(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第85話

選ばれし子供達は、ナノモンの言う通り、タケルの紋章が手に入った時点でナノモンは助けるに値するデジモンであると結論付けた。

 

そして、二手に分かれる。紋章をもらえる大輔と先導役の光子郎を除いて、下級生組はヤマトと共にタケルの紋章が手に入った入口付近でお留守番。

 

ヤマトを除く上級生組は、みんなで紋章を持っていない空と大輔を守る形で、ナノモンの救出を優先することになる。

 

なにせ、その紋章と引き換えにナノモンを救出する手はずになっているので、空も大輔も連れて行かないと、もしエテモンにばれてしまったら最後、紋章を砕かれてしまいかねないのである。

 

一度きりのチャンスである。失敗するわけにはいかない。古代の遺跡のトンネルを抜けた先にあるのは、スフィンクスをオマージュしたライオン。エジプトを連想するデザインの砂の巨大なオブジェの口の中である。

 

切り取られた四角の世界から、慎重に見るその先にあるのが、ナノモンが囚われているという迷宮である。一見すると逆さまのピラミッドがある。相変わらず訳のわからない世界である。

 

 

「すごいなあ、エジプトのピラミッド、まんまだ」

 

 

ぽつり、と呟いたのは丈である。ええ、と光子郎は肯定した。タケルの紋章が手に入ったことで、ナノモンの救出が決まったとメールを出すと、返信があったのだ。そのメールに添付されていた逆さピラミッドの迷宮の内部構造が、光子郎のパソコンの中に表示されている。

 

どうやら逆さまのピラミッドの対になる形で地下には同じサイズのピラミッドが埋まっているらしい。そして高さ、底辺、勾配、面積に至るまで、ほとんどギザの大ピラミッドと同じなのである。

 

ついでに石材の高さと長さは黄金比。王様を埋葬した石室と死後の世界を充実して過ごしてもらうために用意した部屋、空気こうに至るまで、完全再現である。そして丈も光子郎もしらないのが、緑色で塗られた上から下に伸びた通路がある。

 

 

「ピラミッドには、普通は見えない隠し通路があるそうです。ここからナノモンを助け出せそうですね」

 

「今日は、差出人のナノモンを助けて、空君と大輔君の紋章の在処を聞き出すのが先だ。余計な戦闘は、絶対にしないように」

 

 

2度の前科もちである。一度はデジモン、一度は人間相手。丈の口調もちょっと厳しい。

 

 

「わーかってるって!」

 

 

みんないるのに叱るなよ!と太一はじとめだ。ほら、みんなちょっと苦笑いしてる。リーダーはこんなんじゃないのに、くそう。

 

だってこうでもしないと太一へのけん制にならないじゃないか、という無言の主張をするのは丈である。太一の扱い方うまくなってきている。

 

ちら、と大輔を見た太一は、キョトンとしている後輩にほっと胸をなでおろした。よく分かんないけど頭なでられて嬉しそうな後輩である。

 

全部気付いてて、肩揺らしている青い不届き者に気付いた太一は、こんのやろう、と思いつつ、なだめるアグモンに免じて許すことにしたらしい。

 

迷宮探検だってちょっと面白そうだなあ、僕も行きたいなあってトコモンと話している弟に、わがまま言うなとくぎを刺すヤマトである。

 

心配そうに見送るミミと、いってらっしゃーいっていう微笑ましい声援を背後に、先発組はみんな一緒に、ゆっくりと慎重な足取りで先を進んだのである。

 

 

「エテモンだわ」

 

「ナノモンの言う通り、早くした方がよさそうですね。やっぱり、度重なるナノモンの妨害工作には流石のエテモンも気付いたのかな」

 

「そりゃ、毎回故障ばっかりしてたら気付くだろー」

 

「機械音痴な太一がいうなよ。光子郎君のパソコン叩いて治そうとしたくせに」

 

「うるせえ」

 

「太一先輩、やめた方がいいっすよ、光子郎先輩怒ったら怖いし」

 

「あはは、知ってるよ。つか、大輔、光子郎怒らせたことあんのか?」

 

「いえ、光子郎先輩見てると思いだす奴がいて」

 

「ケーブル分からないのに、ブラインドタッチとか、クラッキングとか、ハッキングとか、難しい言葉知ってると思ったら、やっぱり知り合いにいるんだ?大輔君」

 

 

しまった、と大輔は舌を巻いた。光子郎がすっげー嬉しそうな顔でこっちを見ているのだ。デジャヴすぎる。

 

 

「え?あー、はい。でも別のがっこなんで」

 

「そっか、残念だな。アドレスだけでも知らない?」

 

「さー」

 

 

つか出会わせてたまるか、京と光子郎先輩組んだら最強タッグじゃねーか、仲介頼まれたらオレが死ぬ!ミーハーは集まったら怖い。

 

怒らせてはいけないけど、実はちょっと距離を置きたいなあという位置づけになりつつあるなんて知らない光子郎。

 

てっきりその人が知り合いのハーバード大学に通っている日本人小学生並みとはいかないものの、凄い男の子もいたもんだって思っているのである。

 

その誤解がやがて大事件を生むが、まあ、すべては2年後である。大輔は思いもしないのだ。2年後、アイマート移転の影響で京がお台場小学校へ転校してくることも。

 

小学校6年生になった光子郎が、太一がいなくなったのでサッカー部にいる義理ないとあっさりサッカー部退部し、パソコン部を設立することになるなんてことも。

 

そして、5人以上のメンバーと顧問を集めなきゃいけないという問題に直面した光子郎に脅され、げふんげふん、泣きつかれて、残り2人分を探しまわる羽目になるなんて、思いもしないのだ。

 

顧問は選ばれし子供達の支援で、なんとかパソコン経験皆無な太一の恩師が顧問と決定するが。

 

メンバー合わせにヒカリはともかく、サッカー部の大輔がかってに幽霊部員として無断登録される挙句、

幼馴染と幼馴染の弟分がパソコン部に入ることになるなんて、思いもしないのである。

 

まさかその先代部長を埋めるために、3年後、タケルが幽霊部員仲間になるなんて知りもしないのだ。大輔の苦難物語は秒読み段階である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナノモンの言う通り、秘密の通路は、ホログラムによって外からでは区別がつかない所にあった。一見すると本物と偽物の幻の区別がつかない精巧な作りである。その先から見えたのは、正規の通路に入るガジモン達とエテモンである。

 

このままではナノモンが殺されてしまうかもしれない、と彼らは軽口もそこそこに、先に進むことにしたのである。

 

 

 

辿り着いたのは、高圧電流が流れている網が張り巡らされた一室だった。隠し通路の箇所だけは、唯一、ホログラムで人間もデジモンも安心して通ることが出来るらしい。

 

もし間違えでもしたら間違いなく、先導する人間は死にいたるのは明白である。ごくり、とみんな唾を飲み込んだ。さいわい、ナノモンのデータには右から5マス目と書かれてあったので、先頭行きたい太一が思い切って先陣を切り、いう通りに数えて先に向かった。

 

辿り着いたのはピラミッドの最深部である。ここが目的地で間違いない、と光子郎は肯定する。その奥にいたのは、頑丈な高圧ガラスで閉じ込められているナノモンの姿があった。ごっつあたまのええでじもんや、とテントモンがお墨付きである。

 

スカルグレイモンの件はともかく、どうしてサーバ大陸のデジモンのことを知っているのか、指摘する人間は誰もいない。

 

それこそが、彼ら選ばれし子供たちのパートナーデジモンの出身地が、実はファイル島ではない証なのだが、スカルグレイモンの前例が出来てしまい、似たようなことがあったんだろう、と誰も指摘しない。

 

もちろん、いつものごとく彼らの知識はこのデジタルワールドが平和だった頃の幼年期の記憶しかない。だから、気付かないのだ。一瞬だけ、光子郎は違和感を感じたのに、こういうデジモンなのかと思ってしまったのだ。

 

ナノモンは小さなデジモンである。

でも、精密機械のごとき小さなマシーンデジモンなら、頭部にある欠損が、どれだけ重大な欠損になるのか、気付きそうなものだが、光子郎はそのまま受け入れてしまった。悲劇の引き金になるなんて知らないまま。

 

 

「もしかして、キミがナノモン?」

 

「そうだ、選ばれし子供達」

 

 

赤外線ポートで直接ノートパソコンに送り届けられたデータが更新される。

 

 

「私はかつて、エテモンと戦い、敗れた。そして破壊された身体のまま、ここに封印されたあげく、思考能力が奪われたまま、エテモンのネットワークを管理するホストコンピュータとして働かされていたのだ。

だがある日、私は記憶を取り戻し、エテモンの目を盗んで自己修復能力でここまで復活できた。でも、どうしてもここから出られない。君たちと私はエテモンの敵と言う共通の目的を持っている以上、共闘するのも悪くは無いだろう。どうか、助けてくれ」

 

「キミはマシーンみたいだけど、一度壊されたのに、もう大丈夫なのかい?」

 

 

丈は心配になって聞く。精密機械は繊細な扱いが求められる機材である。エテモンみたいにろくに扱い方も分からないような、乱暴者と戦って壊されたんなら、さぞスクラップ状態だっただろう。

 

光子郎ほど知識に偏りはないかわりに、浅く広くが丈の強みだ。そう言われて、ああそう言えば、自己修復能力があるとはいえ、デジモンは生き物だから限界があるのか、と光子郎は思い出す。不自然な沈黙が続いた。

 

 

「………私は、記憶が無い」

 

 

え、と彼らは凍りつく。

 

 

「そこの選ばれし子供の言う通り、私はエテモンによって壊された。だから身体は治せても記憶は戻らない。それはデジコアの根幹部分にあるデータチップが関わっている。いくら私でも治せないものはある。だが、今は助かることが先決だ。だから、助けてくれ。エテモンは近づいている。キミたちまで危害が及ぶぞ」

 

 

はっとなった子供達は、あわててナノモンの言う通り、その多重の結界からナノモンを開放すべく行動に移すことにしたのである。

 

奥の部屋にあるレバーを押して、現われた認証システムを作動させ、ナノモンから送られてきたメール通りに、ダイヤルと番号を打ち込んでいく。そして、結界はゆるやかに開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時である。豪快な音が安堵のため息で漏れた子供達を硬直させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やーっぱり、あんたの差し金ねえ!ナノモン!」

 

 

現われたのはエテモンだった。何でこんな時に!と選ばれし子供達は身構える。ピラミッドの最深部である。しかもまだ完全体の進化ができるデジモン達は皆無なのだ。このままではやられてしまう。せめて時間稼ぎに、とパートナーは進化した。

 

 

「到着がはやいな」

 

「あーんだけ、分かりやすいくらいにすれ違い続けたら、いくらアタシでも気付くわよっ!ばっかにすんじゃないわよ、こんのスクラップ!」

 

「ふん、冷酷無情な貴様なぞに手を貸すほど、私は落ちぶれた覚えはない」

 

「きいいいいいっ!あいっかわらず、むっかつくわーっ!選ばれし子供達もろとも、瓦礫の下にうずめてあげるわよ!」

 

 

ナノモンが完全体だと知らない選ばれし子供達は、ナノモンを助けようと駆け寄る。しかし、ナノモンの目は冷え切っていた。先ほどまであれほど温厚だった様子が一変する。

 

成長期から成熟期に進化し、誰ひとりとして紋章を手にせず、パートナーデジモン達を完全体に進化させようとしない彼らは、ナノモンにはどう映ったのだろう。選ばれし子供達は知らない。きっと分からないだろう。

 

かつてナノモンはたしかにワクチン種の中でも温厚なデジモンだった。

エテモンによってスクラップにまで破壊され、なんとか自己修復能力で元には戻ったが、デジコアまで響いた損傷は、データチップにまでひびを入れてしまう。

 

記憶や感情、というデジモンにとって大切な知能をつかさどる脳と心臓に当たる部分である。温厚だった頃の思い出や記憶、自分が何者であるかという全てが失われたナノモンは、完全記憶喪失者である。

 

ナノモンが語った経緯はすべて全てダークケーブルにがんじがらめにされて、途方もない間ホストコンピュータをしてきたがゆえに、入手することが出来た当時のデータや情報、映像を参考に憶測で語ってきたものにすぎない。

 

どこまでもガラス越しの他人の世界である。すべてを失ってきたナノモンにはもう何も残されていないのだ。すべては同じ姿をした別個体にしか見えない。どこまでも自分というものが見つけられない。なにもない。恐ろしいほどにまっさらな状態である。

 

すべてを奪ったエテモンへの復讐心しか、もう、ナノモンに残されているものは無いのだ。この時点でナノモンは選ばれし子供達を見限った。

ナノモンは全てを見ているのだ。エテモンに対抗するには選ばれし子供達は、パートナーを完全体にするしかないのだということも全て。

 

なのに何故進化させないのか、心が欠落したナノモンには分からないのだ。感情も記憶も喪失した者は、恐怖も分からない。だからデジモンの本能で恐怖するはずのスカルグレイモンですら、ナノモンにとってはただの完全体にしか見えない。

 

共感なんて出来ない。そこにいるのは、ウイルス種に身を落としたナノモンしかいない。どこまでも相手を利用することしか考えないデジモンしかいない。ラヴセレナーデが発動する瞬間に、ナノモンは選ばれし子供達の目の前で、強烈な裏切りを執行することになる。

 

 

「お前たちの役目は終わった」

 

 

え?と何も知らない選ばれし子供達は凍りつく。役目?終わり?この優しいデジモンは何を言ってるんだ?

石像になった子供達を追いつめるべく、全ての諸悪の根源であるエテモンは、素知らぬ顔で続けるのである。

 

 

「んふふふふふふっ!さいっこうねえ、なんつー間抜け面してんのよっ!こういう奴なのよ!ナノモンって!んなこったろうと思って来た甲斐があるってもんだわ、もう最高じゃないの!騙されてたのよ、あんた達、ぶわっかじゃなーい?」

 

 

ぎゃはははは、と大笑いするエテモンである。諸悪の根源が傍観者を決めること自体が屈辱である。まだ修復しきれていない右手をナノモンはかざした。そしてありったけの声で叫ぶのだ。

 

感情を欠落したせいで、恐ろしく無機質ではあるけれども、確かに悲痛な、叫び声を。

 

 

「ほざくな、きっさまああああ!プラグボムをくらえっ!」

 

「なーめんじゃいわよ、ダークスピリッツ!」

 

 

突然始まった完全体同士の殺気を帯びたぶつかり合いに、選ばれし子供達はついていけない。その大乱闘の余波を受け、デジモン達は強く打ちつけられてしまい、成長期に戻ってしまう。やはり成熟期ではあまりにも場が違いすぎた。

 

エテモンは敵である。ナノモンは味方かと思ったが、実はエテモンの味方だった。ではなぜ、ナノモンは本気でエテモンを殺そうとしている?

利用し利用される関係であるが故の足の引っ張り合いにしては、あまりにもナノモンの裏切りが唐突過ぎる。

 

紋章を手にする前に破壊してしまえばいいのである。空と大輔の紋章を。もしその手にあるのなら。そしたら確実に完全体になれるデジモンは2体減る。

 

その時点でおびき出した子供達を人質にとって、紋章を壊して行けばいいのに、ここまで用意周到に味方を装ってきたにしては、あまりにもお粗末なナノモンの挙動である。

違和感がにじみ過ぎて、彼らは混乱していた。

 

 

「ふふん、今回もアチキの勝ちね」

 

「くっ、戦闘能力だけの猿がっそうやっていつもいつも、破壊していくのか、貴様は!」

 

「力こそすべてでしょー?なーにいってんのよ、スクラップ」

 

 

やはり欠損がのこるナノモンではエテモンにはかなわない。豪快に吹っ飛ばされたナノモンの先にいたのは、退化してしまったピヨモンを助け起こそうとしていた空である。

 

そして追いつめられたナノモンは、ピヨモンと空を羽交い絞めにする。

きゃああああ!と響いた声に子供達は我に返った。ナノモンの声が響き渡る。

 

 

「こいつらと紋章の力さえあれば貴様なぞ!」

 

 

待っていろという捨て台詞を残し、ナノモンはすさまじいスピードで空とピヨモンを拉致するや否や、あっという間に姿を消した。あわてて選ばれし子供達は追いかける。パートナーデジモン達はせめてもの足止めに、とエテモンの場に残って別れ別れになる。

 

みんな助けて、という空の声が響き渡った。しかし、上級生組は立ち往生してしまう。彼らの前に立ちはだかったのは、隠し通路である。一度通った、高圧電流が流れている網の壁である。

 

一か所だけ、ホログラムになっている隠し通路である。あれ?あれ?あれ?どっちから見て右側だった?5歩目?6歩目?あれあれあれ?空ああああっと飛び込んでいこうとする太一を必死で止めるのは丈である。

 

待って下さい、今すぐ調べますから、早まったことはしないで下さいね!と光子郎が準備を始めるが、どんどん空の声は遠ざかっていく。目前には死の気配。躊躇するのは無理もない。だが、置いてきぼりにされたので、必死に走ってきた大輔には、もう、最大級の裏切り行為だった。

 

 

「なんで」

 

 

震える声に気付いた太一達は振り返った。

 

 

「なんで」

 

 

目は、濁り切っていた。

 

 

「なんでっ!!」

 

 

悲痛な叫びが、響き渡った。

 

 

「空さ、を、空姉ちゃんを、かえせえええええええええええっ!!」

 

 

その瞬間に、大輔のデジヴァイスは、どす黒いヒカリを放って、辺り一面を覆い尽くしたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その暗黒の先にいたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輔は絶句していた。そこにいたのはエクスブイモンではなかったのである。そこにいたのは、おどろおどろしいほどに真っ赤な四足歩行のデジモンだった。鋭い爪が3本、地面を食いちぎっている。ずたずたに引き裂かれたような鎌鼬のあとからは、黄色が塗りつぶされている。

 

唯一の名残である青色は、腹と大きく裂けた口から、のぞいている二本の牙だけである。目は真っ赤である。でも、蝙蝠のように広げられたデザインの鋼色の兜が頭部を覆い隠し、一切表情は読み取れない。

 

額には、どす黒くなった何かの模様が刻まれているが、よくわからない。戸惑い気味に、今にも泣きそうな声で、か細いながらも必死で、ぶいもん?と呼びかけてみるが、そのデジモンは一切しゃべらない。

 

ただ無機質に大輔を見下ろして見上げているだけである。無感情に、目を細めるだけである。呆然と立ち尽くしている大輔に、一歩、一歩、と近づいてくる。

 

怖くなって、一歩、一歩、と下がってしまう大輔に対して、パートナーデジモンは何も言わない。オレたちはパートナーから嫌われたら一番怖いんだよ、死ぬより辛いんだよ、という言葉がよぎって、なんとか足を止める。

 

しかし、オレが一切しゃべらなくなったら大輔はオレを怖がらずにいてくれる?って聞いてくれた無邪気な相棒はもういない。怖い、怖い、怖い、怖いよ、どうしよう、おれのパートナーなんだから、おれが怖がったらこいつかわいそうだ、でも、でも、でもっ!

 

しりもちをついてしまった大輔に、そのデジモンは影が落ちるまで近づいてくる。そして、力が入らずにおびえきっているパートナーを咥えると、背中に放り投げる。

 

どすん、と不安定な巨体に乗せられた大輔が落っこちないように反射的に抱きついた途端、そのデジモンは空に響かんばかりの雄たけびを上げた。世界が揺れる。空気が揺れる。

 

空気の流れを感じた大輔が風?と生暖かい方向に目を向けた時、目も当てられないくらいの熱風が襲い掛かる。あわてて目を保護するためにゴーグルをした大輔は、その熱風がやがて大嵐になるくらいのすさまじい強風となって吐き出されていることを知った時、声を失った。

 

そのデジモンは、あっという間に壁を破壊し、呆然としている太一たちを置き去りにして全速力でナノモンを追いかけ始めたのである。すべては破壊とともにある。台風の目のように大輔とそのデジモンの周囲だけが安全地帯。

 

デジモンが走り抜けた後には、蹂躙された瓦礫だけが残されていた。厄介なことに、理性を残したままトチ狂ったデジモンは、パートナーの望みである空お姉ちゃんを助けるためだったら、いかなる手段を持ってしてもかなえてあげるという強硬手段にでた。

 

それが自分にしかできないことであると盲信してやまない。たとえパートナーがおびえていても、怖がっていても、泣いていても、目の前で無関係のデジモンをぶっ殺そうが。

 

暴走状態でこのエリアが壊滅状態に陥ってほかの選ばれし子供達やデジモン達に危害が及ぼうが、一切気にしないという究極の自己欺瞞の塊が走り抜けていく。すべてはパートナーである本宮大輔のためである。

 

 

だって、本宮大輔は望んだのだ。いらないって。みんないらないって。空お姉ちゃんを助けてくれないみんななんて、いらないんだって。守ってくれるって言ったくせに、何にも心配いらないんだって言ったくせに。

 

いつもいつも大輔が心の底から助けてほしいときにはいつだって誰も助けてくれない。うそつき。うそつき。大輔が一番嫌いな、大っ嫌いな、平気な顔をして嘘をつくという、

 

何にも考えずに嘘をつくというとんでもないことをしでかしてくれたみんななんか、いらないんだって、思ってしまったのである。オレしか助けられないんだって、オレだけが空お姉ちゃんを助けてあげられるんだって、そう、思ってしまったのである。

 

周りを見ることで、独りよがりな傲慢さとバランスを取っていた少年は、いつしか周りを見ることに過剰になりすぎてパートナーデジモンに肩代わりしてもらわなければならないほどにまで、自意識過剰に陥っていた。

 

だが、自信過剰な傲慢さは、甘えられる相手を探すという審美眼に姿を変えて存在し、そのお眼鏡にかなわなくなった人間はあっさりとすてるという暴挙を無意識のうちに行えるようになるまでに、彼を周りから見えなくしていく。

 

それでどれだけの人間が傷ついているのか知っていながら、見て見ぬふりをし続けていたら、いつの間にか致命的なまでに相手が傷つくことに関しては鈍感になってしまった。

 

だから自分の立場に置き換えて自分が傷つくという屈辱を避けるためにはどうしたらいいか、を周りの人に置き換えることで何とかバランスを取っていたのに、またバランスが崩れてしまった。気づけたらすぐにでもなんとかしようとできる子供なのだが、状況が最悪すぎた。

 

 

 

逆さピラミッドは、崩壊まで秒読み段階に入っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DIGIMON DISCOVERY

 

セトモン

 

レベル:成熟期

 

属性:フリー種

 

現代種であるウイルス種、データ種、ワクチン種の相関図の代わりに、古代種には現在でいうところの炎、雷、風、自然、土、水氷、光、清純、神聖、メタル系という力でもって相関図が図られていた。

 

どこかの誰かさんによる改変により、上から勇気、友情、愛情、純真、知識、誠実、光、優しさ、希望、奇跡、と置き換えられることになる。セトモンは風の力である愛情の紋章がつけられることになる。

 

デジメンタルにより進化した古代種のブイモンが、デジメンタルが強大すぎたために制御できない暴走してしまった姿である。愛情のパワーが憎しみのパワーに代わってしまっている魔獣型デジモンであり、災いをもたらす嵐をよぶとされている。

 

現在ではアーマー体だけでなく、通常進化の成熟期としても確認されており、そのデジモンは古代種の名残があるのだろう。進化ツリーの成熟期の進化経路としても確認されている。もはやそこにいるのはただの蹂躙する大嵐である。

 

必殺技は、砂漠に吹き荒れる大嵐のように熱風を吹きあらすヒートストーム。標的にされたら、熱風の嵐から逃れるすべはない。そして、二本の牙で襲いかかるタスクドライバーである。

 

やがて愛情のデジメンタルの所有者となる幼馴染のパートナーデジモンがアーマー進化したホルスモンとは闇と光の関係にあるのが最大の皮肉である。こ

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