(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

96 / 193
第96話

太陽は真上だ。打ち上げられたのは、イッカクモンのハープーンバルカンである。真っ黒な角はやがて空中で分離し、内部に仕込まれていた追尾機能付きの爆弾となり、弧を描く。スフィンクスもどき上空で拡散する。

 

そして、豪快な音を立てて、爆破音をかき鳴らし、大きな音を立てて注意をそらす。イッカクモンは丈と共に移動を開始する。

 

エジプト迷宮がおかしいと感付いて戻ってきたはいいものの、跡形もなく瓦礫の山と化している惨状を目辺りにして、正規ルートしか入口を知らないエテモン達は大いに驚いて、ガジモン達による解析作業を続けていたのだ。

 

そこに現われた突然の爆音に、当然のごとく、選ばれし子供たちかと気をとられた彼らは、大穴に気付く前に空白を生んだ。ガジモン達に全てを任せ、自分は悠々とスーパーヒーロー気取りでブルーハワイ飲みほして、肩こりをもませていたエテモンの完全に裏を掻いた形である。

 

内部情報筒抜けの恐ろしさがここにある。そして舞い上がったのはバードラモンに乗った空と太一とアグモンである。

 

太一とアグモンを降ろしてから、彼女を乗せたバードラモンは、一気に上空へと駆け上がり、上からメテオウイングで火の玉と化した羽毛をまるで雪崩の如く襲わせ、笑門号を攻撃する。

 

バードラモンの足から飛び降りた太一とアグモンの上から、周囲の砂漠と同色の茶色いぬのが掛けられる。

空を見上げれば、がんばって、と離れていく幼馴染である。

 

この場にはいないのだが、タケルと大輔とミミが、一所懸命スクラップ場にひいてあった布を引っ張り出して来てくれたのである。奇襲と思い込んだ彼らは、さっそくティラノモンの群れを空と丈のところに突撃させる。

 

畳みかけるように、一気に飛び出してきたのは、ガルルモン、カブテリモンである。今度はモノクロモンの軍勢がおびき寄せられていく。一気に至近距離まで近づいて、必殺技である雷、そして超高温であるがゆえに真っ青な色をした炎を吐きだして、エテモン達をおびき出す。

 

エテモンを倒すのに邪魔な障壁がどんどん減っていく。チャンスは一回きりである。ダークケーブルはいつエテモンを取り込んでもおかしくはない規模なのだ。

 

いくら完全体であるとはいえ、ファイル島と比べてサーバ大陸は何百倍もの広さを誇るのだ。そこが真っ黒になるまで張り巡らされたダークケーブルである。ナノモンは言った。

細心の注意を払え、そして全力でいけ、ただし賭けるな。

 

ナノモンがみた暗黒物質は、ほんのひとにぎりの塊である。そうでなければ、明らかに質量保存の法則にあわないし、量がおかしい。

 

ダークケーブル作成をさせられていた記憶が鮮明なナノモンによれば、どこから持ってきたのか分からないし、どうして機械音痴のエテモンが、ダークケーブルなんていう発想を思いついたのか、さっぱりなのである。

 

何かか背後にいる。確実にそそのかした奴がいるのは明らかなのだが、

最後まで狂ってしまったエテモンから聞き出すことはかなわなかったとナノモンは悔しそうに言葉を結んだ。それが利用している奴である。

 

正体不明の敵の存在が不気味に見えかけ隠れする中、太一とアグモンは紋章とデジヴァイスをしっかりと握りしめた。そろそろ、出てくる。じいちゃん、力を貸してくれ、と太一は心の中で祈りながらゴーグルに手を当てた。

 

ナノモンは言ったのだ。エテモンを撃破したらすぐに離れろ。暗黒の力は恐らくあるべき場所を失って暴発する。まきこまれたらひとたまりもないと。

 

時空のはざまにでも巻き込まれたら、どうなるのかなんて誰にもわからないからと。それでもやるか、と優しい修理屋は覚悟を問うた。もちろん、八神太一は即答するのだ。オレがやる、と。アグモンも頷くのだ。僕しかできないなら、がんばるよって。

 

 

 

 

 

そして、作戦は決行されたのだ。

 

 

 

 

 

ナノモンがホストコンピュータではなくなったことで、だでさえ優秀だった解析能力も、鮮明な画像提供もがくんと落ちているエテモン号である。

 

しかも、笑天門号が持っているコンピュータはすべてガジモン達に任せきりのエテモンは、ガジモン達の言葉を信じるしかないため、ナノモンがいじったみたいです、っていう怒られたくない一心での嘘を信じてしまう。

 

機械音痴には誤魔化し作業なんてわからない。自己顕示欲全開のエテモンが、のうのうと、いつまでたっても終わらない、ガジモン達の必死の仕事を待っていられるかと言えば、断じて否だ。

 

全力でぶつかってこない、なにをたくらんでいるのかわからない、ただただ選ばれし子供達が目の前でちょこまかと動き回っている。

 

しかも、敵を倒す訳でもなく、時間稼ぎのごとく、どんどん手下が撃破されて減っていく。ご丁寧に一体一体丁寧に。いらいらが蓄積されていく。弱い奴らばかりである。紋章による進化すらできない臆病で弱虫で卑怯者の選ばれし子供達である。

 

成熟期にすら進化を戸惑っていたような子供だ。完全体になれなければ一切脅威ではないのだ。なのになんでこいつらは、と短気なエテモンは、言ったのだ。ラヴ・セレナーデという進化を封殺するという常とう手段をみせているのに、いつまでたっても学習しない子供である。

 

エテモンはナノモンの裏切りで絶句していた選ばれし子供達が鮮明に脳裏に焼き付いているため、なめきっているのだ。

 

 

「もういいわ、もし見つかったら、すぐに連絡して」

 

「え?え、エテモン様、どこにいくんですか?」

 

「目の前の邪魔者を始末してくるわ」

 

 

トレーラーから現われたエテモンは、かん、かん、かん、という乾いた音を立てて丸い銀色の道を歩く。

そして、片手に握っていた黄金色のマイクとギター片手に、きいいいん、という大音量で響く音と共に、叫んだのである。

 

 

「学習能力無いわねえ、選ばれし子供達もたーいしたことないんじゃないのよ。ふん、今度こそ思い知らせてやるわ!」

 

 

いまだ!と太一は布を振り上げる。ばさり、と黄土色の布が空中を舞った。アグモンは、いくよ、太一!と叫んだのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なあ、坊主。お前は8つの神様と巫女様に守られてる八神家の長男坊として生まれてきたんだ。いいか?男の子ってのは強くなくっちゃあ、いけないんだ。

 

俺がお前くらいんときには、みんなでちゃんばらごっことかして、原っぱを駆け巡ったもんさ。妹が生まれて、もう5年もたつってのに、いつまでも「ぼく」なんて弱弱しい言葉つかうもんじゃねえぞ。

 

だから、今日から俺みたいに、「おれ」っていうようにしな。なに、お前の親父さんもお袋さんも怒りはしねえさ、なんかあったらすぐにいえよ?俺がちょいといえば許してくれるさ。いいな?

 

 

「オレは逃げない!絶対に!」

 

 

いいこだ。さすがは俺の初孫だな。

今日から坊主、お前は「ぼく」じゃなく、「おれ」の八神太一になるんだ。わかったな?

 

 

「最後まで絶対に諦めないんだ!」

 

 

誕生日おめでとう、太一

 

 

「太一の勇気が……僕の身体に……みなぎってくる!」

 

 

アグモンはグレイモンに進化する。

 

 

ばあか、今日は「おれ」の太一の誕生日じゃあねえか。ま、冗談はおいといて、あのやろう、俺に隠れて勉強机もランドセルも2段ベッドも全部揃えやがって。

 

こっちがどんだけ入学祝なに送るか楽しみにしてたか、気付きもしねえ。親不孝もんだぜ、お前のおふくろは。まあ、甘やかして育てちまった俺の責任でもあっからしゃーねえが、おかげで何欲しいんだかわかんなくなっちまった。

 

なんにもやれるもんがねえからな、仕方ねえから、これやろう。お前がずーっと欲しがってたやつだ。くれてやる。大事にしろよ、俺の命よりも大事な相棒だ

 

 

「グレイモン、お前の勇気を見せてくれ!」

 

 

はっはっは、こんなぼろくせえゴーグル欲しがるのなんざお前だけだぞ。ま、いいけどな。その代わり約束だぞ、太一。世界で一番強い男になれ。

 

守りたいものがあった時、てめえの力が弱くっちゃ結局なんにもできねえんだからな。なんにも守れねえんだからな。経験者がいうんだ、まちがいねえ。男と男の約束だ、わすれんじゃねーぞ

 

 

「任せて、太一!」

 

 

まあ、今日はあれだ、俺が世界で一番信頼していた親友の命日なんだ。このゴーグルはな、俺が尊敬していた、世界で一番仲間想いで勇敢な男の忘れ形見なんだ。

 

このゴーグルをお前が受け継ぐっていうことはよ、仲間を想う勇気をお前はもたなくっちゃいけねえんだ。わかったな?

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、ダチ公、久しぶりだなあ。今日は残念な知らせしかねえが、きてやったぜ。まあ、アンタもゆっくりのめや。

 

ったく、どんどんてめえに似てきやがるのがむかつくから、「ぼく」なんて甘ったれたこといわねえで、「おれ」にしろって無理やりつっきるついでに渡しちまったよ。

 

あんたの忘れ形見。結局、俺だけになっちまった。みんな俺をおいてっちまうんだ。ったく、簡便しろや、まだ俺はそっちにいけねえっつーのによ」

 

 

男は憮然とした様子でため息である。

 

 

「言われなくてもわかってんだろうけどな、残念な知らせっつーのは毎度のことだが、まーた見つけられなかった。孫の代になっても現れねえってどーいうことだ、いかれてやがんのか、あんのポンコツ爺。

 

孫の代で現れるっつーから、お台場小学校の入学式に参加するついでに名簿見てみたが、いやがらねえ。他の小学校の1年生全員手当たり次第にネットで探してみたが、いやがらねえ。

 

もしかしたら、お台場区にはいやがらねえのか?あんの爺、ふざけんじゃねえぞ、こっちはどんだけ楽しみにしてやがったとおもってる!どんだけずれてやがんだ、時間軸。

 

あんのやろうめ、せめて生まれてくる年代くらい名乗りやがれつーんだ。おかげでこっちは何十年探し続けてると思ってんだ、老い先みじけえってのに考えやがれ、あの大馬鹿。

 

もうどんな奴だったかなんておぼろげだっつーのに、みんなみんな、あの世で会ったら話聞かせろって死んでいきやがる。待ってっから頑張れってぬかしやがる。いつもいつも俺が年下だからって無理難題押し付けてどっかいっちまうんだ。

 

てめえみてえなやつばっかだよ、ったく。今に見てろよ、ぜってー見つけてやるからな」

 

 

何度目かわからない決意表明の後、男は去っていくのだ。神の風になりたいと思っていた少年は、年上の戦友が南の孤島で戦死したと知らされたその日に、ラジオで聞いた終戦の放送を一生忘れない。

 

孫に自分のことのように言って聞かせたすべては、この墓碑銘に刻まれた家族無き孤児の戦友の成し遂げたことなのだが。

 

家族を作れ、幸せになれ、そして生きろ、自分の成し遂げたことはすべてお前に託すから、後は任せたってゴーグルと共に託された思いは、完遂したのだ。家族のだれも知らない事実である。きっと墓まで持っていくだろう。

 

とりあえずは、パソコンの向こう側にいるであろう何十年たっても年を取らないパートナーとどこかの誰かさんの下っ端に愚痴を吐くだけである。

 

戦友を奪った忌まわしき飛行機のネット通信と共に誕生した原始の時代、この男は最年少で選ばれたのである。

 

せっかくかわいい一人娘が揃えた孫の入学祝いのすべてをぶっ壊した挙句、引っ越しまでさせて、記憶を消して、っていう何にも変わらないお役所仕事をしやがる大馬鹿に盛大に拳をふるうだけである。

 

 

 

 

 

預言の書によれば、はるか昔、太一たちよりも前に、選ばれた子供たちがいた。彼らははるか未来から侵攻してくる千年魔物から古代のデジタルワールドを守るためにたたかったが、同じ時間軸にいない真の敵を倒すために必要な時間跳躍の壁を打ち破ることができなかった。

 

 

送り込まれてくる暗黒の勢力を炎の壁の向こうに封じることしかできなかった。この男も含めた子供たちのパートナーだったデジモンたちは、

その存在を封じるために自ら楔となる4つの聖獣として今なお生きている。

 

なぜ彼らがはるか未来からの侵略者に対抗する手段を持ちえたのか、それはパートナーとなるデジモンがいない5人目の仲間がいたからだと言われている。

 

しかし、予言の書を作成するセキュリティシステムが完成するはるか前の出来事である。散文的な記述しか残されていない以上、今の時代の者たちがその真偽をしることは難しい。

 

 

 

「勇気こそが大空を飛ぶ翼になる」

 

「太一?」

 

「大切な仲間を守るために、勇気を出さないといけないことがあるってさ。このゴーグルをくれた爺ちゃんが教えてくれたことなんだ。きっと、それが今なんだ。行こうぜ」

 

「うん!」

 

 

 

勇気を翼にして飛んだ英雄の意志を継ぐ少年の勇気は、しっかりと、心の紋章である勇気と共鳴し、太陽の紋章は光を放つ。デジヴァイスは、今まで誰も見たことがない色を放った。

 

パートナーデジモンであるアグモンを包み込んだのである。真っ青に染まったデジヴァイスは振動する。友情の紋章と同じ青色を放った光は、勇気の紋章と同じオレンジ色に変化する。

 

一筋の光がまっすぐに立ち上ったとき、その光は紋章を貫いた。太陽の紋章はタグから乖離し、空へと舞い上がる。そして光の濁流がグレイモンを包み込んだ時、超進化は起こったのである。

 

 

 

 

グレイモンの左手に鉄鋼を帯びた勇ましい鎧が現われる。頭上の兜が銀色に輝きを遂げる。そして勇ましい翼が広げられたのである。メタルグレイモンは雄叫びをあげて、エテモン目掛けて、一撃必殺をお見舞いするのである。

 

胸のハッチから「ギガデストロイヤー」を超える破壊力を持つミサイルを発射するテラデストロイヤーが、炸裂する。完全なる不意打ちをつかれたエテモンは、なすすべなく、200年もの沈黙を破り、再臨した太一の勇気の原点の前に崩れ去ったのである。

 

 

「よっしゃああああ!」

 

 

太一の声に合わせて、メタルグレイモンは咆哮した。太一とメタルグレイモンの声がサーバ大陸に響き渡る。作戦が成功した!と直感した彼らは、一目散に太一達の所へ向かうのだ。

 

しかし、彼らは八神太一とメタルグレイモンの姿を見ることも、変化したデジヴァイスの色も確認することはできなかった。忽然と太一とメタルグレイモンは姿を消してしまったのである。

 

そして、デジタルワールドの時間にして約2カ月の間、八神太一とメタルグレイモンはデジタルワールドから現実世界へ、一時的に帰還することになる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。