(完結)おれとぼくらのあどべんちゃー   作:アズマケイ

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第97話

笑天門号の主がいなくなったことで、ガジモンたちは見切っていなくなったり、選ばれし子供達から逃げ出したり、どうしようか迷って結局トレーラーの中に残っていたり、明確に意思を固めて残ることを決めたりと反応は様々である。

 

ナノモンと3匹のガジモンたちは、まだトレーラーの中にいたガジモンたちに事情を説明したようだが、すでにいなくなったガジモンたちを追いかけて事情を説明する気はないらしい。去る者追わずというやつである。

 

強制する気はないらしい。エテモンはそれだけのことをしたのだ、仕方ない。悲しいけれども。待ち続けるということはそれだけ大変ということだ。

 

でも。ただでさえエテモンを唆して暗黒の力を使わせ、ダークケーブルを作らせるような正体不明の存在が垣間見えているのだ、用心に越したことはないので、いなくなったデジモン達には、この事実だけは広めるためにこれから頑張るとのこと。

 

このピラミッド迷宮の最深部を拠点として。きっと大丈夫、紋章の加護がある。

 

 

 

八神太一とグレイモンの進化形が行方不明になった。ピラミッド迷宮の最深部でタケル、ミミと一緒になって待っていた大輔とチコモンは、

狼狽しきった彼らから事情を聴いて愕然とするのだ。

 

初めは皆、ナノモンが懸念していた暗黒の力がエテモンを飲み込んで消滅させてしまうという本来行うべき作用を喪失したことで、結集した暗黒の力は暴発したのではないか、と考えてナノモンに見解をあえいだのだ。

 

高エネルギー反応はあったから、ナノモンはまさかと思っていたようだが、あまりにもピンポイントである。まるで攫ったかのごとく。大爆発を起こしたのなら、誰か気付くはずである。音も揺れもないのはあり得ない。

 

セトモンのように大騒ぎになるはずだ。なんの跡形もなく太一とグレイモンがいなくなるということは、さらに大変なことが起こったと示唆していた。時空がゆがんだのだ。空間と空間という本来つながっているべき世界が裂けたのだ。

 

そして太一とグレイモンの進化形はエテモンを撃破するという感動と初めて成功した完全体への超進化に浸りきっていた為、その場からすぐに逃げるようにというナノモンの忠告を聞いていたにも関わらず、遅れてしまい、落ちたのだろう。

 

太一らしい、と彼らは撃沈するのだ。心配して損した。八神という名を持つあの選ばれし子供は強運でもって勝利を呼び込んだわけだから、心配することはない、おそらくこの広大なデジタルワールドのどこかにいるだろう、ファイル島か、サーバ大陸か、それともそれ以外の島か。

 

もしかしたらダークエリアか、のどこかにいるだろう、とナノモンは述べたのである。ようするに選ばれし子供達、デジタルワールドで迷子探しを決行しなければならなくなったのだ。みんな溜息である。あの野郎、いつかボコす。

 

それはもちろん、その時空の裂け目があくまでもデジタルワールドという一つの世界において起こったから、という大前提にのっとっている。選ばれし子供達もパートナーデジモン達も、ナノモン達ですら、思いつく訳がない。

 

まさかいくらなんでも、デジタルワールドと現実世界という表裏一体の世界の境界を捻じ曲げてしまうほどの力を、暗黒の力が秘めているなんて考えもしないので、仕方ないといえた。これこそが、暗黒の力の正体を提示する手掛かりになるなんて、まだ誰も、知りもしないのだ。

 

そして、選ばれし子供たちはパートナーを連れて、何人かにまとまって別れることになる。ナノモン達のこのピラミッド迷宮を目印に、また、会おうって約束して。まずはサーバ大陸から手始めにおっちょこちょいな大馬鹿を探すことにしよう。

 

まとまって行動していてはいくらなんでも効率が悪すぎるし、時間も惜しい、平和になったサーバ大陸だからもう敵を心配することはないわけだし、大丈夫だろうという共通の見解のもとで。

 

ただ、担当エリアの捜索が済み次第、すぐに終わったグループといつまでも帰って来ないグループに分かれた。

 

 

 

そのあたりから、何かがこじれ始めるのである。いつまでたっても帰って来ない仲間達。心配になって捜しに行こうという意見と待っているべきという意見が対立していく。

 

やがて個人的な感情も絡んだ火種が禍根を残して行く。いつまでたっても見つからない太一とグレイモンの進化系。やがて彼らは。

 

 

 

平和であるはずの日々が、かえって空と大輔以外に打ち込まれていた疑心暗鬼の芽を開花させることになるなんて誰が思うのだろうか。しかも肝心の空と大輔は、彼らが離散寸前までヤバかったのを知らないのだ。

あった時にはもう既に彼ら、一致団結してたから大丈夫だろうって安心して。

 

2か月にも及ぶ途方もない平和になったサーバ大陸の期間は、いままで必死で送ってきた漂流生活の緊迫感と危機感によって支えられていた。選ばれし子供たちに一致団結の必要性を喪失させ、今まで考えないようにしていた。

 

考えられなかったことをいろいろ考えさせてしまうのである。暇、退屈、というものは、恐ろしいほどにこの選ばれし子供たちにとって最大の敵だったのである。なぜ、がたくさん生まれてくる。今まで心の奥底に秘めていた本性が野ざらしになる。疑心暗鬼の芽は成長する。

 

やがて空と大輔を除いて、彼らは思ってしまうのだ。なんでサマーキャンプに来ただけなのに、漂流生活に巻き込まれなくっちゃいけないんだ、おかしいだろう、なんで自分たちはここにいるんだ、という当然すぎる疑問を。

 

暗黒の力は不気味な正体不明の存在だけども、次なる敵はでてこないじゃないか、ばらばらになってしまった選ばれし子供達をつぶす格好のチャンスなのにと。そして、彼らは思うのだ。もしかして、もう次なる敵とかいないんじゃないか?

 

デジタルワールド平和になったんじゃないか?太一自分たちを置いてきぼりにして現実世界に帰っちゃったんじゃないか、だからデジタルワールドに帰ってこないんじゃないか、

これだけ探しても探してもいないんだから。

 

敵なんて全然見当たらないんだし、と。じゃあ、なんで自分たちは太一みたいに帰れないんだ?って禁断の扉が開いてしまうのだ。あまりにも子供たちが考えている以上にサーバ大陸は広大すぎたのである。

 

こうして彼らはバラバラになってしまったのだ。これこそが心の紋章の力そのものを破壊しようという次なる敵の狡猾なる手段だともしらないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バードラモンの足につかまりながら、空と大輔は広大なサーバ大陸の上空から行方不明になってしまったサッカー部のキャプテンを探していた。チコモンは落っことされないようにって、懸命に大好きな大好きなパートナーの右手に抱えられながら、悠々自適な空の旅である。

 

はっやーい、という無邪気な声にバードラモンは得意げである。大輔はずーっと風圧がものすごいのでゴーグルをつけている。目を守るためにつけている。首元のPHSやデジヴァイス、タグが揺れていた。

 

チコモンほど元気そうじゃない。ゴーグルをつけているのは、浮かんでいる涙を隠すためである。優しい男の子はエテモンとデビモンの死を悲しみながら、トラウマを植え付けたデビモンの矛盾と折り合いがつけられず、苦しんでいる。首元の痣を隠す赤いスカーフはまだまだ取れない。

 

 

また高度が上昇した。

 

 

ヘルメットみたいなかっこいい青い帽子のひもをなびかせながら、バードラモン、もっとゆっくり飛んで、とどこか焦燥感と不安に駆られてイライラしている空の指摘にショックを受けている。わかった、と残念そうな声を出して、しぶしぶ森を目視できる高度まで降りるのだ。

 

なにせピヨモンの時はパタモンと同じくらい空を飛ぶのがへたくそで、

移動するには空を飛ぶより歩いて移動する方が早いので、ついついそちらの方ばかり使ってしまう。

 

だから空を飛びたいと願う野生のピヨモンのほどんどが走ることなら天下一だが永遠に空は飛べないコカトリモンになってしまうという悲しき定めである。バードラモンになれるピヨモンはほんの一握りだ。

 

だからそれだけは知っているピヨモンはバードラモンに進化すると異様にテンションが上がる。ビックリするほど強気で男前になる。でも根っこの部分ではあまえんぼさんなところは何にも変わらないので、大好きなパートナーである空に嫌われることはしたくないのでいうことを聞くのだ。

 

 

「大輔君、大丈夫?無理しないでね、何かあったら言ってね」

 

「え?あ、はい、ありがとございます」

 

 

こくり、とうなずいた大輔はぬあああとなるのだ。公開処刑だ。はずかしすぎる。なにこれ、なにこれ、やだかえりたい、ともごもごするのだ。挙動不審の極致である。はたから見れば、あわあわして空回りして自滅しているいつもの大輔君なので、空は笑ってサッカー部のツートップになれる。いじくりたおせる。これでいい。

 

空お姉ちゃんといってもいいって言われたので、大輔は限りなく空に対しては正直である。理想的なお姉ちゃんに加えてお母さんまでやってくれるのだ。現実世界でさえもともとべったりだったのだが、この漂流生活を経ての今である。

 

しかも一番信頼している太一先輩がいなくなり、たった2人で探している現状では、もうかなり精神的には寄りかかっている。もう空に何を言われても従順になるくらい、逆らえない。それが「おかしい」と気付いているから、大輔はなんかよくわかんないけど恥ずかしくなって照れるのだ。

 

遠慮するのだ。これが大輔の距離の取り方だ。

 

 

だって男の子と女の子はなんかちがう生き物なのだ。厳密にいうと、男の子と女性は違うのだ。なんていうか、なんというか、その、まるいのである。やわらかいのである。ふわふわしているのである。

 

だからジュンお姉ちゃんはずっと大輔だけのお姉ちゃんであるはずなのに、どんどん別の生き物に代わっていくのである。大輔の知らない女の子から女性になっていく。ジュンお姉ちゃんにおいてきぼりにされているような、そんな悲しみを抱きながら。

 

今までみたいに頭を撫でてもらったり、手をつないでもらったり、一緒にお風呂に入ったりっていう日常が、どんどん恥ずかしいで埋め尽くされていくのだ。おかしいで埋まってしまいそうになって、足掻くのだ。

 

あわわわわ、となるのだ。だれだおまえ、なにものだ、こいつ、ちがう、ちがうぞ、おれの知ってるジュンお姉ちゃんじゃないぞ、おかしい、おかしい、かえして、かえして、おれのジュンおねえちゃんかえしてよ。

 

悲しいくらいに早すぎる思春期である。だからお母さんはお母さんだけどジュンお姉ちゃんと一緒で別の生き物なんだと気付いてしまった男の子は、恥ずかしくなって一緒に入れなくなってしまうのである。

 

ジュンお姉ちゃんは今でもお母さんと一緒にお風呂入っているのに、恥ずかしい、からお風呂に一緒に入れない。そして、彼はひとりぼっちになった。ジュンお姉ちゃんとの不仲が加速した。

 

そして、あの雨の日のトラウマである。いろんな要因が複雑に絡み合い、到達したのである。恥ずかしいがおかしいの距離を取る方法に置き換わったのはいつだったのか、もうこの子は覚えてすらいない。

 

でもまあ、もごもごしながら、顔を真っ赤にするのは恥ずかしがりやな天邪鬼が意外と初心なマセガキであることを示している。スレているんだかいないんだかよくわからないが、耐性がついているだけでただのガキである。変わらない。

 

ねっこを部分を見せている証なのでほほえましいことには変わりない。いい徴候である。ただそのせいで同級生の女の子たちは、女の子と女性はかわっていく生き物だから別の生き物だけど、まだ男の子と女の子は近いから、かつてのジュンお姉ちゃんと大輔みたいだから、強気になるのだ。素になるのだ。

 

だからハードルが上がるのだ。よっぽどのことがないとこの子はそういう方面で女の子を意識しない。それが安全パイとしての相談役の白羽の矢が経つ悪循環である。ミミが言った「中学生のお姉さんがいるなら、クラスメイト達を子供っぽいと思っちゃうのは仕方ないね」といった意味はここにある。

 

訳の分からないものにいっしょくたにしてほうりこんで、ふたをしてしまうのだ。理解しようとすらしない。わかろうともしない。こういうもんだって定義の中に当てはめて、それ以外は全部訳の分からないものに放り込んでしまい、距離を取る。

 

傲慢でわがままな自意識過剰の大ばか者は、こうやってジュンお姉ちゃんとの問題を先延ばしにすることで心の平安を図ってきたのだ。すすんでひとりぼっちになったのだ。

 

みんなに信頼される相談役でありながら、実のところ適当にいい加減にはいはいわかりましたよって心の中で毒づきながら機械的に行動してきた意味では、タケルとなんらかわらないのだ。こいつ。

 

意識して鈍感になって意図的にやってるだけたち悪いが、ただでさえ家でひとりぼっちなのに、サッカー部やクラスメイト達の中でも一人ぼっちになったら、それこそまだ8歳の男の子は死んでしまう。嫌われたくない一心の自己防衛は彼を孤立させた。

 

でも、機械的な行動でもそれによって救われている存在があるのだということを理解するのはまだまだ先である。教えてくれる女の子がこのデジタルワールドにはいないから。

 

 

 

それはともかくとして、大輔はどきどきしながら、空と一緒にバードラモンで飛んでいた。あーもう、なんでエクスブイモンになれねえんだよ、おまえええってチコモンに八つ当たりである。トコモン嫌がってたなあって思い出して、水色をつぶしてみる。

 

よくわかんないけどぎゅーって押しつぶすまで抱っこしてくれるのがうれしいので、チコモンには全然効果ないのだが。むしろ、だいしけだいしけ甘えてくる。もう一人の自分である。

 

大輔がどれだけ愛情に飢えているのか見せつけられてしまい、ブーメランである。大輔はへこむのである。

それを空に生暖かい目でにっこにこされて、笑われてしまい、ぎゃーってなる。

デジタルワールドから帰ったら、ジュンお姉ちゃんと絶対仲直りするんだって決意を新たにさせる。

 

 

「空、デジモンのにおいがする」

 

 

ほっとかれっぱなしの火の鳥はちょっといらってしながらいうのだ。空は顔を上げる。大輔とチコモンも反応する。

 

そうか?って大輔の質問に、いわれてみればそうだ、なんかいるよ、だいしけってチコモンはまじめくさった顔で言うので、切り替えの早さに驚嘆しながら、大輔は空を顔を見合わせた。バードラモンはみんなの中心になれて得意げだ。

 

この中でみんなを守れるのはバードラモンだけである。頑張ろうと胸に秘めているなんて誰も知らない。

下は青々とした森が広がっているのだ。今まで足を踏み入れたこともないようなエリアである。

 

デジモン達もいるだろうが、ダークケーブルの脅威が崩れ去った今、よほどの敵でない限り執拗に襲い掛かってくることはないだろう。完全体と成熟期を見誤らなければ大丈夫である。

 

 

「バードラモン、降りましょう。まずはここから、太一たちを探さないとね」

 

「わかった」

 

「「はーい」」

 

 

こうして緩やかに高度を下ろしたバードラモンがピヨモンに退化する。

ありがとなって大輔に言われて、チコモンにも言われて、ついでに空を飛べるうらやましさも嫉妬されてピヨモンはまあね、アタシに任せてよって小さな同行者たちに笑うのだ。

 

お姉さんぶりたいのはパートナーデジモンであれパートナーであれ変わらないらしい。まあ結局ピヨモンも一番うれしいのは、お疲れ様って頭を撫でてくれる空なんだけども。

 

こうして彼らは深い深い森の中を太一とグレイモンの進化を経験したから、おそらく幼年期になっちゃっているであろうコロモンを探すことにしたのである。空と手をつないでるピヨモンをうらやましいなあって思いながら、チコモンを抱っこしたら手がいっぱいで。

 

べたーってくっついてくるもう一人の自分にくっついてやるのに必死で、大輔は進んでいくのだ。

 

 

 

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