(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第88話

 

ぱち、と目が覚めた大輔である。なんか、へんな夢を見た気がするが思い出せない。これ以上ないくらい最悪の目覚めである。なんだか頭はがんがんするし、ぼーっとしていていまいち力が入らない。

 

ごしごし、と目をこすってみるが、涙の跡なのかからからに乾いているものがあった。乱暴にぬぐいさってから、手がびっしょりなのに気付くのだ。汗をかいている。

 

気持ち悪いなあ、って思いながら、

ぼんやりしていた視界がクリアになるにしたがって広がるものがある。どうやらソファに寝かされているらしい。毛布らしきものがかけられていた。

 

首だけ動かすと額から落ちるものが視界を遮って一瞬生暖かい感覚がして、驚いて手探りでとってみれば、すっかり生ぬるくなってしまった布である。見慣れない部屋である。まるで事務室のような無機質な灰色の部屋である。

 

まるでナノモンがいた部屋みたいな、とここまできてようやく気を失う前のことを思い出した大輔は青ざめる。そしてあわてて立ち上がろうとしたのだが、できなかった。

 

 

「……なんだ、こいつ」

 

 

てんころてん、と大輔が起き上がったことで上に乗っかっていたらしい、見たことがない幼年期くらいのちっこい水色が、腹のあたりまで転がったのである。けっこいでかい。大輔の顔くらいある。

 

へにょりと気の抜けた角を持っている、水色のまんまるとしたデジモンだった。起こしちまったか、って焦るのだが、しばらくもごもごしていたのでびくっとして硬直していた大輔なんてそっちのけで。

 

ちっこいのは何事もなかったかのようにぐっすりと花提灯すらうかべて寝ている。がっくりと肩を落とした大輔である。これ以上動くと、すぴー、すぴーと見ているだけでこっちまで和んでしまいそうなほど幸せそうな寝顔をみせながら。

 

涎を垂らして寝ているこいつを床に転げ落としてしまう。何このジレンマ、微妙にこの体制きついんですけど。全身で呼吸しながら眠っている幼年期である。じーっと観察してみるものの、疑問符がたくさん飛んでいく。

 

はじまりの街でたくさんの幼年期1、幼年期2のデジモン達を見てきた大輔ですら、てんで記憶にないデジモンである。大輔がよく遊んでいる某花札会社のファミリーコンピュータと後続機で買い続けているシリーズ。

 

携帯ゲーム機でおなじみの水色のスライムみたいな形状をしている。別にぷるぷるしながら、悪いやつじゃないから殺さないでくれって、仲間になりそうな顔をしてこっちを見ているわけではなさそうだ。

 

わけわかんねえ、つーかここどこだ、と思いつつ、大輔は仕方なくクッションが引いてあるソファに体を沈めたのだ。あれからどうなったんだっけ、と思い返してみるのだが、ぷっつりと糸が切れたように記憶が途切れている大輔。

 

ブイモンだったパートナーデジモンが涙を一滴こぼしていたところまでは覚えているのだが、そこから記憶がとんでいる。またかよ、と頭が痛くなる大輔である。なんかいっつもいっつも大事な場面で記憶がぶっ飛んでる大輔である。

 

もーやだなんだこれ。泣かないでくれって薄れゆく意識の中で言いながら、あの鋼色の仮面に縋り付いて、

ぎゅーって抱っこしたところまでは覚えているのだ。あのデジモンどうなったんだろう、ガジモンたちどうなったんだろう。

 

太一先輩たちどうなったんだろう、空さんはどうなったんだろう、みんなはどうなったんだろう、とこみあげてくる不安と疑問はぐるぐるするのだが、答えてくれるデジモンも人もいないので途方に暮れる大輔である。

 

 

「だーもう、なっさけねえなあ、オレ!いっつもいっつも肝心なとこでかっこつかねえ!」

 

 

なにはともあれ、元気そうで何よりである。あ、しまった、と視線だけそっちを向くと、案の定んーという間抜けな声がして、ふあああああってビックリするくらいの大あくびをしたちっこいのは、生理現象で浮か

んだ涙をそのままにして。

 

ぱっちりと黒々とした目を大輔に向けたのだ。赤い目じゃないからブイモンかんけーねーのかなって大輔が首をかしげているとも知らないで、そのちっこいのは、大輔を見るや否や、目を大きく見開いた。

 

ぴょん、ぴょん、ぴょんって、ポップステップジャンプの要領で大躍進し、大輔に襲かかったのである。どわーって間抜けな悲鳴がこだました。

 

 

「だあああいしけえええええっ!」

 

 

べったーんと張り付いたちっこいのである。どさくさまぎれてコロモンが奪ったミミ曰くとっても大事なファーストキスの次に大切と力説していた、セカンドまで奪ってしまうという暴挙に出たちっこいのである。

 

こっそり悔しいいって思っていたらしい。隙をうかがっていたらしい。

抜け目ない奴である。他のやつから大輔へのちっこいのがまだやってない愛情表現が出るや否や大輔を取られそうになると本能的に察知してなんでもマネしたがるのである。

 

そのうち大輔の挙動まで真似しそうだ。大輔を少しでも理解したいからって。大好きな大好きなパートナーが目を覚ました。

 

ずーっと死んだように眠り続けていたパートナーが起きたって寝もしないで、手も足もないのに、懸命に看病を続けていたちっこいのは、テンションがすさまじいことになっていた。

 

無理もないだろう、このちっこいのにとってこの本宮大輔は世界で一番大好きなパートナーなのだから。ぎゅううううってはりつかれた大輔はたまったもんじゃない。鼻と口を押しつぶされたら死んでしまう。

 

ばしばしばしって苦しそうにソファを叩く大輔にきょとんとしていたちっこいのだったが、ああ、これじゃあ大輔の声が聞けないやって思ったらしく、どいたのである。もちろん、ちょっとだけ。ゴーグルの上にのっかるだけ。

 

あやうく窒息死するところだった大輔は酸素を求める体の生理現象に従って思いっきり深呼吸した後で、げほげほげほって急き込んで、ぐったりとソファに沈んだ。まさかのトラウマの再発である。ぎゅーって目を閉じてしまう。耳をふさいでしまう。

 

ちからが全然入らなくなって、首に襲い掛かる幻の圧迫感にうなされる。ぞくぞくぞくって悪寒がして、

心臓に突き立てられた刃はいつまでもいつまでも残り続けている。解放されるのはいつになるのだろか。

 

緊張感に蝕まれていくパートナーに、あ、って声を上げた大馬鹿はあわてて謝るのである。つばがとんでくるので大輔はいらっとする。なんか久しぶりに聞いたなあ。チビモン以来だなあって大輔は頭の隅っこで考える。

 

この世界で一番本音をぶつけ合えるもう一人の自分である。なんにも考えないで、すっからかんのまんまで頼りにすることができる世界で一番頼りになる相棒である。大輔はもちろん怒るのだ。

 

いいって、きにすんなよ、は置いてきぼりだ。これがきっと限りなく近い、本宮大輔の根っこの部分である。

 

 

「こんのやろーっ、オレを殺す気かーっ!いっきなりなんだよ、ふざけやがって!危うくお花畑が見えたじゃねーかっ!」

 

「だいしけ、だいしけ、だいじょうぶかっ!?ごめん、ごめん、おれ、だいしけがおきたのうれしくてつい、おねがいだからきらいにならないでええ!」

 

「ったくもー、何考えてんだよ、ばーか。オレが嫌いになるわけないだろ、何言ってんだよ」

 

「ほんとか、ほんとにかっ!?おれ、だいしけにひっどいことしたのに!」

 

「ひどいことってなんだよ?あのわけわかんないデジモンになったやつか?」

 

「だいしけ、おぼえてないの?やっぱり、わかったよ、おれ。だいしけ、やっぱりでじめんたるなんだって。いのちよりだいじなでじめんたるだって、おれ、わかったんだ。ごめんね、だいしけ。おれがあいつになっちゃったせいで、だいしけ、たおれちゃったんだ。もう、ぜったい、しないから」

 

「覚えてっけど、あんとき、お前泣いてただろ?止まってくれただろ?

元に戻ってくれたんだろ?約束してくれるんなら、許してやるよ。もー戻んなくなっちまったらどうしようってそればっか考えてたからさ、オレ」

 

 

ほんと元に戻ってくれてよかったーって大輔はちっこいのを抱き上げてぎゅーって抱っこするのである。おれもーってちっこいのもすりすり腕の中で大輔に甘える。しばらくお互いの鼓動を確かめ合うように目を閉じていた後で、大輔は覚悟を決めた様子で口を開くのだ。

 

 

「なあ、あのあと、どうなったんだ?」

 

「だいしけがきをうしなったあと?」

 

「ん」

 

「おれ、おれ、だいじょぶだったよ、だいしけ!がじもんたち、ころさなかったよ!でもつかれちゃったから、こんなんなっちゃった。でさ、でさ、だいしけがしんじゃうっておもったらむがむちゅうになって、がじもんたちにたすけてーっていったら、ここにつれてきてくれたんだよ!」

 

「え?ほんとか?」

 

「うん。たすけてくれたおれいだって!」

 

「そっか」

 

 

チコモン曰く、ガジモン達の休憩所らしい。大輔とチコモンはピラミッドの上層がどうなってしまったのか知らないので、呑気なものである。

 

ちなみにエテモンはもともとナノモンの所へ直行する予定だったため、下層にガジモン達をひきつれていたため、上層にいたやつは誰もいないので、犠牲者はゼロである。

 

あえて言うなら逆さまピラミッド本体と、太一の望遠鏡で大崩壊を目撃してしまったヤマト、そして待ちわびていた、ミミ、タケルコンビの心理的なショック、助けに向かおうと懸命に作戦会議中の選ばれし子供達だろうか。

 

地下という特性にプラスして時計が無いから、大輔とチコモンは完全に体内時計が狂ってしまっているが、ただ今真夜中である。大輔はなんだかぽかぽかするのだ。俺のやったこと、間違ってなかったんだって、今ここではっきりと明確な答えを見つけられた気がする。

 

なによりも大輔の行動がこれでいいんだって証明してくれる証のような気がしたのだ。だれだって死ぬのは怖い。転生できるデジモンだって一緒だって大輔はガジモン達から教えてもらえたのだ。

 

だから余計、エテモンに従っているガジモン達が分からなくなる大輔である。さっさと逃げちゃえばいいのにって思うのだ。

 

 

「なあ、太一先輩たち、大丈夫かな」

 

「だいじょぶだって。ガジモンがいうには、ほら、エテモンとナノモンがとつぜん、ぶつかったとき、おれたちふっとばされただろ?エクスブイモンから、ブイモンにもどっちゃっただろ?そのとき、どーんっておとしただろ?あそこからだいばくはつあって、おおあなあいて、そっからにげたんだって」

 

「え?じゃあ、エテモンは?」

 

「ナノモンがそとににげだしたっておもって、おいかけてそとにいっちゃったみたい」

 

「じゃあ、ガジモン達、エテモンの味方なのに俺達看病して、かくまってくれて、ここに残ってくれたのかよ」

 

「うん」

 

「すっげー、信じらんねえ。こんなことってあるんだ」

 

「でも、ホントだよ」

 

「だよなあ」

 

 

そっか、よかった、って一息ついた大輔である。

 

 

「なあ、空さんは?」

 

 

ちっこいのは首を振った。

 

 

「だいしけ、おれたち、かんちがいしてたよ。なのもん、あんなにちっちゃいのに、かんぜんたいなんだって。せいじゅくきじゃないんだって。えてもんとばとるできるくらいつよいんだって。こしょうしてなかったら、どっちがかつか、わかんないくらいなんだって。もんしょうないのに、いったら、しぬだけだっていわれたよ」

 

「まじかよ…」

 

「だから、さがそう、だいしけ。もんしょう、ちかくにあるみたいなんだ。ほら、みて、ぴかぴかひかってるでしょ」

 

 

ちっこいのにうながされて、横を見た大輔である。デジヴァイスとタグとPHS,リュックが置かれていた。

タグが紋章の在処を知らせてくれている。ぴか、ぴか、と絶えず点滅を続けているのである。

 

 

「でもナノモンがもってるんじゃねーかな?」

 

「なんかよくわかんないけど、ガジモン達が任せとけって」

 

「はあ?」

 

 

さっぱりわからない大輔だが、チコモンと大輔の世話役であるガジモンは今ここにはいないらしい。だから、帰ってくるまで待つしかない。事情はその時、聞けばいいだろう、と問題はとりあえずどっかに置いとくことにした。

 

 

「あのときね、おれね、なのもんがゆるせなかったんだ。そらをさらったから。いらないっていったから。

だいしけが、おれのだいすきなだいしけが、いちばんだいじないいところをあいつがぶっこわそうとしたから。みんな、みんな、だいしけのこときずつけようってするから、もう、なんにもみえなくなっちゃって、なんにもきこえなくなっちゃって、おれしかだいしけのことまもれないんだっておもってね、そしたら、せともんになってた」

 

「せともん、っつーのか、あれ」

 

「うん。おれたちがしんじゃったりゆうのひとつだよ。だいじなだいじなものをまもろうってして、あたまのなかがね、それだけでぬりつぶされちゃうと、あいつになっちゃうんだ。ちょっとだけ、おれ、おもってたんだ。だいしけがおれのことだけみてくれたらいいのになって」

 

「おれだけたよりにしてくれたらいいのになって。みんなみんないなくなっちゃえばいいのになって。せかいでだいしけがひとりぼっちになっちゃったら、おれもひとりぼっちになっちゃうけど、おれとだいしけしかいないせかいになるのになって」

 

 

「そしたら、このでじたるわーるどでだいしけをぜーんぶひとりじめできるのになって。そんなことになったらだいしけ、だいしけじゃなくなっちゃうのにね。ひとりぼっちがどれだけこわいのか、つらいのか、さみしいのか、いやなのか、もういやってくらい、おれ、しってるのにね、そうおもっちゃったんだ」

 

 

ごめんね、と泣いているチコモンは震えている。大輔は思いっきり抱っこしてあげた。

 

 

「オレも、ちょっとだけ、思っちまったんだよ。太一先輩にもっと頼れってあたまなでなでされるのうれしいんだけど、信じていいのかなって、ほんとにそう思ってんのかなって、疑っちまったんだ。最低だよな。だって、がっこでさ、そういうやついっぱいいるんだよ」

 

 

「友達だよって言ってるくせに、その子がいないと、ぺちゃくちゃその子の悪口言いまくってるやつ。嫌いだって、いやだって、どっかいっちまえばいいのにってひっでーこというやつ。言われてる子もおんなじようなこと、やってるし。わかってるんだよ。

 

そーいうのがあるから、きっとあいつら友達できてるんだよな。その子が傷つかないようにがんばってんだよな。だってそいつら、お互いにそーいうこと知ってるくせに、すっげー仲好さそうなんだ。女の子ってわかんねーけどさ、そーいうやつなんだよな、たぶん。

 

なんでかしらないけど、よくオレも聞いてくれって相談されちまうから、そーいう話いっぱい聞くんだ。ぜーんぜんわかんねえよ、女の子って。なーんかこわいなーって思っちまうんだけど、見るたんびに、聞くたんびに、ジュンお姉ちゃん思い出しちまうから、しかたねーんだけどさ、やっぱやだよ。

 

思うと、あそこのびりびり電気が流れてるとこ、間違えたら死んじゃうから、太一先輩たち、たぶん頑張って探してた途中なんだろうけどさ、

なんかオレ、そのこと思い出したんだよ、思い出しちまったんだよ。だから、さ、思っちゃったんだ。みんないなくなっちまえばいいのになって」

 

 

だから、なれなれしいと思ったのかもしれないと思う大輔である。大輔の知っている女の子の複雑怪奇な人間関係のど真ん中ともいうべき中心にいるくせに、その定義に当てはまらないほど、恐ろしいまでに真っ白な女の子がいる。

 

縄跳びみたいに入りたくても入れないタイミングが見つけられなくて、

いっつもいっつも臆病風に吹かれている女の子がいる。いっつもどっか浮いている女の子がいる。いっつもにこにこして、いっつもやんちゃで元気でみんなの中心にいるくせに、

何考えてんだか全然わからないってみんなから、微妙に心の距離置かれて、気付きもしないひとりぼっちの女の子がいる。

 

周りでよくわかんない子扱いされている女の子がいる。なのにどういうわけか、その女の子は大輔にかぎって、積極的に話しかけてくるのである。大輔君!ってたーって走ってくるのである。

 

まるで八神太一に話しかける大輔の時みたいに、唯一の味方を見つけたみたいな、きらっきらした顔で、天真爛漫な笑顔を向けてくる女の子がいるのだ。太一先輩じゃないのにって、いつもいつも大輔は不思議で不思議で仕方ないのだ。

 

なんでかあの子は異様に親しげにしてくる。だから、もともとよく男の子からも女の子からも相談に乗ってくれって頼まれる大輔は、いっぱい聞かれた。もっと仲良くなりたいのによくわかんないから助けてくれって、本宮君ならよく話しかけてるみたいだから、仲いいんでしょ?知ってるでしょ?

 

どういう子か教えてっていやってほど言われてきたのである。大輔は義理堅い性格だから、頼まれたことはちゃんとする。報告する。それが当たり前だから。その女の子にそれを聞きに行くと、ぱっとした笑顔でありがとうってその女の子は言うのだ。

 

そしてまるで当然のようにその女の子は大輔が用意してあげた道筋をたどって、少しずつ友達の輪の中に溶け込んでいくのである。それなのに、どうしてあの女の子はどうしてみんなと友達になるのに、恐ろしいほど臆病なのか教えてくれない。

 

みんなの人気者になっていく女の子。それでも、その女の子が心の底から信頼しているのはきっと太一だけ。とっても、いびつである。まるで仲介屋さんになった気分になる。

まあ、オレがかってにしてるだけだから、感謝とかそういうのいらないけど。

 

いい加減じぶんからやれよって思うのに、いつまでもいつまでもその女の子はこのプロセスをやめようとはしないのだ。まるで当たり前だって顔をする。まるでお姫様みたいな顔をする。オレがなんにもしなくなったらまたひとりぼっちになるくせに。

 

大輔だってまだ子供だ。ちょっといらいらしている部分はあるのだ。言ったら確実に太一先輩に筒抜けになるから、強く出れないだけで。いちいち友達との人間関係について相談しにくる女の子である。サッカーでずーっと遊んでいる太一と大輔をわざわざ待っていて、一緒にかえろって手を振る女の子である。周りは冷やかす。付き合ってんのかって笑う。

 

んなわけないだろ、と舌うちである。この女の子は新しい友達が欲しいんだけどどうすればいいですかって、いちからひゃくまで、自分から努力をするということなんて微塵もしないで、宙ぶらりんなまんまで、

大輔にご教授願いに来ているだけなのである。

 

どこまでもどこまでも太一お兄ちゃんで世界が回っている女の子なのだ。誰が好きになるか、こんなやつ。うざったくてしょうがないのだ。幼稚園児じゃあるまいし、なんで小学校2年生の癖にそーいうことできないんだよ、おまえって、幼馴染と比べてあまりにも幼稚すぎてビックリするほど真っ白な女の子である。

 

でもやっぱりかわいそうだからやめられないのだ。大輔に似てるから。自分と重なってしまうから。八神太一の命より大切な妹だから、仕方なく。現実世界に帰ったら、お友達やめて普通の友達にならなきゃいけないなー、いいかげんしんどいし。

 

タケルがちょっと頑張ってきてるから、これ見てたらオレも八神さんと一回絶交したほうががいいかなあって思い始めている大輔である。だってもう太一先輩は理想的なお兄ちゃんじゃないから、我慢なんてする必要ないから。

 

ちっこいのにはいわない。かんけーないし。

 

 

「ひとりぼっちはいやだって、オレも知ってんのになあ。でもさ、楽ちんだろ、ひとりぼっちって。なーんにも考えなくても、すっからかんでも怒られないし、叱られないし、好き勝手しても何にも言われないし。

でも、それってすっげーさみしいんだよなあ。みんないるのに一人ぼっちになることけっこーあるから、お前の気持ちわかるよ」

 

「だいしけえ」

 

 

うるうるである。ちっこいのは、ひとりじゃないよって大輔にすりよるのだ。あんがとなってくしゃくしゃにしながら、大輔は笑う。そして、聞くのだ。

 

 

「お前誰?」

 

 

がーんってショックを受けたちっこいのは、だいしけのぶわっかあああああって大声を出して、ガジモンにぶんなぐられることになる。チコモンというそうである。

 

初めまして。つーか幼年期1なのに、なんでしゃべれるんだと聞いた大輔に、チコモンは言うのだ。鍛え方が違うんだよって。なんだそりゃ。

 


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