(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第93話

いってらっしゃーい!と見送ったタケルは、ちょっとだけ遠ざかる選ばれし子供たちの背中を見届けて、いいなあ、僕も行きたいなあ、って思っていた。

 

ピラミッドの迷宮って聞いただけで、真っ先に連想するのはゲームに出てくる、宝やモンスターがいっぱい出てくるダンジョンである。

 

もちろん、光子郎がたとえ話につかったゲームのキャラクターになっているという発言が思いっきり反映されている。

 

元の世界にいる自分がいまの自分なのか、それともサマーキャンプに置いてきぼりで夢を見ているような感じなのかはわからないが、現実世界で生きているのと一緒ということは、もしなにかあったら、そのまんま。

 

現実世界の自分に返ってきてしまうという言葉はちゃんと理解できている。病気になったり、けがをしたり、肉体的に精神的にダメージを受けたらどうなるのかなんて、大輔君がデビモンのトラウマで苦しみ続けているのは何度も見てきたからわかっている。

 

もし、何かあったら、戦わなくっちゃいけないんだってこともわかっている。でも、とタケルは思うのだ。

トコモンまだ幼年期だしなあ、って。僕もはやくみんなと一緒に戦いたい、仲間入りしたいけど、まだ早いなあって。

 

いつまでもいつまでも背中を見守り続けながら、みんなの無事を祈りつつ、迷惑がかからないように、足手まといにならないように、一生懸命守られる側としての立場を自覚しながら。それでいて、覚悟や意志を永久に持ち続けられるほどこの子はそんなに強くない。

 

もともと、いい子という下地がある子である。水につけたザルである。ずっと付けていなければなんにも残らなかっただろう。きっと、今までのこの子なら。思い出したら反省できるようになったんだけども、この子は諦めを一度極めた名人でもある。

 

今の自分の立場とかつて決めた覚悟や意志という背反する矛盾との折り合いをつけるためには、すぐに人間変われるものではない。

 

でも、気付けたら、反省して、努力できる下地が出来上がっていたタケルは。わくわくするような、どきどきするような、大冒険のにおいがするピラミッドに消えていった彼らを待ちわびている間。

 

事態が進行していくにつれて、赤の他人のようにどこかガラス越しの世界に行っては帰ることができるようになっていた。気を抜くとすぐに傍観者になってしまう。いつだってタケルを現実に引き戻してくれるのは、大輔君である。

 

太一から借りていた望遠鏡でピラミッドを見張りつつ、タケルとミミ、パートナーデジモン達を守るために、ガブモンを隣においてデジヴァイスを届くところにおいてはスフィンクスもどきの口から眺めていたヤマトが顔をあげた。

 

 

「なんだ、この音」

 

 

ミミとおしゃべりしていたタケルは、どどどどどど、という地響きで揺れる大地を目撃した。悲鳴を上げるミミをパルモンがこけないようにしがみついてあげていて、タケルもとっさにトコモンを頭から腕の中に持ち替えて、ヤマトのところに走ったのだ。

 

四角い世界でタケルが見たのは、豪快な爆発音とともに広がる揺れである。ヤマトにしがみついたタケルたちは、もくもくと黄色い煙が立ち上るのを見た。

 

 

「お、お兄ちゃんっ……!」

 

「まさか、戦闘か!?」

 

 

どうしたんですかって心配そうにやってきたミミとパルモンも大爆発の惨状を目あたりにして口元を覆っている。ヤマトが太一の望遠鏡でピラミッドの周辺を確認する。そして、顔をひきつらせた。まじかよ、と珍しく焦っている。

 

 

「タケル、ミミちゃん、一応、持ってる荷物、すぐに持てるようにしといてくれ」

 

「え?」

 

「なにかあったんですか?」

 

「エテモンのトレーラーが止まってるんだ。いつのまに!」

 

 

ヤマトが驚くのも無理はない。エテモンのトレーラーは角度的に考えて、どうしてもやってきた方角的に考えても、死角になるところから駐車されてしまうのだ。大爆発が起こったことで、操縦しているモノクロモンが驚いて暴れだしたのだろう。

 

ガジモンたちがあわてて対応に追われているのが見えたのである。言われるがまま、固めていた荷物を取りに行ったタケルたちはヤマトとピラミッドを見る。やがて黄砂の煙幕は収まり、大穴が出現した。

 

太一たちは大丈夫だろうかと心配しきっている彼らに追い打ちをかける。

 

 

しばらくして、エテモンのトレーラーがモノクロモンによって引っ張られながら、どこかにいってしまった。すっかり姿が見えなくなったころ、今度はすさまじい揺れが彼らを襲ったのだった。轟音だった。

 

一瞬のうちに吹きぬけて行った突風がすべてを置き去りにしてしまう。

ずいぶんと距離があるはずの古代遺跡の内部ですらつかまっていないと立っていられないほどの揺れである。

 

彼らは聞いたことがないデジモンの恐ろしい咆哮を聞いた。耳にしっかりと焼きついている。その咆哮にいよいよもって何かあったのかと不安を抑えきれなくなった時、彼らの目の前で、さかさまのピラミッドは音を立てながら、砂埃をあげながら、崩れ落ちてしまったのである。

 

さすがに見張り役に徹していたヤマトも居ても立ってもいられなくなり、望遠鏡で位置を確認してからみんなで向かおうとした時、彼らは大穴から帰還する太一たちを見たのである。よかったという歓喜はすぐに次なる絶望への糧と変わる。

 

太一、光子郎、丈、パートナーデジモン達しかいないのである。紋章を取りに行ったはずの空と大輔がいないのである。

 

そして彼らは、ようやく大輔の抱えていた問題をまじかで目撃して愕然としながらも、教えてくれなかった不満が顕著化している光子郎と。

 

上級生組として当然の責務を頑張り続けた結果、空と大輔を助けられなかったと可愛そうな位に落ち込んでいる太一。

 

そんな二人を何とか励ましてなだめてしながら、帰還した丈から、ピラミッド内部での状況を知ることになるのだ。受け取り方はさまざまである。

 

なんにも知らなかったミミは、光子郎と同様に愕然とするのだが、彼女はもともと大輔をタケルと同じ遊び相手、お話し相手である同じ守られる側の子供とみていたから、連れ去られた空と同じく大輔の心情を理解して、どこまでも同情する。

 

ヤマトは想定できる最悪が起こってしまったことを悟りながら、やっぱり心のどこかで俺がいっていればよかったと握りこぶしを作るのだ。

 

少なくても俺がその場にいたら、空を追いかけるときに上級生組と光子郎みたいに、全員空を助けに追いかけて、大輔を置き去りにするなんてありえないことしなかったろうに。

 

なんでそんな簡単なことができないんだ、こいつらは、結局なんにもわかってないじゃないか、そう思ってしまうのだ。やっぱり太一をリーダー候補になんて認められない。

 

そして、タケルは、大輔にとって理想的なお姉ちゃんを目の前でさらわれて、みんなに一人ぼっちにされて、そして追いかけた先で高圧電流の壁というパートナーデジモンを呼んできてぶっ壊せばいいという、すっごく簡単な壁を。

 

大輔が身をもって教えるまで思いつきもしなかった彼らの大失敗を初めて見て、彼らの限界を知るのだ。

大輔の孤独を知るのだ。ここまで追い詰められて初めて、暗黒進化をするほど大輔は我慢強い子なんだと、大人びている子なんだと。

 

そうならなきゃいけなくなってしまった子なんだと、そしてタケルと同じ小学校2年生でしか過ぎないのだと悟るのである。さまざまな想いを抱えたままのたき火を囲む食事は、今までの漂流生活の中で一番まずかったのはいうまでもない。

 

僕にできることってなんだろう、と考えてみるタケルは、とりあえずパートナーを慮ってあんまり食が進んでいないパートナーデジモン達のところに行って、リュックを下ろして、木の実を差し出すのだ。きょとんとしているガブモンに笑いかける。

 

 

「みんな、おなかがすいちゃったら、進化できないんでしょ?」

 

 

うん、まあ、そうだけど、とデジモン達はうなずく。

 

 

「じゃあ、ちゃんとご飯食べて、おなか一杯にして、いつでも進化できるようにしておくんだ。それがガブモン達にできることだよ」

 

「うん、わかった」

 

「あんまり食べちゃったら動けなくなっちゃうよ」

 

「あはは、アグモン、ブイモンみたいにいっぱい食べられないもんね」

 

 

デジモン達はタケルと一緒に笑った。そしてガブモンは木の実を受け取ったのである。そして、いつものようにタケルとミミはおやすみなさいって、眠るのだ。上級生組に任せて。いつもみたいに一緒に寝るはずの光子郎は、きっとお仕事で忙しいんだと思って。

 

いつものように集中するからと気を使われて、ひとりぼっちでピラミッド内部の構造を解析している光子郎が。家庭で自分の部屋に閉じこもってパソコンの友達関係に夢中になりながら、両親に連れ出してほしいのに誰も来てくれないさみしさを思い出してしまい。

 

なおさら不満が蓄積していることなんて誰もわからない。テントモンすら寄せ付けない気迫はただならぬものがある。光子郎は空と大輔がいるであろう隠し部屋の存在を徹底的に探すため、ノートパソコンで孤独な戦いをしていた。

 

そしてタケルとミミが寝ているのを確認してから、彼らはいつものように話し合いをするのだ。もういつもの、は支障をきたし始めているのだが、まだ彼らは自覚に至っていない。それを自覚した時、内部崩壊を意味すると分かっているから。

 

しかし、彼らの前に、空と大輔たちが心配で眠れないから話し合いに参加させてくれとミミが現れる。ヤマトがタケルも起きているんじゃないかとやってくるが、パートナーデジモン達と共に寝ていると勘違いして、引き返してしまう。

 

影が遠ざかった後、ぱち、と目を開けたタケルが、トコモンを抱きしめながら、仲間外れにされている悲しみに震えていることなんて気付きもしないで。

 

おにいちゃん僕が嫌いなんだって。

そして、聞き耳を立てているタケルの向こう側で、彼らは話し合いをするのだ。

 

 

「落ちつきなよ、太一。ナノモンがどこにいるのか、わからないんだ。

じゃあ、ナノモンが行動を起こすのを待つしか、ないじゃないか。やみくもに探したって、見つかりはしないよ」

 

「でもっ!その間に空と大輔の身になんかあったらどうすんだよ!空とピヨモンはナノモンに連れ去られてるし、紋章もたぶんあいつがもってんだろ?そんなこといってたし。ブイモンだって暗黒進化した後は、コロモンと一緒でたぶんチビモンに戻っちまってるだろうし、大輔たちもガジモンたちにつかまっちまってるって!」

 

「気持ちはわかるけど、大声出すなよ、太一。タケルが起きるし、ミミちゃん怖がってるだろ」

 

「あっ、ごめん、ミミちゃん」

 

「ううん、太一さんの気持ちわかります。だから気にしないで」

 

「ナノモンはエテモンに復讐するのが目的なんだろ?じゃあ、その前にエテモンを倒しちまえば、空たち返してくれるんじゃないか?交換条件で紋章をよこせとか、メールきてないんだろ?オレはナノモンとエテモンが手を組んでいるとは思えないな」

 

「ヤマトさん、さっき負けちゃったばかりなのにどうやって倒すんですか?」

 

「あ……そっか、そうだな」

 

 

いずれにせよ、紋章を介した進化ができないことが、最大の障壁として襲い掛かる。名称不明なデジモンは、ピラミッドを壊したのだ。

大輔とブイモンの精神状態を鑑みれば同情の余地や罪悪感、負い目はあっても、責める余地など微塵もない。

 

ちっちゃな少年たちを守れなかったのは、彼らなのだ。しかし、状況はなかなかきついのだ。きっとエテモンは気付いてしまう。戻ってきてしまう。

 

入り口が大穴しかない以上、エテモンとぶつかるのは予想できる。敗北はもう許されないのに、この中には誰も正しい完全体に進化したことがあるパートナーデジモン達を持つ選ばれし子供たちはいない。

 

状況はこの上なく最悪である。ここで実質的なリーダーにして、上級生組のサポーターである空がいない現実が加速する。

 

ミミは話し合いに参加すること自体が初めてで、いろんな角度から話し合いをする彼らのすごさに驚きっぱなしで、みんなの無意識の本音を代表することでしか、彼らの抑止力にはなれない。

 

丈もサポート役になると宣言はしたものの、保護者的な立ち位置である。子供は大人がいるとどこまでも無邪気になる。太一とヤマトに呼び捨てにされていることからもわかるように、ヤマトも太一も丈が呼び捨てにしたくらいではいちいち怒らないと知っているから、生意気な態度をとれるのだ。

 

運動部で上下関係の厳しさは一番知っているはずの彼らが精神的に頼りにしているのは丈である。だからこそ、ヤマトと太一が安心して喧嘩できるというマイナス作用を起こしてしまう。

 

本気で大喧嘩したら、止めた実績はあれども、現実世界での年季の入った鉄拳制裁で野郎どもを止めてきた苦労人には遠く及ばない。平和を守る女神は、いつだって戦場で先陣を切って勝利の凱旋をする勝利の女神でもある。

 

空がいない初めての話し合いで、野郎どもはいやってほど彼女の存在の大きさを思い知るのだ。どれだけ、心労をかけてきたのかわかるのだ。

彼女以上にリーダーにふさわしい人はいないことくらい、みんなわかっているが、空は女の子だ。本人はいやだって言ったのだ。

 

これ以上の無理はさせたくない。だから、なおのこと悪化する。

 

 

太一からすれば、実際に迷宮ピラミッドにいったわけじゃないくせに、

いろいろと口を挟んでくる慎重論と結果論に終始するヤマトがこの上なく気に入らない。

 

ヤマトからすれば、実際に迷宮ピラミッドにいったくせに、なんにもできなかったくせに、無謀な感情論ばかりでリーダーを自称する太一が気に入らない。

 

どちらにも、リーダーにふさわしいものが欠けている。太一は冷静に周りを見ること。ヤマトは実績。太一とヤマトを二つ足して割ったくらいの人間がこの場にいたらちょうどよくなるのになあ、と丈は頭を抱えながら。

 

取っ組み合い寸前の白熱した議論におびえているミミをかばいながら、仲裁することで何とかその場は収まったのである。その太一とヤマトを二つ足して割ったくらいの人間は、そのせいでだれも頼るものがいなくて、ひとりぼっちになって、パートナーデジモンの暗黒進化を引き起こしてしまったわけだが、なかなか難しいものである。

 

そして、その事実をなんとなくではあるものの、わかってしまうタケルは、そんな親友になりたい男の子が心の底から大好きで大好きでたまらないジュンお姉ちゃんって人は、きっと空みたいな人なんだろうなあと思うのである。

 

そんな大輔の目の前でナノモンは空をさらったのだ。「お前たちの役目は終わった」っていったのだ。二度とお姉ちゃんと呼ばないでと土砂降りな雨の中、生まれて初めて泣いていたというジュンお姉ちゃんとのトラウマの完全再現である。

 

はっきり言って、ピラミッドの崩壊だけで済んでよかったというしかない状況下である。タケルは思うのだ。僕も一緒に行ったらよかったって。太一に言われた抑止力っていう意味がやっとわかったのである。

 

おもちゃの街のときだって、コカトリモンの船のときだって、結果的に見ればタケルは大輔にとっては全然頼りにならなかったのかもしれないが、大輔はタケルを見て我に返って冷静になったのだ。そばにいるだけで思い出すのである。

 

そういえば、まだ小学校2年生なんだって。タケルはなんにもしなくっても、できることは全部全部やっていたのである。現実世界に帰ったらいろんなことはじめなくっちゃいけないなあと思うけども。

 

今の漂流生活においてできることをこの子は全部全部やっていたのだ。

それを気付くことができた時、ようやくタケルという少年は、自分だけの頼りになる、を見つけるのである。やっと、スタートラインに立てるのである。

 

同時にタケルは知るのだ。こっそりみんなの話し合いを見て、わかるのだ。ああ、僕なんにもしらなかったんだなあって。みんなみんなすっごくがんばってるんだなあって。

 

僕はこんなすっごい人たちに守られているんだなあって、嫌われてるわけじゃないんだなあって。うれしくて泣いてしまう。

 

 

「みなさん!来てくださいっ!」

 

 

さっきまでの不満の蓄積はどこへやら、喜び勇んで走ってきたのは光子郎だった。凶事は吉事に代わる。離散寸前だった彼らをすんでのところで引きとめたのは、ナノモンからのメールとデータ、そして画像である。彼らは歓喜に沸くのだ。

 

そこにあったのは、ガジモンたちとナノモンと大輔、空が仲良く映っている写真だった。事情が全部書いてあるのだ。思わずタケルも起きてしまう。パートナーデジモン達も起きてしまう。

 

よかったって思いに満たされた彼らからは、ひとまず不審の芽はめぶくのを先延ばしにされた。

 

しかし、あんまり状況がいいとは言えない、と彼らは知る。エテモン達の行動はどこまでも迅速である。昼ごろになれば包囲されてしまうだろうとのことだった。大穴を陣取られてしまえば、空たちは完全に袋のネズミである。

 

隠し通路だって発見されるのは時間の問題だ。セトモンのつけた跡があるから。だからこのメールはSOS、HELP ME、である。なぜナノモン達が動かないのかというと、とってもとっても大事な話があるのだが、それは最下層にあるエリアじゃないとできないからである。

 

ナノモンがエテモンを止めようとした理由はそこでしか説明できない。

持ち出しできないプログラムがある。そうつづられていた。選ばれし子供たちの行動はもう迅速だった。これ以上ないくらいに。

 

当然、みんなで助けに行こうってことになる。皮肉なことに、これは離散前の彼らの最初で最後の一致団結だったのである。ここから武之内空の最後の大仕事である、

 

八神太一へのバトンタッチっていう壮大なお仕事が始まることになるなんて、まだ誰も知らない。

 

 

「ごめん、ヤマト、あの時空たちを助けられたら、こんなことにならなかったんだよな」

 

 

太一に首を振ったのはヤマトである。

 

 

「そうやって自分ばっかり責めるなよ、太一。オレのほうこそ、悪かった」

 

 

補足するのは丈である。

 

 

「空君たちを助けたいって思ったのはみんな同じさ」

 

 

うん、とみんなうなずく。

 

 

「ごめん、みんな。危険なのはわかってる。でも、この手で大輔と空たちを助けたいんだ。もう一回、チャンス、くれないか」

 

 

みんな、うなずく。太一はヤマトをみた。ヤマトは仕方ないなと肩をすくめた。

 

 

「とりあえず、リーダーがどっちかは保留だ。でも、まあ、争う相手としては、ちょっとは認めてやるよ」

 

 

リーダー争いにおいて、現状において圧倒的に有利なのはヤマトである。太一は圧倒的な劣勢に立たされている。

 

そもそもこの漂流生活がスタートした時点から、焼き魚の件でヤマトは太一なんて平等ですらないと気付いていたから、ヤマトはずっと下級生たちの世話係をしていられる精神的余裕があったわけで。

 

しかもタケルとの確執も薄まっているから、ヤマトは本気を出せばリーダーになれるのだ。いますぐにでも。それができないのはみんなを尊重するヤマトだからこそである。

 

ここでようやく太一はヤマトにリーダーを争う資格があると認められたことになる。心強い太鼓判をおされたことで、太一はようやく元気を取り戻すのだ。

 

さあ、いこう。

 

ナノモンから全貌が明らかになった隠し通路の多さに驚愕しながらも、彼らは睡眠不足なんてものともせず、大穴を目指してスフィンクスもどきからとびおりたのである。

 

もう太一は迷わない。その勇気は、セトモンの熱風が隠し通路全土におよび、侵入者を阻む高圧電流の壁がひしゃげてしまい、ナノモンの情報ですら特定できないほどの変形により、突破口がわからなくなってしまって、みんなが立ち往生したって止まらない。

 

いちかばちかで掴み取れた強運でもって、高圧電流という死の恐怖から正規ルートをもぎ取った彼らは最下層へと足を踏み入れたのである。

 

 

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