初めての挫折をすることになる。

 

 

 

当然、だれにも言わないままサッカー部の大会に出場するなんて、信用してくれていないのか、という話になるし、それが原因で確実に禍根が残り、空は一時サッカー部にいられないくらいの孤立をしたこともある。でも和解をした。

 

ギブスをはめるくらいまで症状が悪化して、松葉づえ片手に登校していた空をみて、いつまでもばかなこというような奴、だれもいやしないのである。そもそも武之内空はお台場小学校の黄金期を支え続けてきたツートップという看板を女の子であるにも関わらず支え続けてきた。

 

キャプテンの太一を支え続けてきた実質上のキャプテンでもあったので、その必要性なんて誰もいちいち確認しなくてもみんなわかっているのだ。みんな思っている。サッカー部に戻ってきてくれってみんなおもっている。でも、できないのである。

 

サッカー部はいつでも大歓迎状態でも、空のお母さんが許してくれないから。

 

 

 

空のお母さんは、心配するだろう。空ががんばるから、がんばっているから、応援していたのである。しかし、がんばりすぎたせいで、足をけがして、しかも誰にも相談しないで自分勝手な理由で突っ走って、みんなに迷惑かけて。

 

しかもギブスまではめる大けがになるまでほっとくなんて、自分の体なんて放置するほど頑張るなら、スポーツはだめ、というのは当然である。しかも、空は女の子なのである。お母さんは知っている。

 

いくら男の子になりたい女の子であっても、いつか女の子は女性になる日がやってくる。好きな人ができて、恋をして、恋愛して、結婚する日が来ることを知っている。男の子はそれでいいのかもしれない。

 

でも、いつかオシャレやお化粧に興味を持つ日がやってくる。やってこなくても、社会に出たら女性は女性のふるまい方を覚えなくては社会につまはじきにされる。

 

必要最低限度の振る舞いが求められるのが世間であり、その世間での振る舞い方がわからなくて、知りたくて、迷い込んでくるのが、空のお母さんの生徒なのである。お見通しなのである。

 

空がけがをしたのは、足首だった。隠しようがない場所である。後遺症が残ったら、ずっと残り続けるところである。化粧だってタイツだって隠しようがないところである。跡もなく治ったのが幸いだったと医者から言われるような大けがだったのだ。

 

母親が必要以上に過敏になるのも無理はなかった。大事な大事な一人娘なのである。でも、空はあまえんぼさんだから、ひとりぼっちになった、と思ってしまった。

 

そんな母親の気持ちなんて分かるほど大人じゃない。お母さんから言われたのだ。

 

 

「正座ができなくなったら、どうするの!サッカーなんてやめてしまいなさい!」

 

 

空は打ちひしがれる。何で?って思う。なんで今まで応援してくれていたのに、なんでそんなこというの?なんでそんな酷いこというの?

今さらサッカーやめろなんていうの?

 

今まではお母さん、お弁当作ってくれたし、応援に来てくれてたし、頑張ったわねって褒めてくれたのに。女の子なんだから今のうちだけよって。

 

お台場中学校のサッカー部には女の子は入れないし、入れても公式の大会には出られないし、女子のサッカー部はここらへんには無いから続けるのはちょっと難しいから、今だけしかできないから、やるんなら全力で。

 

悔いが残らないようにやりなさいって言ってくれたのは、お母さんなのに!って。裏切られたと思い込む。勘違いする。

 

そして、ひとりぼっちの寂しさが大爆発した空は絶望の中で突っ走るのだ。お母さんは私のことが嫌いなんだって。

 

 

 

いつものかまってもらえる喧嘩の中で言われた言葉である。でもその日は、サッカー部のみんなと仲直りできたことがうれしくて、それを言わないまま。

 

(みんなに嫌われていた時期のことなんかいったら、お母さんに嫌われるから)サッカーをまたやりたいって言った日だった。

 

けががまだ治っていないのに、そんなこという一人娘である。ああ、この子は全然自分の体のことなんか気にしてないんだわ、とお母さんが勘違いするのも無理はない。タイミングと時期が悪すぎた。

 

せめてけがが治っていて、空がサッカー部で孤立していることを吐露できるような甘えさせてくれるお母さんだったらよかったのだが。そこにいたお母さんは相変わらず忙しすぎて公私混同しているお母さんで。

 

けがをしてから私が今まで気付かなかったのが悪いんだわって過敏になりすぎて、なにかとサッカー部に行くことを難色し始めた時期だったから、ますます空はいうタイミングがなくなったのだ。

 

 

 

スポーツはご家族の支援あってのものである。当然、両親との確執がある空をコーチが練習に参加させるわけもなく、何度か説得のために空と三者面談をする努力や支援もささやかながら行われているのだが、結局は空とお母さんの問題である。

 

お互いが歩み寄らなければどうしようもない。サッカー部やお台場小学校には感謝しながらも、空と母親の確執は埋まらないまま夏休みになった。空は家に帰っても一人ぼっちである。サッカー部の練習に参加できないから、サッカー部でも一人ぼっちである。

 

 

 

空は知らないのだ。

 

 

 

サッカーに参加できないのは家庭の事情があるからで、空は参加したくても参加できないんだってことをみんな知っていて、気を使われていることを。

 

だって空は頑張り続けてきた女の子である。だからそっとしておいてやれって、じっくり考えさせる時間をやってくれって、コーチからみんなは言われて、暗黙の了解なのだ。気づいたらますます空は傷つくからって。

 

残念ながら、あまえんぼさんの空を知らないみんなの気遣いは、空にとっては、みんなが距離を置かれている、放っておかれている、無視されている、嫌われている、とひとりぼっちの孤独を深めさせてしまっている。

 

サッカー部の空が男の子みたいでみんなのお姉さんである空だったのが原因だった。そんな中でも、唯一といっていいほど、態度を変えなかったのが、もともと空気を読むことは苦手であり、配慮や気遣いや嘘をつくことがへったくそであるがゆえに、もともと幼馴染である空に対して遠慮がない太一である。

 

コーチからも聞かされているんだけども、理想的なお姉ちゃんである空がいなくなってしまうのではないか、という恐怖におびえるあまり、聞きたいけど聞けない。

 

聞きたくない、の二律背反を胸に秘めながらますます空と太一にべったりな大輔なのである。

 

どこかの誰かさんのお導きによってごーぐるのひと、である太一と出会った大輔にとって、空はある意味、

自分が見つけ出した格好のおねえちゃんだった。

 

もうジュンおねえちゃんとおかあさんをいっしょくたにやってくれる最高のお姉さんなのである。それに理想的なおねえちゃんをやってもいいっていわれた。もう好感度はメーターとっくに振り切れている。もちろん補正こみではあるが。

 

 

 

そんなこと知らない空は、いえにかえってもひとりぼっち、サッカー部でもひとりぼっちだった中で、かまってくれた大輔が、実は同じようにおうちで一人ぼっちであるって知って、そりゃもう大喜びだったのである。

 

なにせ、大輔がやっていたことは、まるっきりちがうんだけども、根本的なところ、あまえんぼさんであること、そして頑張りすぎたために今の自分の状況に置かれているところ、問題を先送りにして逃げっ放しであるところまで。

 

ほっとんど一緒だったから、一人じゃないんだって思えてうれしかったのである。

 

 

 

笑えるではないか。

 

 

 

みんなに頼りにされている空が、実は一番自分のことが頼りにできないなんて。みんなのことを考えられる空が、実は一番自分のことを考えられないなんて。

 

みんなのことをお母さんみたいに愛せる空が、実は一番お母さんに愛されているのかわからなくて、自分に自信がなくて、こんな自分が大っ嫌いだなんて笑えるではないか。

 

だから、空は、大輔君ってどんな人ですかって聞いてきた男の子に話すのは、簡単だったのである。自分のことを話せばいいのだから。

 

でも、大輔の場合は、空よりもさらに辛辣な環境に置かれていることを教えてあげなくてはいけないけれども。だって、空はお台場小学校5年生でひとりっこだけども、大輔はお台場小学校2年生で、なおかつおねえちゃんという存在がいるのに、

一人ぼっちなのである。

 

だから、空から紡がれた言葉は、ずいぶんと説得力があった。

 

 

「ねえ、タケル君。もともと一人ぼっちなのと、みんながいるのにひとりぼっちなのは、どっちがつらい思う?」

 

 

その言葉につられて、想像してみるタケルである。もともと想像力は豊かなのだ。ただつぶされちゃってただけで、3年間ほど眠っちゃってただけで。努力できる少年は考えてみるのだ。

 

 

お父さんとお母さんとおねえちゃんがいる。お父さんはサッカーやキャッチボールしてくれるし、ケーキも買ってきてくれる、一緒にお風呂も入ってくれる唯一の味方だけど、めったに帰ってこない。

 

大好きなお姉ちゃんは、大輔に隠れて、会う人みんなに大輔の悪口をいうくせに、本人が聞かされた人からそれを聞くまで黙ってた。しかも毎日喧嘩ばっかり。だから、お互い無干渉で、一人部屋にこもってゲームばっかりしてる。

 

お母さんはおねえちゃんばっかりかまっていて、大輔視点では、贔屓である。唯一安心できる大輔の部屋を無遠慮に入ってきて、掃除するとかいう。そういうときしかかまってもらえない。

 

しかもなんか秘密にしてて、大輔だけ仲間外れ。おうちでひとりぼっちである。近くには、八神太一っていう妹とすごく仲がいい人がいて、その人に代わりにお兄ちゃんをやってもらうんだけど、太一は妹がずーっと大事だから絶対にお兄ちゃんにはなってくれない。

 

痛みを伴いながら、いつもいつもそばにいる。サッカー部友達は家族で応援にくる。弟、妹、お兄ちゃん、おねえちゃん、が応援に来る。でも大輔はいっつもお母さんだけである。みんなおねえちゃんがいることは知っているから、なんで大輔のおねえちゃんこないの?って聞かれる。

 

お台場小学校は、かつておねえちゃんが通っていた小学校である。先生も上級生もかつておねえちゃんの同級生だったり上級生だったり下級生だったりしたお兄ちゃん、おねえちゃんを持つ人はどっかにいる。

 

毎日、過ごしていれば、どこかであう。おねえちゃんの思い出話と一緒に、聞かれる。おねえちゃんはこんなこと言ってたけど、それほんと?

大輔ってそんな人?おねえちゃん元気にしてる?どこにいても、おねえちゃんから逃げられない最悪の状況下である。

 

お姉ちゃんとの不仲が知られたくない大輔からすれば、それは途方もなく一人ぼっちである。だから大輔は我慢する。誰にも言えないまま、だれにも言わないまま、ただじーっと我慢している。

 

さみしいからやんちゃ坊主の大輔君をやっているけれども、積極的な性格になればなるほど、彼はおねえちゃんの問題と遭遇する機会が増えていく。もうジレンマである。

 

 

「今の大輔君となんにも変らないと思わない?」

 

「・・・・・・・・ひとりぼっち?」

 

「ええ、ひとりぼっち。大輔君からすれば、きっとこの漂流生活と元の世界は何にも変わらないの。だから、今まで我慢できたのよ。むしろおねえちゃんと顔を合わせなくても済むから、せいせいするって感じかしら?」

 

「言ってたよ、大輔君。僕と初めて喧嘩するとき」

 

「そうなの?でも、本当はそうじゃないの。わかるわよね?」

 

「うん。だって、大輔君、泣いてたもん。おねえちゃんが大っ嫌いになれないのがいやだって。いつもいつも死んじゃうくらいつらい思いをするのは大輔君だけなのはいやだって。何にも悪いことしてないのに、大輔君ばっかりつらいのはいやだって」

 

「大輔君は親友はいらないんじゃなくて、作れないのよ、きっと。知らないのよきっと」

 

「知らないの?」

 

「ええ、きっとね」

 

 

私と一緒、の言葉は心にしまわれる。

 

 

「大輔君はタケル君が頼りにならないからって言ってたわよね?確か」

 

「うん」

 

「大輔君は、きっと、頼りになる親友がほしいのよ、きっと。平等とか対等とか、そういうのじゃなくてね、ただ、ぜーんぶ預けちゃっても大丈夫なくらい、甘えられる人がほしいのよ。頼りになる人が欲しいのよ。それができないから、すっごく意地っ張りになってるんだわ。1人だけいるでしょ?大輔君の隣に」

 

「ブイモンだ」

 

「自信満々だもんね、ブイモンは。しかも大輔君のことだけ考えてくれるでしょ、これ以上居心地がいい子はいないわ、きっとね」

 

「じゃあ、大輔君の親友はブイモンってこと?」

 

「でもブイモンはデジモンでしょう?タケル君はデジモンなの?」

 

「ううん、ちがうよ」

 

「じゃあ、ブイモンにできて、タケル君にできることって何かしら?」

 

「え?えーっと、うーん、なんだろう?」

 

「じゃあ、ヒントね。ブイモンは大輔君のことで頭がいっぱいなの。みんなのこととか、ちゃーんと考えられない子なの。ちょっとずつ隠し方上手になってきてるけどね。大輔君はそういうのがすっごく上手だから、無意識のうちにやってるから、

いつもいつもバランスとれてるんだけどね。でも、それってすっごく疲れるの。あの子、言わないとわかってくれないでしょ?自分がどれだけ頑張ってるのかぜーんぶ、無意識のうちにやっちゃうから、気付いてないの。だからこんなことになってるんだけどね」

 

「あ、だから頼る人がほしいんだ」

 

「そうよ。あたますっからかんにして、なーんにも考えなくっても頼れる人が欲しいのよ、大輔君は。タケル君はもうとっくの昔に大輔君のひとりぼっちを知ってるから、タケル君の頼りになるを探せばいいの」

 

「じゃあ、頼りにしてる人の話を聞いたらいいのかな?」

 

「うーん、どうかしら。大輔君の知ってる頼りになるって、ぜーんぶ、

自分にできないことみたいだから、マネしても難しいんじゃないかしら」

 

 

太一はサッカー部のキャプテン。ヤマトは面倒見の良さ。光子郎はパソコンの技術。丈は保護者的な立場。ミミは天真爛漫な親近感に引きずり込む強引さ空はみんなのお母さん的な包容さ。全部大輔が持っていないものであり、大輔がすっげーって思って頼りにするところである。

 

つまるところ、甘えたいくせにすさまじく理想が高いうえに審査する目が厳しいからこんなことになっているわけで、自業自得な面がある。本当は親友が欲しいくせに、今までいなかったタケルが親友になってくれそうになると、怖くなって逃げてしまうのだ。

 

親友ってなると相当理想が高いんだろう、大輔という少年にとっては。ましてやこの選ばれし子供たちの中では頼りになる人が多すぎるのである。だから大輔は上ばっかり見る。

 

でもその上の人たちでさえ、いざというときには助けてくれなかったから、ブイモンが対等になる。お眼鏡にかなったのはブイモンだけになる。

 

親友がどういうのか知らないくせに、なんとなくで拒否している。むちゃくちゃである。だから、絶交って言っておきながら、頼りにならないってヒントを出す。

 

 

「実は大輔君ってすっごくわがままなのかもしれないわ」

 

「そうなんだ」

 

 

そういう意味では大輔という少年は、だれよりも自信過剰なのかもしれない。傲慢かもしれない。自分のことを誰よりも信用できるって言うことは、いつだって傲慢さと隣り合わせである。

 

 

「僕だけの頼りになるかあ、なんだろう?」

 

「それを考えるのがタケル君のこれからね」

 

「うん、僕、頑張って探してみるよ。ありがとう、空さん」

 

「ええ、頑張ってね、タケル君」

 

 

ああ、なんてうらやましい。私もああいう友達がほしいなあ、表れてくれないかなあ、なんて思いながら、空はタケルを見届けたのである。

 

あとはタケルが無意識のうちに大輔をかつてのヤマトみたいに何でもできるすごい人であり、なんでかよく分かんないけど、間違ったことはしない人だ、と勘違いしていて、ただの小学校2年生でしかないと気付くこと。

 

そして、大輔自身がタケルみたいな友達がいてくれる幸福、努力に気付かないほどの自信過剰に陥っていると自覚するほどの出来事が起これば、完璧である。

 

 

 

オアシスはいよいよ星が降り注いでいる。

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