(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第84話

タケル曰く、お日様の紋章がタグにおさまったことで、選ばれし子供達の前に現われたのは、古代の遺跡のトンネルである。

 

なんだ、なんだ、と足を踏み入れた彼らは薄暗いながらも、ひんやりと涼しい空間にほっと一息ついて、つかの間の休憩も兼ねて、その城壁をみあげてみる。

 

ミミズがのたうちまわったような塊がレリーフとして沢山並んでいて、

びっちりとトンネルの隅から隅まで覆い尽くしていた。なんだこりゃ、と太一がつぶやくのもむりはなく、さあ?と上級生組はお手上げ状態である。

 

上級生がそうなら、光子郎を除いては全滅だ。タケルと大輔とトコモンは、見たことあるやつだったので即座に反応したものの、真っ先に声を上げたのはトコモンだった。大活躍である。

 

パートナーデジモンたちは、これがデジタルワールドの世界の文字だって知っているので、なんでわざわざ、選ばれし子供達がなんだこりゃと言っているのか分からなくて、ぽかんとしていたので、反応が遅れた。異世界交流も楽ではない。

 

 

「これ、デジモン文字っていうんだよ。僕たちの世界の言葉だよ」

 

 

えっへん、と胸を張る真っ白なちびっこに、へー、とみんな感心したように笑う。みんなの視線の中心はタケルになる。嬉しはずかしである。

ちょっと視界に入った大輔は特に気にした様子もなくブイモンとなんかしゃべっている。

 

ちょっとくらい見直してくれてもいいのに、とトコモンは膨れるが、一回僕たちみてるもん、とタケルに言われてそーだった!とへこんだ。忘れんぼさんだねえ、とタケルは笑うが、人のこと言えないだろうという指摘は誰も出来ないままである。

 

大輔はブイモンにデジモン文字はあったのか、と質問していて、ブイモン曰くなんか知っているのと形が違うらしい。だから読めないとのこと。デジタルワールドにある独自フォントであるデジモン文字は、実は2種類あるのだ。

 

新旧あって、ブイモンが知っているのは旧の方、この遺跡は新旧混在。

旧の方は、アルファベットと対応していて、26種類しかない。

 

一方、新は日本語の五十音順に対応したものであり、かつTAMAGOCCHIと呼ばれる者たちが、使用していたものがデジタルワールドにもたらされたが、知っているデジモンはいやしない。

 

アルファベット版は、オメガモンのオメガブレードに刻まれたものなど、一部にしか確認されておらず、非常に珍しいものである。現在デジタルワールドでは、デジモン文字は五十音順版とアルファベット版がどちらも使われている。

 

トコモン達は読めるのだが、こうもびっちりと書かれていて、しかも薄暗くては読むだけでもつかれるので嫌だ、とねをあげた。当然期待の視線が向かうのはただ一人。

 

パソコンの中には、デジモンの進化の謎を解き明かしてパートナーを進化させた実績があり、しかもサーバ大陸の超強化された地図があり、次第に参謀の頭角を現し始めた光子郎である。えええ、と流石に光子郎は冷や汗である。

 

ローマ字とエジプト文字が並べられた碑石が発見されるまで、ピラミッドに書いてあるものは解析不可能だったのを光子郎は知っている。いくら暗号とかを解くのが大好きな男の子であっても。

 

暇を持て余してはいろんな機密情報をクラッキングしては情報収集して遊んでいる天才であっても、考古学に造形が深い訳じゃない光子郎が、全く事前情報もなしに解けるわけもない。

 

こんな薄暗い環境の中でみんな夕涼みしてるのに、自分だけってちょっと。そう思ったのだが、やっぱり目の前の謎には挑戦してみたくなるのが、知りたがりのサガである。ちょっと待って下さいねって言いながら。

 

ちゃっかり太一の紋章が見つかったトンネルに張り巡らされていたこの文字を初めて見掛けて、気になって全部デジタルカメラにとって、保存して、パソコンに入れるという要領の良さを発揮していた彼は、すぐに気付いた。

 

あのときのトンネルの文字列とほとんど刻まれてるパターンが同じであると。そして、なんか一個だけ違うって。それをぐっと押した光子郎である。トンネル内部がいっきに明るくなったので、みんなびっくりして声を上げた。

 

 

 

 

 

アンドロモンの工場時と違って、今ここには、丈さんがいる。僕のいうこと理解してくれるかもしれない!

 

そう思ったらしい光子郎は、かつてヤマト以外上級生がいなくて、結局この世界の大発見を誰にも理解してもらえないという悲しさから、ずーっと心の奥にしまいこんでいたことについて、もう一度、みんなに話すという決意をしたらしい。再チャレンジである。

 

 

「やっぱりそうだ。この世界では、こうやって文字や情報っていったデータが、力を持ってるんですよ」

 

 

光子郎の言葉にみんな、え?という顔をする。思いっきり言葉を優しくしないと分かってもらえないって学んできたので、最年少組にかみくだいて、かみくだいて、いろんなことを教えてきた光子郎は、いらいらすることもだいぶん減ってきたらしい。

 

たとえ話をすることが多くなった。

そういえば、そんなこと前にもいってたな、とヤマトが思い出したように言う。光子郎は、溜息である。

 

やっぱり分かってなかったんだ、ヤマトさんっ!わからないなら、わからないっていってくれたらいいのに!上級生であるが故のプライドなんてものは当事者になってみないと分からない。彼が嫌ってほど思い知るのは2年後だ。

 

デジヴァイスについての特別講義を思い出したらしいみんなは、うへー、と思いながらも、結構大事な話見たいなので、真面目顔。

 

そんなこと知らない光子郎は、いつのまにか、このデータの遺跡にある文字には何か法則性があるんではないか、という段階までいっていた。すさまじい短時間である。

 

 

「つまり、こうやって、文字が電気を付けたり消したりできるんです」

 

 

おおお、という賛辞の眼差しと言葉は向けられるだけでも、結構嬉しいものなので、労力に見合った対価のためなら、わりと頑張る光子郎である。魔法みたい、とテンションあがるミミをみて、同じ小学校4年生であることに不安を覚えてはいるが。

 

まあ、高度に発達した科学はほとんど魔法と変わらないって言うから、

意外と博識で教養あるミミさんは何となくとはいえ、的確なこと言ってるのかもしれない、と思い直して、いちいち訂正するのをあきらめた。

 

 

「つまり、僕たちはパソコンの中にいるってことかい?テレビゲームやパソコンゲームじゃあるまいし、にわかには信じられないなあ。頭、痛くなってきたぞ」

 

 

はああ、と頭痛そうにこめかみに手を当てる丈である。的確にぽん、と言葉を投げられた光子郎は、思わずガッツポーズしそうになるのをおさえつつ、いつもは抑え目にしているミーハーな部分を加速させていく。

 

そんなバカな、と言っている置いてきぼりの子供達に現実を教えるべく、彼は選ばれし子供たちの前に、

解析されたデータをいじって、直接サーバ大陸の地図をホログラムで出現させた。

 

すげーという言葉が通り過ぎていく。光子郎は結構テンションが上がっている。もしかして、もしかして、ゲンナイさんはこの原理を利用して、僕たちの前に現れたんではあるまいか?という仮説。

 

これを自在に操れるということは相当の相手、これはすごい、と光子郎は無意識のうちに呼び捨ての爺さんを敬語で呼ぶ方針に固めたらしかった。それはさておき、である。

 

子供たちに説明しながらパソコンをいじっていた光子郎は、ふと、あることに気付いた。

 

 

「わかりませんよ。僕たち、もしかしたら、本当にパソコンの中にいるのかもしれません。いえ、きっといるんですよ」

 

 

はああ?ってみんな目が点である。そこから始まるのは、スーパー質問タイムである。

 

 

「どういうことだ?テレビゲームの中にいるってことは、オレ達は一体何なんだ?」

 

「ゲームをやっていたら、テレビの向こう側のキャラクターになっちゃったと考えた方がいいかもしれません」

 

「じゃあ、その、本当の私達は一体どこにいるの?」

 

「さあ、流石に断言はできません。

僕達がそっくりそのままデータになってしまったのか、もしかしたら、この世界にくる前の、そうだな、サマーキャンプ場にいる可能性も否定できませんよね」

 

「えー、でも、それって、ずーっと寝てるってこと?」

 

「………だと、いいんですが」

 

 

らちが明かないので、一旦言葉を切った光子郎である。

 

 

「つまり、テントモンを始めとしたデジモン達は、まさしくデジタルでできたモンスター、だったというわけです。パソコンの中で生きている生き物だったんですね。だから、ファイル島とか、サーバ大陸とか、どこかで聞いたような名前の地名が、結構あった訳ですよ」

 

 

ここまできてようやく丈を除く上級生組は、ああそう言えば丸暗記した情報の時間で、めんどくさい単語でそれっぽいのあったなあ、なんて思い出したりするのである。

 

そんなこったろうとおもったよ、とこっそり溜息をつく光子郎である。

そんな光子郎の所に近付いてくるのは、ちょっとだけ心配そうな顔をしているサッカー部の後輩である。

 

ああ、そう言えばこの子はデジモンの生死にすら過敏な優しい子だったなあ、と思い出した光子郎は、ついついみんなに分かってほしくて口走った、テレビゲームのキャラクターとか、パソコンの中の生き物、という言葉がちょっと軽率だったと思い至る。

 

同じデジモンの生死を体験しているにも関わらず、全然対応がま逆なタケルと大輔に、どっかで見たようなデジャヴを感じつつ、どうしたんだい?って訊いてみる。

 

まあ、普通はタケルみたいにゲームのキャラ、と言われたら、自分が主人公になったみたいだってテンションあがって、トコモンと微笑ましい問答を繰り広げるのがちびっこだ。

 

横で、ゲームのキャラか―ってほくそ笑んでるサッカー部のキャプテン見て、あっぶねーと思う光子郎である。セーフ、セーフ。

 

あやうく自分のせいでなんかとんでもないことが起こりそうだった。事前阻止できて感謝感謝である。一応、上級生ぐみよりも近くにいて、なおかつ先輩ぶりたい大輔のホームシックを察してやれなかった汚名はそそぎたいものである。

 

 

「光子郎先輩、あの、デジモンがゲームのキャラってことは、別に殺しちゃってもいいってことっすか?」

 

 

やっぱりオレ、間違ってるのかなあ、って心配そうな顔である。こんなにあったかいのにって手をつないでいるブイモンを見る優しい子である。

 

デビモンのことを聞く限り、倒さなきゃいけない敵と分かったら、ちゃんと覚悟は決められるみたいだし、

むしろ守りたいものがあった時に、身を張って飛び込んでいけるような特攻隊長みたいな行動した子である。

 

あだ名は伊達ではなかったらしい。

ただ、一度懐に入れてしまった相手に対しては途方もなく無防備で、大雑把で、おおらかになれるが故の優しさなのだろう。

 

途方もなくそれが広くなってしまって、どこまで区切りをつければいいのか、すっごく決断が遅くなってしまうような子なのだろう。同じゴーグルかけてる子なのに、ずいぶんと太一とは違う子である。

 

 

「そういうわけじゃないよ、安心して」

 

 

そういわれて、ほっとする大輔である。そして、励ますふりをしつつ、うっかりゲームのキャラならセーブしてリセットできる、と連想してしまいかねない発言をしてしまい、選ばれし子供達の空気が明らかに緩んでいる失態を取り返すべく、あえて大きな声で言うのだ。

 

 

「僕たちはデータと言っても、かなり大きくて、かなりちっちゃいところまでちゃんと作られてる、キャラなんだ。これだけのキャラをこの世界に放り込んだんなら、きっと元の世界のもどるときにも同じことをやらないといけないよね。僕達がそのままこの世界に来ているのか、サマーキャンプに身体置きっぱなしで、

夢を見ているのかどうかは分からないけど、きっと、僕たちは生きているのと全然変わらないんだよ。大輔君もいつもみたいに怒ったり、泣いたり、できてるだろ?デジモン達だってそうさ。だから、大輔君は心配しなくてもいいよ。そういう考え方もあるのはいいと思うし」

 

 

「いいこと」とはっきり肯定してもらえた大輔は、ほんとっすか、よかったーって目を輝かせるのである。

ありがとうございます!って笑って、ブイモンと微笑ましい対談を始めた大輔達。

 

しり目に、光子郎がそれとなく見ると、上級生組は投げやりになりかけていた自分をかんがみてぞっとしていたらしい。変な沈黙が漂う。敵は倒していいけど、味方は倒しちゃダメ、なのは当たり前なのになんでみんな固まってるんだろう?

 

いまいちよくわかっていないタケルとトコモンは疑問符である。光子郎が言った、こっちの世界で死んだら現実世界でも死体だぞという牽制球は、ちゃんと意味が分かる子達にだけ響いたらしかった。

 

 

「すいません、ついつい調べることに一生懸命になりすぎて、ちょっと前が見えなくなってました。僕の言い方が悪かったですね、気を付けます」

 

 

とんでもない、と一部の人たちだけが首を振った。

 

 

「あ、ちょっと待って下さい、このデータは……いや、みなさんに分かるようにデータで示します。見ててください」

 

 

そこから、約1時間かかった。

 

 

「見てください」

 

 

選ばれし子供たちの前で、サーバ大陸のホログラムがやがていろんな情報を取り込んで、まるで地球のような世界となる。

 

 

「ずいぶんと広い世界だな」

 

「まるで地球みたい」

 

「まるで、どころじゃありません。ここはほとんど、地球と同じ世界と言っても過言じゃないです」

 

「この世界はとんでもなく広いってことかい?すごいなあ」

 

「ええ、きっと異世界です」

 

 

上級生組も下級生組も思い思いにその言葉を受け止める。結局のところ、今まで通りでいいってことである。

 

異世界、の言葉はもちろん光子郎に自分の考え方を肯定してもらえて、さっぱり話は分からないけれど、この世界がなんか地球って言う大輔達が住んでいる世界と一緒ってことくらいしか分からない大輔の耳にも響く。

 

地球って名前なのかー、大輔達の世界は、ってブイモンはうれしそうに初めて知った世界の名前を呟いている。やっぱり遼さんは正しかったんだなあって大輔は思うのだ。

 

それを言ったら、大輔が認めて、未来のおれが認めたやつなら、きっと凄いんだろうなあ、なんで完全体に進化出来てるのか、スンごく謎だけど、と太一よりはずっと好感度がいい少年(命の恩人補正はでかい)を連想してブイモンも頷くのだ。

 

異世界って単語を訊いて、大輔の話がいよいよ信憑性帯びてきたことに気付いたのは、もちろん選ばれし子供たちの中で唯一この秘密を聞かされている太一も同じである。まーた、こいつは。

 

しまった、忘れてた、遼ってやつもいたんだったって、ライバル出現に太一は頭が痛い。憧れの先輩ってやつも大変である。まあ、無理して突っ走ったら強烈なしっぺ返しはもう嫌ってほど味わったので、これ以上は勘弁願いたいところなんで、太一は太一なりに頑張るだけだ。ちくしょう。

 

 

「なにやってんだよ、早くいくぞー」

 

 

難しい話にはちっともついていけなくて、不本意ながらもずーっとだんまりを決め込んでいたリーダーになりたい八神太一は、八つ当たり気味にトンネルの先へ進んでから、みんなを呼んだのである。その先にあるのが、最後の試練であるとも知らないまま。

 

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