(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第95話

ナノモンの大事な大事なお話のセッティング中である。最年少組はまっているよう言われて、かつてコピーの空がいたラボの実験台の上で、ぶらぶら足を揺らしながら待っていた。

 

みんな忙しそうにナノモンに言われて、いろんなものを準備している。

そして、片っ端からリフォームしていたはずのラボの壁をはぎ取る。ピッコロモンといい、なんで協力者のデジモン達はこうも扱いが悪いのだとみんな嘆いていた。

 

仕方ないだろう、ナノモンちっちゃいし。みんな不慣れな機械の移動の扱いを叱咤激励されながら、汗水たらして移動させ、そして全ての外壁を取り去った。ガジモン達のサポートも受けながら、どんどんラボは元の姿を取り戻して行く。

 

どんどん、かつての機械のお医者さんの診察室がすがたをあらわしていく。そして選ばれし子供達は知るのだ。無理やり行われていた改装の向こう側には、デジ文字が張り巡らされた古代トンネルと同じ様相が姿を現したのである。

 

なれた様子でナノモンが文字に触れるたびに、いろんな設備が復活していく。現われていく。みんな呆然としている。すごいなーとは思っていても、だからどうした、レベルの最年少組である。次第に飽きてしまう。

 

みんなが気付いていないことをいいことに、こっそり内緒話である。誰にも言うなよ、ぜってー言うなよ、約束なっていいながら、親友になった高石タケルに本宮大輔は話すのである。

 

八神太一と同じくらい尊敬している、秋山遼という未来から大輔達を助けるためにやってきたという命の恩人の話を。サイバードラモンとエアロブイドラモンを連れたもうひとりの英雄と大晦日に会えること。

 

うっかりやな彼とパートナーデジモンの失言で、黒い歯車がデジモン達を操っていること、ゲンナイさんは味方であることを未来予知にも似た形で知ってしまったのだということ。

 

これを話したのは太一だけで、何でか知らないけど、不機嫌になった太一から絶対にこの話は誰にもするなと口止めされ、遼とも約束したから言わなかっただけで、約束を守りたかっただけなんだと大輔は言う。

 

うん、わかった、だれにもいわないよってタケルは笑った。まだ話してはいけませんってピッコロモンから言われたことがあるんだけど、それは太一にも言っていないから、これだけはごめんだけど無理ですってくぎを刺した大輔である。

 

うん、わかった、とタケルはなずいた。ピッコロモンから言われているなら仕方ない。

 

 

「遼さんってどんなひと?もし助けに来てくれた時、分かんなかったら困るよ?」

 

「えーっとな、こーんなかんじで二本くらい髪の毛でてんだ。ねぐせかな?クリームで固めてんのかなあ。つんつんなんだ。ジュンお姉ちゃんが大好きなアイドルで、すっげー髪形のやつがいるんだけど、なんか白いクリームで固めるんだって」

 

 

片手で前髪をかきあげる大輔に、へー、ってタケルはいう。なんか虫さんみたいだなあって失礼すぎる発言をする親友に、大輔も調子に乗ってはげるよなって笑った。将来殴られるのは確定したようである。

 

 

「大晦日からきたの、やっぱホントかもしれねえや。だって茶色いセーター着てたし、首のまわりに白い線があるやつ。あとは、黄土色のジーパンきてたっけ。そうそう、黄色いスポーツバッグもってたぜ。太一先輩くらいだから、オレ達より年上だと思う」

 

「へー、そうなんだ。カッコいい人だねえ」

 

「あ、そうそう、何でか知らねえけどさ、赤いバンダナもってたなあ。スポーツバッグに」

 

「赤いバンダナ?冬なのに?」

 

「冬なのに」

 

「首にまいちゃえばいいのにね、今の大輔君みたいに」

 

「だよなあ、へんなの」

 

 

へんなのーってタケルと大輔の腕の中にいる幼年期の不届き者は笑うのである。トコモンからすれば、役に立たない、仲間が出来たので嬉しいのである。

 

チコモンからすれば、トコモンみたいに大輔に甘えられるのが嬉しいのである。だからチコモンは仲直りの大暴露を決行するのだ。

 

 

「トコモン、ごめん」

 

「え?なにがー?」

 

「おれさ、トコモンのこと、ともだちっておもってなかったんだ」

 

「え゛」

 

 

だからすれ違っていたのだとようやく悟るトコモンは石像になるのだ。えええええ、と涙目である。

 

 

「だってさ、だってさ、とこもん、ぽよもんでも、とこもんでも、ぱたもんでもたけるのあたまのうえにのれるだろ!えんじぇもんになったときだって、みんなおどろいてくれてたじゃないかあっ!おれなんてだーれもすごいぞっていってくれなかったのにい」

 

「えええええっ!?そんなあ、ずるいのはチコモンじゃないかあっ!毎回毎回進化出来てうらやましかったんだよう!僕だって、毎回、毎回、みんなのために戦いたいのに!エンジェモンになりたいのに!」

 

「そんなにはやくすがおみせたいの?」

 

「…………ちこもん、たすけてえええ!」

 

「えー、やだ」

 

「えええええええええっ!?今は友達でしょっ!?」

 

「ともだちだって、しんゆうだって、だいしけのほうがずーっとだいじだよーだっ!とこもんだってたけるのほうがだいじなくせにい。とられるっておもっておれたちひどいめにあわせたくせに。だいしけがいってなかったら、だいっきらいになってるよーだ」

 

「うわああああああん!それはごめんってばああっ!もうしないってばああっ!たけりゅうう!だいすけええ!たすけてえ!」

 

「・・・・・・・・やっぱり怒ってたんだね、チコモン。エレキモンの家でのケンカの時」

 

「んー、ずーっと寝てたから怒ることまで忘れれただけじゃね?デジメンタルねえから、オレに負担掛かんねえように、って」

 

「じゃあ、デジメンタルあったら、あの時、こんなふうになってたのかな。……って大輔君、大丈夫なの!?」

 

「なんかよく分かんねえけど、暗黒進化しねえと大丈夫みてえ。デジメンタルとか紋章がなんかやってくれてんじゃねーかな。これ手に入ってから、あんだけだるかったの、どっか行っちまったんだ」

 

「そ、そっか、よかったー。きんぴかなだけあるね」

 

「そうだよな!へへっ空姉ちゃんとおそろいだぜ」

 

「たすけてえ!」

 

「「エンジェモンの素顔見たいからだめ」」

 

「うわーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは、私の原点だ。記憶を失ってもなお、ここを求めるのは当然なのかもしれない」

 

 

ここは、もともと私がサーバ大陸から集まってくるデジモン達からの依頼で、集まってくる機械を修理する場所であり、ガジモン達以外は入れたことがない場所だった、とナノモンは語るのだ。かつて空をコピーしようとしたピラミッドエリアの最深部にあるこの部屋で。

 

 

「私があらゆる機械を修理することが出来た理由を説明しよう」

 

 

ごくり、と彼らは息をのむ。ナノモンは光子郎を見た。

 

 

「もう、必要ないかもしれんがな。

私が長年かけてきた研究を、ほんの数日で解明してしまったのだから。

さすがは選ばれし子供、といったところか」

 

「え?」

 

 

光子郎に集中する視線である。え、あ、いや、その、ともともと内向的で注目されることになれていない光子郎は、なんだかわかたわたとしている。

 

自分が最もほこりを持っている誰にも負けたくないという分野を無条件に肯定され、しかも敗北宣言までされてしまった。これはなかなかに出来る体験ではないだろう。

 

 

「それは、ここが、電気を発生させることができるからだ。もともと修理をすることが仕事だった私は、どうしても己の技能には限界があると悟って、放浪の旅に出たのだ。

 

必要な設備や工具が足りず、直せないものがあると落胆する依頼人が見たくなくてな。いつか拠点を構えることを目的に、サーバ大陸を横断し続けていた。

 

そして、見つけたのだ。遥か昔に打ち捨てられたこのピラミッド迷宮の中に、隠し通路があり、その奥にはここがあったのだ。デジタルモンスターにとって大事な電気を発生させられる場所がな。

 

ここにある研究施設やスクラップ場は、私が辿り着いたころには全て存在していたのだ。誰もいなかったがな。補足するとするならば、私がこのピラミッド迷宮に辿り着くまでの道筋は、もうお前達がよく知っているだろう」

 

 

選ばれし子供達とパートナーデジモン達は顔を見合わせるのである。かつてナノモンが機械のお医者さんになることを夢見てたどってきた道のりを、彼らはたどり続けたのである。道理で最後にはこのピラミッド迷宮に辿り着くはずだ、と彼らはようやく知るのだ。

 

 

「何故このピラミッドの中に、電気を発生させられるような場所があるのかはわからん。だが、古代遺跡の道のりを辿ってきたお前たちは見てきただろう?明らかに人工的に作られたものばかりだと。

 

私は思うのだ。これは恐らく我々、マシーン型のデジタルモンスターにとっての故郷なのだろうとな。我々マシーン型のデジタルモンスターは、生物型のデジタルモンスターと違って、様々な部品と構造を持って生まれているが、どのようにして発生したのか知っているものは誰もいないのだ。

 

私が疑問に思ったとしても、ここはそういう世界なのだ。それぞれが得意とする分野は細部にわたるが、いずれもトップクラスの技能を持っているが、私はナノモンになった瞬間からもう既に身についている。恐らく、ここに全ての秘密があるのだろう。

 

私がここに拠点を構えたのは、それを知りたいと思ったからでもある。修理屋の仕事が忙しくて手つかずではあったがな。きっと、途方もない昔に我々マシーン型のデジモン達を「造ってくれた」者たちがいたのだ。私はそんな彼らに会いたかったのだ」

 

 

だからこそ、エテモンを止めたのだ、とナノモンは言葉をきる。そして語り始めるのである。この世界に置いて、電気がどのような役回りをしているのか、という長年の研究成果を。

 

 

「お前は苦労をしているな」

 

「え?」

 

「ほかの選ばれし子供達に理解させるのは労力を要しただろう?」

 

「は、はいっ!」

 

 

思わず、うなずいた光子郎である。え?と他の子供達はきょとんとしているのだ。ナノモンは可哀想な同士の研究成果を補足すべく、「電気」の意味を綴る。

 

 

「この子供はお前たちに理解させるために、労力を割いていたということだ。あの古代遺跡のトンネルに刻まれたデジ文字は電気を付けたり、消したりできるものだと説明していたようだが、そんなものではない。

あれは、「電気そのものを発生させるプログラム」なのだ。「電気」そのものなのだ。それがいかに高度な文明がかつてここで根付いていたのかを物語るのか、わかるだろう?「電気」を作り出せるのだ。

 

ここはお前たちにとっては異世界だ。データが力を持つのがこのデジタルワールドなのだ。お前たちのいうパソコンとかいう奴の中の世界なのだ。

 

デジタルモンスターである我々にとっては、進化も、喜怒哀楽の感情も、記憶することすら、生きることすら、すべて「電気」が必要なのだ。

 

わかるか?あのデジ文字のトンネルを作った、ピラミッド迷宮の住人は、「電気」を作れるのだ。それはもう、神というにふさわしい」

 

 

ここまで来てようやく、選ばれし子供達は、光子郎がたったひとりで辿り着いていた結論にたどりつくのである。光子郎すげえ、という視線が向かうのだ。内弁慶のきらいがあるこの少年は、ようやく自分の大発見の凄さを理解してもらえて感涙である。

 

もうさっきからうなずきっぱなしで、首が折れるんじゃないかと、テントモンが心配しているくらいに。

自慢できるレベルではない。風邪の症状を抑える薬ではなく、風邪という病気そのものを直す治療方法を発見するくらいの大事件である。

 

それくらいの大発見である。しかるべき所に論文を出したら一躍有名になって、ハーバード大学にとび級で入れるくらいの大発見である。ヘタしたら億万長者になれるくらいの。

 

それを電気を付けたり、消したりできる、魔法と説明しなければならない悲しさといったら、もうないだろう。ゲームのキャラクターとか、パソコンゲームのキャラクターとか、なんだってそんなもんに例えなくてはいけないのか、レベルだ。

 

彼がそんな悲しみから解放されるには、あと2年またなければいけない。京という同士を得るまでの辛抱である。

 

 

「お前たちの世界では、すべての生き物が生きるために必要なものは、何と称するのだ?」

 

「空気です」

 

 

そこに訂正を入れたのは、医者の卵の丈だった。

 

 

「酸素、だね、光子郎君。授業で習ったよ。理科の時間の実験でやったから覚えてる。僕たちはみんな酸素っていう奴をすって、二酸化炭素ってやつを吐いていきてるのさ。

 

ほら、血って赤いだろう?あれは赤血球ってやつが、僕たちの身体にその酸素ってやつを運んでるから赤いのさ。僕たちの身体って実はすごいんだよ。

肺ってところは、その二酸化炭素と酸素を交換する場所で、心臓はそれを頭からつま先まで運ぶために、毎日休まないでどくどくいってるわけだし」

 

 

へー、とみんな感心しきりである。本来なら小学校6年生でならう授業内容である。

 

 

「でも、酸素っていうのを作れるのは、植物だけなんだ。もちろん植物も生きてるから、酸素をすって、二酸化炭素をはいてるんだけど。

 

光合成って言って、植物はご飯を食べるために根っこから水を飲んで、葉っぱから太陽の光を食べて、二酸化炭素も食べるんだ。その時、酸素っていうのもできるんだよ」

 

 

その説明を聞いてみんなの視線が向かうのは、のんびりやの日向ぼっこ大好きなパルモンである。頭の上に乗っけている植物を誰しも連想するのだ。技だって自在に伸びちぢみするツタみたいな手だし。

 

 

「だからパルモンって、日向ぼっこ好きなのね?」

 

「よくわかんないけど、そうかもしれないわ、ミミ。おひさまあびてるとすっごく元気になれるの。でも丈、アタシ、ご飯食べないと死んじゃうわ」

 

「それは植物だって同じだよ。肥料って言うご飯を食べると、ずっとずっと元気に育つんだから」

 

 

なるほど、と選ばれし子供達は理解する。お母さんがやっている家庭菜園や朝顔の自由研究、花壇のお世話だって、肥料って言う匂いがいやーなやつをあげると、すっごく綺麗な花を咲かせることをみんな知っているのだ。

 

 

「酸素は光子郎君の言ったように空気なんだ。だから世界中どこにだってあるんだよ。だから、ナノモンは、電気は酸素なんだって言いたいんだよ。あのデジ文字は植物なんだって。

 

それを作った誰かがこのピラミッド迷宮とか、あのデジ文字トンネルを作ったって言いたいんだよ。もしそれが本当なら、この世界には、神様とかいるのかもしれないな」

 

 

なんという異世界なんだろう、と彼らは改めて思ったりするのである。

そして、たったひとり、光が丘テロ事件のことをとっくの昔に思いだしている本宮大輔君は、なんでなっちゃんが電気を操れるのかをようやく悟るのである。

 

なるほど、デジタルワールドのお迎えだから、神様のお使いなのかって。あの日の夜、我が家が突然電気がつかなくなっちゃったのは、なっちゃんがグレイモンのお迎えをするために、お父さんの仕事部屋から飛び出してきちゃったからかしらん?って思うのだ。

 

なっちゃんが、大輔が息をするみたいに電気を食べ続けちゃったから

なかなか電気がつかなかったのかしらん、って思うのだ。もちろん、その通りである。

 

ちなみに八神家でも同じ事例が発生しているのだが、八神兄妹は規則正しい生活を送っていたため、もう9時が回っていたころには電気を消していたため、それに気付くことは無かったのである。

 

おかげで場外乱闘に発展したグレイモンとなっちゃんの戦いは、光が丘の集合団地の電気をすべて食べ続けたたため、大パニックに陥った。本宮家は夜更かしをしていたので、光が丘テロ事件の最中、一番最初に電気が停電になったお家であり。

 

アグモンのように扉をふっ飛ばしはしたものの、玄関からちゃんと出ていった礼儀正しい野生とは違って、

グレイモンを捜しになっちゃんが飛び出して行ったせいで、ベランダがすっげー大変なことになったため、

当然のことながらマスメディアの餌食になったのである。

 

過熱報道の自主規制がまだ浸透していない時代だったからなおさら。もちろん、お父さんが大手出版社の若手新鋭で、一番の稼ぎ頭である以上、営業部の連中とみんなを巻き込んだ全力の圧力によって、マスメディアは、テロ事件の犯人とかそんな酷いことまで書きたてることはなかったし、標的にされたのではなくて。

 

あることないこと書きたてることはなかったのだが、テレビ放映の生放送までチェックできなかったのだ。

連日連夜の生放送ぐるぐるまわすテレビカメラにうつる高層住宅にある本宮家までピンポイントで隠せなんて無理である。もちろん、その報道局関係者は口減らしに給料いっぱいもらえたし、裁判で訴えるという最終手段をとらない代わりの和解案で。

 

地方に飛ばされたり、やめたり、海外に派遣されたり、もちろんそのテレビ番組は強制終了という憂き目にあう。カメラに写されたフィルムは全てお蔵入り、完全抹消され、そのテレビ番組に関わったすべての関係者の責任をとり。

 

大手出版社の所まで重役が頭下げに行く、なんていうすっげー事態が進行した。ちなみにそのテレビの中にフジテレビがあるなんてことは言うまでもないのである。

 

皮肉にもそのプロデューサーと同期だった男と本宮家のお父さんは、お互いの子供達が光が丘テロ事件の被害者であり、記憶喪失の症状に見舞われた子供、という共通点が明らかになったので、とっくの昔に和解はすんでいるし、相談相手になっている。

 

でもこれがすくなくてもきっかけの一つで、ヤマトとタケルは別れ別れになった。いつだって大人の世界は真っ黒だ。お父さんがいたからこそである。いつだって子供達は大人によって守られている。

 

 

「私がエテモンを止めたのは、あのダークケーブルに使うから、とどこかから持ってきた物質の電気が異常値を示したからだ」

 

「異常値?」

 

「エネルギーとして高濃度なのだ。あり得ないほどにな。私達は電気で生きているのだ。電気は酸素そのものなのだ。考えてみるがいい。そんな私達が異常値で高濃度の電気に接触すれば、どうなるか。どうなってしまうのか。

 

どうやらデジタルワールドにある電化製品や電柱をお前達も知っているようだから、考えてみるがいい。電化製品はコードにつなぐだろう。それは電信柱から運ばれてくる。その電信柱に雷が落ちた。

 

電化製品も電気で動いているが、雷はその何百倍もの力を持っているのだ。普通はそこまで行く前に、ブレーカーが落ちて電化製品が壊れるのを防いでくれるだろう。だが、もしそのブレーカーすらぶっ壊して、その雷が電化製品に流れ込んだらどうなる?

 

それどころではない。直接、雷が電化製品に流れ込んだらどうなる?壊れるだろう。分かったか?お前達が相手をしている暗黒の力という奴は、こういうものなのだ。なのにあの機械音痴は理解できなかった」

 

 

だから止めたのだ、あの大バカめ、とナノモンは悔しげにつぶやいた。

 

 

「思えばあの物質を発見した時点であの大バカは狂っていたのだろう。

私もその物質を見た時点で浸食されていたのだ。おそらくな。幸いなのは、あの大バカが私のメモリチップを取り出し、隔離してくれたことで私までメモリチップの浸食を最低限に食い止められたということだ。

 

そして、そのメモリチップはどういう訳かそこの選ばれし子供達の紋章となり、完全に正常化してくれたのだ。そして私はダークケーブルのホストコンピュータという浸食しきった身体を紋章の作用で正常化されて、今ここにいるのだ」

 

 

感謝する、と再度頭を下げられ、大輔はもとにもどってくれてよかったぜと笑った。ガジモン達のおかげでもあるし。

 

 

「なんか、ホントに酸素だね」

 

 

丈はつぶやくのである。え?とみんな振り向くのだ。

 

 

「植物だって水をあげすぎたら枯れちゃうだろう?全然あげなくても枯れちゃうけどね。ほどほどが大事ってことだよ。それは酸素だって同じなんだ。僕たちは酸素で生きてるんだけど、走ったらつかれるだろ?

 

それは酸素を食べて僕たちの身体が頑張るからなんだ。そして、その頑張った分は身体の中に積み重なっていって、僕たちの身体はどんどん疲れていくんだよ。だからおじいちゃんたちはああなるんだ。

だから、酸素はほどほどだといいんだけど、一気に食べると僕たちは病気になるんだよ。アグモンみたいにお腹壊して動けなくなるみたいにね」

 

 

もう忘れてくれよ、そのネタ、と太一はへこんでいる。笑い話に変えられている時点でそれはきっと素敵なこと。

 

そして、ナノモンの話を聞いていたタケルとトコモンは、デビモンという悪魔を思いだして硬直するのだ。

もしかして、殺さなくってもよかったんじゃないかって。そして、タケルは聞くのだ。

 

 

「ねえ、ナノモン」

 

「なんだ」

 

「デビモンってもしかして、倒さなくっても良かったの!?元に戻ったかもしれないの!?」

 

「安心しろ、そこの子供から話は聞いている。元に戻すということは、相当の犠牲が必要なのだ。そこの子供が紋章を投げ打ってまで私を救ってくれたように。お前のパートナーデジモンはエンジェモンに進化するらしいな。

 

ならば、恐らく、エンジェモンは本能的に分かっていたのだろう。己の知る宿敵のデビモンではない、おぞましい何かに身を落とした、デジモンなのだろうとな。だから助けようとしたのだ」

 

「倒しちゃったのに?」

 

「お前たちは知っているだろう、私達は本来死というものは存在しない。死んでも生き返るのだ、デジタマに。そして、それでもなおこの世界にいるべきではない、と判断された者たちはダークエリアに送られる。

 

そこでアヌビモンという裁判官によって裁判を受けるのだ。こちらの世界にいるべきか、ダークエリアで禁固刑に処せられるか、それともアヌビモンによってデジコアを食われて死ぬという名の消滅をするか。この消滅こそが我々にとっての死だ。

 

恐らく古代デジタルワールド期という、まだダークエリアという場所が出来ていない頃に生まれてきたそこのチコモンが、強大な力を持つがゆえに寿命が尽きていないにも関わらず、死に至っても転生できなかったような憂き目にあったのだろう。

 

チコモンが見てきたのは、正真正銘の死だ。パートナーをその死に追いやりかけたという恐怖は察するに余りある。デジタルモンスターにとっての死とはそういうものなのだ。

 

まだ、選択の余地があるのだ。わかるか?だが、思いだしてみるがいい、お前たちの敵だったデビモンはどうなった」

 

 

そして、選ばれし子供達は、まさか、と顔をこわばらせるのだ。

 

 

「私もエテモンを戻すには、まだ何か余地はあるのではないかと考えていた。だが、事態は最悪だ。どこまでも暗黒の力は有害なのだ。わかるだろう。エンジェモンは助けようとしたという意味が。

 

デビモンは黒い歯車によって巨大化し、エンジェモンによって倒されたのだろう。だがデビモンは「騙された」と言ったのだろう。そしてエンジェモンはそこのトコモンに生まれ変わり、デビモンは消滅した。

 

ならばもう答えは一つだ。エンジェモンは間に合わなかったのだ。デビモンは消滅したのだ。本人はダークエリアに送られると信じていたようだが。

 

ダークエリアによってアヌビモンにより3つの選択すら与えられないまま、デジタルモンスターにとっての死を強制されたのだ。

 

暗黒の力によって。闇の象徴である筈のデビモンですら消滅するのだ。まさに暗黒だ。そこには闇も光もない」

 

 

ぞっとするほどの暗黒の力の強制力である。もちろん、消滅だけならまだいいが、糧にされたという最悪の事態を彼らが知るのはずっと先のことである。

 

 

「もうここまではなせばわかるな?エテモンを救う方法は、一つしかないのだ。まだアヌビモンのもとで裁かれるという選択の余地がある、という方法をとるしかないのだ。

 

選ばれし子供達にとって紋章は欠かせないものなのだろう?ならばもう喪失は許されない」

 

 

ナノモンの声がラボに響きわたった。

 

 

「エテモンが暗黒の力により巨大化などの最終手段に出る前に、倒すしかない。いや、倒すだけではだめだ、殺せ。ダークエリアに送るために。

 

これほどまでの強大なものだとは私も思わなかったのだ。選ばれし子供達よ、注意しろ。お前たちの相手をしている暗黒の力はそれほどまでに絶望的なのだ。

 

しかし、デビモン、エテモンは何も知らぬままこの力を手にしている。

だが、ダークエリアに住まう者たちからすれば、格好の標的だ。注意しろ、いずれ、この力を利用しようとする輩が現われんとはかぎらん。

 

だから、エテモンのように、救える同情の余地がある奴ばかりとは限らん。見極めろ。でなければ、その代償は高いぞ」

 

 

あのエテモンを殺すことこそが救いだとナノモンはいうのだ。かつて誰よりも理解していたナノモンが。その説得力は悲痛である。

 

 

「でも、オレ達、だれもまだ紋章の進化できてねえよ」

 

 

太一がこぼした。

 

 

「何を言っている。進化なら成し遂げているものが一人だけ、いるだろう。お前だ」

 

「え?」

 

「何を勘違いしているのか知らんが、スカルグレイモンは立派なグレイモンの完全体への進化経路の一つだぞ。本来ならば。

 

選ばれし子供であるがゆえに、ウイルス種への進化は好まれんのかもしれんがな。明らかに暴走していたから、他の進化経路がいいのだろう。

 

それに、そもそも、スカルグレイモンに進化出来るということは、お前のパートナーであるアグモンは、相当強くなれる因子を持つ証だ。

 

本来の個体ならば、そもそもスカルグレイモンに進化すること自体あり得んのだ。稀なのだ。デジモンは戦い、経験を積み、転生することで強くなる。

 

エテモンをダークエリアに送ることが出来るのは、お前だけだ。名前は何と言う?」

 

「え?オレ?八神太一だけど」

 

 

太一が名乗った時、ナノモンはしばらく沈黙した。言葉を失ったようである。え、なんだよって、唐突な反応に太一は訊いてみるのだ。ナノモンは一人納得した様子で、そうか、そうなのかってつぶやいた。

 

 

「八神太一か。なら、なおさらのことだな」

 

「どういうことだよ」

 

「まさか、予言の書に描かれている英雄の名前を聞くことになるとは思わなかっただけだ」

 

「予言の書?え?なんでオレの名前がのってるんだよ」

 

「予言の書はここに書かれているデジ文字の碑文のことだ。過去、現在、未来にわたって、それぞれの章でこの世界の歴史が紡がれている。

 

この世界が平和を手に入れるまでには、様々な戦いの歴史が紡がれてきた。そのすべてが記されていると言っても過言ではない。

 

もちろん、お前たち選ばれし子供のこともすべてここに記されている。

私は見たことがある。八神太一という名を。もっとも、過去の章でだがな。

 

この世界がかつて混沌に包まれたころ、八神太一という少年がパートナーのデジモンと共に世界を救ったことがあるのだと、書かれていた。

 

もちろん、その少年は同姓同名の別人だろう。だが、縁起がいいとは思わないか?」

 

 

 

太一とアグモンは顔を見合わせた。一方で、チコモンを抱っこしている大輔は意気消沈である。

 

 

「……殺すことが救いって、そんなの、ありかよ」

 

「気に病むことはない。エテモンの場合は、暗黒の力の浸食が激しくて、他に手段がないだけだ。私とて、かつての友をダークエリアにおくれなど言いたいわけがないだろう。

 

だが、このままではエテモンは確実に消えるのだ。お前のパートナーであるチコモンの同族達がたどったように。お前がかつて救った少女デジモンがたどるはずだったように。

 

ダークエリアで禁固刑になったとしても、デジタマで転生するにしても、生きることには変わらん。待つことなど苦にならんさ。私達はデジタルモンスターなのだ。

 

お前は私を救ってくれたのだ。救済の方法など、いろいろあるのだ。お前はこれからも捜して行けばいいだろう」

 

「うん、そうする。ありがとな、ナノモン」

 

「ああ」

 

 

そんなパートナーの腕の中で、チコモンはこっそり思うのだ。もしかして、おれがやっちゃいかけたことって、だーくけーぶるとか、くろいはぐるまみたいな、あんこくのちからみたいなもんじゃないかって。

 

だいしけにしかけてたんじゃないかって。あやうく、だいしけと、おれ、きえかけてたんじゃないかって。ぞっとするほど恐ろしい真実に辿り着き、チコモンは首を振るのだ。

 

大丈夫、その事実に気付いたのなら、もう二度とこの子は間違いは起こさない。

 

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